(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5767985
(24)【登録日】2015年6月26日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】アルミニウムの溶媒抽出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/38 20060101AFI20150806BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20150806BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20150806BHJP
C22B 21/00 20060101ALN20150806BHJP
C22B 47/00 20060101ALN20150806BHJP
C22B 23/00 20060101ALN20150806BHJP
C22B 26/12 20060101ALN20150806BHJP
【FI】
C22B3/38
C22B7/00 C
H01M10/54
!C22B21/00
!C22B47/00
!C22B23/00 102
!C22B26/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-32597(P2012-32597)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2012-211386(P2012-211386A)
(43)【公開日】2012年11月1日
【審査請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-64476(P2011-64476)
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 淳一
【審査官】
向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−038273(JP,A)
【文献】
特開2007−122885(JP,A)
【文献】
特開平09−235628(JP,A)
【文献】
特開2001−198545(JP,A)
【文献】
MANTUANO Danuza Pereira 他4名,Analysis of a hydrometallurgical route to recover base metals from spent rechargeable batteries by liquid-liquid extraction with Cyanex 272 ,Journal of Power Sources,NL,2006年 9月22日,Vol.159 No.2,Page.1510-1518
【文献】
DORELLA Germano 他1名,A study of the separation of cobalt from spent Li-ion battery residues ,Journal of Power Sources,NL,2007年 6月30日,Vol.170 No.1,Page.210-215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00
C22B 21/00
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池リサイクルによって得られたアルミニウムおよびマンガンを少なくとも含有する硫酸浸出液において、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを含む有機溶媒を用いて、平衡pH1.8以上3以下の条件にてアルミニウムを抽出分離する抽出工程を備え、前記硫酸浸出液においてアルミニウムが0.001〜20g/Lの量で、およびマンガンが0.001〜30g/Lの量でそれぞれ含有される、アルミニウムの溶媒抽出方法。
【請求項2】
前記アルミニウム含有の硫酸浸出液において、アルミニウムおよびマンガン以外の金属として、コバルト、ニッケル、リチウムのうち少なくとも一つを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出工程を、平衡pH2以上2.5以下の条件にて行う請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの溶媒抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はハイブリッド自動車用として急速に用途が広がっており、更にユニットの高容量化により大型のものの生産量が急増することが予想される。また、リチウムイオン電池の需要拡大に対して、リチウムイオン電池からの有価金属回収方法の確立が求められている。
【0003】
このリチウムイオン電池は主に正極、負極、セパレーター、筐体からなっており、正極はアルミニウム箔の集電体上にマンガン、コバルト、ニッケル、リチウムを含む正極活物質とカーボンブラック等の導電剤をフッ素系等のバインダーに混練、塗布した構造となっている。正極材は厚み15ミクロン程度のアルミニウム箔と正極活物質を含むバインダー層からなっており、外観はアルミニウム箔上に黒色の正極活物質が塗布されている。
【0004】
リチウムイオン電池のリサイクル方法としては、使用済みリチウムイオン電池を焼却・破砕し、選別後の原料を用いて酸浸出を行った後、得られた浸出液から溶媒抽出によってそれぞれの金属を抽出分離する方法が提案されている。しかし、原料中に不純物として正極材のアルミニウムが含まれていると、酸浸出によってアルミニウムが浸出され、溶媒抽出における抽出分離に悪影響が出る。そのため、原料を酸浸出した浸出液中にアルミニウムが含まれている場合は、アルミニウムの除去が必要となっている。
【0005】
酸性溶液中のアルミニウムの除去方法としては、中和法や硫酸アルミニウム法、溶媒抽出法などが提案されている。中和法としては、特許文献1(特開2004−33984号公報)に開示されているように、水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加し、pHを6〜8の範囲に中和する方法が提案されている。また、硫酸アルミニウム法としては、特許文献2(特開平1−153517号公報)に記載されているように、SO
4/Alモル比を3/2〜9/2として、減圧濃縮、冷却を行って硫酸アルミニウムを析出させる方法が提案されている。
【0006】
溶媒抽出を用いたアルミニウムの抽出方法としては、特許文献3(特開昭63−25217号公報)に開示されるように、酸性リン酸エステルによるアルミニウムの抽出分離が報告され、無機酸溶液中のアルミニウムの99%以上が抽出可能だとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−33984号公報
【特許文献2】特開平1−153517号公報
【特許文献3】特開昭63−25217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
使用済みリチウムイオン電池リサイクルではアルミニウム含有量の高い原料が存在している。アルミニウム含有量の高い原料を浸出すると、浸出液中にアルミニウムが高濃度で含まれてしまうという問題がある。リチウムイオン電池リサイクルにおける回収対象金属はマンガン、コバルト、ニッケル、リチウムであり、アルミニウムは不純物として分離する必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1又は2に記載された中和法では、析出した水酸化アルミニウムがゲル化してろ過性を悪化させる他、中和時の共沈作用により液中のコバルトやニッケルも沈殿してしまうという問題がある。硫酸アルミニウム法でも多量の硫酸が必要であるという課題がある。
【0010】
一方、特許文献3に記載された溶媒抽出法では、アルミニウムは回収できるが、アルミニウムと他の金属との分離方法については報告がなされていない。
【0011】
そこで、本発明は、アルミニウムとマンガン、その他金属を含む溶液中からアルミニウムを高効率で分離回収可能なアルミニウムの溶媒抽出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、溶媒抽出法を使用し、抽出時に使用する溶媒として適切な有機溶媒を選択することによって、当該有機溶媒が抽出対象金属により抽出能が異なることを発見し、これを用いてアルミニウムを高効率で分離抽出できることを見出した。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
リチウムイオン電池リサイクルによって得られたアルミニウムおよびマンガンを少なくとも含有する硫酸浸出液において、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを含む有機溶媒を用いて、
平衡pH1.8以上3以下の条件にてアルミニウムを抽出分離する抽出工程を備え
、前記硫酸浸出液においてアルミニウムが0.001〜20g/Lの量で、およびマンガンが0.001〜30g/Lの量でそれぞれ含有される
、アルミニウムの溶媒抽出方法である。
【0015】
本発明のアルミニウムの溶媒抽出方法は更に別の一実施形態において、
アルミニウム含有の硫酸浸出液において、アルミニウム
およびマンガン以外の金属として
、コバルト、ニッケル、リチウムのうち少なくとも一つを含む。
【0018】
本発明のアルミニウムの溶媒抽出方法は更に別の一実施形態において、前記抽出工程を、平衡pH2以上2.5以下の条件にて行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルミニウムとマンガン、その他金属を含む溶液中からアルミニウムを高効率で分離回収可能なアルミニウムの溶媒抽出方法が提供できる。これにより、例えばリチウムイオン電池リサイクルにおいて、原料を浸出した浸出液中に含まれるアルミニウムを他の金属(マンガン、コバルト、ニッケル、リチウム)をほとんどロスすることなく分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る溶媒抽出方法において、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを抽出剤として用いた場合のマンガン、コバルト、ニッケル、リチウム、アルミニウムのpH−抽出率曲線を示す。
【
図2】本発明の実施の形態に係る溶媒抽出方法において、アルミニウムを抽出した溶媒から、硫酸溶液を用いたアルミニウムの逆抽出を行った場合のpH−逆抽出率曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態に係るアルミニウムの溶媒抽出方法は、使用済みのリチウムイオン電池本体から有価金属を回収する方法に好適に利用可能であり、より詳しく述べるならば、リチウムイオン電池に含まれる正極材を処理する際に発生する溶液から溶媒抽出によって不純物であるアルミニウムを抽出分離する方法に利用可能である。以下に、リチウムイオン電池リサイクルにおける浸出液中のアルミニウムを溶媒抽出によって抽出分離する場合を例に説明するが、本発明は以下の例には制限されず、これ以外にもアルミニウムを分離抽出するための様々な用途に利用可能であることは勿論である。
【0022】
<処理対象液>
本発明の実施の形態に係るアルミニウムの溶媒抽出方法は、リチウムイオン電池リサイクルにおいて得られたアルミニウム含有の浸出液を処理対象とすることができる。即ち、処理対象液は、アルミニウムの他にリサイクル対象金属であるマンガン、コバルト、ニッケル、リチウム又はその他金属を含む硫酸溶液である。この処理対象液には例えば0.001〜300g/Lの硫酸、0.001〜20g/Lのアルミニウム、0.001〜30g/Lのマンガン、0.001〜30g/Lのコバルト、0.001〜30g/Lのニッケル、0.001〜30g/Lのリチウムが含まれている。
【0023】
この浸出液から溶媒抽出法によってアルミニウムを抽出分離する。抽出剤は2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを用いる。この抽出剤を炭化水素系溶剤で希釈して調整した溶媒とアルミニウムを含む上記硫酸溶液を混合しアルミニウムの溶媒抽出を行う。2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルと溶剤の混合比は、1:3であるのが好ましい。炭化水素系溶剤としては、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系溶剤等が利用可能であり、中でもナフテン系溶剤が好ましい。
【0024】
図1に溶媒抽出時の平衡pHと各元素の抽出率との関係を示す。アルミニウム抽出時の平衡pHは、中和剤を添加し、1.8以上、好ましくは2以上、および3以下、好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.3の範囲に調整するのが好ましい。中和剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を使用することができる。平衡pHが1以上3以下であると溶液中にコバルト、ニッケル、リチウムなどのアルミニウム以外の金属が含まれている場合に、これらアルミニウム以外の金属がアルミニウムと一緒に抽出されるのを抑制し、結果としてアルミニウムをより高効率、かつ、選択的に抽出することができるため、好ましい。特に、溶液中にマンガンが含まれている場合には、平衡pHを2以上2.5以下、好ましくは2.3以下とすることにより、マンガンがアルミニウムと一緒に抽出されるのを抑制し、結果としてアルミニウムをさらに高効率、かつ、選択的に抽出することができるため好ましい。
【0025】
抽出工程においてアルミニウムを抽出した溶媒は、酸性溶液で逆抽出する。酸性溶液としては、硫酸溶液、塩酸溶液等が用いられる。
図2に逆抽出時の平衡pHとアルミニウムの抽出率との関係を示す。逆抽出時の平衡pHは0〜0.5の範囲に調整するのが好ましい。pHが0.5よりも高いとアルミニウムの逆抽出が不完全で、溶媒中にアルミニウムが残る場合がある。また、pHが0よりも低いと酸濃度が高く、その後の処理が難しくなる。
なお、本発明は以下の態様を包含する。
(1)アルミニウムを含む硫酸酸性溶液において、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシルを含む有機溶媒を用いて、アルミニウムを抽出分離する抽出工程を備えるアルミニウムの溶媒抽出方法。
(2)前記硫酸酸性溶液が、リチウムイオン電池リサイクルによって得られたアルミニウム含有の浸出液である(1)に記載の方法。
(3)前記硫酸酸性溶液が、アルミニウム以外の金属として、マンガン、コバルト、ニッケル、リチウムのうち少なくとも一つを含む(2)に記載の方法。
(4)前記抽出工程を、平衡pH1.8以上3以下の条件にて行う(2)又は(3)に記載の方法。
(5)前記硫酸酸性溶液が、少なくともアルミニウムを0.001〜20g/L、マンガンを0.001〜30g/L含む硫酸酸性溶液である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記抽出工程を、平衡pH2以上2.5以下の条件にて行う(2)又は(5)に記載の方法。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0027】
(実施例1)
表1に記載の種々の金属を含む硫酸溶液(H
2SO
4濃度10g/L)と2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル(大八化学 商品名:PC−88A)をナフテン系溶剤(シェルケミカルズ 商品名:shellsolD70)で25vol%に希釈調整した溶媒とを有機相/水相=1(体積比)になるように混合撹拌し、平衡pH2.3となるように水酸化ナトリウムで調整しながらアルミニウムの抽出を行った。各元素の抽出率を表2に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
(実施例2)
表1に記載の種々の金属を含む硫酸溶液(H
2SO
4濃度10g/L)を平衡pH2.7で実施例1と同様にアルミニウムの抽出を行った。各元素の抽出率を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
(実施例3)
表1に記載の種々の金属を含む硫酸溶液(H
2SO
4濃度10g/L)を平衡pH1.9で実施例1と同様にアルミニウムの抽出を行った。各元素の抽出率を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
(実施例4〜18)
表1に記載の種々の金属を含む硫酸溶液(H
2SO
4濃度10g/L)を、以下の平衡pHにて、実施例1と同様にアルミニウムの抽出を行い、それぞれ実施例4〜18とし、平衡pHと各元素の抽出率との関係を
図1に示した。
【0035】
【表5】
【0036】
実施例1〜18によれば、アルミニウムが他の金属よりも高効率で抽出されることが分かる。特に、平衡pHが1〜3の間では、抽出対象の金属により抽出能が異なることが示され、アルミニウムが選択的に抽出されることが分かる。さらに、平衡pHが2〜2.5、特に2〜2.3の間では、マンガンよりもアルミニウムが顕著に選択的に抽出されることが分かる。
【0037】
(参考例)
実施例1において溶媒中に抽出されたアルミニウムを逆抽出するため、硫酸溶液(H
2SO
4濃度20g/L)を用いて有機相/水相=1(体積比)、平衡pH0.48で逆抽出を行った。溶媒からのアルミニウム逆抽出率を表6に示す。表6より、溶媒中に含まれたアルミニウムの93%が逆抽出され、溶媒中のアルミニウムを逆抽出するには平衡pH0.5以下が必要であるということが分かる。
【0038】
【表6】