(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
並列的に複数配置された前記アンテナ部において、前記壁の幅方向に、複数の前記アンテナ部にわたって、少なくとも一つの前記スロット孔が存在するように、前記アンテナ部毎に長手方向の位置をずらして前記スロット孔が配設されている請求項4に記載のプラズマ生成装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の一実施の形態にかかるプラズマ処理装置100の概略構成を示す断面図である。
図1のプラズマ処理装置100は、処理容器10と、プラズマを発生させて処理容器10内の被処理体Sへ向けて放出するプラズマ生成装置20と、被処理体Sを支持するステージ50と、プラズマ処理装置100を制御する制御部60を備え、被処理体Sに対して常圧で処理を行う大気圧プラズマ処理装置として構成されている。
【0024】
<処理容器>
処理容器10は、プラズマ処理空間を区画するための容器であって、例えばアルミニウム、ステンレス等の金属により形成することができる。処理容器10の内部は、例えばアルマイト処理のような耐プラズマエロージョン性を高める表面処理を施しておくことが好ましい。処理容器10には、被処理体Sの搬入出を行うための開口が設けられている(図示せず)。なお、大気圧プラズマ処理装置である本実施の形態のプラズマ処理装置100において、処理容器10は必須ではなく、任意の構成である。
【0025】
<プラズマ生成装置>
プラズマ生成装置20は、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生装置21と、マイクロ波発生装置21に接続された矩形導波管22と、矩形導波管22に接続されてその内部へ処理ガスを供給するガス供給装置23と、アンテナ部40内のガス及び必要に応じて処理容器10内を排気するための排気装置25と、を備えている。また、矩形導波管22の内部には、処理ガスの通過を遮るために石英などの誘電体からなる隔壁24が配備されている。さらに、矩形導波管22の一つの壁面にスロット孔41を設け、スロット孔41で生成したプラズマを外部の被処理体Sへ向けて放出するアンテナ部40を有している。
【0026】
(マイクロ波発生装置)
マイクロ波発生装置21は、例えば2.45GHz〜100GHz、好ましくは2.45GHz〜10GHzの周波数のマイクロ波を発生させる。本実施の形態のマイクロ波発生装置21は、パルス発振機能を備えており、パルス状のマイクロ波を発生させることができる。マイクロ波発生装置21の構成例を
図2に示す。マイクロ波発生装置21においては、電源部31から発振部32のマグネトロン(またはクライストロン)33までを結ぶ高電圧ライン34上に、コンデンサ35とパルススイッチ部36が設けられている。また、パルススイッチ部36には、パルス制御部37が接続されており、周波数やデューティー比などを制御する制御信号の入力が行なわれる。このパルス制御部37は、制御部60のコントローラ61(後述)からの指示を受けて制御信号をパルススイッチ部36へ向けて出力する。そして、電源部31から高電圧を供給しつつパルススイッチ部36に制御信号を入力することにより、所定電圧の矩形波が発振部32のマグネトロン(またはクライストロン)33に供給され、パルス状のマイクロ波が出力される。このマイクロ波のパルスは、例えば、パルスオンタイム10〜50μs、パルスオフタイム200〜500μs、デューティー比を5〜70%、好ましくは10〜50%に制御することができる。なお、本実施の形態において、パルス発振機能は、連続に放電させた場合に、アンテナ部40に熱が蓄積しやすく、低温非平衡放電からアーク放電に移行することを防止する目的で設けている。アンテナ部40の冷却機構を別途手当てすれば、パルス発振機能は必須ではなく、任意の構成である。
【0027】
マイクロ波発生装置21で発生したマイクロ波は、図示は省略するが、マイクロ波の進行方向を制御するアイソレーターや導波管のインピーダンス整合をする整合器などを介して矩形導波管22のアンテナ部40へ伝送されるようになっている。
【0028】
(導波管)
矩形導波管22は、マイクロ波の伝送方向に長尺をなすとともに、マイクロ波の伝送方向に直交する方向の断面が矩形をした中空状をなしている。矩形導波管22は、例えば銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属やこれらの合金によって形成されている。
【0029】
矩形導波管22は、その一部分としてアンテナ部40を含んでいる。アンテナ部40は、その断面において短辺をなす壁に1又は複数のスロット孔41を有している。つまり、矩形導波管22の一部分であって、スロット孔41が形成された箇所がアンテナ部40である。
図1では、アンテナ部40を一点鎖線で囲んで示している。アンテナ部40の長さは、被処理体Sの大きさによって決めることができるが、例えば0.3〜1.5mとすることが好ましい。スロット孔41は、アンテナ部40の断面において短辺をなす壁を貫通する開口である。スロット孔41は、被処理体Sへ向けてプラズマを放射するため、被処理体Sに対向して設けられている。なお、スロット孔41の配置や形状については、後述する。
【0030】
本実施の形態において、プラズマ生成装置20は、マイクロ波発生装置21とアンテナ部40との間の矩形導波管22内に、処理ガスの通過を遮る隔壁24を備えている。隔壁24は、例えば石英、テフロン(登録商標)などのポリテトラフルオロエチレン等の誘電体で形成されており、マイクロ波の通過を許容しながら、矩形導波管22内の処理ガスがマイクロ波発生装置21へ向けて流れていくことを防止する。
【0031】
(ガス供給装置)
ガス供給装置(GAS)23は、矩形導波管22から分岐した分岐管22aに設けられたガス導入部22bに接続している。ガス供給装置23は、図示しないガス供給源、バルブ、流量制御装置等を備えている。ガス供給源は、処理ガスの種類別に備えられている。処理ガスとしては、例えば水素、窒素、酸素、水蒸気、フロン(CF
4)ガス等を挙げることができる。フロン(CF
4)ガスの場合は、排気装置25も併用する必要がある。また、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素ガス等の不活性ガスの供給源も設けることができる。ガス供給装置23から矩形導波管22内に供給された処理ガスは、マイクロ波によってスロット孔41で放電が生じ、プラズマ化する。
【0032】
(排気装置)
排気装置25は、図示しないバルブやターボ分子ポンプやドライポンプなどを備えている。排気装置25は、矩形導波管22内および処理容器10の排気を行うため、矩形導波管22の分岐管22a及び処理容器10の排気口10aに接続されている。例えば、プロセス停止時に矩形導波管22内に残された処理ガスは排気装置25を作動させることによって、処理ガスを速やかに除去することができる。また、放電開始時には、矩形導波管22内及び処理容器内10内に存在する大気中のガスを処理ガスに効率よく置換する為に排気装置25を用いる。なお、大気圧プラズマ処理装置である本実施の形態のプラズマ処理装置100において、排気装置25は必須ではなく、任意の構成である。しかし、処理ガスが特にCF
4ガスのように常温では安定であるが、プラズマ化することにより反応性の高いフッ素ラジカル(F)やフロロカーボンラジカル(CxFy)などを生成する可能性がある場合は、排気装置25を設けることが好ましい。
【0033】
<ステージ>
ステージ50は、処理容器10内で被処理体Sを水平に支持する。ステージ50は、処理容器10の底部に設置された支持部51により支持された状態で設けられている。ステージ50および支持部51を構成する材料としては、例えば、石英やAlN、Al
2O
3、BN等のセラミックス材料やAl、ステンレスなどの金属材料を挙げることができる。また、必要に応じて250℃程度まで被処理体Sを加熱できるようにヒーターを埋め込んであってもよい。なお、本実施の形態のプラズマ処理装置100において、ステージ50は被処理体Sの種類に応じて設ければよく、任意の構成である。
【0034】
<被処理体>
プラズマ処理装置100は、被処理体Sとして、例えば、LCD(液晶表示ディスプレイ)用ガラス基板に代表されるFPD(フラットパネルディスプレイ)基板や、該FPD基板に接着させる多結晶シリコンフィルム、ポリイミドフィルムなどのフィルム部材を対象にすることができる。また、有機半導体などの能動素子および受動素子を形成する目的で、例えばポリエチレンナフレタート(PEN)フィルムおよびポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどのフィルム部材の表面清浄化、表面処理などもできる。プラズマ処理装置100は、例えば、FPD基板上に設けられた薄膜の改質処理や、該FPD基板への密着性を改善する目的で行う、上記フィルム部材への表面処理、清浄化処理、改質処理などの用途に使用することができる。プラズマ処理装置100では、このような比較的大面積の被処理体Sに対する処理を効率よく行うことができる。
【0035】
<制御部>
プラズマ処理装置100を構成する各構成部は、制御部60に接続されて制御される構成となっている。コンピュータ機能を有する制御部60は、
図3に例示したように、CPUを備えたコントローラ61と、このコントローラに接続されたユーザーインターフェース62と、記憶部63を備えている。記憶部63には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をコントローラ61の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウェア)や処理条件データ等が記録されたレシピが保存されている。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース62からの指示等にて任意の制御プログラムやレシピを記憶部63から呼び出してコントローラ61に実行させることで、制御部60の制御下で、プラズマ処理装置100において所望の処理が行われる。なお、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体64に格納された状態のものを記憶部63にインストールすることによっても利用できる。コンピュータ読み取り可能な記録媒体64としては、特に制限はないが、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVDなどを使用できる。また、前記レシピは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
【0036】
<スロット孔の構成>
次に、
図4A〜
図12を参照しながら、アンテナ部40におけるスロット孔41の配置と形状について具体例を挙げて説明する。スロット孔41の配置と形状は、スロット孔41の開口の大部分(好ましくは、開口の全面)でプラズマが生成するように設計することが好ましい。スロット孔41の開口の大部分でプラズマが生成するようにするためには、スロット孔41の配置と形状との組み合わせが重要になる。このような観点から、以下ではスロット孔41の配置と形状の好ましい態様について説明する。
【0037】
図4A,4B及び
図5A,5Bは、アンテナ部40を構成する一つの壁40a又は40bに6つの矩形のスロット孔41を設けた例を示している。
図4Aは、矩形導波管22のアンテナ部40のスロット孔41の形成面(壁40a)を上向きに図示したものである。
図4Bは、
図4Aにおける壁40aの平面図である。また、
図5Aは、矩形導波管22のアンテナ部40のスロット孔41の形成面(壁40b)を上向きに図示したものである。
図5Bは、
図5Aにおける壁40bの平面図である。プラズマ処理装置100では、スロット孔41が配設された壁40a又は40bは、被処理体Sに対向して配置される。
【0038】
図4A,4B及び
図5A,5Bに示したように、スロット孔41は、アンテナ部40の断面において短辺をなす壁40aと、長辺をなす壁40bのいずれに設けてもよいが、短辺をなす壁40aに設けることが好ましい。すなわち、アンテナ部40の断面の短辺の長さをL1、長辺の長さをL2とした場合(つまり、L1<L2)、
図4A,4Bに示したように、長さがL1の短辺をなす壁40aにスロット孔41を配設することが好ましい。マイクロ波の電波は、矩形導波管22の短辺をなす一対の壁40a間を反射しながら矩形導波管22の端面に到達し、そこで反射して矩形導波管22内を進行方向とは逆方向に進み、定在波を形成する。電波に対して直交する磁波は、矩形導波管22の長辺をなす一対の壁40b間を反射しながら進行し、矩形導波管22の端面で反射して、進行方向と逆方向に進んで磁界の定在波をつくる。このように、マイクロ波は矩形導波管22の一部分であるアンテナ部40内に進入して、定在波を形成する。この定在波の電波の腹の部分にスロット孔41を形成すると、強いプラズマを形成することができる。短辺をなす壁40aにスロット孔41を形成した場合、壁40aを流れる表面電流は、長辺をなす壁40bに直交する方向に流れる。このため、スロット孔41はアンテナ部40の長手方向に平行であれば、壁40a内のどこに設けても表面電流はスロット孔41に対して直交して流れることになり、強いプラズマを得ることができる。しかし、設計上の簡便さからスロット孔41は、短辺をなす壁40aの中央付近(壁40aの幅方向の中心を導波管長さ方向に結ぶ線(中心線)Cの近傍)に設けることが好ましい。
【0039】
一方、
図5A,5Bに示したように、長辺をなす壁40bにスロット孔41を設けることも可能である。この場合も、磁波の腹の部分にスロット孔41を設けることが、強いプラズマを形成する上で効果的である。矩形導波管22の電磁界計算によれば、電界は一対の短辺をなす壁40aの近傍で強くなるので、壁40bの中央ではなく、両側の壁40aに近い位置に設けた方が強いプラズマを得ることができる。そのため、
図5A,5Bでは、長辺をなす壁40bの幅方向の中心を導波管長さ方向に結ぶ線(中心線)Cから外れた位置にスロット孔41を設けている。
【0040】
図4B及び
図5Bでは、アンテナ部40の壁40aに形成された6つの矩形のスロット孔41を符号41A
1〜41A
6で示している。
図4B及び
図5Bでは、最も外側に位置する2つのスロット孔41A
1の端部と、スロット孔41A
6の端部の間が、アンテナ部40となっている。一列に配列されたスロット孔41A
1〜41A
6の配列間隔は、管内波長に応じて決定することが好ましい。高密度のプラズマを放射する目的では、隣接するスロット孔41どうしが近接しており、両者の間隔が小さいことが好ましい。
【0041】
また、各スロット孔41A
1〜41A
6の長さや幅は、任意であるが、幅が狭く、細長い形状であることが好ましい。矩形のスロット孔41の短辺の長さをL3、長辺の長さをL4とした場合、スロット孔41の長辺の長さL4は、エネルギー損失を低減し、高密度のプラズマを放射できるようにする観点から、矩形導波管22内の定在波の半波長以下の長さにすることが好ましい。また、本発明者らによる実験では、スロット孔41の幅L3を、なるべく小さくすると強い電界強度が得られ、その結果、高密度のプラズマが得られた。具体的には、L3は0.3mm以下にすることが好ましい。
【0042】
各スロット孔41は、その長手方向とアンテナ部40の長手方向(つまり、矩形導波管22の長手方向)が一致し、互いに平行になるように配設することが好ましい。スロット孔41の長手方向が、アンテナ部40の長手方向に対して平行でなく、角度をもって形成されていると、電波の腹の部分をスロット孔41が斜めに横切るようになるため、強い電波の腹の部分を有効に利用できず、スロット孔41の開口の全体にプラズマを立てることが困難となる。
【0043】
また、
図5A及び
図5Bのように、長辺をなす壁40bにスロット孔41を設けた場合、表面電流は磁界の腹の部分から放射状に流れるため、スロット孔41の開口の全域に一定の表面電流を横切らせる為には、放射状に流れる表面電流がスロット孔41に対して直角に入射するように、スロット孔41を円弧状にすることも効果がある(
図11及び
図12参照)。この場合、壁40bの中心線Cに対して、凸形(
図11)または凹形(
図12)となるように円弧状のスロット孔41を配置することが効果的である。しかし、長辺をなす壁40bにスロット孔41を設けた場合には、短辺をなす40aにスロット孔41を設けた場合と比較して、スロット孔41全体にプラズマを広げるのが難しく、均一なプラズマを形成することが困難であった。
【0044】
さらに、
図6Aに示したように、スロット孔41の開口の縁面40cは、壁40aの厚み方向に内側から外側へ開口が広くなるように傾斜して設けることが好ましい。スロット孔41の縁面40cを傾斜面として設けることによって、矩形導波管22の内壁面側のスロット孔41の開口部の幅L3を短くすることができ、これにより、放電開始電力を低減し、エネルギー損失を少なく抑えることができ、高密度プラズマを生成させることができる。なお、
図6Aにおいて、符号Pは、スロット孔41から放出されるプラズマを模式的に示している。一方、
図6Bに示すように、矩形導波管22内側の開口幅よりも外側の開口幅を狭くする場合(つまり、
図6Aとは逆に傾斜をつけた場合)も放電領域を広げる効果はあったが、
図6Aほどの高密度プラズマは得られなかった。
【0045】
スロット孔41の具体的形状と配列例は、例えば特許文献1にも詳細に記述されているが、これに限るものではない。導波管アンテナを使用する場合、矩形導波管22内にマイクロ波を導入した際に矩形導波管22内に形成されるマイクロ波の定在波を利用するので、スロット孔41は定在波の腹の部分に設けることが、強いプラズマを発生させる上で都合がよい。また、スロット孔41の長さは、定在波の半波長以下にすることが強いプラズマをスロット孔41に形成する上で効率的である。定在波の節の部分にスロット孔41を設けても電磁界が弱く、スロット孔41においてプラズマが形成されない。このように、導波管アンテナを用いる場合、矩形導波管22内に形成される定在波の節の部分にはプラズマがたたないか、あるいは弱いプラズマしかたたないため、1本の矩形導波管22内にスロット列を複数の列に設けるか、1本のスロット列を設けた矩形導波管22を複数個並列的に配置して、1本の矩形導波管22内にできるマイクロ波の節の部分を他の矩形導波管22のスロット列によって相互に補う構造にすることが好ましい。
【0046】
複数のスロット孔41は一列に配設してもよいし、複数列に配設してもよい。矩形導波管22の短辺をなす壁40aにスロット孔41を形成する場合は、壁40aの面に流れる表面電流は、短辺をなす壁40aにおいて、導波管長さ方向の中心軸に常に直交する方向に流れるため、スロット孔41は、短辺をなす壁40aの導波管長さ方向の中心軸に平行に設けた方がよい。また、スロット孔41の配設位置は、導波管長さ方向には定在波の腹の位置に設けることが好ましいが、導波管長さ方向に直交する短辺方向の位置は原則どこでもよい。ただし、加工しやすさ、使いやすさを考えると短辺をなす壁40aの中心線Cの近傍にスロット孔41を設けることが好ましい。
【0047】
一方、矩形導波管22の長辺をなす壁40bの面にスロット孔41を形成する場合は、矩形導波管22内に発生する定在波の腹の部分に矩形のスロット孔41を設けることが、強いプラズマを得るために都合がよい。この場合、電磁界は、定在波の腹の部分で最大でとなり、長辺をなす壁40bを流れる表面電流は腹の部分から短辺をなす壁40aへ向かう方向に流れ、矩形導波管22の壁40aに近づくほど表面電流は大きくなる。このため、矩形のスロット孔41は長辺をなす壁40bの壁面であって、かつ矩形導波管22の短辺をなす壁40aに近い部分に設けた方が、強いプラズマを矩形のスロット孔41に形成することができる。
【0048】
矩形のスロット孔41を2列に配設した例を
図7に示した。
図7では、アンテナ部40の壁40bに、6つの矩形のスロット孔41が直線状に配設されて列を作り、合計2列に配設されている。すなわち、
図7において、スロット孔41A
1〜41A
6は、一組になって列をなして直線状に配列されており、スロット孔41B
1〜41B
6は、一組になって列をなして直線状に配列されている。
図7では、最も外側に位置する2つのスロット孔41A
1の端部と、スロット孔41B
6の端部の間が、アンテナ部40となっている。なお、スロット孔41は2列に限らず、3列以上配設することもできる。
【0049】
図7に示したように、スロット孔41を2列以上並べて配設する場合、エネルギー損失を低減し、高密度のプラズマを放射できるようにする観点から、アンテナ部40において、長辺をなす壁40bの幅方向に少なくとも一つのスロット孔41が存在するように列毎に長手方向の位置をずらして配設することが好ましい。例えば、
図7では同じ列に属するスロット孔41A
1と41A
2との間には、アンテナ部40の幅方向に隣の列のスロット孔41B
1が存在している。また、同じ列に属するスロット孔41B
1と41B
2との間には、アンテナ部40の幅方向に隣の列のスロット孔41A
2が存在している。このように、アンテナ部40の長辺をなす壁40bの内側を幅方向に横断する表面電流が、必ず1つのスロット孔41と交差するように配置することが好ましい。
【0050】
図8は、2本の矩形導波管22A,22Bのアンテナ部40A,40Bを並列的に並べた態様を示している。各アンテナ部40A,40Bには、複数のスロット孔41がそれぞれ1列に配列されている。アンテナ部40Aにおいて、スロット孔41A
1〜41A
6は、一組になって列をなして直線状に配列されており、アンテナ部40Bにおいて、スロット孔41B
1〜41B
6は、一組になって列をなして直線状に配列されている。
図8では、短辺をなす壁40a又は長辺をなす壁40bの幅方向(図中に矢印で示す)に、2つのアンテナ部40A,40Bにわたって、少なくとも一つのスロット孔41が存在するように、アンテナ部40A,40B毎に互いに補うように長手方向の位置をずらしてスロット孔41A
1〜41A
6、41B
1〜41B
6が配設されている。
【0051】
また、
図7及び
図8の例において、スロット孔41は、壁40a又は40bの幅方向の中心から外れた位置に配設することが好ましい。例えば、
図7では、長辺をなす壁40bの幅方向の中心線Cから外れた位置にスロット孔41を設けている。このように、スロット孔41の列を偏心させて設けることによって、長辺をなす壁40bの壁面上を流れる表面電流が最大となり、エネルギー損失を低減し、高密度のプラズマを放射できる。また、
図8でも、短辺をなす壁40a又は長辺をなす壁40bの幅方向の中心線Cから外れた位置にスロット孔41を設けている。このように、スロット孔41の列を偏心させて設けることによって、壁40a(又は40b)の壁面上を流れる表面電流が最大となり、エネルギー損失を低減し、高密度のプラズマを放射できる。
【0052】
また、短辺をなす壁40a、又は長辺をなす壁40bにスロット孔41を設ける場合、アンテナ部40の全域にわたって、長尺な単一のスロット孔41を配設することもできる。例えば、
図9は、短辺をなす壁40aの中心軸近傍に、アンテナ部40に長尺な直線状のスロット孔41Cを一つ設けた例を示している。
図9では、スロット孔41Cの形成されている範囲の長さが、アンテナ部40の長さと同じであるため、アンテナ部40の全域において、短辺をなす壁40aの幅方向にスロット孔41Cが存在していることになる。
【0053】
図10〜
図12に、スロット孔41のさらに別の例を示した。
図10は、H形のスロット孔41Eを直線状に配列した構成例である。このようにH形のスロット孔41Eは、矩形の長い開口の両端においてそれぞれ直角に交差した矩形の短い開口を有しているため、アンテナ部40の壁40aの内側(矩形導波管22内)に生じた表面電流が、効果的にスロット孔41Eを横切るようすることができる。例えば、矩形導波管22の短辺をなす壁40aの壁面に矩形のスロット孔41を設ける場合を想定すると、先に述べたように、短辺をなす壁40aの壁面の中心線Cの近傍に矩形のスロット孔41を設けることが好ましい。表面電流は、この矩形のスロット孔41に直角に侵入し、矩形のスロット孔41内に強電界を形成してプラズマを生成する。この時、矩形のスロット孔41の長辺端部では、表面電流が矩形のスロット孔41に対して直角に侵入するよりは、より抵抗の低い周辺部分に回りこみやすい。このため、矩形のスロット孔41の長辺の端部では、プラズマ密度が下ったり、極端な場合には矩形のスロット孔41の長辺端部ではプラズマが形成されない場合がある。本発明者らは、このような現象を回避するために、
図10のH形のスロット孔41Eが有効であることを見出した。H形のスロット孔41Eの長辺端部に直角に侵入した表面電流は、H形のスロット孔41Eの両端に形成された矩形の短い開口のために、周辺の低抵抗領域に流れることが妨げられる。その結果、スロット孔41Eに直角に侵入する。これにより、矩形のスロット孔41の長辺端部で見られた、プラズマ密度の低下あるいはプラズマの消光現象が生じなくなった。このように、H形のスロット孔41Eでは、そのH形の形状によって、スロット孔41Eの周囲で表面電流が開口を迂回して逃げる現象を抑制でき、これによりスロット孔41Eの長辺端部の周辺領域でも電界が形成されやすくなり、単純な矩形(方形)のスロット孔41に比べ、放電領域が増大して効率的に高密度プラズマを生成させることができる。
【0054】
図11及び
図12は、矩形導波管22の長辺をなす壁40bの壁面に、スロット孔41を円弧状に形成した構成例である。
図11は、アンテナ部40の壁40bの中心線Cに向けて凸形に円弧状のスロット孔41Fを形成した例である。一方、
図12は、アンテナ部40の壁40bの外側へ向けて凸形に円弧状のスロット孔41Gを形成した例である。このように円弧状のスロット孔41F,41Gの場合も、アンテナ部40の壁40bの内側(矩形導波管22内)に生じた放射状の表面電流が一定の密度でスロット孔41F,41Gの開口を横切ることができるため、スロット孔41F,41Gの周囲で電界が形成されやすくなり、放電領域が増大して効率的に高密度プラズマを生成させることができる。なお、
図11及び
図12に示した円弧状のスロット孔41F,41Gの場合、円弧の二つの端部を結ぶ方向を長手方向と考えれば、アンテナ部40の長手方向に一致している。
【0055】
なお、
図9〜
図12の構成例でも、矩形導波管22の短辺をなす壁面40aにスロット孔41を設ける場合には、スロット孔41は、短辺をなす壁40aの中心線Cの近傍に配設することが望ましい。矩形導波管22の長辺をなす壁40bにスロット孔41を設ける場合には、短辺をなす壁40aの近傍に(つまり、長辺をなす壁40bの幅方向の中心線Cから外れた位置に)配設することが好ましい。また、
図9〜
図12の構成例において、スロット孔41を複数列に配設することもできる。さらに、
図10〜
図12の構成例では、一列に6つのスロット孔41を設けた例を示したが、スロット孔41の数は特に制限されるものではない。
【0056】
次に、プラズマ処理装置100の動作について説明する。まず、被処理体Sを処理容器10内に搬入し、ステージ50上に載置する。そして、ガス供給装置23から、処理ガスを所定の流量で、ガス導入部22b、分岐管22aを介して矩形導波管22内に導入する。矩形導波管22内の処理ガスを導入することによって、矩形導波管22内の圧力が外部の大気圧よりも相対的に高くなる。
【0057】
次に、マイクロ波発生装置21のパワーをオン(ON)にして、マイクロ波を発生させる。このとき、マイクロ波をパルス状に発生させてもよい。マイクロ波は、図示しないマッチング回路を経て矩形導波管22に導入される。このように導入されたマイクロ波によって、矩形導波管22内で電磁界が形成され、矩形導波管22の内部に供給された処理ガスをアンテナ部40のスロット孔41でプラズマ化させる。このプラズマは、相対的に圧力が高い矩形導波管22のアンテナ部40内部からスロット孔41を介して外部の被処理体Sへ向けて放射される。本実施の形態のプラズマ処理装置100では、例えば、アルゴン(Ar)希釈0.4〜1.0%水素ガスを処理ガスとして、50L/minの流量を流し、マイクロ波出力1.5kWの条件で、スロット孔41の位置で測定して、電子密度で1×10
14〜1×10
16/cm
3、スロット孔41の直下7mmの位置で測定して水素ラジカル密度で1×10
14〜1×10
15/cm
3の高密度のプラズマを生成できた。したがって、この高密度プラズマを被処理体Sに対して作用させることにより、効率的なプラズマ処理が実現する。
【0058】
また、アルゴン希釈1%水素ガスを10L/min(slm)流し、マイクロ波出力1.5kWの条件でプラズマを生成させて、真空紫外吸収分光法で水素ラジカル濃度を計測すると、アンテナ部の直下7mmでは、2×10
14/cm
3であった。水素ラジカル濃度のアンテナ部からの距離依存性から、スロット孔41での水素濃度を見積もると1×10
16/cm
3の高密度プラズマが形成されていることがわかった。
【0059】
一方、アルゴン14slm(標準状態litter/min)、水素流量100sccm(標準状態cc/min)、窒素流量100sccm(標準状態cc/min)の混合ガスを流し、マイクロ波周波数10GHz、マイクロ波のパルスON時間=10〜50μs、OFF時間=200〜500μs、正味のマイクロ波入力1.2〜1.6kWの条件でプラズマを生成させた。そして、スロット直下から22mmの位置に石英の板を置いて、光ファイバーで採光して、水素原子の発光のHβのシュタルク広がりからスロット部の電子密度を見積もると、1.5〜1.7×10
15/cm
3であり、高密度プラズマが形成されていることがわかった。
【0060】
以上のように、本実施の形態のプラズマ生成装置20及びこれを備えたプラズマ処理装置100は、真空容器を必要としない大気圧プラズマ装置であるため、矩形導波管22と被処理体Sとの間に誘電体板を設ける必要がなく、誘電体板でのマイクロ波の吸収による損失を防止できる。また、大気圧プラズマ装置であるため、耐圧の真空容器やシール機構なども不要であり、簡易な装置構成でよい。なお、処理ガスの置換効率を上げるなどの目的で、減圧にできる排気設備と、閉じた空間内に大気圧プラズマを放出できる機構とを備えていてもよい。
【0061】
また、本実施の形態のプラズマ生成装置20及びこれを備えたプラズマ処理装置100は、矩形導波管22内に供給された処理ガスをマイクロ波によってスロット孔41でプラズマ化し、スロット孔41から外部へ放出するため、専用のガス導入器具を必要とせず、装置の大きさも小さくすることができる。つまり、矩形導波管22がシャワーヘッドの役割を果たすため、別途シャワーヘッドやシャワーリングのようなガス導入器具を設ける必要がなく、装置構成を簡素化できる。また、矩形導波管22内で処理ガスにマイクロ波を作用させるため、被処理体Sへ向けて均一なプラズマを放射できる。
【0062】
次に、
図1に示すものと同様の構成のプラズマ処理装置を用いて行った実施例について説明する。
【0063】
[実施例1]
ポリイミドフィルムの表面処理:
アンテナ部は、マイクロ波周波数10GHzの場合で41個/列の矩形のスロット孔が矩形導波管の短辺をなす壁の中心線に沿って直線状に配列しているものを用いた。周波数10GHz、出力1.6kWのマイクロ波発生装置を用い、パルスモジュレーターのオンタイム、オフタイムをそれぞれ30μs、220μsに設定し、アルゴンガスを14L/min(slm)流して、マイクロ波放電をしてプラズマを生成させた。この時、処理試料のポリイミドフィルムをアンテナ部の直下4mmの位置において、0〜60秒処理した。処理中のアンテナ正味の出力は1.56kWであった。処理しないポリイミドフィルム(処理時間0秒)と4秒処理後のポリイミドフィルムの水の接触角を調べると、70度から18度に変化した。処理前のポリイミド膜は疎水性であったのに対して、プラズマ処理後は水の接触角が18度と大幅に減少し、その表面が親水性に改質された。また、ポリイミドフィルムとアンテナ部のスロット形成面との距離を離すと処理効果は薄れ、特に20mm以上離すと急激に処理効果は薄れた。
【0064】
[実施例2]
酸化銅の還元:
アルゴン14slm(標準状態litter/min)、水素流量100sccm(標準状態cc/min)、窒素流量140sccm(標準状態cc/min)の混合ガスを流し、マイクロ波周波数10GHz、マイクロ波のパルスON時間=10〜50μs、OFF時間=200〜500μs、正味のマイクロ波入力1.2〜1.6kWの条件で生成させたプラズマにより、以下の方法で試験を行った。矩形スロット直下4mmの位置に、スパッタ法で形成した銅(Cu)膜を熱酸化で約20nmの膜厚に形成したCuOx膜を置き、30秒間〜15分間かけてプラズマ処理を行った。その結果、スロット直下の位置からCuOxが還元されていく様子が、CuOxの暗紫色からCuの銅色に変化することによって確認できた。これは、プラズマで生成した水素原子が、CuOxのOを取り去り、金属の銅の表面が出たもの推定された。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置について、
図13〜
図15を参照しながら説明する。
図13は、矩形導波管22のアンテナ部40を複数個(
図13では3つ)並列的に配置したプラズマ処理装置101の構成例を示している。プラズマ処理装置101では、図示しない駆動機構によって、アンテナ部40に対して被処理体Sが
図13中の矢印で示す方向に相対移動可能に設けられている。アンテナ部40(矩形導波管22)の長手方向と、被処理体Sの移動方向は、互いに直交するように配置されている。アンテナ部40のスロット孔41は、被処理体Sの幅以上の長さで配設されている。
図13に示したように、複数のアンテナ部40を並列的に配置し、かつ被処理体Sを相対移動させることによって、被処理体Sに対して、処理斑がなく、均一なプラズマ処理を連続的に行うことが可能になる。なお、アンテナ部40を含むプラズマ生成装置20の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、細部についての図示及び説明は省略する。なお、並列的に配置されるアンテナ部40の数は、3つに限らず、2つでも、4つ以上でもよい。
【0066】
図14は、プラズマ処理装置101において、長尺なシート状(フィルム状)の被処理体Sをロール・トウ・ロール方式で搬送させながら処理する態様を示している。被処理体Sは、第1のロール70Aから送り出され、第2のロール70Bに巻き取られる。このように、本実施の形態のプラズマ処理装置101を用いることによって、被処理体Sが巻き取り可能なシート状(フィルム状)である場合に、連続的な処理を容易に行うことができる。
【0067】
図15は、
図14に対する変形例を示している。このプラズマ処理装置101Aでは、並列的に配置された3つアンテナ部40が、被処理体Sを挟むように上下に配置されている。被処理体Sの上方に配置されたアンテナ部40A,40A,40Aは、それらの下面(被処理体Sとの対向面)にスロット孔41が設けられている。被処理体Sの下方に配置されたアンテナ部40B,40B,40Bは、それらの上面(被処理体Sとの対向面)にスロット孔41が設けられている。このように、被処理体Sの上下両方にアンテナ部40を配置することによって、ロール・トウ・ロール方式で被処理体Sを搬送させながら、その両面に対して同時にプラズマ処理を行うことができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記実施の形態では、被処理体SとしてFPD基板や該基板に張り合わせるフィルム等を挙げたが、処理対象は特に限定されるものではなく、例えば半導体ウエハ等の基板に対しても適用することができる。