(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフルオロポリマー、該フルオロポリマーの製造方法、含フッ素硬化性樹脂組成物、および、該フルオロポリマーまたは該組成物の硬化物の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書においては、数平均分子量をMnと、質量平均分子量をMwと、分子量分布をMw/Mnと記す。
なお、本発明における質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、CF
2ClCF
2CHClF(旭硝子社製、商品名:AK225cb、以下、AK225cbという。)を溶媒として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりPMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出したものを意味する。
なお、以下において、本発明のフルオロポリマーをフルオロポリマー(PA)と称する。また、アミド化前のフルオロポリマーをフルオロポリマー(P)と称する。したがって、フルオロポリマー(PA)は、フルオロポリマー(P)をアミド化して得られるフルオロポリマーである。また、フルオロポリマー(PA)の硬化物とフルオロポリマー(PA)を含む含フッ素硬化性樹脂組成物の硬化物を、特に言及しない限り、単に硬化物ともいう。
【0011】
[フルオロポリマー(PA)]
本発明のフルオロポリマー(PA)は、重合性二重結合(炭素−炭素二重結合)を有する。フルオロポリマー(PA)は重合性二重結合を分子内に有することで、光または熱により重合性二重結合が架橋して硬化することができる。
一般にフルオロポリマーにおいては、主鎖末端がアミド化されることによりフルオロポリマーの熱安定性が向上することは知られている。本発明者らは、重合性二重結合を有する硬化性のフルオロポリマーにおいて、主鎖末端をアミド化することによりフルオロポリマーの各種の基材への接着性も向上することを新規に見出した。特に質量平均分子量(Mn)が20,000以下の場合、単位重量あたりの末端基濃度が高くなるため、接着性の向上効果が顕著になる。本発明のフルオロポリマー(PA)は、重合性二重結合を有するフルオロポリマー(P)の主鎖末端がアミド化されたフルオロポリマーである。
【0012】
一般的に、フルオロモノエンやフルオロジエンを重合して得られるフルオロポリマーは、停止反応や連鎖移動反応により分子鎖末端に不安定な基が生じやすい。特に、CF
2=CFO−を有するモノマーを用いて重合すると、ポリマーの主鎖末端に酸フロリド(−COF)が生成することが知られている。この酸フロリド(−COF)は空気中の水分によりカルボン酸(−COOH)へ加水分解される。分子の主鎖末端にカルボン酸(−COOH)が存在すると、加熱された際に分解し、つづいてフルオロポリマーの主鎖の分解が生じる。その為、主鎖末端にカルボン酸が存在するフルオロポリマーの硬化物は加熱による重量減少が生じやすい。
本発明のフルオロポリマー(PA)は、重合性二重結合を有するフルオロポリマー(P)をアンモニアまたはアミンと反応させてアミド化することにより、主鎖末端の不安定な基を安定化な基(アミド基)とされたものである。例えば、−COF+2NH
3→−CONH
2+NH
4Fまたは−COF+2NH
2R→−CONHR+NH
3RFというような反応機構で、主鎖末端にアミド基が導入されたものである。
本発明におけるアミド基とは、−CONRR’で表される基であり、−NRR’はHNRR’で表されるアミノ基を有する化合物の水素原子を除いた残基である。R、R’は、それぞれ独立に、水素原子または1価の有機基を表するか、RとR’が共同して2価の有機基を表す。有機基としてはアルキル基などの1価の炭化水素基が好ましい。1価の有機基や2価の有機基としては炭素数10以下の有機基が好ましく、炭素数4以下の有機基がより好ましい。R、R’の少なくとも一方は水素原子であることが好ましく、いずれも水素原子であることが最も好ましい。
仮にアンモニアの代わりに水を用いて主鎖末端を−COOHにすると、フルオロポリマーの流動性が低下して、光電変換素子の封止を行う際に脱泡ができなくなるという問題がある。また、メタノールを用いて主鎖をメチルエステル化した場合には、流動性は確保されるものの、基材への接着性が阻害されるという問題が生じる。主鎖末端基を−CONH
2にしたフルオロポリマーの場合には、極性が増加して分子間の凝集が生じやすい状況にもかかわらず、流動性を阻害せず、かつその硬化物の接着性を発現させることが可能であることを新規に見出した。
フルオロポリマー(PA)やそれを含む硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物の、接着性が高められる理由は必ずしも定かではないが、極性のあるアミド基が自由度の大きいフルオロポリマー(PA)の主鎖末端に存在することにより、基材表面に配向して基材との接着に寄与すると考えられる。本発明においては、質量平均分子量(Mw)が小さく、主鎖末端基の数が多いフルオロポリマー(P)の主鎖末端をアミド化することにより、得られる硬化物と基材との密着性を高めることができる。
【0013】
(フルオロモノエン(a))
フルオロモノエン(a)は、分子内に重合性二重結合を1つ有する含フッ素化合物である。
フルオロモノエン(a)としては、たとえば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等のフルオロエチレン類や、ヘキサフルオロプロピレン、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテル、下記式(a−1)、下記式(a−2)に示す環状フルオロモノマー等が挙げられる。中でも、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテルをフルオロモノエン(a)として用いると、得られるフルオロポリマー(PA)の粘度が低減し、また、得られる硬化物の柔軟性が高くなるので、ハイパワーLED用透光封止材等として有用である。また、環状フルオロモノマーをフルオロモノエン(a)として用いると、硬化物のガラス転移温度が上昇して硬度が高くなり、レンズ等の材料として有用である。
【0014】
フルオロモノエン(a)としては、熱安定性の点から、ペルフルオロモノマーが好ましく、テトラフルオロエチレンがより好ましい。特にテトラフルオロエチレンをフルオロモノエン(a)として用いる場合に、フルオロポリマー(PA)は、流動性および熱安定性に最も優れる。また、テトラフルオロエチレンと、CF
2=CFO−Rf(式中、Rfは炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。なお、フルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるフルオロビニルエーテルとを併用することも流動性をさらに高める点でより好ましい。より好ましくは、テトラフルオロエチレンと、CF
2=CFO−Rf
1(式中、Rf
1は炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を表す。なお、ペルフルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロビニルエーテルとの併用である。また、フルオロモノエン(a)としてクロロトリフルオロエチレンを用いた場合には、屈折率を高めることができる。一定量のクロロトリフルオロエチレンを用いることで、屈折率を0.03〜0.1程度高めることができる。これにより、LEDの光取り出し効率が向上する。
テトラフルオロエチレンを用いる場合、フルオロモノエン(a)に由来する繰り返し単位とフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位との合計量に対して、テトラフルオロエチレンに由来する繰り返し単位の割合は、1〜80モル%であることが好ましく、50〜70モル%が特に好ましい。上記範囲であると硬化物の熱安定性および透明性、フルオロポリマー(PA)の流動性が良好である。
テトラフルオロエチレンとCF
2=CFO−Rf
1とを併用する場合、両者に由来する繰り返し単位合計量に対するCF
2=CFO−Rf
1に由来する繰り返し単位の割合は、1〜49モル%であることが好ましく、10〜40モル%であることが特に好ましい。
【0015】
【化1】
式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立にフッ素原子またはOCF
3基であり、R
3およびR
4はそれぞれ独立にフッ素原子またはCF
3基である。また、R
5およびR
6はそれぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基またはペルフルオロ(アルコキシアルキル)基である。
【0016】
(フルオロジエン(b))
フルオロジエン(b)は、分子内に重合性二重結合を2つ有する含フッ素化合物である。2つの重合性二重結合のうちの少なくとも一部が重合反応に寄与せず、重合後も二重結合のまま残存する化合物である。すなわち、フルオロジエン(b)の一方の重合性二重結合における2つの炭素原子は重合後に主鎖を形成する。もう一方の重合性二重結合のうち少なくとも一部は重合反応に寄与せず、フルオロポリマー(P)中に重合性二重結合を有する不飽和側鎖を形成させる。フルオロジエン(b)を用いることにより、フルオロポリマー(P)中に不飽和側鎖が残存するため、この不飽和側鎖を利用したフルオロポリマー(PA)の硬化反応により硬化物が得られる。
フルオロジエン(b)としては、炭素原子とフッ素原子のみから構成されるか、または炭素原子とフッ素原子と酸素原子のみから構成されるペルフルオロジエンが挙げられる。また、前記ペルフルオロジエンの1つもしくは2つのフッ素原子が水素原子で置換されたフルオロジエンが挙げられる。フルオロジエン(b)は、熱安定性の点から、ペルフルオロジエンであることが好ましい。流動性と熱安定性の点から、炭素原子とフッ素原子と酸素原子のみから構成されるペルフルオロジエンであることがさらに好ましい。
【0017】
フルオロジエン(b)は、2つの重合性二重結合を連結する連結鎖の原子数が5〜10であることが好ましく、5〜8であることが特に好ましい。
前記連結鎖の原子数が上記範囲の下限値以上であれば、重合反応時にこれら2つの重合性二重結合が反応して分子内環化が起こることを抑えて、フルオロポリマー(P)中に重合性二重結合を有する不飽和側鎖を残存させやすい。また、上記範囲の上限値以下であれば、硬化前に各々のフルオロポリマー(PA)の側鎖の重合性二重結合によりフルオロポリマー(PA)の架橋反応が起こり、フルオロポリマー(PA)の高分子量化やゲル化が生じてしまうことを防ぎやすい。これにより、フルオロポリマー(PA)を硬化させる前の流動性が著しく低下することを防止できる。また、連結鎖の長すぎるフルオロジエン(b)は、それ自体を合成し、高純度に精製することが容易でない。
【0018】
フルオロジエン(b)は、分子内に脂肪族環構造を有するフルオロ環状ジエンであってもよく、脂肪族環構造を有さないフルオロ非環状ジエンであってもよい。中でも、フルオロジエン(b)は、硬化物に柔軟性を付与する効果が大きい点、流動性が低下しすぎない点から、脂肪族環構造を有さないフルオロ非環状ジエンであることが好ましい。
【0019】
<フルオロ非環状ジエン>
フルオロ非環状ジエンは、前記のような脂肪族環構造を有さない化合物である。また、2個の重合性二重結合を連結する連結鎖は、流動性が低下しすぎることを防ぐ点から、環構造を有さない直鎖構造であることが好ましい。
フルオロ非環状ジエンとしては、下記式に示す化合物が好ましい。
CF
2=CFO−Q
F1−OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2−Q
F2−CH
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2O−Q
F3−OCF
2CF=CH
2
CH
2=CFCF
2O−Q
F4−OCF=CF
2
ただし、式中、Q
F1、Q
F2、Q
F3およびQ
F4は、それぞれ独立に、フルオロアルキル基の側鎖を有していてもよいフルオロアルキレン基である。なお、該フルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。Q
F1およびQ
F3が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は3〜8、好ましくは3〜6である。Q
F2が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は2〜6、好ましくは2〜4である。Q
F4が表すフルオロアルキレン基における炭素原子数は1〜6、好ましくは2〜5である。
上記のうち、フルオロポリマー(P)の合成の際に重合性二重結合を側鎖に残すために適度な重合性を有する点、また硬化物の熱安定性の点で、CF
2=CFO−Q−OCF=CF
2(式中、Qは炭素数が3〜8のフルオロアルキレン基を表す。好ましくは、炭素数が3〜6のフルオロアルキレン基である。なお、フルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で示される化合物がより好ましい。CF
2=CFO−Q
1−OCF=CF
2(式中、Q
1は炭素数が3〜8のペルフルオロアルキレン基を表す。好ましくは、炭素数が3〜6のペルフルオロアルキレン基である。なお、ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で示される化合物が特に好ましい。
【0020】
前記フルオロ非環状ジエンの具体例としては、下記式に示す化合物が挙げられる。
CF
2=CFO(CF
2)
4OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
5OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
6OCF=CF
2
CF
2=CFO(CF
2)
4OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2(CF
2)
2CH
2OCF=CF
2
CF
2=CFOCH
2(CF
2)
4CH
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
CH
2=CFCF
2OCF(CF
3)CF
2OCF(CF
3)CF
2OCF=CF
2
これらフルオロジエン(b)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<フルオロ環状ジエン>
フルオロ環状ジエンは、脂肪族環構造を1つまたは2つ有する化合物である。フルオロ環状ジエンにおける脂肪族環構造は、炭素原子のみから構成されるか、または炭素原子と酸素原子とから構成される。脂肪族環構造を構成する原子数は4〜8であることが好ましく、5または6であることがより好ましい。特に好ましい脂肪族環構造は、1つまたは2つの酸素原子を含む5員環または6員環である。
フルオロ環状ジエンが脂肪族環構造を2つ有する場合は、それらの脂肪族環同士は単結合や2価以上の連結基で連結されていてもよく、縮合(1個の炭素結合を共有する場合も含む。)していてもよい。前記連結基としては、たとえば、酸素原子、ペルフルオロアルキレン基(炭素原子数8以下が好ましい。)、一方もしくは両方の末端、または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基(炭素原子数8以下が好ましい。)等が挙げられる。
【0022】
脂肪族環構造を構成する炭素原子には、フッ素原子以外の置換基が結合していてもよい。置換基としては、炭素原子数15以下のペルフルオロアルキル基、炭素原子間に1つ以上のエーテル性酸素原子を有する炭素原子数15以下のペルフルオロアルキル基、炭素原子数15以下のペルフルオロアルコキシ基、炭素原子間に1つ以上のエーテル性酸素原子を有する炭素原子数15以下のペルフルオロアルコキシ基等が好ましい。
【0023】
フルオロ環状ジエンが有する2つの重合性二重結合のうち、少なくとも1つの重合性二重結合における一方または両方の炭素原子は、前記脂肪族環構造を構成する炭素原子である。すなわち、フルオロ環状ジエンでは、前記脂肪族環構造を構成する隣接する炭素原子間において重合性二重結合が形成されているか、または前記脂肪族環構造を構成する1つの炭素原子と該炭素原子に結合する炭素原子との間に重合性二重結合が形成されている。フルオロ環状ジエンが脂肪族環構造を2つ有する場合は、2つの重合性二重結合はそれぞれの脂肪族環構造が有する。
【0024】
フルオロ環状ジエンの全炭素原子数は、その沸点や硬化物の熱安定性の観点から、8〜24であることが好ましく、10〜18であることがより好ましい。
また、フルオロ環状ジエンとしては、前記脂肪族環構造を2つ有し、その脂肪族環のそれぞれが重合性二重結合を有する化合物であることが好ましく、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有する化合物がより好ましい。また、下記式(b−1)に示す、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有し、それらの脂肪族環同士を、4位を連結位として単結合や2価の連結基で結合した化合物(以下、化合物(b−1)という。)、または下記式(b−2)に示すペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を2つ有し、それらの脂肪族環同士を、4位および5位を連結位として単結合や2価の連結基で結合した化合物であることがさらに好ましく、化合物(b−1)が特に好ましい。
また、その他のフルオロ環状ジエンとしては、下記式(b−3)に示す化合物が挙げられる。
【0025】
【化2】
式中、Q
F5は、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキレン基のいずれかである。また、Q
F6およびQ
F7は、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、またはエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素原子数1〜5のペルフルオロアルキレン基である。
【0026】
化合物(b−1)に由来する繰り返し単位において側鎖に残存した重合性二重結合は、ラジカル重合性が高い。そのため、含フッ素硬化性樹脂組成物の硬化反応の際に充分に反応することができ、硬化物中に重合性二重結合を有する側鎖が残存してしまうことが抑えられることから、硬化物の熱安定性が向上する。
化合物(b−1)の具体例としては、下記式に示す化合物が挙げられる。化合物(b−1)は、国際公開第2005/085303号に記載された方法により製造することが好ましい。
【0028】
好ましいフルオロポリマー(P)の例としては、以下が挙げられる。
テトラフルオロエチレンと、
CF
2=CFO−Rf
1(式中、Rf
1は炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を表す。なお、ペルフルオロアルキル基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロエーテル類の少なくとも1種と、
CF
2=CFO−Q
1−OCF=CF
2(式中、Q
1は炭素数が3〜8のペルフルオロアルキレン基を表す。なお、ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有していてもよい。)で表されるペルフルオロジエンの少なくとも1種と、の共重合体。
【0029】
フルオロポリマー(P)におけるフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位の割合は、フルオロモノエン(a)に由来する繰り返し単位とフルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位との合計量に対して、1〜95モル%であることが好ましく、1〜30モル%がより好ましく、5〜15モル%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると、フルオロポリマー(PA)の架橋が充分で硬化物の熱安定性が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、フルオロポリマー(PA)の重合性二重結合を有する側鎖が残存してしまうことが抑えられることから、硬化物の熱安定性が良好になる。
【0030】
(フルオロポリマー(P)の合成)
以上のように、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とを共重合させることにより、フルオロジエン(b)に由来する繰り返し単位の少なくとも一部に、重合性二重結合を有する不飽和側鎖が残存している共重合体であるフルオロポリマー(P)が得られる。このフルオロポリマーをアミド化することにより、本発明のフルオロポリマー(PA)が得られる。
例えば、フルオロジエン(b)として、CF
2=CF−O−(CF
2)
4−O−CF=CF
2を使用した場合、フルオロポリマー(P)は、下記式に示す繰り返し単位を少なくとも有する。
【0032】
フルオロポリマー(P)は、前記フルオロモノエン(a)と前記フルオロジエン(b)とを共重合させることにより得られる。フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とを共重合させる重合方法は特に限定されず、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合方法を採用することができ、溶媒で希釈した状態で重合でき、側鎖に残存する重合性二重結合による分子間の架橋反応を抑制できる点から、溶液重合が特に好ましい。
溶液重合は、重合溶媒中で、重合開始剤に、前記フルオロモノエン(a)と前記フルオロジエン(b)とを添加して共重合させる重合方法である。また連鎖移動剤を添加してもよい。
溶液重合における重合媒体としては、生成するフルオロポリマー(P)が溶解できる含フッ素溶媒であることが好ましい。含フッ素溶媒としては、例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)、CF
3CH
2CF
2H(HFC−245fa)、CF
3CF
2CH
2CF
2H(HFC−365mfc)、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、ペルフルオロ(トリブチルアミン)、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2H、CF
3CH
2OCF
2CF
2H、CF
3CH
2OCH
2CF
3、CF
3CF
2OCF
2CF
2OCF
2CF
3等が挙げられる。
【0033】
また、フルオロポリマー(P)の合成方法においては、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)の全使用量を一度に反応させずに、その全使用量のうちの一部を予め反応容器内に投入して重合反応を開始させ、重合反応の進行中に残りのフルオロモノエン(a)およびフルオロジエン(b)を逐次添加しながら重合させる工程を含む製造方法が特に好ましい。これにより、得られるフルオロポリマー(P)の分子量分布および組成分布を狭くすることができ、フルオロポリマー(P)中の分子量1,000未満の低分子量成分の含有量を10質量%未満にすることが容易になり、フルオロポリマー(P)の収率が向上する。また、フルオロポリマー(P)中には、重合性化合物である低分子量成分以外に、特にフルオロジエン(b)含量が少なく、実質的に重合性化合物とならない成分が含まれるが、このような化合物を低減することが容易になる。
【0034】
フルオロポリマー(P)の合成方法における、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)とのモル比は、40:60〜95:5であることが好ましい。また、フルオロモノエン(a)としてフルオロエチレン類を用いる場合、フルオロエチレン類とフルオロジエンのモル比は50:50〜95:5であることがより好ましく、70:30〜95:5であることが特に好ましい。フルオロエチレン類の仕込み割合が大きくなりすぎると、フルオロポリマー(P)の分子量が高くなりすぎ、ひいてはフルオロポリマー(PA)の流動性が低下する。また、硬化物の透明性が低下する傾向がある。
【0035】
<重合開始剤>
重合反応に用いる重合開始剤としては、10時間半減温度が20〜120℃の有機過酸化物の多くが使用可能であるが、重合開始剤中の水素原子の引き抜き反応による反応率の低下が起きることを防ぐ点から、含フッ素ジアシルペルオキシド等の含フッ素過酸化物を用いることが好ましい。
反応溶液中の重合開始剤の濃度は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
また、重合温度は、開始剤の10時間半減温度とモノマーの重合速度によっても異なるが、20〜120℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい。
【0036】
<連鎖移動剤>
重合反応においては、連鎖移動剤を用いることが好ましい。
連鎖移動剤としては、例えば、CCl
4、CH
3Cl、SO
2Cl
2、CHFCl
2等の塩素化合物、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、ジエチルエーテル等の炭化水素化合物が挙げられる。なかでも、連鎖移動効率が高く、高収率でフルオロポリマー(P)が得られる点から、SO
2Cl
2が好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、連鎖移動定数によっても異なるが、SO
2Cl
2を用いた場合、フルオロモノエン(a)とフルオロジエン(b)との混合物の合計量に対し、モル比で0.001〜0.1であることが好ましく、0.001〜0.05であることがより好ましい。前記モル比が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーの分子量が高くなりすぎない。また、前記モル比が上記範囲の上限値以下であれば、フルオロポリマー(P)の分子量が低下しすぎない。
【0037】
(フルオロポリマー(PA)の製造)
本発明におけるフルオロポリマー(PA)は、上記フルオロポリマー(P)の末端をアミド化して得られる。上述したようにフルオロモノエン(a)と不飽和側鎖残存性のフルオロジエン(b)とを共重合させた後、得られたフルオロポリマー(P)のアミド化を行う。アミド化によりフルオロポリマー(P)に存在する前記のような不安定末端基がアミド化される。前記アミド化は例えば下記するように、エステルを経由する方法(方法1)や、直接アミド化する方法(方法2)があるが、好ましいのは手順の容易さおよび反応速度の点から、直接アミド化する方法である。
アンモニアを用いた場合のアミド化の例
(方法1); 〜〜COF+ROH→〜〜COOR+HF〜〜COOR+NH
3→〜〜COONH
2+ROH
(方法2); 〜〜COF+2NH
3→〜〜CONH
2+NH
4F
【0038】
<アミド化剤>
フルオロポリマー(P)の主鎖末端をアミド化するためのアミド化剤としては、前記HNRR’で表されるアンモニア、各種アミン類が挙げられる。硬化物の基材に対する密着性を向上させるためには、主鎖末端の窒素に結合した活性水素原子が残っていることが好ましい。アミン類としては、第1級アミン類、第2級アミン類、もしくは第1級アミノ基または第2級アミノ基を有する化合物が好適に用いられる。第1級アミノ基または第2級アミノ基を有する化合物としては、第1級または第2級アミノ基を複数分子中に有する多官能アミン類が好ましい。アミン類としては、例えば、NH
2R’もしくはNHR’
2(この化学式におけるR’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。)で表されるアルキルアミン、エチレンジアミン、ポリエチレンジアミン、アミノシラン、メチレンジアミノシラン、テトラアミノシラン等を挙げることができる。アミド化剤として最も好ましいのは、アンモニアである。
特に好ましいアミド化方法は、重合後のフルオロポリマー(P)を含む溶液に、アンモニアを直接吹き込む方法である。(直接アミド化)。直接アミド化により、得られるフルオロポリマー(PA)の主鎖末端は−COONH
2になる。
【0039】
本発明のフルオロポリマー(PA)の主鎖末端のアミド化率は70〜100%であることが好ましく、80〜100%が特に好ましい。アミド化率とは、前記フルオロポリマー末端のC=Oの赤外吸収スペクトルに基づく−COF、−COOH、―COOCH
3などの吸光度の総和に対して、−COONH
2などのアミド基の吸光度から計算されるアミド化率である。アミド化率が上記範囲の下限値以上であると、硬化物の熱安定性および接着性が良好になる。また、フルオロポリマー(PA)のアミド基の含有量は、0.01〜0.3mmol/gであることが好ましく、0.03〜0.2mmol/gが特に好ましい。アミド基含有量が上記範囲の下限値以上であると、硬化物の熱安定性および接着性が良好になり、上記範囲の上限値以下であると、硬化物が着色しない点で好ましい。この場合、アミド基以外の主鎖末端基は重合開始剤または連鎖移動剤由来の−CF
3、−CF
2H、−CF
2Clなどの熱安定性の高い主鎖末端基である。
【0040】
(フルオロポリマー(PA)の精製)
得られたフルオロポリマー(PA)を硬化性ポリマーとしてまたは含フッ素硬化性樹脂組成物主成分として用いる場合には、分子量が1,000未満の低分子量成分を除去するのが好ましい。また、場合によってはアミド化前のフルオロポリマー(P)から低分子量成分を除去した後、アミド化してフルオロポリマー(PA)としてもよい。フルオロポリマー(P)の精製は下記フルオロポリマー(PA)の精製と同様に行うことができる。
フルオロポリマー(PA)中の重合性二重結合は、硬化反応に用いられた際に一般に体積収縮を伴うことが知られている。分子量が1,000未満の低分子量成分を除去すると、フルオロポリマー(PA)の単位体積あたりの重合性二重結合の割合が少ないので、得られる硬化物の体積収縮が抑えられかつ寸法安定性が向上すると考えられる。
【0041】
分子量が1,000未満の低分子量成分の除去方法としては、フルオロポリマー(PA)を減圧下に加熱し除去する方法、超臨界二酸化炭素によりフルオロポリマー(PA)から低分子量成分を抽出する方法、フルオロポリマー(PA)の溶液を貧溶媒中に投入し、分子量が1,000以上のフルオロポリマー(PA)を沈殿させ、沈殿しない低分子量成分を除去する方法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、低分子量成分を分割し除去する方法等が挙げられる。好ましい低分子量成分の除去方法は、減圧下に加熱し除去する方法である。
【0042】
減圧下に加熱することにより分子量が1,000未満のものを除去する条件として、圧力は1〜100hPaが好ましく、1〜20hPaがより好ましく、1〜10hPaが特に好ましい。温度は、100〜150℃が好ましく、120〜150℃が特に好ましい。圧力は低い(真空度が高い)ほど良いが、装置サイズが大きくなるにつれ、圧力を低くすることは一般的に容易ではない。温度が上記範囲の下限値以上であると、低分子量成分の除去に長い時間を要しない。また、温度が上記範囲の上限値以下であると、加熱中にゲル化反応が生じない。
【0043】
より好ましい実施態様としては、減圧下に加熱する方法を用いて、フルオロポリマー(PA)に含有される低分子量体の含有量を低下させた後に、更に超臨界状態にある抽出溶媒を用いて低分子量体を除去する方法である。
フルオロポリマー(PA)を超臨界状態にある抽出溶媒と接触させた後にフルオロポリマー(PA)と抽出溶媒を分離することで、フルオロポリマー(PA)に含まれている低分子量体の量を低減することができる。
【0044】
上記抽出における抽出溶媒は、上記低分子量体を溶解することにより、該低分子量体をフルオロポリマー(PA)から分離することができる媒体である。
抽出溶媒としては、用いる抽出溶媒の臨界温度以上、130℃未満の温度、且つ、該抽出溶媒の臨界圧力以上の圧力下に、上述の低分子量体を抽出することができるものであれば特に限定されない。例えば、二酸化炭素の他、フルオロホルム(CF
3H;R23)、パーフルオロエタン(C
2F
6;R116)等の炭素数1〜3のフルオロカーボン等が挙げられる。中でも、容易に超臨界状態にすることができ、抽出効率に優れる点で、二酸化炭素、フルオロホルムまたはパーフルオロエタンが好ましく、二酸化炭素がより好ましい。
抽出溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが、二酸化炭素、フルオロホルムおよびパーフルオロエタンは、それぞれ1種のみを用いても充分にフルオロポリマー(PA)を精製することができる。
【0045】
抽出における抽出溶媒の温度は、上記抽出溶媒の臨界温度以上、130℃未満の温度であり、且つ、上記抽出溶媒の臨界圧力以上の圧力下にある。即ち、上記抽出は、用いる抽出溶媒を130℃未満の超臨界流体にしてフルオロポリマー(PA)に接触させることにより行うことが好ましい。
上記温度は、上記範囲内であれば、使用する抽出溶媒に応じて適宜設定することができるが、好ましい下限が臨界温度より0.1℃高い温度であり、好ましい上限は100℃であり、より好ましい上限は80℃である。
上記圧力は、上記範囲内であれば、使用する抽出溶媒に応じて適宜設定することができるが、好ましい下限は、臨界圧力より10,000Pa高い圧力であり、好ましい上限は、臨界圧力より70MPa高い圧力である。
【0046】
上記記載の精製方法において、二酸化炭素、フルオロホルム等の上記抽出溶媒の密度を高くすることにより、低分子量体の抽出効率を向上させることができる。この機構として、抽出溶媒の密度が高い方が低分子量体の抽出溶媒に対する溶解度が上昇することが考えられる。
二酸化炭素、フルオロホルム等の抽出溶媒の密度は、抽出の場、即ち、抽出溶媒が上述の温度と圧力である条件下において、0.2g/cm
3以上、1.3g/cm
3以下であることが好ましい。
【0047】
また、助溶媒として、超臨界状態にある抽出溶媒と併用してハロゲン化炭化水素系溶媒または炭化水素系溶媒(以下、エントレーナーという。)を用いても良い。溶解性の点から含フッ素系溶媒が好ましい。用いるエントレーナーは、単独で使用しても良いし、混合して用いても良い。用いる含フッ素系溶媒の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF
3CF
2CHCl
2、CF
2ClCF
2CHClF、CF
3CF
2CHCl
2、CFC1
2CF
2Cl、CCl
4、CF
3CHFCHFCF
2CF
3、CF
3CH
2OCF
2CF
2H等。
炭化水素系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0048】
上記記載の精製方法は、超臨界状態にある抽出溶媒を用いて抽出を行うものであるので、低分子量体を効率的に低減することができ、得られるフルオロポリマー(PA)は、分子量分布が狭分散なものとして得ることができる。
上記記載の精製方法は、上記低分子量体を低減することができるものであるので、得られるフルオロポリマー(PA)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比であるMw/Mnで表される分子量分布がより小さく狭分散なものとすることができる。
【0049】
(フルオロポリマー(PA))
フルオロポリマー(PA)の質量平均分子量(Mw)は、3,000〜20,000であることが好ましい。流動性と接着性の観点からは、3,000〜10,000がより好ましく、5,000〜15,000であることが特に好ましい。フルオロポリマー(PA)の質量平均分子量は(Mw)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、PMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出できる。
フルオロポリマー(PA)の質量平均分子量(Mw)が上記範囲の下限値以上であれば、硬化反応中における低分子量成分の揮発を防止しやすい。また、上記範囲の上限値以下であれば、成形時に硬化反応が起こる最低温度以下での流動性が確保される。また、フルオロポリマー(PA)中の主鎖末端基の濃度が高くなり、主鎖末端のアミド化による熱安定性および接着性の向上効果が大きくなる。分子量が高すぎて流動性が悪い場合には、所望の形状に成形ができなかったり、流動が不均一になり成形物の特性に偏りが発生する。
また、フルオロポリマー(PA)の質量平均分子量(Mw)を上記範囲内において高く設定することにより、より高い熱安定性を有する硬化物が得られやすい。
【0050】
また、フルオロポリマー(PA)は、分子中の側鎖に残存する重合性二重結合の含有量が、0.1〜2mmol/gであることが好ましく、0.2〜0.5mmol/gであることがより好ましい。前記重合性二重結合の含有量は、F
19−NMRによる測定により算出できる。
前記重合性二重結合の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、硬化物において架橋が不足して硬度が低下することを防ぎやすい。また、上記範囲の上限値以下であれば、フルオロポリマー(PA)の架橋反応によるゲル化や高分子量化により、重合反応時における溶媒に対する溶解性や硬化反応時に溶剤を用いる場合の溶解性が低くなりすぎない。また、硬化物中に未反応の重合性二重結合が残り、熱安定性を低下させることを防ぎやすい。
【0051】
フルオロポリマー(PA)は、高分子量であるために室温では高粘度液状であるが、加熱されれば粘度が下がり、流動性を得ることができる。フルオロポリマー(PA)は、50〜100℃において粘度が1〜100Pa・sとなることが好ましい。
また、フルオロポリマー(PA)は、100℃以下においては実質的に熱硬化しない。該熱硬化温度としては、100〜200℃が好ましく、より好ましくは150〜200℃である。
【0052】
[含フッ素硬化性樹脂組成物]
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、重合性二重結合を有するフルオロポリマー(PA)を含む硬化性の組成物である。該組成物はフルオロポリマー(PA)以外に、必要に応じて、硬化のための硬化剤または光開始剤、フルオロポリマー(PA)以外の重合性化合物(Y)、等の添加物を含む。
【0053】
(添加物)
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、重合性化合物としてフルオロポリマー(PA)以外に、他の重合性化合物(Y)を含んでいてもよい。重合性化合物(Y)は、単体で分子量が1,000以上であるモノマーか、または、重合させて分子量を1,000以上としたものである。
重合性化合物(Y)は、重合性二重結合を有するフルオロポリマーまたはフルオロオリゴマーが好ましく、重合性二重結合を有するペルフルオロポリマーまたはペルフルオロオリゴマーがより好ましい。ペルフルオロポリマーまたはペルフルオロオリゴマーにおける重合性二重結合は不飽和側鎖残存性のペルフルオロジエンに由来する繰り返し単位における一方の重合性二重結合であることが好ましい。不飽和側鎖残存性のペルフルオロジエンとしては、例えば、CF
2=CFO−Rf
2−OCF=CF
2、またはCF
2=CFOCH
2−Rf
3−CH
2OCF=CF
2が挙げられる。
ただし、式中、Rf
2およびRf
3は、側鎖にペルフルオロアルキル基を有していてもよいペルフルオロアルキレン基、または、該ペルフルオロアルキレン基中の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
Rf
2およびRf
3の具体例としては、例えば、−CF
2−、−CF
2O−、−CF
2CF
2O−、−CF
2CF
2CF
2O−、−CF(CF
3)CF
2O−等の繰り返し単位を含有するペルフルオロポリエーテルが挙げられる。
上記ペルフルオロジエンとペルフルオロモノエンなどを重合して、重合性二重結合を有するフルオロポリマーまたはフルオロオリゴマーが得られる。
【0054】
本発明の含フッ素硬化性樹脂組成物は、重合性化合物(Y)以外に、必要に応じて硬化のための硬化剤または光開始剤、その他の添加物を含有していてもよい。なお、本発明のフルオロポリマー(PA)は、硬化のための硬化剤または光開始剤を併用しなくても、熱硬化や光硬化を行うことができる。
他の添加物としては、例えば、アミノシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤や多官能チオール化合物、亜燐酸エステルなどの熱安定剤が挙げられる。また、光学素子用としての蛍光体、色素、シリカまたはアルミナ微粒子等の光拡散剤等が挙げられる。また、光学材料以外の耐熱性、耐薬品性を必要とする用途における添加物としては、各種の無機フィラー、ガラス繊維、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子等が挙げられる。
他の添加物としてジルコニアナノ粒子、チタニアナノ粒子などを用いた場合、透明性を維持したまま添加量に応じて屈折率を0.05から0.15程度高めることが可能である。
【0055】
[硬化物]
本発明の硬化物は、前記フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得られる硬化物である。
本発明の硬化物は、耐光性(特に波長200〜500nmの短波長光に対する耐久性)および透明性が高く、かつ熱安定性および接着性に優れる。
【0056】
(硬化物の製造方法)
本発明の硬化物は、前記フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物を熱または紫外線(UV)により硬化させることにより得ることができる。
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物をUV硬化させることにより得られる硬化物は、長時間高温に曝しても熱分解し難い特徴を有する。したがって、本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物は、UV硬化させることが好ましい。
【0057】
<熱硬化>
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物を熱硬化させる場合、硬化温度は、100〜250℃が好ましく、125〜220℃がより好ましく、150〜200℃が特に好ましい。
硬化温度を上記範囲の下限値以上にすることにより、短時間で硬化物を得ることができ、生産性が高くなる。また、上記範囲の上限値以下にすることにより、寸法安定性に優れた硬化物を得ることが容易になる。
【0058】
熱硬化させる方法は、特に限定されず、フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性組成物を50〜100℃で加熱して流動させ、これを塗布した後に硬化させる方法、溶剤を使用して塗布した後に硬化させる方法等が挙げられ、前者が好ましい。
熱硬化における加熱は、段階的に温度が高くなるように多段階で行ってもよい。硬化反応を多段階で行う場合は、硬化温度は少なくともその最高温度が上記範囲内となるようにすればよい。
【0059】
熱硬化反応においては、含フッ素有機過酸化物等の硬化剤を用いてもよい。硬化物の熱安定性の点からは硬化剤を用いないのが好ましい。本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物は前記硬化剤を用いない場合であっても、加熱によって硬化させることができる。含フッ素有機過酸化物としては、例えば、(C
6F
5C(CO)O)
2、((CF
3)
3CO)
2、C
6F
5C(CO)OOC(CH
3)
3等が挙げられる。
【0060】
前記硬化剤を用いない場合の架橋反応の機構は明らかでないが、フルオロポリマー(PA)中に溶解している酸素がラジカル源となること、フルオロポリマー(PA)中の構造の一部が熱分解してラジカルを発生すること、フルオロポリマー(PA)中の側鎖−CF=CF
2基同士の熱カップリング反応等が要因であると考えられる。
【0061】
<UV硬化>
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物をUV硬化させる場合、UV(紫外線)の波長は、150〜400nmが好ましく、193〜365nmがより好ましく、248〜365nmが特に好ましい。
150〜300nmのUVを用いる場合、特に光開始剤を用いずに硬化させることが可能であり、300〜400nmのUVを用いる場合には、光開始剤の使用が望ましい。光源は特に限定されないが、例えば、250〜400nmにおいてはメタルハライドランプまたは無電極ランプ、254nm、313nm、および365nmには高圧水銀ランプまたは低圧水銀ランプが用いられる。また、248nmにはKrFエキシマーレーザー、193nmにはArFエキシマーレーザー、157nmにはF
2レーザーが用いられる。
【0062】
照射強度、照射時間は、光開始剤の有無、UVの波長により異なる。照射強度が0.1〜500mW/cm
2、照射時間が1分〜10時間で行うのが好ましい。
【0063】
なお、150〜300nmの短波長紫外線を用いた場合に、光開始剤を用いなくても硬化する機構については明らかではない。しかし、
19F−NMRによる構造解析によれば、硬化物中に、フルオロポリマー(PA)中の側鎖の−CF=CF
2基同士の熱カップリングで生じるシクロブタン環が存在しないことが確認できた。このことから、フルオロポリマー(PA)中の−CF=CF
2基の重合が進行していることが示唆される。開始源としては、フルオロポリマー(PA)の主鎖末端に存在するカルボニル基を有する末端基が紫外線により脱CO
2を起こすか、または、微量に存在するO
2が−CF=CF
2基と反応して生成した−COF基が紫外線により脱COF基を起こしてラジカルを発生する(J.Fluorine Chemistry,(1987)Vol.36、449)こと等が考えられる。
【0064】
光開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、ベンゾフェノン、ベンジルなどのケトン系、アシルフォスフォンオキサイド系、O-アシルオキシム系、チタノセン系、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどのハロメチルトリアジン系の各種の化合物が挙げられる。フルオロポリマー(PA)との相溶性から、水素の一部がフッ素またはフルオロアルキル基に置換された含フッ素系光開始剤が好ましい。
光開始剤を使用する場合の使用量は、フルオロポリマー(PA)の100質量部(重合性化合物(Y)が併用される場合はそれとの合計100質量部)に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜1質量部が特に好ましい。光開始剤の使用量が上記範囲にあれば、硬化速度を低下させずに着色の少ない透明な硬化物が得られる。
また、UV硬化の際に多官能チオール化合物またはメルカプトアルコキシシランをフルオロポリマー(PA)等の100質量部に対して0.01〜1質量部添加すると、硬化物の熱安定性が向上するという効果もある。この場合、接着性の低下には影響せず、配線材料として金を使用した場合など基材の種類によっては接着性が増すという相乗効果もある。
【0065】
[光電変換素子および光学材料]
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、接着性、耐薬品性が高く、かつ耐熱性、耐候性に優れることから、太陽電池などの光電変換素子の封止材料として有用である。特に、色素増感太陽電池用封止材として用いる場合、太陽電池素子内に含有されるニトリル系などの電解液の漏れを長時間に渡り防ぐ必要があり、接着性および耐薬品性等が要求される為、接着性および耐薬品性に優れる本発明の硬化物は有用である。
また、本発明の硬化物は、耐光性(特に波長200〜500nmの短波長光に対する耐久性)および透明性が高く、かつ熱安定性に優れることから、光学材料としても有用である。
光学材料としては、光ファイバーのコア材料またはクラッド材料、光導波路のコア材料またはクラッド材料、ペリクル材料、ディスプレイ(たとえば、PDP(Plasma Display Panel)、LCD(Liquid CrystalDisplay)、FED(Field Emission Display)、有機EL等)用表面保護材料、レンズ(たとえば、発光素子用集光レンズ、人工水晶体レンズ、コンタクトレンズ、低屈折率レンズ等)用表面保護材料、レンズ(たとえば、発光素子用集光レンズ、人工水晶体レンズ、コンタクトレンズ、低屈折率レンズ等)用材料、素子(たとえば、発光素子、太陽電池素子、半導体素子等)用封止材料等の用途が挙げられる。
【0066】
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性組成物は太陽電池セルの周辺部や素子表面に塗膜などの被膜を形成した後、UV照射または加熱により容易に硬化し封止材として機能する。硬化性の被膜の形成方法としては、フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性組成物が液状である場合はそのものを、液状または固体状である場合は溶媒を使用して溶液や分散液とし、ディスペンサー、スクリーン印刷、ダイコート法などで被膜を形成することができる。溶媒を使用する場合は、溶媒を含む膜を形成した後溶媒を除去する。また、あらかじめポリエチレンテレフタレート(PET)などのフィルム基材にフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物の被膜を形成させてから素子モジュールに転写させた後、硬化させる方法も可能である。
【0067】
本発明の硬化物を光学材料として用いる場合には、前記フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物を任意形状の型中で硬化させて、任意形状(たとえば、板型、管状、棒状等)を有する硬化物からなる成形品とするか、または前記フルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物の被膜を任意基材(たとえば、前記のディスプレイ、レンズ、素子等)上に形成して硬化させて、形成された硬化物の膜を光学用途に用いることが好ましい。特に光学用途に使用する膜としては、硬化物の膜が基材に接着するとともに光が該膜を透過する用途が好ましい。さらに、発光素子などにおいて、発光チップを基材中に封止するとともに発光チップから放射される光が封止材を透過して素子から放出されるようにする、いわゆる透光封止材として本発明の硬化物が用いられることが好ましい。
【0068】
前記成形品として用いる光学材料としては、光ファイバーのコア材料やクラッド材料、光導波路のコア材料やクラッド材料、レンズ用材料が好ましい。
前記硬化物の膜として用いる光学材料としては、半導体素子、太陽電池素子、発光素子(たとえば、LED、レーザーダイオード(LD)、エレクトロルミネッセンス素子等)等を透光封止する素子用の封止材料が好ましく、本発明における硬化物が前記性質を有する観点から、短波長光発光素子を透光封止する封止材料としての用途に使用されることが特に好ましい。短波長光発光素子としては、白色LEDおよびUV−LEDが挙げられる。
【0069】
本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性組成物は、UV照射により室温でも硬化し、温度をかけずに硬化物を得ることができるため、色素増感太陽電池などの耐熱性が高くない素子においても充分に封止することが可能である。
【0070】
また、分子量1,000未満のフルオロポリマーを上記のように除いたフルオロポリマー(PA)の場合、本発明のフルオロポリマー(PA)や含フッ素硬化性樹脂組成物は、硬化反応中における体積収縮による、硬化物の寸法安定性の低下が抑えられる。これは、全重合性化合物、すなわちフルオロポリマー(PA)の量(重合性化合物(Y)を含む場合はそれとの合計量)に占める分子量1,000未満の重合性化合物の割合が小さいため、低分子量成分の揮発が抑えられるためであると考えられる。そのため、ガラス板の貼りあわせによって太陽電池セルが製造される場合に封止材の硬化に伴う体積収縮による影響を少なくして、温度変化や電解液の浸透による剥離の発生の低減に効果がある。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例では、フルオロポリマー(PA)における二重結合の含有量は、
19F−NMRにより測定した。また、質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、CF
2ClCF
2CHClF(旭硝子社製、商品名:AK225cb。)を溶媒として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりPMMA(ポリメチルメタクリレート)換算分子量として算出した。
実施例におけるガラス板として、300〜400nmの紫外線の透過性が高い透明ガラス板(鉄分の含有量が少ないソーダライムガラスからなる)を使用した。
【0072】
また、使用したモノマー等の略号は以下の通りである。
PPVE:ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)
[CF
2=CFO−CF
2CF
2CF
3]
TFE:テトラフルオロエチレン [CF
2=CF
2]
C4DVE:ペルフルオロ(1,4−ジビニルオキシブタン)
[CF
2=CFO(CF
2)
4OCF=CF
2]
【0073】
[合成例1:フルオロポリマー(P1)の製造]
内容積が1Lの撹拌機付きステンレス製オートクレーブを脱気した後、該オートクレーブに、フルオロモノエン(a)であるPPVE(290g)とTFE(20g)、フルオロジエン(b)であるC4DVE(28g)、AK225cb(600g)および重合開始剤である(C
3F
7COO)
2(10g)を圧入し、撹拌しながらオートクレーブ内を50℃に昇温した。その後、TFE(全仕込み量75g)およびC4DVE(全仕込み量35g)を、圧力を0.2MPaに保ちながら逐次添加して2時間重合反応を行った。
室温まで冷却し、未反応のTFEをパージした後、攪拌しながらアンモニアガスを全量(0.85g)となるまでゆっくり吹き込んだ。
内容物を内容積が2Lのガラスビーカーに取り出したところ、NH
4F塩により白濁していた。
撹拌しながらヘキサンの500gを投入して共重合体を析出させた。上澄みを除去してAK225cbに再溶解した後、細孔径1μmのPTFE製メンブランフィルター上に珪藻土を敷き詰めてろ過し、ほぼ透明な重合体溶液を得た。該溶液を水洗し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した後、120℃で2時間真空乾燥することにより、無色透明な高粘度液状のフルオロポリマー(P1)(60g)が得られた。
フルオロポリマー(P1)の平均分子量をGPCにより測定したところ、質量平均分子量(Mw)が11,000、数平均分子量(Mn)が6,000であった。
また、
19F−NMRによりフルオロポリマー(P1)の組成および二重結合含有量を測定したところ、TFEに基づく繰り返し単位とC4DVEに基づく繰り返し単位とPPVEに基づく繰り返し単位とのモル比は67/6/27であり、二重結合含有量は0.23mmol/gであった。
さらにフルオロポリマー(P1)の粘度を回転粘度計により測定したところ、80℃で45Pa・sであった。
【0074】
[実施例1]
ガラス板上にシリコーンゴムシートを切り抜いて作製した枠を載せて密着させ、合成例1で得たフルオロポリマー(P1)を100℃に加熱流動させて枠の内面に流し込んだ後、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製、主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることにより、ガラス板上に幅1cm、長さ3cm、厚さ1mmの無色透明な短冊状硬化物を得た。該短冊状硬化物を用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
<接着性試験>
ガラス板上に接着させた短冊状硬化物の端を、ガラス板から15mm/minの速度で剥離し、90度剥離試験機(装置名、日新科学社製)でガラス板からの90度剥離強度を測定した。
<200℃加熱試験>
ガラス板上に接着させた短冊状硬化物を、200℃オーブン中で1,000時間保持し、重量減少率(%)を確認した。重量減少率(%)が小さいほど、熱安定性が良好であるといえる。
<耐溶剤性試験>
ガラス板上に接着させた短冊状硬化物を、23℃のアセトニトリル中に浸漬し、1時間放置した。短冊状硬化物がガラス板より剥離したか否かを確認した。溶剤が短冊状硬化物に浸漬した場合には、短冊状硬化物がガラス板より剥離する。
【0075】
[実施例2]
ガラス板上にシリコーンゴムシートを切り抜いて作製した枠を載せて密着させ、合成例1で得られたフルオロポリマー(P1)の100質量部にチオール化合物であるTEMPIC(商品名、SC有機化学社製)の0.1質量部を100℃にて加熱混合し、上記の枠の内側に流し込んだ後、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製:主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることにより、ガラス板上に幅1cm、長さ3cm、厚さ1mmの無色透明な短冊状硬化物を得た。該短冊状硬化物を用いて、接着性試験、200℃加熱試験および耐溶剤性試験を行った。結果は表1に示す。
【0076】
[比較例1]
合成例1においてアンモニアの代わりに純水を添加する以外は同様な操作を行い、主鎖末端基がCOOHのフルオロポリマー(P2)を得た。フルオロポリマー(P2)は100℃においても全く流動せず、脱泡できないため硬化物を得ることは困難であった。
【0077】
[比較例2]
合成例1においてアンモニアを用いずにヘキサンの代わりにメタノールを投入してフルオロポリマーを析出させる以外は同様な操作を行い、主鎖末端基がCOOCH
3のフルオロポリマー(P3)を得た。フルオロポリマー(P3)は組成、二重結合含量および分子量はフルオロポリマー(P1)とほぼ同じであった。
実施例1と同様にUV硬化により無色透明な短冊状硬化物を得、接着性試験、200℃加熱試験および耐溶剤性試験を行った。結果は表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1および実施例2で得られた硬化物は、フルオロポリマーとして主鎖末端をアミド化したフルオロポリマー(P1)を用いたので、良好な接着性、熱安定性および耐溶剤性を示した。一方、比較例1で得られた硬化物は、フルオロポリマーとして主鎖末端基が−COOHのフルオロポリマー(P2)を用いたので、硬化物自体を得ることができなかった。さらに比較例2で得られた硬化物は、フルオロポリマーとして主鎖末端基が−COOCH
3のフルオロポリマー(P3)を用いたので、接着性、熱安定性および耐溶剤性が不充分であった。
【0080】
[実施例3]
合成例1で得たフルオロポリマー(P1)を用いて、LED素子を封止した。
具体的には、エポキシ絶縁層付きのアルミ基板に銀配線を行った回路基板にGaN系LED(発光波長460nm)をワイヤーボンディング接続したLED素子に加熱流動させたフルオロポリマー(P1)を塗布し、100℃で3分間減圧して泡(空気)を除去した。室温に冷却後、低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製:主波長254nm)を用いて1時間照射し、150℃で30分加熱することにより硬化反応を行い、LED素子を封止した。
得られたLED素子を−40℃で15分間、125℃で15分間を1サイクルとする温度サイクル試験を行った。温度サイクル100回ごとにLEDの電圧〜電流特性を測定したところ、主鎖末端がアミド化されたフルオロポリマー(P1)を用いたので、500回後でも初期の特性を維持していた。
【0081】
[実施例4]
合成例1で得られたフルオロポリマー(P1)とチオール化合物であるTEMPIC(商品名、SC有機化学社製)との混合物を用いて、LED素子を封止した。具体的には、GaN系LED(発光波長460nm)をワイヤーボンディング接続したカップ型のLED素子(ハウジング:アルミナ製、電極:金)の凹部に上記混合物を100℃に加熱して注入し、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製:主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることによりLED素子を封止した。
得られたLED素子は、−40℃で15分間、125℃で15分間を1サイクルとする温度サイクル試験を行った。温度サイクル100回ごとにLEDの電圧〜電流特性を測定したところ、主鎖末端がアミド化されたフルオロポリマー(P1)およびチオール化合物を用いたので、1,000回後でも初期の特性を維持していた。
【0082】
[比較例3]
実施例3において、用いたフルオロポリマーを合成例3で得られたフルオロポリマー(P3)に変更した以外は、実施例3と同様にLED素子を作製し、温度サイクル試験を行った。その結果、主鎖末端がメチルエステル基のフルオロポリマー(P3)を用いたので、温度サイクル100回後には電流が流れなくなり、封止樹脂の剥離によりボンディングワイヤーがLED素子から外れていることがわかった。
【0083】
[実施例5]
ガラス板上にシリコーンゴムシートを切り抜いて作製した枠を載せて密着させ、合成例1で得たフルオロポリマー(P1)を100℃にて加熱して上記の枠の内側に流し込んだ後、減圧脱泡して冷却した。これに低圧水銀ランプUVB−40(装置名、セン特殊光源社製、主波長254nm)を用いてUV照射して硬化させることにより、ガラス板上に4cm角、厚さ1mmの無色透明な短冊状硬化物を得た。該短冊状硬化物を用いて以下の評価を行った。結果を表2に示す。
<膨潤度>
短冊状硬化物を50℃で1日加熱乾燥した後、重量を測定した(乾燥重量)。該短冊状硬化物を、沸点の異なるニトリル系溶剤に浸漬して、室温(22〜24℃)または60℃で1日保持した後、重量を測定した(膨潤重量)。短冊状硬化物の重量変化から、溶媒に対する膨潤度を次式より算出した。
膨潤度(%)=(膨潤重量−乾燥重量)/乾燥重量
【0084】
[比較例4]
2液型エポキシ接着剤であるアラルダイト(パンティコ社製)およびボンド・クイック5(コニシ社製)を、それぞれ、ポリテトラフルオロエチレン製型枠に流し込み、4cm角、厚さ1mmの短冊状硬化物を得た。該短冊状硬化物を実施例5と同様にしてアセトニトリル中に浸漬し、膨潤度を測定した。結果は表2に示す。
【0085】
実施例5および比較例4から、本発明の硬化物はニトリル系溶媒に対する膨潤度が低く、色素増感太陽電池などの電池用封止剤として用いた場合に、電解質溶媒に対する耐溶剤性に優れていることを確認した。
【0086】
【表2】