【実施例】
【0094】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(1)糖転移酵素の粗酵素液の調製
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁を乳鉢と乳棒を用いて液体窒素中でパウダー状になるまで磨砕した。そのパウダーを50mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に、凍結しないよう撹拌しながら徐々に加えて溶解させた。次いで遠心分離により不溶性画分を除去した。得られた上清に飽和硫酸アンモニウム溶液を80%となるように加えて、氷上で5分間静置した。析出したタンパク質を遠心分離により回収し、10mMリン酸カリウムバッファーを沈殿が完全に溶解するまで加えた。得られた溶液をSephadex G-25 ゲルろ過担体(GEヘルスケア)を用いて脱塩し粗酵素液を得た。
【0096】
(2)糖供与体化合物の抽出
カーネーション(品種「Red Vital」)の赤色花弁を50%エタノール水溶液に一晩浸漬し、ろ紙を用いてろ過したろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。濃縮したろ液を合成吸着樹脂(ダイヤイオンHP20、三菱化学)にアプライし、素通り画分を回収した。さらに、合成吸着樹脂の5倍量の純水で合成吸着樹脂を洗浄し、先の素通り画分と合わせて減圧濃縮した。この画分に終濃度0.1%になるように酢酸を加えてから、あらかじめ0.1%酢酸水で平衡化しておいたODSカラム(Wakosil C18、和光純薬工業)にアプライした。カラムをカラム充填量の5倍量の0.1%酢酸水で洗浄した後、5%メタノールを含む0.1%酢酸水で溶出される画分を回収して減圧濃縮し、分取HPLCの試料として供した。
【0097】
分取HPLCは逆相カラムであるDevelosil RPAQUEOUS-AR-5(粒子径5μm,内径×長さ:10mm×250mm,野村化学)と、溶離液A(0.1%酢酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)を用いて行った。流速5ml/minおよびB液7%から30%までの直線勾配(40分間)で分離し、分離された液を5mlごとに分画した。それぞれの画分について粗酵素液を用いて糖転移酵素活性を評価し(評価方法は後述)、活性がみられた画分(21から24番目の画分)を回収して濃縮し、次の分取HPLCに供した。
【0098】
2回目の分取HPLCは、逆相カラムXTerra Prep MSC18(粒子径10μm、内径×長さ:10×250mm、Waters)と、溶離液A(0.1%酢酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)を用いて行った。流速5ml/minおよびB液6%から10%までの直線勾配(40分間)で分離し、分離された液を5分間ごとに分画した。それぞれの画分について粗酵素液を用いて糖転移酵素活性を評価し(評価方法は後述)、活性が認められた画分(21番目から25番目の画分)を回収して濃縮し、次の分取HPLCに供した。
【0099】
3回目の分取HPLCは、COSMOSIL HILIC Packed column(粒子径5μm、内径×長さ:10mm×250mm、ナカライテスク)と、溶離液としてアセトニトリルおよび純水を用いて行った。流速5ml/minおよびアセトニトリル100%から75%までの直線勾配(40分間)で分離し、液を5分間ごとに分画した。それぞれの画分について粗酵素液を用いて糖転移酵素活性を評価し(評価方法は後述)、活性が認められた画分(19番目から24番目の画分)を回収し濃縮した。
【0100】
上記のようにして精製したカーネーションの赤色花弁抽出物を、高解像度HR-ESI-TOF質量分析装置(AccuTOF JML-T100LC spectrometer、日本電子)に供した。ポジティブモードでm/z=353.08313の分子イオンピークが、ネガティブモードでm/z=329.29592の分子イオンピークが検出されたことから、分子量330の化合物であることが推定された。
【0101】
次に、精製した同抽出物を
1H NMR、
13C NMR HMQC、HMBC、NOE解析(ECX400、日本電子)に供した。その結果を表1に示す。解析の結果、精製した同抽出物はバニリン酸のカルボキシル基にグルコースの1位(アノマー炭素)のヒドロキシ基がエステル結合している化合物であることが示された。また1H NMRのアノマー位のカップリング定数(J=7.8)から、グルコースはβ結合していることが示され、精製した同抽出物がバニリン酸1-O-βグルコースであることが確認された。
【表1】
【0102】
(3)HPLC画分の粗酵素液を用いた糖転移酵素活性評価
粗酵素液30μlに、HPLC画分を3μl、100mMのクエン酸バッファー(pH 5.6)を5μl、および2mMのシアニジン3-グルコシドを3μl加え、その反応溶液を30℃で40分間静置した。その後、20%リン酸水溶液を2.5μl加えて反応を停止させた。不溶物を遠心分離によって除去し、HPLC分析を行った。
【0103】
HPLC分析はChromolith Performance RP-18e(4.6x100mm、Merck)カラムを用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびアセトニトリルを用いて行った。流速3ml/minおよびアセトニトリルの濃度が17%から40%となるような直線勾配(4分間)で分離し、紫外可視検出器を用いて波長520nmの吸光度でシアニジン3,5-ジグルコシドの生成を確認した。
【0104】
(4)バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とする糖転移反応の検出
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁を乳鉢と乳棒を用いて液体窒素中でパウダー状になるまで磨砕した。そのパウダーを50mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に、凍結しないよう撹拌しながら徐々に加えて溶解させた。次いで遠心分離により不溶性画分を除去した。得られた上清に飽和硫酸アンモニウム溶液を80%となるように加えて、氷上で5分間静置した。析出したタンパク質を遠心分離により回収し、10mMリン酸カリウムバッファーを沈殿が完全に溶解するまで加えた。得られた溶液をSephadex G-25 ゲルろ過担体(GEヘルスケア)を用いて脱塩し粗酵素液を得た。
【0105】
粗酵素液15μlに500μMのバニリン酸1-O-βグルコースを5μl、100mMのクエン酸バッファー(pH5.6)を30μlおよび2mMのシアニジン3-グルコシドを5μl加え、その反応溶液を30℃で40分間静置した。その後、20%リン酸水溶液を2.5μl加えて反応を停止させた。不溶物を遠心分離によって除去し、HPLC分析を行った。
【0106】
HPLC分析はODSカラム(内径×長さ:4.6×250mm、Cosmosil 5C18-MS-II, ナカライテスク)と、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびアセトニトリルを用いて行った。流速1ml/minおよびアセトニトリルの濃度が17%から40%までの直線勾配(20分間)で分離し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて検出を行った。HPLC分析の結果を
図1の上図に示す。市販品を標品として同様に測定した結果(
図1の下図)とリテンションタイムを比較したところ、反応生成物はシアニジン3,5-O-βジグルコシドであることがわかった。このことは、すなわち下記の式のような糖転移反応が起こったことを意味する:
【化17】
この結果により、バニリン酸1-O-βグルコースがカーネーションの桃色花弁由来の酵素に触媒される糖転移反応において糖供与体として機能することがわかった。
【0107】
(5)糖転移酵素の精製およびその理化学的性質
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁を乳鉢と乳棒を用いて液体窒素中でパウダー状になるまで磨砕した。そのパウダーを50mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に、凍結しないよう撹拌しながら徐々に加えて溶解させた。ナイロンメッシュを用いてその溶液を搾り取り、細胞壁等の不溶性のものを取り除いた。その溶液に、さらに終濃度35%になるように硫酸アンモニウムを徐々に加えてよく撹拌し溶解させた。溶液を4℃で30分間静置した後、4℃、15,000×gで30分間遠心分離を行い、上清を回収した。そこにさらに終濃度が55%になるように硫酸アンモニウムを徐々に加えて完全に溶解した。一晩4℃に静置した後、4℃、15,000×gで30分間遠心分離を行った。得られた沈殿に10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)を加えて完全に溶解した後、十分量の10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に対して透析を行い、粗酵素液を得た。なお、本実施例における全ての操作は、特に記載していない場合はすべて氷上または4℃で行った。
【0108】
透析した溶液をあらかじめ平衡化しておいたTOYOPEARL-DEAE650M(Bed volume 400ml)にアプライした。カラム充填量の5倍量(5CV(カラムボリューム))の10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)で洗浄した後、NaCl濃度が5CVで0Mから0.8Mとなるような直線勾配で溶出し、溶出されたタンパク質溶液を25mlごとに分画した。それぞれの画分30μlとバニリン酸1-O-βグルコース3μlを用い、上記(3)と同様の手順で糖転移酵素活性を評価した。活性がみられた画分(38〜49番目の画分)を回収して、十分量の10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に対して透析を行った。
【0109】
透析した画分に対して終濃度20%になるように硫酸アンモニウムを徐々に加えて完全に溶解した。予め20%硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸バッファー(pH 7.2)で平衡化しておいたTOYOPEARL-Butyl650M(Bed volume 80ml)にアプライした。5CVの20%硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸バッファー(pH 7.2)で洗浄した後に、硫酸アンモニウム濃度が10CVで20%から0%となるような直線勾配で溶出し、溶出されたタンパク質溶液を10mlごとに分画した。それぞれの画分30μlとバニリン酸1-O-βグルコース3μlを用い、上記(3)と同様の手順で糖転移酵素活性を評価した。活性のあった画分(60〜77番目の画分)を回収して、十分量の10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)に対して透析を行った。
【0110】
透析した画分を、予めBzバッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、0.5M NaCl)で平衡化しておいたBenzamidine Sepharose 4 Fast Flow (high sub)(GEヘルスケア、Bed volume 8ml)にアプライした。5CVのベンズアミジンバッファーで洗浄した後に、p-ベンザミジン濃度が12.5CVで0mMから25mMとなるような直線勾配で溶出し、溶出されたタンパク質溶液を2.5mlずつ分画した。それぞれの画分30μlとバニリン酸1-O-βグルコース3μlを用い、上記(3)と同様の手順で糖転移酵素活性を評価した。活性のあった画分(25、26番目の画分)を回収した。回収した画分をAmicon Ultra-15(10,000MWCO、ミリポア)を用いて濃縮し、10mMリン酸カリウムバッファーに置換した。
【0111】
濃縮した画分を、予めゲルろ過バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、150mM NaCl)で平衡化しておいたSuperdex 200 10/300 GLカラム(GEヘルスケア)にアプライした。溶出液を0.7mlずつ分画し、それぞれの画分30μlとバニリン酸1-O-βグルコース3μlを用い、上記(3)と同様の手順で糖転移酵素活性を評価した。活性のあった画分(22〜25番目の画分)を回収した。回収した画分をAmicon Ultra-4(10,000MWCO、ミリポア)を用いて濃縮し、10mMリン酸カリウムバッファーに置換した。
【0112】
ゲルろ過精製画分を、予め10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)で平衡化しておいたResource Q 1mlカラムにアプライした。5CVの10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.2)で洗浄した後に、NaCl濃度が0M〜0.5Mとなるような直線勾配で溶出し、溶出されたタンパク質溶液を0.2mlずつ分画した。それぞれの画分30μlとバニリン酸1-O-βグルコース3μlを用い、上記(3)と同様の手順で糖転移酵素活性を評価した。活性のあった画分(41〜48番目の画分)を回収した。
【0113】
回収された画分をSDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)によって解析したところ、得られたタンパク質の分子量は約55kDaであった。また、酵素の反応至適pHについて検討したところ、pH5.0〜5.5付近であった。この酵素の反応至適pHは、従来知られている糖転移酵素がpH7.5〜8.0程度であるのと比較して低いため、従来では反応が起こらなかったような弱酸性条件でもこの酵素反応は進行すると考えられる。
【0114】
(6)バニリン酸グルコースの合成
市販のバニリン酸(シグマアルドリッチ)の4位の水酸基およびカルボン酸の水酸基を、臭化ベンジル(シグマアルドリッチ)を用いて、ジメチルホルムアミド(DMF,サーモフィッシャーサイエンティフィック)溶媒中でベンジル保護した。その後、オープンカラム(シリカゲル60(球状),関東化学)(ヘキサン/酢酸エチル=8/1)で未反応物を除去し、精製した。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.65(1H,dd,H-6),7.59(1H,d,H-2),7.41-7.26(9H,m,H-benzylic CH
2),6.88(1H,d,H-5),5.33(2H,s,H-benzylic CH
2),5.21(1H,s,H-benzylicCH
2),3.92(3H,s,CH
3)。収率100%。
【化18】
【0115】
次に水酸化リチウム(和光純薬工業)存在下、THF(関東化学):H
2O:MeOH(和光純薬工業)=3:2:1溶媒中で加水分解を行い、カルボン酸の水酸基を保護したベンジル基を外した。その後、オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1、4/1、0/1と濃度比を変えた)で精製し、未反応物とベンジルアルコールを除去した。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.68(1H,dd,H-6),7.60(1H,d,H-2),7.45-7.25(5H,m,H-benzylic CH
2),6.90(1H,d,H-5),5.25(2H,s,H-benzylic CH
2),3.92(3H,s,CH
3)。収率58%。
【化19】
【0116】
4位の水酸基がベンジル保護されたバニリン酸と、1位以外の水酸基がベンジル保護された2,3,4,6-テトラベンジルグルコース(シグマアルドリッチ)を縮合剤1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDCI,国産化学)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP,東京化成工業)、トリエチルアミン(Et
3N,和光純薬工業)を用いてDMF溶媒中(反応温度60℃)で縮合した。得られた縮合体はαアノマー:βアノマーが1:2の混合物であった。オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=6/1、5/1と濃度比を変えた)で精製し、未反応原料は除去した。Molecular MS [M+Na]
+ m/z 803.14、
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.60(1H,dd,H-6),7.59(1H,d,H-2),7.45-7.26(60H,m,H-benzylic CH
2),6.90(1H,d,H-5),6.55(1H,d,H-Glc1α,J=3.21),5.84(1H,d,H-Glc1β,J=7.65),5.25(10H,s,H-benzylic CH
2),4.96-3.56(94H,m,CH
3,H-Glc)。収率84%。
【化20】
【0117】
次に、水酸化パラジウムチャコール(シグマアルドリッチ)触媒を用いた水素添加によりベンジル基を脱保護し、α体バニリン酸グルコースとβ体バニリン酸グルコースの混合物を得た(収率81%)。水酸化パラジウムはセライトろ過することで除去した。得られた混合物を分取HPLC(Develosil C
30,10×250mm,野村化学)を用い、溶離液A(0.1%酢酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)のB液10%(40分間)で分離し、バニリン酸1-O-αグルコース(精製度99.6%)およびバニリン酸1-O-βグルコース(精製度98.9%)をそれぞれ得た。精製度はHPLCのエリアを指標に算出した。Molecular MS [M+Na]
+ m/z 352.9、α体
1H NMR(400MHz,CD
3CD):δ7.62(1H,dd,H-6),7.58(1H,d,H-2),6.83(1H,d,H-5),6.28(1H,d,H-Glc1,J=3.66),3.89(3H,s,CH
3),3.83-3.33(5H,m,H-Glc)、β体
1H NMR(400MHz,CD
3CD):δ7.62(1H,dd,H-2),7.60(1H,d,H-6),6.83(1H,d,H-5),5.67(1H,d,H-Glc1,J=7.79),3.89(3H,s,CH
3),3.83-3.33(5H,m,H-Glc)。
【化21】
【0118】
(7)イソバニリン酸グルコースの合成
市販のイソバニリン酸(シグマアルドリッチ)の3位の水酸基およびカルボン酸の水酸基を、臭化ベンジルを用いてDMF溶媒中でベンジル保護した。
【化22】
【0119】
次に水酸化リチウム存在下、THF:H
2O:MeOH=3:2:1溶媒中で加水分解を行い、カルボン酸の水酸基を保護したベンジル基を外した。その後、オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1、4/1、0/1と濃度比を変えた)で精製し、未反応物とベンジルアルコールを除去した。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.75(1H,dd,H-6),7.65(1H,d,H-2),7.45-7.25(5H,m,H-benzylic CH
2),6.90(1H,d,H-5),5.15(2H,s,H-benzylic CH
2),3.90(3H,s,CH
3)。収率86%。
【化23】
【0120】
3位の水酸基がベンジル保護されたイソバニリン酸と、1位以外の水酸基がベンジル保護された2,3,4,6-テトラベンジルグルコースを縮合剤EDCI、DMAP、Et
3Nを用いてDMF溶媒中(反応温度60℃)で縮合した。得られた縮合体はαアノマー:βアノマーが3:2の混合物であった。オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=6/1、5/1と濃度比を変えた)で精製し、未反応原料は除去した。
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.82(1H,dd,H-6),7.72(1H,d,H-2),7.52-7.26(60H,m,H-benzylic CH
2),6.90(1H,d,H-5),6.67(1H,d,H-Glc1α,J=3.64),5.96(1H,d,H-Glc1β,J=8.16),5.25-3.71(H,m,CH
3,H-Glc)。収率60%。
【化24】
【0121】
次に、水酸化パラジウムチャコール触媒を用いた水素添加によりベンジル基を脱保護し、α体イソバニリン酸グルコースとβ体イソバニリン酸グルコースの混合物を得た(収率100%)。水酸化パラジウムはセライトろ過することで除去した。得られた混合物を分取HPLC(Develosil C
30,10×250mm)を用い、溶離液A(0.1%酢酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)のB液10%(40分間)で分離し、イソバニリン酸1-O-αグルコースおよびイソバニリン酸1-O-αグルコースをそれぞれ得た。Molecular MS [M+Na]
+ m/z 353.0,
1H NMR(300MHz,CD
3CD):δ7.63(1H,dd,H-6),7.60(1H,d,H-2),7.00(1H,d,H-5),6.30(1H,d,H-Glc1α,J=3.60),5.67(1H,d,H-Glc1β,J=8.10),3.91(3H,s,CH
3),3.88-2.88(5H,m,H-Glc)。
【化25】
【0122】
(8)没食子酸グルコースの合成
市販の没食子酸(シグマアルドリッチ)の3,4,5位の水酸基およびカルボン酸の水酸基を、臭化ベンジルを用いてDMF溶媒中でベンジル保護した。その後オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=8/1)で未反応物を除去し、精製した。
【化26】
【0123】
次に水酸化リチウム存在下、THF:H
2O:MeOH=3:2:1溶媒中で加水分解を行い、カルボン酸の水酸基を保護したベンジル基を外した。その後、オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1、4/1、0/1と濃度比を変えた)で精製し、未反応物とベンジルアルコールを除去した。
【化27】
【0124】
3,4,5位の水酸基がベンジル保護された没食子酸と、1位以外の水酸基がベンジル保護された2,3,4,6-テトラベンジルグルコースを縮合剤EDCI、DMAP、Et
3Nを用いてDMF溶媒中(反応温度60℃)で縮合した。オープンカラム(ヘキサン/酢酸エチル=6/1、5/1と濃度を変えた)で精製し、未反応原料は除去した。得られた縮合体はαアノマー:βアノマーが3:7の混合物であった。Molecular MS [M+Na]
+m/z 985.18、
1H NMR(300MHz,CDCl
3):δ7.40-7.11(92H,m,H-2,6,5,H-benzylic CH
2),6.52(1H,d,H-Glc1α,J=2.40),5.85(1H,d,H-Glc1β,J=7.50),5.16(18H,s,H-benzylic CH
2),4.99-3.64(28H,m,H-Glc,H-benzylic CH
2)。
【化28】
【0125】
次に、水酸化パラジウムチャコール触媒を用いた水素添加によりベンジル基を脱保護し、α体没食子酸グルコースとβ体没食子酸グルコースの混合物を得た。水酸化パラジウムはセライトろ過することで除去した。得られた混合物を分取HPLC(Develosil C
30,10×250mm,野村化学)を用い、溶離液A(0.1%酢酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)のB液10%(40分間)で分離し、没食子酸1-O-αグルコースおよび没食子酸1-O-βグルコースをそれぞれ得た。Molecular MS [M+Na]
+m/z 354.9、α体
1H NMR(400MHz,CD
3CD):δ7.10(2H,s,H-2,6),6.25(1H,d,H-Glc1,J=3.66),3.82-3.32(5H,m,H-Glc)、β体
1H NMR(400MHz,CD
3CD):δ7.10(2H,s,H-2,6),5.63(1H,d,H-Glc1,J=7.79),3.84-3.32(5H,m,H-Glc)。
【化29】
【0126】
(8)各化合物を糖供与体とした糖転移反応の検証
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁より得られた粗酵素61μg、シアニジン3-グルコシド200μMおよび糖供与体(カーネーションから抽出したバニリン酸1-O-βグルコース、または合成したバニリン酸1-O-グルコース(α体、β体)、イソバニリン酸1-O-グルコース(α体、β体)もしくは没食子酸1-O-グルコース(α体、β体)のいずれか)500μMをクエン酸バッファー(pH 5.6)で30μlとした反応溶液で30℃で15分間酵素反応を行った。リン酸の終濃度が1%となるように20%リン酸水溶液を反応液に加えて反応を止め、遠心後の上澄みを、HPLC(Chromolith SpeedROD、4.6×50mm、Merck)を用い、溶離液A(1.5%リン酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)のB液18%から28%までの直線勾配(5分間)で分離し、解析を行った(流速3.0ml/min、520nm)。各糖供与体に対する酵素の相対活性を、反応生成物(シアニジン3,5-O-βジグルコシド)の波長505nmにおけるHPLCクロマトグラムのエリアから算出した。その結果を以下の表に示す。
【表2】
【0127】
[実施例2]
(1)糖転移酵素の抽出
液体窒素中で急速冷凍し、-80℃で保存してあったカーネーション(品種「ビームチェリー」)の花弁400g(生重量)を1500mlの抽出バッファー(100mMリン酸カリウム、pH7.2)中でミキサーを用いて十分に破砕した。なお、以降の操作は特に記載していない場合はすべて氷上もしくは4℃で行った。更にホモジナイザー(ポリトロン、KINEMATICA社)を用いて15,000rpmで10分間の破砕を行った。20,000×g、4℃で20分間の遠心分離を行って、上清を回収した。同じ操作を2回繰り返して、合計800gの花弁から約3000mlの粗抽出液を得た。
【0128】
(2)糖転移酵素の精製
(a)硫酸アンモニウム沈殿による分画
マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、得られた粗抽出液に細粒硫酸アンモニウムを35%になるように、徐々に加えて完全に溶解した。4℃で2時間静置した後、20,000×g、4℃で20分間の遠心分離を行って上清を回収した。回収した上清に、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、更に細粒硫酸アンモニウムを55%になるように徐々に加えて完全に溶解した。4℃で一晩静置したのち、20,000×g、4℃で20分間の遠心分離を行って沈殿を回収した。回収した沈殿物を3000mlの10mMリン酸バッファー(pH7.2)に溶解し、透析膜に移しいれて、6Lの10mMのリン酸バッファー(pH7.2)に対して透析を行った。4時間〜12時間後に、リン酸バッファーを交換した。最終的に透析膜内のサンプル量の4000倍となる量のリン酸バッファーで透析を行った。
【0129】
(b)DEAE sepharose Fast Flowによる分離
(a)で透析したサンプル溶液を、あらかじめ10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.2)で平衡化しておいたDEAE sepharose FFイオン交換体(GEヘルスケア)を充填したガラスカラム(ベッド体積:350ml)にアプライした。1250mlの10mMのリン酸バッファー(pH7.2)で洗浄した後に、A液:10mMのリン酸バッファー(pH7.2)、B液:0.8M NaClを含む10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.2)を用いて、1000mlで、B液の濃度が0%〜100%になるような直線的勾配でタンパク質を分離した。分離したタンパク質溶液は25mlずつ分画した。各画分について、シアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性のあった画分(31-45画分)を集めて十分量の10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.2)に対して透析を行った。
【0130】
(c)TOYOPEARL-Butylによる分離
(b)で透析した画分に、細粒硫酸アンモニウムを20%になるように徐々に加えて溶解した。このサンプル溶液をあらかじめButyl平衡化バッファー(10mMリン酸カリウム、20%硫酸アンモニウム、pH7.2)で平衡化しておいたTOYOPEARL-Butyl-650M担体(東ソー)カラム(50mm×100mm、ベッド体積:250ml)にアプライした。1250mlのButyl平衡化バッファーでカラムを洗浄した後、A液:Butyl平衡化バッファー、B液:10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.2)を用いて、1250mlでB液の濃度が0%〜100%になるような直線的勾配でタンパク質を分離した。分離したタンパク質溶液を20mlずつ分画した。各画分についてシアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性のあった画分(63-85画分)を回収してAmicone-15ultra(ミリポア)を用いて濃縮し、10mMのリン酸カリウムバッファーに交換した。
【0131】
(d)Benzamidine Sepharoseによる分離
(c)で透析したサンプルを、あらかじめBz洗浄バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、0.5M NaCl)で平衡化しておいたBenzamidine Sepharose 4 Fast Flow カラム(ベッド体積:8ml)にアプライした。カラムを40mlのBz洗浄バッファーで洗浄した後、A液:Bz洗浄バッファー、B液:Bz溶出バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、0.5M NaCl、20mM 4-アミノベンズアミジン)を用いて、80mlでB液の濃度が0%〜100%になるような直線的勾配でタンパク質を分離した。分離したタンパク質溶液を2mlずつ分画した。各画分についてシアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性の認められた画分(27-33画分)を回収し、Amicone-15ultraを用いて濃縮し、10mMのリン酸カリウムバッファーに交換した。
【0132】
(e)ゲルろ過による分離
(d)で得られたサンプル溶液を、あらかじめゲルろ過バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、150mM NaCl)で平衡化しておいたSuperdex 7510/300GL(GEヘルスケア)にアプライした。タンパク質を、ゲルろ過バッファーを流速0.5ml/minで通液することにより分離した。分離したタンパク質を500μlずつ分画し、各画分についてシアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性の認められた画分(29-32画分)を回収してAmicone-15ultra(ミリポア)を用いて濃縮し、10mMのリン酸カリウムバッファーに交換した。
【0133】
(f)Resouce ETHによる分離
(e)で得られたタンパク質溶液をあらかじめETH平衡化バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、35%硫酸アンモニウム)で平衡化しておいたResouce ETH(GEヘルスケア)にアプライした。ETH平衡化バッファーでカラムを洗浄した後、A液:ETH平衡化バッファー、B液:ETH溶出バッファー(10mMリン酸カリウム、pH7.2、15%硫酸アンモニウム)を用いて、19分間でB液の濃度が0%〜100%になるような直線的勾配(流速0.8ml/min)でタンパク質を分離した。分離したタンパク質溶液を300μlずつ分画し、各画分についてシアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性の認められた画分(20-25画分)を回収してAmicone-15ultra(ミリポア)を用いて濃縮し、10mMのリン酸カリウムバッファーに交換した。
【0134】
(g)HiTrap Butylによる分離
(f)で得られたタンパク質溶液に飽和硫酸アンモニウム水溶液を終濃度20%となるように加えた。このサンプル溶液をあらかじめButyl平衡化バッファー(10mMリン酸カリウム、20%硫酸アンモニウム、pH7.2)で平衡化しておいたHiTrap Butyl(GEヘルスケア)にアプライした。5mlのButyl平衡化バッファーでカラムを洗浄した後、A液:Butyl平衡化バッファー、B液:Butyl溶出バッファー(10mMリン酸カリウムバッファー、pH7.2、10%エチレングリコール)を用いて19分間で、B液の濃度が0%〜100%になるような直線的勾配(流速1ml/min)でタンパク質を分離した。分離したタンパク質溶液は300μlずつ分画した。各画分についてシアニジン-3-O-β-グルコシドを基質とし、バニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性を測定し、活性の認められた画分(43-48画分)を回収してAmicone-15ultra(ミリポア)を用いて濃縮し、10mMのリン酸カリウムバッファーに交換した。
【0135】
精製されたタンパク質をSDS-PAGE法によって分離し、銀染色法によって可視化して確認した。その結果を
図2に示す。
【0136】
(h)各画分における配糖化酵素活性測定
上記(b)〜(g)における、シアニジン-3-O-β-グルコシドを基質としバニリン酸1-O-βグルコースを糖供与体とした配糖化酵素活性測定は、以下の手順に従って行った。
【0137】
分画した画分をSephadexG-25(GEヘルスケア)担体を用いて100mMクエン酸バッファー(pH5.6)にバッファー交換を行った。粗酵素液30μlに、10mMバニリン酸1-O-βグルコースを3μl、および2mMのシアニジン3-O-β-グルコシドを3μl加え、その反応溶液を30℃で30分間静置した。その後、20%リン酸水溶液を2μl加えて反応を停止させた。不溶物を遠心分離によって除去し、HPLC分析を行った。
【0138】
HPLC分析はChromolith PerformanceRP-18e(4.6×100mm、Merck)カラムを用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液および90%メタノール水溶液を用いて行った。流速3ml/minおよび90%メタノール水溶液の濃度が17%から40%となるような直線勾配(4分間)で分離し、紫外可視検出器を用いて波長520nmの吸光度でシアニジン3,5-O-β-ジグルコシドの生成を確認した。
【0139】
(3)糖転移酵素タンパク質のアミノ酸配列解析
精製した糖転移酵素タンパク質のアミノ酸配列の解析を、アプロサイエンス社(徳島県鳴門市)の高感度タンパク質内部配列分析受託サービス、ならびに通常感度N末端アミノ酸配列分析受託サービスを利用して行った。タンパク質内部配列解析の結果、「GLEYYNNLVNA(配列番号5)」、「GTQPHVTLLH(配列番号6)」、「FTPXETELLTG(配列番号7)」、の3種類のアミノ酸配列が存在していることが分かった。また、N末端アミノ酸配列分析の結果から、このタンパク質は「SEFDRLDFPK(配列番号8)」というアミノ酸配列から始まるタンパク質である事が明らかとなった。また、N末端アミノ酸配列分析においては、上記のほかに2種類のアミノ酸配列「EFDRLDFPKH(配列番号9)」「PSEFDRLDFP(配列番号10)」が含まれていることが分かり、精製の過程でN末端が分解したか、植物体内でのプロセシングする酵素の基質特異性が低いことが考えられた。
【0140】
(4)糖転移酵素をコードするcDNAの単離(カーネーション由来)
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の花弁からRNAの抽出を、改変GTC/CsCl密度勾配遠心法(Chirgwin et al., 1979)を用いて行った。各組織片を液体窒素中で、乳鉢と乳棒を用いてよく破砕し、50mlのポリプロピレン製遠心沈殿管に移し、-80℃で完全に液体窒素を気化させた後に、3mlのGTC溶液(4.23Mチオシアン酸グアニジン、25mMクエン酸三ナトリウム、100mM 2-メルカプトエタノール、0.5% N-ラウロイルサルコシン)を加え直ちによく混合した。室温で30分放置した後、20,000×gで20分間遠心し、上清を新しい遠沈管に移してもう一度20,000×gで20分間遠心して完全に不溶物を除去した。このGTC抽出液を予め2.2mlの塩化セシウム溶液(5.7M CsCl, 0.1M EDTA, pH7.5)を分注しておいた5ml超遠心沈殿管(Beckman Coulter Inc., Fullerton, CA)に重層し、70,000rpm(TL-100 Ultracentrifuge, TLA110 roter, Beckman Coulter Inc.)で、3時間超遠心した。沈殿したtotal RNAを300μlのTE-SDS buffer(10mM Tris-HCl, pH8.0, 1mM EDTA, 0.1% SDS)に縣濁した。得られたtotal RNAからOligotex-dT<super>(TaKaRa Bio Inc., Shiga, Japan)を用いてpoly(A)
+RNAを精製した。方法はキットのマニュアルに従った。
【0141】
完全長cDNAはGeneRacer(商標)Kit(Invitrogen corp., CA)を使用し、オリゴキャッピング法に基づいてpoly(A)
+RNAから合成した。方法はキットのマニュアルに従った。合成したcDNAは小分けして使用直前まで-80℃で保存した。3'-RACE用のcDNAは、3'-Full RACE Core Set(TaKaRa Bio Inc.)を用いて前述のpoly(A)
+RNAから合成した。方法はキットのマニュアルに従った。
【0142】
糖転移酵素タンパク質のアミノ酸内部配列解析によって得られたアミノ酸配列「GTQPHVTLLH(配列番号6)」、「FTPXETELLTG(配列番号7)」から設計した縮重プライマー「GGN ACN CAR CCN CAY GTN AC(配列番号11)」、「TTY ACN CCN GAY GAR ACN GA(配列番号12)」を用いて、先に合成した3'-RACE用のcDNAを鋳型としてPCR法(94℃, 30秒、46℃, 30秒、72℃, 1分)を行い、約600bpのcDNA断片を獲得した。獲得したcDNA断片をクローニングベクターpGEM-T easy(Promega)にLigation Mix mighty (Takara Bio inc.)を用いて連結し、大腸菌DH5α株に形質転換した。得られたコロニーからプラスミドを抽出し、ジェネティックアナライザABI PRISM 3100(Applied Biosystems Japan Ltd., Tokyo, Japan)を用いてDNA塩基配列を解析した。得られたDNA塩基配列はDNA Databank of Japan(DDBJ)のBLASTXを用いてデータベースとの比較を行った。一連のDNA塩基配列の解析はGenetyx WIN ver. 5.0(Genetyx Corp., Tokyo, Japan)を用いて行った。
【0143】
得られたcDNA断片のDNA塩基配列から設計したプライマー「GGAAGTCGGGGGCCACCATTCTTCC(配列番号13)」とGeneRacer5'primerを用い、先に合成した完全長cDNAを鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をエタノール沈殿法で精製した。精製したPCR産物を鋳型とし、cDNA断片のDNA塩基配列から設計したプライマーを用いてnested PCRを行い、約550bpのcDNA断片を獲得した。獲得したcDNA断片は上記と同様の方法でpGEM-Teasyベクターにクローニングし、cDNA塩基配列を決定した。
【0144】
決定したcDNA5'端断片からfist ATGを含むように設計したプライマー「ATGAACATGTCATGCAAGTTTGAAATTG(配列番号14)」と3 site 3'adaptor primer(Takara Bio inc.)とを用いて、先に合成した3'-RACE用のcDNAを鋳型としたPCR法で糖転移酵素タンパク質のfirst ATG以下のcDNAを獲得した。獲得したcDNAを上記の方法でクローニングし、DNA塩基配列を決定した。決定したcDNA配列と推定される塩基配列(配列番号2)およびその塩基配列によってコードされる推定アミノ酸配列(配列番号1)を
図3に示す。
【0145】
図3において、精製した糖転移酵素タンパク質のアミノ酸内部配列解析の結果確認された配列(配列番号5〜7)を下線で示し、N末端アミノ酸配列から確認されたアミノ酸配列(配列番号8)を下線と太字で示した。cDNAは全長1749bpで502アミノ酸残基のタンパク質をコードしていた。cDNA塩基配列解析結果と、N末端アミノ酸配列分析結果より、この酵素は502アミノ酸残基として翻訳された後にアミノ酸がプロセシングによって除去されていると考えられた。また、データベース上のアミノ酸モチーフ検索の結果から、このプロセシングされた配列は液胞への移行シグナル配列を含んでいることが示唆された。
【0146】
(5)カーネーション由来糖転移酵素遺伝子の大腸菌での発現
糖転移酵素のN末端アミノ酸配列解析の結果明らかになったN末端に翻訳開始のためのメチオニン残基が付加されるように設計したセンスプライマー「ATGTCGGAGTTTGACCGCCTTGACTTTC(配列番号15)」と、ストップコドンを含まないように設計したアンチセンスプライマー「GTAGAAGTACGTATGTG(配列番号16)」を用いてPCRを行い、pTrcHis2-TOPO TA expression Kit(Invitrogen)を用いてpTrcHis2-TOPOベクター(Invitrogen)に連結し、大腸菌JM109株に形質転換した。形質転換した大腸菌からDNAを抽出して先の方法と同様にしてDNA塩基配列を解析し、cDNAの導入された向きとPCRによる塩基置換がないことを確認した。
【0147】
形質転換した大腸菌を50μl/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌し、14時間、30℃で振蕩培養した。その後、1mMとなるようにIPTGを加えてから16℃で2時間振蕩培養した。培養した大腸菌は1,800×gの遠心分離で集菌し、培地を除去した。そこに150μlの0.1Mクエン酸バッファー(pH5.6)を加えてよく混合した後、氷上にて超音波破砕機(UD-201, TOMY SEIKO Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて10秒間の超音波処理(output 4, duty 70)を3回繰り返した。20,000×gで遠心分離した後、上清を新しい遠心管に移し粗酵素液とした。
【0148】
20μlの粗酵素液、20μlの0.1Mクエン酸バッファー(pH5.6)、5μlのシアニジン-3-O-βグルコシド、5μlのバニリン酸1-O-βグルコースを含む反応液内で、30℃で、3時間反応させた後、2.5μlの20%リン酸水溶液を加えて反応を停止した。20,000×gの遠心分離で不溶化したタンパク質を除去した後、HPLC分析によって反応生成物を確認した。HPLC分析はDevelosil ODS-SR-5カラム(4.6×250 mm、野村化学)を用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびメタノールを用いて行った。流速1ml/minおよびメタノールの濃度が22%から60%となるような直線勾配(20分間)で分離し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて波長520nmの吸光度でシアニジン-3,5-O-β-ジグルコシドの生成を確認した(
図4)。コントロールとして行った、キット付属のLacZ遺伝子を導入したベクターを形質転換した大腸菌からの粗酵素液では生成物は確認されなかった。このことから、
図3に示した塩基配列(配列番号2)を持つ遺伝子がバニリン酸グルコースを糖供与体としてアントシアニン骨格の5位にグルコースを転移する酵素タンパク質をコードしていることが示された。
【0149】
[実施例3]
(1)糖転移酵素をコードするcDNAの単離(デルフィニウム由来)
デルフィニウム(品種「マリンブルー」)の花弁からRNAの抽出を、改変GTC/CsCl密度勾配遠心法(Chirgwin et al., 1979)を用いて行った。各組織片を液体窒素中で、乳鉢と乳棒を用いてよく破砕し、50mlのポリプロピレン製遠心沈殿管に移し、-80℃で完全に液体窒素を気化させた後に、3mlのGTC溶液(4.23Mチオシアン酸グアニジン、25mMクエン酸三ナトリウム、100mM 2-メルカプトエタノール、0.5% N-ラウロイルサルコシン)を加え直ちによく混合した。室温で30分放置した後、20,000×gで20分間遠心し、上清を新しい遠沈管に移してもう一度20,000×gで20分間遠心して完全に不溶物を除去した。このGTC抽出液を予め2.2mlの塩化セシウム溶液(5.7M CsCl, 0.1M EDTA, pH7.5)を分注しておいた5ml超遠心沈殿管(Beckman Coulter Inc., Fullerton, CA)に重層し、70,000rpm(TL-100 Ultracentrifuge, TLA110 roter, Beckman Coulter Inc.)で、3時間超遠心した。沈殿したtotal RNAを300μlのTE-SDS buffer(10mM Tris-HCl, pH8.0, 1mM EDTA, 0.1% SDS)に縣濁した。得られたtotal RNAからOligotex-dT<super>(TaKaRa Bio Inc., Shiga, Japan)を用いてpoly(A)
+RNAを精製した。方法はキットのマニュアルに従った。
【0150】
完全長cDNAはGeneRacer(商標)Kit(Invitrogen corp., CA)を使用し、オリゴキャッピング法に基づいてpoly(A)
+RNAから合成した。方法はキットのマニュアルに従った。合成したcDNAは小分けして使用直前まで-80℃で保存した。3'-RACE用のcDNAは、3'-Full RACE Core Set(TaKaRa Bio Inc.)を用いて前述のpoly(A)
+RNAから合成した。方法はキットのマニュアルに従った。
【0151】
糖転移酵素タンパク質のアミノ酸内部配列解析によって得られたアミノ酸配列「GTQPHVTLLH(配列番号6)」、「FTPXETELLTG(配列番号7)」から設計した縮重プライマー「GGN ACN CAR CCN CAY GTN AC(配列番号11)」、「TTY ACN CCN GAY GAR ACN GA(配列番号12)」を用いて、先に合成した3'-RACE用のcDNAを鋳型としてPCR法(94℃, 30秒、46℃, 30秒、72℃, 1分)を行い、約600bpのcDNA断片を獲得した。獲得したcDNA断片をクローニングベクターpGEM-T easy(Promega)にLigation Mix mighty (Takara Bio inc.)を用いて連結し、大腸菌DH5α株に形質転換した。得られたコロニーからプラスミドを抽出し、ジェネティックアナライザABI PRISM 3100(Applied Biosystems Japan Ltd., Tokyo, Japan)を用いてDNA塩基配列を解析した。得られたDNA塩基配列はDNA Databank of Japan(DDBJ)のBLASTXを用いてデータベースとの比較を行った。一連のDNA塩基配列の解析はGenetyx WIN ver. 5.0(Genetyx Corp., Tokyo, Japan)を用いて行った。
【0152】
得られたcDNA断片のDNA塩基配列から設計したプライマー「CTGGTTGCTTCAATATCTGCCCTCG(配列番号17)」とGeneRacer5'primerを用い、先に合成した完全長cDNAを鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物をエタノール沈殿法で精製した。精製したPCR産物を鋳型とし、cDNA断片のDNA塩基配列から設計したプライマーを用いてnested PCRを行い、約550bpのcDNA断片を獲得した。獲得したcDNA断片は上記と同様の方法でpGEM-Teasyベクターにクローニングし、cDNA塩基配列を決定した。
【0153】
決定したcDNA5'端断片からfist ATGを含むように設計したプライマー「ATGTGCCCCTCTTTTCTAGTGACTC(配列番号18)」と3 site 3'adaptor primer(Takara Bio inc.)とを用いて、先に合成した3'-RACE用のcDNAを鋳型としたPCR法で糖転移酵素タンパク質のfirst ATG以下のcDNAを獲得した。獲得したcDNAを上記の方法でクローニングし、DNA塩基配列を決定した。決定したcDNA配列と推定される塩基配列(配列番号4)およびその塩基配列によってコードされる推定アミノ酸配列(配列番号3)を
図5に記載したとおりである。
【0154】
上述のようにして単離したcDNAは全長1701bpで505アミノ酸残基のタンパク質をコードしていた。データベース上のアミノ酸モチーフ検索の結果から、このアミノ酸配列のN末端30アミノ酸残基内には液胞への移行シグナル配列を含んでいることが示唆された。
【0155】
(2)デルフィニウム由来糖転移酵素遺伝子の大腸菌での発現
DgVA7GTの液胞移行シグナルと予想されたN末端28アミノ酸残基を除いた配列に翻訳開始のためのメチオニン残基が付加されるように設計したセンスプライマー「ATG CCC GAA TTT AAT GTC AG(配列番号19)」と、ストップコドンを含まないように設計したアンチセンスプライマー「CTG TGA AGA GTA CGA TAT C(配列番号20)」を用いてPCRを行い、pTrcHis2-TOPO TA expression Kit(Invitrogen)を用いてpTrcHis2-TOPOベクター(Invitrogen)に連結し、大腸菌JM109株に形質転換した。形質転換した大腸菌からDNAを抽出して先の方法と同様にしてDNA塩基配列を解析し、cDNAの導入された向きとPCRによる塩基置換がないことを確認した。
【0156】
形質転換した大腸菌を50μl/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌し、14時間、30℃で振蕩培養した。その後、1mMとなるようにIPTGを加えてから16℃で2時間振蕩培養した。培養した大腸菌は1,800×gの遠心分離で集菌し、培地を除去した。そこに150μlの0.1Mクエン酸バッファー(pH5.6)を加えてよく混合した後、氷上にて超音波破砕機(UD-201, TOMY SEIKO Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて10秒間の超音波処理(output 4, duty 70)を3回繰り返した。20,000×gで遠心分離した後、上清を新しい遠心管に移し粗酵素液とした。
【0157】
20μlの粗酵素液、20μlの0.1Mクエン酸バッファー(pH5.6)、5μlのシアニジン-3-O-βグルコシド、5μlのバニリン酸1-O-βグルコースを含む反応液内で、30℃で、3時間反応させた後、2.5μlの20%リン酸水溶液を加えて反応を停止した。20,000×gの遠心分離で不溶化したタンパク質を除去した後、HPLC分析によって反応生成物を確認した。HPLC分析はWakopak Handy ODS(4.6×250 mm、和光純薬工業)カラムを用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびメタノールを用いて行った。流速1ml/minおよびメタノールの濃度が22%から55%となるような直線勾配(20分間)で分離し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて波長520nmの吸光度でシアニジン-3,5-O-β-ジグルコシドとは異なるリテンションタイムに新たなピーク生成を確認した(
図6)。デルフィニウムの青色の花弁中にはアントシアニンジンの3位と7位がグルコースで修飾されたアントシアニンが蓄積していることが知られていることから、この反応で生成したアントシアニンはシアニジン-3,7-O-β-ジグルコシドであると推定された。コントロールとして行った、キット付属のLacZ遺伝子を導入したベクターを形質転換した大腸菌からの粗酵素液では生成物は確認されなかった。このことから、
図5に示した塩基配列(配列番号4)を持つ遺伝子がバニリン酸グルコースを糖供与体としてアントシアニン骨格の7位にグルコースを転移する酵素タンパク質をコードしていることが示された。
【0158】
[実施例4]
花弁の発達4段階、茎、葉における、糖転移酵素をコードする遺伝子の発現量、糖転移酵素活性および蓄積アントシアニン量の解析
カーネーション(品種「ビームチェリー」)における糖転移酵素をコードする遺伝子の発現量の経時変化および器官特異性を調べた。経時変化の解析のために、それぞれ異なる発達段階の4種類の花弁をサンプルとして用いた。加えて、器官特異性の解析のために、茎と葉もサンプルとして用いた。
【0159】
発現解析はRT-PCRで行った。実施例2および3で述べた方法と同様の方法により各サンプルより抽出したtotal RNA 500ngよりcDNAを合成した。プライマーは、Oligo(dT)15 primer (Promega)、逆転写酵素はM-MLV ReverseTranscriptase(invitrogen)を用いた。各遺伝子発現の検出に用いたプライマーは以下の通りである。カーネーション由来UDP-グルコーストランスフェラーゼ(Dc3UGT):5'-GGC ACC CAC GAC ACC ACC ATC CC-3'(配列番号21)、5'-CAG GAT TGT CCA AGA TTA GAG TC-3'(配列番号22)、カーネーション由来バニリン酸グルコーストランスフェラーゼ(DcVA5GT、本発明の酵素) :5'-GAG GGA GTT TAC TCC AAA GAA G-3'(配列番号23)、5'-CAC CAT GAG TTC GAC ATC TTC C-3'(配列番号24)、カーネーション由来アクチン(DcActin):5'-CCC TAT TGA GCA CGG TAT CGT CAC C-3'(配列番号25)、5’-CAG CAC TTG TGG TGA GGG AGT AAC C-3’(配列番号26)。PCRのコンディションは以下の通りである:94℃で2分、その後 94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で20秒を27、32または37サイクル。次いで、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動することで分離した。各サンプルの転写量は、PCR産物をUV照射した際の光量で比較した。
【0160】
各サンプルより実施例1と同様にして抽出した粗酵素を用いて糖転移酵素活性を調べた。シアニジン-3-O-β-グルコシド(終濃度200μM)を受容体、バニリン酸1-O-βグルコース(終濃度1mM)を糖供与体とし、クエン酸バッファーでpH5.6に調整し、30℃、15分間、糖転移酵素反応を行った。リン酸(終濃度1%)で反応を止めた後、遠心して不溶物を除き、上清をHPLCを用いて解析した。(HPLC条件は実施例1(3)参照)。粗酵素1mgあたりのpkatは、シアニジン-3,5-O-β-ジグルコシドを基準に、HPLCのエリアより算出した。
【0161】
アントシアニンの蓄積量は、サンプル0.1gを1%トリフルオロ酢酸を含む80%メタノールで72時間抽出した抽出液の520nmにおける吸光度を測定することで定量した。サンプル1gあたりのアントシアニン量は、ペラルゴニジン-3,5-ジグルコシドの吸光度を基準にして算出した。
【0162】
これらの解析の結果を
図7に示す。これらの結果より、この配糖化遺伝子はカーネーションの植物体内においてカーネーションが持つアントシアニン色素合成にかかわっていることがわかる。
【0163】
[実施例5]
(1)p-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースの合成
DDBJデータベース上のカーネーション配糖化酵素相同遺伝子(DcUGTA82)のDNA配列情報(DDBJアクセッションNo.AB294379)から設計したPCR用プライマー(DcA82atg: ATGGAGGAGGATAAACAAAAGCC(配列番号27)、DcA82atgrt: ATGTGAAGTAACTTCTTCAATA(配列番号28))と、実施例2に記述した方法で合成した3'-RACE用の鋳型cDNAを用いてPCR法によってバニリン酸配糖化酵素遺伝子を増幅した。増幅したDNAをpTrcHis2-TOPO TA expression Kit(Invitrogen)を用いてpTrcHis2-TOPOベクター(Invitrogen)に連結し、大腸菌JM109株に形質転換した。形質転換した大腸菌からDNAを抽出して先の方法と同様にしてDNA塩基配列を解析し、cDNAの導入された向きとPCRによる塩基置換がないことを確認した。
【0164】
形質転換した大腸菌を50μl/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌し、14時間、30℃で振蕩培養した。その後、1mMとなるようにIPTGを加えてから16℃で2時間振蕩培養した。培養した大腸菌は1,800×gの遠心分離で集菌し、培地を除去した。そこに150μlの破砕バッファー(0.1Mリン酸カリウム、pH7.5、7mM 2-メルカプトエタノール)を加えてよく混合した後、氷上にて超音波破砕機(UD-201, TOMY SEIKO Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて10秒間の超音波処理(output 4, duty 70)を3回繰り返した。20,000×gで遠心分離した後、上清を新しい遠心管に移し粗酵素液とした。
【0165】
20μlの粗酵素液、20μlの破砕バッファー(0.1Mリン酸カリウム、pH7.5、7mM 2-メルカプトエタノール)、5μlの10mM UDP-グルコース、5μlの10mMバニリン酸あるいはp-ヒドロキシ安息香酸を含む反応液内で、30℃で、1時間反応させた後、2.5μlの20%リン酸水溶液を加えて反応を停止した。20,000×gの遠心分離で不溶化したタンパク質を除去した後、HPLC分析によって反応生成物を確認した。HPLC分析はWakopak Handy ODS(4.6×250 mm、和光純薬工業)カラムを用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびメタノールを用いて行った。流速1ml/minおよびメタノールの濃度が22%から55%となるような直線勾配(20分間)で分離し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて反応生成物を確認した。
【0166】
基質としてバニリン酸を用いた場合、糖供与体であるUDP-グルコースを含む場合には新たなピークが検出された(
図8:上図はUDP-グルコースを加えた場合、中図は糖供与体を加えなかった場合をそれぞれ示す)。この化合物はリテンションタイム、DADスペクトルが化学的に合成したバニリン酸1-O-β-グルコースと一致したことから、この酵素はバニリン酸などの芳香族有機酸にグルコースをβ型でエステル結合させる酵素であることが証明された。同様にp-ヒドロキシ安息香酸を基質としてUDP-グルコースを糖供与体として反応させたところ、HPLCクロマトグラム上に新たなピークが検出された(
図9:上図はUDP-グルコースを加えた場合、下図は糖供与体を加えなかった場合をそれぞれ示す)。これはp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースであると考えられた。
【0167】
次に、DcUGTA82を形質転換した大腸菌を200mlのLB培地中、30℃で14時間培養したのち、IPTGを終濃度1mMとなるように加えてから更に16℃で3時間培養した。培養した大腸菌を6,000×gの遠心分離で集菌し、10mlの破砕バッファーに懸濁した。その後氷上にて超音波破砕機を用いて30分間の超音波処理(output 7, duty 70)を行った。20,000×gで遠心分離した後、上清を新しい遠心管に移し粗酵素液とした。酵素反応は10mlの粗酵素液と、終濃度1mMのp-ヒドロキシ安息香酸と終濃度1mMのUDP-グルコースを含む全量30mlの反応液中で30℃で3時間行った。その後、終濃度1%となるようにリン酸を加えて反応を停止させてから、20,000×gの遠心分離で不溶化したタンパク質を除去した。この上清に含まれるp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースをODSカラム(ODS-SM, 26×100mm)を用いたフラッシュクロマトグラフィー(YFLC-AI-580, YAMAZEN corp.)で精製した。精製したp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースの濃度は紫外可視分光度計を用いてp-ヒドロキシ安息香酸の255nmにおける吸光度から算出した。
【0168】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸1-O-βグルコースを糖供与体とする糖転移反応の検出
カーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁あるいはデルフィニウム(品種「マリンブルー」)の花弁から実施例1と同様の方法により抽出した粗酵素液を用いて糖転移酵素活性を調べた。シアニジン-3-O-β-グルコシド(終濃度200μM)を受容体、p-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコース(終濃度1mM)を糖供与体とし、クエン酸バッファーでpH5.6に調整し、30℃、15分間、糖転移酵素反応を行った。リン酸(終濃度1%)で反応を止めた後、遠心して不溶物を除き、上清をHPLCを用いて解析した。HPLC分析はWakopak Handy ODS(4.6×250 mm、和光純薬工業)カラムを用いて、溶離液として1.5%リン酸水溶液およびメタノールを用いて行った。流速1ml/minおよびメタノールの濃度が20%から55%となるような直線勾配(20分間)で分離し、フォトダイオードアレイ検出器を用いて反応生成物を確認した。
【0169】
その結果、カーネーションおよびデルフィニウムのいずれの粗酵素液を用いた場合においても、シアニジン3-O-β-グルコシドに対する配糖化酵素活性が認められた(
図10:カーネーション花弁から得られた酵素、上から1番目はバニリン酸1-O-β-グルコースを加えた場合、2番目はp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースを加えた場合、3番目は糖供与体を加えなかった場合をそれぞれ示す。
図11:デルフィニウム花弁から得られた酵素、上図はバニリン酸1-O-β-グルコースを加えた場合、中図はp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースを加えた場合、下図は糖供与体を加えなかった場合をそれぞれ示す。)。このことから、これらの配糖化酵素はバニリン酸1-O-β-グルコースのみならずp-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースも糖供与体として認識できることが示された。
【0170】
(3)デルフィニウム由来糖転移酵素を用いた反応によって生成したアントシアニンのグルコース結合位置の確認
実施例3の(2)に示した方法で製造した組換えデルフィニウム由来糖転移酵素を用いて、シアニジン-3-O-β-グルコシドを糖受容体、p-ヒドロキシ安息香酸1-O-β-グルコースを糖供与体とした糖転移酵素反応をおこなった。この反応によって生じたシアニジン-3,7-O-β-ジグルコシドと考えられる生成物を、ODSカラムを用いた中圧クロマトグラフィーによって精製した。精製したサンプル(乾燥重量約 5 mg)を重メタノールに溶解してNOE差スペクトルを測定した。その結果を
図12に示す。図中の化学式の矢印は、NOE差スペクトル測定によって示された相関を示したものである。シアニジン骨格のC8位のプロトンとグルコース1位のプロトン、ならびにC6位のプロトンとグルコース1位のプロトンとの間に相関が示されたことから、この糖転移反応によって生じたアントシアニンは、シアニジン3-グルコシドの7位の水酸基にグルコースが転移したシアニジン3,7-ジグルコシドであることが示された。
【0171】
[実施例6]
カーネーションから精製した酵素を用いた、各化合物を糖供与体とした糖転移反応の検証
実施例2の(1)および(2)に示した方法でカーネーション(品種「ビームチェリー」)の桃色の花弁から精製した酵素135ng、シアニジン3-グルコシド200μMおよび糖供与体(バニリン酸1-O-β-D-グルコース、またはMatsuba Y et al., Plant Biotechnology vol.25, No.4 (2008) pp.369-375に記載の方法に従って酵素学的に合成したp-クマル酸1-O-β-D-グルコース、カフェ酸1-O-β-D-グルコース、フェルラ酸1-O-β-D-グルコースもしくはシナピン酸1-O-β-D-グルコースのいずれか)500μMをクエン酸バッファー(pH 5.6)で30μlとした反応溶液で30℃で15分間酵素反応を行った。リン酸の終濃度が1%となるように20%リン酸水溶液を反応液に加えて反応を止め、遠心後の上澄みを、HPLC(Chromolith SpeedROD、4.6×50mm、Merck)を用い、溶離液A(1.5%リン酸水溶液)および溶離液B(90%メタノール水溶液)のB液18%から28%までの直線勾配(5分間)で分離し、解析を行った(流速3.0ml/min、520nm)。各糖供与体に対する酵素の相対活性を、反応生成物(シアニジン3,5-O-βジグルコシド)の波長505nmにおけるHPLCクロマトグラムのエリアから算出した。その結果を以下の表に示す。
【表3】