特許第5763084号(P5763084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5763084液晶媒体のための化合物および高周波構成要素のためのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763084
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】液晶媒体のための化合物および高周波構成要素のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 22/08 20060101AFI20150723BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20150723BHJP
   C07C 25/24 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/14 20060101ALI20150723BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20150723BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150723BHJP
   H01P 1/18 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C07C22/08CSP
   C07C43/225 C
   C07C25/24
   C09K19/18
   C09K19/32
   C09K19/34
   C09K19/12
   C09K19/30
   C09K19/14
   C09K19/16
   G02F1/13 500
   H01P1/18
【請求項の数】15
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2012-537308(P2012-537308)
(86)(22)【出願日】2010年10月6日
(65)【公表番号】特表2013-510101(P2013-510101A)
(43)【公表日】2013年3月21日
(86)【国際出願番号】EP2010006091
(87)【国際公開番号】WO2011054425
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年10月4日
(31)【優先権主張番号】102009051906.8
(32)【優先日】2009年11月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ジャスパー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】モンテネグロ,エルフィラ
(72)【発明者】
【氏名】パウルート,デトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ライフェンラート,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】真辺 篤孝
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101279888(CN,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0060265(KR,A)
【文献】 特開2006−182730(JP,A)
【文献】 特開2002−212114(JP,A)
【文献】 特開平05−178810(JP,A)
【文献】 特開平03−163186(JP,A)
【文献】 特開平02−117915(JP,A)
【文献】 特開平05−179240(JP,A)
【文献】 特開平05−239454(JP,A)
【文献】 特開平04−164037(JP,A)
【文献】 特開昭51−098261(JP,A)
【文献】 米国特許第04786709(US,A)
【文献】 特許第5595915(JP,B2)
【文献】 特表2013−534646(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0067605(US,A1)
【文献】 特開2005−120208(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044695(WO,A1)
【文献】 特開平08−245520(JP,A)
【文献】 Journal of Materials Chemistry,2009年,19(43),8202-8211
【文献】 Hecheng Huaxue,2009年,17(2),164-166
【文献】 Chemistry of Materials,2007年,19(23),5650-5656
【文献】 Polymer,2005年,46(13),4654-4663
【文献】 Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,1999年,37(20),3826-3837
【文献】 Korea Polymer Journal ,1999年,7(1),18-23
【文献】 Synthetic Metals,1996年,83(1),47-55
【文献】 Makromolekulare Chemie,1990年,191(11),2815-35
【文献】 Faserforschung und Textiltechnik,1978年,29(6),393-5
【文献】 Chemical & Pharmaceutical Bulletin,1971年,19(5),959-69
【文献】 Roczniki Chemii,1970年,44(1),115-19
【文献】 Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2005年,43(20),4838-4848
【文献】 Japanese Journal of Applied Physics,2008年,47(6, Pt. 1),4732-4735
【文献】 ChemBioChem,2007年,8(14),1679-1687
【文献】 Japanese Journal of Applied Physics, Part 1: Regular Papers, Short Notes & Review Papers,1999年,38(5A),2792-2798
【文献】 Journal of the Chemical Society, Chemical Communications,1991年,(14),948-50
【文献】 Helvetica Chimica Acta,1969年,52(8),2521-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 22/00
C07C 25/00
C07C 43/00
C09K 19/00
G02F 1/00
H01P 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
式中、
、A、AおよびAは、互いに独立して、
a)式
【化2】
で表されるラジカル、
)1,4−フェニレン、
または
)トランス−1,4−シクロヘキシレンまたはシクロヘキセニレン、を示し、
また式中、基a)、b)および)において、
1個または2個以上のH原子はまた、Br、Cl、F、CN、−NCS、−SCN、SF、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたC〜C10アルキルもしくはアルコキシ基によって置き換えられていてもよく、は、
【化3】
を示し、
およびRは、各々、互いに独立して、10個のC原子を有するハロゲン化された、または非置換のアルキルラジカル、ここでさらに、これらのラジカル中の1つまたは2つ以上のCH基は、各々、互いに独立して、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CF=CH−、−CH=CF−または−S−によって、S原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく、
、Br、CN、CF、SCN、NCSまたはSFを示し、
は、−C≡C−または
【化4】
を示し、
、Yは、互いに独立して、H、F、Clを示し、
、Z、単合を示し、
mは、0、1または2を示
nは、0を示す、
で表される化合物。
【請求項2】
mが、0であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、−C≡C−または
【化5】
を示し、
、Yが、Fを示すことを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の式Iで表される化合物の、液晶混合物における使用。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の式Iで表される化合物の、高周波技術のための構成要素における使用。
【請求項6】
液晶媒体であって、請求項1〜のいずれか一項に記載の式Iで表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項7】
式II:
【化6】
式中、
11は、R11またはX11を示し、
12は、R12またはX12を示し、
11およびR12は、互いに独立して、1〜17個のC原子を有するフッ素化されていないアルキルもしくはフッ素化されていないアルコキシ、または2〜15個のC原子を有するフッ素化されていないアルケニル、フッ素化されていないアルケニルオキシ、もしくはフッ素化されていないアルコキシアルキルを示し、
11およびX12は、互いに独立して、F、Cl、Br、−CN、−NCS、−SCN、−SF、1〜7個のC原子を有するフッ素化されたアルキルもしくはフッ素化されたアルコキシ、または2〜7個のC原子を有するフッ素化されたアルケニル、フッ素化されたアルケニルオキシもしくはフッ素化されたアルコキシアルキルを示し、
pは、0または1を示し、
11〜Z13は、互いに独立してトランス−CH=CH−、トランス−CF=CF−、−C≡C−または単結合を示し、
【化7】
は、互いに独立して、
a)1つまたは2つ以上、好ましくは1つまたは2つのCH基がNによって置き換えられていてもよい、1,4−フェニレン、
b)さらに1つまたは2つの隣接していないCH基が−O−および/または−S−によって置き換えられていてもよく、ここでHがFによって置き換えられていてもよい、トランス−1,4−シクロヘキシレンまたはシクロヘキセニレン
を示し、
またここで、基a)およびb)において、
1個または2個以上のH原子はまた、Br、Cl、F、CN、−NCS、−SCN、SF、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたC〜C10アルキルもしくはアルコキシ基によって置き換えられていてもよい、
で表される化合物から選択された1種または2種以上の化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の液晶媒体。
【請求項8】
式Iで表される化合物の媒体中の濃度が、合計で5%〜95%の範囲内にあることを特徴とする、請求項またはに記載の液晶媒体。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の液晶媒体の製造方法であって、式Iで表される1種または2種以上の化合物を、1種または2種以上の他の化合物と、および任意に1種または2種以上の添加剤と混合することを特徴とする、前記方法。
【請求項10】
高周波技術のための構成要素における使用のための液晶媒体であって、式I
【化8】
式中、
1〜5は、互いに独立して、
a)式
【化9】
で表されるラジカル、
b)1つまたは2つ以上のCH基がNによって置き換えられていてもよい、1,4−フェニレン、
c)さらに1つまたは2つの隣接していないCH基が−O−および/または−S−によって置き換えられていてもよく、またHがFによって置き換えられていてもよい、トランス−1,4−シクロヘキシレンまたはシクロヘキセニレン、
あるいは
d)1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン、シクロブタ−1,3−ジイル、スピロ[3.3]ヘプタン−2,6−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル、フラン−2,5−ジイル、フラン−2,4−ジイル、
【化10】
の群からのラジカル
を示し、
また式中、基a)、b)、c)およびd)において、
1個または2個以上のH原子はまた、Br、Cl、F、CN、−NCS、−SCN、SF、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたC〜C10アルキルもしくはアルコキシ基によって置き換えられていてもよく、
またここで
〜Aからの少なくとも1つのラジカルは、a)によるラジカルを表し、
およびRは、各々、互いに独立して、1〜15個のC原子を有するハロゲン化された、または非置換のアルキルラジカル、ここでさらに、これらのラジカル中の1つまたは2つ以上のCH基は、各々、互いに独立して、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CF=CH−、−CH=CF−、−(CO)O−、−O(CO)−、−(CO)−、−O−または−S−によって、OまたはS原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく、
F、Cl、Br、CN、CF、OCF、SCN、NCSまたはSFを示し、
は、−C≡C−または
【化11】
を示し、
、Yは、互いに独立して、H、F、Cl、C〜C10アルキルを示し、
、Zは、互いに独立して、単結合、−C≡C−、−CH=CH−、−CHO−、−(CO)O−、−CFO−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCH−、−(CH−、−CH=CF−または−CF=CF−を示し、ここで非対称の架橋は両方の側のいずれにも向き得るものであり、
m、nは、互いに独立して、0、1または2を示す、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、前記液晶媒体。
【請求項11】
式Iで表される化合物であって、式中
は、−C≡C−または
【化12】
を示し、
は、F、Cl、C〜C10アルキルを示し、
は、F、Clを示し、および
である1種または2種以上の該化合物を含むことを特徴とする、請求項10に記載の液晶媒体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の液晶媒体を含むことを特徴とする、高周波技術のための構成要素。
【請求項13】
機能的に接続された1または2以上の移相器であることを特徴とする、請求項12に記載の構成要素。
【請求項14】
請求項10または11に記載の液晶媒体の、高周波技術のための構成要素における使用。
【請求項15】
位相制御グループアンテナであって、請求項12または13に記載の1種または2種以上の構成要素を含むことを特徴とする、前記位相制御グループアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの二重結合および少なくとも1つの1,4−ナフチレンラジカルまたは1,4−もしくは9,10−アントラセニレンラジカルを含む芳香族化合物、高周波構成要素のためのその使用、当該化合物を含む液晶媒体、ならびにこれらの媒体を含む高周波構成要素、特に、とりわけギガヘルツ範囲のためのアンテナに関する。液晶媒体は、例えば同調可能な「フェーズドアレイ」アンテナのためのマイクロ波の位相シフトに役立つ。
【背景技術】
【0002】
液晶媒体は、情報を表示するための電気光学的ディスプレイ(liquid crystal displays−LCDs)において暫くの間使用されている。
しかし、最近、液晶媒体はまた、マイクロ波技術のための構成要素において使用するために、例えばDE 10 2004 029 429 Aおよび特開2005−120208号公報において提案されている。
【0003】
高周波技術における液晶媒体の工業的に有用な利用は、それらの誘電特性を特にギガヘルツ範囲について可変電圧によって制御することができるというそれらの特性に基づく。これによって、いかなる可動部をも含まない同調可能なアンテナの構築が可能になる(A. Gaebler, A. Moessinger, F. Goelden, et al., "Liquid Crystal-Reconfigurable Antenna Concepts for Space Applications at Microwave and Millimeter Waves", International Journal of Antennas and Propagation, Vol. 2009, 記事ID 876989, 7頁、2009, doi:10.1155/2009/876989)。
【0004】
A. Penirschke, S. Mueller, P. Scheele, C. Weil, M. Wittek, C. HockおよびR. Jakoby:"Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35 GHz", 34th European Microwave Conference - Amsterdam, 545-548には、とりわけ9GHzの周波数における既知の単一の液晶物質K15(Merck KGaA,ドイツ国)の特性が記載されている。
【0005】

【化1】
で表される化合物またはその誘導体は、有機薄膜トランジスタの構成物質として(EP 2 073 290 A1)、光酸発生系の制御のための感光色素として(WO 2008/021208 A2)、およびデータ記録媒体の構成物質として(特開2004−82439号公報)記載されている。液晶特性および液晶媒体におけるその使用は、現在まで記載されていない。
【0006】
DE 10 2004 029 429 Aには、マイクロ波技術、とりわけ移相器(phase shifter)における慣用の液晶媒体の使用が記載されている。液晶媒体は、対応する周波数範囲におけるそれらの特性に関して当該文献中で既に調査されている。
しかし、現在まで知られている組成物または個別の化合物は、一般的に欠点を有する。それらのほとんどは、他の欠陥に加えて、不利益な高い損失および/または不適切な位相シフトまたは不適切な材料品質をもたらす。
【0007】
高周波技術における使用のために、特定の、現在までむしろ稀で、卓越した特性または特性の組み合わせを有する液晶媒体が、要求される。
したがって、改善された特性を有する液晶媒体のための新規な構成要素が、必要である。特に、マイクロ波範囲における損失を低減し、材料品質(η)を改善しなければならない。
【0008】
さらに、構成要素の低温挙動における改善に対する需要がある。作動特性および寿命の両方における改善が、ここで必要である。
したがって、対応する実際の適用に適している特性を有する液晶媒体についての顕著な需要がある。
【発明の概要】
【0009】
驚くべきことに、ここで、本発明の化合物を使用して、好適なネマチック相範囲および高いΔnを有し、従来技術の材料の欠点を有していないかまたは少なくとも顕著に低下した程度の欠点を有するに過ぎない液晶媒体を達成することが可能であることが見出された。
【0010】
本発明は、式I
【化2】
式中、
1〜5は、互いに独立して、
a)式
【化3】
で表されるラジカル、
b)1つまたは2つ以上、好ましくは1つまたは2つのCH基がNによって置き換えられていてもよい、1,4−フェニレン、
c)さらに1つまたは2つの隣接していないCH基が−O−および/または−S−によって置き換えられていてもよく、またHがFによって置き換えられていてもよい、トランス−1,4−シクロヘキシレンまたはシクロヘキセニレン、
あるいは
【0011】
d)1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン、シクロブタ−1,3−ジイル、スピロ[3.3]ヘプタン−2,6−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル、フラン−2,5−ジイル、フラン−2,4−ジイル、
【化4】
の群からのラジカル
を示し、
【0012】
また式中、基a)、b)、c)およびd)において、
1個または2個以上のH原子はまた、Br、Cl、F、CN、−NCS、−SCN、SF、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたC〜C10アルキルもしくはアルコキシ基によって置き換えられていてもよく、
またここで
〜Aからの、好ましくはA、AおよびAからの少なくとも1つのラジカルは、a)によるラジカルを表し、
【0013】
およびRは、各々、互いに独立して、1〜15個のC原子を有するハロゲン化された、または非置換のアルキルラジカルを示し、ここでさらに、これらのラジカル中の1つまたは2つ以上のCH基は、各々、互いに独立して、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−CF=CH−、−CH=CF−、−(CO)O−、−O(CO)−、−(CO)−、−O−または−S−によって置き換えられていてもよく、OまたはS原子が互いに直接結合しない、
F、Cl、Br、CN、CF、OCF、SCN、NCSまたはSFを示し、
【0014】
は、−C≡C−または
【化5】
を示し、
、Yは、互いに独立して、H、F、Cl、C〜C10アルキル、好ましくはHまたはF、特に好ましくはFを示し、
、Zは、互いに独立して、単結合、−C≡C−、−CH=CH−、−CHO−、−(CO)O−、−CFO−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCH−、−(CH−、−CH=CF−または−CF=CF−を示し、ここで非対称の架橋は、両側に整列して(oriented)いてもよく、
m、nは、互いに独立して、0、1または2を示す、
で表される化合物に関する。
【0015】
環A〜A間の二重結合は、好ましくはトランス配置を有する。
【0016】
本発明の化合物は、低い融点、高い透明点、極めて高い光学異方性(Δn)および有利に高い回転粘度を有する。単独で、または他のメソゲン性構成要素との混合物において、それらは、広い温度範囲にわたりネマチック相を有する。これらの特性によって、それらが、高周波技術のための構成要素において、特に液晶移相器において使用するのに特に好適になる。本発明の液晶媒体は、対応する特性、例えば広い相範囲および加えて良好な低温安定性を有する。
【0017】
好ましくは、A、AおよびAからのラジカルの1つまたは2つは、ラジカルの定義a)に従って任意に置換された1,4−ナフチレンラジカルを表し、特に好ましくはそれらの1つである。特に好ましくは、少なくともラジカルAは、定義a)に従う1,4−ナフチレンラジカルである。基a)からのラジカルの中で、1,4−ナフチレンラジカルが、特に好ましい。
【0018】
添え字mは、好ましくは0または1、特に好ましくは0である。添え字nは、好ましくは0または1、特に好ましくは0である。
環状基AおよびAは、互いに独立して、好ましくは1,4−フェニレンであり、ここでさらに1個または2個以上のH原子は、Br、Cl、F、CN、アルキル(C〜C10)、メトキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたメチルもしくはメトキシ基によって置き換えられていてもよい。
【0019】
架橋基ZおよびZは、互いに独立して、好ましくは単結合、−C≡C−、−CF=CF−または−CH=CH−、特に好ましくは単結合である。
は、好ましくは−C≡C−または−CF=CF−、特に好ましくは−C≡C−である。
/Yは、好ましくはH/H、H/F、F/H、F/F、CH/HまたはH/CHおよび特に好ましくはF/Fである。
【0020】
ラジカルRまたはRの一方、好ましくはRは、1〜15個のC原子を有する直鎖状アルキルラジカルを好ましくは示し、ここでさらに、これらのラジカル中の1つまたは2つ以上のCH基は、各々、互いに独立して、−C≡C−、−CH=CH−、−(CO)O−、−O(CO)−、−(CO)−、−O−または−S−によって、OまたはS原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよい。
【0021】
1〜5または好ましくはA2〜4についての基a)からのラジカルの中で、1,4−置換を有するラジカルが好ましく、特に好ましくは1,4−ナフチレンラジカルである。
【0022】
したがって、本発明の好ましい態様は、以下の例示的な構造から選択される:
【化6】
【0023】
【化7】
式中、RおよびRは、上で定義した通りであり、ラジカルXは、OまたはS、好ましくはSを示す。
【0024】
式Iで表される化合物を、有利には、以下の例示的合成(スキーム1)において明らかなように製造することができる:
【化8】
スキーム1。式Iで表される化合物の例示的合成;Rを、R1/2に従って定義する。
【0025】
1,4−ジブロモナフタレンに、ハロゲン−金属交換反応を施し、1−ヨード−4−ブロモナフタレンに変換する。これを先ず、単官能化されたアセチレン架橋化合物に、薗頭カップリング、続いて文献から知られている1,1,2−トリフルオロトリエチルシリルエテン構成ブロックにおける付加反応において選択的に変換する(以下から採用した構成ブロック合成:F. Babudri, A. Cardone et al., Eur. J. Org. Chem. 2008, 1977-1982)。
【0026】
脱保護および対応するジフルオロエチレンヨージドへの変換の後、アリールボロン酸との最終的な鈴木反応の結果、この例においてはアセチレンおよび1,2−ジフルオロエチレン架橋を有する式Iで表される所望の目的化合物が得られる。
【0027】
アントラセン誘導体を、対応する出発化合物、例えばナフタレン誘導体などから製造する。
【0028】
本発明に従い、液晶媒体は、式Iで表される1種または2種以上の化合物および任意に少なくとも1種の他の、好ましくはメソゲン性化合物を含む。したがって、液晶媒体は、好ましくは、液晶性である2種または3種以上の化合物を好ましくは含む。好ましい媒体は、式Iで表される好ましい化合物を含む。
【0029】
液晶媒体の他の構成要素は、好ましくは式II:
【化9】
式中、
11は、R11またはX11を示し、
12は、R12またはX12を示し、
【0030】
11およびR12は、互いに独立して、1〜17個、好ましくは3〜10個のC原子を有するフッ素化されていないアルキルもしくはフッ素化されていないアルコキシ、または2〜15個、好ましくは3〜10個のC原子を有するフッ素化されていないアルケニル、フッ素化されていないアルケニルオキシもしくはフッ素化されていないアルコキシアルキル、好ましくはアルキルまたはフッ素化されていないアルケニルを示し、
【0031】
11およびX12は、互いに独立して、F、Cl、Br、−CN、−NCS、−SCN、−SF、1〜7個のC原子を有するフッ素化されたアルキルもしくはフッ素化されたアルコキシ、または2〜7個のC原子を有するフッ素化されたアルケニル、フッ素化されたアルケニルオキシもしくはフッ素化されたアルコキシアルキル、好ましくはフッ素化されたアルコキシ、フッ素化されたアルケニルオキシ、FまたはClを示し、
【0032】
pは、0または1を示し、
11〜Z13は、互いに独立してトランス−CH=CH−、トランス−CF=CF−、−C≡C−または単結合を示し、
【0033】
【化10】
は、互いに独立して、
a)1つまたは2つ以上、好ましくは1つまたは2つのCH基がNによって置き換えられていてもよい、1,4−フェニレン、
b)さらに1つまたは2つの隣接していないCH基が−O−および/または−S−によって置き換えられていてもよく、ここでHがFによって置き換えられていてもよい、トランス−1,4−シクロヘキシレンまたはシクロヘキセニレン
を示し、
【0034】
またここで、基a)およびb)において、
1個または2個以上のH原子はまた、Br、Cl、F、CN、−NCS、−SCN、SF、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシまたは一フッ素化もしくは多フッ素化されたC〜C10アルキルもしくはアルコキシ基によって置き換えられていてもよく、
【0035】
好ましくは、互いに独立して
【化11】
を示し、
ここでR13は、Cl、C1〜7アルキルまたはC3〜6シクロアルキルを示す、
で表される化合物から選択される。
【0036】
本発明の好ましい態様において、液晶媒体は、式Iで表される1種または2種以上の化合物および式IIで表される1種または2種以上の化合物を含む。
本出願に従い、液晶媒体は、好ましくは、合計で5〜95%、好ましくは10〜90%および特に好ましくは15〜80%の式Iで表される化合物を含む。
【0037】
本発明に従い、液晶媒体は、好ましくは10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下、極めて特に好ましくは1%以下の2つ以下の5員環および/または6員環のみを有する化合物を含み、特に完全に含まない。
【0038】
本発明に従い、液晶媒体は、好ましくは式IおよびIIで表される化合物の群から選択された化合物を含み、より好ましくは主にそれからなり、尚より好ましくは本質的にそれからなり、極めて好ましくは完全にそれからなる。
【0039】
本出願において、組成物と関連する「含む」とは、問題の実体、すなわち媒体または構成要素が、示した構成要素(単数もしくは複数)または化合物(単数もしくは複数)を、好ましくは10%以上および極めて好ましくは20%以上の合計濃度で含むことを意味する。
【0040】
これに関連して、「主に〜からなる」とは、問題の実体が55%以上、好ましくは60%以上および極めて好ましくは70%以上の示した構成要素(単数もしくは複数)または化合物(単数もしくは複数)を含むことを意味する。
【0041】
これに関連して、「本質的に〜からなる」とは、問題の実体が80%以上、好ましくは90%以上および極めて好ましくは95%以上の示した構成要素(単数もしくは複数)または化合物(単数もしくは複数)を含むことを意味する。
【0042】
これに関連して、「完全に〜からなる」とは、問題の実体が98%以上、好ましくは99%以上および極めて好ましくは100.0%の示した構成要素(単数もしくは複数)または化合物(単数もしくは複数)を含むことを意味する。
【0043】
本出願に従い、液晶媒体は、好ましくは、合計で10〜100%、好ましくは20〜95%および特に好ましくは25〜90%の式IおよびIIで表される化合物を含む。
本発明に従い、式IIで表される化合物を、好ましくは全体としての混合物の10%〜90%、より好ましくは15%〜85%、尚より好ましくは25%〜80%および極めて好ましくは30%〜75%の合計濃度において使用する。
【0044】
さらに、液晶媒体は、他の添加剤、例えば安定剤、キラルドーパントおよびナノ粒子などを含んでいてもよい。個々の加えられた化合物を、0.01〜6%、好ましくは0.1〜3%の濃度において使用する。しかし、液晶混合物の残余の構成要素、すなわち液晶性またはメソゲン性化合物についての濃度データを、これらの添加剤の濃度を考慮せずに示す。
【0045】
液晶媒体は、好ましくは、0〜10重量%、特に0.01〜5重量%および特に好ましくは0.1〜3重量%の安定剤を含む。媒体は、好ましくは、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンまたは2−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールから選択された1種または2種以上の安定剤を含む。これらの補助剤は、当業者に知られており、例えば光安定剤として商業的に入手可能である。
【0046】
したがって、本発明の態様はまた、式Iで表される1種または2種以上の化合物を、1種または2種以上の他の化合物および任意に1種または2種以上の添加剤と混合することを特徴とする、液晶媒体の製造方法である。他の化合物は、好ましくは、上で示した式IIで表される化合物および任意に1種または2種以上の他の化合物から選択される。
【0047】
本出願において、「誘電的に正」の表現は、Δε>3.0である化合物または構成要素を記載し、「誘電的に中性」は、−1.5≦Δε≦3.0であるものを記載し、「誘電的に負」は、Δε<−1.5であるものを記載する。それぞれの化合物の誘電異方性を、ネマチックホスト混合物中でそれぞれの個々の化合物の10%溶液の結果から決定する。ホスト混合物中でのそれぞれの化合物の溶解度が10%より低い場合には、当該濃度を5%に低下させる。試験混合物のキャパシタンスを、ホメオトロピック配向(alignment)を有するセルおよびホモジニアス配向を有するセルの両方において決定する。両方のタイプのセルのセル厚さは、約20μmである。印加する電圧は、1kHzの周波数および典型的には0.5V〜1.0Vの実効値を有する矩形波であるが、それを、常にそれぞれの試験混合物の容量しきい値より低く選択する。
【0048】
Δεは
【数1】
として定義され、一方εaverage
【数2】
である。
【0049】
誘電的に正の化合物に使用するホスト混合物は、混合物ZLI−4792であり、誘電的に中性の、および誘電的に負の化合物に使用するホスト混合物は、混合物ZLI−3086であり、共にMerck KGaA, ドイツ国からのものである。化合物の誘電率の絶対値を、関心のある化合物の添加の際のホスト混合物のそれぞれの値の変化から決定する。値を、100%の関心のある化合物の濃度に外挿する。
【0050】
20℃の測定温度でネマチック相を有する構成要素を、それ自体で測定し、すべての他のものを、化合物と同様に処理する。
本出願における「しきい値電圧」の表現は、光学的しきい値を指し、両方の場合において他に明確に述べない限り、10%相対的コントラスト(V10)のために引用し、「飽和電圧」の表現は、光学的飽和を指し、90%相対的コントラスト(V90)のために引用する。フレデリクスしきい値(VFr)とも称される容量しきい値電圧(V)を、明確に述べる場合にのみ使用する。
【0051】
本出願において示したパラメーター範囲はすべて、他に明確に述べない限り限界値を含む。
互いに組み合わせて特性の様々な範囲について示した種々の上限値および下限値によって、追加の好ましい範囲が生じる。
【0052】
本出願を通じて、他に明確に述べない限り、以下の条件および定義が適用される。すべての濃度を重量パーセントで引用し、全体としてのそれぞれの混合物に関し、すべての温度を摂氏度で引用し、すべての温度差を差異の度で引用する。液晶に典型的なすべての物理的特性を、"Merck Liquid Crystals, Physical Properties of Liquid Crystals", Status Nov. 1997, Merck KGaA,ドイツ国に従って決定し、他に明確に述べない限り20℃の温度について引用する。光学異方性(Δn)を、589.3nmの波長にて決定する。誘電異方性(Δε)を、1kHzの周波数にて決定する。しきい値電圧およびすべての他の電気光学的特性を、Merck KGaA,ドイツ国で生産された試験セルを使用して決定する。Δεの決定のための試験セルは、約20μmのセル厚さを有する。
【0053】
電極は、1.13cmの面積を有する円形のITO電極およびガードリングである。整列層は、ホメオトロピック整列
【数3】
について日産化学、日本国からのSE−1211およびホモジニアス整列
【数4】
について日本合成ゴム、日本国からのポリイミドAL−1054である。キャパシタンスを、Solatron 1260周波数応答アナライザーを使用して、0.3Vrmsの電圧を有する正弦波を使用して決定する。電気光学的測定において使用した光は、白色光である。Autronic-Melchers,ドイツ国からの商業的に入手できるDMS機器を使用するセットアップを、ここで使用する。特性電圧を、垂直の観察の下で決定する。しきい値(V10)、ミッドグレー(V50)および飽和(V90)電圧を、それぞれ10%、50%および90%の相対的コントラストについて決定する。
【0054】
液晶媒体を、マイクロ波周波数範囲内のそれらの特性に関して、A. Penirschke, S. Mueller, P. Scheele, C. Weil, M. Wittek, C. HockおよびR. Jakoby:“Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35 GHz“, 34th European Microwave Conference - Amsterdam, pp. 545-548に記載されているように調査する。
【0055】
この点において、A. Gaebler, F. Goelden, S. Mueller, A. PenirschkeおよびR. Jakoby “Direct Simulation of Material Permittivites …“, 12MTC 2009 - International Instrumentation and Measurement Technology Conference, Singapore, 2009 (IEEE), pp. 463-467、およびDE 10 2004 029 429 Aをも比較されたい。ここで、測定方法は、同様に詳細に記載されている。
【0056】
液晶を、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または石英毛細管中に導入する。毛細管は、180μmの内半径および350μmの外半径を有する。有効長さは2.0cmである。充填した毛細管を、30GHzの共振周波数を伴って空洞の中心の中に導入する。この空洞は、長さ6.6mm、幅7.1mmおよび高さ3.6mmを有する。入力シグナル(源)を、次に適用し、出力シグナルの結果を、商業的なベクトルネットワークアナライザーを使用して記録する。他の周波数(例えば19Hz)について、空洞の寸法を、相応して適合させる。
【0057】
液晶で充填した毛細管を使用した測定と液晶で充填した毛細管を使用しない測定との間の共振周波数およびQ因子の変化を使用して、A. Penirschke, S. Mueller, P. Scheele, C. Weil, M. Wittek, C. HockおよびR. Jakoby:“Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35 GHz“, 34th European Microwave Conference - Amsterdam, pp. 545-548中の方程式10および11によって、対応する標的周波数における誘電率および損失角を、当該文献に記載されたように決定する。
【0058】
液晶のダイレクターに垂直な、および平行な特性の構成要素についての値は、液晶の磁界中での配向によって得られる。このために、永久磁石の磁界を使用する。磁界の強さは0.35テスラである。磁石の配向を相応して設定し、次に相応して90°回転させる。
【0059】
マイクロ波範囲における誘電異方性は、
【数5】
として定義される。
調節可能性(modulatability)または同調可能性(τ)は、
【数6】
として定義される。
材料品質(η)は、
【数7】
として定義され、
最大の誘電損失因子
【数8】
であり、それは、tanδεrについての測定された値の最大値から生じる。
【0060】
好ましい液晶材料の材料品質(η)は、5以上、好ましくは6以上、好ましくは8以上、好ましくは10以上、好ましくは15以上、好ましくは17以上、特に好ましくは20以上および極めて特に好ましくは25以上である。
【0061】
対応する構成要素において、好ましい液晶材料は、15°/dB以上、好ましくは20°/dB以上、好ましくは30°/dB以上、好ましくは40°/dB以上、好ましくは50°/dB以上、特に好ましくは80°/dB以上および極めて特に好ましくは100°/dB以上の移相器品質を有する。
本出願において、「化合物」の用語は、他に明確に示さない限り、1種の化合物および複数種の化合物の両方を意味する。
【0062】
本発明の液晶媒体は、好ましくは、各場合において少なくとも−20℃〜80℃、好ましくは−30℃〜85℃および極めて特に好ましくは−40℃〜100℃のネマチック相を有する。当該相は、特に好ましくは120℃以上、好ましくは140℃以上および極めて特に好ましくは180℃以上にわたる。「ネマチック相を有する」の表現は、ここでは、一方で、スメクチック相および結晶化が、低温で対応する温度で観察されず、他方で透明化がネマチック相から加熱した際に生じないことを意味する。低温での調査を、対応する温度で流動粘度計において行い、5μmのセル厚さを有する試験セル中での保存によって少なくとも100時間チェックする。高温で、透明点を、慣用の方法によって毛細管中で測定する。
【0063】
本発明に従い、液晶媒体は、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、尚より好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上および極めて特に好ましくは170℃以上の透明点を有する。
本発明に従い、液晶媒体のΔεは、1kHzおよび20℃で、好ましくは1以上、より好ましくは2以上および極めて好ましくは3以上である。
【0064】
本発明に従い、液晶媒体のΔnは、589nm(Na)および20℃で、好ましくは0.20以上0.90以下の範囲内、より好ましくは0.25以上0.90以下の範囲内、尚より好ましくは0.30以上0.85以下の範囲内および極めて特に好ましくは0.35以上0.80以下の範囲内である。
【0065】
本出願の好ましい態様において、本発明に従い、液晶媒体のΔnは、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上である。
さらに、本発明の液晶媒体は、マイクロ波範囲における高い異方性によって特徴づけられる。複屈折は、例えば、約8.3GHzにて、好ましくは0.14以上、特に好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上および極めて特に好ましくは0.30以上である。さらに、複屈折は、好ましくは0.80またはそれ以下である。
【0066】
しかし、いくつかの態様において、誘電異方性の負の値を有する液晶もまた、有利に使用することができる。
使用する液晶は、個々の物質または混合物のいずれかである。それらは、好ましくはネマチック相を有する。
【0067】
本発明に従い、液晶媒体または少なくとも1種の化合物を含む好ましい構成要素は、移相器、バラクタ、アンテナアレイ(例えばラジオ、モバイル通信、マイクロ波/レーダーおよび他のデータ伝送のためのもの)、「整合回路適応フィルター」および他のものである。好ましいのは、上で定義した高周波技術のための構成要素である。好ましいのはまた、種々の印加された電気的電圧によって調節することができる構成要素である。極めて特に好ましい構成要素は、移相器である。
【0068】
好ましい態様において、複数の移相器を機能的に接続し、例えば位相制御グループアンテナを得る。グループアンテナは、マトリックス中で配列した送信要素または受信要素の位相シフトを使用して、干渉によるバンドルを達成する。移相器の列または格子形態における並列配置によって、いわゆる「フェーズドアレイ」の構築が可能になり、それは、高周波(例えばギガヘルツ範囲)のための同調可能な送信または受信アンテナとしての役割を果たすことができる。本発明のフェーズドアレイアンテナは、極めて広い使用可能な受信錐体(reception cone)を有する。
【0069】
好ましい適用は、自動車、船舶輸送、航空機、宇宙旅行および衛星技術分野からの、有人の、または無人の乗り物におけるレーダー設備およびデータ伝送装置である。
【0070】
好適な構成要素、特に移相器の生産のために、本発明の液晶媒体を、典型的には1mmより小さい断面および数センチメートルの長さを有する長方形の空洞中に導入する。空洞は、2つの長手方向側に沿って搭載した対向する電極を有する。そのような配列を、当業者は熟知している。可変電圧の印加によって、液晶媒体の誘電特性を後の操作において同調させて、アンテナの種々の周波数または方向を設定することができる。
【0071】
「アルキル」の用語は、好ましくは、1〜15個の炭素原子を有する直鎖状および分枝状アルキル基、特に直鎖状基メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルおよびヘプチルを包含する。2〜10個の炭素原子を有する基が、一般的に好ましい。
【0072】
「アルケニル」の用語は、好ましくは、2〜15個の炭素原子を有する直鎖状および分枝状アルケニル基、特に直鎖状基を包含する。特に好ましいアルケニル基は、C〜C−1E−アルケニル、C〜C−3E−アルケニル、C〜C−4−アルケニル、C〜C−5−アルケニルおよびC−6−アルケニル、特にC〜C−1E−アルケニル、C〜C−3E−アルケニルおよびC〜C−4−アルケニルである。他の好ましいアルケニル基の例は、ビニル、1E−プロペニル、1E−ブテニル、1E−ペンテニル、1E−ヘキセニル、1E−ヘプテニル、3−ブテニル、3E−ペンテニル、3E−ヘキセニル、3E−ヘプテニル、4−ペンテニル、4Z−ヘキセニル、4E−ヘキセニル、4Z−ヘプテニル、5−ヘキセニル、6−ヘプテニルなどである。5個までの炭素原子を有する基が、一般的に好ましい。
【0073】
「アルコキシ」の用語は、好ましくは式C2n+1−O−で表され、式中nは1〜10を示す直鎖状ラジカルを包含する。nは、好ましくは1〜6である。好ましいアルコキシ基は、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキソキシ、n−ヘプトキシ、n−オクトキシ、n−ノノキシ、n−デコキシである。
【0074】
「オキサアルキル」または「アルコキシアルキル」の用語は、好ましくは式C2n+1−O−(CHで表され、式中nおよびmは各々互いに独立して1〜10を示す直鎖状ラジカルを包含する。好ましくは、nは1であり、mは1〜6である。
【0075】
「フッ素化されたアルキルラジカル」の用語は、好ましくは一フッ素化または多フッ素化ラジカルを包含する。パーフルオロ化ラジカルは含まれる。特に好ましいのは、CF、CHCF、CHCHF、CHF、CHF、CHFCFおよびCFCHFCFである。
【0076】
「フッ素化されたアルコキシラジカル」の用語は、一フッ素化または多フッ素化されたラジカルを包含する。パーフルオロ化ラジカルが好ましい。特に好ましいのは、OCFラジカルである。
【0077】
本出願において、高周波技術は、1MHz〜1THz、好ましくは1GHz〜500GHz、より好ましくは2GHz〜300GHz、特に好ましくは5〜150GHzの範囲内の周波数を有する適用を意味する。
【0078】
本発明に従い、液晶媒体は、他の添加剤およびキラルドーパントを通常の濃度で含んでもよい。これらの他の構成物質の合計の濃度は、全体としての混合物を基準として0%〜10%、好ましくは0.1%〜6%の範囲内である。使用する個々の化合物の濃度は、各々好ましくは0.1%〜3%の範囲内である。これらのおよび同様の添加剤の濃度は、本出願における液晶媒体の液晶構成要素および液晶化合物の値および濃度範囲を引用する場合には考慮しない。
【0079】
本発明の液晶媒体は、複数種の化合物、好ましくは3〜30種、より好ましくは4〜20種および極めて好ましくは4〜16種の化合物からなる。これらの化合物を、慣用の方式で混合する。一般的に、より少ない量で使用する所望の量の化合物を、より多い量で使用する化合物に溶解する。温度がより高濃度において使用する化合物の透明点より高い場合には、溶解プロセスの完了を観察するのは特に容易である。しかし、例えば化合物の同族混合物(homologous mixture)または共融混合物であり得るいわゆるプレミックスを使用して、または、構成物質がそれら自体すぐに使用可能な混合物であるいわゆる「マルチボトル」系を使用して、他の慣用の方法で媒体を製造することもまた、可能である。
【0080】
すべての温度、例えば融点T(C,N)またはT(C,S)、スメクチック(S)からネマチック(N)相への転移T(S,N)および液晶の透明点T(N,I)を、摂氏度で引用する。すべての温度差異を、差異の度で引用する。
【0081】
本出願において、高周波技術は、1MHz〜1THz、好ましくは1GHz〜500GHz、好ましくは2GHz〜300GHz、特に好ましくは約5〜150GHzの範囲内の周波数を有する適用を意味する。当該適用は、好ましくは、通信伝送に適しているマイクロ波スペクトルまたは隣接する領域にあり、ここで「フェーズドアレイ」モジュールを、送信アンテナおよび受信アンテナにおいて使用することができる。
【0082】
本出願および以下の例において、液晶化合物の構造を頭文字によって示し、ここで化学式への変換を、以下の表AおよびBに従って行う。すべてのラジカルC2n+1およびC2m+1は、それぞれn個およびm個のC原子を有する直鎖状アルキルラジカルである;n、mおよびkは整数であり、好ましくは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12を示す。表Bにおけるコードは自明である。表Aにおいて、基本構造についての頭文字のみを示す。個々の場合において、基本構造の頭文字に、ダッシュによって分離して、置換基R1*、R2*、L1*およびL2*についてのコードが続く:
【0083】
【表1】
【0084】
好適な混合物構成要素を、表AおよびBに示す。
【化12】
【0085】
【化13】
【0086】
【化14】
【0087】
以下の例は、本発明を、いかなる意味においてもそれを限定せずに例示する。
しかし、物理的性質から、いかなる特性を達成することができるか、およびいかなる範囲においてそれらを修正することができるかは、当業者に明らかであろう。したがって、特に、好ましくは達成することができる様々な特性の組み合わせは、当業者のために良好に定義されている。
【0088】

使用したアセチレンおよびボロン酸は、商業的に入手可能であり、1,1,2−トリフルオロトリエチルシリルエテン構成ブロックを、標準的な実験手順によって合成する。
【0089】
合成例1:1−ヨード−4−ブロモナフタレン
【化15】
100g(350mmol)の1,4−ジブロモナフタレンを、最初に1lのTHF中に導入し、−70℃に冷却し、235mlのn−BuLi(ヘキサン中1.6M、370mmol)を滴加する。1時間後、250mlのTHF中の103gのI(406mmol)を滴加し、混合物を−70℃でさらに2時間撹拌し、0℃に加温し、50ml(644mmol)のNaHSO水溶液(w=39%)の添加によって反応を停止する。
【0090】
相を分離し、水相をMTBで1回抽出する。合わせた有機相を、飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物をカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン)によって精製し、さらなる精製を、イソプロパノールからの再結晶によって行い、1−ヨード−4−ブロモナフタレンを黄色固体として得る。
【0091】
合成例2:1−ブロモ−4−(4−n−プロピルフェニルエチニル)ナフタレン
【化16】
15.3g(43.6mmol)の1−ヨード−4−ブロモナフタレンおよび7.25g(5.3mmol)の4−n−プロピルフェニルアセチレンを、最初に200mlのNEt中に導入し、170mg(0.9mmol)のヨウ化銅(I)および600mg(0.9mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロリドを加え、混合物を30分間還流する。バッチを冷却し、水およびヘプタンを加え、相を分離する。有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物を、カラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン)によって精製し、さらなる精製を、イソプロパノールからの再結晶によって行う。
【0092】
合成例3:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−(Z−1,2−ジフルオロ−2−トリエチルシリルエチレニル)ナフタレン
【化17】
4.9g(13.2mmol)の1−ブロモ−4−(4−n−プロピルフェニルエチニル)ナフタレンを、最初に100mlのTHF中に導入し、−70℃に冷却し、9mlのn−BuLi(ヘキサン中1.6M、14.3mmol)を滴加する。1時間後、4g(19.6mmol)の純粋な1,1,2−トリフルオロトリエチルシリルエテンを加え、バッチをRTで一晩加温し、次に半飽和(semisaturated)塩化アンモニウム溶液の添加によって反応を停止する。バッチをMTBで希釈し、相を分離する。水相をMTBで抽出し、合わせた有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物を、カラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン→ヘプタン/MTB=10:1)によって精製する。
【0093】
合成例4:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−(E−1,2−ジフルオロエチレニル)ナフタレン
【化18】
前のステップから得られた生成物(13.2mmol)を、最初に100mlのTHFおよび5mlの水中に導入し、13mlのテトラブチルアンモニウムフルオリドの溶液(THF中1M、13mmol)を加える。バッチをRTで一晩撹拌し、半飽和塩化ナトリウム溶液およびMTBの添加によって反応を停止する。相を分離し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物を、カラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン)によって精製する。
【0094】
合成例5:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−(Z−1,2−ジフルオロ−2−ヨード−エチレニル)ナフタレン
【化19】
前のステップから得られた生成物(6mmol)を、最初に55mlのTHF中に導入し、−70℃に冷却し、4.3mlのn−BuLi(ヘキサン中1.6M、6.8mmol)を滴加する。1時間後、15mlのTHF中の1.9g(7.5mmol)のヨウ素を加え、混合物を−60℃で1時間撹拌する。バッチをその後0℃に加温し、水の添加によって反応を停止する。1g(4mmol)のチオ硫酸ナトリウム五水和物およびMTBを次に加え、相を分離する。水相をMTBで抽出し、合わせた有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物を、カラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン)によって精製する。
【0095】
合成例6:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(4−トリフルオロメチルフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化20】
2.48mmolのヨウ素および3.16mmolのボロン酸を、最初に30mlのトルエン中に導入し、15mlの水中の0.6g(2.28mmol)のNaCOおよび4mlのEtOHを加え、その後150mg(0.13mmol)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を加える。バッチを16時間還流し、冷却し、相を分離する。水相をトルエンで抽出し、合わせた有機相を飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーター中で蒸発させる。残留物をカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘプタン)によって精製し、さらなる精製をヘプタン/EtOH=20:1からの再結晶によって行う。
【0096】
【数9】
【0097】
以下のものを、合成例1〜6と同様にして製造する:
合成例7:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(4−n−ブチルフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化21】
表題化合物を、例6と同様にして、4−n−ブチルフェニルボロン酸を使用して製造する。
【0098】
【数10】
【0099】
合成例8:1−(4−n−プロピルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(3,4,5−トリフルオロフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化22】
【0100】
合成例9:1−(4−n−ブチルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(3,4,5−トリフルオロフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化23】
【0101】
合成例10:1−(4−n−ブチルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(4−n−ブチルフェニル)エチレニル]ナフタレン(1)
【化24】
【0102】
合成例11:1−(4−n−ブチルフェニルエチニル)−4−[E−1,2−ジフルオロ−2−(2,3−ジフルオロ−3−エトキシフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化25】
【0103】
合成例12:1,4−ビス−[E−1,2−ジフルオロ−2−(4−n−ブチルフェニル)エチレニル]ナフタレン
【化26】
【0104】
合成例13:4−(2−{4−[1,2−ジフルオロ−2−(4−メチルナフタレン−1−イル)ビニル]ナフタレン−1−イル}−1,2−ジフルオロビニル)−2’−フルオロ−4’’−ペンチル−[1,1’;4’,1’’]ターフェニル
【化27】
【0105】
合成例14:
【化28】
【0106】
混合物例1
以下の表中に示す組成および特性を有する液晶混合物M−1を、製造する。化合物(1)は、合成例10に由来する。
【0107】
【表2】
【0108】
この混合物を、マイクロ波領域における、特に移相器(「フェーズドアレイ」)のための適用のために使用する。
比較のために、構成要素(1)を有しない混合物C−1を、M−1の化合物番号1〜14から製造し、ここで化合物番号1〜14は、同一の相対的量において存在する。
【0109】
表:19GHz(20℃)における混合物M−1およびC−2の特性
【表3】
【0110】
同調可能性τおよび材料品質ηは、比較混合物C−1と比較して改善されている。
記載に従い、本発明の態様および変法の他の組み合わせはまた、以下の特許請求の範囲から生じる。