【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
実施例1
本実施例では、以下のようにして調製したVAM葉の抽出物を用い、マウスを用いたアトピー性皮膚炎に対する予防効果を調べた。
【0052】
(抽出物の調製)
コンゴ産のVAMの葉を日干しにより十分に乾燥し、乾燥した葉0.1kgを乳鉢・乳棒を用いて約2mmのサイズに粉砕した。得られた粉砕物1gを抽出溶媒(水5mLまたはメタノール5mL)に浸漬し、液体窒素を用いて充分すり潰した。ろ過後、得られた抽出液4mLに水15mLまたはメタノール15mLを加え、エバポレーターにより、温度:45℃、圧力:500hPaの条件で蒸留した後、37℃で2時間乾燥させることにより、VAMの水抽出物またはVAMのメタノール抽出物を得た。以下の実験では、各抽出物0.5gを5mLの蒸留水に溶解したものを実験に供した(濃度は200g/L)。
【0053】
(供試動物)
7週齢の雄性NC/Ngaマウス16匹を日本エスエルシーより購入し、飼料および飲料水を自由に摂取させて7日間馴化させたものを実験に用いた。マウス16匹を、4匹ずつ以下の4群に分けた。試験の前日には、小動物用バリカンを用いてマウスの腹部を剃毛した(Day0)。
・第1群(本発明例投与群):
VAMの水抽出物(以下、「WAT−VAM」と略記する)投与群
・第2群(本発明例投与群):
VAMのメタノール抽出物(以下、「MET−VAM」と略記する)投与群
・第3群(溶媒対照群):メタノール(以下、「VEH」と略記する)投与群
・第4群(溶媒対照群):水(以下、「NORM」と略記する)投与群
【0054】
(試験方法)
第1群および第2群(いずれも本発明例投与群)について、以下の処置を行なった。
【0055】
まず、剃毛した各群のマウスの腹部に、感作源として5%塩化ピクリルのアセトン溶液を500μL塗布して感作を行なった(Day1)。感作後7日目(Day8)に、上記の各抽出物(「WAT−VAM」または「MET−VAM」)7mg/mLをマウスの右耳に50μL塗布(予防処置)し、その30分後に、0.5%塩化ピクリルのアセトン・オリーブオイル溶液を50μL、マウスの両耳に塗布して追加感作を行なった(Day8)。上記Day8と同様の操作を、Day14、Day16、Day18、およびDay20に行い、アトピー性皮膚炎を惹起(チャレンジ)させた。
【0056】
比較のため、第3群(「VEH」投与群)については、上記の抽出物を塗布する代わりにメタノールを塗布したこと以外は、前述した第1群と同様にして感作および惹起を行なった。
【0057】
一方、第4群(「NORM」投与群)については、5%塩化ピクリルの感作を行なわないこと、および上記の抽出物を塗布する代わりに水を塗布したこと以外は、前述した第1群と同様にして処置した。
【0058】
(評価)
(1)引っ掻き行動の経時的変化
Day8、Day14、Day20のそれぞれにおいて、各群のマウスについて、30秒以内に観察される引っ掻き行動の回数を測定し、各群(4匹)の平均値および標準偏差を算出した。この回数が少ない程、抗掻痒効果に優れることを示している。これらの結果を
図1に示す。
図1には、各実験群について、左から順にDay8、Day14、Day20の結果を示している。
【0059】
(2)耳介厚さ(腫脹)の経時的変化
Day8、Day14、Day20のそれぞれにおいて、各群のマウスの右耳の厚さ(μm)をデジタルノギスを用いて測定し、Day0のマウスの右耳の厚さとの差(μm)を算出し、各群(4匹)の平均値を算出した。厚さの差が少ない程、耳腫脹抑制効果に優れることを示している。これらの結果を
図2に示す。
図2には、各実験群について、左から順にDay8、Day14、Day20の結果を示している。
【0060】
(3)臨床症状の経時的変化
Day8、Day14、Day20のそれぞれにおいて、各群のマウスの背部に生じた炎症の程度を肉眼で観察し、スコアリングした。詳細には、(a)表皮剥脱/腐食の程度、(b)紅班/出血の程度、(c)purpuras(血管より漏れ出た血液により紫色の斑点状の内出血)および毛細血管拡張症の程度を肉眼で観察し、下記基準でスコアリングして各群(4匹)の平均値を算出した。スコアリング値が低い程、炎症抑制効果に優れることを示している。
【0061】
(a)表皮剥脱/腐食の評価
0以上、1以下:ほとんど変化なし
1超、2以下 :軽度の症状
2超、3以下 :高度の症状
【0062】
(b)紅班/出血の評価
0以上、10以下:ほとんど変化なし
10超、20以下:軽度の症状
20超、30以下:高度の症状
【0063】
(c)purpurasおよび毛細血管拡張症の評価
0以上、1以下:ほとんど変化なし
1超、2以下 :軽度の症状
2超、3以下 :高度の症状
【0064】
これらの結果をそれぞれ、
図3A〜
図3Cに示す。
【0065】
(4)炎症細胞の浸潤
Day14に、第1群〜第3群のそれぞれにつき1例ずつ無作為に抽出したマウス左耳の一部を生検し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色による炎症細胞の同定(好中球、好酸球)を行なって病理組織標本を作製した。参考のため、上記第1群において、本発明抽出物を投与する前(Day21)のマウス(アトピー性皮膚炎マウス)左耳の一部を生検し、上記と同様にして病理組織標本を作製した。
図4A〜
図4Cに、アトピー性皮膚炎マウス(
図4A)、第1群の「VAM−WAT」投与群(
図4B)、第2群の「VAM−MET」投与群(
図4C)におけるマウスの写真(上段)、病理組織標本の10倍拡大写真(中段)、40倍拡大写真(下段)の結果をそれぞれ示す。
【0066】
(5)血清中IgEの測定
Day14に、第1群〜第4群のそれぞれにおいて、各群のマウスの血清中IgEを測定した。詳細には、キットに添付されている、段階希釈したIgE標準物質のシグナルから作製した検量線とサンプルのシグナルを比較して血清中IgE濃度を決定し、各群(4匹)の平均値および標準偏差を算出した。これらの結果を
図5に示す。
【0067】
図1〜
図5より以下のように考察することができる。
【0068】
まず、抗掻痒作用について考察する。
図1より、本発明抽出物を含まずメタノールのみを投与した「VEH」(溶媒対照群)では引っ掻き回数が多く、感作回数が進むにつれ(Day8→Day14→Day20)、その回数が顕著に増加したのに対し、本発明に係るVAMの水抽出物を投与した「WAT−VAM」(本発明例)およびVAMのメタノール抽出物を投与した「MET−VAM」(本発明例)は、引っ掻き回数の顕著な抑制効果が認められ、水投与群(「NORM」)とほぼ同程度にまで抑えることができた。本発明例のなかでも特に、VAMのメタノール抽出物を投与した「MET−VAM」では非常に著しい抑制効果が認められ、感作回数が増えても引っ掻き回数の上昇は殆ど見られなかった。よって、本発明抽出物は、極めて優れた抗掻痒作用を有していることが確認された。
【0069】
なお、
図1には示していないが、本発明抽出物ではなく市販のステロイド剤(和光純薬製ハイドロコルチゾン)を用いて同様の実験を行なった場合は、メタノールのみを投与した「VEH」(溶媒対照群)の結果と殆ど変わらなかったことを確認している。
【0070】
次に
図2〜
図5に基づき、抗炎症作用について考察する。抗炎症作用についても前述した抗掻痒作用と同様の傾向が見られ、本発明抽出物を投与した「WAT−VAM」および「MET−VAM」は、溶媒投与群の「VEH」に比べ、耳介腫脹抑制効果(
図2)、臨床症状の緩和(
図3)、炎症細胞(好酸球および好中球)の減少(
図4)、血清中IgEの減少(
図5)が見られ、特にVAMのメタノール抽出物を投与した「MET−VAM」では非常に著しい抗炎症効果が確認された。
【0071】
このうち
図4を参照すると、アトピー性皮膚炎マウスでは症状が進行して皮膚のバリア層が破壊し(
図4Aの中段の写真をご参照)、好酸球および好中球の浸潤が多く見られた(
図4Aの下段の写真をご参照)のに対し、本発明抽出物を投与したものは
図4Bおよび
図4Cに示すように、バリア層の破壊も殆ど見られず(
図4Bおよび
図4Cの中段の写真をご参照)、好酸球および好中球の数も減少した(
図4Bおよび
図4Cの下段の写真をご参照)。よって、本発明抽出物は、極めて優れた抗炎症作用を有していることが確認された。
【0072】
なお、
図2〜
図5には示していないが、本発明抽出物ではなく市販のステロイド剤(和光純薬製ハイドロコルチゾン)を用いて同様の実験を行なった場合は、メタノールのみを投与した「VEH」(溶媒対照群)の結果と殆ど変わらなかったことを確認している。
【0073】
以上の実験結果より、本発明抽出物は、アトピー性皮膚炎の予防剤として極めて有用であることが確認された。
【0074】
実施例2
本実施例では、実施例1と同様にして調製したVAM葉の抽出物を用い、マウスを用いたアトピー性皮膚炎に対する治療効果を調べた。
【0075】
(供試動物)
7週齢の雄性NC/Ngaマウス30匹を日本エスエルシーより購入し、飼料および飲料水を自由に摂取させて7日間馴化させたものを実験に用いた。マウス30匹を、6匹ずつ以下の5群に分けた。試験の前日には、小動物用バリカンを用いてマウスの腹部を剃毛した(Day0)。
・第1群(本発明例投与群):VAMの水抽出物(「WAT−VAM」)投与群
・第2群(本発明例投与群):VAMのメタノール抽出物(「MET−VAM」)投与群
・第3群(溶媒対照群):メタノール(「VEH」)投与群
・第4群(溶媒対照群):水(「NORM」)投与群
・第5群(比較群):ステロイド(「HCT」)投与群
【0076】
(試験方法)
第1群および第2群(いずれも本発明例投与群)について、以下の処置を行なった。
【0077】
まず、剃毛した各群のマウスの腹部に、感作源として5%塩化ピクリルのアセトン溶液を500μL塗布して感作を行なった(Day1)。感作後7日目(Day8)、9日目(Day10)、11日目(Day12)、13日目(Day14)に、0.5%塩化ピクリルのアセトン・オリーブオイル溶液を50μL、マウスの両耳に塗布してアトピー性皮膚炎を惹起(チャレンジ)させた。その後、Day21、Day23、Day25、Day27、Day29にそれぞれ、上記の各抽出物(「WAT−VAM」または「MET−VAM」)7mg/mLをマウスの右耳に50μL塗布(治療処置)した。
【0078】
比較のため、第3群(「VEH」投与群)については、上記の抽出物を塗布する代わりにメタノールを塗布したこと以外は、前述した第1群と同様にして感作および惹起を行なった。
【0079】
一方、第4群(「NORM」投与群)については、5%塩化ピクリルの感作を行なわないこと、および上記の抽出物を塗布する代わりに水を塗布したこと以外は、前述した第1群と同様にして処置した。
【0080】
更にステロイド剤との対比を行なうため、第5群(「HCT」投与群)については、上記の抽出物を塗布する代わりに10mg/mLのハイドロコルチゾンを塗布したこと以外は、前述した第1群と同様にして処置した。
【0081】
(評価)
(1)耳介厚さ(腫脹)の経時的変化
Day21、Day23、Day25、Day27、Day29における各群の耳介厚さ(Day0との差)の平均値を、前述した実施例1の(2)と同様にして算出した。これらの結果を
図6に示す。
図6には、各実験群について、左から順にDay21、Day23、Day25、Day27、Day29の結果を示している。
【0082】
(2)耳介重量の変化
Day30の解剖時にマウスから摘出した耳の重量を、デジタル天秤にて秤量した(0.1μgまで)。実験群ごとに重量の平均値±標準誤差を算出し、群間の重量有意差を計算した。これらの結果を
図7に示す。
【0083】
(3)臨床症状の経時的変化
Day21、Day23、Day25、Day27、Day29のそれぞれにおいて、各群のマウスの背部に生じた扁平皮膚領域の分布を肉眼で観察し、下記基準でスコアリングして各群(6匹)の平均値を算出した。これらの結果を
図8に示す。
0以上、1以下:ほとんど変化なし
1超、2以下 :軽度の症状
2超、3以下 :高度の症状
【0084】
(4)炎症細胞の浸潤
Day30に、第1群、第2群(以上、本発明例)、第5群(ステロイド投与群)のそれぞれにつき1例ずつ無作為に抽出したマウス左耳の一部(7mm)を生検し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色による炎症細胞の同定(好中球、好酸球)を行なって病理組織標本を作製した。参考のため、上記第1群において、本発明抽出物を投与する前(Day30)のマウス(アトピー性皮膚炎マウス)左耳の一部を生検し、上記と同様にして病理組織標本を作製した。
図9A〜
図9Dに、アトピー性皮膚炎マウス(
図9A)、第1群の「VAM−WAT」投与群(
図9B)、第2群の「VAM−MET」投与群(
図9C)、第5群の「HCT」投与群(
図9D)におけるマウスの写真(上段)と病理組織標本の20倍拡大写真(下段)の結果をそれぞれ示す。
【0085】
図6〜
図9より以下のように考察することができる。
【0086】
図6より、本発明抽出物を投与した「WAT−VAM」および「MET−VAM」は、溶媒投与群の「VEH」およびステロイド投与群の「HCT」に比べ、耳介腫脹抑制効果が有意差をもって顕著に見られ(p<0.05またはp<0.01)、特にVAMのメタノール抽出物を投与した「MET−VAM」では非常に著しい抑制効果が確認された。
図6とほぼ同様の傾向は
図7でも見られ、本発明抽出物を投与した群はいずれも、溶媒投与群およびステロイド投与群に比べ、有意差はないが耳重量の減少が大きく見られた。このことは、本発明抽出物を投与したマウスには、浮腫や炎症の症状が減少していることを意味する。
【0087】
また
図8より、本発明抽出物を用いれば、溶媒投与群に比べて炎症症状を有意に改善でき、ステロイド投与群とほぼ同程度の改善効果が確認された。
【0088】
更に
図9より、アトピー性皮膚炎マウスでは症状が進行して皮膚のバリア層が破壊し、好酸球および好中球の著しい浸潤が見られた(
図9の下段の写真をご参照)のに対し、本発明抽出物を投与すると
図9Bおよび
図9Cに示すように、バリア層の破壊も殆ど見られず、好酸球および好中球の数も減少した。本発明抽出物による改善作用は、ステロイド投与群(
図9D)とほぼ同程度であった。
【0089】
以上の実験結果より、本発明抽出物は、極めて優れた抗炎症作用を有していることが確認された。
【0090】
なお、上記図には示していないが、本発明抽出物を投与すると、顕著な抗掻痒効果が見られたことを実験により確認している。
【0091】
以上の実験結果より、本発明抽出物は、アトピー性皮膚炎の治療剤としても極めて有用であることが確認された。