(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764492
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】超電導線材用テープ基材及び超電導線材
(51)【国際特許分類】
C01G 1/00 20060101AFI20150730BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20150730BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
C01G1/00 S
H01B12/06ZAA
H01B13/00 565D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-529969(P2011-529969)
(86)(22)【出願日】2010年9月6日
(86)【国際出願番号】JP2010065241
(87)【国際公開番号】WO2011027886
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-205584(P2009-205584)
(32)【優先日】2009年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】福島 弘之
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−522733(JP,A)
【文献】
特開平04−331795(JP,A)
【文献】
特表2007−532775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00 − 1/14
H01B 12/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に中間層が形成されてなる超電導線材用テープ基材であって、
前記中間層は、IBAD法によって蒸着源からの蒸着粒子を成膜面に堆積させて形成される岩塩型構造の一酸化ニオブからなる2軸配向層を有していることを特徴とする超電導線材用テープ基材。
【請求項2】
前記2軸配向層の厚さは、平均膜厚で0.4〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材用テープ基材。
【請求項3】
前記中間層は、前記金属基板表面に形成される拡散防止層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導線材用テープ基材。
【請求項4】
前記拡散防止層が、Al2O3又はCr2O3からなることを特徴とする請求項3に記載の超電導線材用テープ基材。
【請求項5】
前記2軸配向層は、イオンビームを成膜面に対して斜め方向から照射しながら、蒸着源からの蒸着粒子を成膜面に堆積させて形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超電導線材用テープ基材。
【請求項6】
前記中間層は、前記2軸配向層表面に形成されるキャップ層を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の超電導線材用テープ基材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の超電導線材用テープ基材の表面に、超電導層を形成してなることを特徴とする超電導線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルや超電導マグネットなどの超電導機器に用いられる超電導線材用のテープ基材に関し、特に、金属基板上に形成される中間層の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体窒素温度(77K)以上で超電導を示す高温超電導体の一種として、RE系超電導体(RE:希土類元素)が知られている。特に、化学式YBa
2Cu
3O
7-yで表されるイットリウム系超電導体(以下、Y系超電導体又はYBCO)が代表的である。
RE系超電導体を用いた超電導線材(以下、RE系超電導線材)は、一般に、テープ状の金属基板上に中間層、RE系超電導体からなる層(以下、RE系超電導層)、安定化層が順に形成された積層構造を有している。
このRE系超電導線材は、例えば、低磁性の無配向金属基板(例えば、ハステロイ(登録商標))上に2軸配向した中間層を成膜し、この2軸配向中間層上に、パルスレーザ蒸着法(PLD:Pulsed Laser Deposition)や有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等により、RE系超電導層を成膜することにより製造される。
【0003】
このような高温超電導線材における通電特性は、その超電導体の結晶方位、特に2軸配向性に大きく依存することが知られている。したがって、高い2軸配向性を有する超電導層を得るためには、下地となる中間層の結晶性を向上させる必要がある。その方法の一つとして、特許文献1、2に開示されているイオンビームアシスト蒸着法(IBAD:Ion Beam Assisted Deposition)がある。IBAD法とは、成膜面に対して斜め方向からアシストイオンビームを照射しながら、蒸着源からの蒸着粒子を堆積させて成膜する方法である。
特許文献1では、IBAD法に適用し得る蒸着源として、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、酸化マグネシウム(MgO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)が挙げられている。また、特許文献2では、IBAD法に適用し得る蒸着源として、蛍石型材料(CeO
2、YSZ等)、パイロクア型材料(GZO(Gd
2Zr
2O
7)等)、希土C型材料(Y
2O
3等)、岩塩型材料(MgO等)、ReO
3型材料(WO
3等)、ペロブスカイト型材料(LaAlO
3等)が挙げられている。特に、岩塩型であるMgOによる薄膜は、高い2軸配向性が得られることから、開発の主流となっている。
【0004】
従来の超電導線材では、金属基板からのカチオン(Ni、Mo、Mn等)の拡散が超電導層へ及ばないようにするために、金属基板上に、拡散防止層(以下、バリア層という)を有し、さらに、拡散防止層とMgOの反応を抑制する反応抑制層(以下、ベッド層という)が形成されている。また、大気と反応しやすいMgOからなる2軸配向層を保護するとともに、超電導層(例えばYBCO)との格子整合性を高めるために、2軸配向層上には、CeO
2等からなるキャップ層が形成される。
【0005】
したがって、
図4に示すように、従来の超電導線材での中間層50は、バリア層51、ベッド層52、2軸配向層53、54、キャップ層55で構成されている。なお、
図4において、2軸配向層53はIBAD法により成膜したMgO層であり、2軸配向層54はIBAD−MgO層53上にPLD法などで成膜したMgO層である。
以下において、金属基板と中間層で構成される長尺のテープ基材を、超電導線材用テープ基材と呼ぶこととする。この超電導線材用テープ基材の上(
図4ではキャップ層55の上)にYBCO等の超電導層が成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−331795号公報
【特許文献2】特表2007−532775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、中間層における2軸配向層をMgOで構成する場合、MgOは大気と反応しやすく、大気暴露下で不安定であるため、超電導線材の耐食性や剥離強度に問題が生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、中間層の簡略化により超電導線材の低コスト化を図ることができるとともに、超電導線材の特性(通電特性やハンドリング性)を向上しうる超電導線材用テープ基材及び超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するためになされたもので、金属基板上に中間層が形成されてなる超電導線材用テープ基材であって、
前記中間層は、IBAD法によって蒸着源からの蒸着粒子を成膜面に堆積させて形成される岩塩型構造の一酸化ニオブ(NbO)
からなる2軸配向層を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超電導線材用テープ基材において、前記2軸配向層の厚さが、平均膜厚で0.4〜500nmであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超電導線材用テープ基材において、前記中間層は、前記金属基板表面に形成される拡散防止層を有することを特徴とする。
ここで、「拡散防止層」とは、金属基板からのカチオン(Ni、Mo、Mn等)の拡散が超電導層へ及ばないようにする機能を有する層を意味するが、拡散防止機能とともに例えば2軸配向性を向上させるなど他の機能を有している場合も含まれる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の超電導線材用テープ基材において、前記拡散防止層が、Al
2O
3又はCr
2O
3からなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の超電導線材用テープ基材において、前記2軸配向層は、イオンビームを成膜面に対して斜め方向から照射しながら、蒸着源からの蒸着粒子を成膜面に堆積させて成膜することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の超電導線材用テープ基材において、前記中間層は、前記2軸配向層表面に形成されるキャップ層を有することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の超電導線材用テープ基材の表面に、超電導層を形成してなることを特徴とする超電導線材である。
【0016】
以下、本発明を完成するに至った経緯について説明する。
本発明者は、超電導線材の2軸配向層として開発主流となっているMgOの代替物質を模索し、公知例のないNb酸化物に着目した。そして、一酸化ニオブ(NbO)は大気暴露下で安定であるため、超電導線材の耐食性や剥離強度の向上を期待できることから、MgOの代替物質として適しているとの知見を得た。また、岩塩型NbOは、格子定数aがMgOとほぼ同一(a
MgO=0.4211nm、a
NbO=0.4210nm)であり、超電導層との格子整合性の面からも適用可能であるとの知見を得た。
しかしながら、Nb酸化物はNbO、NbO
2、Nb
2O
3、Nb
2O
5等、様々な酸化状態を採りうるため、成膜ウィンドウが狭く、成膜条件がシビアになる。また、NbOは岩塩型以外にも密度の低いCsCl型構造をとることが報告されている。これより、岩塩型NbOを2軸配向層として実用化できるかが懸念された。
【0017】
かかる懸念事項について検討したところ、従来、2軸配向層の成膜に利用されているIBAD法によれば、供給酸素量が少ない側でより良好な2軸配向膜が得られている。したがって、高品質の2軸配向層を成膜すべく元来追求されている低酸素供給によりNbOからなる2軸配向層を成膜可能と考えた。
また、IBAD法は、2軸配向層の成膜の他、アモルファス層を高密度形成する際にも用いられている。実際、超電導線材のAl
2O
3バリア層を成膜する際にIBAD法が使用されている。このことから、IBAD法によりNbOを成膜させると、低密度のCsCl型構造のNbOではなく、高密度な岩塩型構造のNbOとなるのではないかと考えた。
【0018】
そして、2軸配向層をNbOで構成したときの中間層の積層構造について検討を重ね、超電導線材としたときに、例えば臨界電流値で評価される通電特性等の超電導特性が高いことを実験的に確認し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る超電導線材用テープ基材によれば、2軸配向層を大気と反応しにくいNbOにより構成しているので、2軸配向層の配向性は崩れにくく、耐食性や剥離強度が向上するので、通電特性やハンドリング性等の超電導線材の特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る超電導線材の積層構造を示す図である。
【
図2】実施形態に係る超電導線材用テープ基材の断面構造を示す図である。
【
図3】IBAD法を使用する際に用いるスパッタ装置の概略構成を示す図である。
【
図4】従来の超電導線材用テープ基材の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る超電導線材の積層構造を示す図である。また、
図2は、本実施形態に係る超電導線材用テープ基材の断面構造を示す図である。
図1に示すように、Y系超電導線材1は、テープ状の金属基板10上に中間層20、超電導層30、安定化層40が順に形成された積層構造を有している。
図1におけるテープ状の金属基板10と中間層20が、本発明に係る超電導線材用テープ基材2を構成する。
本実施形態において、金属基板10は、低磁性の無配向金属基板(例えばハステロイ(登録商標)、オーステナイト系ステンレス鋼等)である。
図2に示すように、中間層20は、バリア層21、2軸配向層22、キャップ層23を備えて構成されている。超電導層30は、RE系超電導体からなるRE系超電導層であり、例えばMOCVD法により成膜されたYBCO超電導層である。超電導層30の上面には、例えばスパッタ法により銀からなる安定化層40が成膜されている。
【0022】
中間層20を構成するバリア層21は、金属基板10の構成元素が拡散するのを防止するための層で、例えばスパッタ法により成膜される。バリア層21の材料としては、GZO、YAlO、YSZ、Y
2O
3、Gd
2O
3、Al
2O
3、B
2O
3、Sc
2O
3、Cr
2O
3、REZrO及びRE2O3等を用いることができる。ここで、REは少なくとも1つの希土類元素からなる、およびその組み合わせからなるグループから選択された材料からなればよい。なお、バリア層21は、拡散防止機能とともに例えば2軸配向性を向上させるなど他の機能を有していてもよい。なお、2軸配向性を向上させる機能を持たせるためには、GZOをバリア層21の材料として用いることが好ましい。2軸配向層22は、超電導層30の結晶を一定の方向に配向させるためのNbOからなる多結晶薄膜であり、後述するIBAD法により成膜される。キャップ層23は、2軸配向層22を保護するとともに超電導層30との格子整合性を高めるための層で、例えばスパッタ法により成膜される。キャップ層23の材料としては、CeO
2、LaMnO
3(LMO)、SrTiO
3(STO)のいずれか1種又は2種の組合せで構成することができる。ただし、MgOと比してNbOは大気と反応しにくいため、2軸配向層22をNbOとした場合には、キャップ層23は必ずしも必要ではない。
【0023】
図3は、IBAD法を使用する際に用いるスパッタ装置の概略構成を示す図である。
図3に示すように、スパッタ装置100は、スパッタイオン源101、アシストイオン源102、ターゲット(蒸着源)103、基材搬送部104を備えて構成されている。このスパッタ装置100は真空容器(図示略)に収容され、真空中で蒸着粒子を成膜面DAに堆積できるようになっている。また、スパッタ装置100は図示しない加熱ヒータを有し、成膜面DAを所望の温度に加熱できるようになっている。
2軸配向層22を成膜する際には、テープ状の金属基板10にバリア層21を形成したものが基材110となり、これが基材搬送部104によってスパッタ装置内に搬送されることとなる。
【0024】
スパッタイオン源101及びアシストイオン源102は、それぞれイオン発生器で発生させたイオンを加速して放出するイオン銃を備え、所望のイオンをターゲット103又は成膜面DAに照射できるようになっている。
スパッタイオン源101からターゲット103に向けてイオンビームを照射すると、ターゲット103の構成粒子がはじき出される。このはじき出された粒子(蒸着粒子)が、対向する基材110の成膜面DAに堆積して、多結晶薄膜を形成する。このとき、アシストイオン源102により、基材110の成膜面に対して斜め方向(例えば成膜面の法線方向に対して45°)からアシストイオンビームを照射する。そうすると、基材110の成膜面DAに形成される多結晶薄膜のa軸とb軸とが配向し、2軸配向層が成膜される。基材搬送部104によって基材110を移動させながら成膜することで、長尺の基材110に一様に2軸配向層が形成される。
【0025】
図2に示す2軸配向層22は、
図3に示すスパッタ装置100を用いて成膜できる。本実施形態では、2軸配向層22を岩塩型NbOで構成するため、ターゲット103にはNbOが用いられる。
なお、2軸配向層22の厚さは、平均膜厚で0.4〜500nmである。膜厚が0.4nm未満では厚さ方向に1格子分確保できないため2軸配向層の形成が困難となる。また、膜厚が500nmを越えると上下の層間で剥離を生じる恐れがある。そのため、前記した数値範囲とするのが望ましい。より好ましくは、2軸配向層22の厚さは、平均膜厚で5〜50nmである。この範囲では、キャップ層23など2軸配向層22の上に形成される層の面内配向度が向上するので望ましい。中間層20は、全体として厚さ100nmとなっており、2軸配向層をMgOで構成した場合(
図4参照)に比較して、格段に薄膜化されている。
【0026】
[実施例]
表1に実施例及び比較例を示す。
【0028】
実施例(表1のサンプル1〜15)では、テープ状のハステロイ(登録商標)C276からなる基板10に、表1に示す材料を用いてバリア層21を厚さ50nmで成膜した。このバリア層21上にNbOからなる2軸配向層(IBAD−NbO層)22を厚さ0.4〜600nmの範囲で成膜し、さらにその上にCeO
2からなるキャップ層23を厚さ50nmで成膜した。
比較例(表1のサンプル16〜20)では、テープ状のハステロイ(登録商標)C276からなる基板に、表1に示す材料を用いてバリア層を厚さ50nmで成膜した。また、サンプル16、18では、このバリア層上にY
2O
3からなるベッド層を厚さ5nmで成膜した。そして、バリア層又はベッド層上にMgOからなる2軸配向層(IBAD−MgO層)を厚さ5nmで成膜し、さらにその上にCeO
2からなるキャップ層を厚さ50nmで成膜した。
【0029】
実施例及び比較例に対して、次の評価を行った。
(1)キャップ層の配向性(面内配向度)
キャップ層の配向性は、X線回折法によるΔΦ(FWHM:半値全幅)を測定することにより評価した。ここで、ΔΦは、キャップ層の面内配向度の指標となるものであり、この値が小さいほど、面内配向度が高いことを意味する。表1では、ΔΦが8°以下の場合を“◎”、ΔΦが8°より大きく20°以下の場合を“○”、ΔΦが20°より大きく35°以下の場合を“△”、ΔΦが35°より大きい場合を“×”で示している。
【0030】
(2)層間剥離の確認
層間剥離の確認は、オージェ電子分光分析によって、得られた酸化物超電導線材の表面を観察することによって行った。オージェ電子分光分析は、PHISICAL ELECTRONICS社製のPHI−660型走査型オージェ電子分光装置を用いて行った。電子銃の加速電圧は10kVとし、電流が500nAの条件で測定した。表1では、剥離が全く無いという状態を“○”、剥離が一部に見られる状態を“△”、剥離が大部分に生じている状態を“×”で示している。
【0031】
(3)通電特性
通電特性は、得られた酸化物超電導線材(線幅10mm)の臨界電流Icを測定することにより評価した。臨界電流Icは、酸化物超電導線材の200m分を液体窒素に浸漬した状態で四端子法を用いて測定した。測定は1mピッチとし、電圧端子は1.2m、電界基準は1μV/cmとした。表1では、臨界電流Icが200A以上の場合を“◎”、臨界電流Icが150A以上200A未満の場合を“○”、臨界電流Icが150A未満の場合を“△”で示している。
【0032】
比較例のサンプル17、19では、バリア層の直上にMgOからなる2軸配向層を形成しているために、バリア層のAlやCrとMgOが反応してしまい、Mg−Al−O化合物やMg−Cr−O化合物が形成される。そのため、MgOからなる2軸配向層の形成が妨げられてしまい、2軸配向層上に形成したキャップ層の配向性が悪く、超電導線材として電流を流すことができなかった。そこで、一般には、バリア層と2軸配向層の間にイットリア(Y
2O
3)等からなる反応抑制層(ベッド層)が挿入される(サンプル16、18)。このため、MgOを2軸配向層に用いた場合には、中間層が多層構造となってしまう。
【0033】
一方、サンプル1〜14では、バリア層の直上にNbOからなる2軸配向層を形成しているが、NbOはバリア層のAlやCrとの反応性が低い。そのため、2軸配向層が問題なく機能しており、キャップ層の配向性が良く、超電導線材としても電流を流すことができた。また、NbOからなる2軸配向層を用いることで、ベッド層フリーが実現可能となり、中間層の薄膜化・簡略化を図ることができた。
【0034】
サンプル1〜13において、2軸配向層の厚さを0.4〜600nmと変化させたところ、2軸配向層の厚さが1nm以上の場合にキャップ層の配向性が良好であり、5nm以上300nm未満がさらに好ましい結果となった。ただし、2軸配向層の厚さが500nm以上となった場合には、2軸配向層が厚くなりすぎたために、例えば、金属基板とバリア層の間において剥離が生じていた。配向性と剥離の影響によって、得られた超電導線材の通電特性は、2軸配向層の膜厚が5nm以上の場合に良好な結果となった。さらに、通電特性は、2軸配向層の膜厚が5nm以上300nm以下の場合に最適な結果となった。また、2軸配向層の膜厚が5nm以上50nm以下の場合には、キャップ層の配向性が最適状態となり、最も好ましい。
【0035】
実施例のサンプル15、比較例のサンプル20では、バリア層にGZOを用いた。サンプル15のように、バリア層をGZOで構成し、2軸配向層をNbOで構成した場合には、キャップ層の配向性が良好で、層間剥離も生じなかった。一方、サンプル20のように、バリア層をGZOで構成し、2軸配向層をMgOで構成した場合には、大気との反応性が高いため、製造過程において水分や二酸化炭素との反応によりMg(OH)
2やMgCO
3が生じ、キャップ層の配向性が低下した。また、水分や二酸化炭素との反応によって出来た生成物によって、MgOからなる2軸配向層と、2軸配向層と接する層において層間剥離が生じ、結果的に通電特性が落ちてしまった。
【0036】
以上より、実施例に係る超電導線材用テープ基材2において、キャップ層23は高い2軸配向性を有していることが確認できた。また、キャップ層23と2軸配向層22との界面では良好な接合性が確保されていることが確認できた。
【0037】
このように、実施形態に係る超電導線材用テープ基材(2)は、金属基板(10)上に中間層(20)が形成されてなる。そして、中間層(20)は、ターゲット(103)からはじき出された蒸着粒子を成膜面(DA)に堆積させて形成される一酸化ニオブ(NbO)からなる2軸配向層(22)を有している。この2軸配向層(22)の厚さは、平均膜厚で0.4〜500nmとなっていることが望ましい。
2軸配向層をNbOにより構成しているので、2軸配向層をMgOで構成したときに必要であったベッド層を省略することが可能である。したがって、2軸配向層をMgOで構成した場合に比較して、中間層の薄膜化・簡略化を図ることができる。そして、このような超電導線材用テープ基材を用いることで、超電導線材の低コスト化を図ることができる。
また、2軸配向層の耐食性や剥離強度が向上するので、超電導線材としたときの特性(通電特性やハンドリング性)を向上できる。
【0038】
本実施形態では、NbOからなる2軸配向層22を、イオンビームを成膜面に対して斜め方向から照射しながら、すなわちIBAD法により形成する。これにより、高密度の岩塩型NbOからなる2軸配向層を成膜することができる。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、IBAD−NbO層を含む中間層の構造としては、実施例で示した構造の他に以下の構造が考えられる。
(1)CeO
2/Epi−NbO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(2)CeO
2/LMO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(3)CeO
2/LMO/Epi−NbO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(4)LMO/Epi−NbO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(5)STO/Epi−NbO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(6)Epi−NbO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(7)LMO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(8)STO/IBAD−NbO/バリア層/基板
(9)IBAD−NbO/バリア層/基板
なお、(1)〜(9)におけるGZO、LMO、STOは、それぞれGd−Zr−O(Gd
2Zr
2O
7-x、−1<x<1)、La−Mn−O(LaMnO
3-x、−1<x<1)、Sr−Ti−O(SrTiO
3-x、−1<x<1)の略称である。また、IBAD−NbOはIBAD法により成膜したNbO層であり、Epi−NbOはIBAD−NbO層上にPLD法などでエピタキシャル成長させた自己配向のNbO層である。
【0040】
すなわち、
図2に示す超電導線材用テープ基材2において、キャップ層23は、CeO
2、LMO、STOのいずれか1種又は2種の組合せで構成することができ、又はキャップ層23を形成しない構造としてもよい。2軸配向層22は、IBAD−NbOの単層、又はEpi−NbOとIBAD−NbOの複合層で構成することができる。
また、上記実施形態では、バリア層21をAl
2O
3、Cr
2O
3及びGZOで構成した場合について示したが、これらの代わりに、YAlO、YSZ、Y
2O
3、Gd
2O
3、B
2O
3、Sc
2O
3等で構成することができる。金属基板10には、ハステロイ以外の無配向の金属基板、例えば、SUS304を適用することができる。
なお、キャップ層23は省略することができるが、バリア層21は金属基板10の構成元素(例えばNi)が拡散するのを防止するために設けるのが望ましい。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
10 金属基板
20 中間層
21 バリア層
22 2軸配向層(IBAD−NbO)
23 キャップ層(CeO
2)
30 超電導層(YBCO)
40 安定化層