(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の磁性層と前記第1の非磁性層との間、前記第2の磁性層と前記第1の非磁性層との間の少なくとも一方に、ホイスラー合金を含む界面層が設けられている請求項1または2記載の磁気抵抗素子。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能および構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態による磁気抵抗素子を
図1に示す。
図1は第1実施形態の磁気抵抗素子1の断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1はMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、非磁性層4(以下、トンネルバリア層4ともいう)、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。下地層100は、強磁性層2および強磁性層2より上の層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられるが、詳細な性質については後述する。強磁性層2はMnおよびGaを含み、その組成比がMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)である。
図2に膜厚が5nmのTa/膜厚が30nmのMnGa/Cr/MgO基板のMn組成に対する垂直方向の保磁力の変化を示す。Mn
50Ga
50では保磁力が約1kOe、Mn組成を増やすことにより保磁力が増大し、Mn
60Ga
40で約6kOeまで増加する。試料はMn
45Ga
55とMnターゲットをコスパッタすることにより系統的に組成を変化させ作成した。ここでMnとGaの組成は設計値である。スパッタ法でMnGaを形成する場合、通常MnGaターゲットを使用する。しかし、MnGaはすべての組成にわたってターゲットを作成することは極めて困難である。Mn組成を減らしていくとターゲットがわれてしまう。MnGaが割れることなくターゲットが作成できるGaに対するMnの限界組成はおよそ45atm%である。したがってMn
45Ga
55をMn組成の下限組成とした。MTJ素子の抵抗値はトンネルバリアを介して配される二つの磁性層の磁化方向の角度により決まる。外部磁場或いは素子に流す電流により磁化方向の角度を制御することが出来る。その際二つの磁性層に保磁力の大きさに差を付けることにより、より安定的に磁化方向の角度を制御することが可能となる。ここでは保磁力の大きい磁性層を参照層、保磁力の小さな磁性層を記憶層と呼ぶ。したがって一般的には参照層に用いる場合にはより大きな保磁力、記憶層に用いる場合にはより小さな保持力を持つことが望まれる。
図2に示すようにMn濃度を増やすことで保磁力を増大させることが可能であるために、より参照層として適している。
【0013】
一方、文献(Thaddeus B.Massalski, “BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS”, Vol.2,P1144.)に示すMnGaの相図から、Mn濃度が約65%以上の組成域では異なる相が共存することが示唆される。これは、組成域では磁気特性の異なる相が混在した状態で結晶成長することが予想され、磁気特性などのばらつきなどの原因になりうる。したがってMnGa磁性体を安定的に形成し、所望の磁気特性を得るために、Gaに対するMnの上限組成を64atm%とした。また、強磁性層8はMnおよびGaを含まない強磁性層で、詳細な性質については後述する。そして、この第1実施形態においては、非磁性層4として、MgAlOを用いることが好ましい。例えば、MnGaからなる強磁性層、結晶質MgOからなる非磁性層、MnGaからなる強磁性層がこの順序で積層された積層構造とした場合に、MnGa(001)/MgO(001)/MnGa(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。ここでMnGa(001)、MgO(001)とはそれぞれ膜の法線方向に(001)面が露出するように結晶配向しているという意味である。これにより、トンネル電子の波数選択性を向上させることができ、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。MnGaが膜の法線方向に(001)面が露出するように結晶配向した場合、膜面内方向の格子定数はMn、Gaの組成に寄らず約3.91Åである。MnGaとMgOの膜面内方向におけるバルクの格子定数から格子ミスマッチを求めると約7.7%と大きい。格子ミスマッチは以下の式で定義される。(a(MgO)-a(MnGa))/a(MnGa)×100。ここでa(MgO)、a(MnGa)はそれぞれ膜面内方向のMnGaおよびMgOの格子定数である。格子ミスマッチが大きいと格子歪による界面エネルギーを低減させるために界面に転移などが生成される。その場合、結晶粒の間でエピタキシャル関係が成立し、膜面内にわたって均一にエピタキシャル成長させることは困難である。素子に電流を流すと転移が電子の散乱源になるために磁気抵抗比は低減されてしまう。したがって、転移を発生させず膜面内に均一にエピタキシャル成長させるためにはより格子ミスマッチが小さい材料で積層させることが重要である。そのため非磁性層としてMgAlOを用い、MnGa(001)/MgAlO(001)/MnGa(001)を構成する。たとえばMgAl
2O
4のa軸方向の格子定数は8.09Åである。したがって格子ミスマッチは3.5%まで低減できるのでより大きな磁気抵抗比が得られる。
【0014】
強磁性層2および強磁性層8はそれらの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子1は、強磁性層2および強磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。なお、本明細書では膜面とは、強磁性層の上面を意味する。また、容易磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが低くなる方向である。これに対して困難磁化方向とは、あるマクロなサイズの強磁性体を想定して、外部磁界のない状態で自発磁化がその方向を向くと最も内部エネルギーが大きくなる方向である。
【0015】
そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1に流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。不変である強磁性層を参照層とも称し、可変である強磁性層を記録層と称す。本実施形態においては、例えば、強磁性層2を記録層、強磁性層8を参照層とする。なお、書き込み電流は、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。強磁性層2が記録層、強磁性層8が参照層であってかつ強磁性層2の磁化の方向と強磁性層8の磁化の方向が反平行(逆の方向)な場合には、強磁性層2から強磁性層8に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は強磁性層8から界面磁性層6、非磁性層4を通って強磁性層2に流れる。そして、強磁性層8を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層2に流れる。強磁性層2の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層2を通過するが、強磁性層2の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層8の磁化と同じ方向に向くように働く。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層8の磁化の方向と平行(同じ方向)になる。
【0016】
これに対して、強磁性層2の磁化の方向と強磁性層8の磁化の方向が平行な場合には、強磁性層8から強磁性層2に向かって書き込み電流を流す。この場合、電子は強磁性層2から非磁性層4、界面磁性層6を通って強磁性層8に流れる。そして、強磁性層2を通ることによりスピン偏極された電子は強磁性層8に流れる。強磁性層8の磁化と同じ方向のスピンを有するスピン偏極された電子は強磁性層8を通過するが、強磁性層8の磁化と逆方向のスピンを有するスピン偏極された電子は、界面磁性層6と強磁性層8との界面で反射され、界面磁性層6、非磁性層4を通って強磁性層2に流れ込む。これにより、強磁性層2の磁化にスピントルクを作用し、強磁性層2の磁化の方向が強磁性層8の磁化と反対方向に向くように働く。これにより、強磁性層2の磁化の方向が反転し、強磁性層8の磁化の方向と反平行になる。なお、界面磁性層6は、スピン分極率を増大させるために設けられている。
【0017】
なお、第1実施形態では、下地層100上に、強磁性層2、非磁性層4(以下、トンネルバリア層4ともいう)、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有しているが、下地層100上に、逆の順序で積層されていてもよい。すなわち、下地層100上に、強磁性層8、界面磁性層6、非磁性層4、および強磁性層2がこの順序で積層された構造であってもよい。
【0018】
(第2実施形態)
第2実施形態による磁気抵抗素子を
図3に示す。
図3は第2実施形態の磁気抵抗素子1Aの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1AはMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。このうち強磁性層2はMnおよびGaを含み、その組成比がMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)である。界面磁性層3はスピン分極率を増大させるためにMnAlを用いことが好ましい。また、非磁性層4として、後述するトンネルバリア層の材料を用いることができるがMgAlOを用いることが好ましい。なお、界面磁性層3として、MnGaを用いることもできる。
【0019】
第1実施形態と同様に、強磁性層2および強磁性層8はそれぞれ、膜面に垂直な方向の磁気異方性を有し、それらの容易磁化方向は膜面に対して垂直である。すなわち、本実施形態のMTJ素子1Aは、強磁性層2および強磁性層8の磁化方向がそれぞれ膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。そして、強磁性層2および強磁性層8のうちの一方の強磁性層は書き込み電流をMTJ素子1Aに流したときに、書き込みの前後で磁化の方向が不変であり、他方の強磁性層は可変である。本実施形態においては、例えば、強磁性層2を参照層、強磁性層8を記録層とする。なお、書き込み電流は、第1実施形態と同様に、強磁性層2と強磁性層8との間に膜面に垂直方向に流す。なお、第1実施形態と同様に、界面磁性層3、6は、スピン分極率を増大させるために設けられている。
【0020】
なお、第2実施形態においては、下地層100上に、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有しているが、下地層100上に、逆の順序で積層されていてもよい。すなわち、下地層100上に、強磁性層8、界面磁性層6、非磁性層4、界面磁性層3、および強磁性層2がこの順序で積層された構造であってもよい。
【0021】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気抵抗素子を
図4に示す。
図4は第3実施形態の磁気抵抗素子1Bの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子3はMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、および強磁性層10がこの順序で積層された構造を有している。このうち強磁性層2、および強磁性層10はMnおよびGaを含み、その組成比がMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)である。この場合、強磁性層10のMnの組成比を、強磁性層2のMnの組成比と異ならせることにより、強磁性層10と強磁性層2の保持力に差を設け、Mnの組成比の少ない強磁性層が記録層となり、Mnの組成比の多い強磁性層が参照層となる。参照層と記憶層の保磁力差が1kOe以上あれば十分である。したがって
図2からMn
50Ga
50を仮に記憶層とした場合Mn55atm%以上のMn組成を有するMnGaが参照層に適している。また、界面磁性層3として、スピン分極率を高くするためにMnAlを用いることが好ましい。この第3実施形態においては、非磁性層4として後で詳細に説明する材料を用いることができる。なお、界面磁性層3としてMnGaを用いることもできる。
【0022】
この第3実施形態も第1、2実施形態と同様に、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。また同様に、界面磁性層3は、スピン分極率を増大させるために設けられている。
【0023】
なお、第3実施形態においては、下地層100上に、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、および強磁性層10がこの順序で積層された構造を有しているが、下地層100上に、逆の順序で積層されていてもよい。すなわち、下地層100上に、強磁性層10、非磁性層4、界面磁性層3、および強磁性層2がこの順序で積層された構造であってもよい。
【0024】
(第4実施形態)
第4実施形態による磁気抵抗素子を
図5に示す。
図5は第4実施形態の磁気抵抗素子1Cの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1CはMTJ素子であって、下地層100上に、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層9、および強磁性層10がこの順序で積層された構造を有している。このうち強磁性層2および強磁性層10はMnおよびGaを含み、その組成比がMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)である。なお、第4実施形態においても、第3実施形態と同様に、強磁性層10と強磁性層2の保持力に差を設け、Mnの組成比を異ならせる。また、界面磁性層3、9として、スピン分極率を高くするためにMnAlを用いることが好ましい。この第4実施形態においては、非磁性層4として後で詳細に説明する材料を用いることができる。なお、界面磁性層3、9として、MnGaを用いることもできる。
【0025】
この第4実施形態も第1、2、3実施形態と同様に、いわゆる垂直磁化MTJ素子である。
【0026】
(第5実施形態)
第5実施形態による磁気抵抗素子を
図6に示す。
図6はこの第5実施形態の磁気抵抗素子1Dの断面図である。この実施形態の磁気抵抗素子1Dは第4実施形態において、強磁性層10上に非磁性層12、強磁性層14を積層した構成となっている。なお、本実施形態においては、界面磁性層9と強磁性層10が参照層となっている。強磁性層14はバイアス層とも呼ばれ、強磁性層10とは、磁化の向きが反平行(逆向き)の磁化を有している。強磁性層14は、非磁性層12を介して強磁性層と反強磁性結合(SAS(Synthetic Anti-Ferromagnetic)結合)していてもよい。これにより、界面磁性層9と強磁性層10より成る参照層からの漏れ磁場による界面磁性層3と強磁性層2より成る記憶層の反転電流のシフトを緩和および調整することが可能となる。非磁性層12は、強磁性層10とバイアス層14とが熱工程によって混ざらない耐熱性、およびバイアス層14を形成する際の結晶配向を制御する機能を具備することが望ましい。
【0027】
さらに、非磁性層12の膜厚が厚くなるとバイアス層14と記憶層(本実施形態では強磁性層2)との距離が離れるため、バイアス層14から記憶層に印加されるシフト調整磁界が小さくなってしまう。このため、非磁性層12の膜厚は、5nm以下であることが望ましい。バイアス層14は、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有する、強磁性材料から構成される。バイアス層14は、参照層に比べて記憶層から離れているため、記憶層に印加される漏れ磁場をバイアス層14によって調整するためには、バイアス層14の膜厚、或いは飽和磁化M
Sの大きさを参照層のそれらより大きくする設定する必要がある。すなわち、本発明者達の研究結果によれば、参照層の膜厚、飽和磁化をそれぞれt
2、M
S2、強磁性層9(バイアス層)の膜厚、飽和磁化をそれぞれt
3、M
S3とすると、以下の関係式を満たす必要がある。
【0028】
M
S2×t
2<M
S3×t
3
なお、第5実施形態で説明したバイアス層14は、第1乃至第3実施形態の磁気抵抗素子にも適用することができる。この場合、参照層となる強磁性層8または強磁性層10上に非磁性層12を間に挟んで積層される。
【0029】
次に、第1乃至第5実施形態によるMTJ素子1、1A、1B、1Cに含まれる各層の具体的な構成を、強磁性層2、強磁性層10、下地層100、界面磁性層3、界面磁性層9、強磁性層8、界面磁性層6、非磁性層4の順に説明する。
【0030】
(強磁性層2および強磁性層10の材料)
強磁性層2および強磁性層10は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する。強磁性層2および強磁性層10に用いられる材料としては、MnおよびGaを含むMnGa合金であり、その組成比がMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)である。Mnの組成を調整することにより飽和磁化、結晶磁気異方性の制御をすることが可能である。また、MnGa合金は高スピン分極率を有するため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
【0031】
一般に、磁気摩擦定数は材料のスピン軌道相互作用の大きさと相関があり、原子番号の大きな材料ではスピン起動相互作用が大きく、磁気摩擦定数も大きい。MnGaは軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済むため、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できる。
【0032】
(下地層100)
下地層100は、強磁性層2および強磁性層2より上の層の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性を制御するために用いられる。そのため、下地層100の材料の選択が重要となる。以下に下地層100の材料および構成について説明する。
【0033】
まず、下地層100の第1の例としては、(001)配向したNaCl構造を有し、かつTi、Zr、Nb、V、Hf、Ta、Mo、W、B、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層である。
【0034】
下地層100の第2の例としては、ABO
3からなる(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の単層である。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baのうちから選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbのうちから選択され少なくとも一つの元素を含む。
【0035】
下地層100の第3の例としては、(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層である。
【0036】
下地層100の第4の例としては、正方晶構造または立方晶構造を有し(001)配向し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Auの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層である。
【0037】
下地層100の第5の例としては、例えば
図7に示すように、第1乃至第3の例のいずれかの層100a上に、第4の例の層100bを積層した積層構造を有している。
図8にMgO基板上に下地層として膜厚が2.5nmのMgOを挿入し作成した、膜厚5nmのTa/膜厚が30nmのMn
75Ga
25/膜厚が2.5nmのMgO/MgO基板の磁化曲線の一例を示す。VSM評価から垂直方向の保磁力が約5kOeと大きな垂直磁気特性が得ることができた。
【0038】
しかし、面内方向と垂直方向の磁化ループ形状がほぼ等しかった。Mn
75Ga
25の磁化容易軸はc軸(001)方向である。膜の結晶性は向上しているものの、個々の結晶粒はランダムに結晶配向することで磁化容易軸もランダムな方向に向くため膜全体で磁気特性を評価した場合に、垂直方向と面内方向で違いが観測できなかったと考えられる。次に
図9にMgO基板上に下地層として2層積層構造を有する膜厚が1nmのCr/膜厚が2.5nmのMgOを挿入し作成した、膜厚が5nmのTa/膜厚が30nmのMn
75Ga
25/膜厚が1nmのCr/膜厚が2.5nmのMgO/MgO基板の磁化曲線の一例を示す。VSM評価から垂直方向の保磁力が約10kOe、面内方向の保磁力が約3.7kOeと膜面に対して垂直優勢であることが確認できた。さらにMgO単層下地の試料に比べ垂直方向の保磁力も増大している。Crを積層させることによりMgO表面エネルギーが低減し、且つMn
75Ga
25とのミスフィットが低減されMn
75Ga
25が結晶性良く成長し、結晶配向の分布が抑えられたと考えられる。この傾向はMn
xGa
100−x(45≦x<64atm%)でも同様で、このように下地層の構成を工夫することによりMnGaの成長を制御でき磁気特性の改善が可能となる。このほかにも下地層として2層積層される例として例えば、Ag/MgO、Ag/TiN、TiN/MgO、Cr/MgO、Cr/TiN、Cr/VN、Cr/NbN、Pt/MgO、Pt/TiN、Pt/VN、Pt/NbN、Ir/MgO、Ir/TiN、Ir/VN、Ir/NbN、などが挙げられる。同様に下地層として3層以上積層されることでも同様な効果が得られる。下地層として3層以上積層される例として例えば、Cr/Fe/MgO、Cr/Fe/TiN、Ag/Fe/MgO、Cr/TiN/MgO、Ag/Cr/MgO、Cr/VN/MgO、Cr/NbN/MgO、Pt/TiN/MgO、Pt/VN/MgO、Pt/NbN/MgO、Ir/TiN/MgO、Ir/VN/MgO、Ir/NbN/MgO、Cr/Pt/VN/MgO、Cr/Pt/NbN/MgO、Cr/Pt/TiN/MgO、などが挙げられる。
【0039】
(界面磁性層3および界面磁性層9)
界面磁性層3および界面磁性層9は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する。界面磁性層3および界面磁性層9に用いられる材料としては、例えばMnおよびAlからなる合金が挙げられる。MnAl合金は軽元素で構成されている材料であるため磁気摩擦定数が小さい。したがって磁化反転に必要なエネルギーが少なくて済むため、スピン偏極した電子によって磁化を反転させるための電流密度を大幅に低減できる。また、MnAl合金は(001)方向に上向きスピン、或いは下向きスピンのどちらか一方のスピンバンドに対してエネルギーギャップが存在するためにハーフメタリックな特性を持ち、高スピン分極率を有し、これにより大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
【0040】
(強磁性層8)
強磁性層8は膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する。強磁性層8に用いられる材料としては、例えば、面心立方構造(FCC)の(111)あるいは六方最密充填構造(HCP)の(001)に結晶配向した金属、または人工格子を形成しうる金属が用いられる。FCCの(111)あるいはHCPの(001)に結晶配向した金属としては、Fe、Co、Ni、およびCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、CoPd、CoPt、NiCo、或いはNiPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0041】
また、強磁性層8に用いられる人工格子としては、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素あるいはこの1つの元素を含む合金(強磁性膜)と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうち1つの元素あるいはこの1つの元素を含む合金(非磁性膜)と、が交互に積層された構造が挙げられる。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等が挙げられる。これらの人工格子は、強磁性膜への元素の添加、強磁性膜と非磁性膜の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0042】
また、強磁性層8に用いられる材料としては、遷移金属Fe、Co、Niの群と、希土類金属Tb、Dy、Gdの群からそれぞれ選択された少なくとも1つの元素を含む合金が挙げられる。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等が挙げられる。また、これらの合金を交互に積層された多層構造であってもよい。具体的にはTbFe/Co、TbCo/Fe、TbFeCo/CoFe或いはDyFe/Co、DyCo/Fe、DyFeCo/CoFeなどの多層膜が挙げられる。これらの合金は、膜厚比や組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
【0043】
また、強磁性層8に用いられる材料としては、Fe、Co、Ni、およびCuからなる第1のグループから選ばれる1つ以上の元素と、Pt、Pd、Rh、およびAuからなる第2のグループから選ばれる1つ以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、FeRh、FePt、FePd、CoPtなどの強磁性合金が挙げられる。
【0044】
(界面磁性層6)
磁気抵抗素子の磁気抵抗比を上げるために、MgOのトンネルバリア層に隣接する界面磁性層には高スピン分極率を有する材料が用いる。例えば界面磁性層6は、Fe、Coの群から選択された少なくとも一つの金属よりなる合金が望ましい。このとき、例えば、CoFeからなる界面磁性層、MgOからなる非磁性層、CoFeからなる界面磁性層とした場合に、CoFe(001)/MgO(001)/CoFe(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。この場合、トンネル電子の波数選択性を向上させることができるため、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。
【0045】
なお、界面磁性層6がMgOに対して(001)配向でエピタキシャル成長していれば大きな磁気抵抗比を得ることができるので、MgOである非磁性層4と接する界面磁性層6は膜面に垂直方向に伸び縮みしていてもよい。
【0046】
また、界面磁性層6の飽和磁化を制御するために、界面磁性層6に、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、Mn、Geの群から選択された少なくとも1つの元素を添加してもよい。すなわち、界面磁性層6はFe、Coの群から選択された少なくとも1つの元素と、Ni、B、C、P、Ta、Ti、Mo、Si、W、Nb、MnおよびGeの群から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金であってもよい。例えば、CoFeBの他に、CoFeSi、CoFeP、CoFeW、CoFeNb等が挙げられ、これらの合金は、CoFeBと同等のスピン分極率を有している。またCo
2FeSi、Co
2MnSi、Co
2MnGe等のホイスラー金属でもよい。ホイスラー金属はCoFeBと同等かあるいはより高いスピン分極率を有しているため界面磁性層の適している。
【0047】
(非磁性層4)
非磁性層4は絶縁材料からなり、したがって、非磁性層4としては、トンネルバリア層が用いられる。トンネルバリア層の材料としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)およびチタン(Ti)からなるグループから選ばれる少なくとも1つの元素を主成分とする酸化物が挙げられる。具体的には、MgO、AlO、ZnO、SrO、またはTiOが挙げられる。トンネルバリア層は、上述の酸化物のグループから選ばれる2つ以上の材料の混晶物あるいはこれら積層構造であってもよい。混晶物の例としては、MgAlO、MgZnO、MgTiO、MgCaOなどである。二層積層構造の例としてはMgO/ZnO、MgO/AlO、TiO/AlO、MgAlO/MgOなどが挙げられる。三層積層構造の例としてはAlO/MgO/AlO、ZnO/MgO/ZnOなどが挙げられる。なお、記号「/」の左側が上層を示し、右側が下層を示している。
【0048】
トンネルバリア層は、結晶質およびアモルファスのいずれであっても構わない。しかし、トンネルバリア層が結晶化している場合、トンネルバリア中での電子の散乱が抑制されるため電子が強磁性層から波数を保存したまま選択的にトンネル伝導する確率が増え、磁気抵抗比を大きくすることができる。したがって大きな磁気抵抗比を得るという観点においては結晶質トンネルバリアの方が望ましい。
【0049】
例えば、MnGaからなる強磁性層、結晶質MgOからなる非磁性層、MnGaからなる強磁性層がこの順序で積層された積層構造とした場合に、MnGa(001)/MgO(001)/MnGa(001)のエピタキシャル関係を作ることができる。これにより、トンネル電子の波数選択性を向上させることができ、大きな磁気抵抗比を得ることが可能となる。しかし、MnGaとMgOの膜面内方向におけるバルクの格子定数から格子ミスマッチを求めると約7.7%と大きい。格子ミスマッチは以下の式で定義される。(a(MgO)-a(MnGa))/a(MnGa)×100。ここでa(MgO)、a(MnGa)はそれぞれ膜面内方向のMnGaおよびMgOの格子定数である。格子ミスマッチが大きいと格子歪による界面エネルギーを低減させるために界面に転移などが生成される。その場合、結晶粒の間でエピタキシャル関係が成立し、膜面内にわたって均一にエピタキシャル成長させることは困難である。素子に電流を流すと転移が電子の散乱源になるために磁気抵抗比は低減されてしまう。したがって、転移を発生させず膜面内に均一にエピタキシャル成長させるためにはより格子ミスマッチが小さい材料で積層させることが重要である。そのため非磁性層としてMgAlOを用い、MnGa(001)/MgAlO(001)/MnGa(001)を構成する。これによりMnGaとの格子ミスマッチは3.5%まで低減できるのでより大きな磁気抵抗比が得られる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例として、具体的な垂直磁化MTJ素子の積層構造を説明する。下記の磁気抵抗膜(サンプル)を形成し、第1乃至第5実施形態のいずれかの垂直磁化MTJ素子を作成した。各層の後に括弧書きで示した数値は、成膜時の各層の厚さ(設計値)である。それぞれのサンプルは、成膜後に、TMR特性および磁気特性が最適化されるように、適切な温度および時間で真空アニールが施される。
【0051】
(実施例1)
実施例1の垂直磁化MTJ素子として、
図1に示す第1実施形態による垂直磁化を有するMTJ素子1を作成する。この実施例1によるMTJ素子1は、MgO単結晶基板(図示せず)上に、下地層100、強磁性層2、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。ここでは強磁性層2として膜厚が20nmのMnGaを用いる。強磁性層2は膜面の垂直方向に磁化容易軸を有し磁化の方向が可変である記憶層となる。強磁性層8として膜厚が16nmのTbCoFeを用いる。強磁性層8は膜面の垂直方向に磁化容易軸を有し磁化の方向が不変である参照層となる。また、界面磁性層6は膜厚が1nmのCo
60Fe
20B
20を用いる。非磁性層4としてMgAlOからなるトンネルバリア層を用いる。
【0052】
垂直MTJの膜面垂直方向に磁場を掃引しながら室温で電気抵抗値を測定した。その結果、記憶層と参照層の磁化配列が平行、反平行時の電気抵抗変化率は27%である。
【0053】
(実施例2)
実施例2の垂直磁化MTJ素子として、
図3に示す第2実施形態による垂直磁化MTJ素子1Aを作成した。この実施例2によるMTJ素子1Aは、MgO単結晶基板(図示せず)上に、下地層100、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層6、および強磁性層8がこの順序で積層された構造を有している。
【0054】
ここでは強磁性層1として膜厚が20nmのMnGa、界面磁性層3として膜厚が20nmのMnAl、界面磁性層6として膜厚が1nmのCo
60Fe
20B
20、強磁性層8として膜厚が16nmのTbCoFeを用いる。また、非磁性層4としてMgAlOからなるトンネルバリア層を用いる。
【0055】
垂直MTJの膜面垂直方向に磁場を掃引しながら室温で電気抵抗値を測定した。その結果、記憶層と参照層の磁化配列が平行、反平行時の電気抵抗変化率は43%である。
【0056】
(実施例3)
実施例3の垂直磁化MTJ素子として、
図4に示す第3実施形態による垂直磁化MTJ素子1Bを作成する。この実施例3によるMTJ素子1Bは、MgO単結晶基板(図示せず)上に、下地層100、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層(トンネルバリア層)4、および強磁性層10がこの順序で積層された構造を有している。ここでは強磁性層2として膜厚が20nmのMn
50Ga
50、界面磁性層3として膜厚が20nmのMnAl、強磁性層10として膜厚が50nmのMn
64Ga
36を用いる。また、非磁性層4としてMgOからなるトンネルバリア層を用いる。
【0057】
垂直MTJの膜面垂直方向に磁場を掃引しながら室温で電気抵抗値を測定した。その結果、記憶層と参照層の磁化配列が平行、反平行時の電気抵抗変化率は23%である。
【0058】
(実施例4)
実施例4の垂直磁化MTJ素子として、
図5に示す第4実施形態による垂直磁化MTJ素子1Cを作成する。この実施例4によるMTJ素子1Dは、MgO単結晶基板(図示せず)上に、下地層100、強磁性層2、界面磁性層3、非磁性層4、界面磁性層9、および強磁性層10がこの順序で積層された構造を有している。
【0059】
ここでは強磁性層2として膜厚が20nmのMn
50Ga
50、界面磁性層3として膜厚が20nmのMnAl、界面磁性層9として膜厚が20nmのMnAl、強磁性層10として膜厚が50nmのMn
64Ga
36を用いる。また、非磁性層4としてMgOからなるトンネルバリア層を用いる。
【0060】
垂直MTJの膜面垂直方向に磁場を掃引しながら電気抵抗値を測定する。その結果、記憶層と参照層の磁化配列が平行、反平行時の電気抵抗変化率は19%である。
【0061】
以上説明したように、各実施形態および各実施例によれば、垂直磁気異方性を有するとともにより大きな磁気抵抗効果を発現することが可能な磁気抵抗素子を得ることができる。
【0062】
(第6実施形態)
第1乃至第5実施形態のMTJ素子1、1A、1B、1C、1Dは、MRAMに適用できる。以下では、説明を簡単にするために、第1実施形態のMTJ素子1を用いた場合について説明する。
【0063】
MRAMを構成する記憶素子は、磁化(或いはスピン)方向が可変である(反転する)記録層、磁化方向が不変である(固着している)参照層、これら記録層および参照層に挟まれた非磁性層を備えている。「参照層の磁化方向が不変である」とは、記録層の磁化方向を反転するために使用される磁化反転電流を参照層に流した場合に、参照層の磁化方向が変化しないことを意味する。膜面の垂直方向に磁化容易軸を有する2つの強磁性層の一方を記録層、他方を参照層として用いることで、MTJ素子を記憶素子として用いたMRAMを構成することができる。
【0064】
具体的には、2つの強磁性層に保磁力差を設けることで、これらを記録層および参照層として用いることができる。従って、MTJ素子において、一方の強磁性層(参照層)として反転電流の大きな強磁性層を用い、他方の強磁性層(記録層)として、参照層となる強磁性層よりも反転電流の小さい強磁性層を用いることによって、磁化方向が可変の強磁性層と磁化方向が不変の強磁性層とを備えたMTJ素子を実現することができる。
【0065】
図10は、第4実施形態によるMRAMの構成を示す回路図である。この実施形態のMRAMは、マトリクス状に配列されたメモリセルを有し、各メモリセルは、MTJ素子1を備えている。各MTJ素子1の一端は、ビット線BLに電気的に接続される。ビット線BLの一端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST1を経由してセンスアンプSAに電気的に接続される。センスアンプSAは、MTJ素子1からの読み出し電位Vrと参照電位Vrefとを比較し、この比較結果を出力信号DATAとして出力する。センスアンプSAに電気的に接続された抵抗Rfは、帰還抵抗である。
【0066】
ビット線BLの他端は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST2を経由して、PチャネルMOSトランジスタP1のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN1のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP1のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN1のソースは、接地端子Vssに接続される。
【0067】
各MTJ素子1の他端は、下部電極29に電気的に接続される。下部電極29は、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3を経由してソース線SLに電気的に接続される。なお、ソース線SLはビット線BLと平行な方向に延在する。
【0068】
ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST4を経由して、PチャネルMOSトランジスタP2のドレイン及びNチャネルMOSトランジスタN2のドレインに電気的に接続される。MOSトランジスタP2のソースは、電源端子Vddに接続され、MOSトランジスタN2のソースは、接地端子Vssに接続される。また、ソース線SLは、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST5を経由して接地端子Vssに接続される。
【0069】
MOSトランジスタST3のゲートは、ワード線WLに電気的に接続される。ワード線WLは、ビット線BLが延在する方向に対して交差する方向に延在する。
【0070】
MTJ素子1へのデータ書き込みは、スピン注入書き込み方式によって行われる。すなわち、制御信号A、B、C及びDによるMOSトランジスタP1、P2、N1及びN2のオン/オフによりMTJ素子1に流れる書き込み電流の向きを制御し、データ書き込みを実現する。
【0071】
MTJ素子1からのデータ読み出しは、MTJ素子1に読み出し電流を供給することで行われる。この読み出し電流は、書き込み電流よりも小さい値に設定される。MTJ素子1は、磁気抵抗効果により、参照層と記録層との磁化方向が平行配列か反平行配列かで異なる抵抗値を有する。すなわち、参照層と記録層との磁化方向が平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も小さくなり、一方、参照層と記録層との磁化方向が反平行配列のときはMTJ素子1の抵抗値は最も大きくなる。この抵抗値の変化をセンスアンプSAによって検出することで、MTJ素子1に記録された情報を読み出す。
【0072】
図11は、上記メモリセルを示す断面図である。P型半導体基板21内には、STI(shallow trench isolation)構造の素子分離絶縁層22が形成される。素子分離絶縁層22に囲まれた素子領域(活性領域)には、選択スイッチとしてのNチャネルMOSトランジスタST3が設けられている。MOSトランジスタST3は、ソース/ドレイン領域としての拡散領域23及び24と、拡散領域23及び24間のチャネル領域の上に設けられたゲート絶縁膜25と、ゲート絶縁膜25上に設けられたゲート電極26とを有する。ゲート電極26は、
図10に示すワード線WLに相当する。
【0073】
拡散領域23上には、コンタクトプラグ27が設けられている。コンタクトプラグ27上には、ソース線SLが設けられている。拡散領域24上には、コンタクトプラグ28が設けられている。コンタクトプラグ28上には、下部電極29が設けられている。下部電極29上には、MTJ素子1が設けられている。MTJ素子1上には、上部電極30が設けられている。上部電極30上には、ビット線BLが設けられている。半導体基板21とビット線BLとの間は、層間絶縁層31で満たされている。
【0074】
以上、第1乃至第5実施形態の磁気抵抗素子の適用例をMRAMについて説明したが、第1乃至第5実施形態の磁気抵抗素子は、それ以外にもTMR効果を利用するデバイス全般に適用できる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。