特許第5761725号(P5761725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧 ▶ コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジーの特許一覧

特許5761725安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法
<>
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000003
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000004
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000005
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000006
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000007
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000008
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000009
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000010
  • 特許5761725-安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761725
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】安全性が向上した電極活物質、これを用いた電気化学素子、電極及び電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20150723BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150723BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20150723BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M10/052
   H01M10/0566
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-186740(P2013-186740)
(22)【出願日】2013年9月9日
(62)【分割の表示】特願2009-509424(P2009-509424)の分割
【原出願日】2007年5月4日
(65)【公開番号】特開2014-13770(P2014-13770A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2013年9月9日
(31)【優先権主張番号】10-2006-0040780
(32)【優先日】2006年5月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】591004043
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン、スン‐キュン
(72)【発明者】
【氏名】バン、ウイ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒー‐サン
(72)【発明者】
【氏名】リー、キ‐ヤン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソン‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、ヤン‐キュ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジョン‐サン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドク‐キュ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、スン‐ホワ
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5450057(JP,B2)
【文献】 特開2005−310744(JP,A)
【文献】 特開2004−171907(JP,A)
【文献】 特開2007−59264(JP,A)
【文献】 特開2005−63953(JP,A)
【文献】 特開2003−249219(JP,A)
【文献】 特開2005−346956(JP,A)
【文献】 特開2002−83596(JP,A)
【文献】 特開平9−082313(JP,A)
【文献】 特開平9−161773(JP,A)
【文献】 特開平10−270018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の一部又は全部に酸点を含んでなり、
前記酸点が、電極活物質上に表面処理された有機(半)金属化合物と無機物との複合体により形成されてなり、前記複合体は、金属−有機(半)金属化合物が結合された形態、金属酸化物−有機(半)金属化合物が結合された形態、或いは、金属水酸化物−有機(半)金属化合物が結合された形態であり、
前記有機(半)金属化合物が、下記化学式1〜化学式7の何れか一つで表されるものである、電極活物質。
[化1] SiH
[化2] Si(OR)4−x(0.1≦x≦3)
[化3] Si(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)
[化4] Si(OR)4−xSi(0.1≦x≦3)
[化5] Si(OR)4−(x+y)Si(0.1≦x+y≦3.9)
[化6] RM(OR)4−x(1≦x≦3)
[化7] RMZ(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)
〔上記式中、
Zは、ハロゲン元素であり、
Mは、アルカリ土金属、アルカリ金属、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素であり、
Rは、ハロゲン元素に置換又は非置換の、C1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた置換基である。〕
【請求項2】
前記酸点が、ブレンステッド酸点又はルイス酸点である、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
前記酸点の強度が、H(ハメット インジケーター)が−10〜10の範囲である、請求項1又は2に記載の電極活物質。
【請求項4】
前記無機物が、表面の一部又は全部に存在するプロトン供与体作用基、異種金属原子の電気陰性度の差、又はこれらの全部により酸点が形成されてなる、請求項1〜3の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項5】
前記無機物が、
(a)13族元素含有化合物、又は
(b)(i)13族元素、及び(ii)アルカリ土金属、アルカリ金属、14族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物である、請求項1〜4の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項6】
前記有機(半)金属化合物と無機物との複合体が、互いに結合された有機(半)金属化合物及び無機物間の電気陰性度の差、有機(半)金属化合物に結合された有機物質、又はこれらの全部により酸点が形成されるものである、請求項1〜5の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項7】
前記有機(半)金属化合物が、
(a)14族元素含有化合物、又は
(b)14族元素、及び、アルカリ土金属、アルカリ金属、13族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物である、請求項1〜6の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項8】
前記有機(半)金属化合物が、電子供与基を一つ以上含んでなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項9】
前記有機(半)金属化合物が、シリコン(Si)含有化合物である、請求項1〜7の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項10】
前記シリコン含有有機(半)金属化合物が、シラン、シリル化剤、シランカップリング剤、水素化珪素、モノシラン及びシランポリマーからなる群より選ばれる1種以上のものである、請求項1〜9の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項11】
前記有機(半)金属化合物と無機物の成分比率が、0wt%〜95wt%:5wt%〜100wt%の範囲である、請求項1〜10の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項12】
前記無機物又は有機(半)金属化合物と無機物との複合体の含有量が、電極活物質100重量部当り0.05〜20重量部である、請求項1〜11の何れか一項に記載の電極活物質。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の電極活物質を備えてなる、電極。
【請求項14】
前記電極が、正極であることを特徴とする、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記電極が、電極活物質の表面の一部又は全部に形成された酸点により、電池内に存在するHX(X=F、Cl、Br、I)と電極活物質との反応性が減少されるものである、請求項13に記載の電極。
【請求項16】
酸点を有する化合物が電極表面にコートされ、電極材料と混合されることを特徴とする、請求項13に記載の電極。
【請求項17】
電気化学素子であって、
正極と、負極と、分離膜と、及び電解液を備えてなり、
前記正極、前記負極又は両電極が、請求項1〜12の何れか一項に記載の電極活物質を含んでなる電極、又は請求項13〜16の何れか一項に記載の電極である、電気化学素子。
【請求項18】
(i)(a)プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物と、(b)酸点を有する化合物とを反応させる段階と、及び、
(ii)前記(i)段階の結果物を電極活物質の表面にコートし、そのコーティング層を乾燥させる段階を含んでなる、酸点強度が調節されたコーティング層を有する、請求項1〜12の何れか一項に記載の電極活物質の製造方法。
【請求項19】
前記酸点強度が、Hが−10〜10の範囲である、請求項18に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質の表面の酸点強度の調節により安全性が向上した電極活物質、前記電極活物質を含んだり、酸点を有する化合物が電極表面にコートされたり電極材料と混合される電極、前記電極を備えて性能の向上を図る電気化学素子、好ましくはリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の商用化の以後、電池開発における第一の目標は、高用量及び長寿の電気化学的特性に優れた正極活物質の開発である。電気化学的特性の以外に、熱露出、燃焼又は過充電などのような非正常な条件下でも、電池システムの安全性及び信頼性を確保できる安全性に優れた正極活物質の開発も切実に要求されている。
【0003】
リチウム二次電池の正極活物質として広く用いられているLiMO(M=Ni、Mn、Co等の遷移金属)等は、充電状態又は過充電状態で電解液と反応して副産物を生成したり、電極活物質の構造崩壊などにより電池性能の減少を招く。よって、殆どの研究者は、安定した酸化物で表面処理を行って活物質の性能を向上させる作業を進行してきたが、所望の電極活物質の安全性及び性能向上を同時に図るのに困難さがある。
【0004】
一方、本発明者らは、電極活物質粒子の表面上に反応性が低い化合物をコートする従来の表面改質法を用いる場合、電極活物質の安全性は確保されるが、必ず電池の性能が低下することを認識した。よって、前述した従来の表面改質法の代りに、電極活物質の表面上に酸点強度が調節された化合物をコートすることで、電極活物質の構造的安全性の向上及び物質変化の防止を図ることができ、電解液との反応性を有意的に減少させて電池の諸般性能を向上できる新規な表面改質法を採択して使用しようとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、表面の一部又は全部に酸点を含むことを特徴とする電極活物質、前記電極活物質を含む電極、及び前記電極を備える電気化学素子、好ましくはリチウム二次電池を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、酸点を有する化合物が既に製造された電極表面にコートされたり、電極材料と混合されることを特徴とする電極、及び前記電極を備える電気化学素子、好ましくはリチウム二次電池を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、(i)(a)プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物と、(b)酸点を有する化合物とを反応させる段階;及び、(ii)前記(i)段階の結果物を電極活物質の表面にコートし、そのコーティング層を乾燥させる段階を含むことを特徴とする、酸点強度が調節されたコーティング層を有する電極活物質の製造方法を提供することにある。
〔本発明の態様〕
〔1〕表面の一部又は全部に酸点を含むことを特徴とする、電極活物質。
〔2〕前記酸点が、ブレンステッド酸点又はルイス酸点であることを特徴とする、〔1〕に記載の電極活物質。
〔3〕前記酸点の強度が、H(ハメット インジケーター)が−10〜10の範囲であることを特徴とする、〔1〕に記載の電極活物質。
〔4〕前記酸点が、電極活物質上に表面処理された無機物又は有機(半)金属化合物と無機物との複合体により形成されることを特徴とする、〔1〕に記載の電極活物質。
〔5〕前記無機物が、表面の一部又は全部に存在するプロトン供与体作用基、異種金属原子の電気陰性度の差、又はこれらの全部により酸点が形成されることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔6〕前記無機物で表面処理された電極活物質が、前記無機物で表面処理された後、400℃以上の温度で熱処理されることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔7〕前記無機物が、
(a)13族元素含有化合物、又は
(b)(i)13族元素、及び(ii)アルカリ土金属、アルカリ金属、14族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物であることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔8〕前記有機(半)金属化合物と無機物との複合体が、互いに結合された有機(半)金属化合物及び無機物間の電気陰性度の差、有機(半)金属化合物に結合された有機物質、又はこれらの全部により酸点が形成されることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔9〕前記有機(半)金属化合物が、
(a)14族元素含有化合物、又は
(b)14族元素、及び、アルカリ土金属、アルカリ金属、13族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物であることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔10〕前記有機(半)金属化合物が、電子供与基を一つ以上含むことを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔11〕前記有機(半)金属化合物が、シリコン(Si)含有化合物であることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔12〕前記シリコン含有有機(半)金属化合物が、シラン、シリル化剤、シランカップリング剤、水素化珪素、モノシラン及びシランポリマーからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、〔11〕に記載の電極活物質。
〔13〕前記有機(半)金属化合物が、下記化学式1〜化学式7の何れか一つで表されることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
[化1]
SiH
[化2]
Si(OR)4−x(0.1≦x≦3)
[化3]
Si(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)[化4]
Si(OR)4−xSi(0.1≦x≦3)
[化5]
Si(OR)4−(x+y)Si(0.1≦x+y≦3.9)[化6]
M(OR)4−x(1≦x≦3)
[化7]
MZ(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)
[上記式中、
Zは、ハロゲン元素であり、
Mは、アルカリ土金属、アルカリ金属、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素であり、
Rは、ハロゲン元素に置換又は非置換の、C1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた置換基である。]
〔14〕前記有機(半)金属化合物と無機物の成分比率が、0wt%〜95wt%:5wt%〜100wt%の範囲であることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔15〕前記無機物又は有機(半)金属化合物と無機物との複合体の含有量が、電極活物質100重量部当り0.05〜20重量部であることを特徴とする、〔4〕に記載の電極活物質。
〔16〕〔1〕〜〔15〕の何れか一項に記載の電極活物質を備えてなることを特徴とする、電極。
〔17〕前記電極が、正極であることを特徴とする、〔16〕に記載の電極。
〔18〕前記電極が、電極活物質の表面の一部又は全部に形成された酸点により、電池内に存在するHX(X=F、Cl、Br、I)と電極活物質との反応性が減少されることを特徴とする、〔16〕に記載の電極。
〔19〕酸点を有する化合物が電極表面にコートされ、電極材料と混合されることを特徴とする、電極。
〔20〕正極と、負極と、分離膜と、及び電解液を備えてなる電気化学素子であって、前記正極、前記負極又は両電極が、〔1〕〜〔15〕の何れか一つの電極活物質を含んでなる電極或いは〔19〕に記載の電極であることを特徴とする、電気化学素子。
〔21〕前記電気化学素子が、リチウム二次電池であることを特徴とする、〔20〕に記載の電気化学素子。
〔22〕(i)(a)プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物と、(b)酸点を有する化合物とを反応させる段階と、及び、
(ii)前記(i)段階の結果物を電極活物質の表面にコートし、そのコーティング層を乾燥させる段階を含むことを特徴とする、酸点強度が調節されたコーティング層を有する電極活物質の製造方法。
〔23〕前記酸点強度が、Hが−10〜10の範囲であることを特徴とする、〔22〕に記載の製造方法。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明では、リチウムのインターカレーション/デインターカレーションを行ったり、或いは、挿入及び放出を行う電極活物質粒子の表面の一部又は全部に酸点を形成させ、電極活物質の表面の電気化学的物性を改質することを特徴とする。
【0010】
一般に、酸点は、ゼオライト等のような固体酸性触媒に存在して、化学反応、例えば分解反応等を起こす反応活性点として知られている。これに対し、本発明では、新規な表面改質法により、活物質の表面の一部又は全部に形成される表面改質部における特定の酸点強度を示す活性点を称する。
【0011】
酸点強度は、プロトンをどれくらい容易に供与できるか、或いは、電子対をどれくらい容易に受容できるかにより決定されるものである。よって、このような酸点特性は、一般に、表面構造よりは表面を構成する原子間の電子的性質と連関性があると言える。
【0012】
このように、表面に酸点が形成された電極活物質は、正電荷を有したり、又は電気陰性度の差により部分的に正電荷を有する通常の酸性物質と類似に作用する。したがって、電池内部に存在する、プロトンを供与する酸性物質(ブレンステッド酸)と、電子対を受容する親電子性物質(ルイス酸)との反応性自体が有意的に減少して、電池の諸般性能を向上できる。これに対しては下記のように推定することができる。
【0013】
1)従来の電極活物質の表面は、リチウム副産物又は親水性表面処理により弱塩基性を示す。よって、実際に酸点に対する認識が殆どなかった。
【0014】
このような従来の電極活物質、好ましくは正極活物質を用いる電池は、電極又は電解液内に存在する水分及びリチウム塩(例えば、LiPF)と反応して強酸であるHFを形成し、形成されたHFは、弱塩基性を示す電極活物質と自発的に反応して電極活物質成分を溶出させて退化させる。また、正極表面にLiFを形成して、電極内の電気抵抗の増加及びガスの発生により電池の寿命を低下させる。特に、HFによる電極の溶出速度は高温下で上昇するため、HFは高温での電池サイクル寿命及び保存性に大きな問題点を有することになる。
【0015】
これに対し、本発明の電極活物質は、表面上に酸点を有することで、実質的に酸性物質として作用することになる。よって、強酸の一種であるHX(X=ハロゲン元素)との反応性自体が低下するため、前述の問題点を根本的に解消でき、電極活物質の構造的安全性の確保及び電池性能の向上を図ることができる。
【0016】
2)従来の電池用電解液としてはカーボネート系非水溶媒を用いる。このようなカーボネート系電解液溶媒は、下記反応式1に表されるように、双極子モーメント上で相対的に正電荷(+)を有する炭素と、負電荷(-)を有する酸素とが存在するようになる。このとき、電極活物質の表面上に非共有電子対を供与できるルイス塩基が存在する場合、ルイス塩基が正電荷を表す炭素を攻撃して、電解液の親電子性分解反応がより活性化される。
【0017】
これに対し、酸点を有する本発明の電極活物質は、非共有電子対を供与するよりは非共有電子対を受容するルイス酸である。これにより、前述した電解液との副反応自体が有意的に減少して、電池性能の低下を最小化できる。
【化1】
【0018】
本発明により電極活物質の表面の一部又は全部に形成される酸点は、公知された通常の酸点を意味する。一例として、プロトンを供与できるブレンステッド酸点又は非共有電子対を受容できるルイス酸点であり得る。
【0019】
酸点強度は、H(Hammett indicator:ハメット インジケーター)で表され、公知された通常の範囲、例えば−20〜20内で調節可能である。酸点強度の調節により、電極活物質の退化防止及び電解液との副反応発生の抑制を図るために、Hが−10〜10であるのが好ましい。
【0020】
電極活物質の表面上に酸点を形成する方法は、特別に制限されず、一例として下記の2種類の実施形態がある。
【0021】
1)第一の実施形態は、電極活物質を無機物で表面処理するものである。
【0022】
このように、電極活物質の表面上に表面処理された無機物は、無機物の表面の一部又は全部に存在するプロトン供与体作用基、及び/又は異種金属原子の電気陰性度の差により、電極活物質の表面電子の分布を変化させて表面の電気化学的物性が変化するものであり、これにより電極活物質の表面上に酸点が形成されるものである。
【0023】
無機物は、公知された通常の無機物、例えばセラミック、金属又はこれらの混合物であって、電極活物質の表面に存在するとき、表面の電気化学的物性を変化させることができるものであれば特別に制限がない。特に、原子サイズが小さくて電極活物質の表面上に容易にドープされることで、Liのインターカレーションに従う電極の構造的安全性が図られる13族元素、14族元素、15族元素、例えばB、Al、Ga、In、Ti又はこれらの組合を含む化合物が好ましい。
【0024】
使用可能な無機物の非制限的な例としては、(a)13族元素含有化合物;(b)(i)13族元素;及び(ii)アルカリ土金属、アルカリ金属、14族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物などがある。一例として、無機物は、M1−XSi(M=13族及び遷移金属からなる群より選ばれた1種以上の元素;0≦x<1)であり得る。
【0025】
酸点を有する無機物は、電極活物質の表面改質の後、熱処理により形成され得る。このとき、熱処理温度は、酸点を形成する温度以上であれば特別に制限がない。表面にヒドロキシル基が相変らず存在する場合、強いルイス酸点を形成できないため、可能であればヒドロキシル基を除去できる400℃以上が好ましい。
【0026】
前述した無機物の粒径及び含量は特別に制限されず、公知された通常の範囲内で適切に調節可能である。
【0027】
2)第二の実施形態は、電極活物質の表面を、有機(半)金属化合物及び無機物の複合体で表面処理するものである。
【0028】
このような電極活物質の表面上に形成される有機(半)金属化合物及び無機物の複合体は、互いに結合された有機(半)金属化合物と無機物との間の電気陰性度の差及び/又は有機金属化合物に結合された有機物質により、表面の電気化学的物性が変化して酸点を形成し得る。
【0029】
このとき、複合体のうち、有機(半)金属化合物及び無機物は、互いに化学結合により連結しており、このような化学結合の形態及び種類は特別に制限されない。例えば、共有結合、配位結合であり得る。
【0030】
このように、電極活物質又は電極の表面改質剤として有機(半)金属化合物及び無機物の複合体を並用する場合、有機−無機複合体に含まれた有機物成分により無機物成分、例えば無機アルコキシド化合物の加水分解速度を減少させることができる。従って、より均一な表面を生成できると共に、生成された表面を持続的に維持できるため、充放電の進行による電極活物質の構造的安全性の低下及び構造崩壊、これによる電池性能の低下を最小化できる。合せて、有機−無機複合体に含まれた無機成分により、表面改質層の導入に従う電極活物質の電気伝導性の低下を効率よく向上できる。
【0031】
また、電極活物質の表面に導入された有機−無機複合体は、空気中の水分又は二酸化炭素と反応してLi−副産物を生成し、これにより副反応を発生させる経時変化を防止できる。したがって外部要人による電極活物質の物質変化防止をはかることができる。特に、水分により変化が激しく発生するニッケル系正極活物質などがより効果的である。
【0032】
さらに、従来の表面改質されない電極活物質からなる電池での正極及び電解液間の副反応性接触面を減少させることで、電池の安全性を向上させることができる。
【0033】
前述したように、電極活物質の粒子の表面の一部又は全部に酸点を形成できる有機−無機複合体成分の一つは、公知された通常の有機(半)金属化合物であれば特別に制限がない。酸点強度の調節効果及び経時変化の防止効果を高めるために、ブレンステッド酸点を増加できる電子供与基を含むことが好ましい。電子供与基は、構造式、置換基又は炭素数の範囲などに特別に制限がなく、例えば水素又は炭化水素などがある。
【0034】
有機(半)金属化合物は、(a)14族元素含有化合物;又は(b)(i)14族元素;及び(ii)アルカリ土金属、アルカリ金属、13族元素、15族元素、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素を含有する化合物などがあるが、これに制限されるものではない。有機(半)金属化合物としてはシリコン含有化合物が好ましいが、その具体例としては、シラン、シリル化剤、シランカップリング剤、水素化珪素、モノシラン、シランポリマー又はこれらの混合物などがある。
【0035】
有機(半)金属化合物は、下記化学式1〜化学式7で表されるが、これに制限されるものではない。
[化1]
SiH
[化2]
Si(OR)4−x(0.1≦x≦3)
[化3]
Si(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)
[化4]
Si(OR)4−x Si(0.1≦x≦3)
[化5]
Si(OR)4−(x+y)Si(0.1≦x+y≦3.9)
[化6]
M(OR)4−x(1≦x≦3)
[化7]
MZ(OR)4−(x+y)(0.1≦x+y≦3.9)
上記式中、
Zは、ハロゲン元素であり、
Mは、アルカリ土金属、アルカリ金属、遷移金属、ランタノイド金属及びアクチナイド金属からなる群より選ばれた1種以上の元素であり、
Rは、ハロゲン元素に置換されたり、又は非置換されたC1〜C20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた置換基である。
【0036】
本発明の電極活物質粒子の表面の一部又は全部に酸点を形成できる有機−無機複合体成分のもう一つは、前述した有機(半)金属化合物と化学結合数の差が発生して酸点を形成できる通常の無機物であれば、特別に制限がない。一例として前述した無機物成分が用いられる。このとき、有機−無機複合体の導入による電極活物質の伝導性の低下を防止するために、可能であれば伝導性を有する金属、金属含有酸化物、金属含有水酸化物、又はこれらの混合形態などを用いることが好ましい。
【0037】
前述した有機(半)金属化合物及び無機物からなる有機−無機複合体は、有機物及び無機物の単純混合形態でなく、これらが化学的に互いに結合された形態を示す。一例として、(a)金属−有機(半)金属化合物が結合された形態、金属酸化物−有機(半)金属化合物が結合された形態(Al−Si−CH)、或いは金属水酸化物−有機(半)金属化合物が結合された形態(AlOOH−Si−CH)を示す。
【0038】
酸点を形成する化合物のうち、有機(半)金属化合物:無機物の成分比率は、特別に制限ないが、可能であれば0wt%〜95wt%:5wt%〜100wt%の範囲が好ましい。
【0039】
また、本発明の有機−無機複合体は、前述した成分の以外に、公知された通常の成分、例えば添加剤成分などをさらに含むことができる。
【0040】
本発明による電極活物質は、電極活物質の表面の一部又は全部を酸点を有する化合物で表面処理することにより製造可能である。
【0041】
その好ましい実施形態によれば、(a)無機物含有化合物又は無機物含有化合物と有機(半)金属化合物を混合したり、或いは溶媒に分散させる段階;及び、(b)前記混合物又は分散液に電極活物質を添加及び撹はんした後、乾燥する段階を含むことができる。
【0042】
前記無機物含有化合物としては、前述した元素を1種以上含む通常の水溶性又は非水溶性化合物が用いられる。例えば、前述した無機物を含むアルコキシド、硝酸、アセテートなどがある。
【0043】
溶媒としては、公知された通常の溶媒が用いられるが、その非制限的な例としては、水、アルコールなどの有機溶媒又はこれらの混合物などがある。
【0044】
前述した混合物又は分散媒に添加、混合及び撹はんしてコートされる電極活物質は、公知された通常の正極活物質、負極活物質を制限なく使用することができる。
【0045】
このとき、電極活物質の表面を無機物と有機(半)金属化合物との混合溶液でコートする方法は、公知された通常の方法、例えば、溶媒蒸発法、共沈法、沈殿法、ゾルゲル(sol-gel)法、吸着後フィルター法、スパッタ(sputtering)法、CVDなどが用いられる。中でもスプレーコート法が好ましい。
【0046】
無機物含有化合物又は無機物と有機(半)金属化合物との混合溶液(又は分散液)を電極活物質に添加するとき、電極活物質100重量部当り0.05〜20重量部の範囲で添加するのが好ましい。しかしながら、これに限定されるものではない。前記混合溶液が多過ぎる場合、活物質の表面に多量の表面処理層が存在して電極活物質へのリチウム移動及び 伝達が円滑ではなくて、電気化学的特性が減少し得る。また、前記混合溶液が少な過ぎる場合、所望の酸点効果を発揮し難い。以後、コートされた電極活物質は、公知された通常の方法により乾燥し得る。
【0047】
必要に応じて、乾燥された電極活物質を熱処理する段階を追加できる。このとき、熱処理温度は100℃以上であれば、特別に制限がなく、好ましくは100〜600℃の範囲である。また、熱処理は空気中又は非活性条件下で実施しても良い。
【0048】
従来には、高温焼成時、有機物が熱的に不安定であり、有機物が一部消耗されるため、所望の効果を発揮し難い。これにより焼成温度に制約が発生することになる。これに対し、本発明では、有機物の熱的不安定が無機物成分により補償されて熱的安全性を示すことができる。また、通常の乾燥段階又は低温焼成により製造可能であるため、製造方法の単純化に従う経済性の向上及び量産性を図ることができる。
【0049】
このように製造された電極活物質は、表面上に無機物又は有機−無機複合体層が形成されるが、形成された無機物又は有機−無機複合体は、前述したように酸点を形成することになる。
【0050】
本発明では、無機物又は有機−無機複合体で表面改質された電極活物質の表面物性が酸点を有することを、本願の実験例を通して確認できた(図9参照)。特に、有機−無機複合体は、有機物及び無機物が互いに結合された形態を示すだけでなく(図7参照)、複合体内の有機物に存在する電子を供与する作用基により無機物のブレンステッド酸点が相対的に増加することで、一層酸点強度が増加したことを確認できた(図9参照)。
【0051】
本発明は、前記のような電極活物質を含む電極を提供する。このとき、前記電極は、HFや水分による変化が激しい正極である場合が好ましい。
【0052】
これと同時に、本発明は、酸点を有する化合物が電極の表面にコートされたり、或いは電極材料と混合される電極を提供する。
【0053】
本発明により酸点を有する化合物を電極の構成成分として含む電極を製造する方法は、特別に制限されず、通常の方法により製造可能である。その好ましい実施例によれば、無機物含有化合物又は無機物含有化合物と有機(半)金属化合物とを混合したり溶媒に分散させて製造された混合物又は分散液を、電極活物質と混合して電極スラリーを製造した後、製造されたスラリーを集電体に塗布して電極を製造してから、乾燥することで完了できる。
【0054】
このとき、前記段階(b)のうち、混合過程の例としては、前記混合物又は分散液と電極活物質を混合して電極スラリーを製造した後、製造されたスラリーを集電体に塗布するものである。
【0055】
また、本発明により有機−無機複合体を電極のコーティング成分として使用して電極を製造する方法も、公知された通常の方法により製造可能である。その一実施例によれば、無機物含有化合物又は無機物含有化合物と有機(半)金属化合物とを混合したり溶媒に分散させた後、これを既に製造された電極表面にコート及び乾燥すればよい。このとき、既に製造された電極は、公知された通常の方法により製造可能である。
【0056】
また、本発明は、正極、負極、分離膜及び電解液を含む電気化学素子において、前記正極、負極又は両電極が前述した電極活物質を含んだり電極であることを特徴とする電気化学素子を提供する。
【0057】
電気化学素子は、電気化学反応を行う全ての素子を含み、具体例としては、全ての種類の一次・二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシターなどがある。特に、二次電池の中、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池又はリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が好ましい。
【0058】
本発明の電気化学素子は、公知された通常の方法により、正極及び負極間に多孔性の分離膜を入れ、前記電解液を投入して製造できる。
【0059】
前記電極と共に適用される電解液及び分離膜は、特別に制限されず、従来の電気化学素子に用いられる通常のものを使用することができる。
【0060】
本発明で提示された方法により製作された電気化学素子、好ましくはリチウム二次電池の外形は、特別に制限がないが、缶からなる円筒形、コイン形、角形又はパウチ形が可能である。
【0061】
さらに、本発明は、表面の酸点強度が調節された電極活物質の製造方法を提供する。このような製造方法の一実施例によれば、(a)酸点を有する化合物;及び、(b)プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物を反応させた後、電極活物質の表面の一部又は全部に表面処理することによりなされるが、これに制限されるものではない。
【0062】
プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物は、従来の化合物の酸点強度を特定範囲に調節できる影響因子として使用するものである。このとき、化合物の含量、化合物内に存在する作用基、成分比の調節により、酸点強度を所望の範囲に調節できる。
【0063】
このとき、プロトン(又は電子対)供与、或いは、プロトン(又は電子対)受容を行う化合物は、前述した作用が行われるものであれば、特別に制限がない。調節された活物質の表面の酸点強度は、Hが−10〜10範囲であるのが好ましいが、これに制限されるものではない。その他、同一の作用によりHを−20〜20範囲に調節することも、本発明の範囲に属している。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、電極活物質の表面の酸点強度を調節することで、電解液との副反応性の減少及び電極活物質の構造的安全性の確保により、電池の性能を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、本発明の理解を容易にするために好適な実施例を提示するが、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0066】
実施例1
1−1 正極活物質の製造
アルミニウムイソプロポキシド(Al-isopropoxide)及びCHSi(OCH)を、それぞれ活物質に対し0.8mol%になるように、200mlの無水アルコールに入れ、18時間撹はんした。以後、LiCo 100gを投入して1時間20分間再撹はんした後、減圧フィルターを用いてフィルターリングした。得られた活物質を130℃の真空オーブンで乾燥した後、表面処理された活物質を得た。
【0067】
1−2 正極の製造
前記製造された正極活物質:導電剤:バインダーの比率が95:2.5:2.5になるように、NMP溶媒に入れてスラリーを生成した後、製造された正極スラリーを20μmのアルミ箔上に塗布した後、130℃のオーブンで乾燥して正極を得た。
【0068】
1−3 リチウム二次半電池の製造
得られた電極の気孔率が25%になるように圧延した後、コイン状に穿孔してコイン状電池を製造した。このとき、対向電極としてはLi−金属を用い、電解液としてはEC:EMCが1:2で混合された溶媒にLiPFが1M溶解された電解液を用いた。
【0069】
実施例2
乾燥した活物質を300℃でさらに熱処理した以外は、前記実施例1と同様な方法により、正極活物質、前記正極活物質を用いた正極及び前記正極を備えるコイン状電池を製造した。
【0070】
実施例3
アルミニウムイソプロポキシドを単独で使用して得られた正極活物質を400℃で熱処理した以外は、前記実施例1と同様な方法により、正極活物質、前記正極活物質を用いた正極及び前記正極を備えるコイン状電池を製造した。
【0071】
比較例1
表面処理されない通常のLiCoOを正極活物質として用いた以外は、前記実施例1と同様な方法により、正極及び前記正極を備えるコイン状電池を製造した。
【0072】
比較例2
CHSi(OCH)を使用することなく、アルミニウムイソプロポキシドを単独で使用した以外は、前記実施例1と同様な方法により、正極活物質、前記正極活物質を用いた正極及び前記正極を備えるコイン状電池を製造した。
【0073】
比較例3
アルミニウムイソプロポキシドをを使用することなく、CHSi(OCH)を単独で使用した以外は、前記実施例1と同様な方法により、正極活物質、前記正極活物質を用いた正極及び前記正極を備えるコイン状電池を製造した。
【0074】
実験例1 電極活物質の表面物性の分析
本発明により表面改質された電極活物質の物性を評価するために、下記のような実験を行った。
【0075】
試料としては、実施例1において有機−無機複合体で表面改質された正極活物質を用い、その対照群としては、通常の正極活物質(LiCoO)を用いた。
【0076】
前述した正極活物質を用いて常温大気中、常温真空、50℃真空、100℃真空、200℃真空、300℃真空状態において、それぞれIRスペクトル装置で分析した。その結果、2800〜3000cm−1近傍で現れるアルキル基(−CHCH)が、比較例1及び比較例2の正極活物質では現れないのに対し(図8参照)、本発明の正極活物質は有機物に含まれたアルキル基の存在を確認できた(図7参照)。よって、本発明の電極活物質上に存在する表面改質物質は、有機物及び無機物が互いに複合体を形成して存在することを確認できた。
【0077】
実験例2 電極活物質の酸点の分析
本発明による電極活物質の表面の物性を評価するために、下記のような実験を行った。
【0078】
試料としては、実施例1において有機−無機複合体で表面改質された正極活物質と、実施例3において酸点を有する無機物で表面改質された正極活物質とを用いた。その対照群としては、比較例1の通常の正極活物質(LiCoO)と、無機物及び有機物でそれぞれ単独表面処理された比較例2並びに比較例3の正極活物質とを用いた。
【0079】
前述した正極活物質にCHCN化合物を吸着させて、IRスペクトル装置の分析により酸点強度を測定した。参考として、CHCN化合物は、非共有電子対を有する塩基性化合物であるから、酸点を有する化合物と中和反応による表面吸着を発生させることで、IRスペクトル上でピーク変化を示すことができる。したがって、酸点を有する化合物の酸点強度を測定できる。
【0080】
実験の結果、通常の正極活物質を用いた比較例1の正極活物質と、無機物で単独表面処理された比較例2の正極活物質と、有機物で単独表面処理された比較例3の正極活物質とは、IRデータ上で特別な変化が現れなかった。これに対し、酸点を有する無機物で単独表面処理された実施例3の正極活物質と、有機物及び無機物の複合体で表面処理された実施例1の正極活物質とは、2200〜2400cm−1近傍でニトリル基(−CN)に対するピークが現れることで、表面に酸点が存在することを確認できた(図9参照)。
【0081】
特に、同一の成分の無機物で単独表面処理された実施例3の正極活物質と、比較例2の正極活物質とを比較した結果、比較例2の正極活物質は、無機物の表面処理により電解液との副反応性を止めるとしても、酸点が形成されないため、電池の性能が著しく減少したのに対し(図5参照)、酸点が形成された実施例3の正極活物質を用いた電池は、性能が向上したことが分かった(図3参照)。よって、酸点形成が電池の諸般性能に関連付ける因子であることを確認できた。
【0082】
実験例3 リチウム二次電池の性能の評価
本発明により表面上に酸点を有する電極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の性能評価を下記のように行った。
【0083】
酸点を有する正極活物質を用いて製造された実施例1〜実施例3のコイン状電池を用い、その対照群として表面改質されなかったり、無機物及び有機物でそれぞれ単独表面処理された比較例1〜比較例3のコイン状電池を用いた。
【0084】
各電池を50℃で3〜4.5Vまで0.5CにCC/CV充放電を行い、得られた結果を各サイクル別に充放電グラフで図1図6に示した。
【0085】
実験の結果、表面に酸点を有する電極活物質を用いて製造された実施例1〜実施例3の電池は、サイクルの進行により優れた充放電の効率が維持されることで、サイクル特性が著しく向上することを確認できた(図1図3参照)。これに対し、表面上に酸点が存在しない正極活物質を用いて製造された比較例1〜比較例3の電池は、充放電の特性が低下することを確認できた(図3図5参照)。
【図面の簡単な説明】
【0086】
図1】実施例1の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図2】実施例2の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図3】実施例3の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図4】比較例1の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図5】比較例2の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図6】比較例3の正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池の充放電グラフを示す。
図7】実施例1で製造された正極活物質の温度及び測定条件の変化に従う表面特性の変化を示すIRスペクトルのグラフを示す。
図8】比較例1で製造された正極活物質の温度及び測定条件の変化に従う表面特性の変化を示すIRスペクトルのグラフを示す。
図9】実施例1及び実施例3の正極活物質、比較例1〜比較例3の正極活物質の表面酸点及び酸点強度を示すIRスペクトル装置を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9