(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
管体の内部空間に挿入される電線導体を圧着接合するための管体かしめ部を有する端子の展開図形状を有する端子材であって、前記端子材が管体かしめ部を形成する管展開部を有してなり、前記管展開部のそれぞれの端部に、硫化処理に付した厚さ1μm以下のAg層を有してなる端子材。
銅又は銅合金板材から、管体の内部空間に挿入される電線導体を圧着接合するための管体かしめ部を有する端子の展開図形状に端子材をプレス打ち抜きすることで、前記端子材に、管体かしめ部を形成する管展開部を設ける工程、
前記管展開部のそれぞれの端部に厚さ1μm以下のAg層を設けた後、このAg層に硫化処理を施す工程
をこの順に有してなる、端子材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に示す実施形態は一例であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0014】
本発明によれば、
図1に断面模式図で示すとおり、端子材の管体かしめ部(後述の
図2、30)を形成する管展開部(101)の各々の端部(100)(すなわち、管展開部が端子材の基材から管展開部での幅方向に張り出した端部)上に硫化処理に付したAg層(102)を設けることによって、レーザ光の吸収性が向上し(レーザ光の反射率が低下されて)、レーザ溶接を効率的に行うことができる。
【0015】
本発明者らは、銅又は銅合金板材からプレス加工によって打ち抜いた端子材において、その管展開部(101)の端部(100)の端面の形状を検討した。その結果、前記端面の形状は、プレス切断した切断開始側から順に、だれ面、せん断面、破断面、バリの4つの領域によって構成されていることがわかった。
このように前記端面は複雑な形状を有しているが、その上に硫化処理に付したAg層(102)を例えば銀めっき処理を施した後に硫化処理を施すことで設けることによって、
図1に模式的に示したように前記端面の全体を平滑であり、かつ、レーザ光吸収性が高い状態にすることができる。そして、このように前記端面を平滑であり、かつ、レーザ光吸収性が高い状態とすることによって、レーザ光照射時にレーザ光の吸収率を高く(レーザ光の反射率を低く)することによって、効率的にレーザ溶接を行うことができる。
そして、このように管展開部端部を平滑な状態にした場合、レーザ光が効率よく当てられるために溶接性が向上することに加えて、溶接後の接合強度も増大することがわかった。
【0016】
ここで、銅又は銅合金製の端子材に硫化処理に付したAg層を設けると、硫化処理に付された銀は硫化銀となっていてレーザ光の波長領域に対するレーザ光吸収率が高い(レーザ光反射率が低い)ため、レーザ溶接性が大幅に向上する。この理由は、硫化銀は黒色を呈するために、レーザ光の波長域における吸収率が高い為と考えられる。Ag層は、硫化処理によって全体が硫化して硫化銀になっていても良く、内部の一部に硫化せずに残留した金属銀があっても良い。
その作用としては、次のように考えられる。まず硫化処理に付したAg層の硫化銀がレーザ光のエネルギーによって溶融する。ついで、溶融した硫化銀から熱エネルギーが伝播してその直下の基材の銅(Cu)が溶融する。レーザ光照射後には前記溶融した金属銅が金属銀とともに凝固し、接合が完了する。
この際、硫化処理に付したAg層の硫化銀は、レーザ光の照射によって溶融して、基材の銅又は銅合金の銅(Cu)成分とCu−Ag合金を形成して、基材の溶接部に取り込まれていると思われる。このようにレーザ溶接された後の溶接部はCu−Ag合金化するので、溶接部の材料強度が高く、その後の加工に強く良好な加工を行うことができる。なお、溶融部の外側まで硫化銀が付着していても良く、この場合は、銀の一部は基材中に取り込まれずに表面に残留する。
【0017】
本発明においては、このように溶接しようとする部分であるプレス加工端面を含むように、前記管展開部の端部に硫化処理に付したAg層を設ける。
また、めっきは、少なくともプレス打ち抜き加工した端子材の管展開部(101)の端面に付着していれば良いが、端子材の全面がめっきされていても良い。この内の、全面にめっきを施す場合は、プレス打ち抜き加工した端子材全体をめっき浴に浸漬してめっきを行う。一方、端面のみにめっきを施す場合は、めっきが不要な部分にマスクをしてからめっき浴に浸漬してめっきを行っても良い。
さらには、かしめ部(30)を形成する管展開部(101)の端部(100)を一旦馬蹄形状(∩状)に中間成形し、馬蹄形の両足に相当する両端部のみをめっき浴に浸漬することで、管展開部の端面とその周囲のみに部分めっきを行うことも可能である。この場合は、めっき完了後に、管展開部の端部が管状になるように再度プレス成形することになる。
【0018】
ここで、Ag層の形成法には特に制限はなく、例えば、Agの電気めっき処理の他、無電解めっき法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学的気相成長法、あるいは銀ペーストの塗布と乾燥、等の任意の種々の皮膜形成技術を用いることができる。この内、操作性やコストなどの観点から、Agめっき処理を施してAg層を設けることが好ましい。
【0019】
以下、このAg電気めっき処理を代表例として、前記硫化処理に付したAg層の形成について説明する。
Agめっき浴としては、通常のもの、例えば市販のAgめっき浴を用いることができる。Agめっき処理時の条件としては、例えば、電流密度を1〜5A/dm
2にすることが好ましい。また、常法に従って、Agめっき処理の前にAgストライプめっき処理を行うことが好ましい。
また、銀電気めっき処理以外の前記他の方法は、それぞれ常法の条件に従って行うことができる。
本発明においては、硫化処理に付したAg層の厚さは1μm以下であり、0.1μm以下であることが好ましい。硫化処理に付したAg層の厚さの下限には、特に制限はないが、通常0.05μm以上とする。銀の硫化は極薄い範囲でしか進行しないので、硫化処理に付したAg層の厚さが厚すぎる場合、硫化されていない金属Ag自体はレーザ光吸収率が低いので溶接性改善の効果を得にくい。一方、硫化処理に付したAg層の厚さが薄すぎるとレーザ光を吸収して熱に変換する量が少なくなり、溶接速度が低下する。また、Ag層の厚さが薄すぎる場合、Agめっき層は単一の層として形成されず、島状に形成されてしまい、基材表面が露出してしまうことがある。
もし、硫化が不十分であるなどの理由によって、未硫化のAg層が表面に露出してしまうと、レーザ光吸収率が低いためレーザ溶接性を低下させてしまう。よって、本発明においては、最初にAg層を薄く設け、その後の硫化処理にてAg層のほとんど全体を硫化銀に変換することが重要である。
次に、Ag層を形成させた後、硫化処理を行う。硫化処理は、通常の硫化試験の条件に従って、例えば、H
2S 3ppm、40℃、80%RH、24時間の条件で行うことができる。
【0020】
本発明では、プレス加工によって銅もしくは銅合金板材もしくは条材から打ち抜かれた端子材であって、まだ、端子形状への成型加工もその後のレーザ溶接処理もされていない展開形状の端子材の所定の位置に硫化処理に付したAg層を設けることに関する。そして、基材である銅もしくは銅合金材の特定の位置に対して吸収率の高い材料として硫化処理に付したAg層を配設することで、銅もしくは銅合金のレーザ溶接性を改善するものである。
ここで、硫化処理に付したAg層は、
図1に示したように、対向する管展開部の端面のみではなく、その周辺部にも設けられていてもよい。あるいは、前記対向する管展開部の端面のみに設けられていてもよい。
本発明においては、その後の硫化処理に付されて硫化銀層となるAg層は、端子材の全体に形成させてもよい。用いられるAg量に応じて製造コストが掛かる点や、端子全体の見栄えを考慮すると、レーザ溶接に供する部分であるプレス打ち抜き端面に前記Ag層を形成させることが好ましい。例えば銀電気めっき処理などのAg層形成の作業効率などの観点からは、プレス打ち抜き端面のみに前記Ag層を設けてもよい。さらにはまた、例えば、Agめっき処理の行い易さの観点から、プレス打ち抜き端面とその近傍を含めて具体的には
図1に102として模式的に示した領域に前記Ag層を設けてもよい。いずれにしても、管体かしめ部(30)形成部分に形成される端子材の管展開部(101)のそれぞれの端部(100)の端面を含むように前記Ag層を設ける。本発明においては、この端面に前記Ag層が設けられていればよく、その他の領域、例えば、端子材の管展開部(101)の全体や、ボックス部(20)、トランジション部(40)などを含めて端子材の全体に前記Ag層が形成されていてもよい。
【0021】
図2は本発明の製造方法で製造される端子の好ましい一実施形態である端子1を示している。この端子1は、雌型端子のボックス部20と、アルミニウム電線が挿入された後、圧着によって電線と端子の基材とを接続する管体かしめ部30を有し、これらのボックス部20と管体かしめ部30とを連絡するトランジション部40を有する。さらに、端子1は管体かしめ部30にレーザ溶接部50(図中、斜線で示す部分)を有する。端子1は、導電性と強度を確保するために基本的に金属材料(銅合金等)の基材で作製されている。また、レーザ溶接部50の形状は特に制限はない。レーザ溶接部50のように管体かしめ部30の長手方向に帯形状に形成するのが好ましい。
【0022】
端子1や端子材(
図6、32a)を構成する基材32の材料は、銅(タフピッチ銅や無酸素銅など)または銅合金であり、好ましくは銅合金である。
【0023】
端子及び端子材に用いられる銅合金の例としては、例えば、黄銅(例えば、CDA(Copper Development Association)のC2600、C2680)、りん青銅(例えば、CDAのC5210)、コルソン系銅合金(Cu−Ni−Si−(Sn,Zn,Mg,Cr)系銅合金)等が挙げられ、この内、コルソン系銅合金が好ましい。
コルソン系銅合金の例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、古河電気工業株式会社製の銅合金FAS−680、FAS−820(いずれも商品名)、三菱伸銅製の銅合金MAX−375、MAX251(いずれも商品名)などを用いることができる。また、CDAのC7025などを用いることもできる。
前記FAS−680の合金組成の一例は、スズ(Sn)を0.15質量%、亜鉛(Zn)を0.5質量%、ニッケル(Ni)を2.3質量%、シリコン(Si)を0.55質量%、およびマグネシウム(Mg)を0.1質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。
また、前記FAS−820の合金組成の一例は、スズ(Sn)を0.15質量%、亜鉛(Zn)を0.5質量%、ニッケル(Ni)を2.3質量%、シリコン(Si)を0.65質量%、マグネシウム(Mg)を0.1質量%、およびクロム(Cr)を0.15質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。
【0024】
また、他の銅合金組成の例としては、例えば、Cu−Sn−Cr系銅合金、Cu−Sn−Zn−Cr系銅合金、Cu−Sn−P系銅合金、Cu−Sn−P−Ni系銅合金、Cu−Fe−Sn−P系銅合金、Cu−Mg−P系銅合金、Cu−Fe−Zn−P系銅合金などを挙げることができる。
ここで、以上に記載した必須元素以外に不可避不純物を含んでいても良いことは当然である。
【0025】
端子の基材及び端子材の厚さは、0.08〜0.64mmが好ましい。
【0026】
レーザ溶接前には、端子1の少なくとも管体かしめ部30の溶接部となる表面には、予め硫化処理に付したAg層が形成されている。レーザ溶接後は、前述のとおり、該硫化処理に付したAg層を構成する金属Agは、レーザ溶接部50に溶融されてCu−Ag合金として取り込まれて、見かけ上はレーザ溶接部の表面から該Ag層は消失する。
【0027】
雌型端子のボックス部20は、例えば雄型端子等の挿入タブの挿入を許容するボックス部である。本発明において、このボックス部の細部の形状は特に限定されない。すなわち、本発明の端子の他の実施形態ではボックス部を有さなくてもよく、例えば、前記ボックス部に替えて雄型端子の挿入タブであっても良い。また他の形態に係る端子の端部であっても良い。本明細書では、本発明の端子を説明するために便宜的に雌型端子の例を示している。どのような接続端部を有する端子であっても、トランジション部40を介し管体かしめ部30を有していれば良い。また、その管体かしめ部30に形成された溶接部50が、管体かしめ部を構成する基材よりも軟らかいことが好ましい。
【0028】
管体かしめ部30は、端子1と電線(図示せず)とを圧着接合する部位である。その一端はアルミニウム電線等の電線あるいはその導体を挿入することができる電線挿入口(導体挿入口)31を有し、他端はトランジション部40に接続されている。管体かしめ部30は、そのトランジション部40側で、例えばプレス加工等の潰し加工によって管体かしめ部30の対向する2つの管壁(通常は上下の管壁)を潰した上で、例えばレーザ溶接などの溶接加工によって封じることによって閉口されて、この閉口部を底部とし前記電線もしくは導体の挿入口(31)で開口する「缶状」の構造を有している。端子1の基材(銅または銅合金など)とアルミニウム電線との接点に水分が付着すると、両金属の起電力の差からいずれかの金属(合金)が腐食してしまうので、管体かしめ部30は外部より水分等が侵入しないような管体構造となっている。本発明の端子のかしめ部は、管体であれば腐食に対して一定の効果が得られる為、必ずしも長手方向に対して断面が円筒である必要はなく、場合によっては断面が楕円筒や矩形筒の管体であっても良い。また、断面の径が一定である必要はなく、長手方向で断面の径が変化していても良い。
この端子1を用いれば、管体かしめ部30が管体であることにより、アルミニウム電線と端子1の基材の接点に外部からの水分の付着がなされにくくなっている。
【0029】
管体かしめ部30では、管体かしめ部を構成する基材とアルミニウム(アルミニウム合金)電線とが機械的に圧着接合されることにより、同時に電気的な接合を確保する。かしめ接合は、基材や電線(芯線)の塑性変形によって接合が行われる。したがって、管体かしめ部30は、かしめ接合をすることができるように肉厚を設計される必要があるが、人力加工や機械加工等で接合を自由に行うことができるので、特に限定されるものではない。
【0030】
本発明の管体かしめ部30は、板体の基材が突き合わされて構成されており、その突き合わせ部分を接合するレーザ溶接部50を有する。すなわち、レーザ溶接部50は、管体かしめ部30の突き合わせ部分に沿って長手方向に連続的に設けられている。そして、トランジション部40から電線挿入口31にかけて直線状領域として設けられている。
またレーザ溶接部50には、レーザ溶接前には硫化処理に付したAg層が形成されていたものであり、この硫化処理に付したAgによってレーザ溶接の際のレーザ光の吸収を高めることができる。レーザ溶接後には、前記硫化処理に付したAg層のAgのうち一部または全部が溶融して基材の銅(Cu)もしくは銅合金中に取り込まれていることは前述の通りである。
【0031】
管体かしめ部30の長手方向の断面図の一部を
図3に示す。この図ではレーザ溶接部(焼きなまし部)50の表記を省略した。管体かしめ部30は、先述したとおり、好ましくは銅合金からなる基材32により構成されている。また、管体かしめ部の内壁面33には、電線との接触圧を保つための、電線係止溝34aもしくは34bを有していても良い。電線の芯線であるアルミニウム及びアルミニウム合金は、銅合金と比較すると銅の酸化膜より高い絶縁性を持つ酸化膜を表面にもつため、接続に不安がある。そこで、このような溝を設けることで、溝の山によって接圧を大きくすることが行われる。
図3において、電線係止溝34aは矩形断面の溝であり、電線係止溝34bは半円形断面の溝である。このような電線係止溝は、管体かしめ部30を形成する前に、基材そのものに加工を施しておくと設けやすい。後述するファイバレーザや機械による切削加工等で設けることができる。なお、管体かしめ部30を形成する前に予めこのような電線係止溝を設けておくと、効率よく生産することができる。
【0032】
なお、管体かしめ部には電線挿入口31からアルミニウム電線あるいはその導体が挿入されるので、電線係止溝34aや34bはアルミニウム芯線と接触する位置に設けられることが好ましい。アルミニウム電線は、通常アルミニウム芯線(導体)とこれを覆う絶縁被覆とからなっている。そして、電線と端子の電気的接合は、先端の絶縁被覆部を除去(皮むき)したアルミニウム芯線が端子の管体かしめ部と圧着接合されることで行われる。したがって接圧を十分に確保することが、電気的性能の維持につながるので、電線係止溝のような溝が必要となる。このような溝はセレーションとも呼ばれる。
そして、少なくとも一本以上の電線係止溝を管体かしめ部30の内面に設けることによって、端子と電線とが確実に圧着されるので、長期信頼性により優れるものとすることができる。
【0033】
図4に本発明の端子を用いた電線の終端接続構造体10を示す。終端接続構造体10は、本発明に従って製造する端子1と、アルミニウム電線(60)とが接続された構造を有している。終端接続構造体10は、端子1の管体かしめ部30内にアルミニウム電線60あるいはその導体を挿入し、管体かしめ部30をかしめることで、アルミニウム電線60が管体かしめ部30内に圧着接合されている。圧着の様態は特に限定されないが、
図4では、第一の圧着縮径部35および第二の圧着縮径部36からなっている。通常、圧着接合すると、管体かしめ部30は塑性変形を起こして、元の径よりも縮径されることで、電線60との圧着接合をなす。
図4に示した例では、第一の圧着縮径部35が、縮径率が一番高くなっている部分である。このように圧着接合を2段階の縮径で行ってもよく、3段階以上の縮径で行ってもよい。
【0034】
なお、電線60は、絶縁被覆61と図示しないアルミニウムまたはアルミニウム合金電線の芯線とからなっている。電線60は裸線であっても良いが、防食の観点から通常は絶縁被覆された電線を用いる。
【0035】
本発明の電線の終端接続構造体は、アルミニウム系材料からなる電線と銅系材料からなる端子の基材との異種金属間腐食の防止に寄与する。また、レーザ溶接部50及び熱溶融部は、基材よりも柔らかい焼きなまし部ともすることができるため、電線と端子の圧着箇所のスプリングバックを防ぐことができ、この点からも長期信頼性に優れる。
上記スプリングバックとは、加工部分が元の形状に戻ろうとする現象である。すなわち、電線(図示せず)と圧着接合させた管体かしめ部の変形部分が弾性力等でもとの形状に戻ろうとするため、管体かしめ部30の内面と電線との間に隙間ができてしまう。このようなスプリングバックが端子の圧着部で起こると、電線60と端子1との接点不良を招くことは勿論、間隙に水分の侵入を許しやすくなり腐食の原因となる恐れがある。
【0036】
本発明に従って製造する端子を用いて電線の終端接続構造体10を製造する場合、管体かしめ部30のレーザ溶接部50を積極的に塑性変形させる圧着接合が好ましい。端子1の管体かしめ部30と電線60とを圧着する場合は、専用の治具やプレス加工機等で行う。このとき、管体かしめ部30の全体を縮径させても良いが、管体かしめ部を凹型のように部分的に強加工して圧着する場合もある。このときは、レーザ溶接部50の塑性変形量が大きくなるように位置を調整すると良い。すなわち、レーザ溶接部50の直上(外側)にプレス加工時の凸部先端があたるように調整すると、レーザ溶接部50の変形量が大きくなる。このようにすると、比較的軟らかいレーザ溶接部50が塑性変形の多くを担うことができるために、スプリングバックの低減に寄与することができる。
【0037】
次に、端子1の製造方法について説明する。本発明に従って製造する端子1は管体かしめ部30を有し、この管体かしめ部30にレーザ溶接部(前記
図2など参照。)を有する端子であるので、この構成を達成し得るならば製造方法は限定されるものではない。
【0038】
端子1は基材(銅合金など)からなる板材を平面展開した端子形状に打ち抜いて本発明の端子材の形状を得て、この管体かしめ部端面に前記硫化処理に付したAg層を設け、その後に、曲げ加工によってボックス部20およびトランジション部40を形成し、曲げ加工等によって湾曲させて突き合わせた管体かしめ部を形成する管展開部をレーザ溶接して管体かしめ部30を形成する。したがって、端子形状に打ち抜かれた端子材は、ボックス部20、トランジション部40および管体かしめ部30を曲げ加工等によって形成できる形状を一体に有している。管体かしめ部30を曲げ加工等によって形成できる端子材の管展開部の形状としては、代表的には矩形であるが、一端が閉塞した管体を形成できる形状であれば特に限定されず、例えば、略扇形状、矩形またはこれらの組み合わせ形状を有していてもよい。ボックス部20およびトランジション部40を形成可能な形状はボックス部20およびトランジション部40の形状に応じて適宜に選択される。加えて、端子材は、少なくとも管体かしめ部を形成する管展開部の表面に前記特定の硫化処理に付したAg層が形成されている。このような形状および特定の硫化処理に付したAg層を有する本発明の端子材は、電線と圧着接合する管体かしめ部となる管展開部を湾曲させてその端部同士を互いに突き合わせて管体に成形し、この突き合わせた部分をレーザ溶接によって接合して管体かしめ部を形成する端子の製造方法に好適に供される。
管体かしめ部30を形成するとき、平面状の管展開部は曲げ加工によって
図1にその断面模式図で示すとおりC字型断面となっているので、この開放部分の端面を突き合わせて溶接することによって接合し、管体かしめ部30とする。管体かしめ部30の好ましい製造方法としては、近赤外線レーザ光を発振するファイバレーザ加工機を用いたレーザ溶接にて行う。
【0039】
通常、銅合金は発振波長が近赤外線領域のレーザ光の吸収効率が悪いため、溶接幅を細くできなかったり、熱影響部(HAZ)の幅を狭くできなかったりする場合がある。そこで、レーザ溶接部50となる基材32の突合せ部の端面に近赤外レーザ光の吸収が銅合金よりもよい硫化処理に付したAg層を前記端面が平滑になるように形成すること、およびファイバレーザ光のようなエネルギー密度が高いレーザ光を用いることで、上記課題は克服される。また、ファイバレーザ光による溶接によって、管体かしめ部30の突き合わせ部を溶接しながら、レーザ溶接部50を焼きなまし部とすることもできる。このように、一工程で管体かしめ部30の溶接加工と焼きなまし加工を行うことができるので、効率よく端子1を製造することができる。
【0040】
上記硫化処理に付したAg層は、近赤外線レーザ光の反射が銅合金表面よりも少ないため、近赤外線レーザ光の吸収性が良い。分光光度測定法による近赤外光の反射率測定では、本発明に用いる硫化処理に付したAg(つまり硫化銀)は、10〜30%程度の反射率であり、90%以上の反射率がある純銅または銅合金よりも低くなっている。このように近赤外レーザ光の吸収性が高い硫化処理に付したAg層を形成した領域に近赤外レーザ光が照射されると、硫化処理に付したAgが溶融して溶融池を形成し、これによりレーザ光の吸収が高まり、その下地の基材表面が溶融し、さらにその溶融領域がレーザ光を吸収して基材の突き合わせ部分を溶融していくことで当該突合せ部の貫通溶接が進行している。
【0041】
端子1を構成する基材の材料によって変化するため一概に言うことはできないが、前記突合せ部上に硫化処理に付したAg層が形成された銅合金の基材ならば、近赤外線レーザ光照射によって、表面の硫化処理に付したAg層がレーザ光を吸収し溶融して溶融池を形成する。さらに、その熱およびレーザ光照射によって光エネルギーが変換された熱エネルギーによって、基材の銅合金が溶融し、突き合わされた部分が接合されて、レーザ溶接部50が形成される。したがって、基材が融点以上に昇温されることでレーザ溶接部50が設けられる。具体的には管体かしめ部30の突き合わせ部を硫化処理に付したAg層を含めて基材を融点以上沸点以下の温度に上昇させ、必要により所定時間保持してレーザ溶接を施すことで、レーザ溶接部50が形成される。通常、レーザ光は掃引されているので、掃引速度を適宜決定することで、レーザ光照射領域の温度が基材の融点以上になるようにすればよい。基材が銅合金の場合、好ましくは、レーザ光照射によって基材の銅合金が溶融貫通するように、レーザ光照射条件を調整する。
【0042】
上記レーザ溶接では近赤外線レーザ光を用いている。近赤外線レーザ光は、発振波長が700nm〜2.5μmであり、好ましくは1000nm〜2000nmの発振波長のレーザ光を用いる。このようなレーザ光としては、イットリビウム(Yt)ドープガラスファイバレーザ光(発振波長1084nm)、エルビウム(Er)ドープガラスファイバレーザ光(発振波長1550nm)等がある。
【0043】
上記溶接には、近赤外レーザ光を連続発振するファイバレーザ装置を用いるが、これとは異なるレーザ装置を用いた溶接により管体かしめ部30を形成しても良い。例えば、連続発振するYAGレーザ光発振装置、ガラスレーザ光発振装置等やパルス発振するレーザ光発振装置等が挙げられるが、拡がり角の狭さ、レーザ光のビーム径の細さ、レーザ連続発振の安定性等からファイバレーザ発振器を用いることが好ましい。
【0044】
図5は、本発明の端子1の製造中の一状態を模式的に表した図である。
図5に示すように、近赤外線の波長1084nm±5nmのレーザ光を発振するファイバレーザ溶接装置FLから発せられたレーザ光Lが突き合わせ部37を溶接するように照射され、この突合せ部を貫通溶接することによって、管体かしめ部30が形成される。この溶接時には、レーザ光のエネルギーが熱に変換されることによって、まず突き合わせ部37の硫化処理に付したAg層が、次いで突合せ部37の基材自体が溶融し、その後、冷却してレーザ溶接部50が設けられる。レーザ溶接部50は被溶接材料の融点以上の加熱処理によって設けることができる。ただし、ファイバレーザ光Lのエネルギーがあまりに高いと、またはエネルギー密度が低いと、熱影響部が必要以上に広範囲で形成されてしまい、極端な場合には管体かしめ部30全体が軟化してしまう。したがって、ファイバレーザ光Lは100〜400Wの出力で溶接するのが好ましい。また、掃引速度を調整することによって、レーザ溶接部50を適切な範囲に設ける。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
以下の銅合金からなる板材(5)を、
図6に示すように、その長手方向に連なるよう(連鎖型)に端子を展開した形状にプレス加工によって打ち抜いて、連鎖型の端子材(32a)を形成した。その後、後述のとおり所定の低電流密度でAgめっき処理を施した後に硫化処理に付して、前記管展開部(30a)の端面を含む端部に硫化処理に付したAg層を設けた。ここで、Agめっき処理は、Agめっき(市販浴)を用いて行った。その後、形成したAg層に、硫化処理を行った。
その後、
図7のように、管体のかしめ部の端面(30S)同士を突き合わせて、レーザ溶接によって突き合わせた部分を全長1cmに渡り貫通溶接することで接合し、管体かしめ部(30)を形成した(
図8参照)。また、この溶接により、管体かしめ部中に焼きなまし部も得た。また、各種条件を変化させることで、溶接性と接合強度を評価した。
【0047】
(実施例1〜4)
端子の基材として、古河電気工業株式会社製の銅合金FAS−680(商品名、厚さ0.25mm、H材)を用いた。
FAS−680の合金組成は、スズ(Sn)を0.15質量%、亜鉛(Zn)を0.5質量%、ニッケル(Ni)を2.3質量%、シリコン(Si)を0.55質量%、およびマグネシウム(Mg)を0.1質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。FAS−680の融点は1078℃(液相)、比熱は377J/(kg・K)、熱伝導率は170W/(m・K)、線膨張係数が17.7×10
−6/K(20〜300℃)、および導電率40%IACSである。また、引張強さは600〜700N/mm
2、伸び(引張破断伸び、以下同様。)は15%以上、0.2%耐力は500〜600N/mm
2、およびビッカース硬さは160〜220Hvである。
【0048】
前記基材に電解脱脂処理とその後で酸浸漬処理を行った後、Agめっき処理とその後の硫化処理に付すことによって、基材の管展開部の端部上に硫化処理に付したAg層を厚さを変えて形成した。
【0049】
実験条件は下記の通りである。
<電解脱脂、酸浸漬>
(電解脱脂)
処理液:10%水酸化ナトリウム水溶液
処理温度:60℃
陰極電流密度:3.5A/dm
2
処理時間:30秒
(酸浸漬)
処理液:10%硫酸
処理温度:30℃
浸漬処理時間:30秒
【0050】
<Agめっき>
(Agストライクめっき)
処理液
KAg(CN)
2:4.45g/L
KCN:60g/L
電流密度:5A/dm
2
処理温度:30℃
(Agめっき)
処理液
AgCN:50g/L
KCN:100g/L
K
2CO
3:30g/L
電流密度:1A/dm
2
処理温度:30℃
処理時間:3〜100秒
以上の条件の範囲内で、Agめっきの処理工程においてめっき時間を変化させて、めっき厚は狙いの厚さの±0.02μmとなっているサンプルを各厚さ水準で10個ずつ作成した。
なお、Ag層の厚さは、蛍光X線膜厚計によって、端部上のAg層の平均の厚さを測定した。
【0051】
<硫化処理>
通常の硫化試験の条件に従って、つまりH
2S 3ppm、40℃、80%RH、24時間行った。
【0052】
(実施例5)
端子の基材として、実施例3において、FAS−680の代わりに古河電気工業株式会社製の銅合金FAS−820(商品名)を用いた以外は実施例1と同様に作製した。
FAS−820の合金組成は、スズ(Sn)を0.15質量%、亜鉛(Zn)を0.5質量%、ニッケル(Ni)を2.3質量%、シリコン(Si)を0.65質量%、マグネシウム(Mg)を0.1質量%、およびクロム(Cr)を0.15質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。FAS−820の融点は1078℃(液相)、比熱は377J/(kg・K)、熱伝導率は157W/(m・K)、線膨張係数が17.5×10
−6/K(20〜300℃)、および導電率38%IACSである。また、引張強さは730〜830N/mm
2、伸びは7%以上、0.2%耐力は675〜775N/mm
2、およびビッカース硬さは220〜260Hvである。
【0053】
(実施例6)
端子の基材として、実施例3において、FAS−680の代わりに三菱伸銅製の銅合金MAX−375(商品名)を用いた以外は実施例1と同様に作製した。
MAX−375の合金組成は、スズ(Sn)を0.5質量%、亜鉛(Zn)を0.5質量%、ニッケル(Ni)を2.85質量%、およびシリコン(Si)を0.7質量%含有し、残部が銅(Cu)および不可避不純物である。FAS−820の融点は1085℃(液相)、比熱は382J/(kg・K)、熱伝導率は180W/(m・K)、線膨張係数が17.1×10
−6/K(20〜300℃)、および導電率40%IACSである。また、引張強さは750〜850N/mm
2、伸びは6%以上、0.2%耐力は710〜830N/mm
2、およびビッカース硬さは210〜270Hvである。
【0054】
(実施例7)
端子の基材として、実施例3において、FAS−680の代わりに三菱伸銅製の銅合金MAX251(商品名)を用いた以外は実施例1と同様に作製した。
MAX251の合金組成は、スズ(Sn)を0.5質量%、亜鉛(Zn)を1質量%、ニッケル(Ni)を2質量%、およびシリコン(Si)を0.5質量%含有し、かつ銅(Cu)を95質量%以上含有し、および残部が不可避不純物である。FAS−820の融点は1085℃(液相)、比熱は382J/(kg・K)、熱伝導率は194W/(m・K)、線膨張係数が17.1×10
−6/K(20〜300℃)、および導電率48%IACSである。また、引張強さは500〜600N/mm
2、伸びは6%以上、0.2%耐力は440〜580N/mm
2、およびビッカース硬さは140〜200Hvである。
【0055】
(比較例1)
端子の基材として、Ag層を設けたのみで硫化処理に付さなかった以外は実施例4と同様に作製した。
(比較例2)
端子の基材として、硫化処理に付したAg層を設けなかった以外は実施例1と同様に作製した。
(比較例3)
端子の基材として、実施例1において、硫化処理に付したAg層の厚さを1.5μmとした以外は実施例1と同様に作製した。
【0056】
レーザ溶接条件は下記の通りである。
(1)レーザ溶接装置:古河電気工業株式会社製 シングルモードファイバレーザ ASF1J221(商品名)
レーザ光の光源:Ybドープガラスファイバレーザ発振器
レーザ光発振波長:1084±5nm
レーザ光最大出力:500W(連続発振)
【0057】
(2)レーザ光照射条件
レーザ光出力:400W(連続発振)
レーザ光掃引速度:90〜300mm/secで調整
レーザ光掃引距離:10mm
全条件ジャストフォーカスでレーザ光照射(スポット径サイズ:20μm)
【0058】
レーザ溶接後の溶接部の状態を、「溶接性」と「接合強度」を以下の通り測定、評価した。
【0059】
「溶接性」は、レーザ光による貫通溶接が可能な速度がどの程度の速度であったかをもって評価した。
レーザ光掃引速度とレーザ光掃引時間の関係から、レーザ光掃引速度が速い場合をレーザ光掃引時間が短い、つまりレーザ溶接にかかるエネルギーが少なくて工業的観点から望ましい、と判断できる。具体的には、レーザ光掃引速度が、500mm/sec以上で貫通溶接できる場合を「A(良)」と、500mm/sec未満300mm/sec以上で貫通溶接できる場合を「B(可)」と、300mm/secより遅い速度で貫通溶接できる、あるいは、貫通溶接できない場合を「C(劣)」と、それぞれ判断した。
【0060】
また、「接合強度」は、前記溶接後の端子の管体かしめ部(つまり、溶接部。但し、電線導体とのかしめは行っていない状態。)に対して、引張試験を行って評価を行った。前記溶接部で破断した引張破断強度を測定して評価した。具体的には、引張破断強度が、200MPa以上の場合を「A(良)」と、200MPa未満100MPa以上の場合を「B(可)」と、100MPaより低い場合を「C(劣)」と、それぞれ判断した。破断強度が100MPaより低いと端子形状にする成形加工に耐えられない。
【0061】
上記各種試験条件とその評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から明らかなように、各実施例では、いずれも速いレーザ光掃引速度でレーザ溶接が可能であり、溶接性が良好であった。さらに、接合強度が高く、良好な接合状態が得られた。
一方、各比較例では、遅いレーザ光掃引速度でしかレーザ溶接が行うことができず、溶接性に劣った。さらに、比較例1と比較例2では、接合強度が低く、端子形状にする成形加工では割れが生じてしまう。