(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、物品の形状を測定するために、座標測定機により接触式プローブを測定対象物の表面に接触させて倣い移動をさせることで、測定対象物の形状についての測定データを取得することが行われている。
例えば、特許文献1では、タービンブレードの断面形状を測定するために、プローブの先端方向が任意に調整できる5軸制御の座標測定機を用い、測定対象物の表面に沿って蛇行させて表面形状データを取得し、あるいは測定対象物の外周を一巡させることで連続した断面形状データを取得している。
【0003】
断面形状については、多くの測定対象物で、複数の位置での断面形状が必要とされる。例えば、タービンブレード等の長手方向にずれるにつれて徐々に翼形が異なるものでは、長手方向へ所定間隔で変位した複数位置での断面形状を正確に測定することが求められる。
このような断面形状の測定においては、一般に、断面形状測定するために測定対象物を一巡する動作がひとつのパートプログラムで組まれ、測定すべき断面位置ごとに同プログラムを実行している。各測定動作の位置変更時には、プローブの接触、測定のための移動、測定対象物からの離脱、位置の変更といった動作が必要であり、各動作ではそれぞれ加速および減速が必要となるため、作業効率が低下する。
【0004】
これに対し、特許文献2では、複数位置の断面形状を連続して測定するべく、測定対象物にプローブをいったん接触させたら、所定位置で断面形状を測定した後、接触状態のまま位置を変更し、その位置で断面形状を測定する、という処理を繰り返し、一連の断面形状測定が終わったらプローブを測定対象物から離すようにしている。
特許文献2において、測定動作の始点および終点は測定対象物の長手方向に単純にずれた位置とされ、測定のための動作つまり測定対象物を一巡する動きは各測定位置で同様となっている。
【0005】
ところで、測定対象物が円筒形状である場合、複数の位置でそれぞれ一巡するのではなく、螺旋状の軌跡で表面形状を測定することも行われる。螺旋状の軌跡をなぞる場合、測定動作が連続的になるため、移動速度を一定にする等、測定動作の間の測定状態を安定させることができる。特許文献3では、このような螺旋状の形状測定を行うとともに、その測定動作の前後にプリスキャンパス(加速区間)およびポストスキャンパス(減速区間)を設定し、その間の螺旋状の移動を行う区間での測定動作が定常状態で行われるようにして測定データの安定化を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献3のような、加速区間および減速区間による測定データの安定化は有益であるが、前述した特許文献2のような複数の断面形状の連続測定とそのまま組み合わせることができない。
つまり、特許文献2の断面形状測定は、プローブを測定対象物の表面に接触させた状態のまま連続して測定を行うものの、測定対象物を一巡する測定動作のつど測定位置を変更する動作が必要であり、プローブの移動自体は不連続となる。従って、一連の測定動作の前後の加速減速は有効でないことになる。
一方、特許文献3は、測定動作の前後の加速減速により、定常状態での測定が行えるものの、螺旋状の軌跡に限定されるため複数の断面形状が直接測定できず、これを得るためには複雑な演算処理等が必要になる。
【0008】
本発明の目的は、定常状態で測定が行えるとともに、複数の断面形状が直接測定できる断面形状測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
接触式のプローブを用いて測定対象物の複数の測定位置で前記測定対象物の断面形状を測定する断面形状測定方法であって、前記測定位置を通りかつ前記測定対象物を一巡する経路に沿って前記プローブを移動させる際に、前記プローブを前記測定対象物の一周分より所定の重複区間だけ長い距離移動させるとともに、次の前記測定位置へと前記プローブを移動させる際に、前記プローブの移動方向を前記断面形状が隣接する方向に対して傾斜させて前記重複区間分を相殺することを特徴とする。
【0010】
このような本発明では、各測定位置において測定対象物を一巡する測定により、複数の断面形状が直接測定できるとともに、重複区間を利用してプローブの加速および減速を行うことができ、加速と減速との間の定常状態での測定を行うことができる。
この際、測定対象物を一巡する動作を、測定対象物の一周分より所定の重複区間だけ長い距離にわたって行うことで、測定動作を行う区間として測定対象物の一周分を確保することができる。
また、プローブの移動方向を断面形状が隣接する方向に対して傾斜させて重複区間分を相殺すること、つまり重複区間分の行き過ぎを戻すことで、各測定位置での測定動作の始点および終点を揃えることができる。
【0011】
本発明において、前記重複区間は前記プローブの加速を行う加速区間と、減速を行う減速区間とであり、前記加速区間と前記減速区間との間の測定区間が測定対象物の一周分であることが望ましい。
このような本発明では、測定区間での測定動作の前後に加速および減速を行うことができ、測定動作の際にプローブを定常状態とすることができるとともに、測定区間において定常状態での測定動作を測定対象物の一周分にわたって確保することができる。
【0012】
本発明において、前記断面形状として得られた測定データから測定動作の始点および終点の位置を取得し、前記始点および前記終点の中点を求め、前記測定データの前記始点および前記終点をそれぞれ前記中点に変更することが望ましい。
【0013】
このような本発明では、始点と終点との位置が相違した場合でもこれらを一致させることができる。このような調整を行う場合、始点および終点の近傍領域のデータについても始点および終点の調整に倣って順次変更し、測定データが滑らかになるように調整することが望ましい。対象とする近傍領域は、始点と終点とのずれ量に基づいて適宜設定すればよく、ずれが大きい場合は領域を長くし、ずれが小さければ領域は小さくてよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔装置構成〕
図1において、本実施形態の形状測定装置は、接触式のプローブ17を支持してその先端の三次元位置および向きを任意に制御できる5軸制御の三次元測定機1と、この三次元測定機1を駆動制御して接触位置の測定データを取り込んで測定対象物であるワーク30の複数位置での断面形状測定処理を実行するコンピュータ2とから構成されている。
【0016】
三次元測定機1は、上面が水平な定盤11を有し、定盤11は除震台10に支持されるとともに、定盤11上には、接触式のプローブ17を支持して三次元移動させる移動機構19とが設置されている。
【0017】
移動機構19は、定盤11の両端側に立設されたビーム支持体12A,12Bを有し、各々の上端によりX軸方向に延びるビーム13が支持されている。ビーム支持体12Aは、その下端がY軸駆動機構14によってY軸方向に駆動される。ビーム支持体12Bは、その下端がエアーベアリングによって定盤11にY軸方向に移動自在に支持されている。ビーム13には垂直方向(Z軸方向)に延びるコラム15が支持され、コラム15はビーム13に沿ってX軸方向に駆動される。コラム15にはホルダ16が支持され、ホルダ16はコラム15に沿ってZ軸方向に駆動される。各軸の駆動機構は、各軸における位置または移動量を検出する機能を有する。
【0018】
プローブ17は、ホルダ16の下端に装着される。プローブ17の先端には、例えば球形の接触子である先端球17Aを有するスタイラスが形成されている。プローブ17は、ホルダ16に装着される部分に対して先端球17Aを含むスタイラスを傾斜させる機能、および同スタイラスをホルダ16に装着される部分の中心軸まわりに回転させる機能を有する。
プローブ17は、前述した傾斜機能および回転機能とともに、移動機構19による三次元移動により5軸制御され、定盤11上に載置されたワーク30の表面の任意の位置に任意の方向から先端球17Aを接触させることができる。
【0019】
コンピュータ2は、コンピュータ本体21および操作用のキーボード22、表示装置24及びプリンタ25を備えている。
コンピュータ本体21は、図示しない演算処理装置および記憶装置などを備えるとともに、図示しないインターフェイスを介してプローブ17に接続されている。
コンピュータ2は、外部操作により起動され、記録されたプログラムを実行することで三次元測定機1の動作を制御し、プローブ17からの信号を処理して指定された測定結果を出力できるようになっている。
【0020】
〔測定手順〕
本実施形態においては、コンピュータ2で測定プログラムを実行することでコンピュータ2から三次元測定機1に動作指令が送られ、三次元測定機1において所定の測定動作が行われる。
具体的には、移動機構19によりプローブ17が定盤11に対して三次元移動されるとともに方向を制御され、ワーク30の周面に先端球17Aを接触させて表面形状の倣い測定を行うことにより、ワーク30の複数位置における断面形状を連続的に測定する。
【0021】
図2において、測定対象物であるワーク30は、例えば円筒状の物体であり、その連続する方向(円筒形状の中心軸線方向)が連続方向Lとされている。
本実施形態では、ワーク30の連続方向Lに所定間隔で配置される複数の測定位置S1,S2,…において、ワーク30の断面形状F1,F2,…を測定する。
このために、本実施形態では、プローブ17を移動させて先端球17Aをワーク30の
測定位置S1に順次接触させてワーク30の一周分の倣い形状測定を行うととともに、次の測定位置S2,…へと移動しつつ、同様な一周分の倣い形状測定を行ってゆく。
この際、プローブ17の移動を含む測定動作は、本発明に基づいて次のように行われる。
【0022】
測定動作に先立って、ワーク30の周面31に、プローブ17の動作に関する加速位置Aa、基準位置An、減速位置Adを設定しておく。
これらの各位置Aa,An,Adは、各測定位置S1,S2,…でプローブ17の接触、加速、測定、減速ないし次の位置への移動を規定するものであり、加速位置Aaから基準位置Anまでが加速区間Eaとされ、基準位置Anから減速位置Adまでが減速区間Edとされる。
【0023】
基準位置Anを基準にしてワーク30を一周する区間(一周分)が測定区間Enとされ、前の測定位置(例えば測定位置S1)の減速位置Adから次の測定位置(例えば測定位置S2)の加速位置Aaまでの区間が、プローブ17を次の測定位置へ移動させるための変移区間Emとされる。
なお、これらの加速位置Aa、基準位置An、減速位置Adは、例えばワーク30の連続方向Lを中心とした角度位置で規定され、連続方向Lの位置(各測定位置S1,S2,…)が決まることで具体的な周面31上の具体的な点の位置(断面形状F1,F2,…の輪郭線上の位置)として確定できればよい。
【0024】
これらの設定の後、プローブ17を移動させて具体的な測定を行う。
まず、第1の測定位置S1における断面形状F1を測定するために、測定位置S1の加速位置Aaである点P1へとプローブ17を移動させ、先端球17Aをこの点P1で周面31に接触させる(配置工程)。
続いて、プローブ17を移動させ、先端球17Aを周面31に接触させたまま加速区間Eaに沿って加速しつつ移動させ、基準位置Anの点P2において所定の測定速度(周面31に対する相対速度)となるように加速し、そのまま点P2を通過させる(加速工程)。
【0025】
プローブ17が点P2を通過したら、そのままプローブ17の移動を継続し、前述した測定速度を維持した状態でワーク30を一巡させ、一周分の測定区間Enにわたって周面31に摺接する先端球17Aの位置を記録する(測定工程)。
測定区間Enを経て再び基準位置Anの点P2へ戻ったら、そのまま点P2を通過させるとともに、減速区間Edに沿って移動させつつ減速し、減速位置Adである点P3において停止させる(減速工程)。
【0026】
続いて、次の測定位置(第2の測定位置S2)での測定に移るために、先端球17Aを周面31に接触させたまま、プローブ17を周面31に沿って斜め(連続方向Lに対して傾斜した状態)に移動させる(変移工程)。
そして、第1の測定位置S1と同様に、測定位置S2の加速位置Aaである点P4へとプローブ17を移動させる(配置工程)。
この後、第1の測定位置S1と同様に、加速工程(点P5まで加速)、測定工程(一周して点P5に戻る)、減速工程(点P6で停止)を行うことにより、第2の測定位置S2における断面形状F2を測定が行われる。
以下、各測定位置に対して同様の工程群を繰り返すことで、複数の測定位置S1,S2,…における断面形状F1,F2,…が測定できる。
【0027】
コンピュータ2においては、前述したプローブ17の位置が連続的に記録されている。具体的には、第1の測定位置S1の加速位置Aaである点P1で先端球17Aが周面31に接触した後、最後の測定位置で先端球17Aが周面31から離脱するまでの期間、ずっと先端球17Aの位置が記録されている。
このような原データに対して、測定工程で移動する測定区間Enにより各測定位置S1,S2,…におけるワーク30の一周分のデータを切り出すことで断面形状F1,F2,…として取得できる。つまり、測定位置S1においては、はじめに点P2を通過した時点(始点)からワーク30を一周して点P2に戻った時点(終点)までを切り出すことで第1の測定位置S1における断面形状F1が得られる。他の測定位置S2,…についても同様に切り出すことで断面形状F2,…が得られる。
【0028】
なお、本実施形態においては、断面形状F1,F2,…となる測定データが閉じた環状となるように、始点と終点との補正を行う。
図3に示すように、プローブ17がワーク30を一周する際、はじめに通った点P2に対して、三次元測定機1の動作精度の関係で、再び通る点P2’が微少なずれを生じることがある。この場合、断面形状F1の輪郭データとしては始点が点P2、終点が点P2’となり、環状に閉じていない。
【0029】
これに対し、本実施形態では、コンピュータ2におけるデータ処理にあたって、はじめに通った点P2と再び通る点P2’とを結ぶ直線を想定し、その中点となる点P2”を断面形状F1の輪郭データの始点であり終点である点に差し替える。さらに、断面形状F1の輪郭データのうち、例えば加速区間Eaおよび減速区間Edに相当する領域のデータを調整し、差し替えた始点であり終点である点P2”に滑らかに連続するように補正する。
このような始点および終点の補正を行うことで、閉じた環状の測定データによる断面形状F1,F2,…を得ることができる。
【0030】
以上のような本実施形態によれば次のような効果がある。
各測定位置S1,S2,…においてワーク30を一巡する測定により、複数の断面形状F1,F2,…が直接測定できるとともに、重複区間である加速区間Eaおよび減速区間Edを利用してプローブ17の加速および減速を行うことができ、測定区間Enにおいては加速あるいは減速のない定常状態での測定を行うことができる。
各測定位置S1,S2,…において、ワーク30を一巡する動作を、ワーク30の一周分より所定の重複区間(加速区間Eaと減速区間Edの和)だけ長い距離にわたって行うようにしたため、測定区間Enとしてワーク30の一周分を確保することができる。
【0031】
また、変移区間Emにおいて、プローブ17の移動方向をワーク30の連続方向L(断面形状F1,F2,…が隣接する方向)に対して傾斜させ、重複区間分を相殺する(つまり重複区間分の行き過ぎを戻す)ようにしたため、各測定位置S1,S2,…での測定動作の始点および終点を同じ基準位置Anに揃えることができる。
さらに、測定区間Enの始点である点P2および終点である点P2’が相違した場合でもこれらを補正して点P2”に一致させるようにしたため、各測定位置S1,S2,…における断面形状F1,F2,…の測定データを環状に閉じたものとすることができる。
【0032】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲内での変形等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、始点である点P2および終点である点P2’とを各々の中点である点P2”に補正したが、始点である点P2または終点である点P2’の何れかに補正するようにしてもよい。
【0033】
また、始点および終点の補正にあたって、滑らかに変化するように近傍領域のデータも補正するとしたが、このような補正を行う近傍領域は、前記実施形態のように加速区間Eaおよび減速区間Edにあわせてもよく、あるいは他の区間を別途設定してもよい。例えば、始点である点P2および終点である点P2’とのずれが大きい場合には、補正を加える近傍領域も大きくし、逆にずれが小さい場合は補正を行う近傍領域は小さくするとしてもよい。
さらに、近傍領域の補正を省略し、点P2の輪郭データと点P2’の輪郭データとの平均値を、点P2”の輪郭データとする補正のみとしてもよい。このようにすれば、近傍領域の補正を行った場合よりも輪郭データとしての滑らかさが低下するが、演算処理を一層簡単にすることができる。
【0034】
前記実施形態では、加速区間Eaおよび減速区間Edをほぼ同じ長さとしたが、これらは異なる長さとしてもよく、各々の長さも実施にあたって適宜設定すればよい。
前記実施形態では、減速区間Edで減速位置Adに達したら、一旦停止して変移区間Emに移行するものとしたが、減速位置Adで停止することなく、緩やかな円弧状軌跡を描きつつ変移区間Emに移行するようにしてもよい。
同様に、変移区間Emから加速区間Eaに移行する際にも、加速位置Aaで一旦停止することなく、緩やかな円弧状軌跡を描きつつ加速区間Eaに移行するようにしてもよい。
【0035】
前記実施形態では、測定対象物として円筒状のワーク30を用いたが、測定対象物は他の形状であってもよく、例えば
図4に示すように、タービンブレード30Aに好適に使用できる。さらに、タービンブレード30Aに限らず、その他の翼材、長尺の加工品などにも適用できる。また、長尺の測定対象物に限らず、ブロック状その他の塊状の測定対象物に対しも適用可能である。