(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762133
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】圧電素子を用いた物質の吸着量又は解離量の計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-114830(P2011-114830)
(22)【出願日】2011年5月23日
(65)【公開番号】特開2012-242327(P2012-242327A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】市橋 素子
(72)【発明者】
【氏名】山本 友紀子
【審査官】
谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−251873(JP,A)
【文献】
特開2006−153718(JP,A)
【文献】
特開2004−325257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00−5/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子に電極を設けたセンサーの両側又は片側を溶液に接触させて、前記電極に吸着する物質の量又は前記電極から解離する物質の量を計測する方法であって、
前記溶液の温度を0.1℃/min以下で変化させながら、各時間における共振周波数Fsのコンダクタンス値の半分のコンダクタンス値を持つ半値周波数F1, F2(F2 > F1)のうちのF2の変化量(ΔF2)を測定し、F2の変化量(ΔF2)に基づいて前記吸着する物質の吸着量又は前記解離する物質の解離量を測定し、
さらに前記各時間における共振周波数Fsのコンダクタンス波形の半値半幅の変化量Δ(F1−F2)/2も測定し、Δ(F1−F2)/2に基づいて前記溶液の粘性変化量を測定することを特徴とする圧電素子を用いた物質の吸着量又は解離量の計測方法。
【請求項2】
前記圧電素子の振動周波数は、基本波、オーバートン(3倍波、5倍波、7倍波・・・)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子を用いた物質の吸着量又は解離量の計測方法。
【請求項3】
前記圧電素子は、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子を用いた物質の吸着量又は解離量の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子マイクロバランス装置(QCM装置)を使用し、化学・物理・生化学等の分野で溶液の温度を一定間隔で変化させながら、溶液中に含まれる物質のセンサーへの吸着量を測定、或いは、温度を変化させる前にセンサーに吸着又は載置させていた物質が温度変化により解離した量を測定、更には、吸着等されていた物質が、形状変化、構造変化等の物性変化を引き起こした時には、その物性変化を粘弾性変化として測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来水晶振動子マイクロバランス装置(QCM装置)において、安定した周波数を得て溶液中での様々な反応を正確に計測する場合には、溶液の温度を一定にコントロールする必要があった。
その理由として、水晶振動子自体がもつ温度特性ではなく測定溶液の温度変化によって生じる溶液の粘性変化を周波数変化として共振周波数F
sが検出してしまうためである。
水晶振動子自体も温度特性を持つことは知られているが、QCM装置で使われる水晶振動子のほとんどはATカットと呼ばれる切り出し角が使用されている。水晶自体が持つ温度特性は完全に無くすことはできないが、このATカットの水晶の温度特性の偏曲点温度は25度付近でその前後の温度においても温度特性が良好なので、さまざまな周波数の計測などに使用されている。
しかし、例えば、27MHzのATカットの水晶振動子センサーを純水に浸して安定化させた後に、純水の温度を1℃上げると共振周波数F
sは約100Hz変化し、0.1℃の温度上昇でも約10Hz程度変化することが分かっている。
低分子の結合などの吸着量が少ない測定をする場合は吸着による周波数変化とこの液温変化による周波数変化が混在してしまうので、精度よく吸着量を測定する場合は、精密な温度コントロールを行い温度を一定で行う必要があった。
また、液温を変化させることで、センサー上にある物質の粘弾性変化や構造変化、形状変化などの物性変化を共振周波数F
sで測定したい場合でも、液温を変化させると同時に生じる溶液の粘性変化による周波数変化も検出してしまうので、物性変化のみを検知することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、溶液の温度変化をさせながら、物質の吸着量を測定する場合や吸着物や溶液又はゲルやグリースなど半固体の物質の構造変化や形状変化等の物性変化を粘弾性変化として測定する場合に、液温変化で生じる溶液の粘性負荷による周波数変化の影響を受けずに、正確な計測結果を得ることが可能な計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の物質の吸着量の測定方法は、請求項1に記載の通り、圧電素子に電極を設けたセンサーの両側又は片側を溶液に接触させて、前記電極に吸着する物質の量又は前記電極から解離する物質の量を計測する方法であって、前記溶液の温度を
0.1℃/min以下で変化させながら、各時間における共振周波数F
sのコンダクタンス値の半分のコンダクタンス値を持つ半値周波数F
1, F
2(F
2 > F
1)のうちのF
2の変化量(ΔF
2)を測定し、F
2の変化量(ΔF
2)に基づいて前記吸着する物質の吸着量又は前記解離する物質
の解離量を測定
し、さらに前記各時間における共振周波数Fsのコンダクタンス波形の半値半幅の変化量Δ(F1−F2)/2も測定し、Δ(F1−F2)/2に基づいて前記溶液の粘性変化量を測定することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、
請求項1に記載の発明において、前記圧電素子の振動周波数は、基本波、オーバートン(3倍波、5倍波、7倍波・・・)のいずれかであることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、
請求項1又は2に記載の発明において、前記圧電素子は、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、溶液温度を変化させながら、周波数F
2の変化量を測定することにより、従来のQCM装置で使用される共振周波数F
sではできなかった、測定中に液温を変化させながらセンサへの正確な吸着量を求めることが可能になった。また、検出した周波数変化値に連動した温度の情報も取得できるため、周波数変化の変位点などから変位温度が求められるようなった。
また、(F
1−F
2)/2の変化量を併せて測定することにより、溶液(ニュートン流体)の温度変化による溶液の粘度変化の測定が可能となった。
更に、センサー上の吸着物が粘弾性体の場合は、特開2007-10519号公報で示したように、F
2、(F
1−F
2)/2、F
sは粘弾性項を式に含む為、吸着物や溶液又は半固体物質の温度を所定の温度まで一定の時間毎に一定の温度で変化させることで粘弾性体の粘弾性率の変化やゲル化温度の測定が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の測定方法の原理を説明するための圧電素子の温度変化に対する周波数F
s及びF
2の変化量を示すグラフ
【
図2】純水の液温を変化させた場合のΔ(F
1−F
2)/2の測定結果と、ニュートン流体の溶液の粘性の理論値を示すグラフ
【
図3】本発明の一実施の形態の測定方法を説明するためのフロー
【
図4】本発明の測定方法を実施するための装置構成の説明図
【発明を実施するための形態】
【0007】
QCM装置で使われている共振周波数F
sは溶液の温度変化によって生じる粘性変化を周波数変化として検出してしまうため、溶液の温度変化をさせながらの測定は困難であった。
図1は、純水の温度を26〜62℃まで変化させたときのF
sとF
2の周波数変化を示す。
F
sは約2500Hzの周波数上昇を示したが、F
2は約100Hz以下とF
sと比べて微少の周波数変化であった。F
2が若干周波数変化を起こすのは、水晶振動子自体がもつ温度特性と推察される。
このF
2の特性を用いることで、液温を変化させながら物質の吸着量を測定する場合でも液温変化による溶液の粘性変化の影響を受けずに、物質の吸着量のみの測定が可能となる。
また、Δ(F
1−F
2)/2は、溶液の粘性変化による周波数変化を求めることが可能となる(特願2003-120370参照)。
図2は、純水の液温を変化させたときのΔ(F
1−F
2)/2を、ニュートン流体の溶液の粘性を周波数で表すことができるKANAZAWAの式※(K. K. Kanazawa and J. G. Gordon II, Anal. Chem. 57, 1770-1771 (1985).)から求めた理論値を表すグラフ上にプロットしたもので、ほぼ同じ値を示すことがわかり、これにより、Δ(F
1−F
2)/2を測定することで溶液の粘性を測定することがわかる。
【0008】
本発明において溶液の温度変化に関しては、大気中の温度変化によって溶液に温度変化が起こる以上の積極的な温度変化をさせるものであれば特に制限はない。また、温度を上昇又は下降させるための手段に関しても、公知のペルチェ素子やヒーター等を使用することができ、特に制限するものではない。
温度変化の方法としては、例えば、
図3に示すように、測定開始から60秒毎に0.1℃昇温させるように変化させる。この機能を奏する温度昇降プログラムを測定に使用する装置に実装させるようにしてもよい。
尚、
図3では、F
2の変化量(ΔF
2)や共振周波数F
sのコンダクタンス波形の半値半幅の変化量Δ(F
1−F
2)/2を演算する工程は記載していないが、毎回の測定毎に前回の記録された値との引き算を行うか、或いは、測定終了後にまとめて演算を行うようにしてもよい。
温度を一定に昇降させる場合の間隔は、60秒に限定するものではなく任意である。また上昇させる温度に関しても0.1℃に限定するのではなく任意である。
【0009】
上記の測定方法で使用されるF
s, F
1, F
2の周波数の測定は、発振回路による方法やインピーダンスアナライザーやネットワークアナライザーなど外部機器からの周波数掃引によって得られる方法など、共振周波数F
s、共振周波数のコンダクタンス値の半分のコンダクタンス値を持つ半値周波数F
1,F
2(F
2>F
1)であれば、その測定方法を制限するものではない。
測定方法に使用する装置についての例を挙げると、
図4に示されるように、圧電素子を備えたセル1をネットワークアナライザー2を介して、ネットワークアナライザー2の制御、測定及び演算を行うパソコン等の制御手段3に接続して構成する。尚、図示した例では、セル1の温度調整を行うために、ペルチェ素子等の温度制御手段4をセル1の下面に備え、温度制御手段4を調整するための温度調整手段5を、同様に制御手段3により制御する構成としている。
【0010】
また、測定対象となる周波数としては、基本波、オーバートン(3倍波、5倍波、7倍波・・・)のいずれかで、
図6に示すように使用する周波数の共振周波数F
s等の変化量を測定する。
【0011】
また、本発明において使用される圧電素子は、上記対象となる周波数を測定できるものであれば制限はなく、水晶振動子、APM(ACOUSTIC PLATE MODE SENSOR)、FPW(FLEXURAL PLATE-WAVE SENSOR)又はSAW(SOURFACE ACOUSTIC-WAVE SENSOR)も使用することができる。
【実施例】
【0012】
次に、本発明の一実施例について、アガロースのゲル化温度の測定を例に挙げて説明する。
3%アガロース溶液400μlを50度に加温し、50度から15度まで溶液の温度を0.1℃/minで降下させながらアガロース溶液がゲル化する過程を周波数F
2で測定した。比較のために従来のQCM装置で使用されている共振周波数F
sも測定した。
【0013】
図5に示すように、溶液の液温低下に伴い溶液の粘度が高くなり、それにより共振周波数F
sも周波数変化が低下している。しかし、F
2は溶液の粘性の影響を受けないので、30℃過ぎまでほとんど周波数変化を起こさず、28度付近から周波数変化が上昇し始めた。以上からアガロースのゲル化温度は28度付近であることが解かる。
【符号の説明】
【0014】
1 セル
2 ネットワークアナライザー
3 制御手段
4 温度制御手段
5 温調調整手段