(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5764506
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】セラミックス多孔体−金属断熱材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20150730BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20150730BHJP
C04B 41/80 20060101ALI20150730BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20150730BHJP
F16L 59/00 20060101ALI20150730BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
C04B37/02 B
C04B38/00 303Z
C04B41/80 Z
C04B41/88 S
F16L59/00
B32B15/04 B
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-24572(P2012-24572)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-159536(P2013-159536A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】391009419
【氏名又は名称】美濃窯業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】辻野 鮎美
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 猛
(72)【発明者】
【氏名】福島 学
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 友一
【審査官】
武重 竜男
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−141467(JP,A)
【文献】
特開2011−195437(JP,A)
【文献】
特開2011−091417(JP,A)
【文献】
特開昭63−139076(JP,A)
【文献】
特開平02−088470(JP,A)
【文献】
特開平05−237967(JP,A)
【文献】
特開平01−212283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B37/00−37/04
C04B41/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス多孔体の表面の少なくとも一部に金属層が強固に結合してなる、金属を主とする機械部品などとの接合などによる複合化が容易にできるセラミックス多孔体−金属断熱材であって、
前記セラミックス多孔体が、気孔率が50〜99%で、かつ、気孔径が10〜300μmの円筒形状のマクロ細孔を有し、その細孔の内壁に多数の節状の膜が掛け渡され隔壁を形成した、不連通の細孔を有する隔壁構造を主とするものであり、
該セラミックス多孔体と前記金属層とが結合しているセラミックス多孔体と金属との界面に、該セラミックスと該金属とが含有されてなる厚みが20〜500μmの範囲内にある中間層が形成されており、かつ、該中間層のセラミックス多孔体側において、結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入しており、前記結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部に存在している範囲が、セラミックス多孔体の表面から10〜300μmであることを特徴とするセラミックス多孔体−金属断熱材。
【請求項2】
前記形成された中間層は、更に接着させた金属とは別の金属を含んでいる請求項1に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材。
【請求項3】
前記金属層が、前記セラミックス多孔体表面の、金属層を結合させる部分に電子ビームを照射することで形成した前駆層を経てセラミックス多孔体の表面の少なくとも一部に結合されたものである請求項1又は2に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材。
【請求項4】
前記セラミックス多孔体の2つ以上の面にそれぞれ金属層が強固に結合してなる、金属層−セラミックス多孔体−金属層構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材。
【請求項5】
前記セラミックス多孔体が、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化硼素、窒化珪素、コーディエライト、グラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材質からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法であって、
セラミックス多孔体表面に金属層を結合させる部分に、電子ビーム面加工装置を用い、カソードに対する加速印加電圧を10kV〜30kV、電子銃ハウジング内の希ガスのガス圧を0.03MPa〜0.09MPaの範囲で制御して、電子ビームの照射エネルギー密度が0.1〜10J/cm2の範囲に制御した電子ビームを照射し、照射した部分を表面改質した後、その表面改質部分に、結合させる100〜5,000μmの厚みの金属を接触させた状態で積層させ、セラミックス多孔体と金属が接触した状態を保持できるように冶具にて上記積層状態を固定し、真空条件下或いは不活性雰囲気下、500℃以上の温度で加熱してセラミックス多孔体と金属とを結合させて金属層を形成することを特徴とするセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法。
【請求項7】
電子ビームを照射して前記表面改質をした後、セラミックス多孔体の改質した面に、さらに、結合させる金属以外の10〜100μmの厚みの金属箔又は粒径10〜300μmの金属粉末を、接着および含浸させ、その後にセラミックス多孔体と金属との結合を行う請求項6に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス多孔体が、気孔率が50〜99%で、かつ、気孔径が10〜300μmの円筒形状のマクロ細孔を有し、その細孔の内壁に多数の節状の膜が掛け渡され隔壁を形成した、不連通の細孔を有する隔壁構造を主とするものである請求項6又は7に記載のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス多孔体の表面の一部に金属層が強固に結合してなる断熱材を提供する技術に関し、より詳しくは、強固に結合している金属層の存在により、簡便にかつ耐久性に優れる状態で金属部品などに組み込むことを可能にした、例えば、エンジンやタービンの断熱効率を高め、省エネ効果を得るための有用な断熱材として利用できるセラミックス多孔体−金属断熱材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス多孔体は、セラミックス材料本来が有する高い耐熱性に加えて、多くの気孔が存在することによって実現される高い気孔率から、高温断熱性を有する優れた機能性材料として、広範囲の産業分野での利用が期待されている。しかし、一般的にセラミックスは金属材料と比較して熱膨張係数が小さいことから、金属を主とする機械部品へセラミックスを組み込んだ場合に、急昇温及び急降温を繰り返す使用環境下では、これら異種材料を複合化させたことに起因するクラック等が生じて耐久性に劣り、セラミックスの組み込みは困難であるという課題があった。このため、従来より、金属とセラミックス多孔体とを種々の方法によって複合化させることで、セラミックスの特徴である高温断熱性を有しながら、金属部品に組み込むことを可能にした複合体についての提案がある。
【0003】
ここで、セラミックス多孔体に限らず、セラミックスと金属との異種材料同士を複合化させる方法としては、溶射や蒸着、メタライズなどによって、セラミックス或いは金属からなる材料表面に皮膜を形成する方法、溶融金属とセラミックスとを、含浸や鋳ぐるみによって互いに溶着する方法、その他、原料組成の制御により構造体の片面から反対面にかけて組成の傾斜をつけることによる複合化や、接着剤や結合剤(材)を用いての結合などの方法が知られている。下記に述べるように、これらの技術を利用し、有用な複合体を得ることを目的として、例えば、金属基材表面にセラミックス多孔体からなる層を設けたり、セラミックス多孔体表面に金属膜を形成する等、より良好な機能性が付与された複合化材料を得る方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、金属基材を熱から保護するために、金属基材表面に、気孔を有するセラミックス断熱層と封孔層とを積層してなる遮熱コーティング構造を形成することについての提案がある(特許文献1参照)。また、耐食性や耐摩耗性を向上させる目的で形成されている耐食性合金皮膜層を有する可動部品表面を保護するために、可動部品の表面に、無機系封孔剤で封孔処理されたアルミナを主成分とする溶射皮膜を形成することについての提案がある(特許文献2参照)。また、逆に、セラミックス基板表面に、無電解めっきして金属膜を形成する方法(特許文献3参照)や、セラミックス多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸する工程を有する、表面状態、物性面共に良好なアルミニウム合金−セラミックス質複合体を得る方法(特許文献4参照)についての提案がある。また、セラミックス製多孔体を溶融金属によって鋳ぐるみ一体化させたセラミックス・金属複合材料についての提案もある(特許文献5参照)。その他、傾斜複合化や(特許文献6参照)、結合性の向上のために、金属とセラミックスの結合体の、セラミックス側にろう付を目的として、予めメタライズ処理を施すことについての提案もある(特許文献7、8参照)。
【0005】
一方、従来より、断熱特性を向上させる目的で、様々なセラミックス多孔体についての検討がなされている。出願人らは、原料の種類を問わず、すべてのセラミックス材料に応用が可能である技術として、断熱材に求められる十分な強度を有し、しかも断熱特性が向上した断熱材として極めて有用な新規な微構造の気孔の形成を簡便に実現する方法を提案している。該方法によれば、ゲル化凍結法を用い、特殊な添加物を加えることで、セラミックスに高い気孔率を維持させながら、ガスの流れを抑制する構造を容易に形成することができる(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−293058号公報
【特許文献2】特開2000−355752号公報
【特許文献3】特開2003−293142号公報
【特許文献4】特開2006−117491号公報
【特許文献5】特開2010−274323号公報
【特許文献6】特開平9−268304号公報
【特許文献7】特開平5−9084号公報
【特許文献8】特開2006−321661公報
【特許文献9】特開2011−195437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、下記に述べるように、これらの従来技術によっても金属を主とする機械部品へセラミックスを組み込んで複合化させることは難しく、より簡便に耐久性に優れる複合体の開発が望まれている。まず、上記した特許文献1や特許文献2に記載の技術では、金属基材表面に形成される、気孔を有するセラミックス断熱層における気孔径や気孔径分布を制御することが困難であり、高気孔率のセラミックス多孔質断熱材に比べて気孔率に劣るものになるため、十分な断熱性が達成されないという課題がある。また、上記した特許文献3に記載の技術は、皮膜形成工程が多く、煩雑であり、セラミックス多孔体と金属とを複合化した材料を簡便に提供し得るものではなかった。さらに、上記した特許文献4や特許文献5に記載の技術では、金属を溶融させるための設備が必要であることに加えて、金属の融点以上に熱せられている溶融金属とセラミックス多孔体を接触させる際の熱衝撃を緩和させるため、セラミックス多孔体をあらかじめ上記と同等の温度にまで加熱しなければならないという実用上の課題もある。また、上記した特許文献7及び特許文献8に記載の技術は、多くの工程を含み、煩雑であり、セラミックス多孔体と金属とを複合化した材料を簡便に提供し得るものではなかった。
【0008】
また、上記した特許文献9に記載の技術は、様々な材料において、高い気孔率を有する断熱性と強度の両方において優れるセラミックス断熱材を提供することを目的としたものであるため、セラミックス多孔体と金属の複合化は全く考慮されていない。これに対し、この技術によって得られる多孔質セラミックスは、最大99%の超高気孔率を有しており、熱容量も小さく、同時に気孔壁の薄壁化のため固体間の熱伝導を抑制でき、気孔内部に多数の節状の膜が掛け渡され隔壁構造が存在するため、気体の伝熱や対流が高度に抑制されて、優れた断熱特性を示す。特に、この技術によって得られる多孔質セラミックスは、上記構造に加え、表面に緻密層が配置されたものとなるため、さらに高温での輻射をも抑制でき、上記した固体伝熱・気体伝熱(対流)に加えて、輻射の熱伝導までの三要素を全て抑制した優れた断熱性能を実現した従来にないものである。このように、特許文献9に記載の技術によって提供される多孔質セラミックスは、上記した特徴的な構造を有することで、繊維状断熱材に匹敵する低熱伝導率を有しつつ、ブロック状断熱材と同等以上の強度を実現できる新しい断熱材であり、その広範な利用が期待される。しかし、セラミックスであることに変わりはなく、金属を主とする金属部品や装置等に良好な状態に組み込むことができなければ、その用途は限定されたものになり、その優れた機能の利用は大きく制限される。
【0009】
従って、本発明の目的は、高温断熱性が期待されるセラミックス多孔体に金属を、金属溶融炉等の特別の設備を必要とせずに、より簡便な方法で強固に結合させることができる技術を見出し、ひいては、当該技術によって提供される、表面の少なくとも一部に金属層が強固に結合されたセラミックス多孔体を用いることで、金属を主とするエンジンやタービンなどの機械部品や装置等へ、セラミックス多孔体を簡便に、耐久性に優れる状態で組み込むことを可能にできる、セラミックス多孔体−金属断熱材を提供することにある。さらに、本発明の目的は、断熱材として極めて優れた有用な、例えば、先に挙げた特許文献9で提案されているような強度向上と断熱特性の向上を同時に高いレベルで実現した多孔質セラミックス等を、金属を主とした機械部品や装置等へ、簡便に、耐久性に優れる状態で組み入れることを可能にすることで、高気孔率のセラミックス多孔質断熱材と比べて遜色のない高い気孔率を有し、これによって、例えば、エンジンやタービンの断熱効率をより高め、より高い省エネ効果を実現できるセラミックス多孔体と金属との簡便な複合化技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、セラミックス多孔体の表面の少なくとも一部に金属層が強固に結合してなる、金属を主とする機械部品などとの接合などによる複合化が容易にできるセラミックス多孔体−金属断熱材であって、セラミックス多孔体と金属層とが結合しているセラミックス多孔体と金属との界面に、該セラミックスと該金属と、必要に応じて接着させた該金属とは別の金属が含有されてなる中間層が形成されており、かつ、該中間層のセラミックス多孔体側において、結合させたいずれかの金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入していることを特徴とするセラミックス多孔体−金属断熱材を提供する。
【0011】
上記セラミックス多孔体−金属断熱材の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。すなわち、前記形成された中間層の厚みが20〜500μmの範囲内にあり、かつ、前記結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部に存在している範囲が、セラミックス多孔体の表面から10〜300μmであること;前記セラミックス多孔体が、気孔率が50〜99%で、かつ、気孔径が10〜300μmの円筒形状のマクロ細孔を有し、その細孔の内壁に多数の節状の膜が掛け渡され隔壁を形成した、不連通の細孔を有する隔壁構造を主とするものであること;前記セラミックス多孔体の2つ以上の面にそれぞれ金属層が強固に結合してなる、金属層−セラミックス多孔体−金属層構造を有すること;前記セラミックス多孔体が、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化硼素、窒化珪素、コーディエライト、グラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する材質からなることである。
【0012】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法であって、セラミックス多孔体表面に金属層を結合させる部分に、電子ビーム面加工装置を用い、カソードに対する加速印加電圧を10kV〜30kV、電子銃ハウジング内の希ガスのガス圧を0.03MPa〜0.09MPaの範囲で制御して、電子ビームの照射エネルギー密度が0.1〜10J/cm
2の範囲に制御した電子ビームを照射し、照射した部分を表面改質した後、その表面改質部分に、結合させる厚み100〜5,000μmの金属を接触させた状態で積層させ、セラミックス多孔体と金属が接触した状態を保持できるように冶具にて上記積層状態を固定し、真空条件下或いは不活性雰囲気下、500℃以上の温度で加熱してセラミックス多孔体と金属とを結合させて金属層を形成することを特徴とするセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法を提供する。
【0013】
上記セラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法の好ましい形態としては、電子ビームを照射して前記表面改質をした後、セラミックス多孔体の改質した面に、さらに、結合させる金属以外の10〜100μmの厚みの金属箔又は粒径10〜300μmの金属粉末を、接着および含浸させ、その後にセラミックス多孔体と金属との結合を行うこと;前記セラミックス多孔体が、気孔率が50〜99%で、かつ、気孔径が10〜300μmの円筒形状のマクロ細孔を有し、その細孔の内壁に多数の節状の膜が掛け渡され隔壁を形成した、不連通の細孔を有する隔壁構造を主とするものであることが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属とセラミックス多孔体とを、直接或いは必要に応じて金属箔又は金属粉末を利用することで、強固に結合させた、セラミックス多孔体の表面の少なくとも一部に金属層が結合してなるセラミックス多孔体−金属断熱材が提供される。特に、該断熱材は、本発明の特有の方法によって、金属層がセラミックス多孔体に、直接或いは必要に応じて金属箔又は金属粉末を利用して結合したものであるため、その境界面に前駆層(表面改質層とも呼ぶ)を経て形成される中間層は、厚みが薄く、かつ結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入したものになっており、その結合状態は、このアンカー効果によってもたらされたと考えられる極めて強固なものになる。さらに、このセラミックス多孔体の表面に強固に結合している金属層を利用して、金属を主たる材料とした装置や部品等への組み込みに用いることで、従来、様々な産業分野で用いられている高気孔率のセラミックス多孔質断熱材と比べても遜色のない、高い高温断熱性を実現したセラミックス多孔体を、金属を主たる材料とした装置等の断熱材として有効に利用できるようになる。より具体的には、本発明によれば、高温断熱性が期待される優れた特性を有するセラミックス多孔体の表面に、セラミックス多孔体表面を改質させるための簡便な工程を経ることで、従来技術のように、金属溶融炉等といった特別の設備や複雑な処理工程を必要とすることなく、金属層を強固に結合することができ、これによって、断熱材としての機能性に優れたセラミックス多孔体を、金属を主たる材料とした部品や装置等に簡便に組み入れる技術の提供が可能になる。本発明の技術では、金属層を形成させる際の処理によって、結合させたセラミックス多孔体の本来の特性が損なわれることが殆どないので、セラミックス多孔体に、先に説明した、断熱特性の期待される高気孔率及び気孔形状が制御された、遮熱性・ガス遮断性に優れたものを用いれば、提供されるセラミックス多孔体−金属断熱材は、高温断熱性を有し、しかも極めて簡便に金属部品などに組み込むことが可能な優れたものになる。したがって、本発明の技術を用いることで、例えば、エンジンやタービンに適用した場合に、セラミックス多孔体が優れた断熱材として機能し、これらの効率をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の製造方法の一例のフローを模式的に示した図である。(b)は、(a)の工程に加えて、セラミックス多孔体の表面改質を目的として、結合させる金属とは別に、金属箔又は金属粉末を接着および含浸させる工程を設けた場合の模式的なフローである。
【
図2】本発明の製造方法における、セラミックス多孔体の表面改質前後の表面状態を示すSEM写真の図である。
【
図3】本発明の製造方法に好適な、セラミックス多孔体の表面を改質後に金属箔を接着・含浸させる実施形態における、セラミックス多孔体の表面改質後の表面状態と、その後に金属箔を接着・含浸させたセラミックス多孔体の表面性状を示すSEM写真の図である。
【
図4】本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材における、両者の結合面の性状を示すSEM写真の図である。
【
図5】本発明に適用することが好適なセラミックス多孔体の断面のSEM写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。以下の説明は、発明の趣旨をよりよく理解可能とするためのものであり、本発明を限定するものではない。
本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材は、セラミックス多孔体と金属とが結合している境界面に、該セラミックスと該金属と、必要に応じて該金属とは別の金属が含有されてなる中間層が形成されており、かつ、該中間層のセラミックス多孔体側の境界において、結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入していることを特徴とする。このような、結合により形成される中間層の厚みは20〜500μm程度と薄く、しかも、いわゆるアンカー効果が得られる結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔に表面から10から300μmの内部まで侵入した従来にない特徴的なセラミックス多孔体と金属との結合状態によって、本発明の断熱材は、高温断熱性を有し、かつ容易に金属部品に組み込むことが可能である優れた機能性を発揮し得るものとなる。
【0017】
そして、この特徴的な結合状態は、従来にない簡便な本発明の製造方法によって容易に得られる。具体的には、セラミックス多孔体表面の金属を結合させる部分に、制御された電子ビームを照射させるという極めて簡便な方法で、まず、層厚の制御された表面改質層(結合した界面の中間層となる前駆層)を形成し、その後に形成した前駆層に結合させる厚みが100〜5,000μm程度の金属を積層させ、この積層し、接触した状態を保持して、真空下或いは不活性雰囲気下、加熱することで結合させるという、簡単で少ない工程数で、上記したように、厚みが薄く、しかも、セラミックス多孔体の細孔内部まで金属が侵入した状態の中間層が形成され、その結果、優れた機能性を実現した本発明の断熱材が得られる。
【0018】
本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材の積層構造は、金属部品に組み込むためにどちらか一方の面が金属であればよいが、金属−セラミックス多孔体−金属というように、例えば、セラミックス多孔体の対峙する2面を金属が積層してなる3層構造としてもよい。該3層構造の場合は、これを金属部品等に組み入れると、どちらか一方の金属層が金属部品等との接着や接合など、組み込みの役割をなし、もう一方の金属層がエンジンやタービンなど作動時に衝撃を受ける環境下においてセラミックス多孔体の皮膜層として、セラミックス多孔体層による断熱層の破損を防ぐことができる。
【0019】
本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法は、(1)セラミックス多孔体の表面を電子ビーム照射により表面改質をする工程と、(2)セラミックス多孔体の表面改質層(前駆層)と金属とを積層し、接触した状態を保持しながら、真空条件下、特定の温度範囲で加熱し、上記表面改質層と金属とを結合する工程とを有する。
【0020】
より具体的には、上記した(1)の工程において、セラミックス多孔体における、金属と複合化させる面部分に、電子ビーム面加工装置を用い、カソードに対する加速印加電圧を10kV〜30kV、電子銃ハウジング内の希ガスのガス圧を0.03MPa〜0.09MPaの範囲で制御して、電子ビームの照射エネルギー密度が0.1〜10J/cm
2の範囲に制御した電子ビーム(以下単に電子ビームとも言う)を照射して、層厚を制御した表面改質層(前駆層)を形成する。そして、この前駆層に、複合化させる金属を積層し、接触した状態を保持しながら、真空条件下或いは不活性雰囲気下、500℃以上の温度で加熱する(2)の工程を経ることで、強固に異種材料である金属が結合された、高温断熱性を有し、かつ容易に金属部品に組み込むことが可能な本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材が得られる。
【0021】
本発明に用いるセラミックス多孔体は、気孔率が50〜99%でかつ気孔径が10〜300μmの、円筒形状でその内部が不連通である細孔(独立の細孔)を主とするものであることが好ましい。このような、不連通の細孔を多数有する、高気孔率のセラミックス多孔体は、従来より高温断熱性が求められる材料として用いられている。本発明者らは、このような優れたセラミックス多孔体を、その高い機能が損なわれないようにして、金属と結合できれば、断熱効率の向上が求められるエンジンやタービン部品に容易に組み込むことができ、断熱効率をより高めるための断熱材としてより有用な、優れた複合化断熱材にできると考えて鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。
【0022】
本発明で用いるセラミックス多孔体は、その材質の種類に制限がなく、コストや最終製品の熱的特性や強度などを考慮して、種々の材料からなるセラミックスを適宜に選択すればよい。例えば、公知のセラミックス原料を、1種或いは異なる2種以上を配合してなるセラミックス多孔体を使用することができる。本発明に使用できる具体的なセラミックス材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化硼素、窒化珪素、コーディエライト又はグラファイトを挙げることができる。
【0023】
さらに、本発明者らの検討によれば、本発明に用いるセラミックス多孔体として、本発明者らが開発した、特開2011−195437号公報に記載の、セラミックス原料粉体と、ゲル化剤溶解液とを含む材料から作製したゲル化剤由来の筒状のマクロ細孔内部に多数の節状の隔壁が形成されてなる特有の隔壁構造を有する多孔質セラミックスを用いることが特に好ましい。
図5に示したように、該多孔質セラミックスは、円筒状のマクロ細孔の内壁に直立して架け渡された状態の、多数の節状の膜が隔壁を形成してなる微細な隔壁構造を有するが、この隔壁構造は、熱やガスを通しにくく断熱材として極めて有用であることが確認されている。本発明者らの検討によれば、該多孔質セラミックスを本発明の方法によって金属と結合させた場合、円筒状のマクロ細孔はそのままの状態で、電子ビームが照射された部分にあった骨格部の表面が変質し、かつ隔壁の少なくとも一部が失われて、このような状態の上記マクロ細孔内部まで結合させた金属が侵入した状態の微構造が形成される。この結果、より高いアンカー効果がもたらされ、20〜500μmと厚みの薄い中間層でありながら、より強固な結合が達成され、上記特有の隔壁構造によって達成した、熱やガスを通しにくく断熱材としての機能が十分に維持された耐久性に優れるセラミックス多孔体−金属断熱材となる。
【0024】
以下、本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法における各工程について説明する。まず、本発明の製造方法では、上記で説明したようなセラミックス多孔体表面に、汎用の電子ビーム面加工装置等を用い、電子ビームを照射する。本発明者らの検討によれば、(1)の工程で、セラミックス多孔体の表面に、カソードに対する加速印加電圧を10kV〜30kV、電子銃ハウジング内の希ガスのガス圧を0.03MPa〜0.09MPaの範囲の条件で、電子ビームの照射エネルギー密度が0.1〜10J/cm
2の範囲に制御された電子ビームを照射すれば、
図2に示したように、電子ビームを照射した表面部分の多孔の性状が明らかに変化し、表面が改質される。そして、このセラミックス多孔体表面に形成される改質層は、その後に行われる(2)セラミックス多孔体と金属との結合工程において、強固な結合をもたらす中間層を形成するための前駆の層として位置づけられる。
【0025】
本発明の製造方法で使用する電子ビーム面加工装置は、例えば、その内面を鏡面処理する等、金型等の表面処理を主な目的とする装置であり、従来公知であるプラズマ電子銃から大面積の低エネルギーパルス電子ビームを被照射体に照射する装置などを用いることができる。その中でも、電子銃をソレノイドの励磁により閉じ込め、ビームの束が拡散・収斂することなく断面積の大きい電子ビームを照射できる大面積電子ビーム面加工装置を用いることが好ましい。このような装置を用いると、断面積の大きい低エネルギー密度電子ビームを被照射体に照射することができるので、本発明で行う、セラミックス多孔体の表面の改質に特に好ましい。
【0026】
大面積電子ビーム面加工装置は、低気圧電離気体を充填し、所定の低ガス圧状態で、電子ビーム照射を行う。このとき電子ビームの照射エネルギー密度は0.1〜10J/cm
2の範囲とすることが好ましく、本発明の目的を達成した断熱材を得るためには、カソード電圧を10〜30kV、及び電子銃ハウジング内の希ガスのガス圧を0.03〜0.09Pa程度の範囲で実施することが好ましい。また、カソードと被照射体であるセラミックス多孔体の照射面との距離(照射距離)は、目的とする照射エネルギー密度の電子ビームが、所望の照射面に照射されるように15〜50mm程度であることが好ましい。この範囲よりも照射距離が小さいと、照射される電子ビームのエネルギー密度が高くなり、被照射体表面であるセラミックス多孔体の変形や荒れが顕著となるので好ましくない。一方、照射距離が上記した範囲よりも大きいと、照射される電子ビームの照射エネルギー密度が小さ過ぎて、表面の改質が十分に行えない場合があるので好ましくない。
【0027】
セラミックス多孔体上に、上記したような電子ビーム照射により形成される前駆層の厚さは、上記照射条件によって2〜300μmに制御されるが、より強固な結合を実現するためには5〜100μmの範囲となるように制御することが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では、電子ビーム照射によるセラミックス多孔体の表面改質後、セラミックス多孔体と金属とを積層させて結合させる前に、セラミックス多孔体の表面改質部分に、結合に用いる金属以外の金属の箔や金属粉末をさらに接着及び含浸させ、表面改質部分と金属箔や金属粉末の接着・含浸部分をあわせて、一つの前駆層としてもよい。この場合に使用する金属箔又は金属粉末は、材質に特に制限はない。積層して結合する際に用いる金属と同素材の金属箔や金属粉末を用いてもよいが、本発明者らの検討によれば、この場合に用いる金属箔又は金属粉末として、結合させるセラミックス多孔体と金属の中間の熱膨張係数を示すものを選択することが好ましい。金属箔又は金属粉末を利用して異種材料を結合して得られる金属層を表面の一部に少なくとも有する本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材は、例えば、断熱効率が求められるエンジンやタービン等の金属部品等に容易に組み込むことができる。本発明の断熱材をこれらの金属部品等に組み入れてセラミックス多孔質断熱材として使用した場合、急昇温及び降温する際にセラミックス多孔体と金属との熱膨張係数差によって生じる応力を緩和することもでき、その耐久性をより高めたものとなる。例えば、ジルコニア製の多孔体と金属アルミニウム板を積層複合化する場合、両素材の中間の熱膨張係数を示す、金や銀、銅等を選択して使用することが好ましい。
【0029】
セラミックス多孔体の表面改質層の形成の際に追加して金属箔又は金属粉末を接着及び含浸させる方法は、セラミックス多孔体表面を電子ビーム処理した方法と同等のものや、金属皮膜形成法の一つであるコールドスプレーや、通常金属表面の硬化処理法として知られているショットピーニングにおいて、基材に衝突させるショット材を目的の金属粉末にする方法などを選択することができる。このうち、電子ビーム処理法を選択すれば、表面処理も金属箔又は金属粉末の接着・含浸も、先に説明したと同一の電子ビーム面加工装置を用いることができるのでより好ましい。電子ビーム処理においては、接着・含浸させる金属をセラミックス多孔体上に設置した状態でビーム照射するため、金属粉末では飛散のおそれがあるため、金属箔を用いる方が好ましい。照射条件は、先述したと同様の条件で電子ビームを照射すればよい。
【0030】
用いる金属箔の厚さは、電子ビーム照射によりセラミックス多孔体の表面に、金属化して接着することが可能な範囲であればよく、10〜100μm程度が好ましい。それよりも薄い厚さでは、電子ビーム照射時の衝撃により金属箔が飛散し、十分に接着することができず、金属箔を利用したことによる十分な効果が得られ難い。一方、金属箔の厚みが上記範囲よりも厚い場合は、電子ビームのエネルギーが金属箔内までで留まってしまうおそれがあり、この場合は、セラミックス多孔体表面まで到達せず、金属箔をセラミックス多孔体の表面に接着することができないことが生じるおそれがあるので好ましくない。
【0031】
用いる金属粉末の粒径はセラミックス多孔体改質層表面への接着及び、円筒状の細孔内部への含浸が可能な大きさであれば良く、10〜300μm程度が好ましく、含浸を十分に行うためには10〜100μmがより好ましい。
【0032】
セラミックス多孔体に結合させる金属の材質は、特に限定されず、また、純金属であってもよいが、2種以上の金属を含有する合金であってもよい。2種以上の金属を含有するものとしては、例えば、鋼とその合金、鉄とその合金、アルミニウムとその合金、ニッケルとその合金が挙げられ、いずれであってもよい。これらの中から、その後に組み入れて複合体を形成する場合の金属部品や装置等の材質を考慮に入れて適宜に決定すればよい。また、セラミックス多孔体に結合させる金属の厚みは特に限定されず、用途に合わせて適宜に決定すればよいが、好ましくは、100〜5,000μm程度あれば十分である。すなわち、このような厚みの金属をセラミックス多孔体に結合させれば、良好な中間層が形成でき、しかも金属を主とする部品や装置等にろう付け等の方法で簡便に組み入れた場合に、良好な状態に複合化することができ、この結果、機能性に優れるセラミックスと金属との異種材料からなる複合体とできる。
【0033】
本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法では、先に挙げたような電子ビーム面加工装置を用い、上記で説明したような方法で前駆層を形成させ、この前駆層を有するセラミックス多孔体と、上記したような金属とを、前駆層の部分で接触させた状態で積層させ、この状態で、冶具等を用いて固定し、結合のための加熱を行う。本発明の製造方法では、結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入させた状態とするため、冶具等を用いて、セラミックス多孔体と金属とを固定する場合に、セラミックス多孔体と金属が接触した状態を保持できるように固定することを要する。
【0034】
本発明のセラミックス多孔体−金属断熱材の製造方法で行う、結合のための加熱温度は、積層体を構成する金属と用いるセラミックス多孔体上の前駆層とが反応し結合できる温度であれば、いずれでもよい。すなわち、セラミックス多孔体の表面改質層と結合させる金属が反応できる温度、或いはセラミックス多孔体の表面改質層上に接着・含浸した金属箔又は金属粉末と積層する金属が反応できる温度であれば、いずれでもよい。例えば、銅箔を接着・含浸したセラミックス多孔体とアルミニウム板を結合する場合は、加熱雰囲気にもよるが、銅とアルミニウムで共晶反応を起こし、合金を形成できる約550℃以上とすることが好ましい。
【0035】
加熱雰囲気は、真空や不活性雰囲気であることを要するが、不活性雰囲気としては、例えば、アルゴンや窒素などを用いることができる。
【0036】
図4は上記発明の実施形態によって電子ビームによる表面改質を施したセラミックス多孔体と金属とを積層複合化した複合体断熱材の断面SEM写真である。セラミックス多孔体と金属の界面にコントラストの異なる中間層が形成されていることが確認できる。本発明者らは、この中間層は、セラミックス多孔体が、先に述べた(1)の工程で、低圧電離気体雰囲気下で電子ビームの照射を受けた結果、セラミックス多孔体の円筒状の細孔の骨格部表面が改質し、かつ隔壁の少なくとも一部が失われて、先に述べた(2)の工程で、結合させる金属を積層させ、接触させた状態で加熱した際に、該金属が該セラミックス多孔体内部に浸入し、表面改質部と浸入した金属とが反応し、この結果、機能性に優れた本発明の断熱材となったと考えている。本発明では、表面電子ビーム処理を施したセラミックス多孔体の処理面と複合化する金属を面で接触させ、接触した状態を保持しながら真空または不活性雰囲気中で加熱する。この結果、セラミックス多孔体の表面電子ビーム処理面(以下単にビーム処理面とも表記する)におけるセラミックスが改質した部分と、接触している金属との間で反応が起こり強固に結合されるが、例えば、先に述べた特有の微細な隔壁構造を有する多孔質セラミックスを用いた場合には、該反応がより効率よく円筒状のマクロ細孔内部で起こるので、セラミックス多孔体と金属とがより強固に結合された、より断熱材としての機能性に優れた、より耐久性に優れる複合化断熱材を得ることができたものと考えられる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1〜4、参考例1>
実施例1〜4および参考例1では、気孔率が約80%である、その気孔径が10〜300μmの範囲にあり、平均気孔径が100μmであって、その大半が不連通(独立)の細孔である、50mm(縦)×50mm(横)×20mm(厚み)の板状のジルコニア多孔体を用いた。
図5に、その断面のSEM写真の図を示したが、上記で用いたジルコニア多孔体は、先に説明した特開2011−195437号公報に記載の、筒状のマクロ気孔内部に多数の節状の膜が架け渡され隔壁構造が存在する多孔質セラミックスである。このジルコニア多孔体に結合させる金属としては、上記のジルコニア多孔体と同様の大きさの平面を有する、厚みが5mmの金属アルミニウム板(アルミニウム含有量99%、ニラコ製)を用意した。
【0038】
そして、これらの異種材料同士を、以下の手順で、結合・複合化させた。まず、電子ビーム装置(ソディック社製)を用い、上記ジルコニア多孔体表面の全面に、表1に示したようにしてカソード電圧を5〜50kVの範囲で変化させて、アルゴンガス圧0.03MPaで電子ビームを照射し、その表面改質を行い、ジルコニア多孔体表面に前駆層を形成させた。具体的には、カソード電圧を5〜50kVの範囲で、5kV(参考例1)、15kV(実施例1)、20kV(実施例2)、25kV(実施例3)、50kV(実施例4)でそれぞれ変化させた。
図2(A)は、20kVで電子ビーム照射後のジルコニア多孔体表面のSEM写真の図である。
【0039】
上記のようにしてジルコニア多孔体表面に形成した前駆層の面と、金属アルミニウム板とを接触させて積層した。そして、ジルコニア多孔体と金属アルミニウム板とが接触した状態を保持できるように、カーボン冶具にて固定をし、その状態で、真空条件下、700℃で1時間加熱を行った。
【0040】
その結果、ジルコニア多孔体と金属アルミニウム板とが中間層を介して結合してなる、実施例1〜4のセラミックス多孔体−金属断熱材を得た。参考例1は結合していなかった。得られた各断熱材の結合状態は、ジルコニア多孔体と金属アルミニウムとの結合された境界面に、いずれもジルコニアと金属アルミニウムを含む中間層が形成されていたが、その中間層の厚みは、それぞれ表1に示したようであった。なお、表1中に、金属と結合する前におけるジルコニア多孔体表面に形成された前駆体層の厚みも示した。上記で得られた各断熱材の中間層について詳細に検討したところ、いずれもジルコニア多孔体側の中間層の境界において、結合させた金属アルミニウムがジルコニア多孔体の細孔内部まで侵入していることを確認した。
【0041】
<実施例5>
本実施例では、実施例1〜4および参考例1で用いた特開2011−195437号公報に記載された特有の隔壁構造が存在するジルコニア多孔体の代わりに、気孔率50%、平均気孔径が80μmの特有の隔壁構造を有さない市販のジルコニア多孔体を用いた。形状は実施例1等と同様のものを用いた。結合させる金属には、実施例1等と同様の形状および厚みの金属アルミニウムを用いた。そして、実施例1等と同様の電子ビーム装置を用い、カソード電圧20kV、アルゴンガス圧0.03MPaで、市販ジルコニア多孔体表面に電子ビーム照射による表面改質を行い、市販ジルコニア多孔体の表面に前駆層を形成させた。その後、市販ジルコニア多孔体表面の前駆層が形成されている部分に、用意した金属アルミニウム板を接触させて積層させた。そして、市販ジルコニア多孔体とアルミニウムそれぞれ接触した状態を保持できるようにカーボン冶具にて固定した。そして、実施例1等でしたと同様に、この状態で、真空条件下、700℃で1時間加熱を行って結合し、市販ジルコニア多孔体と金属アルミニウムとの断熱材を得た。そして、得られた断熱材の中間層は、ジルコニア多孔体側の中間層の境界において、結合させた金属アルミニウムがジルコニア多孔体の細孔内部まで侵入していることを確認した。
【0042】
<実施例6>
本実施例では、気孔率が85%で、平均気孔径が50μmである、実施例1等で用いたと同様の特有の隔壁構造が存在する板状のアルミナ多孔体を用いた。複合化させる金属には、実施例1等と同様の形状および厚みの金属アルミニウムを用いた。そして、実施例1等と同様の電子ビーム装置を用い、カソード電圧25kV、アルゴンガス圧0.03MPaで、アルミナ多孔体表面の電子ビーム照射による表面改質を行った。その後、本実施例では、アルミナ多孔体改質の表面の改質処理されている部分に、厚さ20μmの金箔(ニラコ製)を、上記と同様の条件で、電子ビーム照射により接着させて前駆層とした。その後、アルミナ多孔体表面の前駆層が形成されている部分に、用意した金属アルミニウム板を接触させて積層させた。そして、アルミナ多孔体と金属アルミニウムとが接触した状態を保持できるようにカーボン冶具にて固定をした。そして、実施例1でしたと同様に、この状態で、真空条件下、700℃で1時間加熱を行って、アルミナ多孔体と金属アルミニウムとが強固に結合した断熱材を得た。そして、得られた断熱材の中間層は、アルミナ多孔体側の中間層の境界において、金属アルミニウムと結合の際に用いた金箔とがアルミナ多孔体の細孔内部まで侵入していることを確認した。
【0043】
<比較例1>
アルミナ多孔体の代わりに、気孔率1%以下のアルミナ緻密質体を用いた以外は実施例6と同様にして、アルミナ緻密質体と金属アルミニウムとを結合処理を行ったところ、実施例で見られたような強固な結合を形成することはできなかった。
【0044】
<実施例7>
本実施例では、実施例1等と同様の構造を有し、同様の形状であるジルコニア多孔体を用いた。複合化させる金属には、実施例1等と同様の形状の金属アルミニウムを用いた。そして、実施例1等と同様の電子ビーム装置を用い、カソード電圧20kV、アルゴンガス圧0.03MPaで、平板状のジルコニア多孔体表面の50×50mmの面の表裏2面に電子ビーム照射による表面改質を行い、ジルコニア多孔体の対峙する2面に前駆層を形成させた。
【0045】
上記のようにしてジルコニア多孔体の2面に形成した前駆層の各面と、金属アルミニウム板とを接触させて金属アルミニウム板−ジルコニア多孔体−金属アルミニウム板の順に積層した。そして、ジルコニア多孔体と金属アルミニウム板とが接触した状態を保持できるように、カーボン冶具にて固定をし、その状態で、真空条件下、700℃で1時間加熱を行った。
【0046】
【0047】
<評価>
(1)断熱性
気孔率と特有の隔壁構造の存在の有無が異なるジルコニア多孔体をそれぞれに用い、電子ビームの照射条件を同一として得た実施例3と実施例5のジルコニア多孔体−金属断熱材(以下単に断熱材とも表記する)を用い断熱性を評価した。評価方法は、まず、評価試料とするため、断熱材の金属層側と50×50×50mmのアルミニウム合金(A5005)とを無機系接着剤を用いて接着させて複合体を得た。そして、入口開放型の電気炉を用い、評価試料のジルコニア多孔体の部分のみを1,000℃に加熱した電気炉内へ挿入し、アルミニウム合金の部分は大気に触れるようにし、電気炉入口の隙間はアルミナ−シリカ系断熱ファイバーを用い熱が外に漏れないようにし、アルミニウム合金の端面に熱電対を装着し、挿入5分後の温度を測定した。測定の結果、実施例3の評価試料は約250℃であったのに対し、実施例5の評価試料は約400℃であり、その断熱性能が実施例3のものより劣っていた。これは、実施例3の断熱材は、セラミックス多孔体の気孔率が80%と非常に高く、さらに隔壁構造を有しているため、より断熱性に優れた結果が得られたと考えられる。
【0048】
(2)結合性および耐熱衝撃性
電子ビームの照射条件を変えて得た実施例2、実施例4の断熱材と、金属アルミニウム板−ジルコニア多孔体−金属アルミニウム板の3層構造を有する実施例7の断熱材を用い、下記のようにして結合性および耐熱衝撃性を調べた。先に行った断熱性評価に用いた入口開放型電気炉を用い、実施例2及び4の断熱材は同様にジルコニア多孔体の部分のみを、実施例7の断熱材は3層のうちアルミニウム層−ジルコニア多孔体層のみを600℃で10分間加熱した後、空冷にて急冷し、その後も加熱と急冷を繰り返して断熱材の変化を観察した。
【0049】
上記した操作を10回繰り返した結果、実施例2の断熱材はジルコニア多孔体層に微細な亀裂が生じたものの、結合部分が剥離することはなかった。これに対し、実施例4の断熱材は3回目の空冷中に結合部分が剥離した。さらに、実施例7の断熱材は加熱されたアルミニウム層が試験中に軟化し表面が荒れたように形状が変化していたものの、ジルコニア多孔体が露出することはなかった。断熱材の結合性の違いは、セラミックス多孔体の電子ビーム照射による表面改質条件が影響しているものと考えられ、実施例4のように、高すぎるカソード電圧で処理するとセラミックス多孔体表面が過度に荒れてしまい、金属との結合性が劣るという結果が得られた。そして、耐熱衝撃性は、実施例7のように3層構造で断熱層であるセラミックス多孔体の上表面を金属でコーティングされたようになっていると有効であることが示唆された。このことは、使用温度域と材質の検討で、爆発的な熱衝撃をともなう内燃機関の断熱材への使用が期待される。
【0050】
(3)セラミックスの気孔率の影響
セラミックス多孔体の表面改質に、結合させる金属とは別に金箔を用いた実施例6及び比較例1におけるセラミックス多孔体又はセラミックス緻密質体表面に形成された前駆層を電子顕微鏡により観察した。この結果、
図3(b)に示したように、実施例6のセラミックス多孔体表面は全体に金属箔が表面一面に接着した状態になっており、特に表面に露出している開気孔の箇所に重点的に金属箔が接着されていた。一方、比較例1のセラミックス緻密質体表面では局所的に金属箔の接着が見られたものの、一面には接着していなかった。実施例6で得た断熱材は、比較例1で得た断熱材と比べてその結合強度が極めて高かった。これは、上記したように、実施例6では、比較例1の場合と異なり金属箔が気孔部分に重点的に接着していたことから、金属と結合させた場合に、実施例6の断熱材では、結合させた金属がセラミックス多孔体の細孔内部まで侵入でき、この結果、いわゆるアンカー効果が得られたためと考えられる。
【符号の説明】
【0051】
1:セラミックス多孔体
2:電子ビーム
3a:セラミックス多孔体の表面改質層(前駆層a)
3b:セラミックス多孔体の表面改質層にさらに金属箔が接着・含浸した層(前駆層b)
4:金属箔
5:金属板
6:前駆層と金属板の結合により生成した中間層