(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764279
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】焼成体形成用微粒子、焼成体形成用微粒子分散溶液、焼成体形成用微粒子の製造方法、及び焼成体形成用微粒子分散溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/02 20060101AFI20150730BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20150730BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20150730BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20150730BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
B22F1/02 BZNM
B22F9/00 B
B22F9/24 B
B22F9/24 C
B22F9/24 E
B22F9/24 F
B22F9/24 Z
H01B5/00 E
H01B13/00 503C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2006-304361(P2006-304361)
(22)【出願日】2006年11月9日
(65)【公開番号】特開2008-121043(P2008-121043A)
(43)【公開日】2008年5月29日
【審査請求日】2009年9月17日
【審判番号】不服2013-11196(P2013-11196/J1)
【審判請求日】2013年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】原田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英道
(72)【発明者】
【氏名】西久保 英郎
(72)【発明者】
【氏名】高柴 和宏
【合議体】
【審判長】
木村 孔一
【審判官】
松嶋 秀忠
【審判官】
小川 進
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−241494(JP,A)
【文献】
特開2005−213626(JP,A)
【文献】
特開昭60−63265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成温度の下限が190℃である導電性材料用のナノサイズの焼成体形成用微粒子であって、
前記焼成体形成用微粒子は、銅からなり、
分子量が111.14以上1000以下である低分子量ビニルピロリドンに被覆されていることを特徴とする焼成体形成用微粒子。
【請求項2】
前記低分子量ビニルピロリドンは、分子量が800以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼成体形成用微粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の焼成体形成用微粒子の製造方法であって、
分子量が1000より大のポリビニルピロリドンで被覆された焼成体形成用微粒子を分散させた水溶液の中に、該ポリビニルピロリドンの分解剤としてハロゲン化炭化水素を添加混合することで、分子量が1000以下の低分子量ビニルピロリドンで被覆された焼成体形成用微粒子にする工程を備えていることを特徴とする焼成体形成用微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の焼成体形成用微粒子を、有機溶媒の中に分散させる工程を備えていることを特徴とする焼成体形成用微粒子分散溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
焼成体形成用微粒子、
焼成体形成用微粒子分散溶液、
焼成体形成用微粒子の製造方法、及び
焼成体形成用微粒子分散溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ(粒径が1μm以下)の金属微粒子は、バルク材料にはない様々な特異な特性を持つことが知られている。そしてこの特性を生かした様々な工学的応用が、現在、エレクトロニクス、バイオ、エネルギー等の各分野で、大いに期待されている。
【0003】
中でも、銅、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、スズ、銀等の工業的な汎用金属及びそれらの合金からなるナノサイズの金属微粒子は、導電回路、バンプ、ビア、パッド等の実装部品の形成材料、高密度磁気記憶媒体やアンテナ用の磁性素子、ガス改質フィルタや燃料電池電極用の触媒材料として、大いに期待されている。
【0004】
また、最近では、金属微粒子を含有するインクを使用して、配線パターンをインクジェットプリンタにより印刷し、焼成して配線を形成する技術(インクジェット回路形成技術)が注目されている。しかし、インクジェットプリンタのインクとして、金属微粒子を含有するインクを使用する場合、インク中において分散性を長期間保つことが重要である。そのため、インク中において粒子分散性を向上させる効果を持つ保護被膜を有する金属微粒子の製造方法及びその金属微粒子分散溶液が提案されている。
【0005】
特許文献1では、銅の酸化物、水酸化物または塩をポリエチレングリコールまたはエチレングリコール(1,2−エタンジオール)溶液中で、核生成のためのパラジウムイオンと、分散性を向上させる保護被膜剤としてのポリエチレンイミンを添加して、加熱還元することにより、ポリエチレンイミンで被覆された銅微粒子を合成する方法、及びその銅微粒子分散溶液が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、アルキルアミンを分散剤に使用して、アミン化合物で被覆された金属微粒子を製造する方法及びその金属微粒子分散溶液が提案されている。また、特許文献3には、セルロース誘導体を含む水溶液中で金属イオンを還元することにより、セルロース誘導体で被覆された金属微粒子を製造する方法及びその微粒子分散溶液が提案されている。
【0007】
一方で、上述のインクジェット回路形成技術のように金属微粒子の焼成により導電性の金属部材を形成する場合や、微粒子焼成体をガス改質フィルタに使用する場合などには、焼成後の粒子焼成体において、微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している必要がある。そのため、これらの技術に使用される微粒子については、その表面に被覆させた保護被膜が、熱処理時に容易に分解除去される必要があった。
【特許文献1】特開2005−330552号公報
【特許文献2】特開2002−121606号公報
【特許文献3】特開2001−093414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、微粒子分散インクのパターニングと焼成とにより、導電性配線パターンやフィルタを形成する場合、分散性向上のために使用した保護被膜が熱処理時に容易に分解除去する必要がある。しかしながら、上述の金属微粒子では、250℃以上の高温で熱処理をしなければ、その保護被膜を分解除去して導電性の金属を得ることができないという問題点があった。
【0009】
また、そのような高温での熱処理を行った場合、粒子をパターニングした基板(例えば、汎用樹脂基盤)に設置されている他の製品が壊れたり、更に基板自体が溶融もしくは変形したりしてしまうという問題点もあった。さらに、これらの微粒子を用いた場合、熱処理のときに、危険で取り扱いの困難な水素ガス等の還元剤を使用しなければならないという問題点もあった。
【0010】
一方で、これら保護被膜で被覆されていない、分散性の悪い微粒子の分散溶液を使用した場合、熱処理時に粒子同士が不均一に凝集して焼結性が不均一になるという問題があった。また、さらに分散溶液中で互いに凝集した微粒子がインクジェットプリンタのノズルに詰まるという問題もあった。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、分散液中での分散性が高く、さらに低温焼成することが可能な微粒子、その微粒子を分散した微粒子分散溶液、微粒子の製造方法、及び微粒子分散溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は上述した従来の問題点について鋭意研究を重ねた。その結果、低分子量ビニルピロリドンに被覆された微粒子は、低温での焼結性を向上させることが判明した。
【0013】
また、低分子量ビニルピロリドンに被覆された微粒子を、有機溶媒の中に分散させることにより、粒子分散性の高い微粒子分散溶液が得られることが判明した。この発明は、上述した研究成果によってなされたものである。
【0014】
本発明の第1の態様にかかる焼成体形成用微粒子は、焼成温度の下限が190
℃である導電性材料用のナノサイズの焼成体形成用微粒子であって、前記焼成体形成用微粒子は、銅
からなり、分子量が111.14以上1000以下である低分子量ビニルピロリドンに被覆されていることを特徴とする。ここで、低分子量ビニルピロリドンとしては、分子量が約800またはそれよりも小さいものが望ましい。
【0015】
これにより、還元剤を用いることなく、不活性ガス雰囲気中190℃以上の温度で、熱処理することにより、焼成体形成用微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している焼成体を生成することができる。また、この焼成体形成用微粒子を分散液中に分散することにより、粒子分散性の高い焼成体形成用微粒子分散溶液を生成することができる。
本発明の第
2の態様にかかる焼成体形成用微粒子は、本発明の第
1の態様にかかる焼成体形成用微粒子における前記低分子量ビニルピロリドンが、分子量が800以下であることを特徴とする。
【0023】
これより、
焼成体形成用微粒子分散溶液は、更に、粒子分散性を向上させることが可能となる。
【0024】
本発明の第1の態様にかかる焼成体形成用微粒子の製造方法は、本発明の第1
または2の態様にかかる焼成体形成用微粒子の製造方法であって、
分子量が1000より大のポリビニルピロリドンで被覆された焼成体形成用微粒子を分散させた水溶液の中に、
該ポリビニルピロリドンの分解剤としてハロゲン化炭化水素を添加混合する
ことで、分子量が1000以下の低分子量ビニルピロリドンで被覆された焼成体形成用微粒子にする工程を備えていることを特徴とする。
【0025】
これにより、還元剤を用いることなく、不活性ガス雰囲気中190℃以上の温度で、熱処理することにより、
焼成体形成用微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している焼成体を生成することができる。また、この
焼成体形成用微粒子を分散液中に分散することにより、粒子分散性の高い
焼成体形成用微粒子分散溶液を生成することができる。
【0026】
本発明の第1の態様にかかる焼成体形成用微粒子分散溶液の製造方法は、本発明の第1
または2の態様にかかる焼成体形成用微粒子を
、有機溶媒の中に分散させる工程を備えていることを特徴とする。
【0027】
これにより、還元剤を用いることなく、不活性ガス雰囲気中190℃以上の温度で、熱処理することにより、
焼成体形成用微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している焼成体を生成することができる。また、粒子分散性の高い
焼成体形成用微粒子分散溶液を生成することができる。ここで、有機溶媒は、極性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、低分子量ビニルピロリドンで被覆された微粒子を、還元剤を用いることなく、不活性ガス雰囲気中190℃以上の温度で、熱処理することにより、微粒子自体が表面に露出して粒子同士が直接接合している焼成体を生成することが出来る。またこのとき微粒子として金属微粒子を用いた場合、導電性の金属焼成体を生成することができる。
【0030】
また、特に、低分子量ビニルピロリドンに被覆された金属微粒子を、極性を有する有機溶媒の中に分散させることにより、分散性の優れた金属微粒子分散溶液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
この発明の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施態様は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なもので置換した実施態様を採用することが可能であるが、これらの実施態様も本発明の範囲に含まれる。
【0032】
まず、本発明を適用可能な金属微粒子及び金属微粒子分散溶液の製造方法を説明する。
図1は、本発明を適用可能な金属微粒子及び金属微粒子分散溶液の製造方法の概念図である。ここでは、有機物保護被膜に被膜された微粒子を生成し、生成した微粒子を有機溶媒に分散して微粒子分散溶液を生成する。
【0033】
図1に示すように、まず、不活性ガス(窒素ガス等)の雰囲気で、金属微粒子の原料である金属イオン原料10と、還元剤11と、
ポリビニルピロリドン12とを、溶媒である蒸留水13に混合した水溶液の中で液相還元させて、ポリビニルピロリドン(PVP:K12、分子量約3500)で被覆された金属微粒子が分散した金属微粒子分散溶液14を生成する(図中(1)参照)。
【0034】
次に、金属微粒子分散溶液14にハロゲン化炭化水素15を添加して、粒子成分16
が凝集沈殿した反応液17を生成する(図中(2)参照)。次に、反応液17を遠心分離器
に入れ、粒子成分16を分離回収する。この分離回収した粒子成分16が低分子量ビニルピロリドンで被覆された金属微粒子18
である(図中(3)参照)。ここで、分離回収した金属微粒子18は、水洗浄とアルコール洗浄を行う。アルコール洗浄は、特に、より分子量の大きいアルコールを使用して洗浄する。
【0035】
得られた金属微粒子18を水または有機溶媒に再分散させることで、分散性の優れた金属微粒子分散溶液20(図中(4)参照)を得ることができる。ここで、再分散させる再分散溶媒19として、極性を有する有機溶媒、特に、ヒドロキシル基を1つ以上有した有機化合物からなる有機溶媒が好ましい。また、低分子量ビニルピロリドンとしては、分子量が約800またはそれよりも小さいものが望ましい。
【0036】
次に、本発明の好適ないくつかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明の金属微粒子および金属微粒子分散溶液の作成方法として、1−ビニル−2−ピロリドンに被覆された銅ナノ粒子およびその分散溶液の作成方法の一例を示す。なお本発明は必ずしもこの方法に限定されるものではない。
【0038】
まず、銅ナノ粒子の原料として酢酸銅0.2gを蒸留水10mlに溶解させた酢酸銅水溶液10mlと、金属イオン還元剤として5.0mol/lとなるように水素化ホウ素ナトリウムと蒸留水とを混合した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlと、を作成した。その後、上記水素化ホウ素ナトリウム水溶液に、1−ビニル−2−ピロリドン0.5gを添加して、攪拌溶解させた後、窒素ガス雰囲気中で、上記酢酸銅水溶液10mlを滴下した。この混合液を約60分間よく攪拌しながら反応させた結果、1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散水溶液が得られた。更に、得られた銅ナノ粒子分散水溶液を遠心分離器に入れ、粒子成分を沈殿回収した。
【0039】
その後、試験管に得られた粒子と適量の蒸留水とを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収する水洗浄を3回、続いて、同じく試験管中で、得られた粒子と適量のブタノールとを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収するアルコール洗浄を3回行った。更に、得られた粒子成分を最終分散溶媒の一例として、1,2エタンジオール10mlに入れ、その後、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌することで、本発明の1−ビニル−2−ピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液が得られた。
【0040】
得られた1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液をガラス基板上に塗布し、不活性(アルゴン)雰囲気中、150℃、180℃、190℃、200℃、250℃、及び300℃において、それぞれ1時間熱処理を行った。得られた焼成膜について、デジタルマルチメータを用いて、それぞれ直流4端子法にて、その電気抵抗値を測定した。
図2は、1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。この結果より、1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液は、不活性雰囲気中、190℃以上の熱処理で、良好な導電性を持つ金属膜となることが確認された。
【実施例2】
【0041】
本発明の金属微粒子および金属微粒子分散溶液の作成方法として、分子量が1000以下のポリビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子およびその分散溶液の作成方法の一例を示す。なお本発明は必ずしもこの方法に限定されるものではない。
【0042】
まず、銅ナノ粒子の原料として酢酸銅0.2gを蒸留水10mlに溶解させた酢酸銅水溶液10mlと、金属イオン還元剤として5.0mol/lとなるように水素化ホウ素ナトリウムと蒸留水とを混合した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlと、を作成した。その後、上記水素化ホウ素ナトリウム水溶液に、ポリビニルピロリドン(PVP:K12、分子量約3500)0.5gを添加して、攪拌溶解させた後、窒素ガス雰囲気中で、上記酢酸銅水溶液10mlを滴下した。この混合液を約60分間よく攪拌しながら反応させた結果、ポリビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散水溶液が得られた。次に、上記方法で得られたポリビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散水溶液100mlに、ポリビニルピロリドンの分解剤としてクロロホルムを5ml添加してよく攪拌した。数分間攪拌した後、反応液を遠心分離器に入れ、粒子成分を沈殿回収した。得られた粒子に被覆している低分子量ビニルピロリドンの分子量を、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定したところ、約800であった。
【0043】
その後、試験管に得られた粒子と適量の蒸留水とを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収する水洗浄を3回、続いて、同じく試験管中で、得られた粒子と適量のブタノールとを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収するアルコール洗浄を3回行った。更に、得られた粒子成分を最終分散溶媒の一例として、1,2エタンジオール10mlに入れ、その後、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌することで、本発明の低分子量ビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液が得られた。尚、得られた粒子に被覆している低分子量ビニルピロリドンの分子量を、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定したところ、約800であった。
【0044】
得られた低分子量ビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液をガラス基板上に塗布し、不活性(アルゴン)雰囲気中、150℃、180℃、190℃、200℃、250℃、及び300℃において、それぞれ1時間熱処理を行った。得られた焼成膜について、デジタルマルチメータを用いて、それぞれ直流4端子法にて、その電気抵抗値を測定した。
図3は、分子量が約800の低分子量ビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。この結果より、低分子量ビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液は、不活性雰囲気中、190℃以上の熱処理で、良好な導電性を持つ金属膜となることが確認された。
【実施例3】
【0045】
得られた銅ナノ粒子分散溶液の分散性についても調べるため、動的光散乱型粒度分布測定装置(ゼータサイザーナノシリーズ)を用いて、分散溶液中での銅ナノ粒子凝集体の粒度分布の測定を行った。その結果、実施例1に記載の1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液、実施例2に記載の低分子量ビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液中での微粒子凝集体の平均サイズは、それぞれ240nm、160nmであった。比較のため、実施例1の銅ナノ粒子分散溶液の製法において、1−ビニル−2−ピロリドンを添加せずに作成した、有機物被覆がない銅ナノ粒子分散溶液についても、同様の粒度分布測定を行ったところ、その平均凝集サイズは1200nmであった。これにより、本発明の微粒子分散溶液の良好な液中分散性が確認された。
【0046】
本発明の比較例としてとして、分子量が3500のポリビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子およびその分散溶液を次のように作成した。
【0047】
まず、銅ナノ粒子の原料として酢酸銅0.2gを蒸留水10mlに溶解させた酢酸銅水溶液10mlと、金属イオン還元剤として5.0mol/lとなるように水素化ホウ素ナトリウムと蒸留水とを混合した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlと、を作成した。その後、上記水素化ホウ素ナトリウム水溶液に、ポリビニルピロリドン(PVP:K12、分子量約3500)0.5gを添加して、攪拌溶解させた後、窒素ガス雰囲気中で、上記酢酸銅水溶液10mlを滴下した。この混合液を約60分間よく攪拌しながら反応させた結果、ポリビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散水溶液が得られた。これを数日間放置した後、生成した凝集沈殿物を、遠心分離器を用いて沈殿回収した。
【0048】
その後、試験管に得られた粒子と適量の蒸留水とを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収する水洗浄を3回、続いて、同じく試験管中で、得られた粒子と適量のブタノールとを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離器で粒子成分を回収するアルコール洗浄を3回行った。更に、得られた粒子成分を1,2エタンジオール10mlに入れ、更に、再び、ポリビニルピロリドン(PVP:K12、分子量約3500)0.1gを添加してから、その後、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌することで、比較例である分子量3500のポリビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液が得られた。
【0049】
得られた分子量3500のポリビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液をガラス基板上に塗布し、不活性(アルゴン)雰囲気中、150℃、180℃、190℃、200℃、250℃、及び300℃において、それぞれ1時間熱処理を行った。得られた焼成膜について、デジタルマルチメータを用いて、それぞれ直流4端子法にて、その電気抵抗値を測定した。
図4は、分子量3500のポリビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。この結果より、分子量3500のポリビニルピロリドンに被覆された銅ナノ粒子分散溶液は、不活性雰囲気中、300℃以下の熱処理で、良好な導電性を持つ金属膜にはならないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明を適用可能な金属微粒子及び金属微粒子分散溶液の製造方法の概念図である。
【
図2】1−ビニル−2−ピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。
【
図3】分子量が約800の低分子量ビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。
【
図4】分子量3500のポリビニルピロリドンで被覆された銅ナノ粒子分散溶液の熱処理後の電気抵抗値の測定結果を示した図である。
【符号の説明】
【0051】
10 金属イオン原料
11 還元剤
12 還元制御剤
13 蒸留水
14 金属微粒子分散溶液
15
ハロゲン化炭化水素
16 粒子成分
17 反応液
18 金属微粒子
19 再分散溶媒
20 金属微粒子分散溶液