特許第5766052号(P5766052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5766052ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5766052
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20150730BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20150730BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   H01M10/054
   H01M4/587
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M4/133
   H01M4/1393
   H01M4/62 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-151731(P2011-151731)
(22)【出願日】2011年7月8日
(65)【公開番号】特開2013-20749(P2013-20749A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】野末 竜弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】塚原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238418(JP,A)
【文献】 特開2008−181751(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011655(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/028613(WO,A2)
【文献】 特表2013−504162(JP,A)
【文献】 特開2003−213530(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/074281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 4/587
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 4/133
H01M 4/1393
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム化合物を活物質とする正極構造体と、
集電層と、Alからなる助触媒層と、前記助触媒層の主面に積層され、Feからなる複数の微粒子で構成された触媒層と、前記微粒子を核として形成されたカーボンナノチューブとを有する負極構造体とを備えたことを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
電解液の溶媒が、
エチレンカーボネートと、
ジエチルカーボネート、又はジメチルカーボネート、又はエチルメチルカーボネートとの混合液である請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記電解液の溶質が、過塩素酸塩又はNaTFSIである請求項2に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの直径は1nm以上100nm以下であって、その先端が開端処理されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
ナトリウム化合物を活物質とする正極構造体を備えたナトリウムイオン二次電池の製造方法において、
負極構造体を形成する工程は、
集電層を形成する工程と、
Alからなる助触媒層を形成する工程と、
前記助触媒層の主面にFeからなる層形成したのち、前記集電層と前記助触媒層と前記層とを有する積層体をFeの凝集温度以上の温度まで加熱して、Feからなる複数の微粒子で構成された触媒層を形成する工程と、
前記複数の微粒子上に原料となる炭素含有ガスを供給し、カーボンナノチューブの成長温度まで加熱して、前記微粒子を核としてカーボンナノチューブを形成する工程とを有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム化合物を正極活物質とするナトリウムイオン二次電池、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、リチウムイオン二次電池は、ノートPC、携帯電話、家電製品、ハイブリッド自動車及び電気自動車、産業機械や電力貯蔵逐電システム等へ利用範囲を広げている。このリチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を負極として充放電サイクルを重ねると、リチウム金属表面にデンドライトが成長して電池内部で短絡する虞があるため、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な黒鉛を負極活物質としている。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池の材料となるリチウムは、現在の生産量と比較すると埋蔵量は大きいものの、地球上の地表付近に存在する元素の割合を示すクラーク数は0.006%(27番目)と低い。このため、リチウムは、将来的に需給が逼迫することが懸念されている。
【0004】
従って、リチウムに比べ資源が豊富な材料が要望されており、その材料としてナトリウム(Na)が注目されている。ナトリウムは、クラーク数が2.6%(6番目)であって、リチウムと比べ、その埋蔵量は膨大である。
【0005】
ナトリウムを活物質とした電池として、NAS電池が知られている。しかし、NAS電池は、常温では動作せず、作動温度域(300℃程度)と高くする必要があるため、装置の大型化を招来していた。
【0006】
また、ナトリウムイオン二次電池の別の例としては、負極活物質としてナトリウム合金等を用いる電池や、炭素材料を用いる電池が提案されている。例えば特許文献1には、負極活物質として、黒鉛、コークス、炭素繊維等を用いたナトリウムイオン二次電池が記載されている。炭素材料は、取り扱い易さ、コスト等の点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−81935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えばナトリウムイオン二次電池の負極活物質に、リチウムイオン二次電池に一般的に使用される黒鉛を用いた場合には、低い電池容量しか得られない。即ち、リチウムイオン二次電池は、層状構造を有する黒鉛の層間にリチウムイオンが吸蔵されることにより充電が行われるが、ナトリウムイオンのイオン半径(95pm程度)は、リチウムイオンの半径(65pm程度)に比べ大きく、黒鉛の層間に吸蔵されることができない。このため、負極活物質として黒鉛を用いた場合には、数mAh〜十数mAh程度の放電容量しか得られず、ナトリウムイオン二次電池を実用化するにあたっては改善の余地があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池容量を高めることができるナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ナトリウム化合物を活物質とする正極構造体と、集電層と、Alからなる助触媒層と、前記助触媒層の主面に積層され、Feからなる複数の微粒子で構成された触媒層と、前記微粒子を核として形成されたカ
ーボンナノチューブとを有する負極構造体とを備えたことを要旨とする。
【0011】
請求項1に記載の発明では、負極構造体に、リチウムイオンよりもイオン半径が大きいナトリウムイオンを放出及び吸蔵する活物質として、カーボンナノチューブからなる層を設けた。カーボンナノチューブは、そのチューブ間の隙間が、リチウムイオン二次電池の負極で一般的に用いられる黒鉛の層間よりも大きく、ナトリウムイオンを放出及び吸蔵しやすい構成である。従って、ナトリウムイオンの移動性が良好となるため、その負極構造体を用いた電池の放電容量を高めることができる。また、触媒層の触媒機能を高めるために、カーボンナノチューブの下地として助触媒層を形成したので、ナトリウムイオンの移動性が良好であって、高密度で長いカーボンナノチューブを形成することができる。従って、ナトリウムイオンの吸蔵量を増大させることが可能となるため、その負極構造体を用いた電池の容量を高めることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池において、電解液の溶媒が、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネート、又はジメチルカーボネート、又はエチルメチルカーボネートとの混合液であることを要旨とする。
【0013】
請求項2に記載の発明では、電解液の溶媒を、上記した各混合液のいずれかとする。即ち、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合液、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合液のいずれか一つである。この溶媒を用いることによって、カーボンナノチューブに対するナトリウムイオンの移動性を妨げないようにすることができるので、電池容量を高めることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のナトリウムイオン二次電池において、前記電解液の溶質が、過塩素酸塩又はNaTFSIであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、電解液の溶質は、NaClO等の過塩素酸塩又はNaTFSIであって、これらの溶質は、電解液に上記各溶媒のいずれかを選択した場合に、該溶媒に溶解可能であり、電池容量を低下させない。このため、ナトリウムイオン二次電池の実用性を向上し、且つ電池容量を高めることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン二次電池において、前記カーボンナノチューブの直径は1nm以上100nm以下であって、その先端が開端処理されていることを要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、カーボンナノチューブの先端が開端処理されているため、チューブ内部に、ナトリウムイオンを吸蔵することができる。このため、さらにナトリウムイオンのチューブ長手方向に沿った移動性を高めるとともに、吸蔵量を向上することができる。従って、電池容量をさらに高めることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、ナトリウム化合物を活物質とする正極構造体を備えたナトリウムイオン二次電池の製造方法において、負極構造体を形成する工程は、負極構造体の集電層を形成する工程と、Alからなる助触媒層を形成する工程と、前記助触媒層の主面にFeからなる層形成したのち、前記集電層と前記助触媒層と前記層とを有する積層体をFeの凝集温度以上の温度まで加熱して、Feからなる複数の微粒子で構成された触媒層を形成する工程と、前記複数の微粒子上に原料となる炭素含有ガスを供給し、カーボンナノチューブの成長温度まで加熱して、前記微粒子を核としてカーボンナノチューブを形成する工程とを有することを要旨とする。
【0018】
請求項5に記載の発明では、リチウムイオンよりもイオン半径が大きいナトリウムイオンを放出及び吸蔵する活物質として、カーボンナノチューブを有する負極構造体を形成した。カーボンナノチューブは、そのチューブ間の隙間が、リチウムイオン二次電池の負極で一般的に用いられる黒鉛の層間よりも大きく、ナトリウムイオンを放出及び吸蔵しやすい構成である。従って、ナトリウムイオンの移動性が良好となるため、その負極構造体を用いた電池の放電容量を高めることができる。また、負極構造体に、助触媒層を形成することにより、触媒層の触媒機能が高められるため、ナトリウムイオンの移動性が良好であって、高密度で長いカーボンナノチューブを形成することができる。このため、ナトリウムイオンの吸蔵量を増大させることが可能となるため、その負極構造体を用いた電池の容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のナトリウムイオン二次電池を具体化した第1実施形態の負極構造体を示す断面図。
図2】同負極構造体に用いられる溶媒の溶解度に関する表。
図3】同溶媒を負極構造体に用いた場合の放電容量に関する表。
図4】同負極構造体に吸蔵されたナトリウムイオンを示す模式図。
図5】同負極構造体の要部断面図であって、(a)は助触媒形成工程、(b)は触媒層形成工程、(c)は加熱工程、(d)はカーボンナノチューブ形成工程を示す。
図6】本発明のナトリウムイオン二次電池を具体化した第2実施形態の負極構造体を示す断面図。
図7】同負極構造体のカーボンナノチューブ層の面内厚さを示すグラフ。
図8】実施例の負極構造体を用いた電池の充放電曲線を示すグラフ。
図9】比較例の負極構造体を用いた電池の充放電曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明のナトリウムイオン二次電池を具体化した第1実施形態を図1図5にしたがって説明する。
【0021】
まず、ナトリウムイオン二次電池の正極構造体について説明する。正極構造体は、正極活物質として、ナトリウムを含有する遷移金属酸化物、硫化物、硫酸化物、リン酸化物、珪酸化物、フッ化物等のナトリウム化合物を含む。ナトリウム化合物としては、具体的には、NaFeO、NaFe(PO、NaTi(PO等の公知の材料を用いることができ、容量の点からは、特にNaFeO(理論容量:80mAh/g)が適している。さらに初期にナトリウムを含んでいないが、放電の結果、ナトリウムを吸収してナトリウム化合物となる活物質としては、TiS等も用いることができるが、資源埋蔵量の点からFeを含有する化合物が好ましく、Fe(SO、Fe(MoO、Fe(WO、FePO、FeF、FeS等の公知の材料を用いることができ、容量の点からは、特にFe(SO(理論容量:100mAh/g)、FePO(理論容量:140mAh/g)、FeF(理論容量:150mAh/g)、FeS(理論容量:630mAh/g)が適している。この正極活物質の他に、正極構造体には、導電材、バインダー、溶媒等を混合してもよい。
【0022】
次に、負極構造体について説明する。負極構造体は、負極活物質として、カーボンナノチューブを用いている。カーボンナノチューブ20を負極活物質とする負極構造体10は、図1に示すように、金属等からなる基材11と、基材11上に形成された集電層12とを有している。この集電層12は、箔状の銅(Cu)、又はアルミニウム(Al)からなる。
【0023】
また集電層12には、アルミニウム(Al)からなるバリア層13が積層され、集電層12の銅が上層側に拡散するのを抑制している。集電層12をアルミニウムから構成する場合には、集電層12は、バリア層13として機能することができる厚さに形成される。
【0024】
さらにバリア層13には、該バリア層13に比べ膜厚が小さい助触媒層15が積層されている。この助触媒層15は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)といった遷移金属、及びそれら遷移金属の窒化物のうち、少なくとも一つからなる。即ち、助触媒層15を、上記遷移金属単体、又は複数の遷移金属から形成してもよいし、上記遷移金属の窒化物単体又は複数の窒化物から形成してもよい。或いは、上記遷移金属の少なくとも一つと、上記遷移金属の窒化物の少なくとも一つを組み合わせて形成してもよい。
【0025】
助触媒層15には、鉄(Fe)からなる触媒層16が積層されている。この触媒層16は、加熱により触媒金属が凝集した微粒子16Pから構成されている。この触媒層16の触媒機能は、助触媒層15によって、より向上される。
【0026】
そして、触媒層16の上には、カーボンナノチューブ層21が形成されている。カーボンナノチューブ層21は、微粒子16Pを核として成長した多数のカーボンナノチューブ20から構成されている。カーボンナノチューブ20は、グラファイト構造を有する有蓋筒状を呈し、その長手方向が、助触媒層15の主面に対して垂直となるように配向している。このカーボンナノチューブ20は、2層以上のグラファイト層によって構成される、いわゆるマルチウォールナノチューブ(MWNT)であって、その直径は、1nm以上100nm以下の範囲に含まれる。
【0027】
充放電時には、正極構造体からナトリウムイオンが放出され、該ナトリウムイオンが、負極構造体10との間で移動することにより電池反応が進行する。充電時には、正極構造体から放出されたナトリウムイオンの一部が、負極構造体10側へ移動し、互いに隣接する各カーボンナノチューブ20の間の空間等に吸蔵される。このため、カーボンナノチューブ20の間隙は、ナトリウムイオンが移動可能な幅を有する必要がある。一方、カーボンナノチューブ20の本数が少ない場合には、ナトリウムイオンの吸蔵量が低下する。従って、ナトリウムイオンの移動性と吸蔵量とを両立するために、負極構造体10(触媒層16)の単位面積当たりの本数は、おおよそ1×1011本/cm2としている。また、カーボンナノチューブ層21における比重は、1.0g/cmである。
【0028】
次に、ナトリウム化合物を正極活物質とし、カーボンナノチューブ20を負極活物質とした場合に適した電解液について説明する。
ナトリウムイオン二次電池の電解液の溶質には、NaClO等の過塩素酸塩、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)を用いることができる。リチウムイオン電池に一般的に用いられる溶質としては、上記化合物の他に、例えば六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)があるが、NaPFは、溶媒への溶解度が小さく、NaPFを溶解させた電解液も、イオン伝導度が低い。
【0029】
また、高出力を求められるナトリウムイオン二次電池の電解液の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。水系溶媒の場合には、電池電圧を1.5V程度にすると水の電気分解が生じるためである。電池に用いられる一般的な有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート系、ジメチルエーテル(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(DOL)等のエーテル系の他、スルホラン(SL)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル(AN)、ガンマ‐ブチロラクトン(GBL)等が挙げられる。このうち、エーテル系は、電池電圧2V以上で分解する虞がある。また、SL、DMSO、GBLは充放電の過程で分解され、ANはナトリウムと反応する。一方、カーボネート系は、還元分解されるものの、分解生成物が被膜を作り安定動作する。このため、ナトリウムイオン二次電池には、カーボネート系が適している。
【0030】
このカーボネート系の溶媒について、上記した溶質の一つであるNaClOの溶解度合について調べた結果を図2の表に示す。尚、カーボネート系の溶媒として、イオン伝導度、ナトリウム化合物や負極構造体10の各層に対する電気化学的安定性、使用可能温度領域、電位窓の広さ、取り扱いの容易さ等の点から、PC、PCとECとの混合液、ECとDECとを体積比で0.5:1.0〜1.0:1.0で混合した混合液、ECとDMCとを0.5:1.0〜1.0:1.0で混合した混合液、ECとEMCとを0.5:1.0〜1.0:1.0で混合した混合液を選択した。即ち、ECとDECとの混合液、ECとDMCとの混合液、及びECとEMCとの混合液は、DEC、DMC、EMCのそれぞれに対して、0.5以上1以下の体積比率で混合される。ECを他の溶媒と混合したのは、ECが、室温で固体であり単体では使用し難く、しかも分解されて緻密な被膜を作るため電極が安定化しやすいためである。また、溶質であるNaClOの濃度は1Mとした。また表のうち、「A」は「溶ける」、「B」は「溶けきらない」を示す。その結果、PC、PCとECとの混合液、ECとDMCとの混合液、ECとEMCとの混合液に対してはNaClOが溶解したが、ECとDMCとの混合液には溶けきらなかった。
【0031】
さらに、溶媒を変更した際の放電容量について調べた。まず、NaClOを溶解可能な上記各溶媒を用いて、負極構造体10と正極構造体とをセパレートを介してケース内に収容し、コインセルをそれぞれ作製した。そして、コインセルに対し、充電及び放電を2サイクル行って、それらの放電容量を測定した。溶質は、NaClOを用い、その濃度を1Mとした。その結果を図3の表に示す。
【0032】
PCを含む溶媒を用いた電解液では、電解液が分解するか、放電容量が低かった。また、電解液の抵抗も、PC単体で24.5Ω、ECとPCとの混合液で112.3Ωと高い。
【0033】
一方、ECとDECとの混合液、ECとDMCとの混合液、ECとEMCとの混合液を溶媒とした電解液を用いた電池では、1サイクル目で230mAh以上、2サイクル目で210mAh以上の放電容量が得られ、電解液の抵抗も、2.6Ω〜16.1Ωと比較的低い。また、充電容量に対する放電容量の比であるクーロン効率も、PC単体に比べ高い。このうち、最も高い放電容量が得られた電解液は、ECとEMCとの混合液だった。これらの電解液は、溶媒分子がナトリウムイオンに溶媒和しても、ナトリウムイオンのカーボンナノチューブ層21内での移動性を著しく低下させないと推定される。従って、電解液には、ECと、DEC、DMC及びEMCのうち一つとの混合液を良好に用いることができる。
【0034】
次に、この負極構造体10の作用について図4にしたがって説明する。上述したように、放電時には、正極構造体からナトリウムイオンが放出され、充電時には、ナトリウムイオンIの一部が、互いに隣接する各カーボンナノチューブ20の間隙20A等に吸蔵される。カーボンナノチューブ20の密度は、上述した範囲としているため、ナトリウムイオンIは間隙20A内を容易に移動することができる。また間隙20Aに吸蔵されたナトリウムイオンIのうち一部は、カーボンナノチューブ20の外周面に吸着する。また、リチウムイオンの場合は、カーボンナノチューブ20の壁部に形成された欠陥20Bを介して、グラファイト層G内に吸蔵されるが、ナトリウムイオンは、そのイオン半径のために、欠陥20Bを通過できない。
【0035】
このように、ナトリウムイオンIの移動経路は、間隙20Aの長手方向、即ちカーボンナノチューブ20の長手方向に沿って確保されているため、ナトリウムイオンIが吸蔵されやすく、放出されやすい。このため、ナトリウムイオンの吸蔵量や移動性に左右される電池容量が高められる。一方、黒鉛、コークス、炭素繊維等を負極活物質として用いる場合には、負極構造体内で、活物質が分散した状態となるため、電気抵抗が増大し、移動性が低下してしまう。
【0036】
次に、ナトリウムイオン二次電池の製造方法について説明する。まず基材11に対してCu箔からなる集電層12を積層する集電層形成工程を行う。集電層12は、電子ビーム蒸着等の各種蒸着方法や、スパッタ等を含む物理気相成長法、熱CVD等の化学気相成長法により形成可能である。
【0037】
集電層12が形成されると、バリア層形成工程を行う。バリア層13は、電子ビーム蒸着等の各種蒸着方法や、スパッタ等を含む物理気相成長法、熱CVD等の化学気相成長法により形成可能である。
【0038】
また、バリア層13に替えて、例えばTi,Ni,Pt等といったAl以外の金属の層を設けた場合、それらの金属層は集電層12との密着性が低く、Cuに対するバリア機能を有する層が形成できないか、若しくは形成しても剥離してしまう。このため、集電層12と助触媒層15との間に介在する金属層は、バリア機能及びCuとの密着性の上で、Alが好ましい。
【0039】
バリア層形成工程が完了すると、助触媒層形成工程を行う。助触媒層15は、上記したように触媒層16の触媒機能を向上させ、カーボンナノチューブ20の成長を促進するために設けられている。その具体的な作用は、カーボンナノチューブ20の原料となる炭素含有ガスの分解を促すため、又は触媒層16を構成するFeへの炭素含有ガスへの溶解を促すためと推測される。この助触媒層15は、電子ビーム蒸着等の各種蒸着方法や、スパッタ等を含む物理気相成長法、熱CVD等の化学気相成長法により形成可能である。この助触媒層15は、図5(a)に示すように、バリア層13上に島状(又は間欠的)に成膜されるが、その機能は十分に確保される。
【0040】
助触媒層形成工程を完了すると、基材11、集電層12、バリア層13及び助触媒層15からなる積層体L1(図5(a)参照)に対し、触媒層形成工程を行う。Feからなる触媒層16は、電子ビーム蒸着等の各種蒸着方法や、スパッタ等を含む物理気相成長法、熱CVD等の化学気相成長法により形成可能である。その結果、図5(b)に示すように、平面状の触媒層16が形成される。
【0041】
触媒層形成工程が完了すると、その積層体L2を加熱する加熱工程を行う。この際、積層体L2は、触媒層16を形成するための装置から、カーボンナノチューブ20を形成する装置である熱CVD装置に搬送される。装置内に搬送された積層体L2は、不活性ガス(例えばAr)の供給により所定圧力(例えば1000Pa)に調整された反応室内で、Feの凝集温度(300℃〜400℃)以上に加熱される。その結果、図5(c)に示すように、Feが凝集して、多数の微粒子16Pからなる触媒層16が形成される。
【0042】
加熱工程が完了すると、カーボンナノチューブ形成工程を行う。この工程では、600℃以上800℃以下のカーボンナノチューブ成長温度に反応室内を加熱しつつ、アセチレン(C)ガス等、カーボンナノチューブ20の原料となる炭素含有ガスを、Ar等の希釈ガスによって希釈し、熱CVD装置の反応室内に供給する。
【0043】
反応室内に炭素含有ガス及び希釈ガスを供給すると、積層体の触媒層16上で、炭素含有ガスが熱分解される。原料ガスの熱分解によって生成された炭素又は炭素化合物は、微粒子16Pに吸着し、溶解する。そして、微粒子中の炭素の濃度が、微粒子に溶解可能な濃度を超えて過飽和になったとき、微粒子の該表面に炭素が析出して、グラファイト構造を有する有蓋筒状のカーボンナノチューブ20が形成される。
【0044】
一旦、微粒子の外表面にカーボンナノチューブ20が形成されると、カーボンナノチューブ20の微粒子側の端部に新たな炭素が結合することで、その長手方向にカーボンナノチューブ20が延長される。その結果、図5(d)に示すように、カーボンナノチューブ20が基材11側と反対の方向に伸長していく。このように、カーボンナノチューブ20は、微粒子16Pに沿って形成され且つ成長することから、カーボンナノチューブ20の直径は、微粒子16Pの直径に略等しい大きさになる。
【0045】
このように負極構造体10を製造すると、該負極構造体10と正極構造体とをセパレータを介した状態で対向させてケース内に収容する。また、ケース内に、上記溶媒と溶質からなる電解液を満たし、ケースを封止して密閉状態とする。
【0046】
第1実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1実施形態では、負極構造体10に、リチウムイオンよりもイオン半径が大きいナトリウムイオンを放出及び吸蔵する活物質として、カーボンナノチューブ20を形成した。カーボンナノチューブ20は、そのチューブ間の隙間が、リチウムイオン二次電池の負極で一般的に用いられる黒鉛よりも大きく、ナトリウムイオンを放出及び吸蔵しやすい構造である。従って、ナトリウムイオンの移動性が良好となるため、その負極構造体10を用いたナトリウム二次電池の放電容量を高めることができる。また、触媒層16の触媒機能を高めるために、カーボンナノチューブ20の下地として助触媒層15を形成したので、ナトリウムイオンの移動性が良好であって、高密度で長いカーボンナノチューブ20を形成することができる。従って、ナトリウムイオンの吸蔵量を増大させることが可能となるため、その負極構造体10を用いた電池の容量を高めることができる。
【0047】
(2)第1実施形態では、電解液の溶媒を、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネート、又はジメチルカーボネート、又はエチルメチルカーボネートとを含む上記した各混合液のいずれかとした。即ち、カーボンナノチューブ層21に対するナトリウムイオンの移動性を妨げない溶媒を選択することができるので、電池容量を高めることができる。
【0048】
(3)第1実施形態では、電解液の溶質を、NaClO又はNaTFSIとした。これらの溶質は、電解液として上記溶媒を選択した場合に、該溶媒に溶解可能であって、電池容量を低下させないため、実用性を向上し、且つ電池容量を高めることができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明のナトリウムイオン二次電池を具体化した第2実施形態を図6にしたがって説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態のカーボンナノチューブを変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0050】
図6に示すように、触媒層16の上に形成されたカーボンナノチューブ20の先端は、開端処理されることにより、開口している。カーボンナノチューブ20のチューブ内部の空間は、ナトリウムイオンの直径よりも大きいため、開口を介して、その空間に、ナトリウムイオンを吸蔵することができる。
【0051】
充電時には、ナトリウムイオンの一部は、カーボンナノチューブ20の間隙に吸蔵され、別の一部はカーボンナノチューブ20の開口を介して、カーボンナノチューブ20内の空間20Cに吸蔵される。このチューブ内の空間に吸蔵されたナトリウムイオンは、放電時には、開口を介して、正極側に移動する。
【0052】
このように、カーボンナノチューブ20の先端を開口とする場合には、触媒層16の上にカーボンナノチューブ20を成長させた後、大気中550℃以上で5分間熱処理を行って開端処理する。
【0053】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(4)第2実施形態では、カーボンナノチューブ20の先端を、開端処理するようにした。開端処理を行うと、チューブ内部に、ナトリウムイオンを吸蔵することができる。このため、さらにナトリウムイオンのチューブ長手方向に沿った移動性を高めるとともに、吸蔵量を向上することができる。従って、電池容量をさらに高めることができる。
【0054】
尚、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・第2実施形態では、熱処理によって開端処理するようにしたが、Oプラズマアッシングによって開端処理を行うようにしてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、基材11を金属から形成したが、セラミックス、シリコン基材、耐熱性を有する樹脂等、他の材料から構成してもよい。
・上記実施形態では、カーボンナノチューブ20は、マルチウォールナノチューブとしたが、シングルウォールナノチューブとしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、基材11の上に集電層12を形成したが、集電層を有する金属板からなるケースに、集電層12を除く負極構造体10を形成してもよい。
・上記各実施形態では、基材11に、集電層12、バリア層13、助触媒層15、触媒層16、カーボンナノチューブ層21を順に積層したが、助触媒層15を省略してもよい。また、バリア層13を省略した構成としてもよい。或いは、バリア層13と助触媒層15とを兼ねる層を形成してもよい。
[実施例]
以下に、上記実施形態の一実施例を説明する。
[実施例1]
実施例1では、上記負極構造体10と同じ構成のカーボンナノチューブ層を含む構造体を正極、Na金属箔を負極とした、いわゆるハーフセルで構造体の評価を行った。
【0057】
まず基板上に、0.05mmの厚さを有し、且つ直径14mmの円形の電極形状のCu箔を形成して、集電層とした。また、実施例1では、この集電層上に、電子ビーム蒸着により、バリア層と助触媒層とを兼ねる、アルミニウムからなる層を、厚さが5nmとなるように形成した。さらに、このアルミニウム層上に、鉄からなる触媒層を、厚さが5nmとなるように形成した。そして、触媒層に、熱CVD法を用いて、カーボンナノチューブを成長させて構造体を形成した。カーボンナノチューブの成長条件は、成長温度が750℃、圧力が1気圧とし、原料ガスをアセチレンと窒素ガスからなる希釈ガスとから構成させた。アセチレンの流量は200sccm、希釈ガスの流量は1000sccmとし、成長時間を5分とした。図7に、このカーボンナノチューブ層の面内分布を示す。横軸は、下地となる集電層の半径、縦軸はカーボンナノチューブの長さである。カーボンナノチューブの長さは、集電体の中心から周縁にかけての中央部において130μmとなり、面内分布も良好であった。
【0058】
また、電解液の溶媒を、ECとDECとを体積比で1:1で混合した液から構成し、この溶媒に対し、NaTFSIからなる溶質を、濃度が1Mとなるように溶解した。また、セパレータを、多孔質のPPフィルムとし、いわゆる2032サイズのコインセルを作製した。そしてこのコインセルに対し、0.2Cのレートで定電流を供給して充電した後、同レートで放電を行うといった充放電を3サイクル行い、図8に示す充電曲線C1と放電曲線D1を得た。
【0059】
このとき得られた放電容量は、117mAh/gであった。これは炭素原子19個あたり1個のナトリウムイオンが放出されたことに相当する。
[比較例1]
黒鉛を活物質とする正極構造体と、実施例1と同様に作製した負極構造体を組み合わせて2032サイズのコインセルを作製した。正極構造体は、以下のように作製した。まず黒鉛粉末、アセチレンブラック、結着剤(PVdF)を、8:1:1の重量比で混合し、NMP(N‐メチルピロリドン)に分散させてペースト状にした後、実施例1と同様に作製したCu箔上にドクターブレード法で50μmの厚さに均一に塗布した。そして、その塗布した前駆体を、大気中80℃で乾燥して黒鉛塗布電極を得た。さらにその黒鉛塗布電極を、直径14mmの大きさに加工し、実施例1と同様にコインセルを作製した。
【0060】
そしてそのコインセルに対し、0.2Cで定電流を供給して充電を行うとともに、同レートで放電を行うといった充放電を3サイクル行い、図9に示す充電曲線C2と放電曲線D2を得た。このとき得られた放電容量は、12.6mAh/gと低い値であった。この放電容量は、実施例1の1/10の大きさであり、炭素原子177個あたり1個のナトリウムイオンが放出されたことに相当する。これは、ナトリウムイオンが黒鉛の層間に吸蔵されず、黒鉛微粒子の表面にわずかに吸着しているため、小さな比容量しか得られないと考えられる。
【符号の説明】
【0061】
10…負極構造体、12…集電層、13…バリア層、15…助触媒層、16…触媒層、20…カーボンナノチューブ、21…カーボンナノチューブ層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9