特許第5764285号(P5764285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5764285ろ過ユニットおよびこれを備えたバラスト水製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764285
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】ろ過ユニットおよびこれを備えたバラスト水製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20150730BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 29/11 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 29/50 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 24/48 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 29/60 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 29/66 20060101ALI20150730BHJP
   B01D 29/90 20060101ALI20150730BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   B01D63/00
   C02F1/44 H
   C02F1/44 A
   B01D29/10 501Z
   B01D29/10 510E
   B01D29/10 510F
   B01D29/10 510G
   B01D29/10 520B
   B01D29/10 530A
   B01D29/24 C
   B01D29/36 D
   B01D29/38 510C
   B01D29/38 520A
   B01D29/38 530A
   B01D29/38 540
   B01D29/42 501C
   B01D29/10 510C
   B63B13/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2009-185223(P2009-185223)
(22)【出願日】2009年8月7日
(65)【公開番号】特開2010-207795(P2010-207795A)
(43)【公開日】2010年9月24日
【審査請求日】2012年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2009-32872(P2009-32872)
(32)【優先日】2009年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬道
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−136886(JP,A)
【文献】 特開昭60−024313(JP,A)
【文献】 特開昭60−124617(JP,A)
【文献】 特開2003−275506(JP,A)
【文献】 特開2006−142261(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/142068(WO,A1)
【文献】 実開平02−061407(JP,U)
【文献】 特開2007−284531(JP,A)
【文献】 特開2000−117013(JP,A)
【文献】 特開平04−305209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 29/11
B01D 29/50
B01D 29/60
B01D 29/66
B01D 29/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ材とそれを収容する筐体からなるバラスト水製造装置用のろ過ユニットであって、
前記筐体が、前記ろ材に原水を供給する原水供給口と、ろ過水の取出口と、前記ろ材に逆洗用の流体を供給する流体供給口と、前記ろ材を逆洗した流体および前記原水を排出する排出口を有し、
前記ろ材が、合成繊維をウェブ、不織布、紙または織物の形態にして溶着・成形された孔径1〜25μmの一端が開口し、他端が閉塞された円筒状のデプスフィルタであり、前記一端の開口が前記ろ過水の取出口に連通しているろ過ユニット。
【請求項2】
請求項1において、前記流体供給口と前記ろ過水取出口とが同一であるろ過ユニット。
【請求項3】
請求項1または2において、前記ろ材は複数のデプスフィルタの両端を固定板で固定して一体化したものであるろ過ユニット。
【請求項4】
請求項1,2または3において、前記ろ材が前記ろ過水取出口に向かって斜め下方へ傾斜するように配置されており、この傾斜角が水平方向に対して20〜70°であるろ過ユニット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、前記排出口が前記原水供給口よりも上方に設けられているろ過ユニット
【請求項6】
請求項1,2または3において、前記ろ材が前記ろ過水取出口に向かって斜め上方へ傾斜するように配置されており、この傾斜角が水平方向に対して20〜70°であるろ過ユニット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のろ過ユニットを有し、前記ろ過ユニットから取り出したろ過水をバラスト水として、船舶のバラストタンクへ供給する装置であって、
前記ろ過ユニットにおける流体供給口に接続され、ろ材を洗浄するための流体を供給する流体供給通路と、
前記ろ過ユニットにおける排出口に接続され、前記ろ材を洗浄した流体を、ろ過ユニット内の原水とともに船舶の外部へ排出する排出通路と、
を備えたバラスト水製造装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のろ過ユニットを用いて、海水をろ材でろ過してバラスト水を製造する方法であって、
ろ材に海水を供給しながら、ろ過水側からろ材へ流体を供給し、この流体を前記海水とともに排出する逆洗工程を備え、
前記ろ材として、合成繊維をウェブ、不織布、紙または織物の形態にして溶着・成形された孔径1〜25μmの一端が開口し、他端が閉塞された円筒状のデプスフィルタであって、前記一端の開口が前記ろ過水の取出口に連通しているデプスフィルタを用いるバラスト水製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のバラスト水製造装置を用いたバラスト水製造方法であって、
前記ろ材からバラストタンクへのろ過水の供給およびろ材への流体の供給を停止した状態で、ろ過ユニットに原水を供給して、前記ろ過ユニットを経て前記排出口から流体を原水とともに排出する準備工程と、
ろ過ユニットからの原水の排出とろ材への流体供給とを停止した状態で、ろ過ユニットに原水を供給して、ろ過水を前記ろ過水取出口に送るろ過工程と、
バラストタンクへのろ過水の供給を停止した状態で、ろ材に原水を供給しながら、ろ過水側からろ材へ流体を供給し、この流体を前記原水とともに前記排出口から前記排出通路を経て船舶の外部へ排出する逆洗工程と、
を備えたバラスト水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば貨物船のような船舶に搭載されるバラスト水の製造を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、船舶、特に貨物船では、積荷を搭載していないときは、船の重心を下げるために、船内に設けたバラストタンクに海水などを積んで船体を安定させる対策が取られている。バラスト水は立ち寄る港で荷物を積載する際に船外へ排出されるが、外航船では、バラスト水に含まれる水生生物が多国間を行き来し、外来種として生態系に影響を与える問題が指摘されている。
【0003】
近年、このようなバラスト水に関する問題を解決するために、国際的にバラスト水排出規則の取り組みが行われている。具体的には、バラスト水中に含まれる50μm以上のプランクトン(主に動物性プランクトン)、10〜50μmのプランクトン(主に植物性プランクトン)および菌類(大腸菌、腸球菌等)の数を規制するものである。これらの規制を満たすための処理方法は、通常、フィルトレーション、高速・高圧のジェット流によりプランクトンを死滅させるキャビテーションなどの機械的処理と、薬剤、オゾンなどを投入する化学的処理とを組み合わせて行われる(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】海事総合誌 隔月間コンパス 2007年9月号 32〜39頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来のバラスト水製造装置では、フィルトレーション用のフィルタの孔径は比較的大きい50μm程度であった。これは、孔径が小さいと目詰まりが起こり易くなり、これを避けるためにフィルタのろ過面積を大きくする必要があるので、装置が大型化して船舶の搭載に不利となるからである。そこで、50μm以下のプランクトンは、高速高圧でスクリーンに海水を吹き付けてプランクトンをすり潰すキャビテーションや、薬剤投与によって処理している。
【0006】
しかしながら、キャビテーションによる処理では、高速高圧で海水を吹き付けるので、動力が過大になるうえに、プランクトンの数を必要以上に減らしてしまうので、バラスト水積込み側の海洋の生態系に影響を与える恐れがある。また、薬剤等でプランクトンを処理する場合は、多量の薬剤が必要となり、毎回の処理費用が高額となってしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、微粒子も取り除くことができ、かつ初期導入費用および維持管理費用を低く抑えることができるろ過ユニットと、海中に生息するプランクトンを可能な限り損傷させることなく船外へ戻すことができ、かつ小型で処理コストを低く抑えることのできるバラスト水製造装置とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るろ過ユニットは、ろ材とそれを収容する筐体からなるろ過ユニットであって、前記筐体が、前記ろ材に原水を供給する原水供給口と、ろ過水の取出口と、前記ろ材に逆洗用の流体を供給する流体供給口と、前記ろ材を逆洗した流体および前記原水を排出する排出口を有し、前記ろ材が孔径1〜25μmのデプスフィルタである。逆洗用の流体としては、気体や液体が用いられ、好ましくは気体であり、より好ましくは、空気、窒素等の不活性ガスである。
【0009】
孔径は、以下のように定義される。一定の直径を有する粒子、好ましくは球状ポリスチレンまたはガラスビーズを水中に10000個/L添加した液を、デプスフィルタ(外径60mm、内径30mm、長さ250mm)に25℃、1.0m/hrの条件で通水させ、デプスフィルタを透過した粒子数を光学式カウンターで測定し、通水前後の液中に存在する粒子数の差を通水前の液に存在する粒子数で除して得られる捕集率(R%)を複数の粒子について測定し、その測定値を元にして下記の近似式(1)において、Rが80となる粒子の直径(S)の値を求め、これを孔径とする。
R=100/(1−m×exp{−a×log(S)}) (1)
ここで、m,aは、デプスフィルタの性状により決まる定数である。
例えば、粒子の直径が1μmの場合は、球形ポリスチレン微粒子(10000個/L)を添加した液を、デプスフィルタ(外径60mm、内径30mm、長さ250mm)に上記の条件で通水させることで測定が可能である。
【0010】
この構成によれば、ろ材に孔径1〜25μmのデプスフィルタを用いているので、小さなプランクトンも取り除くことができるうえに、サーフェスフィルタを用いる場合に比べて、初期導入費用を抑えることができる。また、逆流洗浄を行うことで、ろ材のろ過性能を回復させて使用できるので、ろ材の交換頻度を少なくして、維持管理費用を抑えることができる。
【0011】
本発明において、前記流体供給口と前記ろ過水取出口とが同一であることが好ましい。この構成によれば、流体供給口とろ過水取出口とを共通化して、構成を簡略化することができる。
【0012】
本発明において、前記ろ材は複数のフィルタの両端を固定板で固定して一体化したものであることが好ましい。この構成によれば、複数のデプスフィルタを組み合わせることで、ろ過面積が大きくなるうえに、一体化により、複数のデプスフィルタが1つのサブユニットとなるので、ろ材の交換が容易になる。
【0013】
本発明において、前記ろ材が前記ろ過水取出口に向かって斜め下方へ20〜70°の傾斜角で傾斜するように配置してもよい。この構成によれば、ろ過ユニットにおけるろ過水取出口と反対側が高位となるから、例えば、気体による逆流洗浄後に原水をろ過する場合、筐体内の気体が前記反対側から抜け易くなり、ろ過水にエアが混入する恐れが少なくなる。また、傾斜角が大き過ぎると、ろ過ユニットの上下方向寸法が大きくなるので、取り外し等のメンテナンスの際に、ろ過ユニットの上方にろ材を抜き出すための広いスペースが必要となり、小さ過ぎると、ろ過ユニット内の流体が抜け難くなる。
【0014】
本発明において、前記ろ材が前記ろ過水取出口に向かって斜め上方へ20〜70°の傾斜角で傾斜するように配置することもできる。この構成によれば、ろ過水取出口側に位置する、デプスフィルタの開口端が斜め上方に開口することになるので、低位のデプスフィルタの閉止端付近の空気が開口端から抜けるから、デプスフィルタ内に空気が残るのを防いで、デプスフィルタの全体を使って効率的にろ過を行うことができる。
【0015】
本発明において、前記排出口が前記原水供給口よりも上方に設けられていることが好ましい。この構成によれば、初動時または逆流洗浄を気体で行った後に、ろ過ユニット内に原水を供給して、ユニット内のいわゆる「エア抜き」を行う際に、ろ過ユニット内の気体が円滑に排出される。
【0016】
また、本発明に係るバラスト水製造装置は、本発明に係るろ過ユニットを有し、前記ろ過ユニットから取り出したろ過水をバラスト水として、船舶のバラストタンクへ供給する装置であって、前記ろ過ユニットにおける流体供給口に接続され、ろ材を洗浄するための流体を供給する流体供給通路と、前記ろ過ユニットにおける排出口に接続され、前記ろ材を洗浄した流体を、ろ過ユニット内の原水とともに船舶の外部へ排出する排出通路と、を備えている。
【0017】
この構成によれば、ろ材を形成するデプスフィルタの孔径が1〜25μmであるので、大部分のプランクトンを生かしたまま捕捉して船外へ排出することができ、バラスト水積込み側の海洋の生態系を壊さないうえに、従来のようなプランクトンを処理するためのキャビテーションや薬剤投与の必要がなくなるから、動力の消費電力量や薬剤の使用量が少なくて済む。その結果、小型で処理費用の安いシステムを構築することができる。また、ろ材を逆流洗浄しているので、ろ材のろ過性能を回復させて使用することができ、処理費用をさらに削減することができる。
【0018】
本発明に係るろ過水の製造方法は、原水をろ材でろ過してろ過水を製造する方法であって、ろ材に原水を供給しながら、ろ過水側からろ材へ流体を供給し、この流体を前記原水とともに排出する逆洗工程を備えている。
【0019】
この構成によれば、逆流洗浄を行うことで、ろ材のろ過性能を回復させて使用されるので、維持管理費用を抑えることができる。また、逆流洗浄中もろ過ユニットに原水が常に供給されているので、逆洗用の流体を原水供給側に逆流させることなく、スムーズに排水できる。
【0020】
本発明において、前記ろ材として孔径1〜25μmのデプスフィルタを用いることが好ましい。デプスフィルタは、被ろ過物質をフィルタの表面のみで捕集するサーフェスフィルタと異なり、フィルタの厚み方向全体で被ろ過物質を捕集することができるので、捕集量が多く、フィルタが長時間目詰まりを起こすことがない。
【0021】
本発明に係るバラスト水の製造方法は、本発明のバラスト水製造装置を用いたバラスト水製造方法であって、前記ろ材からバラストタンクへのろ過水の供給およびろ材への流体の供給を停止した状態で、前記ろ過ユニットを経て前記排出口から流体を原水とともに排出する準備工程と、ろ材からの原水の排出とろ材への流体供給とを停止した状態で、ろ過ユニットに原水を供給して、ろ過水を前記ろ過水取出口に送るろ過工程と、バラストタンクへのろ過水の供給を停止した状態で、ろ材に原水を供給しながら、ろ過水側からろ材へ流体を供給し、この流体を前記原水とともに前記排出口から前記排出通路を経て船舶の外部へ排出する逆洗工程とを備えている。
【0022】
この構成によれば、海中に生息するプランクトンを可能な限り損傷させることなく船外へ戻すことができ、かつ小型で処理コストを低く抑えることができる。また、ろ過ユニットへは原水が常に供給されているので、通路内に急激な圧力変動が起こるのを避けることができ、水撃の発生を防止することができる。さらに、逆洗工程においても原水がろ過ユニットへ供給されるので、逆洗用流体を原水供給側に逆流させることなく、スムーズに排水できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のろ過ユニットおよびろ過水製造方法によれば、逆流洗浄を行うことで、ろ材のろ過性能を回復させて使用することができ、維持管理費用を抑えることができる。また、逆流洗浄中もろ過ユニットに原水が常に供給されているので、逆洗用流体を原水供給側に逆流させることなく、スムーズに排水できる。
また、本発明のバラスト水製造装置およびバラスト水製造方法によれば、大部分のプランクトンを生かしたまま捕捉することができ、バラスト水積込み側の海洋の生態系を壊さないうえに、動力の消費電力量や薬剤の使用量が少なくて済み、その結果、小型で処理費用の安いシステムを構築することができる。また、デプスフィルタのろ過性能を回復させて使用することで、処理費用をさらに削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係るろ過ユニットを備えたバラスト水製造装置の系統図である。
図2】同上ろ過ユニットの拡大断面図である。
図3】同上ろ過システムの運転工程表である。
図4】デプスフィルタの孔径を変えたときの原水の供給流量と圧力損失との関係を示したグラフである。
図5】本発明の第2実施形態に係るろ過ユニットの斜視図である。
図6】同ろ過ユニットの固定板の平面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係るバラスト水製造装置の系統図である。
図8】同装置の一方のろ過ユニットでろ過するときの系統図である。
図9】同装置の他方のろ過ユニットでろ過するときの系統図である。
図10】本発明の第4実施形態に係るろ過ユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るろ過ユニットを備えた船舶のバラスト水製造装置の概略系統図である。バラスト水製造装置1は船舶S内に設置されており、原水RWを船舶S内に取り込むバラストポンプ2と、船舶内に取り込まれた原水RWをろ過するろ過ユニット4とを備えている。ろ過ユニット4には、バラストポンプ2により原水RWが供給される原水通路5と、ろ過ユニット4からのろ過水FWを船舶S内に設置されたバラストタンク6に供給する送水通路8と、ろ過ユニット4内の原水RWを後述する圧縮空気Aとともに船外へ排出する排出通路14とが接続され、送水通路8にはろ過ユニット4へ圧縮空気Aを供給する気体供給通路12が接続されている。これにより、船舶Sに搭載済みの既存のバラスト水製造装置に対して、そのろ過ユニットを本発明のろ過ユニット4に交換し、さらに既存の送水通路に気体供給通路12を接続することで、既存のバラスト水製造装置にも本発明を容易に適用できる。
【0026】
各通路5,8,12,14は配管により形成されている。ろ過ユニット4は、筒形の筐体9内にろ過膜を形成するろ材であるデプスフィルタ10が収納されている。本実施形態では、バラストポンプ2は船舶に搭載されているが、船外に設けられてもよく、例えば、港に設置されていてもよい。
【0027】
原水通路5には、原水流量の調整弁として機能する第1自動開閉弁MV1が接続され、原水通路5における第1自動開閉弁MV1とろ過ユニット4の間、つまりろ過ユニット4の一次側に一次圧力センサP1が設けられている。送水通路8には、ろ過水FWの送水弁として機能する第2自動開閉弁MV2が接続され、送水通路8における第2自動開閉弁MV2とろ過ユニット4の間、つまりろ過ユニット4の二次側に二次圧力センサP2が設けられている。さらに、送水通路8におけるバラストタンク6の上流側にミキサー26が設けられ、このミキサー26により、薬剤タンク28から投入された殺菌用の薬剤とろ過水FWとが撹拌されている。投入される薬剤は、例えば、次亜塩素酸類、過酸化物である。また、薬剤を投入する方法に代えて、バラスト水管理条約で規定された基準に適合した処理水を製造するための、その他の公知の殺菌手段を用いてもよい。具体例として、オゾンと接触させる方法、紫外線を照射する方法などである。
【0028】
気体供給通路12には圧縮空気導入弁として作用する第3自動開閉弁MV3が接続され、排水通路14には、排水弁として作用する第4自動開閉弁MV4が接続されている。前記気体供給通路12の一端は図示しない空気圧縮機に接続されており、他端がろ過ユニット4の下部の二次側に接続されている。なお、気体供給通路12の他端は、送水通路8におけるろ過ユニット4近傍、より具体的には、ろ過ユニット4と二次圧力センサP2との間に接続してもよい。バラストポンプ2および第1〜4自動開閉弁MV1〜MV4の駆動は、コントローラ30により制御されている。また、一次圧力センサP1および二次圧力センサP2の出力はコントローラ30に入力されている。
【0029】
空気圧縮機は船舶に別の用途で搭載されているものを使用してもよいし、専用のものを設置してもよい。また、各自動開閉弁MV1〜4としては、エア駆動弁、電動弁、電磁弁あるいはコントローラを使用しない手動弁などが用いられる。
【0030】
デプスフィルタ10は、一端が開口し、他端が閉止部材13により閉塞された中空円筒状であり、その一端である開口端10aをろ過水取出口16に向けることにより、デプスフィルタ10の中空部11をろ過水取出口16に連通させている。原水RWは、デプスフィルタ10を径方向に通過する際に、フィルタ内部の空孔により異物が捕捉され、ろ過水FWが得られる。デプスフィルタ10はまた、ろ過ユニット4の筐体9内に着脱自在に収納されて、開口端10aが他端である閉止端10bよりも下になるよう、つまり、ろ過ユニット4がろ過水取出口16に向かって斜め下方へ傾斜するように配置されている。デプスフィルタ10の長手方向の中心線Cと水平面Hとのなす角である傾斜角αは20〜70°が好ましく、より好ましくは、30〜60°である。
【0031】
ろ過ユニット4の拡大断面図である図2に示すように、傾斜したろ過ユニット4の筐体9の下側の一端壁9aにろ過水取出口16が設けられ、ろ過ユニット4の筐体9の周壁9bにおける一端壁9a寄りの下部に原水供給口18が設けられ、原水供給口18よりも上方で、筐体9の周壁9bにおける他端壁9c寄りの上部に排出口22が設けられている。
【0032】
前記原水通路5が原水供給口18に接続され、送水通路8がろ過水取出口16に接続され、排水通路14が排出口22に接続されている。ろ過水取出口16には、気体供給通路12が接続されており、ろ過水取出口16は、ろ過ユニット4における圧縮空気Aの気体供給口24も兼ねているので、気体供給口24が、圧縮空気Aおよび原水RWの導出口である排出口22よりも低い位置に設けられていることになる。これにより、圧縮空気Aの圧力によるエアリフト効果を利用して、すなわちエアによって排水通路14内の原水RWを押し上げて、原水RWを排水するので、原水RWおよび圧縮空気Aをスムーズに排出することができる。原水供給口18および排出口22は、デプスフィルタ10の一次側に設けられており、ろ過水取出口16は二次側に設けられている。
【0033】
デプスフィルタ10は外圧方式の円筒状フィルタであり、縦断面形状がコ字形である。該デプスフィルタ10は、例えば、合成繊維や化学繊維をウェブ、不織布、紙、織物等の形態にして溶着・成形等を行い、円筒状に加工した積層タイプと呼ばれるものが例示される。合成繊維としては、ポリオレフィン、ポリエステル、あるいはナイロンやエチレンビニルアルコール共重合体などの熱溶融性ポリマーまたはポリビニルアルコールやポリアクリロニトリルなどのポリマーを用いることができる。中でも、気体による逆流洗浄を行う場合、フィルタ交換時の液きり性の観点から、ポリオレフィンおよびポリエステル、具体的には、ポリプロピレンが好ましい。また、フィルタはその厚み方向において、繊維の密度や繊度を変更し、フィルタの外側(原水流入側)において、繊維密度が低い、あるいは繊度が大きい構造が好ましい。該デプスフィルタ10としては、他にも、フィラメントや紡績糸をスパイラル状に巻きつけた糸巻きフィルタと呼ばれるものや、スポンジのような樹脂成形体である樹脂成形タイプと呼ばれるものがある。
【0034】
ろ過膜の孔径は、1〜25μmであり、より好ましくは1〜10μmである。孔径が小さ過ぎると目詰まりが発生し、圧力損失が大きくなる。孔径が大き過ぎると小さいプランクトンが通過してしまうので、これを減らすためにキャビテーションなどの別途手段が必要となり、バラスト水製造費用が高くなる。
【0035】
デプスフィルタ10は当該ろ過ユニット4においては逆洗可能であり、逆洗によりろ過性能を回復させて、ろ過時の差圧が上昇することなく使用できる。本実施形態では、逆洗は、コンプレッサ(図示しない)から気体供給通路12(図1)を通って供給される圧縮空気Aにより行っており、気体供給口24からの圧縮空気Aの供給圧は、一次圧力センサP1の指示圧力よりも0.05〜0.2MPa高い圧力である。逆洗に用いられる流体は空気以外の気体、例えば窒素等でもよく、また、真水、ろ過された海水等の液体でもよい。
【0036】
次に、図1および図3を用いて、バラスト水製造装置の運転方法、つまり、本実施形態に係るろ過ユニットによるろ過水製造方法について説明する。図3に示すように、バラスト水製造装置の運転方法は、ろ過の準備工程であるエア抜き工程、第1切替工程、ろ過工程、第2切替、第3切替および逆洗工程からなる。
【0037】
コントローラ30に設置された始動ボタン(図示しない)を操作してバラスト水製造装置1を作動させると、まずバラストポンプ2が起動し、第1自動開閉弁MV1と第4自動開閉弁MV4とを開いてエア抜き工程に入る。エア抜き工程では、第2自動開閉弁MV2と第3自動開閉弁MV3を閉じて、デプスフィルタ10からバラストタンク6へのろ過水FWの供給およびデプスフィルタ10への圧縮空気Aの供給を停止した状態で、ろ過ユニット4を経て排出通路14に原水RWを流して、船外へ排出することにより、原水通路5およびろ過ユニット4のエア抜きを行う。
【0038】
次に、第2自動開閉弁MV2を開いて第1切替工程に入る。第1切替工程では、デプスフィルタ10への圧縮空気Aの供給を停止した状態で、ろ過ユニット4を経て、排出通路14に原水RWを、送水通路8にろ過水FWをそれぞれ供給する。
【0039】
つづいて、第4自動開閉弁MV4を閉じてろ過工程に入る。ろ過工程では、デプスフィルタ10からの排水とデプスフィルタ10への圧縮空気供給とを停止した状態で、ろ過ユニット4に原水RWを供給して、ろ過水FWを送水通路8に送る。このとき、原水RWはデプスフィルタ10の外側からデプスフィルタ10のろ過膜を通過して中空部11へ流入することにより、原水RW中の異物が除去されてろ過される。ろ過水FWは送水通路8を通って、バラストタンク6へ供給される。
【0040】
次に、第4自動開閉弁MV4を開いて第2切替工程に入る。第2切替工程では、デプスフィルタ10への圧縮空気Aの供給を停止した状態で、原水RWをろ過ユニット4に供給することにより、ろ過水FWを送水通路8に流し、原水RWを排出通路14に流す。
【0041】
つづいて、第2自動開閉弁MV2を閉じて第3切替工程に入る。第3切替工程では、デプスフィルタ10からバラストタンク6へのろ過水FWの供給およびデプスフィルタ10への圧縮空気Aの供給を停止した状態で、原水RWを排出通路14に流す。こうしてデプスフィルタ10からのろ過水FWの供給を停止することにより、次の逆洗工程におけるろ過水FWの流れ方向と逆方向への圧縮空気Aの供給開始に備える。
【0042】
次に、第2自動開閉弁MV2を閉じたままで、第3自動開閉弁MV3を開けて逆洗工程に入る。逆洗工程では、バラストタンク6へのろ過水FWの供給が停止されている状態で、ろ過ユニット4に原水RWを供給しながらデプスフィルタ10の中空部11へ圧縮空気Aを供給し、この圧縮空気Aを原水RWとともに排出通路14に流す。これにより、圧縮空気Aがろ過工程とは逆方向にデプスフィルタ10を通過して、デプスフィルタ10に付着した異物および筐体9内に溜まった異物をろ過ユニット4外へ導出させ、排出通路14から船舶Sの外部へ排出する。
【0043】
逆洗工程が完了すると、第3自動開閉弁MV3を閉めてエア抜き工程に戻る。以降このループが繰り返される。エア抜き工程の継続時間は、タイマのような時限装置により可変設定される。設定時間は処理設備の規模によって異なるが、例えば、数秒〜1分程度である。第1、第2および第3切替工程はごく短時間、例えば数秒程度であり、これもタイマのような時限装置により可変設定される。このように、ろ過工程および逆洗工程に入る前に、第1、第2および第3切替工程を経由させることで、通路内に急激な圧力変動が起こるのを避けることができる。ろ過工程および逆洗工程の時間は、原水の水質や設備の規模により異なるが、例えば、10分程度で、これもタイマのような時限装置により可変設定される。ろ過工程から第2切替工程への移行は、一次圧力センサP1と二次圧力センサP2との差圧△P(=P1−P2)が規定値よりも大きくなった時点で行うようにしてもよい。
【0044】
ろ過工程中は、コントローラ30が常時差圧△Pを監視しており、差圧△Pが警報値H1を上回ると、例えばブザーのような警報を発し注意を促す。この時点では水処理装置1は運転を継続する。さらに、差圧△Pが大きくなり非常停止値H2を上回ると、例えばベルのような警報を発し、水処理装置1が緊急停止する。具体的には、コントローラ30がバラストポンプ2を停止させ、すべての自動開閉弁MV1〜4を閉止させる。
【0045】
急激な圧力変化や、流速変化はプランクトンに損傷を与えるだけでなく、パラストポンプ2、各自動開閉弁MV1〜4、各通路5,8,12,14に水撃(ウォータハンマ)が発生してしまうが、図3の運転方法のように、バラストポンプ2が常に運転してバラストポンプ2からの原水RWの供給が止まることがなく、しかも各自動開閉弁MV1〜4の開閉タイミングを調節しているので、マイルドな運転を行うことができる。また、原水RWを流しながら逆洗を行うので、バラストポンプ2の吐出圧と圧縮空気Aの空気圧によりスムーズに排水できるうえに、別途ドレンポンプやドレン配管が不要となり、システムを簡素化できる。
【0046】
上記構成において、デプスフィルタ10を形成するろ過膜の孔径が1〜25μmであるので、フィルタの目詰まりによる圧力損失を抑えつつ、大部分のプランクトンを生かしたまま捕捉することができ、バラスト水積込み側の海洋の生態系を壊さないうえに、従来のようなプランクトンを処理するためのキャビテーションや薬剤投与をする必要がなくなるから、動力の消費電力量や薬剤の使用量が少なくて済む。その結果、小型で処理費用の安いバラスト水製造装置を構築することができる。また、デプスフィルタ10を逆流洗浄しているので、デプスフィルタ10のろ過性能を回復させて使用することができ、処理費用をさらに削減することができる。さらに、安価なデプスフィルタ10を用いているので、平膜のようなフィルタ表面で異物を捕捉するサーフェスフィルタを用いる場合に比べて、初期導入費用を抑えることができる。
【0047】
気体供給口24とろ過水取出口16とが同一であるので、気体供給口24とろ過水取出口16とを共通化して、構成を簡単にすることができる。
【0048】
さらに、ろ過ユニット4がろ過水取出口16に向かうにつれて下方へ傾斜するように配置されているので、ろ過ユニット4におけるろ過水取出口16と反対側が高位となり、気体による逆流洗浄後に原水RWをろ過する際に、ろ過ユニット4内の空気Aが抜け易くなり、ろ過水FWにエアが混入する恐れが少なくなる。また、この水平方向に対する傾斜角αが大き過ぎると、ろ過ユニット4の上下寸法が大きくなるので、取り外し等のメンテナンスの際に、ろ過ユニット4の上方にデプスフィルタ10を抜き出すための広いスペースが必要となり、小さ過ぎると、ろ過ユニット4内の空気Aが抜け難くなる。したがって、この傾斜角αは20〜70°であることが好ましい。
【0049】
排出口22が原水供給口18よりも上方に設けられているので、ろ過運転のために原水を供給し始める初動時、または逆流洗浄後に原水の供給を再開することによりろ過ユニット4内のエア抜きを行う際に、ろ過ユニット4内の空気Aが円滑に排出される。
【0050】
さらに、上記運転方法によれば、図3に示すように、システム稼働中はバラストポンプ2が常に運転している、つまり、ろ過ユニット4へは原水RWが常に供給されているので、通路内に急激な圧力変動が起こるのを避けることができ、水撃の発生を防止することができる。また、逆洗工程においても原水RWがろ過ユニット4へ供給されるので、圧縮空気Aの供給圧と原水RWの供給圧とにより、圧縮空気Aを原水通路5内に逆流させることなく、原水流にのせてスムーズに排水できる。
【0051】
また、デプスフィルタは、被ろ過物質をフィルタの表面のみで捕集するサーフェスフィルタと異なり、フィルタの厚み方向全体で被ろ過物質を捕集することができるので、捕集量が多く、フィルタが長時間目詰まりを起こすことがない。
【0052】
本実施形態におけるデプスフィルタ10を用いて、検証実験を行った。原水は海水で、原水の供給圧力、流量は、それぞれ0.03MPa、0.037m/minである。逆洗用の流体には圧縮空気を用いて、圧縮空気の供給圧力、流量は、それぞれ0.13MPa、0.4Nm/minである。使用したデプスフィルタは、長さ25cmで、孔径は1μm,25μmとした。また、デプスフィルタの軸心を水平面に対して45°傾斜させて配置した。
【0053】
検証1:初期圧力損失
表1は、原水温度が25℃のときの孔径0.5μm、1μmおよび25μmのデプスフィルタにおいて、原水を供給した際のデプスフィルタの一次側と二次側との圧力の差を示したもので、図4は、原水の供給流量と圧力損失の関係を示したグラフである。表1および図4から明らかなように、1μmおよび25μmのデプスフィルタにおいては圧力損失が小さいが、0.5μmのデプスフィルタにおいては圧力損失が極めて大きく、ほとんど原水が流れなくなった。したがって、デプスフィルタの孔径は1μm以上であることが好ましい。
【0054】
【表1】
【0055】
検証2:逆洗効果
表2は、孔径1μmと25μmのデプスフィルタのそれぞれにおいて、連続ろ過運転した場合と、ろ過運転・逆洗運転を交互に行った場合のデプスフィルタの状態(差圧の状況)を示したものである。ろ過・逆洗の交互運転は、ろ過運転と逆洗運転を5分毎に交互に繰り返した。連続ろ過運転をした場合、25μmのデプスフィルタでは約2時間で、1μmのデプスフィルタでは約40分間で差圧が上昇し、デプスフィルタが閉塞した。ろ過・逆洗の交互運転では、1μm、25μmのどちらのデプスフィルタにおいても、5時間連続運転後も差圧の上昇はなく、デプスフィルタの閉塞はなかった。
【0056】
【表2】
【0057】
検証3:ろ過水の水質
表3は、孔径1μm、25μmのデプスフィルタそれぞれにおける、原水およびろ過水1ml中に含まれるサイズ別の粒子の数(水中パーティクル数)と、除去率を示している。各データの分母が原水における水中パーティクル数、分子がろ過水における水中パーティクル数を表し、括弧内の数値は除去率を表している。孔径が25μmのデプスフィルタでは、粒子径が25μm以上の粒子の約96%、10μm以上の粒子の約88%が除去され、1μm以上の粒子でも60%以上が除去されている。さらに、孔径が1μmのデプスフィルタでは、粒子径が25μm以上の粒子の99%以上、10μm以上の粒子の約94%が除去され、1μm以上の粒子でも90%以上が除去されている。
【0058】
【表3】
【0059】
検証4:薬剤投入量
表4は、デプスフィルタ10を通過後のろ過水に残留した菌および微生物を処分するのに必要な薬剤(次亜塩素酸)の濃度を示している。「なし」は、ろ過を行わない、すなわち生の海水であり、孔径50μmのデプスフィルタ10は、従来のバラスト水製造用に用いられているものである。表4からわかるように、孔径が30μmの場合は、従来の50μmのものと比べて効果が薄いが、25μmのデプスフィルタ10を使用すると、従来の50μmの3分の1程度の濃度で済み、10μmの場合では、8分の1以下の濃度で済む。したがって、デプスフィルタの孔径は25μm以下であることが好ましい。
【0060】
【表4】
【0061】
検証1の結果から分かるように、本実施形態に使用するデプスフィルタ10は、孔径が1μmであっても圧力損失がほとんどないので、デプスフィルタ10の投影面積が少なくて済み、ろ過ユニット4が大型化するのを抑えることができる。また、検証2の結果から分かるように、逆洗を行うことで、繰り返し使用可能となる。これにより、寿命が格段に長くなる。さらに、検証3の結果から分かるように、孔径が25μmのもので、50μm以上のプランクトンの90%以上、10μm以上のプランクトンの80%以上を除去している。また、検証4の結果から分かるように、孔径を25μmとしたもので、従来の孔径50μmのフィルタを使用する場合と比べて、3分の1の濃度の薬剤で済む。したがって、デプスフィルタ10の孔径は1〜25μmとすることができる。
【0062】
図5は、複数のデプスフィルタ10を備えた、本発明の第2実施形態に係るろ過ユニット4Aを示す斜視図である。第1実施形態と同様に、ろ過ユニット4Aは、ろ材38とそれを収容する円筒状の筐体9Aとからなり、筐体9Aはろ過水取出口16Aと、原水供給口18Aと、排出口22Aと、気体供給口24Aとを有しており、ろ過水取出口16Aと気体供給口24Aとは共通としている。これらろ過水取出口16A、原水供給口18A、排出口22Aおよび気体供給口24Aの配置、機能は第1実施形態と同様である。
【0063】
筐体9Aの上部には蓋部9Acが開閉自在に設けられ、下部には底板9Adが設けられている。底板9Adには、各デプスフィルタ10に対応する位置に円形の貫通孔52が設けられ、各デプスフィルタ10の中空部11がろ過水取出口16Aおよび気体供給口24Aと連通している。第2実施形態では、ろ材38として複数のデプスフィルタ10の両端を固定板40で固定して一体化したサブユニットを使用している。固定手段は、例えば接着剤による固着であるが、これに限定されない。各デプスフィルタ10は、閉止部材13(図2)で一端を閉塞していないこと、すなわち、両端が開口した中空円筒状であることを除いて、第1実施形態と同様のものである。この実施形態では、19本のデプスフィルタ10を用いているが、デプスフィルタ10の数はこれに限定されない。
【0064】
図6は固定板40の平面図である。固定板40は、例えば樹脂製の板材からなり、各デプスフィルタ10に対応する位置に円形の開口46が形成されている。開口46の直径はデプスフィルタ10の外径よりも小さく設定されている。この実施形態では、固定板40は六角形であるが、他の多角形あるいは円形でもよい。固定板40の一側部には被係合溝48が形成され、筐体9Aの係合板44に係合されて、筐体9Aに対するろ材38の周方向の位置決めが行われている。
【0065】
次に図5を用いて第2実施形態のろ過ユニット4Aの組立方法を説明する。まず、接着剤などを用いて、デプスフィルタ10の両端が開口46に合致するように、各デプスフィルタ10を固定板40に固定することで一体化して、ろ材38をサブユニットとして完成させる。
【0066】
つづいて、図5に示す固定板40の被係合溝48を筐体9Aの係合板44に係合させた状態で、ろ材38を筐体9Aに挿入する。さらに、蓋部9Acを閉めることで、ろ材38が蓋部9Acと底板9Adとにより挟持されて強固に支持される。
【0067】
ここで、デプスフィルタ10の上部は蓋部9Acにより閉止されるので、デプスフィルタ10の中空部11内のろ過水FWは、下部の底板9Adの貫通孔52を通ってろ過水取出口16Aから導出される。また、気体供給口24Aからろ過ユニット4Aに導入された逆流洗浄用の圧縮空気Aは、底板9Adの貫通孔52からデプスフィルタ10の中空部11に導かれ、デプスフィルタ10を洗浄する。
【0068】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができるうえに、複数のデプスフィルタ10を組み合わせてろ材38を形成しているので、ろ過面積が大きくなり、効率よくろ過を行うことができる。さらに、複数のデプスフィルタ10をサブユニットとして一体化しているから、一体化されたろ材38を交換することで複数のデプスフィルタ10を容易に交換できる。
【0069】
図7は、第3実施形態に係るバラスト水製造装置の概略系統図である。図1の実施形態との違いは、2つの第1および第2ろ過ユニット4B,4Cを備えており、一方のろ過ユニット4B(4C)でろ過している間に他方のろ過ユニット4C(4B)を逆流洗浄する点で、その他の構造、動作は図1の装置と同様である。ろ過ユニット4B,4Cは、第1実施形態のろ過ユニット4であっても、第2実施形態のろ過ユニット4Aであってもよい。
【0070】
第3実施形態では、バラストポンプ2から原水RWが供給される原水通路5が2つの原水枝通路5B,5Cに分岐して、第1および第2原水枝通路5B,5Cがそれぞれ第1および第2ろ過ユニット4B,4Cの原水供給口18B,18Cに接続されている。第1および第2原水枝通路5B,5Cには、それぞれ第1および第2原水流入弁B1,C1が設けられている。ミキサー26、薬剤タンク28を経由してろ過水FWをバラストタンク6に送る送水通路8も、2つの第1および第2ろ過水枝通路8B,8Cに分岐して、第1および第2ろ過水枝通路8B,8Cがそれぞれ第1および第2ろ過ユニット4B,4Cのろ過水取出口16B,16Cに接続されている。第1および第2ろ過水枝通路8B,8Cには、それぞれ第1および第2ろ過水送水弁B2,C2が設けられている。
【0071】
逆流洗浄用の圧縮空気Aを供給する空気供給通路12も2つの第1および第2空気枝通路12B,12Cに分岐して、第1および第2空気枝通路12B,12Cがそれぞれ第1および第2ろ過水枝通路8B,8Cにおける第1および第2ろ過水送水弁B2,C2の上流側、すなわちろ過ユニット4B,4C側に接続される。第1および第2空気枝通路12B,12Cには、それぞれ第1および第2空気供給弁B3,C3が設けられている。各ろ過ユニット4B,4C内の原水RWを圧縮空気Aとともに排出する排出通路14も2つの第1および第2排出枝通路14B,14Cに分岐して、第1および第2排水枝通路14B,14Cがそれぞれ第1および第2ろ過ユニット4B,4Cの排出口22B,22Cに接続される。第1および第2排出枝通路14B,14Cには、それぞれ第1および第2排出弁B4,C4が設けられている。
【0072】
この実施形態でも、バラストポンプ2、バラストタンク6、ミキサー26、薬剤タンク28および原水通路5、送水通路8、空気供給通路12、排出通路14は、船舶に既存のものを使用することができ、本実施形態に係るろ過ユニット4B,4Cと、これに接続される各枝配管のみを既存のものと交換することもできる。また各弁B1〜4およびC1〜4としては、エア駆動弁、電動弁、電磁弁あるいはコントローラを使用しない手動弁などが用いられる。
【0073】
次に図8および図9を用いて、本実施形態のバラスト水製造装置の運転方法を説明する。図8は、第1ろ過ユニット4Bでろ過を行い、第2ろ過ユニット4Cを逆流洗浄しているときの系統図である。このとき、第1原水流入弁B1、第1ろ過水送水弁B2,第2原水流入弁C1,第2空気供給弁C3および第2排出弁C4が開いており、第1空気供給弁B3,第1排出弁B4および第2ろ過水送水弁C2が閉じている。バラストポンプ2により供給される原水RWは、第1および第2原水枝通路5B,5Cを通って、第1および第2ろ過ユニット4B,4Cに供給される。第1ろ過ユニット4Bに供給された原水RWはデプスフィルタ10によりろ過され、第1送水枝通路8Bから送水通路8を通ってバラストタンク6に送られる。一方、空気圧縮機(図示しない)から供給された圧縮空気Aは、第2空気枝通路12Cを通って第2ろ過ユニット4Cに供給され、デプスフィルタ10を逆流洗浄して、原水RWとともに第2排出枝通路14Cから排出通路14を通って船舶の外へ排出される。図中の矢印RAは原水RWの流れを、矢印FAはろ過水FWの流れを、矢印AAは圧縮空気Aの流れをそれぞれ示している。
【0074】
図9は、第2ろ過ユニット4Cでろ過を行い、第1ろ過ユニット4Bを逆流洗浄しているときの系統図である。このとき、第1原水流入弁B1、第1空気供給弁B3、第1排出弁B4、第2原水流入弁C1および第2ろ過水送水弁C2が開いており、第1ろ過水送水弁B2、第2空気供給弁C3および第2排出弁C4が閉じている。バラストポンプ2により供給される原水RWは、第1および第2原水枝通路5A,5Bを通って、第1および第2ろ過ユニット4B,4Cに供給される。第2ろ過ユニット4Cに供給された原水RWはデプスフィルタ10によりろ過され、第2送水枝通路8Cから送水通路8を通ってバラストタンク6に送られる。一方、空気圧縮機(図示しない)から供給された圧縮空気Aは、第1空気枝通路12Bを通って第1ろ過ユニット4Bに供給され、デプスフィルタ10を逆流洗浄して、原水RWとともに第1排出枝通路14Bから排出通路14を通って船舶の外へ排水される。
【0075】
タイマなどの時限装置により、図8図9の各弁B1〜4およびC1〜4の開閉状態を交互に繰り返すことで、一方のろ過ユニット4B(4C)が逆流洗浄中であっても、他方のろ過ユニット4C(4B)でろ過を行うことができる。本実施形態では、2つのろ過ユニット4B,4Cを設けているが、3つ以上であってもよい。
【0076】
第3実施形態によれば、第1および第2ろ過ユニット4B,4Cの洗浄、ろ過が同時に行われるので、常にろ過を継続することが可能となり、バラスト水製造時間を短縮することができる。また、仮に、一方のろ過ユニット4B(4C)に異常が発生した場合でも、他方のろ過ユニット4C(4B)をろ過と逆流洗浄を交互に行うようにして使用することで、バラスト水を製造することができるので、システム全体の信頼性が向上する。
【0077】
図10は、第4実施形態のろ過ユニット4Dを示す。この実施形態では、ろ過ユニット4Dの円筒状の筐体9Dは、下側の一端壁9Daと、周壁9Dbと、上側の他端壁9Dcとからなり、軸心Cが傾斜して、一端壁9Daから他端壁9Dcに向かって斜め上方へ傾斜するように配置されている。デプスフィルタ10の長手方向の中心線Cと水平面Hとのなす角である傾斜角αは20〜70°が好ましく、より好ましくは、30〜60°である。傾斜角αが大き過ぎると、ろ過ユニット4Dの上下寸法が大きくなるので、取り外し等のメンテナンスの際に、ろ過ユニット4Dの上方にデプスフィルタ10Dを抜き出すための広いスペースが必要となり、小さ過ぎると、筐体9D内の空気Aが抜け難くなる。
【0078】
筐体9Dの一端壁9Daに排出通路14に接続される排出口22Dが、周壁9Dbにおける一端壁9Da付近に原水通路5に接続される原水供給口18Dが、周壁9Dbにおける他端壁9Dc付近に気体供給通路12に接続される気体供給口24Dおよび送水通路8に接続されるろ過水取出口16Dが、それぞれ形成されている。
【0079】
筐体9Dの周壁9Dbにおける気体供給口24Dおよびろ過水取出口16Dよりも軸方向の下方に環状の底板9Ddが設けられ、デプスフィルタ10Dの開口端10Daが該底板9Ddに支持されている。つまり、筐体9Dにおける他端壁9Dcと底板9Ddとの間には空間Sが形成され、この空間Sに気体供給口24D、ろ過水取出口16Dおよびデプスフィルタ10Dの開口端10Daが臨んでおり、デプスフィルタ10Dの中空部11Dと空間Sが連通している。筐体9Dと同心のデプスフィルタ10Dも傾斜しており、開口端10Daが閉止端10Dbよりも上になるように配置されている。その他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0080】
第4実施形態によれば、デプスフィルタ10Dの開口端10Daが斜め上方に開口しているので、逆洗工程からエア抜き工程に切り換えた際に、デプスフィルタ10Dの閉止端10Db付近の空気が開口端10Daから抜けるから、デプスフィルタ10Dに空気が残るのを防いで、ろ過工程においてデプスフィルタ10Dの全体を使って効率的にろ過を行うことができる。
【0081】
第4実施形態において、第2実施形態のようにデプスフィルタ10Dを複数とすることもでき、また、第3実施形態のように、ろ過ユニット4Dを2つとした装置を構成することもでき、さらに、これらを組み合わせることもできる。
【0082】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 バラスト水製造装置(ろ過システム)
4 ろ過ユニット
6 バラストタンク
8 送水通路
9 筐体
10 デプスフィルタ(ろ材)
12 気体供給通路
14 排出通路
16 ろ過水取出口
18 原水供給口
22 排出口
24 気体供給口
38 ろ材
40 固定板
A 圧縮空気
FW ろ過水
RW 原水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10