(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の燃料として用いられる石炭には、炭素等の主要な元素以外にホウ素が微量含まれており、石炭が燃焼する際にホウ素がガス化して石炭から放出されると考えられている。
【0003】
ホウ素は、メッキなどの表面処理、ガラス、殺菌剤、樹脂、化学薬品、肥料などの製造に幅広く使用される元素であるが、一定の濃度を超えると農作物の育成を阻害したり、人体へ悪影響を及ぼすことなどが報告されており、ホウ素の外部環境への流出を抑制する必要がある。実際に、ホウ素化合物は、土壌汚染防止法や、水質汚濁防止法において規制の対象とされている。
【0004】
わが国の石炭燃焼プロセスには、例えば、電気集塵装置、湿式脱硫装置等を備える排煙処理設備が導入されている。石炭から放出されたホウ素のうち、粒子状のホウ素化合物は電気集塵装置で捕集され、ガス状のホウ素化合物は湿式脱硫装置で捕集されていることがわかった。
【0005】
しかしながら、湿式脱硫装置で捕集されたガス状のホウ素化合物のホウ素は、排水へ移行してしまい、排水が汚染されてしまう虞があった。また、電気集塵装置で捕集されたホウ素を含む石炭燃焼灰は、主にセメント混和剤や埋戻し材として利用されると、雨などにより石炭燃焼灰に含まれるホウ素が溶出してしまう虞があった。
【0006】
このような問題に対して、ホウ素含有燃焼灰に、デンプンあるいはその化工品と水とを加えて混合処理してホウ素溶出量を低減させるホウ素含有燃焼灰の処理方法(例えば特許文献1参照)や、ばいじんにホウ素の溶出防止剤としてカルシウム化合物を添加して混合するばいじんの処理方法(例えば特許文献2参照)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、ホウ素を含有する石炭燃焼灰からのホウ素の溶出を低減させるものであり、石炭が燃焼した際に気化したガス状のホウ素化合物を除去するものではなかった。このため、湿式脱硫装置や煙突から排出されるホウ素を低減させることができないという問題があった。また、上述したホウ素含有燃焼灰の処理方法では、デンプンを用いなければならず、大量のホウ素含有燃焼灰を処理するためには価格面での問題があった。
【0009】
なお、石炭の燃焼の際だけではなく、他の被燃焼物を燃焼する際、例えば、ゴミを焼却する際等にも、排ガス中にホウ素化合物が含まれており、同様の問題が存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、ガス中のホウ素の量を低減させるガスの処理方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ホウ素化合物を含む燃焼ガスを、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス処理剤に接触させることを特徴とするガスの処理方法にある。
【0012】
かかる第1の態様では、被燃焼物を燃焼させることにより生成したガス中のホウ素の量を低減させることができる。
【0013】
本発明の第2の態様は、前記ガス処理剤は、ガス状ホウ素化合物を除去するものであることを特徴とする第1の態様に記載のガスの処理方法にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、温度90℃以上で前記ガスを前記ガス処理剤と接触させることを特徴とする第1又は2の態様に記載のガスの処理方法にある。
【0015】
かかる第3の態様では、ガス中のホウ素の量をより確実に低減させることができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、被燃焼物に前記ガス処理剤を添加して、該被燃焼物を燃焼させることにより、前記ガスを前記ガス処理剤と接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つの態様に記載のガスの処理方法にある。
【0017】
かかる第4の態様では、ガス中のホウ素の量を確実に低減させることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、被燃焼物に、燃焼後に前記マグネシウム又は前記マグネシウム化合物になり得る化合物を含むガス処理前駆体を添加し、前記被燃焼物の燃焼時の熱により前記ガス処理剤を形成して、前記ガスを前記ガス処理剤と接触させることを特徴とする第1〜3のいずれか一つの態様に記載のガスの処理方法にある。
【0019】
かかる第5の態様では、ガス中のホウ素の量を確実に低減させることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、前記ガスの排出路に前記ガス処理剤を設けて、前記ガスと前記ガス処理剤とを接触させることを特徴とする第1〜3のいずれか一つの態様に記載のガスの処理方法にある。
【0021】
かかる第6の態様では、ガス中のホウ素の量を確実に低減させることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、前記マグネシウム化合物は、酸化マグネシウムであることを特徴とする第1〜6のいずれか一つの態様に記載のガスの処理方法にある。
【0023】
かかる第7の態様では、ガス中のホウ素の量を確実に低減させることができると共に、ホウ素の水への溶出を確実に抑制することができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、前記被燃焼物が石炭であることを特徴とする第1〜7のいずれか一つの態様に記載のガスの処理方法にある。
【0025】
本発明の第9の態様は、被燃焼物を燃焼させる燃焼装置と、前記燃焼装置で生成したホウ素化合物を含むガスを溶液で洗浄する湿式処理装置と、前記湿式処理装置よりも上流側に設けられ、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス処理剤と、を具備することを特徴とするガス処理設備にある。
【0026】
かかる第9の態様では、ガス中のホウ素の量を低減させることができる。このため、湿式処理装置から排出される排水中のホウ素の濃度を低下させることができる。さらに、ガス処理剤に含有されるマグネシウム又はマグネシウム化合物に吸着・吸収・結合等により固着されたホウ素は水へ溶出し難いため、ホウ素が水へ溶出するのを抑制することができる。これにより、環境へのホウ素の流出を低減させたガス処理設備を実現することができる。
【0027】
本発明の第10の態様は、石炭を粉砕して微粉炭を生成する粉砕機と、前記微粉炭を燃焼する燃焼炉と、前記燃焼炉で生成されたガス中の固体状の不純物を除去する脱塵装置と、前記脱塵装置に連通し、前記燃焼炉で生成されたガスを溶液で洗浄する湿式処理装置と、前記湿式処理装置よりも上流側に設けられ、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス処理剤と、を具備することを特徴とする微粉炭火力発電設備にある。
【0028】
かかる第10の態様では、ガス中のホウ素の量を低減させることができる。このため、湿式処理装置から排出される排水中のホウ素の濃度を低下させることができる。さらに、ガス処理剤に含有されるマグネシウム又はマグネシウム化合物に吸着・吸収・結合等により固着されたホウ素は水へ溶出し難いため、ホウ素が水へ溶出するのを抑制することができる。これにより、環境へのホウ素の流出を低減させた微粉炭火力発電設備を実現することができる。
【0029】
本発明の第11の態様は、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有することを特徴とするガス状ホウ素化合物除去剤にある。
【0030】
かかる第11の態様では、ガス中のホウ素の量を低減させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、被燃焼物を燃焼させることにより生成したガス中のホウ素をガス処理剤により除去することにより、ガス中のホウ素の量を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係るガスの処理方法は、ホウ素化合物を含む燃焼ガスをマグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス処理剤に接触させるというものである。詳しくは後述する試験例で示すが、マグネシウム又はマグネシウム化合物は、他の物質(例えば、酸化カルシウム等)と比較して、ガス中のホウ素を吸着・吸収・結合等により固着する能力に優れているため、ガス中のホウ素、具体的には、ガス状のホウ素化合物を除去して、ガス中のホウ素の量を低減させることができる。さらに、ガス処理剤に含有されるマグネシウム又はマグネシウム化合物に固着されたホウ素は、他の物質(例えば、酸化カルシウム等)と比較して、水へ溶出し難い。したがって、本発明によれば、ホウ素の環境への流出を低減することができる。
【0034】
ここで、燃焼ガスとは、被燃焼物を燃焼させた際に生成するガスのことを指す。被燃焼物としては、石炭、廃棄物等が挙げられる。
【0035】
また、燃焼ガス中のガス状ホウ素化合物としては、ホウ酸ガスが挙げられる。
【0036】
ガス処理剤は、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するものである。このガス処理剤は、好適には、ガス状ホウ素化合物を除去するものであり、言い換えれば、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス状ホウ素化合物除去剤である。ここで、ガス処理剤における「有効成分」とは燃焼ガス中のホウ素化合物を除去する成分に相当するものである。
【0037】
上述したように、ガス処理剤は、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するものである。ガス処理剤は、マグネシウム又はマグネシウム化合物を主成分とするのが好ましい。例えば、マグネシウム又はマグネシウム化合物の割合が50mol%以上であるのが好ましく、80mol%以上含んでいるのがさらに好ましく、マグネシウム又はマグネシウム化合物からなるのが特に好ましい。ガス処理剤は、マグネシウム又はマグネシウム化合物の割合が多くなることにより、ガス状ホウ素の固着量が増加するためである。また、マグネシウム又はマグネシウム化合物の割合が多くなることにより、ガス処理剤から水へのホウ素への溶出がより抑制されるためである。
【0038】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、好適には酸化マグネシウムである。
【0039】
また、ガス処理剤が他の成分を含む場合は、他の成分としては、例えば、活性炭、酸化カルシウム等のカルシウム化合物、ナトリウム、カリウムが挙げられる。燃焼ガスを温度200℃以下でガス処理剤と接触させる場合は、ガス状ホウ素の固着量の面から、ガス処理剤の他の成分としては、活性炭が好ましい。
【0040】
また、かかるガス処理剤は、担体に担持されていてもよい。ガス処理剤を担持する担体の形状としては、例えば、ハニカム構造、ペレット状が挙げられ、担体の種類としては、例えば、セラミック、シリカ、アルミナが挙げられ、使用態様に応じてこれらを適宜選択すればよい。
【0041】
また、燃焼ガスとガス処理剤とを接触させる温度は特に限定されないが、例えば、温度90〜400℃で燃焼ガスとガス処理剤と接触させることができる。また、燃焼ガスとガス処理剤とを温度200℃以上で接触させると、ガス処理剤に含有されるマグネシウム又はマグネシウム化合物がガス状ホウ素と反応する、すなわち、ガス状ホウ素を吸収するためか、ガス処理剤によるガス状のホウ素の除去量が多くなり、より効果的にガス中のホウ素の量を低減させることができる。
【0042】
ホウ素を含む燃焼ガスを、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分として含有するガス処理剤に接触させる方法は特に限定されないが、例えば、被燃焼物にガス処理剤を添加して、ガスの排出路にガス処理剤を設けて、燃焼ガスとガス処理剤とを接触させる方法が挙げられる。
【0043】
また、被燃焼物を燃焼させることにより、燃焼ガスをガス処理剤と接触させる方法や、被燃焼物に、燃焼後にマグネシウム又はマグネシウム化合物になり得る化合物を含むガス処理前駆体を添加して、被燃焼物の燃焼時の熱によりガス処理剤を形成し、ガスをガス処理剤と接触させる方法が挙げられる。ここでいう「燃焼後にマグネシウム又はマグネシウム化合物になり得る化合物」としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。水酸化マグネシウムを含むガス処理前駆体は、被燃焼物に添加し、これを被燃焼物と共に加熱することにより、酸化マグネシウムを有効成分として含有するガス処理剤となる。
【0044】
上述したガス処理剤前駆体又はガス処理剤は、燃焼炉に供給する前に予め被燃焼物に添加して、被燃焼物と共に燃焼炉に供給するようにしてもよく、燃焼炉に供給された被燃焼物に添加してもよい。例えば、被燃焼物が石炭の場合は、燃焼炉に供給する前に、石炭を粉砕する粉砕機において、ガス処理剤前駆体又はガス処理剤を添加することができる。この場合は、石炭と共にガス処理剤前駆体又はガス処理剤が所定の大きさに粉砕されて、石炭と、ガス処理剤前駆体又はガス処理剤とが略均一に混合される。これにより、生成したガス中のガス状ホウ素を効率よく吸収することができる。この場合は、固形状のガス処理剤前駆体又はガス処理剤を用いるのが好ましい。また、燃焼炉に供給された被燃焼物にガス処理剤を添加する場合は、被燃焼物に、ガス処理剤を溶解させた液体、ガス処理剤を含むスラリー等のガス処理剤を含む液体を噴射・噴霧することにより、ガス処理剤を添加してもよく、固形状のガス処理剤を添加してもよい。
【0045】
ここで、被燃焼物に対するガス処理剤の量は特に限定されないが、被燃焼物に対してより多くのガス処理剤を用いるのが好ましい。より多くのガス中のガス状ホウ素化合物を固着することができ、ガス中のホウ素の量をより低減させることができるので好ましい。
【0046】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0047】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る微粉炭火力発電設備の概略構成を示す図である。
【0048】
図1に示すように、微粉炭火力発電設備100は、石炭を粉砕して微粉炭を生成する粉砕機10を具備している。粉砕機10は、貯炭場(図示なし)から供給される所定量の石炭を粉砕して所定の大きさの微粉炭を製造する。ここで、微粉炭とは、積算質量50%における短径と長径の平均値(Dp50)が0.5mm以下の粒子からなる石炭をいう。このような微粉炭は、空気搬送を可能にすると共に燃焼性を向上させることができる。
【0049】
また、粉砕機10には、ボイラ20へと連通する微粉炭供給路15が設けられている。かかる微粉炭供給路15は、微粉炭を搬送する際に、後述する空気予熱器42から燃焼用空気が供給されるようになっている。粉砕機10で製造された微粉炭が、空気予熱器42から燃焼用空気により、この微粉炭供給路15を通って微粉炭バーナからボイラ20に噴出するように構成されている。
【0050】
ボイラ20は、微粉炭を、例えば、最大加熱温度1500℃に加熱して燃焼させることができる。ボイラ20において微粉炭の可燃分の99%以上を燃焼させることにより、その熱を利用して水を沸騰させて水蒸気を発生させる。発生した水蒸気は蒸気タービン50へと送られて、蒸気タービン50を回転駆動させる。このときの蒸気タービン50の回転駆動力により発電機60が駆動されて発電する。一方、ボイラ20に残った微粉炭の未燃分と不燃の灰分は、ガスと共に排出され、ガス処理剤及びガス処理設備40により除去される。
【0051】
具体的には、まず、ボイラ20で微粉炭の燃焼により生成したガスは、マグネシウム又はマグネシウム化合物を有効成分とするガス処理剤が設けられている第1排出路20Aを介して、脱硝装置41に導入される。本実施形態では、ガス処理剤は、酸化マグネシウムからなるものとした。脱硝装置41では、ガス中の窒素酸化物(NO
x)が除去される。具体的には、脱硝装置41に設けられた触媒により、ガス中の窒素酸化物(NO
x)がアンモニアと反応して分解される。
【0052】
そして、脱硝装置41に導入されたガスは、第2排出路41Aを介して空気予熱器42に導入される。この空気予熱器42では、ガスの熱が回収される。
【0053】
空気予熱器42に導入されたガスは、第3排出路42Aを介して脱塵装置43へ導入される。脱塵装置43に導入されたガスは、石炭灰等の固体状の不純物が除去される。脱塵装置43は、ガスに含まれる固体状の不純物をサイクロンやフィルター等で除去する装置であり、具体的には、電気集塵機、固定床フィルター、移動床フィルター等が挙げられる。
【0054】
そして、脱塵装置43に導入されたガスは、第4排出路43Aを介して脱硫装置44に導入されて脱硫される。本実施形態では、脱硫装置44は、硫黄酸化物(SO
x)を石灰石に吸収させて石膏として固定化する湿式脱硫装置とした。
【0055】
ここで、本実施形態に係るガス処理剤及びガス処理設備40を備える微粉炭火力発電設備のガスの処理方法について説明する。
【0056】
ボイラ20では、微粉炭を燃焼することにより、ガスが生成する。かかるガスは、ボイラ20から排出されて、温度90℃以上で、第1排出路20Aに設けられたガス処理剤と接触する。本実施形態では、ガスの温度は、ボイラ20の出口で約1000℃であり、第1排出路20Aに設けられたガス処理剤と接触する際には約350℃である。すなわち、温度約350℃でガスをガス処理剤と接触させた。このとき、ガス中のガス状ホウ素は、第1排出路20Aに設けられるガス処理剤に吸着・吸収・結合等により固着されて、ガス中から除去される。このように、ガス中の少なくとも一部のガス状ホウ素が除去されて、ガス中のホウ素の量(ガス状ホウ素の濃度)が低減する。
【0057】
そして、ガス処理剤と接触したガスは、脱硝装置41に導入される。ガス状ホウ素の濃度が低減されたガスは、脱硝装置41に設けられた触媒により、窒素酸化物(NO
x)が除去される。
【0058】
次に、窒素酸化物が除去されたガスは、脱硝装置41から第2排出路41Aを介して空気予熱器42へ導入されて熱回収された後、第3排出路42Aを介して脱塵装置43へと導入される。ガスは、脱塵装置43により、石炭灰、粒子状のホウ素、その他の固体状の不純物(微粉炭の未燃分と不燃の灰分等)が集塵される。
【0059】
次に、脱塵装置43により集塵されたガスは、第4排出路43Aを介して湿式脱硫装置44に導入されることにより、硫黄酸化物(SO
x)が除去される。本実施形態では、湿式脱硫装置44を用いることにより、硫黄酸化物と共に水溶性不純物等も除去される。したがって、この段階で、ガス中にわずかにガス状ホウ素が残留していた場合は除去される。
【0060】
このように、ボイラ20から排出されたガスは、ガス処理剤、及びガス処理設備40(本実施形態では、脱硝装置41、脱塵装置43、及び脱硫装置44)により不純物が除去されて、煙突から排出される。
【0061】
上述したように、本実施形態では、ボイラ20から排出されるガスは、第1排出路20Aに設けられるガス処理剤と温度約350℃で接触することにより、ガス状ホウ素の量が低減される。具体的には、ガス処理剤がガス状ホウ素を吸着・吸収・結合等により固着することにより、ガス中のガス状ホウ素の濃度が低減する。これにより、ガス処理剤を設けた第1排出路20Aよりも下流側に設けられる湿式脱硫装置44において捕集されるホウ素の量を低減させることができる。したがって、湿式脱硫装置44の脱硫排水中のホウ素の濃度を低下させることができる。
【0062】
さらに、ガス処理剤の一部が風圧等により、ガス処理設備40の脱塵装置43等へ流出したとしても、ガス処理剤に含有される酸化マグネシウムに固着されたホウ素は、水へ溶出し難い。したがって、脱塵装置43において得られる燃焼灰は、セメント混和剤や埋戻し材として利用されたとしても、雨などによりホウ素が外部環境へ溶出するのが抑制される。このため、土壌改良剤やセメント混和材として有用な石炭燃焼灰を提供することができる。
【0063】
本実施形態によれば、汚泥を増加させることなく、簡便に、湿式脱硫装置44の脱硫排水中のホウ素の濃度を低下させることができ、また、煙突から排出されるホウ素の量を低減させることができる。また、脱塵装置43の燃焼灰からのホウ素の溶出を低減させることができる。したがって、環境負荷を低減させた微粉炭火力発電設備を実現することができる。
【0064】
以下、本発明を試験例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
(試験例1)
図2に示すように、ガス発生手段110により発生させた模擬ガスに、ホウ素発生手段120により発生させたホウ素ガスを混合した混合ガスを生成させた。生成させた混合ガスを、対象物質0.2gを担持させたフィルター131を設けた試料ホルダー130に1時間通過させて、対象物質のホウ素の吸着・吸収・結合等により固着量を測定した。なお、試料ホルダー130を通過した混合ガスは、混合ガスを吸収する吸収液を備える吸収部で処理されて、外部へと排出した。また、模擬ガスのガス組成は、窒素ベースとし、CO
2:15vol%、O
2:4vol%、SO
2:500pp、NO:200ppm、HCl:10ppm、H
2O:8vol%に設定し、混合ガス中のホウ酸(H
3BO
3)ガスの濃度を5mg/m
3Nに設定した。また、試料ホルダー130の設定温度は、90〜350℃とした。結果を
図3に示す。
【0066】
さらに、ガス状ホウ素を吸収した後に、対象物質を担持させたフィルターを蒸留水25mlにて洗浄し、各対象物質が吸収したホウ素の水溶性を調査した。試料ホルダー130の設定温度が130℃の際の各対象物質が吸収されたホウ素の水溶性の結果を
図4に示す。
【0067】
図3に示すように、酸化マグネシウムは、酸化アルミニウムや炭酸ナトリウムと比較して、いずれの温度域においてもホウ素の吸収量が大きかった。
【0068】
また、活性炭は、90℃においてホウ素吸収量は大きいが、温度の上昇に伴って、ホウ素吸収量が低下し、250℃以上では酸化アルミニウムや炭酸ナトリウムと同程度のホウ素吸収量となることがわかった。また、酸化カルシウムは、90℃においてホウ素吸収量は比較的多いが、温度の上昇に伴い、ホウ素吸収量が低下した。これに対し、酸化マグネシウムは、温度の上昇に伴い、ホウ素吸収量が増加しており、特に、高温域で好適にホウ素を吸収することができるものであることがわかった。
【0069】
また、
図4に示すように、活性炭、酸化アルミニウム、酸化カルシウムに吸収されたホウ素は、いずれも60%以上が水へと溶出したのに対し、酸化マグネシウムに吸収されたホウ素は、水へ溶出した量は20%未満であった。
【0070】
以上より、酸化マグネシウムを有効成分として含有するガス処理剤は、ガス状のホウ素を固着性能に優れ、且つ、ホウ素の水への溶出を抑制することができるものであることがわかった。酸化マグネシウムを有効成分として含有するガス処理剤は、酸化マグネシウムの割合が多くなるほど、よりガス状ホウ素を固着する性能に優れ、且つ、ホウ素の水への溶出をより効果的に抑制することができるものであることがわかった。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、実施形態1では、第1排出路20Aにガス処理剤を設けたが、これに限定されるものではなく、ガス処理剤は湿式脱硫装置44よりも上流側に設ければよい。例えば、ボイラ20、第1排出路20A、第2排出路41A、第3排出路42A、第4排出路43Aのうちいずれかに設けることができ、勿論、複数箇所に設けてもよい。
【0072】
例えば、ボイラ20にガス処理剤を設ける場合は、ガス処理剤を微粉炭に散布するようにしてもよいし、スプレーなどを用いてガス処理剤を含む液体を微粉炭に散布してもよく、さらにはガス処理剤を含む液体に石炭(又は微粉炭)を浸漬させてからボイラ20に供給するようにしてもよい。また、ガス処理剤を石炭と共に粉砕機10に投入して、微粉炭と共にボイラ20に導入するようにしてもよい。
【0073】
また、第1排出路20Aにおいて、ガス処理剤を溶解させた液体、ガス処理剤を含むスラリー等のガス処理剤を含む液体を噴射・噴霧することにより、ガスとガス処理剤とを接触させるようにしてもよい。この場合は、ガス処理剤は、脱塵装置43において回収される。
【0074】
また、湿式脱硫装置44よりも上流側に、ガス処理剤を設けたガス状ホウ素の吸収塔を設けてもよく、例えば、脱塵装置43と湿式脱硫装置44との間に吸収塔を設けてもよい。かかる吸収塔は、内部にガス処理剤を設けたものであればよく、例えば、ハニカム構造やペレット状の担体にガス処理剤を担持させてもよい。かかる構成によっても、湿式脱硫装置44で捕集されるホウ素の量を低減させることができ、微粉炭火力発電設備における排水中のホウ素の濃度を低減させることができる。
【0075】
また、本実施形態では、湿式脱硫装置44がガス処理設備40の湿式処理手段を備えるものであったが、湿式処理手段はこれに限定されるものではない。湿式処理手段は、ガスを湿式で洗浄するものであればよく、湿式スクラバーが挙げられる。湿式スクラバーは、水溶液などの液体を洗浄液とし、この洗浄液が散布された空間内にガスを導入し、或いは洗浄液中にガスを導入し、ガスに含まれる水溶性不純物、凝縮性不純物及び粒子状不純物を洗浄液に捕集して分離することができるものである。他の湿式処理手段を用いる場合も同様に、ガス処理剤は、湿式処理手段よりも上流側に設ければよい。
【0076】
なお、実施形態1の微粉炭の種類は特に限定されないが、例えば瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭などを用いることができる。本実施形態では、中位径40μm程度の瀝青炭からなる微粉炭を用いた。
【0077】
上述した実施形態では、ガス処理設備として、微粉炭火力発電設備を例示して説明したが、本発明に係るガス処理設備は、微粉炭火力発電設備のガス処理設備に限られるものではない。例えば、石炭、重質油、バイオマス、廃棄物、ゴミ固形燃料(Refuse Derived Fuel、RDF)、古紙と廃プラスチックからなる固形燃料(Refuse Paper and Plastic Fuel、RPF)等のガス処理設備に適用することができる。