(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伝達媒体の一端部に吸盤が一体的に形成され、前記伝達媒体は、前記外殻体に対してその外側から前記吸盤を吸着させるようにして固定されている、請求項2記載の水中通信システム。
前記伝達媒体の他端部に吸盤が一体的に形成され、前記伝達媒体は、前記第二の密閉構造体の外殻体に対してその外側から前記吸盤を吸着させるようにして固定されている、請求項11記載の水中通信システム。
【背景技術】
【0002】
一般に水中では、電波は距離の増大と共に著しく減衰することが知られている。
【0003】
このため、水中における通信のシステムについては、従来から種々の提案がなされていた。
【0004】
電波は水中で減衰する性質を有するため、従前においては電波に代えて超音波や光を利用した通信システムが多く提案されている。
【0005】
超音波や光は水中においても減衰が電波ほどは著しくないため、超音波や光による通信システムおよび通信方法によれば、水中においても通信が可能となった。
【0006】
一方、電波を利用した水中通信システムも提案されている。
【0007】
電波を水中の通信に利用する場合、水による減衰を排除するため、通信装置間に有線の電気通信ケーブルを配置することが一般的に行われている。
【0008】
しかし、有線の通信ケーブルは取り扱いが不便であり、その不便さを避けるため、通信装置間に空気の通路を形成することも提案されていた(特開平11−355219号公報)。
【0009】
あるいは、同様に有線の通信ケーブルの不便さを避ける目的で、通信装置間に自走式の中継装置を設ける提案もされていた(特開2001−308766号公報)。
【0010】
ところで、水中で種々の作業を行う無人の自律型水中ロボットは従来から種々提案されている。
【0011】
一般的に、電池や制御装置やカメラ等の機器は、水に濡れると機能障害をきたす性質(非耐水性)を有しているため、初期の頃の水中ロボットは、共通の耐圧耐水の容器内(船体内)に全部の非耐水性の機器を収納し、必要な所から作業用のアームや推進装置を突出させる構造としていた。
【0012】
しかし、推進装置などは複数個距離をおいて配置することが必要であるため、全部の機器を収納する共通の耐圧耐水容器は大型化せざるを得ず、容器内に無駄な空間を含まざるを得ないという問題があった。
【0013】
そこで、次に開発・提案されたのがモジュール化された水中ロボットである。
【0014】
このモジュール化された水中ロボットは、作業装置と電源装置と制御装置などの単機能モジュールを可能な限り独立のユニットとして構成し、制御装置によって水中ロボットとしての全体の作動を統制・制御するというものであった。
【0015】
独立ユニットの構造はそれぞれの単機能モジュールを小型の耐圧耐水ケースに格納し、必要な所に配置し、各耐圧耐水ケース同士は耐圧防水ケースに設けられたコネクタにケーブルを接続することによって通信可能なように構成していた。ケーブルによって各単機能モジュールが通信し合うことにより、各独立ユニットが機能的に連携して作動するようにしていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
超音波や光通信を利用した水中通信システムおよびその方法は、水による減衰を受けることが少ないため、確かに水中の通信には好適であるといえる。
【0018】
しかし、通常の通信装置は、電気信号による通信が一般的であるため、電気信号を超音波や光信号に置き換えることは付加的な処理や装置を要するようになる。
【0019】
すなわち、電気信号による通信は、従来から種々の手法やプロトコルが確立しており、情報処理装置で生成した電気信号のやりとりは、電気信号のままで通信できれば、きわめて便利かつ好都合である。
【0020】
これに対して、超音波や光通信による方法は、情報処理装置で生成した電気信号を超音波や光通信による通信信号に置き換える必要があり、そのための変換器を介在して通信することになり、通信システムの複雑化を避けることは困難である。
【0021】
一方、電気信号のままで通信を行うため、有線の電気通信ケーブルを使用することも考えられるが、電気通信ケーブルはその末端で通信機器と接続して電気信号を伝達可能にする必要がある。情報処理装置が無線を利用する場合は、前記通信機器で無線に変換して情報処理装置に送信する必要がある。
【0022】
自走式の中継装置を設ける場合は、常に中継装置を適当な場所に移動させることが必要となり、取り扱いが困難であり、且つ、システムが複雑かつ大がかりなものになってしまう問題があった。
【0023】
水中に空気の通路を形成し、その空気の通路を通して無線通信する方法も提案されているが、水中に空気の通路を形成することは困難であった。
【0024】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、水中において、情報処理装置間で電気信号のままで通信でき、かつ、有線の電気通信ケーブルに比して、取り扱いが容易であり、構造が単純・安価な水中通信システムを提供することにある。
【0025】
また、本発明が解決しようとするもう一つの課題は、深海で活動する船艇等の密閉構造体の構造的強度を損なうことなく、前記密閉構造体との送受信を実現することにある。
【0026】
なおここで、「密閉構造体」とは深海艇や潜水艦や水中作業ロボットを含めて、水面下で活動する密閉構造の機器を指す。
【0027】
深海中における密閉構造体は、高い圧力を受けるため、その外殻体には可能な限り穴を開けないことが好ましい。
【0028】
有線の電気通信ケーブルを利用して水中の通信を行う場合は、該電気通信ケーブルを通信機器に接続するため、必要不可避的に前記密閉構造体の外殻体に穴を開ける必要がある。
【0029】
すなわち、密閉構造体の外殻体に通信機器を取り付けて電気通信ケーブルをその通信機器に接続する場合でも、密閉構造体の外殻体を貫通して密閉構造体内の通信機器に電気通信ケーブルを接続する場合でも、密閉構造体の外殻体に穴を開ける必要がある。
【0030】
しかし、特に深海で活動する密閉構造体の外殻体は、水圧に耐えるために、可能な限り穴を開けないことが好ましい。深海に限られず、圧力がかからない場合でも、水密構造のためには可能な限り外殻体に穴を開けないことが好ましいことは明らかである。
【0031】
このため、密閉構造体の外殻体に穴を開けることがない水中通信システムの開発が待たれていた。
【0032】
そこで、本発明が解決しようとするもう一つの課題は、水中で活動することを目的とする密閉構造体の外殻体に穴を開けることがない水中通信システムを提供することにある。
【0033】
ところで、上述した従来のモジュール化された水中ロボットは、耐圧耐水ケース同士は耐圧防水ケースに設けられたコネクタを介してケーブルで接続されていたが、ケーブルによる接続には種々の問題があった。
【0034】
まず、耐圧防水ケースにコネクタを設けるということは、耐圧防水ケースに穴を開けざるを得ないということであり、耐圧や耐水を求める耐圧防水ケースにとって本質的な短所になっていた。
【0035】
コネクタを設ける場合、耐圧防水ケースが構造的な継ぎ目を有するようになるため、耐圧性能や耐水性能の低下を防止する対策をとらざるを得なかった。コネクタを設けずにケーブルを貫通させる場合も同様である。継ぎ目の耐圧耐水の構造は複雑でありそれらの加工の手間も煩雑であった。
【0036】
また、従来のモジュール化された水中ロボットは、各独立ユニットをケーブルで接続するため、単機能モジュールを交換することが困難であった。単機能モジュールを交換する必要性は以下の理由による。
【0037】
水中ロボットは、一つの水中ロボットで種々の作業をこなせる方が好ましい。
【0038】
なお、本明細書にいう水中ロボットの「作業」とは、他のものに外的な作用を及ぼしてその状態を変化させる場合のみならず、他のものに外的な作用を及ぼさずにデータのみを収集する場合の双方を含む。
【0039】
一つの水中ロボットに種々の作業をこなす種々のツールを恒久的に搭載すると、水中ロボットが大型化したり、運動性能が低下したりする。
【0040】
そこで、モジュール化された水中ロボットでは、モジュール化されているという利点を生かして作業目的に応じてツールを交換し、大型化や運動性能低下を防止することが考えられる。
【0041】
しかし、従来のモジュール化された水中ロボットでは、独立ユニット同士がケーブルによって接続されているため、交換のための作業が繁雑であり、迅速なユニット交換、たとえばツール等の交換が困難であった。
【0042】
電源装置についても、従来は電源装置はパワーケーブルで各独立ユニットに接続されているため、電源装置の交換が困難であった。
【0043】
電源装置は水中ロボットの水中での作業時間に応じて積み替えたり、充電のために積み替えたりすることが比較的頻繁である。このため、電源装置は簡単に交換できることが好ましい。むろん、交換が容易になるように電源装置の配線は配慮されているが、水分を嫌うこともあって、交換が困難であり、さらなる改良が待たれていた。
【0044】
一方、上記ケーブルによる接続の欠点を考え、無線によるモジュール間の通信が考えられる。
【0045】
しかし、電波は水中で著しく減衰する性質を有している。発明者らの実験によれば、30mm程度の距離を離すと、モジュール間で無線による通信は不能になってしまう。
【0046】
このため、水中では電波に代えて超音波や光を利用した通信システムが多く提案されていた。しかし、制御は一般的には電気信号によって行うため、メディアの変換を伴わない電気通信が好ましい。
【0047】
そこで、本発明のさらなる目的は、上記従来の水中ロボットが有する課題を解決し、無線による通信を実現することにより、結線のない完全な独立ユニットを構成することができるようにし、耐圧・耐水に優れ、且つ、各モジュールの交換が容易な水中ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0048】
本発明による水中通信システムは、
水密構造の外殻体を有し、かつ水中に配置される密閉構造体と、
前記密閉構造体内に配置された無線送信可能な送信手段と、
前記外殻体の外側に一端部を接触させた非導電性の伝達媒体と、
前記送信手段から無線により送信され、前記密閉構造体の外殻体および前記伝達媒体によって伝達された電気信号を、前記外殻体から遠位の前記伝達媒体の他端部から受信する受信手段と、
を備える。
【0049】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体の一端部は、前記密閉構造体の外殻体に穴を開けることなく、前記外殻体に固定されていてもよい。
【0050】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体の一端部に吸盤が一体的に形成され、前記伝達媒体は、前記外殻体に対してその外側から前記吸盤を吸着させるようにして固定されていてもよい。
【0051】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体は、前記一端部の端面全体で前記密閉構造体の外殻体に密着していてもよい。
【0052】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体は、可撓性を有し、前記外殻体に密着するように前記外殻体の外側の形状に応じて変形していてもよい。
【0053】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記密閉構造体の外殻体のうち少なくとも前記伝達媒体と接触する部分は、非導電性の材料からなるようにしてもよい。
【0054】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記非導電性の材料は、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミックからなるようにしてもよい。
【0055】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記電気信号を受信するところの前記伝達媒体の他端部は、水面から突出し、
前記送信手段から送信された電気信号は、前記水面から突出した前記伝達媒体の他端部の近傍に設けられた無線受信可能な受信手段によって受信されるようにしてもよい。
【0056】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記受信手段は、水密構造の外殻体を有し、かつ水中に配置される第二の密閉構造体の内部に格納され、
前記伝達媒体の他端部は、前記第二の密閉構造体の外殻体の外側に接触しているようにしてもよい。
【0057】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体の他端部は、前記第二の密閉構造体の外殻体に穴を開けることなく、前記外殻体に固定されているようにしてもよい。
【0058】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体の他端部に吸盤が一体的に形成され、前記伝達媒体は、前記第二の密閉構造体の外殻体に対してその外側から前記吸盤を吸着させるようにして固定されているようにしてもよい。
【0059】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体は、前記他端部の端面全体で前記第二の密閉構造体の外殻体に密着しているようにしてもよい。
【0060】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体は、可撓性を有し、前記第二の密閉構造体の外殻体に密着するように前記外殻体の外側の形状に応じて変形しているようにしてもよい。
【0061】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記第二の密閉構造体の外殻体のうち少なくとも前記伝達媒体と接触する部分は、非導電性の材料からなるようにしてもよい。
【0062】
また、前記水中通信システムにおいて、
前記伝達媒体は、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミックからなるようにしてもよい。
【0063】
本発明による水中ロボットは、
少なくとも作業装置と制御装置を含む単機能モジュールをそれぞれ耐圧防水ケースに格納した複数の独立ユニットと、
前記独立ユニットを着脱可能に取り付けることができるシャシーと、
前記独立ユニットの耐圧防水ケースに穴を開けることなく、前記耐圧防水ケースの外側に接触固定させることにより複数の独立ユニットを接続する非導電性の伝達媒体と、を有し、
前記独立ユニットは、それぞれの単機能モジュールの他に、送受信可能な通信手段と、前記単機能モジュールおよび前記通信手段に電力を供給する電池とを内蔵し、
前記制御装置を格納した独立ユニットの通信手段と、他の単機能モジュールを格納した独立ユニットの通信手段とを介して通信をすることにより、制御装置が他の単機能モジュールを制御して水中ロボットとしての全体の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0064】
また、前記水中ロボットにおいて、
電源装置を格納した独立ユニットを有し、
前記単機能モジュールを有する他の独立ユニットは、それぞれの単機能のモジュールの他に、送受信可能な通信手段と、電力伝達レシーバーと、充電可能な充電池とを内蔵し、
前記電源装置が変動磁界を生成し、前記独立ユニットの電力伝達レシーバーが前記変動磁界を電力に変換し、直接あるいは前記充電池を介して各単機能モジュールに電力を供給するようにしてもよい。
【0065】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記電源装置は、水中ロボットの作業時間や負荷に応じて積み増し可能に複数のユニットに構成されているようにしてもよい。
【0066】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記シャシー自体が非導電性材料からなり、前記伝達媒体の機能を兼ねて各独立ユニット間の電気信号を伝達するようにしてもよい。
【0067】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記シャシーは、合成樹脂、ゴム、ガラスまたはセラミックからなるようにしてもよい。
【0068】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記制御装置を格納した独立ユニットは、異なる作業目的のための制御プログラムを搭載した他の独立ユニットに交換可能であり、該作業目的に応じて他の単機能モジュールが交換可能であるようにしてもよい。
【0069】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記伝達媒体または前記シャシーは、電気信号を受信し増幅して送信する中継手段を有してもよい。
【0070】
また、前記水中ロボットにおいて、
前記伝達媒体は、合成樹脂、ゴム、ガラスまたはセラミックからなるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0071】
本発明の水中通信システムによれば、送信手段は密閉構造体の内部に配置され、送信手段から無線により電気信号を送信することにより、電気信号が密閉構造体の外殻体と伝達媒体を伝わり、伝達媒体の他端部で受信手段によって受信される。
【0072】
このように本発明によれば、電気信号を電気信号のまま送信でき、超音波や光通信の方法に比して電気信号を超音波や光信号に変換する必要がなく、変換器等を省略でき、構造が単純なシステムを実現することができる。
【0073】
また、電気通信の既存のプロトコルを利用することができるため、使用しやすい水中通信システムを実現することができる。
【0074】
さらなる利点として、本発明の水中通信システムは、送信手段は無線で電気信号を送信することができるため、一般に広く利用されている無線通信ネットワークのシステムを利用することができるという点があげられる。
【0075】
すなわち、コンピュータなど最近の情報処理装置は、無線LANの通信手段を内蔵していることが多く、このような情報処理装置を利用する場合、ケーブルを接続することなく前記情報処理装置を密閉構造体内に配置し、無線LANの通信手段を利用して情報処理の結果を無線で送信すれば、通信を行うことができる。
【0076】
前記受信手段についても、無線LANの通信手段を内蔵した情報処理装置を利用すれば、前記伝達媒体の他端部の近傍に設置することにより、通常の無線LANのように前記電気信号を受信することができる。つまり、無線LANの内蔵のコンピュータ同士で、そのまま通信を行うことができる。
【0077】
本発明の水中通信システムのもう一つの利点は、密閉構造体の外殻体に穴を開けることなく、外殻体の外側に伝達媒体の一端部を接触させることにより、密閉構造体内の送信手段から無線で送信された電気信号を外部に伝達することができるということである。
【0078】
これを一般の電気通信ケーブルと比較すると、電気通信ケーブルはその末端で外殻体に取り付けられた通信機器に接続するか、外殻体を貫通して密閉構造体内の通信手段に接続する必要がある。
【0079】
上記いずれの場合においても、有線の電気通信ケーブルでは外殻体の一部に構造的な継ぎ目が生じることになり、水密状態を維持する点でも、耐圧強度を維持する点でも好ましくない。
【0080】
これに対して本発明によれば、密閉構造体の外殻体に穴を開ける必要がない。このことは、水中に配置される密閉構造体の水密状態を確保するのにきわめて好都合である。
【0081】
特に、深海に配置される密閉構造体では、構造的な継ぎ目がなく、耐圧にすぐれた外殻体を形成することが容易である。
【0082】
なお、本発明は継ぎ目のある外殻体に対しても適用可能である。外殻体として、金属などの導電体からなり、一部に穴が開けられ、その穴に非導電性の部材が嵌め込まれたものであってもよい。例えば、金属容器の一部に窓が設けられた外殻体であってもよい。このような外殻体であっても、本発明によれば、窓に非導電性の伝達媒体を接触させることで水中通信を行うことができる。
【0083】
本発明の水中通信システムのもう一つの利点は、弾性および可撓性を有する伝達媒体を使用して通信できるようになることである。
【0084】
また、本発明によれば、電気通信ケーブルのような被覆材や芯材等の構造がなく、単純な構造の伝達媒体を用いることができる。
【0085】
また、伝達媒体は、一定の耐水性、弾性および可撓性を有する材料を用いて構成可能であるため、水中の使用にきわめて好適な伝達媒体を得ることができる。
【0086】
また、本発明の水中ロボットでは、各単機能モジュールが耐圧防水ケースに格納されて複数の独立ユニットが形成されている。各独立ユニットは共通のシャシーに着脱可能に取り付けられている。各独立ユニットは、耐圧防水ケースの壁体に穴を開けることなく耐圧防水ケースの外側に接触固定された非導電性の伝達媒体によって、他の独立ユニットに接続されている。
【0087】
さらに、独立ユニットは送受信可能な通信手段と電池を有し、制御装置が前記通信手段により他の単機能モジュールと無線で通信し、全体として水中ロボットとして作動するように制御を行う。
【0088】
このように、本発明の水中ロボットによれば、伝達媒体により各単機能モジュールが無線によって他の単機能モジュールと通信できるようになる。このため、単機能モジュールを格納する耐圧防水ケースは電気通信ケーブルのために穴を開けることなく、無線によって単機能モジュール間の通信を実現できる。
【0089】
耐圧防水ケースは電気通信ケーブルのための構造的な継ぎ目を設ける必要がない。このため、本発明によれば、各独立ユニットは耐圧性能や耐水性能を高く維持することができる。非耐水性の機器を保持して水面下で活動するように設計された水中ロボットにとって、好適な機能・特質を得ることができる。
【0090】
また、本発明によれば、無線によって通信を行うことにより、各独立ユニットの交換可能性が著しく改善される。
【0091】
本発明の水中ロボットによれば、各独立ユニットが電気通信ケーブルによって結線されていないため、各独立ユニットの交換に際して、ケーブルの接続解除や再接続がなく、独立ユニットの交換がきわめて容易になる。
【0092】
この場合、各独立ユニットに動力用の電池を内蔵する場合は交換容易であることは言うまでもない。各独立ユニットに充電可能な電池を内蔵している場合も、本発明の一態様によれば、電源装置と各独立ユニットの間を無線によって電力を供給することができる。
【0093】
この態様の水中ロボットは、電源装置を格納した独立ユニットを有し、各独立ユニットは、それぞれの単機能モジュールと通信手段の他に、電力伝達レシーバーと、充電可能な電池とを内蔵している。
【0094】
上記構成において、電源装置が変動磁界を生成することにより、他の独立ユニットの電力伝達レシーバーがその変動磁界を電力に変換し、電池を充電し、あるいは直接的に各単機能モジュールに電力を供給する。
【0095】
従来においては、電源装置はパワーケーブルで各独立ユニットに接続されていたため、電源装置や独立ユニットの交換が困難であった。
【0096】
無線で電力を供給する本発明の態様によれば、パワーケーブルで接続されていないことにより独立ユニットの交換が容易であることは言うに及ばず、電源装置を格納する独立ユニットの交換もきわめて容易である。
【0097】
この態様によれば、水中ロボットの水中での作業時間や作業負荷に応じて電源装置の独立ユニットを簡単に積み替えて対応することができる。
【0098】
また、一定時間電力を供給することができる電源装置を複数ユニット備えることにより、水中ロボットの作業時間や負荷に応じて電源装置を積み増し可能になる。
【0099】
電源装置は水分を嫌うため、完全に密閉された耐圧防水ケースに格納することにより、電源装置の取り扱いがきわめて容易な水中ロボットを得ることができる。
【0100】
さらに、本発明によれば、モジュール化された水中ロボットにおいて、各独立ユニットが容易に交換できるため、作業目的に応じて異なる制御プログラムを搭載した制御装置に交換し、その作業目的に応じて他の単機能モジュールを交換することができる。これにより、一機の水中ロボットを全く異なる作業目的の水中ロボットとして使用することができる。
【0101】
また、本発明によれば、非導電性材料でシャシーを構成することにより、シャシーが伝達媒体を兼ねることができる。
【0102】
この場合、電気信号が水の減衰を著しく受けることなく、シャシーを通じて各単機能モジュール間で電気信号がやり取りされ、きわめて構造が単純な水中ロボットを得ることができる。
【0103】
シャシーや伝達媒体のところどころに電気信号を受信し増幅して送信する中継手段を設けることにより、各単機能モジュールの通信機能がより確実になる。
【発明を実施するための形態】
【0105】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0106】
図1に本発明の一実施形態による水中通信システムを示す。
【0107】
本実施形態の水中通信システム1は、2つの密閉構造体2,3を有し、密閉構造体2と密閉構造体3の間を伝達媒体4で接続している。
【0108】
伝達媒体4は、非導電性であり、外殻体5の外側に一端部を接触させている。
【0109】
密閉構造体2は、水密構造の外殻体5を有し、必須の構成要素ではないが、移動手段6と作業手段7とを有している。
【0110】
密閉構造体2は水中で活動するように設計された装置であり、使用時には水中に配置される。密閉構造体2は以下にあげるものに限られることはないが、たとえば潜水艇、深海探査艇、水中作業ロボット等が該当する。また、密閉構造体2,3は近接距離に配置されたモジュール同士としても良い。
【0111】
移動手段6や作業手段7は、密閉構造体2の使用目的によって異なり、場合により省略することができる。たとえばデータ収集のために定置される密閉構造体は、移動手段6や作業手段7を省略することができる。
【0112】
外殻体5の内部には、情報処理装置8と送信手段9が格納されている。
【0113】
情報処理装置8は、通常のコンピュータを含む情報処理装置である。情報処理装置8は作業手段7で収集したデータを処理したり、密閉構造体2の全体を制御したり、外部と通信を行うための制御を行う。
【0114】
送信手段9は、データを入力して無線により送信する手段であり、好ましくは情報処理装置8の制御によってデータ送信する手段である。
【0115】
一方の密閉構造体3は密閉構造体2と同様の構成を有している。
【0116】
密閉構造体3のうち密閉構造体2と同様の部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0117】
密閉構造体3と密閉構造体2の相違点は、密閉構造体2が送信手段9を有しているのに対し、密閉構造体3は受信手段10を有している点のみである。
【0118】
送信手段9または受信手段10の少なくとも一方は、情報処理装置8の通信手段とすることができる。むろん、送信手段9と受信手段10は一体として送受信手段とすることもできる。たとえば、送信手段9と受信手段10は、コンピュータの無線LAN用の通信手段とすることができる。その場合、情報処理装置と送信手段と受信手段は一つの装置として構成することができる。
【0119】
図1では密閉構造体2の送信手段9から密閉構造体3の受信手段10に送信する場合のみを示しているが、これは密閉構造体2から密閉構造体3に一方向にのみ送信できるシステムに構成するという意味ではなく、送信の流れを説明するために密閉構造体2から密閉構造体3に送信する場合をかりて説明しているのみである。むろん、送信手段9と受信手段10を送受信可能な通信手段とした場合には、当然に密閉構造体3から密閉構造体2に送信することができることは明らかである。
【0120】
伝達媒体4は、非導電性の材料からなり、例えば、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミックからなる。
【0121】
合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、またはポリエステルを用いることが可能である。
【0122】
また、ゴムとしては、天然ゴム、または合成ゴム(例えば、スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、またはメチル・ビニル・シリコーン・ラバー)を用いることが可能である。
【0123】
また、ガラスとしては、例えば、エポキシガラスを用いることが可能である。
【0124】
また、上記材料を適宜組み合わせて使用することもできる。「材料の組合せ」とは、非導電性の材料であれば水中通信の伝達媒体とすることができるため、複数の材料をつなぎ合わせるようにして伝達媒体を形成したり、あるいは、伝達媒体の部分の形状により適当な材料を使用して複数の材料を組み合わせたり、あるいは、複数の材料を並列的に組み合わせて使用したりすることをいう。
【0125】
伝達媒体4の接続は、外殻体5に穴を開けることなく、外殻体5の外側にその一端部を接触固定させるようにする。
図2Aに伝達媒体4の固定の一例を示す。
【0126】
図2Aの例では、伝達媒体4の一端部に吸盤4aが一体的に形成されており、伝達媒体4は外殻体5に対してその外側から吸盤4aを吸着させるようにして固定されている。
【0127】
このような固定方法によれば、外殻体5に穴を開けることがない。すなわち、伝達媒体4の接続部において、外殻体5は構造的な継ぎ目を有しないようにすることができる。伝達媒体4の固定方法は上記に限らない。例えば、接着剤等を用いて、伝達媒体4を外殻体5に固定してもよい。
【0128】
なお、送信手段9は
図2Aに示すように外殻体5に接触していなくてもよい。
【0129】
伝達媒体4の他端部は、一端部の場合と同様にして、密閉構造体3の外殻体5に穴を開けることなく、その外側に接触固定される。
【0130】
なお、伝達媒体4は、一端部および他端部において外殻体の外側に接触していればよく、必ずしも外殻体5に固定されている必要はない。例えば、後述の
図2B(c)の構成例のように、略直方体状の外殻体5の上面に伝達媒体4を載置するだけでもよい。
【0131】
ここで、本発明による水中通信システムのいくつかの構成について説明する。
図2Bは、本発明による水中通信システムの構成例を示している。
図2Bにおいて、移動手段6および作業手段7は省略している。
【0132】
図2B(a)に示す構成例では、密閉構造体2,3は略直方体状の外殻体5を有し、伝達媒体4はL字状に構成されている。このように伝達媒体4に曲げ部を設けた場合、受信電波強度が低下するが、
図2B(a)の破線Rに示すように、伝達媒体4の角を落として曲面を形成することで受信電波強度を改善することができる。
【0133】
図2B(b)に示す構成例では、密閉構造体2,3は球状の外殻体5を有し、伝達媒体4が2つの球状の外殻体5を接続している。外殻体5は、例えばガラス製の球殻である。
【0134】
図2B(c)に示す構成例では、密閉構造体2,3は略直方体状の外殻体5を有し、外殻体5の上面に伝達媒体4が載置されている。
【0135】
受信電波強度を向上させるためには、
図2B(a)〜(c)に示すように、伝達媒体4は、端部の端面全体で外殻体5に密着していることが好ましい。
【0136】
また、
図2B(b)に示す構成例のように外殻体5が曲面を有する形状の場合には、伝達媒体4として、可撓性を有する材料からなるものを適用することが好ましい。これにより、可撓性の伝達媒体4が外殻体5の外側の形状に応じて変形して、伝達媒体4がその端面全体で外殻体5に密着する。その結果、受信手段10が受信する電波強度を向上させることができる。
【0137】
外殻体5のうち少なくとも伝達媒体4と接触する部分は、非導電性の材料(例えば、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミック)からなることが好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、またはポリエステルを用いることが可能である。ゴムとしては、天然ゴム、または合成ゴム(例えば、スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、またはメチル・ビニル・シリコーン・ラバー)を用いることが可能である。このように接触部分を非導電性の材料で構成することにより、受信手段10が受信する電波強度を向上させることができる。
【0138】
水中通信システム1によれば、水による減衰に比して著しく少ない減衰の下で通信を行うことができる。
【0139】
使用時において、水中通信システム1は全体として水中に配置され、密閉構造体2の内部の送信手段9から無線で電気信号が送信され、該電気信号は密閉構造体2の外殻体5と伝達媒体4によって伝達され、密閉構造体3の外殻体5に伝達して密閉構造体3の内部に無線送信される。密閉構造体3の内部においては、受信手段10によって電気通信を傍受することができる。
【0140】
ここで、本発明によった場合の電波強度の減衰を水中の電波強度の減衰と比較する。
【0141】
図3A〜
図3Cは、海水中で発信された無線の電波強度が伝達媒体によってどの程度減衰するかを種々の材料ごとに示している。
図3A〜
図3Cでは、実験結果を示す表の上に、各々の測定に用いた水中通信システムの概略的な構成を示している。
【0142】
発信源として小型のパーソナルコンピュータを使用し、水密構造の外殻体として樹脂(ポリプロピレン)製の防水ケースを使用した。防水ケースのサイズは200[mm]*150[mm]*55[mm]である。コンピュータに付属の無線LANの通信手段を使用して一定の強度の電波を発信させ、防水ケース内にコンピュータを格納した。
【0143】
まず、伝達媒体を設けずに、空気中で500[mm]の距離で受信したところ、受信電波強度は -30[dB]であった。次に、伝達媒体を設けずに海水中に30[mm]浸漬したところ、電波を受信することができなかった。
【0144】
次に、種々の材料の伝達媒体を使用し、
図3Aに示すように、コンピュータを格納した防水ケース(密閉構造体)を水面下100[mm](煉瓦の場合は80[mm])に沈め、コンピュータの通信手段から電波を送信させ、水面上で受信電波強度を計測した。
図3Aの表は、計測された受信電波強度を伝達媒体の材料ごとに示している。ここで、煉瓦以外の伝達媒体は、大きさが200[mm]*200[mm]*20[mm]の板状のものを使用した。伝達媒体と密閉構造体との接触面積は200*20[mm
2]である。煉瓦の場合の接触面積は50*80[mm
2]である。
【0145】
図3Aに示すように、実験したところ、伝達媒体が天然ゴム、あるいは合成ゴム(スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、メチル・ビニル・シリコーン・ラバー)のいずれの場合も、水面下100[mm]に容器とコンピュータを沈めたとき、-60[dB]程度の受信電波強度を計測することができた。ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンの場合は、-77[dB]程度の受信電波強度を計測することができた。
【0146】
また、伝達媒体がセラミック(煉瓦)の場合についても、-70[dB]程度の受信電波強度を計測することができた。
【0147】
次に、
図3Bに示すように、長さ200[mm]の伝達媒体で接続された2つの密閉構造体を海水中に沈めた。そして、一方の密閉構造体に電波を送信させ、他方の密閉構造体に伝達媒体を介して伝播した電波を受信させた。
図3Bの表は、計測された受信電波強度を伝達媒体の材料ごとに示している。ここで、伝達媒体は
図3Aの場合と同様、伝達媒体は大きさが200[mm]*200[mm]*20[mm]の板状のものを使用した。伝達媒体と密閉構造体との接触面積は200*20[mm
2]である。
【0148】
図3Bに示すように、伝達媒体が天然ゴム、あるいは合成ゴム(スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、メチル・ビニル・シリコーン・ラバー)のいずれの場合も、-72[dB]以上の受信電波強度を計測することができた。また、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンの場合は、-77[dB]程度の受信電波強度を計測することができた。
【0149】
次に、
図3Cに示すように、100mmの距離を隔てた2つの密閉構造体の上に伝達媒体を載置した。そして、一方の密閉構造体に電波を送信させ、他方の密閉構造体に伝達媒体を介して伝播した電波を受信させた。
図3Cの表は、計測された受信電波強度を伝達媒体の材料ごとに示している。ここで、伝達媒体は大きさが200[mm]*200[mm]*8[mm]の板状のものを使用した。伝達媒体と密閉構造体との接触面積は200*50[mm
2]である。
【0150】
図3Cに示すように、伝達媒体がアクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、ポリエステルのいずれかの場合も、-85[dB]以上の受信電波強度を計測することができた。また、伝達媒体がガラス(エポキシガラス)の場合は、-82.5dB程度の受信電波強度を計測することができた。
【0151】
受信電波強度が-88[dB]程度までは受信成功率は85%を超え、十分実用に耐えることが他の実験で確認されている。このため、上記のように非導電性の伝達媒体を使用することにより、減衰が著しく少なくなり水中通信が可能となることが分かる。
【0152】
特に、海水中では30[mm]程度で電波が計測不能になる程度まで減衰するのに対して、本発明の構成によれば、200[mm]の距離においても、まだ余裕がある電波強度で受信することができた。
【0153】
図4は本発明の他の実施形態を示している。
【0154】
図4の実施形態は、密閉構造体同士の通信ではなく、水中で活動する密閉構造体11の情報を水面上の受信手段に送信する水中通信システムを示している。
【0155】
なお、
図1の場合と同様に、
図4では水中から水面に送信する場合のみを示しているが、送受信手段を設けることにより、水面から水中に送信することができる。
【0156】
この水中通信システムは、水中に密閉構造体11を有し、水面上に受信基地12を有し、その間を伝達媒体13で接続している。
【0157】
密閉構造体11は、
図1に示した実施形態同様に、外殻体5と、必須の構成要素ではない移動手段6と、作業手段7を有している。
【0158】
外殻体5内には、情報処理装置8と送信手段9が格納されている。
【0159】
受信基地12は、浮遊体14と、受信手段15とを有している。
【0160】
伝達媒体13の一端部は、密閉構造体11の外殻体5に穴を開けることなく、外殻体5の外側に接触している。なお、伝達媒体13の一端部は外殻体5の外側に固定されていることが好ましく、固定の方法は例えば
図2Aに示したものを使用することができる。
【0161】
伝達媒体13の他端部は、浮遊体14によって、水面から突出するように支持されている。受信手段15は、伝達媒体13の他端部近傍の、浮遊体14の上に設けられている。
【0162】
この実施形態によれば、水中の密閉構造体11によって収集された情報が、送信手段9によって無線送信され、その電気信号は伝達媒体13を伝わって水面上の浮遊体14の他端部から送信され、受信手段15によって受信されることができる。
【0163】
図5は、浮遊体14を用いない本発明の他の実施形態による水中通信システムを示している。
【0164】
図5の実施形態では、密閉構造体16を有し、密閉構造体16上に伝達媒体17を立てている。密閉構造体16の構造は密閉構造体2,11と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0165】
この実施形態では、浮遊体14を用いず、密閉構造体16が低深度の水面下で航行し、伝達媒体17を水面上に突出させるようにしている。
【0166】
この実施形態でも、密閉構造体16が収集した情報を、送信手段9から無線送信し、この電気信号は伝達媒体17を伝わって水面上に突出した伝達媒体17の端部から空気中に無線送信される。
【0167】
図6は本発明のさらに他の実施形態を示している。
【0168】
図6の実施形態は、
図4に示した実施形態と同様の構成を有し、このため、
図4と同様の構成部分については同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0169】
ただし、
図6の実施形態は、
図4の水中通信システムに比して、伝達媒体13が所定長さごとに電気信号を受信して増幅する中継手段18を有している点で異なる。
【0170】
また、受信基地12上の受信手段15に代えて、中継手段19を有している点でも異なる。
【0171】
この実施形態によれば、伝達媒体13の一定長さごとの部分に中継手段18が備えられているため、長距離の伝達媒体13を介して電気信号を伝達することができる。
【0172】
さらに、受信基地12上の中継手段19は、比較的高出力のものを使用することにより、遠距離にある受信基地に、情報を送信することができる。
【0173】
次に、上記の水中通信システムを応用した水中ロボットについて説明する。この水中ロボットは、作業装置、電源装置および制御装置などの単機能モジュールをそれぞれ独立のユニットとして共通のシャシーに取り付け、各独立ユニットの非耐水部分は耐圧防水ケース内に格納し、各独立ユニット間は無線によって通信を行うようにし、各独立ユニットの作動を制御装置によって制御するようにしたものである。
【0174】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る水中ロボットについて説明する。
【0175】
図7に本発明の一実施形態による水中ロボットを示す。
【0176】
本実施形態の水中ロボット21は、作業装置の独立ユニット22と、水平方向推進装置の独立ユニット23と、垂直方向推進装置の独立ユニット24と、これらの独立ユニットを着脱可能に取り付けることができるシャシーとを有している。本実施形態ではシャシーは下部シャシー25と上部シャシー26に分割可能に構成されている。
【0177】
作業装置の「作業」とは、既述したように、他のものに外的な作用を及ぼしてその状態を変化させる場合と、他のものに外的な作用を及ぼさずにデータのみを収集する場合の双方を含む。このため、作業装置の独立ユニット22は、例えば視覚的映像を得る目的であればカメラを搭載し、特定のデータを取得する目的であれば各種センサーを搭載し、ものを採取する目的であればマニピュレータを搭載することができる。
【0178】
水平方向推進装置の独立ユニット23は、4つのユニットを有し、水平方向の推進を行い、かつ、角度をつけて推進できるように左右にも上下にも分割して備えられている。
【0179】
水平方向推進装置の独立ユニット23はそれぞれ円柱状に形成され、下部シャシー25後部の円筒形部分に嵌着できるように形成されている。
【0180】
垂直方向推進装置の独立ユニット24は、円筒状ケーシング内にスクリューを設けたものからなり、上部シャシー26の円筒形部分の内側に嵌着できるように形成されている。
【0181】
推進装置はその上位概念の移動手段に含まれ、移動手段は必要に応じてスクリューに代えて車輪やキャタピラー等でもよいが、定置型の水中ロボット等のように省略することもできる。
【0182】
図8は、
図7の水中ロボット21を分解して示している。
図8において、上部シャシー26は分解して上方に位置するように示している。
【0183】
図8に示すように、上部シャシー26も一部において、垂直方向推進装置の独立ユニット24を連結しているが、下部シャシー25は全部の独立ユニットを連結している。
【0184】
図8に示されているように、水中ロボット21は内部に制御装置の独立ユニット27を有している。
【0185】
作業装置の独立ユニット22は、全体として円柱状に形成され、下部シャシー25の前部のリング28内に着脱可能に嵌着されている。
【0186】
制御装置の独立ユニット27は、全体として扁平な円柱状に形成され、下部シャシー25の中心部分の凹部29に着脱可能に嵌着される。
【0187】
上述した作業装置や推進装置や制御装置はそれぞれ特定の機能を発揮する部品装置であり、一つの部品にまとめられており、本明細書では「単機能モジュール」という。
【0188】
単機能モジュールは耐圧防水ケースに格納され、物理的に独立したユニットに構成されている。本明細書ではこの物理的に独立なユニットを「独立ユニット」という。
【0189】
図9に水中ロボット21のブロック構成を示す。
図9において、推進装置の独立ユニット23,24は、概念的に示すため、2つのブロックで示す。
【0190】
図9に示すように、作業装置の独立ユニット22は、耐圧防水ケース22a内に、作業装置22bの他、送受信可能な通信手段22cと、電池22dを格納している。
【0191】
同様に推進装置の独立ユニット23,24は、耐圧防水ケース23a,24a内に、推進装置23b,24bの他、送受信可能な通信手段23c,24cと、電池23d,24dを格納している。
【0192】
また同様に、制御装置の独立ユニット27は、耐圧防水ケース27a内に、制御装置27bの他、通信手段27cと、電池27dを格納している。
【0193】
これらの独立ユニット22,23,24,27は、下部シャシー25と上部シャシー26に取り付けられ、各独立ユニット22,23,24,27は非導電性の伝達媒体30によって接続されている。
【0194】
独立ユニット22,23,24,27のうち少なくとも伝達媒体30と接触する部分は、非導電性の材料(例えば、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミック)からなることが好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、またはポリエステルを用いることが可能である。ゴムとしては、天然ゴム、または合成ゴム(例えば、スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、またはメチル・ビニル・シリコーン・ラバー)を用いることが可能である。このように接触部分を非導電性の材料で構成することにより、受信電波強度を向上させることができる。
【0195】
伝達媒体30は下部シャシー25と上部シャシー26上に適宜敷設することができる。
【0196】
伝達媒体30は、非導電性の材料からなり、例えば、合成樹脂、ゴム、ガラス、またはセラミックからなる。
【0197】
合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、またはポリエステルを用いることが可能である。
【0198】
また、ゴムとしては、天然ゴム、または合成ゴム(例えば、スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、またはメチル・ビニル・シリコーン・ラバー)を用いることが可能である。また、ガラスとしては、例えば、エポキシガラスを用いることが可能である。
【0199】
伝達媒体30の接続は、耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aに穴を開けることなく、耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aの外側に接触固定させるようにする。
【0200】
図10に伝達媒体30の固定の一例を示す。
【0201】
図10の例では、伝達媒体30の一端部を吸盤30aに形成し、耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aに対してその外側から吸盤30aを吸着させるようにして固定する。
【0202】
このような固定方法によれば、耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aに穴を開けることがない。すなわち、伝達媒体30の接続部において、耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aは構造的な継ぎ目を有しないようにすることができる。
【0203】
なお、通信手段22c,23c,24c,27cは
図10に示すように耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aに接触していなくてもよい。
【0204】
使用時において、水中ロボット21は全体として水中に配置され、独立ユニットの内部の通信手段22c,23c,24c,27cから無線で電気信号が送受信され、該電気信号は耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aと伝達媒体30によって伝達され、他の独立ユニットの耐圧防水ケース22a,23a,24a,27aに伝達して内部に無線送信され、他の独立ユニットの通信手段22c,23c,24c,27cによって傍受される。
【0205】
前述の
図3Aおよび
図3Bの実験結果が示すように、本発明によれば、独立ユニット間の通信が伝達媒体30によって水による減衰を免れ、実用的な水中ロボットの大きさでは、独立ユニット間で通信を行うことができる。
【0206】
図9に示すように、本発明の水中ロボット21は、制御装置の独立ユニット27の通信手段27cと、他の独立ユニット22,23,24の通信手段22c,23c,24cが互いに通信することにより、制御装置27bが他の単機能モジュール22b,23b,24bを制御して水中ロボット21としての全体の作動を制御することができる。
【0207】
図9の水中ロボット21は、電気通信ケーブルがないため、各耐圧防水ケースがケーブルのための穴を有しておらず、耐圧耐水に優れている。また、吸盤30aによれば伝達媒体30の着脱が容易である利点を有する。
【0208】
さらに、本発明によれば、各独立ユニットを完全に独立したものとして構成することができる。「完全に独立」とは、伝達媒体の接続ケーブルもなく、電力を供給するパワーケーブルもないということである。
【0209】
図11は、各独立ユニットを完全に独立にした水中ロボットのブロック図を示している。
【0210】
図11において、理解を容易にするため、
図9と同一の部分については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0211】
図11に示す水中ロボット31では、伝達媒体の接続ケーブル(
図9における伝達媒体30)がない代わりに、シャシー25,26が非導電性材料、例えば、合成樹脂、ゴム、ガラスまたはセラミックからなる。
【0212】
合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ベークライト、またはポリエステルを用いることが可能である。
【0213】
また、ゴムとしては、天然ゴム、または合成ゴム(例えば、スチレン・ブタジエン・ラバー、アクリロニトル・ブタジエン・ラバー、クロロブレン・ラバー、エチレン・プロピレン・ラバー、またはメチル・ビニル・シリコーン・ラバー)を用いることが可能である。また、ガラスとしては、例えば、エポキシガラスを用いることが可能である。
【0214】
また、
図11に示す水中ロボット31は、各独立ユニットが電池の代わりに充電池を有し、かつ、独立ユニットに電力を供給する電源装置の独立ユニット32を有している。
【0215】
水中ロボット31は大容量の電源装置を使用することにより、長時間活動でき、しかも、電力を供給するパワーケーブルを有していない。
【0216】
具体的には、電源装置の独立ユニット32は、耐圧防水ケース32aの内部に、電源装置32bと、通信手段32cと、変動磁界を生成する変動磁界生成手段32dとを格納している。
【0217】
これに対して、作業装置の独立ユニット22は、充電池22d’と、電力伝達レシーバー22eとを有している。
【0218】
また、推進装置の独立ユニット23,24は、充電池23d’,24d’と、電力伝達レシーバー23e,24eとを有している。
【0219】
制御装置の独立ユニット27は、充電池27d’と、電力伝達レシーバー27eとを有している。
【0220】
本実施形態の水中ロボット31によれば、各独立ユニットの通信手段22c,23c,24c,27c,32cの電気信号は、非導電性材料からなるシャシー25,26を介してやり取りされるため、伝達媒体の接続ケーブルを省略することができる。
【0221】
また、電力は以下のようにパワーケーブルを要することなく各単機能モジュールに供給することができる。
【0222】
すなわち、電源装置の独立ユニット32は、通信手段32cを介して制御装置27bの指令により、変動磁界生成手段32dによって変動する磁界を生成する。
【0223】
一方、各独立ユニットの電力伝達レシーバー22e,23e,24e,27eは、前記変動磁界を電力に変換し、各単機能モジュールに直接的または間接的に電力を供給する。
【0224】
間接的に各単機能モジュールに電力を供給するとは電力伝達レシーバーで取得した電力で充電池22d’,23d’,24d’,27d’を充電し、充電池22d’,23d’,24d’,27d’によって各単機能モジュールに電力を供給することである。
【0225】
本実施形態の水中ロボット31によれば、各独立ユニットは単にシャシー25,26に嵌着されているだけで、通信をすることができ、かつ、電力の供給を受けることができる。
【0226】
このため、各独立ユニットの交換がきわめて容易になる。すなわち、各独立ユニットは電気通信ケーブルや伝達媒体の接続ケーブルやパワーケーブルによって結線されていないため、単に独立ユニットを取り替えればよい。
【0227】
また、電源装置についても、パワーケーブルで各独立ユニットに接続されていないため、容易に電源装置の独立ユニット32ものを交換することができる。
【0228】
これにより、水中ロボット31によれば、水中での作業時間や作業負荷に応じて電源装置の独立ユニット32単に積み替えて対応することができる。
【0229】
さらに、電源装置の独立ユニット32を、一定時間電力を供給することができるユニットにし、かかる電源装置を複数ユニット備えれば、水中ロボットの作業時間や負荷に応じて電源装置を積み増したり、減らしたりすることができる。
【0230】
また、各独立ユニットが、結線されておらず交換が容易であるため、本実施形態の水中ロボット31では、異なる作業目的のために、制御装置の独立ユニット27を交換することができる。
【0231】
すなわち、作業目的に応じて、制御装置の独立ユニット27を、異なる制御プログラムを搭載した他の制御装置の独立ユニットに簡単に交換することができる。むろん、その作業目的に応じて他の単機能モジュールの独立ユニットも簡単に交換することができる。
【0232】
これにより、一機の水中ロボットを複数の作業目的に適宜使用することができる。
【0233】
図12は、
図11の水中ロボット31の変形例を示す。
【0234】
図12の水中ロボットは、中継手段33を有している点において
図11の水中ロボット31と異なるのみである。
【0235】
中継手段33は、電気信号を受信し増幅して送信する機能を有している。
【0236】
この変形例の水中ロボット31によれば、シャシーのところどころに中継手段33を設けることにより、各単機能モジュールの通信機能がより確実になる。
【0237】
なお、
図12の例では、中継手段33がシャシー25,26に設けられているが、伝達媒体の接続ケーブルを使用し、伝達媒体のところどころに中継手段33を設けるようにしてもよい。
【0238】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。