(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粗化処理された銅箔表面に金属処理層が形成され、該金属処理層表面にシランカップリング剤が塗布されてなる表面処理銅箔の該シランカップリング剤が塗布された面に、ポリフェニレンエーテル樹脂を30〜90質量%含有する樹脂組成物を積層してなる高周波基板用銅張り積層板であって、
前記金属処理層表面の明度値が10〜30であり、
前記シランカップリング剤がビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基及びアミノ基から選ばれる官能基を有し、
前記表面処理銅箔と前記樹脂組成物層との密着強度が0.6kN/m以上である、高周波基板用銅張り積層板。
前記シランカップリング剤において、前記官能基を有する基をケイ素原子から除いた部分の構造が、トリメトキシシラン構造であるか、又はトリエトキシシラン構造である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波基板用銅張り積層板。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、薄肉化が進行しており、特に携帯電話に代表される携帯機器に用いられる各種電子部品は高度に集積化され、小型でかつ高密度のプリント配線板を内蔵するICやLSIなどが使用されている。
これに対応して、これらに使用される高密度実装用の多層プリント配線板やフレキシブルプリント配線板等(以下、単にプリント配線板ということもある)における回路配線パターンにも高密度化が要求され、回路配線の幅と間隔が微細な回路配線パターン、いわゆるファインパターンのプリント配線板に対する需要が高まっている。
【0003】
従来、プリント配線板に用いる銅箔は、樹脂基材に熱圧着する側の表面を粗化面とし、この粗化面で樹脂基材に対するアンカー効果を発揮させ、樹脂基材と銅箔との接合強度を高めてプリント配線板としての信頼性を確保している(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、電子機器の情報処理速度の向上や無線通信への対応のため、電子部品には電気信号の高速伝送が求められており、高周波対応基板の適用も進行している。高周波対応基板では、電気信号の高速伝送のため、伝送損失を低減する必要があり、樹脂基材の低誘電率化に加えて導体である回路配線の伝送損失を低減することが要求されている。
数GHzを超える高周波帯域では、表皮効果により回路配線を流れる電流が銅箔表面に集中するため、高周波対応基板用の銅箔として従来の粗化処理を施した銅箔を用いた場合、粗化処理部における伝送損失が大きくなり、伝送特性が悪化する不具合があった。
【0004】
上述の問題を解消するため、ファインパターン対応や高周波対応のプリント配線板等に用いる銅箔として、粗化処理を施さずに平滑な銅箔を用い、これを樹脂基材に張り付けて使用する方法がこれまで検討されてきた(例えば、特許文献2、3、4参照)。
しかし、これらの平滑な銅箔はファインパターンの回路形成性や高周波域における伝送特性が優れるものの、銅箔と樹脂基材との密着性を安定的に、かつ十分に高めることが困難であった。その結果、回路配線のエッチング工程や回路配線の端部へのSnめっき工程において銅箔と樹脂基材との界面に薬品が染み込んだり、プリント配線板の製造工程や使用中の熱負荷により銅箔と樹脂基材との密着性が低下する問題があった。上記製造工程において密着性が低下する一例として、プリント配線板上に各種電子部品を実装する際のリフローはんだ工程における銅箔の剥がれや膨れの発生が挙げられる。特に、ファインパターン対応のプリント配線板では回路配線(銅箔)と樹脂基材との接合面積が極めて小さく構成されている。そのため、薬品の染み込みや熱負荷後の密着性低下が発生すると、樹脂基材から回路配線が剥離する危険性がある。
【0005】
前記問題を解決するために、例えば、特許文献5には、不飽和二重結合を有する成分を含有するとともに硬化物の誘電率が3.5以下となるポリフェニレンエーテル樹脂組成物から形成される樹脂層と銅箔とを積層して構成される樹脂付銅箔を用いたプリント配線板製造用積層材料が開示されている。このプリント配線板製造用積層材料は、銅箔の樹脂層が形成される側の表面が、亜鉛又は亜鉛合金にて処理された後、ビニル基含有シランカップリング剤によるカップリング剤処理がされているものである。
前記プリント配線板製造用積層材料を用いた場合、表面粗さが小さい銅箔を用いても熱硬化性樹脂組成物中の不飽和二重結合がビニル基含有シランカップリング剤と結合し、この結合において亜鉛又は亜鉛合金が触媒的に働いて銅箔と熱硬化性樹脂組成物との接着力が向上する。その結果、高周波の伝送損失が低く、かつ導体層と絶縁層との接着性が高いプリント配線板又は多層プリント配線板を容易に得ることができるとされている。
【0006】
しかしながら、前記技術においては、不飽和二重結合を有する成分としてポリフェニレンエーテル樹脂のその末端のフェノール基の水素原子をエテニルベンジル基に置換することが必要である。そのため、一般的なポリフェニレンエーテル樹脂に対する接着力改善の技術の開発が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高周波基板用銅張り積層板は、特定形状の銅箔表面に金属処理層が形成され、当該金属処理層表面に特定のシランカップリング剤が塗布されてなる表面処理銅箔と、ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)とを、好ましくは熱加圧成形法で積層してなる。
【0013】
本発明の高周波基板用銅張り積層板は、上記表面処理銅箔と上記樹脂組成物との密着強度が0.6kN/m以上である。上記密着強度は、好ましくは0.7kN/m以上であり、より好ましくは0.8kN/m以上である。密着強度を0.6kN/m以上とすることで、熱、酸、薬剤にさらされても密着性を十分に維持することができ、回路基板の製造工程および使用時の信頼性を確保することができる。また、可動部品に使われるフレキシブルプリント配線板として応用する場合には、十分な屈曲性を持たせることができる。また、上記密着強度は通常は1.2kN/m以下であり、1.0kN/m以下であってもよい。
【0014】
上記樹脂組成物を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記樹脂組成物の全樹脂成分中、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は30〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜90質量%であり、さらに好ましくは50〜90質量%である。ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を上記好ましい範囲内とすることで、耐熱性や加工性がより向上しうる。なお、上記樹脂組成物が後述するポリスチレン樹脂とポリプロピレン樹脂を含有する場合には、上記樹脂組成物中の全樹脂成分中、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
本発明においてポリフェニレンエーテル樹脂とは、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含む意味に用いる。
【0015】
上記樹脂組成物の全樹脂成分中には、ポリスチレン樹脂が10〜70質量%含有されることが好ましい。上記樹脂組成物の全樹脂成分中におけるポリスチレン樹脂の含有量は、10〜60質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることがさらに好ましい。上記樹脂組成物にポリスチレン樹脂を含有させることで、加工性を向上させることができる。また、上記樹脂組成物中のポリスチレン樹脂の含有量を上記好ましい範囲内とすることで、十分な耐熱性を維持しつつ、加工性をより向上させることができる。
上記ポリスチレン樹脂は、スチレンを構成成分に含む重合体であれば特に制限されるものではないが、スチレンを構成成分に含むブロック共重合体を好ましく用いることができる。上記ポリスチレン樹脂の好ましい例として、スチレン−エチレン−ブタジエンのブロック共重合(SEBS)が挙げられる。
【0016】
また、上記樹脂組成物はポリプロピレン樹脂を含有してもよい。上記樹脂組成物がポリプロピレン樹脂を含有する場合、上記樹脂組成物中のポリプロピレン樹脂の含有量は50質量%以下であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
上記シランカップリング剤は、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基及びアミノ基から選ばれる官能基を有する1種又は2種以上のシラン化合物である。上記シランカップリング剤は、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基及びアミノ基から選ばれる官能基を1つ有することが好ましい。上記シランカップリング剤は、上記の官能基を有する基をケイ素原子から除いた部分の構造がトリアルコキシシラン構造であるものが好ましく、例えばトリメトキシシラン構造またはトリエトキシシラン構造であることが好ましい。
上記シランカップリング剤の具体例として、アミノアルキルトリメトキシシラン(例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、アミノアルキルトリエトキシシラン(例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルプロピルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン、スチリルプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
上記シランカップリング剤を金属処理層表面に塗布する際の上記シランカップリング剤の溶液濃度は、金属処理層表面に十分な量のシランカップリング剤を塗布し、かつ、より高い密着性を実現するために、0.01〜15vol.%とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜10vol.%とする。当該溶液の溶媒として水を用いるのが好ましい。
【0019】
金属処理層表面にシランカップリング剤を塗布することによって樹脂との密着が向上する理由は、シランカップリング剤と金属処理層表面との間で形成される化学結合、及び、シランカップリング剤中の上記官能基と樹脂との間の高い相互作用が関係していると考えられる。シランカップリング剤の塗布状態については、金属処理後の銅箔の表面粗さや金属処理の付着量等に応じて、適宜塗布条件を調整して適正な付着量を選定することが可能である。
【0020】
また、本発明に用いる銅箔は、少なくとも一方の面に粗化処理が施されて凹凸形状が形成される。当該凹凸形状は、その表面に後述する金属処理層を設けた際に、当該金属処理層表面の明度値が10〜30となることが好ましく、18〜30となることが好ましく、20〜27となることがより好ましい。
本発明において「明度値」とは、表面の粗さを測る指標の一つとして使用されており、測定サンプル表面に光を照射した際の光の反射量を測定して明度値を算出する。具体的には、JIS Z 8105(1982)に基づき求めることができる。この方法で金属処理層を設けた銅箔の処理面の明度値を測定すると、表面の凸部の隙間が狭い時には、光の反射量が少なくなるため明度値が低くなり、凸部の隙間が広い時には光の反射量が大きくなり明度値が高くなる傾向がある。
【0021】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物と表面処理銅箔とを積層する方法に特に制限はないが、熱加圧成形法により積層することが好ましい。熱加圧成形等により積層すると、加熱により軟化した樹脂組成物が圧力により銅箔表面に押し付けられる。この時、樹脂と表面処理銅箔表面との接触面積が広くなることで樹脂と銅箔との密着性が良好となる。さらに本発明の銅張り積層板においては、樹脂組成物が金属処理銅箔表面の凸部の隙間に流れやすく樹脂と表面処理銅箔表面との接触面積が増加することにより、樹脂と表面処理銅箔との密着性が向上する。
上記熱加圧成形は、プレス温度を150〜300℃として行うことが好ましく、より好ましくは180〜290℃、さらに好ましくは200〜280℃、さらに好ましくは200〜250℃として行われる。また、プレス圧力は1.5〜4.0MPaとすることが好ましく、より好ましくは2.0〜3.8MPa、さらに好ましくは2.5〜3.5MPaである。
【0022】
銅箔表面に粗化処理を施すことで、銅箔表面に凹凸形状を形成させることができる。粗化処理はめっき法等により粒状の凸部を形成する方法が挙げられる。銅箔表面の明度値が30以下、より好ましくは27以下、さらに好ましくは24以下となるように銅箔表面に凸部を形成することが好ましい。こうすることで、表面処理した後の銅箔の凸部がなだらかになり過ぎず、表面処理銅箔表面への樹脂の流れ込みを良好に保つことができ、樹脂基材との密着性がより向上しうる。さらに、多層基板においては、配線回路のスペース部として銅箔をエッチング等により除去することで樹脂組成物の表面に粗化形状のレプリカが形成される。これにより隣接する樹脂組成物層同士の密着性が高まり、高周波基板に電子部品を実装する際のリフローはんだ工程におけるフクレの発生が抑制されて信頼性を高めることができる。
また、銅箔表面の明度値が10以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは18以上となるように凸部を形成することが好ましい。こうすることで、凸部の間隔を十分に広くすることができ、凸部の間の隙間に樹脂が入り込みやすくなる。また、得られる表面処理銅箔の高周波帯域での伝送損失をより抑えることができる。
【0023】
上記表面処理を行って凹凸形状とした銅箔は、その凹凸面に後述の金属処理層を形成した後において、金属処理層表面の算術平均粗さRaが0.05〜0.7μmであることが好ましい。また、当該表面の10点平均粗さRzが0.3〜2.5μmであることが好ましい。好ましくは銅箔凹凸表面の金属処理層のRaが0.05〜0.5μm、Rzが0.3〜2.5μmであり、より好ましくは銅箔凹凸表面の金属処理層のRaが0.1〜0.4μm、Rzが0.5〜1.5μmである。金属処理層の表面粗さRaを上記範囲とすることで、高周波伝送特性を要求される使途により適した形態とすることができ、また、COF(チップ・オン・フィルム)としての使途に対応した視認性を発現させることができる。金属処理層の表面粗さRzを上記範囲とすることで、得られる表面処理銅箔と樹脂基材との密着性をより高めることができ、また、十分な高周波特性を発現させることができる。
すなわち、Raを0.05より大きくし、また、Rzを0.3より大きくすることで、表面処理銅箔の処理面への樹脂の流れ込みを良好に保つことができ、銅箔と樹脂組成物との密着性がより向上する。また、Raを0.7より小さくし、また、Rzを2.5より小さくすることで、表面の凹凸形状による伝送損失をより抑えることができる。さらに、表面処理銅箔と樹脂組成物を張り付けた際に隙間が形成されにくくなり、エッチング等で酸性溶液に接触させた際の耐酸性をより高めることができる。
【0024】
上記銅箔表面への金属処理層の形成は、例えば金属めっきにより行うことができる。上記金属処理層は、ニッケル、亜鉛、及びクロムを含むことが好ましい。当該金属処理層は、例えば、ニッケルめっき、亜鉛めっき、及びクロム酸めっきを順次施すことで形成させることができる。
【0025】
銅箔の金属処理層におけるニッケル付着量は、好ましくは0.05〜0.3mg/dm
2であり、より好ましくは0.05〜0.2mg/dm
2である。ニッケル付着量を上記好ましい範囲内とすることで耐熱性とエッチング性をより向上させることができる。
銅箔の金属処理層における亜鉛付着量は、好ましくは0.01〜0.1mg/dm
2であり、より好ましくは0.01〜0.08mg/dm
2である。亜鉛付着量を上記好ましい範囲内とすることで、耐熱性と耐酸性をより向上させることができる。
銅箔の金属処理層におけるクロム付着量は、好ましくは0.001〜0.2mg/dm
2であり、より好ましくは0.001〜0.1mg/dm
2である。クロムを付着させることで、銅箔表面が酸化するのを防ぎ、密着性を向上させることができる。また高温高湿雰囲気にさらされた際に、樹脂基材との密着性がより低下しにくくなる。また、クロム付着量は、銅箔と樹脂基材とを結合するシランカップリング効果にも影響する。クロム付着量を上記好ましい範囲内とすることで、樹脂基材との密着性がより向上しうる。
【0026】
本発明の高周波基板用銅張り積層板を構成する表面処理銅箔は、その厚さが5〜70μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、10〜40μmであることがさらに好ましく、10〜30μmであることがさらに好ましい。また、樹脂組成物層の厚さは0.05〜0.5mmであることが好ましく、0.1〜0.4mmであることがより好ましく。0.1〜0.3mmであることがさらに好ましい。
【0027】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
本発明に用いる表面処理銅箔について、その表面処理工程を製箔工程から順に説明する。
【0029】
実施例1〜11、比較例1〜5
<製箔工程>
下記のめっき浴及びめっき条件で母材銅箔(未処理銅箔)を作製した(母材銅箔の表面(片面)のサイズは250mm×250mm)。めっき浴及びめっき条件は以下の通りである。
[銅めっき]
硫酸銅:銅濃度として50〜80g−Cu/L(銅金属として50〜80gに相当する量の銅を含む硫酸銅を意味する。以下同様。)
硫酸濃度:30〜70g/L
塩素濃度:0.01〜30ppm
液温:35〜45℃
電流密度:20〜50A/dm
2
【0030】
<表面処理工程>
前記母材銅箔の表面に、下記のめっき浴及びめっき条件で表面処理を施して表面処理銅箔を作製した。めっき浴及びめっき条件は以下の通りである。
[粗化処理]
母材銅箔表面への粗化処理(凹凸形成)は、下記粗化めっき処理1、下記粗化めっき処理2の順序で行った。
【0031】
(粗化めっき処理1)
硫酸銅:銅濃度として15〜25g−Cu/L
硫酸濃度:130〜180g/L
モリブデン化合物:モリブデン濃度として0.1〜0.5g−Mo/L
鉄化合物:鉄濃度として0.1〜0.3g−Fe/L
液温:20〜60℃
電流密度:20〜50A/dm
2
【0032】
(粗化めっき処理2)
硫酸銅:銅濃度として40〜70g−Cu/L
硫酸濃度:80〜120g/L
液温:20〜60℃
電流密度:5〜65A/dm
2
【0033】
上記粗化処理後の粗化処理表面への金属処理は、下記金属処理−1、下記金属処理−2、下記金属処理−3の順序で行った。
【0034】
[金属処理−1(ニッケルめっき)]
下記のめっき浴及びめっき条件で一次処理層を施した。
硫酸ニッケル6水和物:200〜300g/L
塩化ニッケル6水和物:30〜60g/L
ホウ酸:20〜40g/L
液温:40〜60℃
電流密度:0.1〜10A/dm
2
【0035】
[金属処理−2(亜鉛めっき)]
下記のめっき浴及びめっき条件で二次処理層を施した。
硫酸亜鉛7水和物:1〜30g/L
水酸化ナトリウム:10〜150g/L
液温:10〜30℃
電流密度:0.1〜10A/dm
2
【0036】
[金属処理−3(クロム酸めっき)]
上記各金属めっき層処理後に、下記条件でクロメート処理を施した。
無水クロム酸:0.1〜10g/L
液温:20〜40℃
電流密度:0.1〜2A/dm
2
【0037】
上記の条件下で作製された、金属処理層が形成された銅箔の金属処理面の表面粗さはRa=0.2μm〜0.4μm、Rz=1.0μm〜1.5μmであった。また、金属処理層が形成された銅箔の厚さはいずれも18μmであった。
【0038】
前記の各種金属処理に続いて、金属処理面に下記のシランカップリング処理を施した。
[シランカップリング処理]
表1に記す官能基を有するシランカップリング剤の1vol.%水溶液を用い、室温で上記表面処理銅箔に塗布した。より詳細には、銅箔を斜めにした状態でシランカップリング剤水溶液を1分間均一に流し、その後、ロールによる液切りを行って乾燥した。
【0039】
前記のシランカップリング処理を施した表面処理銅箔に対して、下記の樹脂組成物を熱加圧成形により張付けた銅張り積層板を作製した。
【0040】
[樹脂組成物]
表1に記すように、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリスチレン樹脂を特定の比率で混合して厚さ0.2mmの板上に成形した樹脂基材を作製した。上記表面処理銅箔のシランカップリング剤の塗布面と樹脂基材とを重ね、熱プレス加工機(東洋精機製作所社製、ミニテストプレス(商品名))を用いた熱加圧成形法(プレス温度=200℃、プレス圧力=3.0MPa)により、表面処理銅箔と樹脂基材とからなる銅張り積層板を作製し、試験片とした。
【0041】
実施例12〜16、比較例6
表1に記すように、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリスチレン樹脂(PS)の他にポリプロピレン樹脂(PP)を特定の比率で混合した以外は、実施例1〜11と同様にして試験片を作製した。
【0042】
実施例17〜23、比較例7〜8
表1に記すように、粗化処理条件を変えて作製した明度値の異なる表面処理銅箔を用いた以外は、実施例1〜11と同様にして試験片を作製した。
【0043】
実施例24〜30、比較例9〜10
表1に記すように、シランカップリング剤の官能基をビニル基からアミノ基に代えた以外は実施例17〜23と同様にして試験片を作製した。
【0044】
上記各銅張り積層板の厚さは、いずれも0.2〜0.25mmの範囲内にあった。
【0045】
<試験片の特性評価>
上記各試験片について各種測定、評価を行い、その結果を表2に示した。
【0046】
(1)金属付着量測定
走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製ZSX Primus、分析径:35mmφ)にて分析した。
【0047】
(2)表面粗さの測定
接触式表面粗さ測定機(株式会社小坂研究所製サーフコーダーSE1700)用いて中心線平均粗さ(算術平均粗さ)Ra及び10点平均粗さRzを測定した。
【0048】
(3)明度値の測定
金属処理層表面の明度値を、明度計(スガ試験機株式会社製、機種名:SMカラーコンピューター 型番:SM−4)を使用して測定した。
【0049】
(4)密着強度(ピール強度)
密着強度は、テンシロンテスター(株式会社島津製作所製AG−10kNI(商品名))を使用して、カッターで5mm幅の切り込みを行った後、銅箔側をピール速度10mm/minで90度方向に引っ張りその際の応力を測ることで求めた。
【0050】
(5)耐熱性(熱処理後のピール強度維持率)
樹脂基材との熱加圧成形後、150℃で168時間熱処理した後のピール強度を(4)と同様に測定した。熱処理後のピール強度が熱処理前のピール強度に対して何%維持されるかを耐熱性として評価した。なお、判定基準は表2に示す。
【0051】
(6)耐酸性(酸浸漬後のピール強度維持率)
樹脂基材との熱加圧成形後、希塩酸溶液(水:塩酸=1:1)中に常温で1時間浸漬し、その後のピール強度を(4)と同様に測定した。酸浸漬後のピール強度が酸浸漬前のピール強度の何%維持されるかを耐酸性として評価した。なお、その判定基準は表2に示す。
【0052】
(7)高周波特性の測定
表面処理銅箔を樹脂基材に熱加圧成形により積層した後に、伝送特性測定用のサンプルを作製して高周波帯域における伝送損失を測定した。伝送特性の評価には、1〜25GHz帯域の測定に適する公知のストリップライン共振器法(マイクロストリップ構造:誘電体厚さ50μm、導体長さ1.0mm、導体厚さ18μm、導体回路幅120μm、特性インピーダンス50Ωでカバーレイフィルムなしの状態でS21パラメーターを測定する方法)を用いて、周波数10GHzにおける伝送損失(dB/100mm)を計測した。伝送損失が大きい程、マイナスの絶対値が大きくなる(数値としては小さくなる。例えば、−1と−2では、−2の方が伝送損失が大きいことを示す。)。なお、判定基準は表2に示す。
【0053】
(8)リフロー時耐フクレ(膨れ)性
100mm×100mmの樹脂基材と銅箔を熱加圧成形により積層した後に塩化第二銅溶液を用いて銅箔をエッチングし、銅箔を溶解除去した面に別の樹脂基材を重ねて熱加圧成形して試験片を作製した。この試験片をトップ温度260℃でリフロー炉を通過させるリフロー加熱を実施し、冷却後の試験片に発生したフクレの有無を観察した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表2から明らかなように、樹脂組成物中にポリフェニレンエーテル樹脂を30〜90質量%含有しており、シランカップリング剤としてビニル基を有するシランカップリング剤を適用した実施例1〜7では、常態ピール強度(熱加圧成形後のピール強度)が0.6kN/m以上、かつ熱処理後のピール強度の維持率が80%以上であり十分な密着性と耐熱性が得られた。また、10GHzにおける伝送損失は−5dB/100mmを下回っており、銅箔と樹脂の密着性及び高周波特性が良好であることが確認できた。
一方、比較例1〜3ではポリフェニレンエーテル樹脂の比率が30質量%より少なく耐熱性が不十分であった。また、比較例4ではポリフェニレンエーテル樹脂の比率が90質量%を超えており樹脂組成物の成形性が低下し、密着性に劣る結果となった。さらにシランカップリング処理を施していない比較例5は、耐フクレ性に劣っていた。
また、実施例8〜11の結果から、シランカップリング剤が有する官能基がスチリル基、メタクリル基、エポキシ基、アミノ基であっても、実施例1〜7と同様に良好な特性を示すことがわかる。
さらに実施例12〜16の結果から、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリスチレン樹脂の他にポリプロピレン樹脂を含んでいる場合も、密着性に優れ、他の特性も良好であることがわかった。一方、比較例6ではポリフェニレンエーテル樹脂を30〜90質量%含有するが、ポリスチレン樹脂の比率が10質量%を下回り、ポリプロピレン樹脂の含有量が高い。この比較例6では、樹脂組成物の成形性が低下して密着性が不十分であった。
また、実施例17〜30の結果から、表面処理銅箔の金属処理層表面の明度値が10〜30の範囲内にあれば、密着性に優れ、他の特性も良好な積層板が得られることがわかる。一方、比較例7及び9では表面処理銅箔の金属処理層表面の明度値が10を下回り、銅箔表面の凸部の間隔が狭くなって伝送特性が低下し、伝送損失が−7dB/100mmを超えた。また、比較例8及び10では表面処理銅箔の明度が30を上回り、銅箔表面の凸部の間隔が広くなって銅箔と樹脂基材の接触面積が低減し、密着性、耐酸性、及びリフロー時耐フクレ性に劣る結果となった。