特許第5762374号(P5762374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5762374
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】多孔質ガラス母材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20150723BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C03B8/04 A
   C03B37/018 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-206796(P2012-206796)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-62006(P2014-62006A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真
【審査官】 原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/102729(WO,A1)
【文献】 特開平06−316422(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0060326(US,A1)
【文献】 特開2003−321241(JP,A)
【文献】 特開2013−014468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス用原料、可燃性ガス及び助燃性ガスをバーナに供給して、ガラス原料を酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、回転しつつ引上げられる出発部材に、生成したガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を製造する装置において、ガラス微粒子の堆積を行う堆積室と堆積された多孔質ガラス母材を堆積室上部に格納する円筒部とを有する反応容器において、該反応容器内に設置された出発部材の上部に、外径D円筒上部に外径Dの円板を組み付けてなる整流部材を配置し、前記円筒部の内径をDとするとき、前記整流部材の外径DがD/D≧0.8の関係を満たすことを特徴とする多孔質ガラス母材の製造装置。
【請求項2】
前記整流部材が、円筒と該円筒の上下部にそれぞれ円板が組み付けられている請求項1に記載の多孔質ガラス母材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の多孔質ガラス母材を製造する場合においても、反応容器内の気流を安定させて火炎の乱れを抑制することができ、割れが発生しにくい多孔質ガラス母材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造方法としては、VAD法は良く知られた方法である。
この方法では、回転しつつ上昇するシャフトに出発部材を取り付けて反応室内に垂下し、反応室内に設置されたコア堆積バーナ及びクラッド堆積バーナにより生成されたガラス微粒子を出発部材上に堆積させて、コア層とクラッド層からなる多孔質ガラス母材(以下、単に多孔質母材と称する)が製造される。
【0003】
一般的に、このようなVAD装置で使用される反応容器は、複数本のバーナと、出発部材上にガラス微粒子の堆積を行う堆積室と、引上げられた多孔質母材が格納される円筒部から構成される。
ここで、生成されたガラス微粒子の堆積効率は100%とはならず、堆積されなかった未付着のガラス微粒子が、製造中、常に発生している。この未付着のガラス微粒子が、堆積中の多孔質母材に付着すると、透明ガラス化時に気泡が発生し、収率を大きく下げる。
【0004】
これを防止する方法として、特許文献1及び特許文献2に示されるように、空気を積極的に反応容器内に導き、反応容器内に線速の大きな整った気流を作り、これに反応容器内の未付着ガラス微粒子を載せることによって、効率的に堆積室内の排出口から排出させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3,998,450号
【特許文献2】特許第4,466,997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、図1に示すように、シャフト1に出発部材2を取り付け、図示されていない吊下げ機構により堆積室3内に垂下され、コア堆積用バーナ5、クラッド堆積用バーナ6,7により火炎加水分解で生成したガラス微粒子が出発部材2上に堆積され、形成された多孔質母材は円筒部4内に引き上げられる。なお、符号8a,8bは堆積室へのガス供給口、符号9は円筒部へのガス供給口であり、符号10はガス排出部である。
【0007】
多孔質母材の安定した形状部が円筒部入口に入るまでの堆積初期においては、図2に示すように、円筒部内には、シャフト1もしくは出発部材2しか存在しないため、堆積室3の上部に大きな空間が存在するような形となり、堆積室3の上部に設けられたガス供給口8aから供給されたガスの一部が容積の大きな円筒部内に流れ込むため、ガス排出部10へと向かう堆積室内の気流13の乱れが非常に大きくなっていた。
ある程度堆積が進むと、図3に示すように、円筒部4内に多孔質母材12が入り込むことにより、円筒部4の内壁と多孔質母材12との間隙15が狭くなり、この間隙に流れ込む空気によって、円筒部4から堆積室3に流れ込む線速の大きな気流14ができ、堆積室の気流13は極めて安定する。
【0008】
このように気流が乱れた状態になるのは、堆積初期なので、未付着のガラス微粒子の付着といった問題は大きくないが、気流の乱れに伴って、火炎流が大きく乱れ、多孔質母材が安定して加熱されなくなる。
その結果、多孔質母材に割れが発生する確率が高くなるという問題が生じた。
特に、大型品を製造する反応容器は、格納する円筒部の内径を大きくしなければならないため、この影響が非常に大きい。
【0009】
本発明の目的は、VAD法により大型の多孔質母材を製造する装置において、堆積初期における反応容器内の気流の乱れを防止し、多孔質母材の割れが発生しにくい多孔質母材の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討の結果、形成された多孔質母材が円筒部に格納される前の堆積初期の状態において、円筒部内に整流部材を設置し、堆積室の気流が、円筒部のほうに行かないようにすることが効果的であることが判明し、本発明を達成した。
すなわち、本発明の多孔質母材の製造装置は、ガラス用原料、可燃性ガス及び助燃性ガスをバーナに供給して、ガラス原料を酸水素火炎中で加水分解してガラス微粒子を生成し、回転しつつ引上げられる出発部材に、生成したガラス微粒子を堆積して多孔質ガラス母材を製造する装置において、ガラス微粒子の堆積を行う堆積室と堆積された多孔質ガラス母材を堆積室上部に格納する円筒部とを有する反応容器において、該反応容器内に設置された出発部材の上部に、外径D円筒上部に外径Dの円板を組み付けてなる整流部材を配置し、前記円筒部の内径をDとするとき、前記整流部材の外径DがD/D≧0.8の関係を満たすことを特徴としている。
なお、前記整流部材は、円筒と該円筒の上部のみに、もしくは上下部のそれぞれに円板が組み付けられたものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、堆積初期における反応容器内の気流の乱れを防止することができ、多孔質母材の割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の製造装置の概略を示す縦断面図である。
図2】従来の製造装置での堆積初期の気流の状態を示す模式図である。
図3】従来の製造装置での堆積後半の気流の状態を示す模式図である。
図4】本発明の製造装置の概略を示す縦断面図である。
図5】本発明の製造装置による堆積初期の気流の状態を示す模式図である。
図6】(A),(B)は、本発明の整流部材の概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図4に示すように、出発部材2の上部に円筒部4の内径よりも少し外径の小さな整流部材11を取付け、これをシャフト1に設置して、堆積を開始する。
その結果、図5に示すように、堆積初期においても、円筒部4よりも少し外径の小さな整流部材11が壁となるうえ、円筒部4の内壁と整流部材11との狭い間隙15から線速の大きな気流14が流れ出るので、堆積室内の気流13は、円筒部4の方に向かうことなく、ガス排出部10からスムーズに排気されていくようになる。
【0014】
この整流部材11を構成する円筒16の長さLは、取付け、取り出し工程で干渉しない範囲で、出来るだけ長いほうが効果は大きい。
また、円筒16に組み合わせる円板17は、図6(A)では、円筒16の上部に取り付けられているが、円筒16の下部に取り付けても良く、また図6(B)のように、円筒16の上下両方につけても良い。
【実施例】
【0015】
図4に示すような堆積室3と内径250mmφの円筒部4からなる反応容器を用意し、堆積室3には、上の給気口8aから1000〔L/min〕、下の給気口8bから200〔L/min〕の空気をそれぞれ供給し、円筒部4には、給気口9から300〔L/min〕の空気を供給した。
出発部材2として、外径30mmφ、長さ500mmの石英ガラス材を用意し、これに7種類の外径(160〜220mm)で作成した整流部材11(長さL=150mm)を取り付けて、シャフト1に吊り下げた。
【0016】
ここで、堆積室3に設置したコア堆積用バーナ5には、原料ガスとして500〔ml/min〕のSiClと20〔ml/min〕のGeClを供給した。クラッド堆積用バーナ6,7には原料ガスとしてそれぞれ1.0〔l/min〕、3.5〔l/min〕のSiClを供給した。さらに、各堆積用バーナには、それぞれ燃焼ガスとしてHを、助燃ガスとしてOを供給した。
このようにして堆積を行い、長さ1000mmの多孔質母材を各30本ずつ得た。また、比較用として、整流部材を設置しない条件でも堆積を行った。その結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
その結果、25本に割れが発生したが、その全てが、多孔質母材が円筒部に入る前の堆積初期に発生したものであった。
その中でも、整流板を設置しなかった条件Hは、堆積初期の気流の乱れが大きく、多孔質母材が円筒部に入る前の堆積初期に、10/30本が割れてしまい、最も割れ数が多かった。
整流部材を設置したものの中では、整流部材11の外径Dが円筒部4の内径D1に対して小さいものほど割れた多孔質母材の数が多く、D/D1≧0.8のものには、割れが発生しなかった。整流部材11の外径Dが小さいと、邪魔板効果が小さくなるとともに、円筒とのクリアランスが狭くならないので、間隙15を流れる空気の線速が大きくならず、堆積室3内の気流13を安定した状態に抑え込むことができない。
【符号の説明】
【0019】
1.シャフト、
2.出発部材、
3.堆積室、
4.円筒部、
5.コア堆積用バーナ、
6,7.クラッド堆積用バーナ、
8a,8b,9.ガス供給口、
10.ガス排出部、
11.整流部材、
12.多孔質母材、
13,14.気流、
15.間隙、
16.円筒、
17.円板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6