【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段では、請求項1の発明は、質量%で、C:0.35〜0.55%、Si:0.40〜0.80%、
Mn:0.90〜1.40%、S:0.030〜0.080%、Ni:0.30%以下、Cr:0.35%以下、Mo:0.05%以下、Al:0.008〜0.035%、V:0.07〜0.14%、O:0.0030%以下、N:
0.0063〜0.0200%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼である。さらに、この鋼は、C/V比が2.80〜6.00の範囲にあり、下記(1)式で示されるC当量が0.72〜0.86の範囲にあ
る熱間鍛造前の鋼成分からなり、熱間鍛造後の組織がフェライト−パーライトである、被削性に優れた熱間鍛造用非調質鋼である。
C当量=C%+Si%/7+Mn%/5+Cr%/9+V%/2……(1)
【0009】
上記の発明の機械構造用非調質鋼の化学成分の限定理由について以下に説明する。なお、%は質量%である。
【0010】
C:0.35〜0.55%
Cは、非調質鋼の強度確保に不可欠な元素であり、このためには、Cは0.35%以上が必要である。しかし、Cが0.55%を超えると切削加工性や強度が低下する。そこで、Cは0.35〜0.55%とし、望ましくは0.35〜0.45%、より望ましくは0.36〜0.42%とする。
【0011】
Si:0.40〜0.80%
Siは、脱酸剤として必要な元素であり、また非調質鋼の強度確保に不可欠な元素である。このためには、Siは0.40%以上必要である。しかし、Siが0.80%を超えるとフェライト相が硬くなり被削性の低下を招く。そこで、Siは0.40〜0.80%とし、望ましくは0.50〜0.70%とする。
【0012】
Mn:0.90〜1.40%
Mnは、非調質鋼の強度確保に不可欠な元素であり、また被削性を向上させるMnS生成に必要な元素である。このためには、Mnは0.90%以上必要である。しかし、Mnが1.60%より多過ぎるとベイナイトを生成して被削性を大きく低下させる。そこで、そこで、Mnは0.90〜1.60%とし、望ましくは0.90〜1.40%とし、より望ましくは1.00〜1.40とする
、としていたが、望ましくはに基づき、Mnは0.90〜1.40%とする。
【0013】
S:0.030〜0.080%
Sは、ドリル加工や旋削加工等における被削性や切り屑処理性の確保に不可欠な元素である。このためには、Sは0.030%以上必要である。しかし、Sが0.080%より多過ぎると静的強度、疲労強度などの強度特性を低下し、さらに熱間加工性を低下する。そこで、Sは0.030〜0.080%とし望ましくは、0.040〜0.070%とする。
【0014】
Ni:0.30%以下
Niは、鋼中に不可避的に含有されるが、非調質鋼の切削性を低下させる。そこで、Niは0.30%以下に規制する。
【0015】
Cr:0.35%以下
Crは、非調質鋼の硬さ確保のため、必要に応じて添加しても良いが0.35%以上の添加により被削性を低下させる。そこでCrは0.35%以下とする。
【0016】
Mo:0.05%以下
Moは、鋼中に不可避的に含有されるが、0.05%より多く含まれるとベイナイトを生成させやすくなり、被削性を低下させる。そこで、Moは0.05%以下に規制する。
【0017】
Al:0.008〜0.035%
Alは、窒化物を形成して鍛造加熱時の結晶粒粗大化抑制に効果のある元素で、このためには0.008%以上必要である。しかし、被削性および疲労寿命に有害なAl
2O
3を低減する必要があるので、Alは上限を0.035%とする。そこで、Alは0.008〜0.035%とし、望ましくは0.016〜0.030%とする。
【0018】
V:0.07〜0.14%
Vは、非調質鋼の強度確保に必要な元素であり、このためには0.07%以上必要である。しかし、Vは0.14%より多くなると、熱間鍛造後の組織形成過程においてフェライトの核となるV系析出物が過剰となってフェライト量が大幅に増大し、ドリル加工性を損なう。そこで、Vは0.07〜0.14%とし、望ましくは0.08〜0.12%とする。
【0019】
O:0.0030%以下
Oは、被削性や疲労寿命に有害な酸化物系介在物を生成する。そこで、Oは0.0030%以下に制限する必要があり、望ましくは0.0020%以下に制限する。
【0020】
N:
0.0063〜0.0200%
Nは、Alと窒化物を形成し、鍛造加熱時の結晶粒粗大化の抑制に効果のある元素である。そこで、Nは0.0030%以上の添加が必要である。しかし、Nが0.0200%より多くても結晶粒粗大化の抑制効果が飽和する。
ところで、実施例である表1の発明例のNの含有量に基づきNの下限値は0.0063%とする。そこで、Nは0.0063〜0.0200%とする。
【0021】
また、本発明で使用する鋼は、上記の元素以外に不可避不純物としてPやCuを含有する。しかし、その量は多くても、Pは0.030%以下、Cuは0.30%以下である。
【0022】
質量%で、C/V比を2.80〜6.00に限定する理由
C/V比を2.80〜6.00の範囲に制限することにより、被削性すなわち本発明においてはドリル加工性、および旋削加工における超硬工具逃げ面摩耗量、および0.2%耐力/引張強度から求められる耐力比に優れた非調質鋼が得られる。C/V比が2.80より小さい場合では、フェライト分率が過剰となり、ドリル加工性が低下する。一方、C/V比が6.00より大きい場合では、パーライト分率が多くなり過ぎるため、ドリル加工性は良好なものの、超硬工具による旋削加工性と耐力比を損なう。そこで、C/V比を2.80〜6.00とする。
【0023】
C当量を0.72〜0.86に限定する理由
上記した本発明鋼の化学成分の限定、およびC/V比の限定に加えて、本発明ではC当量を0.72〜0.86に限定する。その理由は、C当量が0.72より小さい場合は、硬さが低いために非調質鋼製部品として必要な強度が不足する。一方、C当量が0.86より大きい場合は、通常の熱間鍛造では硬さが高くなり過ぎ、かつベイナイトが生成するためにドリル加工性を大きく損なう。そこで、C当量を0.72〜0.86の範囲に限定する。