(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る酸化物粉末の製造方法は、In、Ga、Alのうち少なくとも1つの元素と、Znと、を含む酸化物焼結体を粉砕して粉砕粉末を作製する。
【0011】
上記粉砕粉末は、酸素の体積比率が25%以上の気体中で、800℃以上1100℃以下の温度範囲で加熱される。
【0012】
この酸化物粉末の製造方法によれば、高密度のスパッタリングターゲットを製造可能な酸化物粉末が得られる。
【0013】
本発明の別の実施形態に係る酸化物粉末の製造方法は、上記酸化物焼結体が、InGaZnO
xで表される組成を有してもよい。
【0014】
この酸化物粉末の製造方法によれば、透明導電膜として有用なInGaZnO
Xで表される組成を有するスパッタリングターゲットを製造可能な酸化物粉末が得られる。
【0015】
本発明の別の実施形態に係る酸化物粉末の製造方法は、上記酸化物焼結体が、使用済みのスパッタリングターゲットであってもよい。
【0016】
この酸化物粉末の製造方法によれば、スパッタリングターゲットのリサイクルが可能となり、スパッタリングターゲットのコストダウンが図れる。
【0017】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、In、Ga、Alのうち少なくとも1つの元素と、Znと、を含む酸化物焼結体を粉砕して粉砕粉末を作製する。
【0018】
上記粉砕粉末は、酸素の体積比率が25%以上の気体中で、800℃以上1100℃以下の温度範囲で加熱される。
【0019】
上記酸化物粉末は、1350℃より高く、1450℃以下である温度範囲で焼結させられる。
【0020】
このスパッタリングターゲットの製造方法によれば、高密度のスパッタリングターゲットが得られる。
【0021】
本発明の別の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、上記酸化物焼結体が、InGaZnO
xで表される組成を有してもよい。
【0022】
このスパッタリングターゲットの製造方法によれば、透明導電膜として有用なInGaZnO
Xで表される組成を有するスパッタリングターゲットが得られる。
【0023】
本発明の別の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、上記酸化物焼結体が、使用済みのスパッタリングターゲットであってもよい。
【0024】
このスパッタリングターゲットの製造方法によれば、スパッタリングターゲットのリサイクルが可能となり、スパッタリングターゲットのコストダウンが図れる。
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0026】
本実施形態では、組成がInGaZnO
XであるIGZO系材料で形成されたスパッタリングターゲットについて説明する。ここで、未使用のスパッタリングターゲットをT
Vと呼び、使用済みのスパッタリングターゲットをT
Rと呼ぶこととする。
【0027】
原料粉末とスパッタリングターゲットT
Rとを比較すると、酸素の含有比率が異なることがわかった。具体的には、スパッタリングターゲットT
Rは、スパッタリングターゲットT
Vよりも酸素量Xの値が小さい。これは、スパッタリングターゲットは、使用に伴って還元されることを示している。
【0028】
さらに、酸素の含有比率の低い低密度のスパッタリングターゲットは異常放電を起こすことがある。そのため、低密度のスパッタリングターゲットでは、良好な薄膜を形成することが困難である。
【0029】
したがって、スパッタリングターゲットT
Rを原料粉末と同等のものとしてリサイクルするためには、スパッタリングターゲットT
Rの酸素の含有比率を増大させる必要がある。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットT
Rのリサイクル方法を示したフローチャートである。
【0031】
まず、ターゲットT
Rの長径が30mm程度以下になるように、ターゲットT
Rを粉砕する。(S−1)。
【0032】
次に、ターゲットT
R粉末を純水とともに樹脂ポットに充填し、樹脂ポットを回転させる(湿式自生粉砕法)。これにより、ターゲットT
Rは、個々の粒子同士が繰り返し衝突ことにより自生粉砕し、微粉末となる(S−2)。ターゲットT
Rを微粉末とする方法としては、湿式自生粉砕法以外にも、ジェットミル法やスターバースト法を用いることができる。
【0033】
そして、ターゲットT
Rの微粉末を、乾燥させた後に、ふるいを用いて造粒する(S−3)。次に、造粒されたターゲットT
Rの微粉末の再酸化処理を行う(S−4)。
【0034】
図2は、電気炉1を用いてターゲットT
Rの微粉末の再酸化処理を行っている状態を示した概略図である。電気炉1には、電気炉1内を加熱するヒータ11と、電気炉1内に酸素を導入するためのガス導入管12と、電気炉1内を大気圧に保つために電気炉1内の気体を外部に排出するガス排出管13と、が設けられている。ヒータ11は、電気炉1内の加熱中の温度ムラが低減されるように、対向する内壁面にそれぞれ配置されている。
【0035】
ターゲットT
Rの微粉末は、複数の匣鉢3内に小分けされ、電気炉1内に載置されている。匣鉢3は、蓋付きの容器であり、反応性の低いアルミナなどの材料で形成されている。
【0036】
電気炉1は、電気炉1内の温度および酸素の濃度(体積比率)を制御するための制御手段を備えている。制御手段には、温度センサ(不図示)および酸素濃度センサ(不図示)が含まれる。
【0037】
制御手段は、温度センサによる検出結果に応じてヒータ11を駆動させることにより電気炉1内の温度を制御する。電気炉1では、制御手段により、電気炉1内の温度を一定に保持することが可能である。
【0038】
また、制御手段は、酸素濃度センサによる検出結果に応じてガス導入管12からの酸素の流量(単位は「l/min」である。)を制御する。電気炉1内の酸素の濃度は、ガス導入管12からの酸素の流量に依存する。具体的には、ガス導入管からの酸素の流量が多いと電気炉1内の酸素の濃度が高くなり、ガス導入管からの酸素の流量が少ないと電気炉1内の酸素の濃度が低くなる。電気炉1では、制御手段により、電気炉1内の酸素の濃度を一定に保持することが可能である。
【0039】
ターゲットT
Rの微粉末の再酸化処理工程(S−4)では、
図2に示した状態で、電気炉1内の温度が800℃以上1100℃以下であり、かつ、電気炉1内の酸素の濃度が25体積比%以上である状態で保持する。本実施形態では、保持時間は5時間である。しかし、保持時間は適宜変更可能である。
【0040】
再酸化処理工程(S−4)における電気炉1内の温度が800℃より低い場合には、ターゲットT
R粉末の酸化が不十分となる。また、再酸化処理工程(S−4)における電気炉内の温度が1100℃より高い場合には、ターゲットT
R粉末の結晶の肥大化や結晶粒径のばらつきが発生する虞がある。そのため、再酸化処理工程(S−4)における電気炉1内の温度が、800℃より低くても、1100℃より高くても、製造されたターゲットが密度不良を起こす場合がある。
【0041】
再酸化処理工程(S−4)により、匣鉢3内のターゲットT
R粉末が酸化し、原料粉末の酸素の含有比率と同等のリサイクル粉末が得られる。
【0042】
再酸化処理工程(S−4)後のリサイクル粉末は、匣鉢3内で粉末が凝集して微粉末状ではなくなっている。そのため、再酸化処理(S−4)後のリサイクル粉末を純水およびZrO
2ボールとともに樹脂ポットに充填し、樹脂ポットを回転させる(湿式ボールミル法)。これにより、リサイクル粉末は、ZrO
2ボールとの衝突を繰り返し、再び微粉末となる(S−5)。
【0043】
そして、リサイクル粉末を乾燥させた後に、ふるいを用いて造粒する(S−6)。なお、リサイクル粉末は、スプレードライヤにより乾燥と造粒とを同時に行ってもよい。
【0044】
次に、リサイクル粉末を、プレス成形し(S−7)、電気炉で焼結させリサイクルターゲットとする(S−8)。リサイクルターゲットの焼結に用いる電気炉には、
図2に示すものと同等のものを利用することができる。焼結工程(S−8)における電気炉内の温度は、1350℃より高く、1450度以下の範囲内であればよい。
【0045】
焼結工程(S−8)における電気炉内の温度が1350℃以下である場合には、良好な焼結性が得られず、密度の高いリサイクルターゲットが得られない。また、焼結工程(S−8)における電気炉内の温度が1450℃より高い場合には、リサイクルターゲットの結晶の肥大化や結晶粒径のばらつきが発生する虞がある。そのため、焼結工程(S−8)における電気炉内の温度が、1350℃以下であっても、1450℃より高くても、製造されたリサイクルターゲットが異常放電を起こす場合がある。
【0046】
また、焼結工程(S−8)における電気炉内の酸素の濃度は空気以上であればよい。すなわち、リサイクルターゲットは、大気中で焼結させても、酸素を電気炉内に導入しながら焼結させてもよい。
【0047】
なお、上記の成形工程(S−7)および焼結工程(S−8)の2つの工程に代えて、HP(Hot Press)法や、HIP(Hot Isostatic Press)法を用いてもよい。
【0048】
以上のようにして得られたリサイクルターゲットの相対密度D
Rは98%以上となり、当該リサイクルターゲットを使用して、ターゲットT
vを使用した場合と同様の良好な薄膜を形成することができた。
【0049】
ここで、相対密度D
Rは、リサイクルターゲットの密度Dと、InGaZnO
4の理論密度V
Tと、を用いて以下の式により求められる。
【0051】
リサイクルターゲットの密度Dは、たとえばアルキメデス法により求められる。また、InGaZnO
4の理論密度V
Tは、6.4g/cm
3として計算した。
【0052】
なお、再酸化処理(S−4)後のリサイクル粉末は、スパッタリングターゲットを製造する際の原料粉末の一部に用いることもできる。この場合、たとえば、ボールミル法(S−5)を行う際に、リサイクル粉末とともに原料粉末を混ぜてもよい。その際におけるリサイクル粉末と原料粉末との比率は任意である。
【0053】
また、本実施形態に係るリサイクル方法は、In,Ga,Alのうちの少なくとも1つの元素と、Znと、を含む酸化物で形成されたスパッタリングターゲット全般に適用可能である。たとえば、当該リサイクル方法は、In
2Ga
2ZnO
Xなどの、InGaZnO
X以外のIGZO系材料や、IZO系材料や、AZO系材料などにも適用可能である。
[実験例]
【0054】
スパッタリングターゲット(サンプル1〜13)を作製し、相対密度の測定、およびスパッタリング測定を行った。各サンプルの形状はいずれもφ6インチ×6mmとした。また、スパッタリングテストは、DCスパッタで、電力量:4W/cm
2、真空到達度:5×10
−5Pa、Arガス圧力:0.5Pa、基板温度:200℃、の条件で行った。
【0055】
スパッタリングテストは、放電特性として、単位時間(h:Hour)あたりの異常放電の回数で評価を行った。異常放電の回数が10回/h未満である場合を「A」とし、異常放電の回数が10回/h以上100回/h未満である場合を「B」とし、異常放電の回数が100回/h以上である場合を「C」とした。
【0056】
表1は、スパッタリングターゲット(サンプル1〜7)における、各工程の条件、相対密度(%)、およびスパッタリングテストの結果を示している。
【0058】
再酸化処理工程(
図1のS−4)における電気炉内の酸素濃度(体積比率)を25%以上100%以下とし、電気炉内の温度を800℃以上1100℃以下とした。また、焼結工程(
図1のS−8)で用いる粉末のうち、リサイクル粉末の比率を10%〜100%の間とし、残りの粉末には原料粉末を用いた。また、焼結工程における電気炉内の温度を1400℃とした。
【0059】
表1に示すように、いずれのサンプルでも、相対密度98%以上であり、かつスパッタリングテストにおける異常放電は見られなかった。また、リサイクル粉末の比率は酸化物焼結体の相対密度および異常放電の有無に影響を与えないことがわかった。
【0060】
なお、焼結温度は、1400℃からの誤差が小さければ同様の結果が得られることがわかった。具体的には、焼結温度は1350℃より高く、1450℃以下であればよい。
【0061】
表2は、スパッタリングターゲット(サンプル8〜13)における、各工程の条件、相対密度(%)、およびスパッタリングテストの結果を示している。
【0063】
サンプル8〜10では、再酸化処理の条件について検討を行った。そのため、焼結工程(
図1のS8)以外の工程の条件は、実験例1に倣い、良好なターゲットが得られるものとした。
【0064】
サンプル8は、再酸化処理工程(
図1のS−4)を大気中で行って作製した。したがって、再酸化処理工程における酸素濃度(体積比率)は20%程度である。その結果、サンプル8は、相対密度95.0%であり、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、再酸化処理工程における酸素濃度が低く、サンプル8の酸化が不十分であったためである。
【0065】
サンプル9は、再酸化処理工程(
図1のS−4)における電気炉内の温度を1200℃として作製した。その結果、サンプル9は、相対密度96.0%であり、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、再酸化処理工程における電気炉内の温度が高く、サンプル9の結晶の肥大化や結晶粒径のばらつきが発生したためであると考えられる。
【0066】
サンプル10は、再酸化処理工程(
図1のS−4)における電気炉内の温度を700℃として作製した。その結果、サンプル10は、相対密度93.0%であり、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、再酸化処理工程における電気炉内の温度が低く、サンプル10の酸化が不十分であったためである。
【0067】
実験例11〜13では、焼結温度について検討した。そのため、再酸化処理工程(
図1のS−4)の条件等、焼結工程(
図1のS−8)より前の工程の条件は、実験例1に倣い、良好なターゲットが得られるものとした。
【0068】
サンプル11は、焼結工程(
図1のS−8)における電気炉内の温度を1300℃として作製した。その結果、サンプル11は、相対密度95.0%であり、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、焼結工程における電気炉内の温度が低く、サンプル11の焼結性が不十分であったためである。
【0069】
サンプル12は、焼結工程(
図1のS−8)における電気炉内の温度を1500℃として作製した。その結果、サンプル12は、相対密度98.0%であったものの、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、焼結工程における電気炉内の温度が高く、サンプル12の結晶の肥大化や結晶粒径のばらつきが発生したためであると考えられる。
【0070】
サンプル13は、焼結工程(
図1のS−8)における電気炉内の温度を1350℃として作製した。その結果、サンプル13は、相対密度95.0%であり、スパッタリングテストにおける異常放電が見られた。これは、焼結工程における電気炉内の温度が低く、サンプル13の焼結性が不十分であったためである。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0072】
たとえば、本実施形態では、InGaZnO
Xで表される組成を有するスパッタリングターゲットについて説明したが、これ以外の組成でも、本実施形態に係る再酸化処理工程および焼結工程を行うことにより、相対密度98%以上のスパッタリングターゲットが得られている。具体的には、In
2Ga
2ZnO
XなどのIGZO系材料、IZO系材料、AZO系材料で、相対密度98%以上のスパッタリングターゲットが得られた。