(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。ただし、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでもかまわない。
【0017】
本明細書中、レイアウトとは、試料、例えばマスクの全描画領域における図形等のパターン配置を表す概念とする。
【0018】
本明細書中、描画データとは、試料に描画するパターンの基データである。描画データはCAD等で設計者により生成された設計データを、描画装置内での演算処理が可能となるようフォーマットを変換したデータである。図形等の描画パターンが、例えば、図形の頂点等の座標で定義されている。
【0019】
描画データは、例えば、チップデータとレイアウトデータとで構成される。チップデータは、描画パターンの集合であって描画の基本単位となるチップ領域のデータである。また、レイアウトデータは、チップデータのレイアウト上への配置情報等を備える。描画対象がマスクの場合、例えば、マスクのどの位置にチップ領域が配置されるかという情報を与える。
【0020】
また、本明細書中、仮想チップ領域とはチップ領域の集合を意味する。仮想チップ領域は、通常、1連の描画処理で処理される領域である。
【0021】
また、本明細書中、ショットとは、荷電粒子ビームの1回の照射により荷電粒子が照射される領域を意味する。
【0022】
また、本明細書中、ショットデータとは、ショットの情報を備え、荷電粒子ビームによる描画を行う上での最終的なデータ形式を有するデータを意味する。
【0023】
また、本明細書中、メッシュオフセットとは、仮想チップ領域のマス目(メッシュ)とチップ領域の原点とのオフセット(ズレ量)、または、仮想チップ領域のマス目とチップ領域のマス目とのオフセット(ズレ量)を意味する。
【0024】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、試料に描画すべき描画パターンが定義された描画データであって、同一のチップ領域が複数配置されるレイアウトを有する描画データが入力され、描画データを記憶する第1の描画データ記憶部と、第1の描画データ記憶部から描画データを読み出し、レイアウトにおけるショット密度または描画パターン面積密度を算出する描画データ前処理部であって、複数配置される同一のチップ領域のうち、1個のチップ領域についてショット密度または描画パターン面積密度を算出し、他のチップ領域については算出した1個のチップ領域のショット密度または描画パターン面積密度を再利用する描画データ前処理部と、描画データ前処理部で処理された描画データが入力され、描画データを記憶する第2の描画データ記憶部と、第2の描画データ記憶部から描画データを読み出し、荷電粒子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換するショットデータ生成部と、ショットデータを用いて試料上に順次荷電粒子ビームを照射することで描画を行う描画部とを、備えている。
【0025】
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、描画データ前処理におけるショット密度や描画パターン面積密度を求める際に、すべてのチップ領域について演算するのではなく、共通するチップ領域の演算結果を再利用する。したがって、描画データ前処理に要する処理時間を短縮することができる。また、生成するショット密度や描画パターン面積密度のマップの数を減らすことができるため、データを記憶する記憶装置の容量も小さく押さえることができる。
【0026】
図1は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の概略構成図である。この電子ビーム描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。電子ビーム描画装置100は、描画部102と、この描画部102の描画動作を制御する制御部104から構成されている。電子ビーム描画装置100は、試料110に所定のパターンを描画する。
【0027】
描画部102の試料室108内に試料110を載置するステージ112が収容されている。ステージ112は、制御部104によって、X方向(紙面左右方向)、Y方向(紙面表裏方向)およびZ方向(紙面上下方向)に駆動される。試料110として、例えば、半導体装置が形成されるウェハにパターンを転写するための露光用マスクがある。また、このマスクには、例えば、まだ何もパターンが形成されていないマスクブランクスも含まれる。
【0028】
マスクブランクスは、例えば石英ガラス上に遮光膜となるクロムが塗布されている。電子ビーム描画装置のステージ112上に載置される際に、例えばレジストが塗布される。
【0029】
試料室108の上方には、電子ビーム光学系114が設置されている。電子ビーム光学系114は、電子銃116、各種レンズ118、120、122、124、126、ブランキング用偏向器128、ビーム寸法可変用偏向器130、ビーム走査用の副偏向器132、ビーム走査用の主偏向器134、及び可変成形ビームで描画するための、ビーム成形用の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138などから構成されている。
【0030】
制御部104は、第1の描画データ記憶部106、描画データ前処理部160、第2の描画データ記憶部107、ショットデータ生成部140、制御回路150を備える。
【0031】
第1の描画データ記憶部106は、試料に描画すべき描画パターンが定義された描画データが入力され、この描画データを記憶する機能を備える。描画データは全描画領域内に複数の図形が定義される。描画データは例えば半導体集積回路の回路パターンである。第1の描画データ記憶部106は、記憶媒体であれば良く、例えば、磁気ディスク等を用いることができる。本実施の形態においては、同一のチップ領域が複数配置されるレイアウトを有する描画データが入力される。
【0032】
図2は、本実施の形態の描画データ前処理部160の詳細を示す図である。描画データ前処理部160は、フォーマット検査部161、ショット密度計算部162、パターン面積密度(描画パターン面積密度)計算部163を備える。
【0033】
描画データ前処理部160は、後にショットデータ生成部140でショットデータを生成するための前処理を描画データに対して行う機能を備える。フォーマット検査部161は、第1の描画データ記憶部106に入力された描画データのフォーマットに不具合がないか等を検査する機能を備える。
【0034】
ショット密度計算部162は、描画データ中のチップ領域、または、チップ領域の集合である仮想チップ領域について、その領域内のショット密度を算出する機能を備える。算出結果は、マップデータ(以下、単にマップとも称する)として、例えば、第2の描画データ記憶部107に保存される。
【0035】
ショット密度は、描画パターンをショットに分割した後の所定単位面積あたりのショット数で表される。ショット密度のマップデータは、チップ領域または仮想チップ領域をマス目(メッシュ)で区画し、各区画にショット密度情報を持たせたデータである。ショット密度のマップデータは、例えば、描画時間の予測や、ショットデータ生成部140での並列処理の際のデータ分割の指標として用いられる。
【0036】
パターン面積密度計算部(第1のパターン面積密度計算部)163は、描画データ中のチップ領域、または、チップ領域の集合である仮想チップ領域について、その領域内の描画パターン密度(図形密度)を算出する機能を備える。算出結果は、マップデータとして、例えば、第2の描画データ記憶部107に保存される。
【0037】
描画パターン面積密度は、所定単位面積あたりの描画パターン面積である。描画パターン面積密度のマップデータは、チップ領域または仮想チップ領域をマス目(メッシュ)で区画し、各区画に描画パターン面積密度情報を持たせたデータである。描画パターン面積密度のマップデータは、例えば、かぶり効果補正や帯電補正等を実行するために用いられる。かぶり効果補正や帯電補正では、後述する近接効果補正よりも、よりマクロな領域の描画パターン面積密度情報を必要とする。したがって、ショット生成部140で描画データを分割処理する以前に描画パターン面積密度を算出することが望ましい。
【0038】
描画データ前処理部160では、複数配置される同一のチップ領域のうち、少なくとも1個のチップ領域(以下、種チップ領域とも称する)についてショット密度または描画パターン面積密度を算出する機能を備える。そして、他のチップ領域のショット密度または描画パターン面積密度については、算出した前記1個のチップ領域(種チップ領域)のショット密度または描画パターン面積密度を再利用するよう構成されている。
【0039】
第2の描画データ記憶部107は、描画データ前処理部160で処理された描画データが入力され、この描画データを記憶する機能を備える。また、上述のように、チップ領域または仮想チップ領域のショット密度や描画パターン面積密度のマップデータが保存される。第2の描画データ記憶部107は、記憶媒体であれば良く、例えば、磁気ディスク等を用いることができる。
【0040】
図3は、本実施の形態のショットデータ生成部140の詳細を示す図である。図形分配部141は、描画データに定義された図形の集合(セルともいう)を、複数の計算機により並列処理する際の単位領域となる分散処理領域毎に分配(ローカライズ)する機能を備える。分散処理領域は、例えば、1回の1方向のステージ移動で描画される範囲である描画データストライプ領域を、移動方向に対して垂直に更に細分化した領域である。
【0041】
図形分配部では、例えば、ショット密度計算部162で求められたショット密度のマップデータを参照することにより、各分散処理領域のデータ量がほぼ均等になるよう図形の集合(セル)を複数の計算機に分配する。
【0042】
図形変換部142では、分散処理領域毎に定義されたサブフィールドに各セル内の図形を分配する機能を備える。サブフィールドは、描画データの仮想チップ領域を、例えば、仮想チップ領域の左下隅を基点として、メッシュ状に分割した領域である。そのサイズは、例えば、副偏向器132の偏向幅を基準に設定される。
【0043】
また、近接効果補正用パターン面積密度計算部(第2のパターン面積密度計算部)144は、近接効果補正を行うための描画パターン面積密度を算出する機能を備える。上述のように、近接効果補正を行うためには、かぶり効果補正や帯電補正よりも、よりミクロな領域で精度の高い描画パターン面積密度情報を必要とする。このため、近接効果補正用パターン面積密度計算部(第2のパターン面積密度計算部)144では、パターン面積密度計算部(第1のパターン面積密度計算部)163と比較して、領域をより細かいマス目(メッシュ)に分割して、描画パターン面積密度を算出することが望ましい。
【0044】
近接効果補正部145では、近接効果補正用パターン面積密度計算部(第2のパターン面積密度計算部)144で算出された結果に基づき、近接効果補正量、具体的には、ショットのドーズ量を算出し、ショット変換部143にフィードバックする機能を備える。
【0045】
ショット変換部143では、各サブフィールドに分配された図形を、荷電粒子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換する機能を備える。
【0046】
制御回路150は、ショットデータ生成部140で生成されたショットデータに基づき描画部102を制御する機能を備える。
【0047】
描画部102は、ショットデータを用いて試料110上に順次電子ビームを照射することで描画を行う機能を備える。
【0048】
描画データ前処理部160、ショットデータ生成部140、制御回路150の各機能の処理は、例えば、CPU等の演算処理デバイスや電気回路等のハードウェアを用いて実施される。或いは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせを用いて実施させても構わない。
【0049】
図1〜
図3では、実施の形態を説明する上で、必要な構成部分以外については記載を省略している。電子ビーム描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれても構わないことは言うまでもない。
【0050】
次に、電子ビーム描画装置100を用いた、電子ビーム描画方法について
図1、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施の形態で採用されるベクタ走査方式(2次元走査方式)及びステージ連続移動方式の描画方法の説明図である。
【0051】
制御部104での処理を説明する前に、便宜上、描画部102の動作について
図1および
図4を用いて説明する。描画部102では、制御部104で生成されたショットデータを用いて、試料110に描画する。
【0052】
実際の描画にあたっては、電子銃116から発せられる電子ビームをビーム寸法可変用偏向器130及びビーム成形用の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138により、ビーム形状を可変に制御し、ベクタ走査方式およびステージ連続移動方式により描画処理する。
【0053】
まず、試料110上の描画すべきパターン202は短冊状の描画データストライプ204と呼ばれる領域に分割され、描画データストライプ204を更にサブフィールド206と呼ばれる領域に分割し、その内部を必要な部分のみ、
図1の第1のアパーチャ136、第2のアパーチャ138により成形された可変成形ビーム208を偏向してサブフィールド206に配置された図形207を描画する。
【0054】
本実施の形態においては、パターン202が仮想チップ領域に対応し、1回の可変成形ビーム208の照射で照射される領域がショットに対応する。
【0055】
ステージ112(
図1)を連続移動させながら描画処理が行われる。この時、副偏向器132および主偏向器134(
図1)の2段の偏向器が用いられ、サブフィールド206の位置決めは制御部104より送られる主偏向位置データに従って主偏向器134(
図1)で行い、サブフィールド206の描画は同じく制御部104より送られる副偏向位置データ、ショットサイズデータ等に従って副偏向器132で行われる。
【0056】
1つのサブフィールド206の描画が終了すると、次のサブフィールド206の描画に移る。さらに複数のサブフィールド206の集合である描画データストライプ204の描画が終了したら、X方向に連続移動していたステージ112(
図1)を、Y方向にステップ移動させる。上記処理を繰り返して各描画データストライプ領域を順次描画するようになっている。ここで、描画データストライプ204は、例えば、主偏向器134(
図1)の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、サブフィールド206は、例えば、副偏向器132(
図1)の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0057】
次に、制御部104での演算処理について説明する。
【0058】
図5は、本実施の形態で用いられるマスクのレイアウトの一例を示す概念図である。また、
図6は、本実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。
【0059】
まず、第1の描画データ記憶工程(S110)において、第1の描画データ記憶部106に、描画するパターンの基データである描画データが入力され、この描画データが記憶される。
【0060】
この描画データは、
図5に示すようなレイアウトに対応する描画データである。すなわち、同一のチップ領域が複数配置されるレイアウトを備える描画データである。レイアウト500には、レイアウト500の中心を原点Oとして、3つの仮想チップ領域PC
A、PC
B、PC
Cが配置される。
【0061】
図5の例では、仮想チップ領域PC
A内にはチップ領域Fが3個、チップ領域Gが3個配置されている。また、仮想チップ領域PC
B内にはチップ領域Gが2個配置されている。このように、同一の仮想チップ領域内に同一のチップ領域が複数配置されている。また、例えば、チップ領域Fやチップ領域Gは、異なる仮想チップ領域PC
A、PC
B、PC
Cのすべてに共通して配置されている。このように、同一のチップ領域または異なる仮想チップ領域に共通して配置されるチップ領域を種チップ領域と称するものとする。
【0062】
例えば、描画データ上では、チップ領域F、G、Hはチップデータとして記述され、レイアウトデータに、それぞれのチップ領域F、G、Hをレイアウト500のどこに配置するかの情報が記述される。例えば、チップ領域Fが仮想チップ領域PC
Aに3個、PC
Bに1個、PC
Cに1個という配置情報が描画データ中のレイアウトデータに記述される。
【0063】
次に、描画前処理部160で描画前処理工程(S120)が実行される。描画前処理工程(S120)では、仮想チップ領域のショット密度と描画パターン面積密度を算出し、それぞれのマップデータを作成する。以下、ショット密度と描画パターン面積密度の両方を算出する場合を例に説明するが、いずれか一方のみを算出する構成であってもかまわない。
【0064】
まず、種チップ領域密度計算工程(S121)において、種チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算する。ショット密度および描画パターン面積密度の計算においては、種チップ領域をマス目(メッシュ)に分割し、それぞれのマス目の区画内に入るショット数およびパターン面積を計算する。マス目は、例えば、種チップ領域の原点を基準にもうけられる。また、例えば、ショット密度は、電子ビーム描画装置100で用いられる最大ショットサイズを基礎として計算される。
【0065】
そして、この計算結果に基づき種チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度のマップ(以下、種チップマップとも称する)が生成される。なお、レイアウト500中に1個しか配置されないチップ領域も、この種チップ領域密度計算工程(S121)においてショット密度および描画パターン面積密度を計算するものとする。種チップマップは、種チップ領域の原点を基準にマス目が区切られていることになる。
【0066】
次に、仮想チップ領域密度計算工程(S122)で、仮想チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算し、仮想チップ領域のマップ(以下、仮想チップマップと称する)を作成する。このとき、レイアウト500中に複数配置される同一のチップ領域については、種チップ領域密度計算工程(S121)において作成された種チップマップを再利用する。
【0067】
図7は、本実施の形態の仮想チップ領域密度計算工程(S122)での処理の説明図である。
図7(a)に示すように、種チップ領域密度計算工程(S121)で作成された種チップマップを仮想チップ領域における配置位置に貼り付ける。種チップ領域のマス目で区切られた区画のそれぞれが、ショット密度情報または描画パターン面積密度情報を値として備えている。
【0068】
図7(b)に示すように、仮想チップマップは、仮想チップ領域の原点、例えば
図7(b)の左下角、を基準に仮想チップ領域のマス目で区切られる。このため、仮想チップ領域に貼り付けられた種チップマップの密度情報を、仮想チップマップの密度情報に読み替える処理が必要となる。
【0069】
以下、この処理手順についての具体例を示す。なお、本実施の形態では、種チップマップと仮想チップマップがともに同じサイズのマス目(メッシュ)で区切られるものとする。
【0070】
図7(b)で左側にある種チップマップの場合、種チップ領域の原点(図中の白丸)が、仮想チップマップのマス目の交点に一致する。すなわち、仮想チップ領域のマス目に対する種チップ領域の原点のオフセットがない。この場合は、種チップマップのマス目と仮想チップマップのマス目が一致する。したがって、種チップマップの各区画の密度情報を、対応する仮想チップマップの各区画の密度情報として読み替える。
【0071】
もっとも、
図7(b)で右側にある種チップマップの場合、種チップ領域の原点(図中の白丸)が、仮想チップマップのマス目の交点に一致しない。すなわち、仮想チップ領域のマス目に対する種チップ領域の原点のオフセットが生ずる。この場合は、種チップマップのマス目と仮想チップマップのマス目が一致しない。この際、いかに種チップマップの密度情報を、仮想チップマップの密度情報に読み替えるかの手順を説明する。
【0072】
第1の手順では、種チップマップのマス目の左下原点が存在する仮想チップマップの区画に、種チップマップの値をすべて加算する。この手順は処理が簡便であるという利点がある。
【0073】
別の、第2の手順では、種チップマップの区画と、仮想チップマップの各区画とが重なる面積の割合で、種チップマップの1個の区画の値を仮想チップマップの各区画に比例配分して加算する。この手順は第1の手順よりも、仮想チップマップの精度が向上するという利点がある。
【0074】
別の第3の手順では、種チップマップの区画内のショット数および描画パターン面積の重心位置を計算しておく。そして、この重心位置が存在する仮想チップマップの区画に、種チップマップの値をすべて加算する。この手順も第1の手順よりも、仮想チップマップの精度が向上するという利点がある。
【0075】
以上のように、レイアウト500中に配置されるチップ領域について、同一のチップ領域については一つの種チップマップデータを再利用する。これにより、すべてのチップ領域についてマップデータを作成するのではなく、必要最低限のチップ領域についてマップデータを作成すればよいこととなる。したがって、描画前処理部160での処理時間の短縮、作成するマップデータ量の削減が実現される。
【0076】
次に、第2の描画データ記憶工程S130において、描画前処理工程(S120)で処理された描画データや生成された密度マップデータは、第2の描画データ記憶部107入力され、記憶される。
【0077】
次に、ショットデータ生成工程(S140)では、ショットデータ生成部140において、第2の描画データ記憶部に記憶された描画データを読み出し、描画パターンが荷電粒子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換する。この際、例えば、複数の計算機によって並列処理を実行する。そして、図形分配部141a、bで複数の計算機に描画データを分割して配分する際のデータ量の見積もりに、描画前処理部160で生成されたショット密度の仮想チップマップを利用する。
【0078】
また、例えば、かぶり効果補正や帯電補正に、描画前処理部160で生成された描画パターン面積密度の仮想チップマップを利用する。また、ショットデータ生成工程(S140)では、近接効果補正用パターン面積密度計算部144、近接効果補正部145により近接効果補正も行う。
【0079】
そして、描画工程(S150)において、描画部102は、ショットデータを用いて試料110上に順次電子ビームを照射することで描画を行う。
【0080】
本実施の形態の電子ビーム描画装置または電子ビーム描画方法によれば、描画データ前処理におけるショット密度や描画パターン面積密度を求める際に、共通するチップ領域の演算結果を再利用する。したがって、描画データ前処理に要する処理時間を短縮することができる。また、生成するショット密度や描画パターン面積密度のマップの数を減らすことができるためデータを記憶する記憶装置の容量も小さく押さえることができる。
【0081】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、描画データ前処理部の構成以外は、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態の電子ビーム描画方法は、描画データ前処理部での処理以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については一部記述を省略する。
【0082】
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、描画データ前処理部160(
図1)が、複数のチップ領域の集合体である仮想チップ領域についてのショット密度または描画パターン面積密度を算出する際、仮想チップ領域を第1のマス目に分割し、同一のチップ領域を第1のマス目に対するチップ領域原点のオフセットを基準にグルーピングする機能を備える。そして、同一グループに属するチップ領域のうち、1個のチップ領域についてショット密度または描画パターン面積密度を算出し、他のチップ領域については算出した1個のチップ領域のショット密度または描画パターン面積密度を再利用する機能を備える。
【0083】
図8は、本実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。また、
図9は、本実施の形態の電子ビーム描画方法における密度計算方法の説明図である。
【0084】
まず、第1の描画データ記憶工程(S210)において、第1の描画データ記憶部106に、描画するパターンの基データである描画データが入力され、この描画データが記憶される。
【0085】
次に、描画前処理部160で描画前処理工程(S220)が実行される。描画前処理工程(S220)では、仮想チップ領域のショット密度と描画パターン面積密度を算出し、それぞれのマップデータを作成する。
【0086】
まず、チップ領域グルーピング工程(S221)において、仮想チップ領域をマス目(メッシュ)に分割する。
図9(a)は、この仮想チップ領域にチップ領域を仮に配置したイメージである。チップ領域のうち、同一のチップ領域を、マス目に対するチップ領域の原点のオフセット(メッシュオフセット)を基準にグルーピングする。
【0087】
このグルーピングは、メッシュオフセットの等しいチップ領域が、同一のグループとなるよう実行される。
図9(a)では、図中左側に示すメッシュオフセットなしのチップ領域と、右側に示すメッシュオフセット(Ox、Oy)のチップ領域は、メッシュオフセットが異なるため別のグループに属することになる。
【0088】
その後、種チップ領域密度計算工程(S222)において、各グループについて、1個の種チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算する。この際、それぞれの種チップ領域は、
図9(b)、
図9(c)に示すように仮想チップ領域のマス目、すなわち、仮想チップ領域の原点を基準とするマス目で区切られ、ショット密度および描画パターン面積密度の種チップマップが生成される。
【0089】
次に、仮想チップ領域密度計算工程(S223)で、仮想チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算し、仮想チップマップを作成する。この際、種チップ領域密度計算工程(S222)で作成された種チップマップを仮想チップ領域における配置位置に貼り付ける。
【0090】
上述のように、それぞれの種チップマップは、仮想チップ領域の原点を基準とするマス目で区切られているため、種チップマップのマス目と仮想チップマップのマス目が一致する。したがって、種チップマップの各区画の密度情報を、対応する仮想チップマップの各区画の密度情報として読み替える。
【0091】
その後、第2の描画データ記憶工程S230において、描画前処理工程(S220)で処理された描画データや生成されたマップデータは、第2の描画データ記憶部107入力され、記憶される。
【0092】
次に、ショットデータ生成工程(S240)では、ショットデータ生成部140において、第2の描画データ記憶部に記憶された描画データを読み出し、描画パターンを荷電粒子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換する。
【0093】
そして、描画工程(S250)において、描画部102は、ショットデータを用いて試料110上に順次電子ビームを照射することで描画を行う。
【0094】
本実施の形態によれば、種チップマップのマス目が、仮想チップマップのマス目と一致するため、仮想チップマップに貼り付けた種チップマップの値を振り分ける際の誤差が生じない。したがって、生成される仮想チップマップの精度が向上するという利点がある。
【0095】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、描画データ前処理部の構成以外は、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態の電子ビーム描画方法は、描画データ前処理部での処理以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については一部記述を省略する。
【0096】
本実施の形態の電子ビーム描画装置は、描画データ前処理部160(
図1)が、複数のチップ領域の集合体である仮想チップ領域についてのショット密度または描画パターン面積密度を算出する際、仮想チップ領域を第1のマス目に分割し、複数の同一のチップ領域を第1のマス目に対するチップ領域原点のオフセットを基準にグルーピングする機能を備える。そして、同一グループに属するチップ領域間で、1個のチップ領域について算出したショット密度または描画パターン面積密度を再利用する機能を備える。
【0097】
さらに、描画データ前処理部160(
図1)が、同一のチップ領域をグルーピングする際に、第1のマス目をさらに細かい第2のマス目に分割し、対応する第2のマス目にチップ領域の原点が位置するチップ領域を同一グループとする機能を備える。
【0098】
図10は、本実施の形態の電子ビーム描画方法の工程図である。また、
図11〜
図16は、本実施の形態の電子ビーム描画方法における密度計算方法の説明図である。
【0099】
まず、第1の描画データ記憶工程(S310)において、第1の描画データ記憶部106に、描画するパターンの基データである描画データが入力され、この描画データが記憶される。
【0100】
次に、描画前処理部160で描画前処理工程(S320)が実行される。描画前処理工程(S320)では、仮想チップ領域のショット密度と描画パターン面積密度を算出し、それぞれのマップデータを作成する。
【0101】
まず、チップ領域グルーピング工程(S321)において、仮想チップ領域を第1のマス目(メッシュ)に分割する。そして、
図11(a)に示すように、この仮想チップ領域にチップ領域(図では17個の同一のチップ領域)を仮に配置する。
図11(b)は、仮想チップ領域におけるチップ原点(図中白丸)の分布を示す。
【0102】
次に、チップ領域のうちの同一のチップ領域を、マス目に対するチップ領域の原点のオフセット(メッシュオフセット)を基準にグルーピングする。
図12は、17個のチップ原点のメッシュオフセットの分布を示すために、17個のチップ領域の原点を一つの第1のマス目内に集約してプロットした図である。
【0103】
図13は、
図12の第1のマス目をさらに細かい第2のマス目に分割した図である。ここでは、4分割する場合を例に説明する。グルーピングは、
図13で、第2のマス目で区切られる区画のうち同じ区画内に、チップ領域の原点が位置するチップ領域を同一グループに属するものとする。
図13の場合は、17個のチップ領域が4個のグループに分かれる。
【0104】
次に、チップ領域原点位置決定工程(S322)にて、グルーピングされたチップ領域の原点位置を決定する。この際、いかにチップ領域の原点位置を決定するかについての手順をいくつか例示して説明する。
【0105】
図14は、第1の手順の説明図である。第1の手順では、同一グループに属するチップ領域の原点の第2のマス目に対する平均オフセット(以下、単に平均オフセット)を算出する。すなわち、4分割された区画内のそれぞれで、メッシュオフセットの平均(
図14下図の黒丸)を計算する。そして、算出された平均オフセットを、同一グループに属するチップ領域の原点の共通オフセット(以下、単に共通オフセット)とする。すなわち、平均オフセットの位置が、グループ内のすべてのチップ領域の原点位置となる。
【0106】
図15は、第2の手順の説明図である。第2の手順では、第2のマス目で4分割された区画内の左下点(
図15下図の黒丸)を、該当する区画内にチップ領域原点が存在するチップ領域の共通オフセットとする。すなわち、第2のマス目の左下点の位置が、チップ領域の原点位置となる。
【0107】
図16は、第3の手順の説明図である。第3の手順では、第2のマス目で4分割された区画内の中心点(
図16下図の黒丸)を、該当する区画内にチップ領域原点が存在するチップ領域の共通オフセットとする。すなわち、第2のマス目の中心点の位置が、チップ領域の原点位置となる。
【0108】
以上、異なる第1〜第3の手順を説明した。第1の手順では、同一グループのチップ領域のオフセットを平均化して、共通オフセットとすることで、オフセットの誤差を小さくすることができる。第2の手順は第1の手順に比較して簡便であると同時にチップ領域の原点位置と、第2のマス目の交点位置が一致するためデータ処理が容易になるという利点がある。そして、第3の手順は、第2の手順と同様簡便でありながら、第2のマス目の中心点を共通オフセットとすることで、オフセットの誤差を第2の手順よりも小さくすることができる。
【0109】
その後、種チップ領域密度計算工程(S322)において、各グループについて、1個の種チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算する。
図13の場合は、17個のチップ領域が4個のグループに分かれる。したがって、4個の種チップ領域について計算して、種チップマップを生成する。
【0110】
第1の手順の場合、種チップ領域は第1のマス目に対するチップ領域原点の平均オフセットを基準にして、仮想チップ領域の原点を基準とする第1のマス目で区切られる。そして、ショット密度および描画パターン面積密度の種チップマップが生成される。
【0111】
第2の手順の場合、種チップ領域は第1のマス目の左下点を基準として、仮想チップ領域の原点を基準とする第1のマス目で区切られる。そして、ショット密度および描画パターン面積密度の種チップマップが生成される。
【0112】
第3の手順の場合、種チップ領域は、第1のマス目の中心点を基準として、仮想チップ領域の原点を基準とする第1のマス目で区切られる。そして、ショット密度および描画パターン面積密度の種チップマップが生成される。
【0113】
次に、仮想チップ領域密度計算工程(S323)で、仮想チップ領域のショット密度および描画パターン面積密度を計算し、仮想チップマップを作成する。この際、種チップ領域密度計算工程(S322)で作成された種チップマップを仮想チップ領域における配置位置に貼り付ける。
【0114】
上述のように、それぞれの種チップマップは、仮想チップ領域の原点を基準とするマス目で区切られているため、第2の実施の形態同様、種チップマップのマス目と仮想チップマップのマス目が一致する。したがって、種チップマップの各区画の密度情報を、対応する仮想チップマップの各区画の密度情報として読み替える。
【0115】
その後、第2の描画データ記憶工程S330において、描画前処理工程(S320)で処理された描画データや生成されたマップデータは、第2の描画データ記憶部107入力され、記憶される。
【0116】
次に、ショットデータ生成工程(S340)では、ショットデータ生成部140において、第2の描画データ記憶部に記憶された描画データを読み出し、描画パターンを荷電粒子ビームのショットを単位として構成されるショットデータに変換する。
【0117】
そして、描画工程(S350)において、描画部102は、ショットデータを用いて試料110上に順次電子ビームを照射することで描画を行う。
【0118】
なお、ここでは第2のマス目による第1のマス目の分割数を4分割としたが、必ずしも分割数は4分割に限られるものではない。第1のマス目の分割数は、メッシュオフセットの値が、許容される誤差の範囲内に収まるように設定されればよい。第2のマス目内で最もメッシュオフセット値が離れているもの、すなわち、第2のマス目の対角線の長さがメッシュオフセットの最大誤差となる。したがって、たとえば第2のマス目の対角線の長さが誤差の許容範囲に収まるように第1のマス目の分割数を定めれば良い。なお、許容される誤差は、描画前処理部で作成されるマップデータを使用する側のアプリケーションにより異なる。
【0119】
本実施の形態によれば、仮想チップ領域のマス目からのオフセットの近いチップ領域を一つのグループとすることで、種チップ領域の数を削減することが可能となる。よって、描画データ前処理に要する処理時間を短縮することができる。また、生成するショット密度や描画パターン面積密度のマップの数を減らすことができるためデータを記憶する記憶装置の容量も小さく押さえることができる。
【0120】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0121】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。