特許第5763677号(P5763677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5763677
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】電解質配合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/58 20060101AFI20150723BHJP
   C07D 295/02 20060101ALI20150723BHJP
   H01M 14/00 20060101ALI20150723BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150723BHJP
   H01L 31/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C07D233/58
   C07D295/02 Z
   H01M14/00 P
   H01B1/06 Z
   H01L31/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-548371(P2012-548371)
(86)(22)【出願日】2011年1月12日
(65)【公表番号】特表2013-517229(P2013-517229A)
(43)【公表日】2013年5月16日
(86)【国際出願番号】EP2011000088
(87)【国際公開番号】WO2011085964
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2014年1月10日
(31)【優先権主張番号】10000391.2
(32)【優先日】2010年1月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】川田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】篠原 浩美
(72)【発明者】
【氏名】キルシュ,ピール
(72)【発明者】
【氏名】イグナティフ,ニコライ(ミコラ)
(72)【発明者】
【氏名】ピットナー,ウイリアム−ロバート
(72)【発明者】
【氏名】アウスト,エミール,フェルディナンド
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−517546(JP,A)
【文献】 特表2008−517002(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/083901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07F
H01B
H01L
H01M
CAPLUS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
Kt[B(CN) (I)
式中、Ktは、以下の群
【化1】
から選択された有機カチオンであり、
ここで、置換基
1’〜R10’は、各々、互いに独立して
1’およびR4’が同時にはHではないことを前提として、H、
1〜20個のC原子を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の二重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の三重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキニル、または
2〜8個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルコキシアルキル
を示す、
で表される少なくとも1種の化合物を含み、アニオンジフルオロジシアノボレートを0.1〜5.5Mのモル濃度において含む、光電子デバイス用電解質配合物。
【請求項2】
式(I)で表される化合物のKtが、
【化2】
であり、式中置換基R2’およびR3’がHであり、R5’がHまたは1〜4個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキルであり、R1’およびR4’が各々互いに独立して1〜20個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキルまたは3個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルケニルである、請求項1に記載の電解質配合物。
【請求項3】
式(I)で表される化合物のKtが、
【化3】
であり、式中置換基R2’、R3’、R5’〜R10’がHであり、R1’およびR4’が各々互いに独立して1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルである、請求項1に記載の電解質配合物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の電解質配合物を含む光電子デバイスであって、光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックおよび/またはフォトエレクトロクロミックデバイスである、前記デバイス。
【請求項5】
色素または量子ドット増感太陽電池である、請求項に記載のデバイス。
【請求項6】
色素増感太陽電池である、請求項に記載のデバイス。
【請求項7】
半導体、請求項1〜のいずれか一項に記載の電解質配合物および対電極を含む、請求項に記載のデバイス。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の電解質配合物の、光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックおよび/またはフォトエレクトロクロミックデバイスでる光電子デバイスにおける使用。
【請求項9】
デバイスが色素増感太陽電池である、請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のイミダゾリウムジフルオロジシアノボレートまたはピロリジニウムジフルオロジシアノボレートを含む電解質配合物ならびに電気化学的および/または光電子デバイス、例えば光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックまたはフォトエレクトロクロミック(photo-electrochromic)デバイス、電気化学的センサーおよび/またはバイオセンサーにおけるそれらの使用、好ましくは色素または量子ドット増感太陽電池におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質配合物は、電気化学的デバイスおよび/または光電子デバイスの極めて重要な部分を形成し、デバイスの性能は、これらの電解質の様々な構成成分の物理的および化学的特性に大いに依存する。
電解質の用語を、本明細書中で以下に定義する電解質配合物の意味において使用し、同等に本開示内での電解質配合物に対して使用する。
【0003】
多くの電気化学的デバイスおよび/または光電子デバイスならびに特に色素または量子ドット増感太陽電池の技術的な適用を未だ妨げている要因は、有機溶媒に基づく電解質の揮発性によって引き起こされた信頼性の問題である。電解質の例えばDSCパネル中での漏出しない密封を維持することは、極めて困難であり、それは毎日の昼夜サイクルの温度差および付随する電解質の熱膨張に耐えなければならない。DSCの略号は、色素増感太陽電池を意味する。この問題を、原理的にはイオン性液体に基づく電解質の使用によって解決することができる。総括“Ionic liquid electrolytes for dye-sensitized solar cells”については:M. Gorlov and L. Kloo, Dalton Trans., 2008, p. 2655-2666を参照。
【0004】
イオン性液体または液体塩は、典型的には、有機カチオンおよび一般的には無機アニオンからなり、通常373Kより低い融点を有するイオン種である。様々な二成分系のイオン性液体電解質が、最近色素増感太陽電池に適用されている。WO 2007/093961およびWO 2009/083901には、テトラシアノボレート(TCB)アニオンを有する相当な量の有機塩を含むDSCのためのイオン性液体に基づく電解質における、現在のところ最良の電力変換効率が記載されている。
【0005】
しかし、特に室温より低く、液体凍結および沈殿が起こり得る温度(すなわち0℃〜20℃の範囲内)を十分上回る温度で等しいか、または改善されたDSC効率を有するイオン性液体に基づく、新規であり改善された電解質についての需要が継続している。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の目的は、増大した電力変換効率を有する電気化学的デバイスおよび/または光電子デバイス、例えば光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックまたはフォトエレクトロクロミックデバイス、電気化学的センサーおよび/またはバイオセンサーのための、特に色素または量子ドット増感太陽電池のための、特に好ましくは広い温度範囲にわたる、特にさらに低温における色素増感太陽電池のための、電解質配合物を提供することにある。低温を、0℃〜20℃の温度範囲として定義する。
【0007】
驚くべきことに、ジフルオロジシアノボレートアニオンを含む電解質配合物がそのような要求を満たすことが見出された。
ジフルオロジシアノボレートアニオンを含む配合物は、対電極におけるレドックス対種(例えばIおよびI)のネルンスト拡散抵抗ならびに電荷移動抵抗を、上記で定義した低温で低減すると考えられている。
【0008】
したがって、本発明は第1に、式(I)
Kt[B(CN) (I)
式中、Ktは、以下の群
【化1】
から選択された有機カチオンであり、
【0009】
ここで、置換基
1’〜R10’は、各々、互いに独立して
1’およびR4’が同時にはHではないことを前提として、H、
1〜20個のC原子を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の二重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の三重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキニル、または
2〜8個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルコキシアルキル
を示す、
で表される少なくとも1種の化合物を含む電解質配合物に関する。
【0010】
イミダゾリウムカチオンを有する式(I)で表される化合物は、WO 2004/072089から知られている。しかし、WO 2004/072089には、上記で記載した式(I)で表される化合物を含む電解質配合物が記載されておらず、それには、所与の電気化学的デバイスおよび/または光電子デバイスのための、特にDSCのための電解質配合物の構成成分としてのこれらの化合物の特定の実用性が開示されていない。
【0011】
同様の有機塩は、さらにJP2004-175666に記載されており、それは、式[(CN)4−aB]で表され、式中Xがハロゲン原子であり、aが1〜3の整数であるアニオンを有するオニウム塩を意味する。トリフルオロシアノボレートは、当該文献中に好ましいアニオンとして開示されている。さらに、この文献には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロシアノボレート、テトラエチルアンモニウムトリフルオロシアノボレートまたはトリメチル−プロピルアンモニウムトリフルオロシアノボレートを含む電解質配合物が開示されているに過ぎない。上記で記載した式(I)で表される化合物が以下に示す顕著な特性を示すという暗示はない。
【0012】
したがって、本発明は、従来技術の知識からの選択発明である。比較データを以下に示す。
電解質配合物は、前記の必要な、または任意の構成成分を含有し(include)、もしくは含み(comprise)、本質的にそれからなるか、またはそれからなってもよい。
【0013】
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のC原子を有するアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−、2−または3−メチルブチル、1,1、1,2−または2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシルまたはエイコシルを示し、それは任意にフッ素化またはパーフルオロ化されていてもよい。用語「パーフルオロ化」は、すべてのH原子が所与のアルキル基においてF原子によって置換されていることを意味する。用語「フッ素化されている」は、所与のアルキル基の少なくとも1個のH原子がF原子によって置換されていることを意味する。
【0014】
2〜20個のC原子を有し、ここで複数の二重結合がまた存在してもよい、直鎖状または分枝状アルケニルは、例えばアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに4−ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、−C17、−C1019〜−C2039、好ましくはアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに好ましくは4−ペンテニル、イソペンテニルまたはヘキセニルであり、それは任意にフッ素化またはパーフルオロ化されていてもよい。
【0015】
2〜20個のC原子を有し、ここで複数の三重結合がまた存在してもよい、直鎖状または分枝状アルキニルは、例えばエチニル、1−または2−プロピニル、2−または3−ブチニル、さらに4−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、−C15、−C1017〜−C2037、好ましくはエチニル、1−もしくは2−プロピニル、2−もしくは3−ブチニル、4−ペンチニル、3−ペンチニルまたはヘキシニルであり、それは任意にフッ素化またはパーフルオロ化されていてもよい。
【0016】
2〜12個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルコキシアルキルは、例えばメトキシメチル、1−メトキシエチル、1−メトキシプロピル、1−メトキシ−2−メチル−エチル、2−メトキシ−プロピル、2−メトキシ−2−メチル−プロピル、1−メトキシブチル、1−メトキシ−2,2−ジメチル−エチル、1−メトキシ−ペンチル、1−メトキシヘキシル、1−メトキシ−ヘプチル、エトキシメチル、1−エトキシエチル、1−エトキシプロピル、1−エトキシ−2−メチル−エチル、1−エトキシブチル、1−エトキシ−2,2−ジメチル−エチル、1−エトキシペンチル、1−エトキシヘキシル、1−エトキシヘプチル、プロポキシメチル、1−プロポキシエチル、1−プロポキシプロピル、1−プロポキシ−2−メチル−エチル、1−プロポキシブチル、1−プロポキシ−2,2−ジメチル−エチル、1−プロポキシペンチル、ブトキシメチル、1−ブトキシエチル、1−ブトキシプロピルまたは1−ブトキシブチルである。特に好ましいのは、メトキシメチル、1−メトキシエチル、2−メトキシ−プロピル、1−メトキシプロピル、2−メトキシ−2−メチル−プロピルまたは1−メトキシブチルである。
【0017】
本発明において、式(I)で表される化合物の好適な置換基R1’〜R10’は、H以外には、好ましくは:C〜C20、特にC〜Cアルキル基である。
置換基R1’およびR4’は、各々、互いに独立して、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルまたはn−ヘキシルである。それらは、極めて特に好ましくはメチル、エチル、n−ブチルまたはn−ヘキシルである。ピロリジニウムまたはイミダゾリウムにおいて、2つの置換基R1’およびR4’は、好ましくは異なっている。
【0018】
置換基R2’、R3’、R5’〜R10’は、各場合において互いに独立して、特にH、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチルである。イミダゾリウム環のR5’は、特に好ましくはH、メチル、エチル、イソプロピル、プロピルまたはn−ブチル、特に好ましくはHまたはメチルである。イミダゾリウム環のR2’およびR3’は、好ましくはHである。ピロリジニウム環の置換基R2’、R3’、R5’〜R10’は、好ましくはHである。
【0019】
好ましい1,1−ジアルキルピロリジニウムカチオンは、例えば1,1−ジメチルピロリジニウム、1−メチル−1−エチルピロリジニウム、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム、1−メチル−1−ブチルピロリジニウム、1−メチル−1−ペンチルピロリジニウム、1−メチル−1−ヘキシルピロリジニウム、1−メチル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−メチル−1−オクチルピロリジニウム、1−メチル−1−ノニルピロリジニウム、1−メチル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジエチルピロリジニウム、1−エチル−1−プロピルピロリジニウム、1−エチル−1−ブチルピロリジニウム、1−エチル−1−ペンチルピロリジニウム、1−エチル−1−ヘキシルピロリジニウム、1−エチル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−エチル−1−オクチルピロリジニウム、1−エチル−1−ノニルピロリジニウム、1−エチル−1−デシルピロリジニウム、
【0020】
1,1−ジプロピルピロリジニウム、1−プロピル−1−メチルピロリジニウム、1−プロピル−1−ブチルピロリジニウム、1−プロピル−1−ペンチルピロリジニウム、1−プロピル−1−ヘキシルピロリジニウム、1−プロピル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−プロピル−1−オクチルピロリジニウム、1−プロピル−1−ノニルピロリジニウム、1−プロピル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジブチルピロリジニウム、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−ブチル−1−ペンチルピロリジニウム、1−ブチル−1−ヘキシルピロリジニウム、1−ブチル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−ブチル−1−オクチルピロリジニウム、1−ブチル−1−ノニルピロリジニウム、1−ブチル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジペンチルピロリジニウム、1−ペンチル−1−ヘキシルピロリジニウム、1−ペンチル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−ペンチル−1−オクチルピロリジニウム、1−ペンチル−1−ノニルピロリジニウム、1−ペンチル−1−デシルピロリジニウム、
【0021】
1,1−ジヘキシルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−オクチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−ノニルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジヘキシルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−ヘプチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−オクチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−ノニルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジヘプチルピロリジニウム、1−ヘプチル−1−オクチルピロリジニウム、1−ヘプチル−1−ノニルピロリジニウム、1−ヘプチル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジオクチルピロリジニウム、1−オクチル−1−ノニルピロリジニウム、1−オクチル−1−デシルピロリジニウム、1,1−ジノニルピロリジニウム、1−ノニル−1−デシルピロリジニウムまたは1,1−ジデシルピロリジニウムである。極めて特に好ましいのは、1−ブチル‐1−メチルピロリジニウムまたは1−プロピル−1−メチルピロリジニウムである。
【0022】
好ましい1−アルキル−1−アルコキシアルキルピロリジニウムカチオンは、例えば1−(2−メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウム、1−(2−メトキシエチル)−1−エチルピロリジニウム、1−(2−メトキシエチル)−1−プロピルピロリジニウム、1−(2−メトキシエチル)−1−ブチルピロリジニウム、1−(2−エトキシエチル)−1−メチルピロリジニウム、1−エトキシメチル−1−メチルピロリジニウムである。極めて特に好ましいのは、1−(2−メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウムである。
【0023】
好ましい1,3−ジアルキルイミダゾリウムカチオンは、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウム、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウム、1−エチル−3−ペンチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−プロピルイミダゾリウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,3−ジプロピルイミダゾリウム、1,3−ジブチルイミダゾリウム、1,3−ジペンチルイミダゾリウム、1,3−ジヘキシルイミダゾリウム、1,3−ジヘプチルイミダゾリウム、1,3−ジオクチルイミダゾリウム、1,3−ジノニルイミダゾリウム、1,3−ジデシルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘプチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−メチル−3−ノニルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウム、1−エチル−3−ヘプチルイミダゾリウム、1−エチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−エチル−3−ノニルイミダゾリウムまたは1−デシル−3−エチルイミダゾリウムである。特に好ましいカチオンは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムまたは1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムである。
【0024】
好ましい1−アルコキシアルキル−3−アルキルイミダゾリウムカチオンは、例えば1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム、1−(2−メトキシエチル)−3−エチルイミダゾリウム、1−(2−メトキシエチル)−3−プロピルイミダゾリウム、1−(2−メトキシエチル)−3−ブチルイミダゾリウム、1−(2−エトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム、1−エトキシメチル−3−メチルイミダゾリウムである。
好ましい1−アルケニル−3−アルキルイミダゾリウムカチオンは、例えば1−アリル−3−メチル−イミダゾリウムまたは1−アリル−2,3−ジメチルイミダゾリウムである。
【0025】
化学において、電解質は、物質を電気的に伝導性にする遊離のイオンを含むあらゆる物質である。最も典型的な電解質は、イオン性溶液であるが、溶融した電解質および固体の電解質もまた、可能である。
したがって、本発明の電解質配合物は、基本的に、溶解したかまたは溶融した状態で存在する、すなわちイオン種の運動によって電気伝導性を支持する少なくとも1種の物質の存在により電気的に伝導性の媒体である。
【0026】
特に好ましくは、本発明の電解質配合物は、上記で記載したか、または好ましく記載したイミダゾリウムについての所与の式を有する式(I)で表される少なくとも1種の化合物を含む。
【0027】
本発明はさらに、上記で記載した式(I)で表され、式中式(I)で表される化合物のKtが、
【化2】
であり、式中置換基R2’およびR3’がHであり、R5’がHまたは1〜4個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキルであり、R1’およびR4’が各々互いに独立して1〜20個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキルまたは3個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルケニルである、少なくとも1種の化合物を含む電解質配合物に関する。
【0028】
本発明はまた、式(I)で表され、式中式(I)で表される化合物のKtが、
【化3】
であり、式中置換基R2’、R3’、R5’〜R10’がHであり、R1’およびR4’が各々互いに独立して1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルである、少なくとも1種の化合物を含む電解質配合物に関する。
【0029】
特に好ましくは、本発明の電解質配合物は、イミダゾリウムについての所与の式および置換基R1’〜R5’の定義または上記で記載したジアルキルイミダゾリウムまたは1−アルコキシアルキル−3−アルキルイミダゾリウムの特に好ましい意味を有する、式(I)で表される少なくとも1種の化合物を含む。
【0030】
電解質配合物におけるジフルオロジシアノボレートアニオンの典型的なモル濃度は、0.1〜5.5M、好ましくは0.8〜3.5Mの範囲内である。電解質中のこのモル濃度を、式(I)で表される1種もしくは2種以上の化合物または式(I)で表される少なくとも1種の化合物およびジフルオロジシアノボレートアニオンを有する少なくとも1種の無機塩を含む混合物を使用して達成してもよい。
【0031】
ジフルオロジシアノボレートアニオンを有する無機塩は、例えばリチウムジフルオロジシアノボレート、ナトリウムジフルオロジシアノボレート、カリウムジフルオロジシアノボレート、銀ジフルオロジシアノボレート、マグネシウムジ(ジフルオロジシアノボレート)、カルシウムジ(ジフルオロジシアノボレート)または亜鉛ジ(ジフルオロジシアノボレート)である。
【0032】
好ましくは、当該モル濃度を、上記で記載したかまたは好ましく記載した式(I)で表される少なくとも1種の化合物を使用して達成する。
本発明の目的のために、モル濃度は、25℃における濃度を指す。
【0033】
電解質配合物の他の構成成分は、以下にさらに示すように1種または数種の他の塩、溶媒、ヨウ素および他のものである。
【0034】
電解質配合物が二成分系である場合には、それは、2種の塩、1種のさらなる塩および上記で記載した式(I)で表される化合物を含む。電解質配合物が三成分系である場合には、それは、2種のさらなる塩および上記で記載した式(I)で表される化合物を含む。
【0035】
二成分系は、90〜20重量%、好ましくは80〜55重量%、より好ましくは70〜60重量%のさらなる塩および10〜80重量%、好ましくは20〜45重量%またはより好ましくは30〜40重量%の上記で記載した式(I)で表される化合物を含む。このパラグラフ中でのパーセンテージを、本発明の電解質配合物中に存在する塩の合計(=100重量%)に関して表現する。以下に示す他の一般的には任意の構成成分(添加剤)、例えば非共有電子対を有するN含有化合物、ヨウ素、溶媒、ポリマーおよびナノ粒子の量は、ここでは考慮しない。同一のパーセンテージが三成分系または四成分系に該当し、それは、他の塩の合計を所与の範囲内で使用しなければならず、例えば2種の他のイオン性液体が、本発明の電解質配合物中で、例えば90〜20重量%において含まれることを意味する。
【0036】
本発明の他の態様において、電解質配合物は、四級窒素を含む有機カチオンおよびハロゲン化物イオン、例えばF、Cl、I、ポリハロゲン化物イオン、フルオロアルカンスルホネート、フルオロアルカンカルボキシレート、トリ(フルオロアルキルスルホニル)メチド、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド、硝酸、ヘキサフルオロホスフェート、トリス−、ビス−およびモノ−(フルオロアルキル)フルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ジシアナミド、トリシアノメチド、テトラシアノボレート、チオシアン酸、1〜20個のC原子を有し、好ましくはパーフルオロ化されているフルオロアルカン、1〜20個のC原子を有するフルオロアルキルおよび1〜20個のC原子を有するアルキルを有するアルキルスルホネートまたはアルキルスルフェートから選択されたアニオンを有する少なくとも1種の他の塩を含む。フルオロアルカンまたはフルオロアルキルは、好ましくはパーフルオロ化されている。
【0037】
好ましくは、他の塩は、アニオン、例えばヨウ化物、チオシアン酸またはテトラシアノボレートを含む塩から選択され、特に好ましい他の塩は、ヨウ化物である。
当該少なくとも1種の他の塩または好ましい他の塩のカチオンを、四級窒素原子を含む有機化合物、好ましくは環状有機カチオン、例えばピリジニウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウムまたはモルホリニウムの中から選択してもよい。
【0038】
しかし、特にDSCのための、電解質配合物における種々のカチオンの量を限定するために、有機カチオンを、式(I)で表される化合物のカチオンについての定義から選択してもよい。したがって、本発明の他の好ましい態様において、電解質配合物は、上記で記載した式(I)で表される少なくとも1種の化合物および有機カチオンが独立して
【化4】
式中、置換基R1’〜R10’は、上記で記載したかまたは好ましく記載した意味を有する、
の群から選択される少なくとも1種の他のヨウ化物を含む。
【0039】
少なくとも1種の他の塩の特に好ましい例は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1,3−ジメチル−イミダゾリウムヨージド、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、N−ブチル−N−メチル−ピロリジニウムヨージドまたはN,N−ジメチル−ピロリジニウムヨージドである。
【0040】
本発明の他の態様において、グアニジニウムチオシアネートを、本発明の電解質配合物に加えてもよい。
本発明の電解質配合物は、好ましくはヨウ素(I)を含む。好ましくは、それは、0.0005〜7mol/dm、より好ましくは0.01〜5mol/dmおよび最も好ましくは0.05〜1mol/dmのIを含む。
【0041】
好ましい態様において、本発明の電解質配合物はさらに、非共有電子対を有する窒素原子を含む少なくとも1種の化合物を含む。かかる化合物の例は、EP 0 986 079 A2中に見出され、2頁から開始して40〜55行、および再び3頁14行から7頁54行にわたり、それは参照によって明確に本明細書中に組込まれる。非共有電子対を有する化合物の好ましい例は、イミダゾールおよびその誘導体、特にベンズイミダゾールおよびその誘導体を含む。
【0042】
本発明の電解質配合物は、50vol%未満の有機溶媒を含む。好ましくは、電解質配合物は、40%未満、より好ましくは30%未満、尚より好ましくは20%未満およびさらに10%未満を含む。最も好ましくは、電解質配合物は、5%未満の有機溶媒を含む。例えば、それは、有機溶媒を実質的に含まない。パーセンテージを、重量%を基準として示す。
【0043】
有機溶媒は、上記に示した量において存在する場合には、文献中に開示したものから選択され得る。好ましくは、溶媒は、存在する場合には摂氏160度より高い、より好ましくは190度より高い沸点を有し、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、テトラグライムおよびメトキシ置換ニトリルまたはスルホンであり、それは、好ましくは非対称的に置換されており、例えば2−エタンスルホニル−プロパン、1−エタンスルホニル−2−メチル−プロパンまたは2−(プロパン−2−スルホニル)−ブタンである。
【0044】
溶媒が電解質配合物中に存在する場合には、さらにゲル化剤としてのポリマーが含まれていてもよく、ここでポリマーは、ポリビニリデンフルオリド、ポリビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ナフィオン(nafion)、ポリエチレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンである。これらのポリマーを電解質配合物に加える目的は、液体電解質を疑似固体または固体電解質にし、それにより、特に経年劣化の間の溶剤残留を改善することである。
【0045】
本発明の電解質配合物はさらに、例えば、また固体性およびしたがって溶剤残留を増大させることができる金属酸化物ナノ粒子、例えばSiO、TiO、Al、MgOまたはZnOを含んでもよい。
【0046】
本発明の電解質配合物は、多くの用途を有する。例えば、それを、光電子デバイスおよび/または電気化学的デバイス、例えば光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックまたはフォトエレクトロクロミックデバイス、電気化学的センサーおよび/またはバイオセンサーにおいて使用してもよい。また、電気化学的バッテリ、例えばリチウムイオンバッテリまたは二重層コンデンサにおける使用が、可能である。
【0047】
したがって、本発明はさらに、上記で詳細に記載した電解質配合物の、光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックまたはフォトエレクトロクロミックデバイス、電気化学的センサーおよび/またはバイオセンサーである電気化学的デバイスおよび/または光電子デバイスにおける使用に関する。好ましくは、電解質配合物を、色素増感太陽電池において使用してもよい。
【0048】
したがって、本発明はさらに、電解質配合物を含む、光電池、発光デバイス、エレクトロクロミックまたはフォトエレクトロクロミックデバイス、電気化学的センサーおよび/またはバイオセンサーである電気化学的および/または光電子デバイスであって、式(I)
Kt[B(CN) (I)
式中、Ktは、
【化5】
の群から選択された有機カチオンであり、
【0049】
ここで、置換基
1’〜R10’は、各々、互いに独立して
1’およびR4’が同時にはHではないことを前提として、H、
1〜20個のC原子を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の二重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つもしくは2つ以上の三重結合を有し、任意にフッ素化もしくはパーフルオロ化されていてもよい、直鎖状もしくは分枝状アルキニル、または
2〜8個のC原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルコキシアルキル
を示す、
で表される少なくとも1種の化合物を含む、前記デバイスに関する。
【0050】
好ましい態様において、本発明のデバイスは、色素または量子ドット増感太陽電池、特に好ましくは色素増感太陽電池である。
量子ドット増感太陽電池は、例えばUS 6,861,722に開示されている。色素増感太陽電池において、色素を使用して、太陽光を吸収して、電気的エネルギーに変換する。色素の例は、EP 0 986 079 A2、EP 1 180 774 A2またはEP 1 507 307 A1に開示されている。
【0051】
好ましい色素は、共に両親媒性ルテニウム感光剤であるZ907またはZ907Naである。
好ましい態様において、色素をホスフィン酸で共吸着する。ホスフィン酸の好ましい例は、M. Wang et al, Dalton Trans., 2009, 10015-10020に開示されているビス(3,3−ジメチル−ブチル)−ホスフィン酸(DINHOP)である。
色素Z907Naは、NaRu(2,2’−ビピリジン−4−カルボン酸−4’−カルボキシレート)(4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン)(NCS)を意味する。
【0052】
例えば、色素増感太陽電池は、光電極、対電極および、光電極と対電極との間に電解質配合物または電荷輸送材料を含み、またここで増感色素は、対電極に面する側において光電極の表面上に吸収される。
【0053】
本発明のデバイスの好ましい態様において、それは、半導体、上記で記載した電解質配合物および対電極を含む。
本発明の好ましい態様において、半導体は、Si、TiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、GaP、InP、GaAs、CdTe、CuInSおよび/またはCuInSeの群から選択された材料に基づく。好ましくは、半導体は、メソ多孔性表面を含み、したがって任意に色素によって覆われ、電解質に接触している表面を増大させる。好ましくは、半導体は、ガラス支持体またはプラスチックもしくは金属箔上に存在する。好ましくは、支持体は伝導性である。
【0054】
本発明のデバイスは、好ましくは対電極を含む。例えば、Ptで被覆したガラス上のフッ素をドープした酸化スズまたはスズをドープした酸化インジウム(それぞれFTOまたはITOガラス)、好ましくは伝導性の同素体の炭素、ポリアニリンまたはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)である。金属基板、例えばステンレス鋼またはチタンシートは、ガラス以外の可能な基板であり得る。
【0055】
本発明のデバイスを、単に電解質を本発明の電解質配合物によって交換することにより、従来技術の対応するデバイスとして製造してもよい。例えば、色素増感太陽電池の場合において、デバイスアセンブリは、多数の特許文献、例えばWO 91/16719(例34および35)、しかしまた科学文献、例えばBarbe, C.J., Arendse, F., Comte, P., Jirousek, M., Lenzmann, F., Shklover, V., Graetzel, M. J. Am. Ceram. Soc. 1997, 80, 3157;およびWang, P., Zakeeruddin, S. M., Comte, P., Charvet, R., Humphry-Baker, R., Graetzel, M. J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336中に開示されている。
【0056】
はるかにより多くの電力密度を必要とする電気化学的デバイス、例えばコンデンサとは異なり、DSCは、液体電解質の高い伝導性を必要としない。例えば、DSCにおいて、10℃における電解質の電極抵抗は、電解質伝導性で除した半導体電極厚さによって、典型的には10μm/10mScm−1=0.01Ωcmと見積もられる。
【0057】
好ましくは、増感された半導体材料は、フォトアノード(photoanode)としての役割を果たす。好ましくは、対電極はカソードである。
【0058】
本発明は、光電池を製造する方法であって、本発明の電解質配合物を半導体の表面と接触させ、前記表面が任意に増感剤で覆われているステップを含む、前記方法を提供する。好ましくは、半導体を、上記に示した材料から選択し、増感剤を、好ましくは上記で開示した量子ドットおよび/または色素から選択し、特に好ましくは色素から選択する。
【0059】
好ましくは、電解質配合物を、半導体上に単純に注いでもよい。好ましくは、それを、Wang et al., J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336の参照において開示されているように、既に対電極を含む他の方法で完成したデバイスに、対電極中の穴部を貫通してセルの内腔中に真空を作成し、電解質配合物を加えることにより適用する。
【0060】
本発明を、ここでその範囲を限定せずに、以下の例によって例示する:
【0061】
例1:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(emim TCB)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロシアノボレート(emim TFCB)および1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロジシアノボレート(emim DDB)の合成、特徴づけおよび粘度/伝導性測定
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートおよび1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロジシアノボレートを、WO 2004/072089、例9および15に従って合成する。
【0062】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロシアノボレート(emim TFCB)の合成:
【化6】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸水素塩[18.6g(89.3mmol)]を、約100mlの水に溶解する。溶液を、約80gの氷を加えて冷却し、50mlの水中の12.1g(87.5mmol)のKCOの添加によって中和する。11.75g(88.4mmol)のK[BFCN]の添加の後に、反応混合物を0℃で10分間放置して撹拌する。生成物である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロシアノボレート、emim[BFCN]を、ジクロロメタンで3回抽出する。合わせた有機相をNaSOで乾燥し、溶媒を蒸留によって除去する。残留物を真空(約10−3mbar)中で乾燥し、4.0g(22%)の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロシアノボレート(emim TFCB)を得る。生成物を、NMR分光法によって特徴づけする:
【0063】
【化7】
【0064】
【表1】
【0065】
例2:1−ブチル−1−メチルピロリジニウムジフルオロジシアノボレート(bmpl DDB)の合成:
【化8】
9.0g(64.3mmol)のカリウムジフルオロ−ジシアノボレートを、11.43g(64.3mmol)の1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリドを30mlの水に溶解した溶液に、室温で加える。反応混合物を室温で30分間撹拌し、2部のジクロロメタンで抽出する。有機相を分離し、冷水で洗浄する。有機溶媒を蒸発させ、残留物を真空において70℃で乾燥する。14.65g(94%)の透明であり実質的に無色の液体を得、それは1−ブチル−1−メチルピロリジニウムジフルオロジシアノボレートである。生成物を、NMR分光法によって特徴づけする。
【0066】
【化9】
【0067】
例3:配合物およびデバイス
以下の電解質配合物を合成して、本発明の電解質配合物の、emim TCBまたはemim TFCBを含む従来技術の電解質配合物と相対しての予期されない利点を例証する。
【0068】
電解質配合物を、1,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド(mmimI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド(emimI)および1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(mpimI)、1,1−ジメチルピロリジニウムヨージド(mmplI)、ヨウ素、N−ブチルベンズイミダゾール(NBB)およびグアニジニウムチオシアネート(guaSCN)ならびに対応するイオン性液体、例えば本発明のemimDDB、bmplDDBまたは従来技術によるemimTCB、bmplTCBもしくはemimTFCBの1種または2種以上の、以下に列挙したモル比における混合によって製造する。120℃への加熱を適用して、電解質配合物を均質にすることが、必要であり得る。emim TFCBについて注意しなければならず、その理由は、従来技術のこのアニオンが、色素増感太陽電池における適用についての他の欠点である熱応力に対して脆弱であるからである。
【0069】
モル比:36 mmimI、36 emimI、5 I、48 emimTCB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物A;
モル比:36 mmimI、36 emimI、5 I、48 emimDDB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物B;
モル比:36 mmimI、36 emimI、5 I、48 emimTFCB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物C;
モル比:60 emimI、5 I、60 bmplTCB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物D;
モル比:60 emimI、5 I、60 bmplDDB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物E;
モル比:60 mmplI、5 I、60 emimTCB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物F;
モル比:60 mmplI、5 I、60 emimDDB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物G。
【0070】
【表2】
【0071】
表2は、DDBをアニオンとして含む電解質が、同一のカチオンを使用する場合に、TCBをアニオンとして含む電解質よりも常に良好な性能を発揮することを実証する。
化合物mmimI、emimI、mmplI、mpimI、I、NBBおよびguaSCNは、商業的に入手できるか、または既知の文献、例えばBonhote, P et al. Inorg. Chem. 1996, 35, 1168-1178に従って合成される。
色素増感太陽電池を、US 5,728,487またはWO 2007/093961に開示されているように製作する:
【0072】
二重層のメソ多孔性TiO電極を、Wang P et al., J. Phys. Chem. B 2003, 107, 14336、特に14337頁に開示されているように製造して、二重層構造からなるフォトアノードを得た。透明なナノ多孔性TiO電極を製造するために、テルピネオール溶媒を含むスクリーン印刷ペーストおよび20nmの直径を有するアナターゼ相のナノ粒子TiOを、透明な伝導性基板上に5mm×5mmの正方形形状に、ハンドプリンター(hand printer)を使用することにより堆積させた。ペーストを、摂氏120度で10分間乾燥した。次に、400nmの直径を有するTiOを含む他のスクリーン印刷ペーストを、ナノ多孔性層の最上部上に堆積させて、不透明な層を製造した。
【0073】
次に、二重層フィルムを、摂氏500度で1時間焼結し、その結果下層の透明な層(厚さ7ミクロン)および最上部の不透明な層(厚さ4ミクロン)が得られた。焼結後に、電極を、TiClの40mM水溶液(Merck)に摂氏70度で30分間浸漬し、次に純水で十分洗浄した。このようにして、TiClで処理した電極を、色素増感の直前に摂氏500度で30分間乾燥した。電極を、アセトニトリル(Merck HPLC等級)およびtert−ブチルアルコール(Merck)、v:v=1:1の0.3mMのZ907色素溶液中に、摂氏19度で60時間浸漬した。対電極を、上記の参考文献中に開示されている熱的な熱分解方法で製造した。白金酸の5mM溶液(Merck)の小滴を、8μl/cmで流し込み、伝導性基板上で乾燥した。色素増感太陽電池を、厚さ30ミクロンのBynel(DuPont, USA)ホットメルトフィルムを使用することにより組み立てて、加熱により密封した。内部空間を、上記で記載した電解質配合物の各々で満たして、対応するデバイスを製造した。
【0074】
色素Z907は、両親媒性ルテニウム増感剤Ru(2,2’−ビピリジン4,4’−ジカルボン酸)(4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン)(NCS)または[Ru(H2dcbpy)(dnbpy)(NCS)]である。
【0075】
例4:例3による色素増感太陽電池の特徴
光電流−電圧曲線の測定を、温度制御を伴ったAir Mass 1.5模擬太陽光(AM 1.5)の下で行う。4mm×4mmのフォトマスクを、例3に従って製作したデバイスの最上部上に配置して、光投影域を規定する。セルギャップは、25〜30ミクロンの範囲内である。
【0076】
エネルギー変換効率は、一般的に、エネルギー用語において、電気出力を最適化するために調整可能な抵抗性負荷を使用して決定した、エネルギー変換機の有効出力と光放射の入力との間の比率である。
【0077】
図1は、10℃、25℃、42℃および57℃における表2のための根拠を形成する、電解質配合物Aを含むデバイスAについての光電流密度−電圧曲線を示す。
図2は、10℃、25℃、42℃および57℃における表2のための根拠を形成する、本発明による電解質配合物Bを含むデバイスBについての光電流密度−電圧曲線を示す。
【0078】
図3は、本発明による電解質配合物(emim DDB)が低温でemim TCBを有する従来技術のデバイスAよりも良好な性能を示すことを実証する、図1および2のデータの要約を示す。
【0079】
例5:電気化学的インピーダンス分光法(EIS)
例3に従って製作したデバイスAおよびBのインピーダンスを、10℃および25℃で、AM1.5の下で、Gamry R600インピーダンスアナライザーを使用することによって測定して、太陽光発電性能の差異の原因である要因を識別する。
【0080】
図4は、電解質配合物Bを含むデバイスBのインピーダンススペクトルを示す。
図5は、電解質配合物Aを含むデバイスAのインピーダンススペクトルを示す。
【0081】
【表3】
【0082】
TCBのDDBでの交換によって、対電極における電荷移動抵抗およびオキシダント移動についてのネルンスト拡散抵抗が共に顕著に低下し、DDBに基づいたDSCが摂氏10度で作動するようになることが明らかである。
【0083】
例6:
以下の電解質配合物を例3に従って合成し、例3に従って製造したDSSC試験セルにおいて電解質として使用する:
モル比:36 mmimI、36 emimI、5 I、72 bmpl TCB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物H;
モル比:36 mmimI、36 emimI、5 I、72 bmpl DDB、2 guaSCN、10 NBBにおいて得た電解質配合物J。
【0084】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1図1は、10℃、25℃、42℃および57℃における表2のための根拠を形成する、電解質配合物Aを含むデバイスAについての光電流密度−電圧曲線を示す。
図2図2は、10℃、25℃、42℃および57℃における表2のための根拠を形成する、本発明による電解質配合物Bを含むデバイスBについての光電流密度−電圧曲線を示す。
【0086】
図3図3は、本発明による電解質配合物(emim DDB)が低温でemim TCBを有する従来技術のデバイスAよりも良好な性能を示すことを実証する、図1および2のデータの要約を示す。
【0087】
図4図4は、電解質配合物Bを含むデバイスBのインピーダンススペクトルを示す。
図5図5は、電解質配合物Aを含むデバイスAのインピーダンススペクトルを示す。
図1
図2
図3
図4
図5