特許第5767145号(P5767145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5767145可視光応答型蛍光体およびその製造方法、並びにそれを含む示温性材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767145
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月19日
(54)【発明の名称】可視光応答型蛍光体およびその製造方法、並びにそれを含む示温性材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/00 20060101AFI20150730BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20150730BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20150730BHJP
【FI】
   C09K9/00 E
   C09K11/59CPC
   C09K11/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-57494(P2012-57494)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-189564(P2013-189564A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2013年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 将義
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】垣花 眞人
(72)【発明者】
【氏名】高塚 裕二
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 新規チオシリケート(Ca,Sr,Eu)8Si5S18の合成とその発光特性評価,化学工学会第77年会研究発表講演要旨集,2012年 2月15日,L302(492頁)
【文献】 新規チオシリケート(Ca,Sr,Eu)8Si5S18の合成とその発光特性,第11回東北大学多元物質科学研究所研究発表会講演予稿集,2011年,P-19(37頁)
【文献】 新規チオシリケート(Ca,Sr,Eu)8Si5S18の合成とその発光特性,平成23年度日本セラミックス協会東北北海道支部研究発表会 第31回基礎科学部会東北北海道支部地区懇話会 講演要旨集,2011年10月27日,1P25(33頁)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 9/00
C09K 11/00−11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光応答型蛍光体と透明な樹脂を含む示温性材料であって、
前記可視光応答型蛍光体が、
一般式[A2nn+14n+2]で表され、
前記一般式[A2nn+14n+2]中のnが3で
前記一般式中のAはアルカリ土類金属元素のCa、Sr及び希土類元素のEu、Bは4価金属元素のSi、Cは6価元素の硫黄で、
組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である前記希土類元素を発光中心として含み、温度によって蛍光輝度が変化する蛍光輝度の温度依存性を有する可視光応答型蛍光体、であることを特徴とする示温性材料。
【請求項2】
前記透明な樹脂が、熱硬化性を有し、かつ常温で流動性を有するシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂から選ばれる透明な樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の示温性材料。
【請求項3】
請求項1に記載の可視光応答型蛍光体の製造方法であって、
SiとSが、組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14におけるS及びSiの化学量論組成より10%から70%過剰に配合して形成した(Ca、Sr、Eu)SとSiとSの混合物、または(Sr、Eu)Sと(Ca,Eu)SとSiとSの混合物を、真空容器中で、1113K以上の温度での溶解と、その後953K以上、1053K以下の温度範囲の熱処理の2段階熱処理により結晶化された組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表される可視光応答型蛍光体を作製することを特徴とする可視光応答型蛍光体の製造方法。
【請求項4】
一般式[A2nn+14n+2]中のnが3で、(Ca1−xSrx−yEuSi14で0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005の組成式で表される結晶構造が、(Ca1−xSrx−yEu2n−1Si4nと(Ca1−xSrx−yEu)SiSとの積層構造を有することを特徴とする可視光応答型蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が上昇または下降する際に、特定の温度範囲で可逆的に色相が変化することにより、温度領域を示す可視光応答型蛍光体およびその製造方法、並びにそれを含む示温性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
温度測定装置や温度計を使用せずに、物体の温度を表示するものとして温度表示ラベルや温度に応じて色相が可逆的に変化する示温性材料が知られている。この示温性材料やそれを用いたインジケータは、色相の変化を観察することで簡便に温度を知ることができ、特に温度によって可逆的色相が変化するインジケータは、簡単に表面温度を知ることができるため、温度管理を行う機械設備、器具や商品、火傷を防止する器具や道具に貼り付けられて使用されている。
【0003】
このように使用されている示温性材料の中で、特定の温度で表面側の層が溶融することで色相が履歴温度によって非可逆的に変化するインジケータは広く使われているが、その色相の変化は、履歴温度によって非可逆的であるため、到達温度を知ることはできても、現在の温度を示していない場合もあり、利用範囲が限られていた。
このような欠点を補うべく可逆的な示温性材料の検討が行われ、水銀含有ハロゲン化錯体化合物が開発されたが、この化合物は水銀を含んでおり、人体への安全性及び環境への配慮の観点から非水銀系の材料による示温性材料が望まれていた。
【0004】
そこで、水銀非含有の可逆的な示温性材料として、例えば、特許文献1には電子供与性呈色性有機化合物とフェノール性水酸基含有化合物とアルコール性水酸基含有化合物とを成分とする示温性材料が提案され、特許文献2では溶融性物質とロイコ染料と4−ヒドロキシクマリン誘導体とを含有する示温性材料が開示されている。
そして、特許文献3には電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性有機化合物とをマイクロカプセルに内包させた示温性材料が開示されている。
さらに、特許文献4では高分子ゲルのサーモクロミズムを用いた示温性材料、特許文献5には銅のような遷移金属の錯塩化合物であるサーモクロミズム性物質を含有する示温性材料も提案されている。
また、最近では特許文献6にアルキルアンモニウム塩化合物由来の両親媒性カチオンと、金属錯体化合物とのラメラ状態の混合物からなる示温性材料が提案されてきている。
【0005】
ところで蛍光体は、蛍光灯などの発光装置やテレビ、PDPやFED等の表示装置に広く使われているが、紫外線や電子線で励起するものが多い。最近、白色LEDの進展に伴って近紫外から可視光、特に青色で励起可能な蛍光体が注目されている。
非特許文献1および2では、発光波長390〜405nmにおける発光効率が高い青緑蛍光体として、BaSiSが報告され、その発光特性が開示されている。また、非特許文献3では、ユーロピウム添加アルカリ土類金属硫化物−SiS系が報告され、ユーロピウム添加SrSiは青く発光することが示されている。
【0006】
また特許文献7にはAx−zSix+2y:B(ここで、Aは、Ca、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種以上の元素で、Bは、発光中心イオンで、CeおよびEuから選ばれる少なくとも一種以上の元素で、x、y、zは、0<x<3、0<y<3、0.001<z<0.2で表される)としてCaSi:Ce、CaSi:Eu、CaSiS:Ce、CaSiS:Eu、SrSi:Ce、SrSi:Eu、SrSiS:Ce、SrSiS:Eu、BaSi:Ce、BaSi:Eu、BaSiS:Ce、BaSiS:Euが例示され、SrSiS:CeとBaSi:Euの蛍光特性が述べられている。
特許文献8には無機EL用材料として化学式MSiS:Xと、MSiαβ:X(0.3≦α≦1、1≦β≦4)(但し、Mはアルカリ土類金属、Xは希土類金属)、BaSiS4:CeのEL膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51−44706号公報
【特許文献2】特公平2−19155号公報
【特許文献3】特開平5−32045号公報
【特許文献4】特開平5−70770号公報
【特許文献5】特開2007−169215号公報
【特許文献6】特開2009−036520号公報
【特許文献7】特開2006−104413号公報
【特許文献8】特開2007−211086号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大観光徳、大橋剛、“白色LED用青色蛍光体Ba2SiS4:CeにおけるAl添加による発光特性の改善”、第321回蛍光体同学会予稿
【非特許文献2】大橋剛、大観光徳、小林洋志、“青色蛍光体材料Ba2SiS4:Ceにおける発光特性の改善”、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.106、No.499、p.25−28
【非特許文献3】J.Olivier−Fourcade、M.Ribes、E.Philippot、P.Merle、and M.Maurind、“Proprietes de luminescence des thiosilicates alcalins et alcalino−terreux”、Material Research Bulletin、1975、Vol.10、No.9、p.975−981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般に上記に示したような有機系染料や有機系顔料等の有機化合物を用いた示温性材料は、有機化合物の耐久性が悪いため、長期安定性に欠けるという問題がある。一方、金属錯塩化合物を用いた示温性材料は、金属錯塩化合物の耐久性が良く、固有な特定の温度でのみ変色させることができるが、金属錯体、例えば臭化コバルト6水和物は水に溶けやすく耐湿性に問題がある。
【0010】
非特許文献1および2には、BaSiS:Ce3+に関する報告が主であり、その蛍光強度の温度依存性が小さいことが示され、ユーロピウム添加BaSiS(BaSiS:Eu2+)の蛍光強度の温度依存性に関してはほとんど示されていない。
一方、非特許文献3では、SrSi:Eu3+の発光特性が述べられている。しかしながら、BaSiS:Eu2+は紫外線で励起可能の青色であり、可視光で励起できない。SrSi:Eu3+は可視光でも励起できるが、黄緑色の発光であった。
【0011】
特許文献7にはAx−zSix+2y:B(ここで、Aは、Ca、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種以上の元素で、Bは、発光中心イオンで、CeおよびEuから選ばれる少なくとも一種以上の元素で、x、y、zは、0<x<3、0<y<3、0.001<z<0.2で表される)として種々の化合物が例示されているが、CaSiSの記載は無く、蛍光特性に関しても、室温におけるSrSiS:CeとBaSi:Euの蛍光特性が述べられているにすぎない。
また特許文献8には、BaSiS:Ce3+のEL特性に関しての記載のみであり他の特性の記載は無い。
このように赤色の蛍光体では、温度依存性が大きいものは知られていなかった。
【0012】
そこで本発明は、これらの課題を解決するためになされたもので、有害金属の水銀を含まず、温度に応じて従来なかった赤色系の色相を示す化合物からなる示温性材料を含む簡便な示温性材料およびそれを構成する可視光応答型蛍光体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の発明は、可視光応答型蛍光体と透明な樹脂を含む示温性材料であって、前記可視光応答型蛍光体が、一般式[A2nn+14n+2]で表され、前記一般式[A2nn+14n+2]中のnが3で、前記一般式中のAはアルカリ金属元素のCa、Sr及び希土類元素のEu、Bは4価金属元素のSi、Cは6価元素の硫黄で、組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である前記希土類元素を発光中心として含み、温度によって蛍光輝度が変化する蛍光輝度の温度依存性を有する可視光応答型蛍光体、であることを特徴とする示温性材料である。
【0014】
また、透明な樹脂が熱硬化性を有し、且つ常温で流動性を有するシリコーン樹脂、又はエポキシ樹脂から選ばれる透明な樹脂であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第2の発明は、第1の発明に記載の可視光応答型蛍光体の製造方法であって、SiとSが、組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14におけるS及びSiの化学量論組成より10%から70%過剰に配合して形成した(Ca、Sr、Eu)SとSiとSの混合物、または(Sr、Eu)Sと(Ca,Eu)SとSiとSの混合物を、真空容器中で、1113K以上の温度での溶解と、その後953K以上、1053K以下の温度範囲の熱処理の2段階熱処理により結晶化された組成式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表される可視光応答型蛍光体を作製することを特徴とする可視光応答型蛍光体の製造方法である。
【0016】
本発明の第3の発明は、一般式[A2nn+14n+2]中のnが3で、(Ca1−xSrx−yEuSi14で、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005の組成式で表される結晶構造が、(Ca1−xSrx−yEu2n−1Si4nと(Ca1−xSrx−yEu)SiSとの積層構造を有することを特徴とする可視光応答型蛍光体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る示温性材料は、温度によって蛍光輝度が変わる可視光応答型蛍光体と、熱硬化性を有すると共に常温で流動性を有する透明な樹脂とからなるもので、有害金属の水銀を含まず、温度に応じて従来なかった赤色系の色相を示し、また耐久性および耐湿性に優れた示温性材料であり、簡便な方法により製造することができ、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の(Ca1−xSrx−yEuSi14可視光応答型蛍光体の合成方法を説明する図で、合成方法のフロー図である。
図2】本発明の(Ca1−xSrx−yEuSi14可視光応答型蛍光体の合成方法を説明する図で、真空アンプル中の熱処理過程を説明する図である。
図3】実施例1のEu濃度を変えて作製した(Ca0.7Sr0.3−yEuSi14蛍光体の蛍光スペクトルを示す図である。
図4】実施例1のEu濃度を変えて作製した(Ca0.7Sr0.3−yEuSi14蛍光体のX線回折測定結果を示す図である。
図5-a】実施例2の(Ca1−xSrx−yEuSi14蛍光体の製造方法を説明する図で、製造プロセスにおける熱処理過程(温度−時間)を説明する図である。
図5-b】実施例2の(Ca1−xSrx−yEuSi14蛍光体の製造方法を説明する図で、作製した試料の各プロセスにおけるX線回折測定結果を示す図である。
図6】比較例2における(Ca1−xSrSi14のx=0.3の化学量論組成で焼成温度を変えて作製した硫化物粉末のX線回折測定結果を示す図である。
図7】比較例1における(Ca1−xSrSi14のx=0.3で、Siの仕込組成を変えて作製(a=1.5から4.5)した硫化物粉末のX線回折測定結果を示す図である。
図8】比較例3における(Ca1−xSrSi14のSr組成を変えて作製した硫化物粉末のX線回折測定結果を示す図である。
図9】実施例の蛍光体の蛍光スペクトルの温度依存性を示す図で、実施例1(実施例3の塗布用樹脂A)の(Ca1−xSrSi14蛍光体、実施例3の塗布用樹脂Bに用いた蛍光体(実施例3B)、比較例5の蛍光体の蛍光スペクトルの温度依存性を示している。
図10】(Ca1−xSrSi14蛍光体の結晶構造を示す図である。
図11】比較例4の(Ca、Sr、Eu)Sの蛍光測定結果を示す図である。
図12】実施例1の(Ca1−xSrx−yEuSi14の粒子の形状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の示温性材料はこれらの形態に限定されるものではない。
【0020】
[示温性材料となる蛍光体]
本発明者らは、温度によって蛍光輝度が変わる可視光応答型蛍光体として鋭意検討した結果、一般式[A2nn+14n+2]で表され、一般式中のAはアルカリ土類金属元素及び希土類元素(賦活元素)、Bは4価金属元素、Cは6価元素、希土類元素を発光中心として含む蛍光体で、さらにAは少なくともSrとCaを含み、BはSi、Cは硫黄、希土類元素はEuである事が好ましく、なおさらに一般式[A2nn+14n+2]は、(Ca1−xSrx−yEuSi14の組成式で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体が特に有用であることを見出した。
【0021】
この新規蛍光体は、図3に示すように、近紫外(350nm)から可視光(550nm)で励起可能であり、赤色系の蛍光を発光し、且つ図9に示すように発光する蛍光強度が、常温290K(17℃)のときの蛍光強度を100とした場合、323K(50℃)で約50%、348K(75℃)で約25%、373K(100℃)で約10%、423K(150℃)では5%未満に低下し、その色相が赤色から白色に変化するものである。
すなわち、この蛍光体を印刷可能な透明な樹脂材料と組み合わせる、例えば混合し、練込み、その後温度測定対象物に塗布することにより、可逆的な示温性材料として使用することができることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0022】
本発明に係る示温性材料は、その励起特性から可視光でも使用可能であるが、図3の励起スペクトルからわかるように、励起波長300nmと550nm、特に400nmから500nmの光を含む照明の下で使用することが特に有効である。
【0023】
[示温性材料を構成する蛍光体:一般式((Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005)である蛍光体の製造方法]
本発明に係る示温性材料を構成する一般式((Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005)である蛍光体は、以下の工程により製造する。
【0024】
その合成手法を図1にまとめて示す。
まず、錯体重合法による前駆体を作製し、得られた前駆体の炭酸塩を硫化水素ガスにより還元硫化し、得られた硫化物を、所定量のSiとSと混合してアンプル封入後、2段階熱処理を行うことで製造することができる。
以下に各工程別に詳細に説明する。
【0025】
[第1工程:錯体重合法により前駆体(炭酸塩)を作製する工程。希土類元素のEuが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)COの作製]
第1工程として、図1に示すようにEuが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)COを錯体重合法により作製する。
まず、初めに酢酸ストロンチウム、酢酸カルシウムおよび酢酸ユーロピウムを、水に溶解する。その溶解液、それぞれを所定の組成式の成分比となるように混合して室温で攪拌し、錯化剤のクエン酸を加えて、323K(50℃)から353K(80℃)の温度範囲において、30分から1時間攪拌して錯化し、その後プロピレングリコールを加えて、353K(80℃)から423K(150℃)の温度範囲に保ちながら5時間から12時間攪拌してエステル化して有機物前駆体を得る。
【0026】
その得られた有機物前駆体を723K(450℃)で酸化分解し、その後1023K(750℃)から1223K(950℃)で焼成して、Euが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)COを作製する。
ここで得られる焼成物の前駆体(Euが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)CO)は、一部炭酸塩が分解し酸化物と炭酸塩の混合相である。
【0027】
なお、錯化後に加えたプロピレングリコールに替えて、エチレングリコール等のグリコールあるいはポリビニルアルコールを使用することもできる。また、錯化剤として加えるクエン酸に替えて、リンゴ酸や酒石酸等を使用することもできる。出発原料としてのユーロピウム原料は、炭酸塩や硝酸塩を使用しても良い。また、ストロンチウム源としては硝酸塩や炭酸ストロンチウムをクエン酸、リンゴ酸や酒石酸等に溶解したものを用いても良い。
【0028】
[第2工程:前駆体の炭酸塩を硫化水素ガスによる還元硫化する工程。ガス還元硫化法でEu添加(Ca、Sr)Sを作製]
次に、第1の工程で作製した前駆体のEuが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)COを、HSを10%含む不活性ガス中で、ガス還元硫化してEuが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)Sを作製する。
【0029】
その条件として、ガス還元硫化温度は1173K(900℃)〜1248K(975℃)の範囲が好ましく、特に1213K(940℃)〜1233K(960℃)が好ましく、硫化時間は2時間から10時間が好ましい。
【0030】
還元に用いたガスのHS濃度は、1%から50%の範囲で硫化することができるが、50%を超えるHS濃度では配管やガスパッキンの劣化原因になるため、取り扱いにくく、また1%未満では硫化に必要とするHSを流すために大流量とすることが必要であったり、あるいは長時間処理が必要になったりするので好ましくない。そこで、硫化の効率の点からは、反応条件により適宜変わるが、概ね、必要とされる硫黄量の1.5倍から6倍モル、より好ましくは3倍から5倍モルのHSガスを流すことが実用面で好ましい。
【0031】
ここで用いる不活性ガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。
なお、合成に使用する容器は、グラファイト、ジルコニア、アルミナ等の酸化物やBN等の耐熱容器を用いることが出来るが、高温ではアルミナが還元され、不純物が多くなるのでグラファイトやジルコニアが好ましい。
【0032】
また、この硫化は不活性ガス中にCSを10%から50%含んだ雰囲気中で、1173K〜1248K(900℃〜975℃)、1時間から4時間、より好ましくは1.5時間から3時間処理して硫化物を作製してもよい。この場合に用いる不活性ガスは、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。なお、不活性ガスとしてはアルゴンガスのほか窒素を用いることもできるが、高温で窒素を用いることは、窒化物が形成されることがあるため好ましくない。
【0033】
使用する二硫化炭素や不活性ガスの温度は、288K(15℃)以上、319K(46℃)未満、特に293K〜298K(20℃〜25℃)が好ましい。
すなわち、288K(15℃)未満では不活性ガスに含まれる二硫化炭素の濃度が低くなり、還元硫化が進まないため好ましくなく、319K(46℃)以上では二硫化炭素の沸点以上となって蒸発量の制御が難しく、均一な還元硫化が難しくなるため好ましくない。
この不活性ガス中に二硫化炭素(CS)を含ませる方法としては、不活性ガスを液体の二硫化炭素中に通し、Arガス中に気化した二硫化炭素を含ませる方法が好適に利用できる。
【0034】
なお、Euが均一に分散したEu添加(Ca、Sr)Sを用いることが好ましいが、Euが均一に分散したEu添加CaSとEuが均一に分散したEu添加SrSの混合物を用いても一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、かつ0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体の合成は可能である。
その場合は、Euが均一に分散したEu添加CaSとEuが均一に分散したEu添加SrSをそれぞれ別々に作製する。作製する条件は、上記のEu添加(Ca、Sr)Sを作製する場合と同じでよい。
【0035】
[第3工程:真空アンプル法によるチオシリケートの作製。一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005であるアルカリ土類金属チオシリケート蛍光体の作製]
第2工程により得られたEu添加(Ca、Sr)Sに、Si粉末と硫黄を加えて混合し、その後、圧縮成型してペレットを作製する。加えるSi粉末と硫黄のモル比は1:2として、0.2から0.5MPaの圧力で圧縮成型行うと良い。
【0036】
続いて、ペレットをアンプルに入れて油回転型真空ポンプでアンプル内を真空に引き、酸素−水素バーナーで加熱して真空封入する。真空度は、1Paから10Pa程度とする。
【0037】
次に、アンプルの破裂による危険防止のため、このアンプルを金属パイプに入れてボックス炉で焼成する。
その焼成条件は、図2の熱処理過程に示すように、「室温から673K(400℃)への昇温」、「673K(400℃)から溶解温度への昇温」、「溶解温度で長時間焼成」、「溶解温度から再結晶化温度までの冷却」、「再結晶化温度での保持」、「炉内で冷却(炉冷)」の6ステップのヒートパターンで蛍光体を作製するものである。
【0038】
図2に示すように、6ステップのヒートパターンを踏まえる理由は、蒸気圧の高い硫黄を含むために、室温から硫黄が蒸発するまで、約673K(400℃)までは、ゆっくり温度を上昇させる(昇温時間は約2時間が好ましい)。
さらに硫黄とSiを反応させるためにその反応温度まで10時間かけて上昇させる。
溶解温度は、試料が溶解すればよいが、実際には1113K(840℃)以上とするが、1273K(1000℃)を超えるとアンプルと試料が反応する恐れがあるので好ましくない。
【0039】
図5−aは、(Ca1−xSrx−yEuSi14蛍光体の製造プロセスにおける熱処理過程(温度−時間)を説明する図で、図5−bは、それぞれのプロセスで作製した試料のX線回析結果を示すものである。
図5−aのプロセス1では、室温から2時間で673K(400℃)まで昇温し、次に10時間かけて1123K(850℃)まで昇温して、その温度に24時間保持後、5時間かけて1023K(750℃)まで冷却し、その温度に10時間保持後、炉冷するプロセスにより、図5−bに見られるように(Ca1−xSrx−yEuSi14で表される蛍光体を高純度で得られた。
プロセス4に示すように1123K(850℃)まで昇温せずに、1023K(750℃)への昇温後、その温度で保持続けた場合では、図5−bからもわかるように不純物相が多く見られた。
【0040】
プロセス3のように、1123K(850℃)から1023K(750℃)までの冷却を15時間かけて緩速に行った場合では、結晶性が低く不純物が多く見られた(図5−b参照)。
以上の結果から、溶解プロセスと再結晶化プロセスを分けて、2段階熱処理を行うことが有効であることが分かる。
【0041】
さらに、プロセス2に示すように、プロセス1における1023K(750℃)で10時間の保持の代わりに973K(700℃)の温度で保持すると、図5−bから明らかなように、一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表される蛍光体は得られるが、一部不純物相であるSrSiが含まれていることがわかる。保持温度をさらに下げて953K(680℃)未満にすると、不純物相が更に多くなるので好ましくない。また、再結晶化温度が1053K(780℃)以上では再結晶化しにくいので好ましくない。
溶解時間は、12時間未満では反応が不十分であるため12時間以上とするのが好ましい。24時間で良好な粉末が得られる。
なお、Siの原料としては金属シリコーンを用いることが好ましく、SiSを用いた場合には既知のCaSiが生成することがある。これは金属Si粉と硫黄粉末を混ぜた方がSiの拡散が容易になるためと思われる。
【0042】
次に、Siと(Ca、Sr、Eu)の比(Si/(Ca、Sr、Eu))の仕込組成を検討した。
(Ca1−xSrx−yEuSi14の化学量論組成で仕込んだ場合、図6に示すように1023K(750℃)を超えると目的相である(Ca1−xSrx−yEuSi14が得られず、異相の混合相しか得られなかった。
また、1023K(750℃)や973K(700℃)では、目的相の(Ca1−xSrx−yEuSi14相は得られるが、不純物相の混相になり、化学量論組成で仕込んでも単相の結晶は得られないことがわかる。
【0043】
従って、目的相(Ca1−xSrx−yEuSi14を効率的に作製するための仕込組成の検討に、一般式[A2nn+14n+2]中のnを3としてSiとSの最適量を検討した。
すなわち、(Si/(Ca、Sr、Eu))仕込組成を、6(Ca0.7Sr0.3S)+aSi+2aS=(Ca0.7Sr0.3Si2a+6とした結果、図7のX線回折パターンに示すように、aが4未満(たとえばa=3.0)ではSiが足りないため目的の結晶相が形成できず、a=4.2(1.05倍)では不純物相が僅かに存在し、aが5.4(1.35倍)を超え、6.0(1.5倍)では不純物相はないことが分かる。またaが6.6(1.7倍)を超えるとSi量を増加させすぎて不純物相が混じることが分かる。そのため(Si/(Ca、Sr、Eu))仕込組成は(Ca、Sr、Eu)をn=3とした場合、aは理論量の10%増から70%増が好ましい。また35%増から70%増がより好ましく、50%増が特に好ましい。すなわち、目的相(Ca1−xSrx−yEuSi14を効率的に作製するためには、SiとSの仕込組成は一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14の化学量論組成より10から70%過剰に混合、特に50%過剰に混合することが好ましい。
【0044】
このように、本発明の(Ca1−xSrx−yEuSi14は、SiとSが過剰な組成で効率よく形成される。これは(Ca1−xSrx−yEuSi14とSiSは、1123K(850℃)で液相を形成し、約1023K(750℃)では固相線以下になると共に抱晶反応により(Ca1−xSrx−yEuSi14が析出するためと考えられる。
なお、Siの硫化物SiSは揮発しやすいためCS−ArやHS−Arのガス流通下ではSiが不足しやすくなり合成することが難しい。そのため、真空容器に封入する真空アンプル法などの密閉された状態での合成が好適である。
【0045】
上記工程により作製したEuが均一に分散した一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005の蛍光体粉末について、X線回折による組成の同定を行い以下の知見を得た。
上記の結果からSiSを50%過剰にして、CaとSrの比を変え図2のプロセスで硫化物を作製した。図8にXRD回折結果を示す。図8からSrがCaに対して10%(x=0.1)では、(Ca1−xSrx−yEuSi14が形成されていない。x=0.2や0.25では、不純物相が共存し、x=0.3や0.4で単相になっている。x=0.5では再び不純物相が共存している。これからSrはCaに対してxが0.15より多く0.6未満であることが好ましく、xが0.3から0.4で特に好ましい。
【0046】
このSrが30%(x=0.3)のXRD回折結果は、本発明の目的相である(Ca1−xSrx−yEuSi14結晶相を示している。
この相の単結晶を合成し結晶構造を解析した。その結果を図10に示す。
この構造解析結果から、従来の赤色蛍光体のCaSiSとは異なる結晶であることが明確になった。
【0047】
この構造をさらに検討した結果、(Ca1−xSrx−yEu2nSin+14n+2に一般化できることが分かった。
本発明の蛍光体は、一般式(Ca1−xSrx−yEu2nSin+14n+2のn=3に相当し、不純物として析出した相に、n=4に相当する一般式(Ca1−xSrx−yEuSi18が存在している。
さらに図10に示すようにa軸方向に(Ca1−xSrx−yEu2n−1Si4nと(Ca1−xSrx−yEu)SiSとの積層構造になっており、(Ca1−xSrx−yEu2n−1Si4nはCaが多く、層間の(Ca1−xSrx−yEu)SiSには、SrやEuが多い。
従ってCaだけでは、この結晶構造は作ることができず、特定のSrやEu濃度範囲(0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005)でのみ結晶が安定になると思われる。
【0048】
また、上記の第1から第3工程により得られた本発明のEuが均一に分散した一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体粉末について、蛍光特性を測定して、以下の知見を得た。
【0049】
図3に本発明の一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体の一例として(Ca0.7Sr0.3−yEuSi14のEu濃度依存性を示す。
図3から350nmから520nmで励起可能であり、発光波長が610nmから625nmの赤色系発光を示すことがわかる。
本発明の蛍光体の励起発光特性を既存蛍光体SrS:Eu、(Sr0.25Ca0.75)S:Eu、CaS:Euと比較すると発光ピーク波長は、SrS:Euに近いことがわかる。
しかし励起特性は、本発明の蛍光体では既存蛍光体では励起できない400nmでも励起可能であり、既存蛍光体で励起する500nmでの励起は小さい。これは500から600nmの光(緑や黄色)の吸収が既存蛍光体より少ないことを示唆している。緑や黄色の蛍光体と混合して使用する場合には緑や黄色の発光を再吸収することがないので使いやすい蛍光体といえる。
【0050】
また図3に示されるように、Eu濃度で発光形状が変化する。
本発明の蛍光体としてはEu濃度は0.5%以上20%未満である。Eu濃度3%以上では単一ピークで特に好ましいが、1%以下では2つ発光のピークが形成される。示温剤としては単一ピークが好ましいのでEu濃度は1%を超える濃度が好ましい。また20%以上であると濃度消光を示すので20%未満が好ましい。
【0051】
次に、本発明の一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体の温度消光を測定した結果を図9(実施例1)に示す。
図9から室温290K(17℃)の時の蛍光強度を100とした場合、323K(50℃)で約47%、348K(75℃)で22%、373K(100℃)で10%、423K(150℃)では5%未満と低下していることが分かる。
なお、473K(200℃)ではほとんど発光が見られない。これから示温性材料として適した温度特性を示していることが分かる。
【0052】
すなわち、本発明の一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体は、発光波長375nmの近紫外LED(ナイトライド・セミコンダクター株式会社製:NS375L‐ERLM)を照射すると温度が室温程度の低温であると赤色であるが、温度上昇と共に白く色相が変化し、150℃以上で完全に白色となる。
【0053】
また、上記工程で得られる一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体粉末は、溶解して再結晶化させているため塊状である。これは乾式、あるいは湿式ボールミルなどで解砕することが好ましい。しかしながら、強く解砕すると蛍光体に欠陥が生じて、かえって蛍光輝度が低下するため適度に粉砕圧を調整する必要がある。
蛍光体粒子の粒径は0.1〜30μmが好ましく、0.5〜10μmが更に好ましい。0.1μm未満では粒径が小さいことにより流動性や、分散性が悪いため、透明な樹脂と均一に混合することは難しい。30μmを超える粒径では樹脂に混ぜたときに沈降して樹脂と均一に混合しないため好ましくない。また塗布後に凹凸が大きく表面の平坦性がなくなり、発光が不均一となるため好ましくない。
【0054】
さらに、一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体粒子の耐環境性や樹脂との相溶性を改善するため、金属酸化物皮膜の形成やカップリング剤の添加などの表面処理を施しても良い。
【0055】
本発明の示温性材料は、蛍光体を透明な樹脂に練り込むことにより樹脂組成物を調製し、それを温度測定対象物である基材へ印刷して吸着、吸収、または塗布させることによって、その基材の温度を表示する示温性材料として使用するものであり、蛍光体を含有する樹脂組成物は、熱硬化性を有するとともに常温で流動性を有するシリコーン樹脂、2液硬化型のエポキシ樹脂から選ばれる透明な樹脂に練り込んで使用する。さらに、インキ用樹脂とインキ用溶剤に混合して、インクとして塗布しても良い。
【0056】
用いるシリコーン樹脂には、LEDなどで使われる2液エストラマタイプの半導体用シリコーン樹脂が使用できる。
また、エポキシ樹脂には、LEDなどで使われている(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂などが好適である。
【0057】
また、本発明にかかる可視光応答型の一般式(Ca1−xSrx−yEuSi14で表され、0.6>x>0.015、0.2>y≧0.005である蛍光体を、インク組成物として使用することも可能である。このインク組成物は、蛍光体に、インキ用樹脂とインキ用溶媒とからなるビヒクルや、添加剤を添加して調製したものである。ビヒクルや添加剤の構成成分やその量は、印刷方法や、インキ組成物の物性を考慮して、適宜調整して使用することができる。
本発明の示温性材料に添加物として、温度に応じた示温性材料の色調の変化を際立たせたり、目視し易い色調に整えたりする調整顔料等を適宜添加しても良い。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を示して更に本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0059】
《(Ca1−xSrx−yEuSi14、x=0.30、y=0.005〜0.10の作製:(Ca0.7Sr0.3−yEuSi14
[第1工程:錯体重合法により前駆体(炭酸塩)を作製する工程]
酢酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)と、酢酸ストロンチウム0.5水和物(和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解して其々1モル/Lの溶液と、酢酸ユーロピウム(和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解して0.2モル/Lの溶液を作製した。
これら溶液をCa:Sr:Euのモル比が70:30−Y:Yになるように混合して原料溶液とした。Yは0.5、1、3、5、8、10の6条件とした。
【0060】
次に、各溶液をホットプレート上で353K(80℃)に加熱して、クエン酸(和光純薬工業株式会社製98%)を金属モル数の6倍加え1時間攪拌して錯化した。さらにプロピレングリコール(関東化学株式会社製99.5%)を金属モル数の12倍加え、120℃で3時間攪拌して脱水縮合を行った。
得られたゲルを、マントルヒーターで723K(450℃)に加熱し、ゲルを熱分解させて前駆体粉末を作製し、この前駆体粉末をメノウ乳鉢で軽く粉砕した後、アルミナの坩堝に入れて1023K(800℃)で2時間処理して前駆体のEuが均一に分散した(Ca1−xSrx−yEu)COを作製した。
【0061】
[第2工程:前駆体の炭酸塩を硫化水素ガスによる還元硫化する工程]
その後、第1工程で作製したEuが均一に分散した(Ca1−xSrx−yEu)COである焼成物を、アルミナのボートに入れて管状炉に装入し、HSを10%含むArガス中で還元硫化した。ガス還元硫化条件は、温度1223K(950℃)で5時間行い、ガス還元硫化中HSの使用量は金属成分の合計モル数の5倍モルになるように調整した。
【0062】
[第3工程:真空アンプル法によるチオシリケートの作製]
次に、第2工程で得られた(Ca1−xSrx−yEu)S粉末と、市販のSi粉末と硫黄粉末を、(Ca1−xSrx−yEuSi14の化学量論組成に対してSi、Sの仕込量が、それぞれ50%過剰となるように秤量した。その試料をメノウ乳鉢で20分間混ぜ合わせた混合物を、ハンドプレスを用いて2MPaまで加圧し、φ12mmの成型体(ペレット)を作製した。
【0063】
その成型体を石英アンプルに真空封入し、この石英アンプルを金属製パイプに入れて図2に示す熱処理条件で1173K(900℃)、24時間、その後5時間で1023K(750℃)に下げて、その温度で10時間保持して、Eu濃度の異なる6種類の試料を作製した。
そのX線回折(XRD)結果を図4に示す。図4から全ての試料で(Ca1−xSrx−yEuSi14の単相が得られた。
【0064】
その蛍光体測定結果を図3に併せて示す。
すべての試料において350nm以上、500nm以下で励起可能であった。
Eu濃度が1%と0.5%の試料では、550nm付近に発光が見られた。Eu濃度が3%から10%では、610nmから623nmの赤色系発光を示した。さらに、Eu濃度が10%までは、Eu濃度と共に発光強度が増加し、最大でYAG:Ce(p46)比0.28となった。
【0065】
Eu濃度が10%の試料における蛍光の温度依存性を測定した。その結果を図9(実施例1)に示す。
図9からは、室温290K(17℃)の時の蛍光強度を100とした場合、323K(50℃)で約47%、348K(75℃)で22%、373K(100℃)で10%、423K(150℃)では5%未満と低下していることが分かる。なお、473K(200℃)ではほとんど発光が見られない。これから示温性材料として適した温度特性を示していることが分かる。
【0066】
溶解、再析出させて作製したEu濃度10%の試料の粒子は脆く、簡単に粉末化できた。SEM観察結果を図12に示す。
図12のSEM写真からは、目視にて20〜30μm程度の粒子であることが分かる。
【実施例2】
【0067】
熱処理プロセスを図5−aに示すように、プロセス1では溶解温度1123K(850℃)、再結晶化温度1023k(750℃)、プロセス2では溶解温度1123K(850℃)、再結晶化温度973K(700℃)、プロセス3では溶解温度1123K(850℃)、溶解温度保持後15時間で1023K(750℃)に冷却、プロセス4では溶解温度1023K(750℃)、再結晶化温度1023K(750℃)とした以外は、実施例1と同じ条件で蛍光体を作製して、そのX線回折(XRD)を測定した。
その測定結果を図5−bに示す。
【0068】
図5−bから、プロセス1と2で相純度が高く、特にプロセス1は単相であった。一方、プロセス3及び4では、不純物が多いことが分かった。
また、プロセス1、2の試料は、364nmのUV光を照射して赤色の蛍光を示すことを確認した。
【0069】
(比較例1)
[(Ca1−xSrx−yEuSi2a+6、x=0.30、y=0の作製]
比較にSiが過剰添加量の場合について比較例1に示す。
第3工程の真空アンプルの熱処理温度を1023K(750℃)として、SiとS添加量が、Ca:Sr:Eu:Si:S=4.2:1.8:0:a:2×a+6としてaが3.0、4.2、5.4、6.0、6.6、7.8、9.0の7条件になるようにした以外は、実施例1と同じ方法で7種類の試料を作製した。
【0070】
それらのX線回折(XRD)結果を図7に示す。
図7からは、a=1.5では、(Ca1−xSrx−yEuSi14が形成できないことがわかる。
a=4.2と5.4、6.6、7.8、ではわずかに異相が見えたが(Ca1−xSrx−yEuSi14が主相であり、a=6.0では(Ca1−xSrx−yEuSi14が単相になった。a=9.0では不純物相が多くなっているのがわかる。
【0071】
(比較例2)
[(Ca1−xSrx−yEuSiS1、x=0.30、y=0の作製でSi過剰なしの場合]
第1工程で調製する原料液のアルカリ土類金属およびEuの各成分において、Ca:Sr:Euのモル比が7:3:0としてとして(Ca0.7Sr0.3)Sを作製し、第3工程の真空アンプルの熱処理温度を973K(700℃)、1023K(750℃)、1073K(800℃)、1123K(850℃)の4条件として24時間行った以外は、実施例1と同じ条件で試料を作製した。
【0072】
そのX線回折(XRD)の測定結果を図6に示す。
図6から、1073K(800℃)、1123K(850℃)では、(Ca1−xSrx−yEuSiが形成されず、また973K(700℃)、1023K(750℃)では(Ca1−xSrx−yEuSiS1のピークは見えるが不純物が生成した。
【0073】
(比較例3)
[(Ca1−xSrx−yEuSi、x=0.1から0.5、y=0の作製でSi過剰50%の場合]
第1工程で調製する原料液のアルカリ土類金属元素およびEuの各成分において、Ca:Sr:Euのモル比が1−X:X:0としてX=0.1、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5として(Ca、Sr)COを作製した以外は、実施例1と同じ条件で試料を作製した。
【0074】
そのX線回折(XRD)の測定結果を図8に示す。
図8から、X=0.1以外は(Ca1−xSrx−yEuSi14相を含んだ硫化物が得られた。x=0.3は単相であった。
SrとEuはイオン半径は同程度であり、結晶構造に与える効果は同じであると考えられるために行った比較例である。
【0075】
(比較例4)
Ca:Sr:Euを1−x:x−0.002:0.002として、実施例1の第2工程でx=0、0.15、0.25の3種類の(Ca1−xSrx−yEu)Sを作製した。
この蛍光体の蛍光測定を行った。その結果を図11に示す。
中間物の硫化物の蛍光特性は、本発明の実施例の励起発光特性(図3)と異なることがわかる。
【0076】
(比較例5)
Ca:Sr:Euを95:0:5として(Ca0.95Eu0.05)Sを作製し、(Ca0.95Eu0.05)SとSiSの比を2:1、第3工程の真空アンプルの熱処理温度を1073K(800℃)で24時間行った以外は、実施例1と同じ条件で試料を作製した。
【0077】
そのX線回折(XRD)からCaSiS単相であることが分かった。
そこで、この試料の蛍光の温度依存性を測定し、その結果を図9(比較例5)に示す。
図9から室温290K(17℃)の時の蛍光強度を100とした場合、323K(50℃)で約90%、373K(100℃)で80%、423K(150℃)では62%未満と低下していることが分かる。なお、473K(200℃)で35%であった。
この蛍光強度の挙動から473K(200℃)まで示温性材料としては適していないことが分かる。
【実施例3】
【0078】
[示温性材料の作製および評価]
上記手順により作製された(Ca0.7Sr0.2Eu0.1Si14、蛍光体を393K(120℃)の真空乾燥機にて1時間処理し、混錬機(「泡取り錬太郎」;株式会社シンキー製AR−250)を用いて熱硬化性を有すると共に、常温で流動性を有する透明な樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名:JCR6175)50重量部に、この蛍光体50重量部加え、攪拌4分、脱泡2.5分を行って、塗布用樹脂Aを得た。
【0079】
次に、作製した(Ca0.9Eu0.1Si18蛍光体を、393K(120℃)の真空乾燥機にて1時間処理し、混錬機(「泡取り錬太郎」:株式会社シンキー製AR−250)を用いてエポキシ樹脂100重量部(日本ペルノックス株式会社製、商品名:ME-562)に酸無水物系硬化剤60重量部(日本ペルノックス株式会社製、商品名:HV-562)と該蛍光体80重量部を加え、攪拌4分、脱泡2.5分を行って、塗布用樹脂Bを得た。
【0080】
この示温性材料を含んだ塗布用樹脂Aを、Al基板に塗布し、熱風乾燥機で423K(150℃)の温度で2時間加熱して硬化接着させた。
塗布用樹脂Bを、Al基板に塗布し、熱風乾燥機で423K(150℃)の温度で16時間加熱して硬化接着させた。
硬化後の蛍光特性に変化は無く、温度特性も蛍光体粒子の場合と同じであった。(この試料の蛍光の温度依存性は図9(実施例3B)参照。)
【0081】
示温性の効果を確認するため、本発明の示温性材料を含んだ樹脂を塗布したAl基板を加熱し、色の変化を見たところ、発光波長375nmの近紫外LED(ナイトライド・セミコンダクター株式会社製:NS375L‐ERLM)を照射すると温度が低い状態では赤であるが、温度上昇と共に白くなり150℃以上で白となることを確認した。また温度が低下すると元の色に戻り、繰り返し使用できることも確認した。
【0082】
しかし、比較例4、5で作製した蛍光体を用いた場合は、423K(150℃)でも白色にはならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の方法によれば、励起光が350nmから520nm程度の波長においては、実用的に十分な輝度を有しているため、示温性材料への利用のみならず、波長375nm近傍の近紫外LEDや波長400nm、波長450nmで赤色発光する蛍光体としての利用も可能である。
図1
図2
図3
図4
図5-a】
図5-b】
図6
図7
図8
図9
図11
図10
図12