(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
V族元素を含む第2のガスを前記核形成層上に供給することにより前記核形成層の表面の少なくとも一部をIII−V族化合物に変化させることを特徴とする請求項2に記載の半導体素子の製造方法。
III族元素およびV族元素の双方を含む第3のガスを前記核形成層上に供給することにより、前記核形成層上に前記III−V族化合物層を積層することを特徴とする請求項4に記載の半導体素子の製造方法。
前記単一基板は、Yの一部をLu、Sc、La、Gd、Smのいずれかにより置換及び/又はAlの一部をIn、B、Tl、Gaのいずれかにより置換したものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
前記単一基板は、Ce、Tb、Eu、Ba、Sr、Mg、Ca、Zn、Si、Cu、Ag、Au、Fe、Cr、Pr、Nd、Dy、Co、Ni、Tiからなる群より選ばれる少なくとも一種を付活剤として含有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る半導体素子の断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係るバッファ層を形成させるときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る半導体素子の製造工程を示す図である。
【
図4】(a)は、比較例1に係る半導体素子を製造するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。(b)は、比較例1に係る半導体素子の表面写真である。(c)は、比較例1に係る半導体素子の断面写真である。
【
図5】(a)は、第1の実施形態に係るバッファ層を形成させるときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。(b)は、第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真である。(c)は、第1の実施形態に係る半導体素子の断面写真である。
【
図6】(a)は、比較例2に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。(b)は、比較例2に係る半導体素子の表面写真である。(c)は、比較例2に係る半導体素子の断面写真である。
【
図7】(a)は、比較例3に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。(b)は、比較例3に係る半導体素子の表面写真である。(c)は、比較例3に係る半導体素子の断面写真である。
【
図8】比較例4に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。
【
図9】(a)は、比較例4に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、比較例4に係る半導体素子の断面写真である。
【
図10】(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を5秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面写真である。
【
図11】(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を10秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面写真である。
【
図12】(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面写真である。
【
図13】(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を20秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面写真である。
【
図14】第1の実施形態に係る半導体素子におけるTMAlガスのパルス供給時間t1を横軸にとり、GaN(0002)ロッキングカーブ測定における半値幅を縦軸にとったときの関係を示す図である。
【
図15】第1の実施形態に係る半導体素子10におけるTMAlガスのパルス供給時間t1を横軸にとり、GaN(10−12)ロッキングカーブ測定における半値幅を縦軸にとったときの関係を示す図である。
【
図16】面方位(111)のYAG基板を用いた比較例4に係る半導体素子の表面写真である。
【
図17】(a)は、面方位(111)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面の鳥瞰図である。
【
図18】面方位(110)のYAG基板を用いた比較例5に係る半導体素子の表面写真である。
【
図19】(a)は、面方位(110)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面の鳥瞰図である。
【
図20】面方位(100)のYAG基板を用いた比較例6に係る半導体素子の表面写真である。
【
図21】(a)は、面方位(100)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子の表面写真であり、(b)は、その半導体素子の断面の鳥瞰図である。
【
図22】第2の実施形態に係る半導体素子の断面図である。
【
図23】第2の実施形態に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。
【
図24】第2の実施形態に係る半導体素子の製造工程を示す図である。
【
図25】第3の実施形態に係る半導体素子の断面図である。
【
図26】第3の実施形態に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。
【
図27】第3の実施形態に係る半導体素子の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体素子10の断面図である。半導体素子10は、YAG基板12、バッファ層14、およびIII族窒化物半導体層16を有する。
【0022】
YAG基板12は、いわゆる発光セラミック、または蛍光セラミックと呼ばれるものであり、青色光によって励起される蛍光体であるY
3Al
5O
12、すなわちYAG(Yttrium Alminum Garnet)粉末を用いて作成されたセラミック素地を焼結することにより得ることができる。こうして得られたYAG基板12は、青色光を波長変換して黄色光を出射する。このため、青色光を発する半導体層と組み合わせることにより、加法混色により青色光と黄色光の合成光として白色光を発する半導体素子10を得ることができる。
【0023】
第1の実施形態では、YAG基板12は、板状に形成される。また、YAG基板12は、面方位(100)、(110)、(111)のいずれかの単結晶基板、または複数の面方位を持つ多結晶基板が採用される。
【0024】
YAG基板12は、Y
3Al
5O
12のYの一部をLu、Sc、La、Gd、Smのいずれかにより置換及び/又はAlの一部をIn、B、Tl、Gaのいずれかにより置換したものでもよい。また、YAG基板12は、Ce、Tb、Eu、Ba、Sr、Mg、Ca、Zn、Si、Cu、Ag、Au、Fe、Cr、Pr、Nd、Dy、Co、Ni、Tiからなる群より選ばれる少なくとも一種を付活剤として含有してもよい。なお、CeはCe
3+であってもよい。TbはTb
2+であってもよい。EuはEu
2+であってもよい。
【0025】
また、YAG基板12は、透明に形成される。第1の実施形態において「透明」とは、変換波長域の光の全光線透過率が40%以上のことを意味するものとする。発明者の鋭意なる研究開発の結果、変換波長域の光の全光線透過率が40%以上の透明な状態であれば、YAG基板12による光の波長を適切に変換できると共に、YAG基板12から出射される光の減少も適切に抑制できることが判明した。したがって、YAG基板12をこのように透明な状態にすることによって、半導体層が発する光をより効率的に変換することができる。
【0026】
また、YAG基板12は有機系バインダーレスの無機物で構成され、有機系バインダーなどの有機物を含有する場合に比べて耐久性の向上が図られている。このため、例えば発光モジュールに1W(ワット)以上の電力を投入することが可能となっており、発光モジュールが発する光の輝度、光度、および光束を高めることが可能となっている。
【0027】
バッファ層14はIII−V族化合物を含み、YAG基板12上に形成される。バッファ層14はIII族窒化物半導体層16を単結晶成長させるための緩和層として機能するものであり、III族窒化物半導体層16を単結晶成長させる前にYAG基板12に形成される。
【0028】
バッファ層14は、核形成層18およびIII−V族化合物層20を有する。第1の実施形態に係る半導体素子10では、複数種類の面方位のいずれのYAG基板12を用いても適切にIII族窒化物半導体層16を形成すべく、III−V族化合物層20を形成する前に、YAG基板12の表面に核形成層18が形成される。
【0029】
核形成層18は、まずアルミニウムによってYAG基板12上に形成される。なお、核形成層18は、他のIII族元素により形成されてもよい。III族元素としてAl、Ga、およびInのうち1つ以上からなる核形成層18を形成してもよい。
【0030】
第1の実施形態では、核形成層18の表面はV族元素によりV族化される。このため核形成層18は、V族化されずに残ったIII族核形成層22、およびIII族元素によって形成されていた核形成層18の表面がV族化して形成されたIII−V族化合物層24を含む。
【0031】
III−V族化合物層20は、核形成層18上に形成される。III族窒化物半導体層16は、こうして形成されたバッファ層14の表面に単結晶成長し形成される。
【0032】
図2は、第1の実施形態に係るバッファ層14を形成させるときのTMAl(トリメチルアルミニウム)ガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。第1の実施形態では、MOCVD(有機金属気相成長法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりバッファ層14を形成する。
図2は、このMOCVDによるTMAlガスの供給タイミングおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す。
図3(a)〜
図3(d)は、
図1の実施形態に係る半導体素子10の製造工程を示す図である。以下、
図2、および
図3(a)〜
図3(d)に関連して半導体素子10の製造方法について説明する。
【0033】
図2に示すように、第1の実施形態では、YAG基板12の表面にNH
3ガスを暴露させることなく、まずTMAlガスをYAG基板12上にパルス供給する。このパルス供給時間をt1とする。TMAlガスのパルス供給が終了してt2が経過したとき、今度はNH
3ガスの供給を開始する。NH
3ガスの供給開始後t3が経過したとき、TMAlガスの供給を再び開始する。これによって、YAG基板12上には、TMAlガスとNH
3ガスの双方の混合ガスが供給される。このときのTMAlガスの供給時間をt4とする。なお、TMAlガスのキャリアガス、およびNH
3のキャリアガスとして、H
2およびN
2のいずれか、またはH
2およびN
2の双方が用いられる。
【0034】
図3(a)〜
図3(d)は、第1の実施形態に係る半導体素子10の製造工程を示す図である。
図3(a)は、YAG基板12の表面に核形成層18を形成した状態を示す図である。第1の実施形態では、半導体素子10を製造するにあたって、まずIII族元素であるアルミニウムを含むTMAlガスをパルス供給時間t1の間、YAG基板12の表面にパルス供給することにより、YAG基板12上にアルミニウムからなる核形成層18を形成する。なお、核形成層18は、スパッタリングや真空蒸着など他の製膜方法によって形成されてもよい。
【0035】
図3(b)は、核形成層18の表面を窒化させたときの状態を示す図である。TMAlガスのパルス供給を終了してからt2経過後、今度はNH
3ガスを核形成層18上に供給することにより核形成層18の表面を窒化し、核形成層18の表面をIII−V族化合物であるAlN(窒化アルミニウム)に変化させ、III−V族化合物層24を形成させる。このとき窒化されずにアルミニウムのまま残った部分がIII族核形成層22となる。なお、III族核形成層22が残らなくなるまで核形成層18を窒化させてもよい。また、窒素以外の他のV族元素を含むガスを核形成層18上に供給することにより、核形成層18の表面の少なくとも一部をV族元素と化合させてもよい。
【0036】
図3(c)は、核形成層18上にIII−V族化合物層20を形成した状態を示す図である。NH
3ガスの供給開始からt3が経過したとき、TMAlガスの供給を再び開始する。このようにIII族元素であるアルミニウムを含むTMAlガスとV族元素である窒素を含むNH
3ガスとの混合ガスを核形成層18上に供給することにより、核形成層18上にAlNからなるIII−V族化合物層20を積層させる。
【0037】
こうして、核形成層18とIII−V族化合物層20によりバッファ層14を形成する。なお、バッファ層14上にさらにバッファ層14を積層することにより、複数層のバッファ層14をYAG基板12とIII族窒化物半導体層16との間に形成してもよい。
【0038】
図3(d)は、バッファ層14上にIII族窒化物半導体層16を形成した状態を示す図である。III族窒化物半導体層16は、エピタキシャル成長法によりバッファ層14上に、In
xAl
yGa
(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)を結晶成長して形成される。III族窒化物半導体層16は、電圧が印加されることにより波長範囲の少なくとも一部を含む光を発するよう設けられる。具体的には、まずIn
xAl
yGa
(1−x−y)Nにn型の不純物をドーピングして、半導体層をバッファ層14上に成長させる。これにより、バッファ層14上にn型半導体層を形成させる。次に、In
xAl
yGa
(1−x−y)Nにp型の不純物をドーピングして、半導体層をさらにその上に成長させる。なお、n型半導体層とp型半導体層との間に、量子井戸発光層が設けられてもよい。なお、エピタキシャル成長法には、ELO(epitaxial lateral overgrowth)法が用いられてもよい。
【0039】
これらの半導体層の結晶成長は、MOCVDによって行われる。なお、結晶成長法がこれに限られないことは勿論であり、MBE(分子線エピタキシー法:Molecular Beam Epitaxy)によって半導体層の結晶成長が行われてもよい。
【0040】
この後、エッチングによりp型半導体層の一部を除去し、n型半導体層の上面の一部を露出させる。次に、露出したn型半導体層の上面や、p型半導体層の上面に電極を形成させる。最後にダイシングにより適切な大きさにカットされ、半導体素子10が設けられる。第1の実施形態では、半導体素子10は1mmの矩形にダイシングされる。このように形成されたIII族窒化物半導体層16は、電圧を印加することにより発光する半導体発光素子として機能する。第1の実施形態によれば、III族窒化物半導体層16にYAG基板12を接着する工程を削減することができ、発光モジュール製造時の生産性を向上させることができる。また、高価なサファイア基板やSiC基板が不要となり、コストも低減させることができる。
【0041】
(比較例1)
図4(a)は、比較例1に係る半導体素子を製造するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。比較例1に係る半導体素子は、バッファ層の形成方法以外は第1の実施形態に係る半導体素子10と同様の製法により製造される。
【0042】
比較例1では、YAG基板12の表面にTMAlガスをパルス供給せず、また、NH
3ガスに暴露もさせない。比較例1では、YAG基板12の表面に、TMAlガスとNH
3ガスの混合ガスを供給する。このときのTMAlガスの供給時間をt11とする。比較例1では、t11は600秒とした。こうしてYAG基板12上にバッファ層を形成し、さらにその上にIII族窒化物半導体層16を結晶成長させた。
【0043】
図4(b)は、比較例1に係る半導体素子の表面写真であり、
図4(c)は、比較例1に係る半導体素子の断面写真である。
図4(b)および
図4(c)から分かるように、比較例1のIII族窒化物半導体層16であるGaN層の表面には凹凸が発生している。
【0044】
図5(a)は、第1の実施形態に係るバッファ層14を形成させるときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。比較例1などとの比較のために作成した半導体素子10では、t1を15秒、t2を1分、t3を5分、およびt4を600秒とした。
【0045】
図5(b)は、第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図5(c)は、第1の実施形態に係る半導体素子10の断面写真である。
図5(b)および
図5(c)から分かるように、半導体素子10のGaN層の表面の凹凸はほとんど見られず、比較例1よりも適切にIII族窒化物半導体層16を結晶成長できていることが分かる。
【0046】
(比較例2)
図6(a)は、比較例2に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。また、比較例2に係る半導体素子は、バッファ層の形成方法以外は第1の実施形態に係る半導体素子10と同様の製法により製造される。
【0047】
比較例2では、まずYAG基板12の表面をt21の間だけNH
3ガスに暴露させる。比較例2では、t21は5分とした。NH
3ガスの暴露終了後、t22経過したときにTMAlガスとNH
3ガスの双方の混合ガスをt23の間だけYAG基板12上に供給する。比較例2では、t22を1分とし、t23を600秒とした。
【0048】
図6(b)は、比較例2に係る半導体素子の表面写真であり、
図6(c)は、比較例2に係る半導体素子の断面写真である。
図6(b)および
図6(c)から分かるように、TMAlガスとNH
3ガスの混合ガスを供給する前にYAG基板12の表面をNH
3ガスに暴露させると、暴露させない
図4(b)および
図4(c)に示す場合に比べ、GaN層の表面の凹凸はさらに大きくなっている。このため、より適切にIII族窒化物半導体層16を形成するためには、YAG基板12の表面をNH
3ガスに暴露させないことが必要であることが分かる。
【0049】
(比較例3)
図7(a)は、比較例3に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。比較例3では、まずYAG基板12の表面をt31の間NH
3ガスに暴露させる。NH
3ガスの暴露終了後、少し時間をあけて今度はTMAlガスをt32の間パルス供給した。TMAlガスのパルス供給の終了後、今度はNH
3ガスのみをt33の間供給した。NH
3ガスの供給開始からt33経過したとき、TMAlガスの供給を開始してTMAlガスとNH
3ガスの双方の混合ガスをt34の間供給した。比較例3では、t31を5分、t32を15秒、t33を5分、t34を600秒とした。
【0050】
図7(b)は、比較例3に係る半導体素子の表面写真であり、
図7(c)は、比較例3に係る半導体素子の断面写真である。
図7(b)および
図7(c)から分かるように、GaN層の表面の凹凸は、YAG基板12の表面をNH
3ガスに暴露させた後においても、TMAlガスをパルス供給することにより、
図6(b)および
図6(c)に示す場合よりもGaN層の表面の凹凸を大幅に緩和できている。
【0051】
(比較例4)
図8は、比較例4に係る半導体素子のバッファ層を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。
図2に示すt2の最適時間を得るべく、t2を変化させたときのGaN層表面を観察すると共に、比較例4のGaN層表面との対比も行った。
【0052】
比較例4では、まずYAG基板12の表面をt41の間NH
3ガスに暴露させた。その後、TMAlガスの供給を開始し、t42の間TMAlガスとNH
3ガスの双方の混合ガスをYAG基板12に供給した。比較例4では、t41を30秒とし、t42を600秒とした。
【0053】
図9(a)は、比較例4に係る半導体素子の表面写真であり、
図9(b)は、比較例4に係る半導体素子の断面写真である。
図9(a)および
図9(b)から分かるように、GaN層表面には大きな凹凸が発生している。
【0054】
図10(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を5秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図10(b)は、その半導体素子10の断面写真である。その他、
図2に示すt3を5分、t4を600秒した。
【0055】
図11(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を10秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図11(b)は、その半導体素子10の断面写真である。
図2に示すt3およびt4は、
図10(a)および
図10(b)に示す半導体素子の製造工程と同様である。
【0056】
図12(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図12(b)は、その半導体素子10の断面写真である。
図2に示すt3およびt4は、
図10(a)および
図10(b)に示す半導体素子の製造工程と同様である。
【0057】
図13(a)は、TMAlガスのパルス供給時間t1を20秒として
図2に示すTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングでバッファ層を形成した第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図13(b)は、その半導体素子10の断面写真である。
図2に示すt3およびt4は、
図10(a)および
図10(b)に示す半導体素子の製造工程と同様である。
【0058】
このようにパルス供給時間t1を5秒、10秒、15秒、20秒と変化させたとき、
図12(a)および
図12(b)に示すパルス供給時間t1が15秒のときが、GaN層の表面の凹凸が最も緩和されている。このため、t1を15秒としたときが、Alによる核形成層18の効果が最も顕著となることが確認された。
【0059】
図14は、第1の実施形態に係る半導体素子10におけるTMAlガスのパルス供給時間t1を横軸にとり、GaN(0002)ロッキングカーブ測定における半値幅を縦軸にとったときの関係を示す図である。パルス供給時間t1はゼロ秒から60秒まで変化させた。
【0060】
図14から分かるように、GaN(0002)ロッキングカーブ測定結果では、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒としたときに、回折ピーク半値幅が最も小さな値になっている。このため、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒としたときに、GaN層を最も適切に形成できたことが分かる。
【0061】
図15は、第1の実施形態に係る半導体素子10におけるTMAlガスのパルス供給時間t1を横軸にとり、GaN(10−12)ロッキングカーブ測定における半値幅を縦軸にとったときの関係を示す図である。パルス供給時間t1はゼロ秒から60秒まで変化させた。
【0062】
図15から分かるように、GaN(10−12)ロッキングカーブ測定結果においても、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒としたときに、回折ピーク半値幅が最も小さな値になっている。このため、TMAlガスのパルス供給時間t1を15秒としたときに、GaN層を最も適切に形成できたことが分かる。
【0063】
図16は、面方位(111)のYAG基板を用いた比較例4に係る半導体素子の表面写真である。
図16は、比較例4の表面写真である
図9(a)を、他の半導体素子との比較のため低い倍率で表している。このように比較例4に係る半導体素子では、GaN層の表面には大きな凹凸が生じている。
【0064】
図17(a)は、面方位(111)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図17(b)は、その半導体素子10の断面の鳥瞰図である。上述の通り、第1の実施形態に係る半導体素子10では、
図2に示す供給タイミングでTMAlガスおよびNH
3ガスをYAG基板に供給してバッファ層を形成した後にGaN層を形成する。TMAlガスのパルス供給時間t1は、最も効果が確認された15秒とした。
図17(a)および
図17(b)から分かるように、面方位(111)のYAG基板を用いた場合、TMAlガスをパルス供給することにより、GaN層の表面の凹凸は大幅に緩和される。
【0065】
(比較例5)
図18は、面方位(110)のYAG基板を用いた比較例5に係る半導体素子の表面写真である。面方位(110)のYAG基板を用いる以外、半導体素子の製造方法は比較例4と同様である。したがって、比較例5に係る半導体素子では、
図8に示す供給タイミングでTMAlガスおよびNH
3ガスをYAG基板に供給してバッファ層を形成した後にGaN層を形成する。t41およびt42は、比較例4と同様である。このように比較例5に係る半導体素子においても、GaN層の表面には大きな凹凸が生じている。
【0066】
図19(a)は、面方位(110)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図19(b)は、その半導体素子10の断面の鳥瞰図である。
図19(a)および
図19(b)に示す半導体素子は、面方位が(110)のYAG基板を用いる以外、
図17(a)および
図17(b)に示す半導体素子と製造方法は同様である。TMAlガスのパルス供給時間t1は、面方位(111)のYAG基板において最も効果が確認された15秒を、面方位(110)のYAG基板においても適用した。
【0067】
図19(a)および
図19(b)から分かるように、面方位(110)のYAG基板を用いた場合においても、TMAlガスをパルス供給することにより、GaN層の表面の凹凸は大幅に緩和されることが判明した。
【0068】
(比較例6)
図20は、面方位(100)のYAG基板を用いた比較例6に係る半導体素子の表面写真である。面方位(100)のYAG基板を用いる以外、半導体素子の製造方法は比較例4と同様である。したがって、比較例6に係る半導体素子では、
図8に示す供給タイミングでTMAlガスおよびNH
3ガスをYAG基板に供給してバッファ層を形成した後にGaN層を形成する。t41およびt42は、比較例4と同様である。このように比較例6に係る半導体素子においても、GaN層の表面には大きな凹凸が生じている。
【0069】
図21(a)は、面方位(100)のYAG基板を用いた第1の実施形態に係る半導体素子10の表面写真であり、
図21(b)は、その半導体素子10の断面の鳥瞰図である。
図21(a)および
図21(b)に示す半導体素子は、面方位が(100)のYAG基板を用いる以外、
図17(a)および
図17(b)に示す半導体素子と製造方法は同様である。TMAlガスのパルス供給時間t1は、面方位(111)のYAG基板において最も効果が確認された15秒を、面方位(100)のYAG基板においても適用した。
【0070】
図21(a)および
図21(b)から分かるように、面方位(100)のYAG基板を用いた場合においても、TMAlガスをパルス供給することにより、GaN層の表面の凹凸は大幅に緩和されることが判明した。しかし、GaN層の表面には目スジ状の凹凸が残っている。このため、この条件では、TMAlガスの15秒のパルス供給は、面方位(100)のYAG基板よりも、面方位(110)のYAG基板および面方位(111)のYAG基板の方が効果が大きいことが判明した。
【0071】
このように、第1の実施形態に係る半導体素子10によれば、面方位(111)のYAG基板だけでなく、面方位(110)のYAG基板、または面方位(100)のYAG基板を使用した場合においても、III族窒化物半導体層16であるGaN層を適切に形成することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図22は、第2の実施形態に係る半導体素子100の断面図である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
半導体素子100は、YAG基板12、バッファ層102、およびIII族窒化物半導体層16を有する。バッファ層102はIII−V族化合物を含み、YAG基板12上に形成される。バッファ層102もまた、III族窒化物半導体層16を単結晶成長させるための緩和層として機能する。
【0074】
バッファ層102は、核形成層104およびIII−V族化合物層20を有する。第2の実施形態に係る半導体素子100では、複数種類の面方位のいずれのYAG基板12を用いても適切にIII族窒化物半導体層16を形成すべく、III−V族化合物層20を形成する前に、YAG基板12の表面に核形成層104が形成される。
【0075】
核形成層104は、まずアルミニウムによってYAG基板12上に形成される。なお、核形成層104は、他のIII族元素により形成されてもよい。III族元素としてAl、Ga、およびInのうち1つ以上からなる核形成層104を形成してもよい。III−V族化合物層20は、核形成層104上に形成される。III族窒化物半導体層16は、こうして形成されたバッファ層102の表面に単結晶成長し形成される。
【0076】
図23は、第2の実施形態に係る半導体素子100のバッファ層102を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。第2の実施形態においても、MOCVDによりバッファ層102を形成する。
【0077】
第2の実施形態では、YAG基板12の表面にNH
3ガスを暴露させることなく、まずTMAlガスをYAG基板12上にパルス供給する。このパルス供給時間をt51とする。TMAlガスのパルス供給が終了してt52が経過したとき、TMAlガスとNH
3ガスの双方の供給を再び開始する。これによって、YAG基板12上には、TMAlガスとNH
3ガスの双方の混合ガスが供給される。このときのTMAlガスの供給時間をt53とする。t51は15秒とされてもよく、t53は、600秒とされてもよい。
【0078】
図24(a)〜
図24(c)は、第2の実施形態に係る半導体素子100の製造工程を示す図である。
図24(a)は、YAG基板12の表面に核形成層104を形成した状態を示す図である。第2の実施形態では、半導体素子100を製造するにあたって、まずIII族元素であるアルミニウムを含むTMAlガスをパルス供給時間t51の間、YAG基板12の表面にパルス供給することにより、YAG基板12上にアルミニウムからなる核形成層104を形成する。なお、核形成層104は、スパッタリングや真空蒸着など他の製膜方法によって形成されてもよい。
【0079】
図24(b)は、核形成層104上にIII−V族化合物層20を形成した状態を示す図である。TMAlガスのパルス供給の終了後t3が経過したとき、TMAlガスおよびNH
3ガスの双方による混合ガスを供給し、核形成層104上にAlNからなるIII−V族化合物層20を積層させる。こうして、核形成層104とIII−V族化合物層20によりバッファ層102を形成する。
【0080】
図24(c)は、バッファ層102上にIII族窒化物半導体層16を形成した状態を示す図である。III族窒化物半導体層16は、エピタキシャル成長法によりバッファ層102上にGaNを結晶成長して形成される。第2の実施形態のようにIII族元素からなる核形成層104にIII−V族化合物層20を直接形成した場合においても、表面の凹凸の少ない適切なIII族窒化物半導体層16を形成することができる。
【0081】
(第3の実施形態)
図25は、第3の実施形態に係る半導体素子150の断面図である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
半導体素子150は、YAG基板12、バッファ層152、およびIII族窒化物半導体層16を有する。バッファ層152はIII−V族化合物を含み、YAG基板12上に形成される。バッファ層152もまた、III族窒化物半導体層16を単結晶成長させるための緩和層として機能する。
【0083】
バッファ層152は、III族核形成層154およびIII−V族化合物層156を有する。第3の実施形態に係る半導体素子150では、複数種類の面方位のいずれのYAG基板12を用いても適切にIII族窒化物半導体層16を形成すべく、まずYAG基板12の表面にIII族元素であるアルミニウムからなる核形成層が形成される。III族元素としてAl、Ga、およびInのうち1つ以上からなる核形成層が形成されてもよい。この核形成層の表面がV族化され、表面にIII−V族化合物層156が形成される。核形成層のうち、V族化されずに残った部分がIII族核形成層154となる。なお、核形成層がすべてV族化されIII族核形成層154が残らなくてもよい。これによりIII族核形成層154とIII−V族化合物層156によりバッファ層152が形成される。III族窒化物半導体層16は、こうして形成されたバッファ層152の表面に単結晶成長し形成される。
【0084】
図26は、第3の実施形態に係る半導体素子150のバッファ層152を形成するときのTMAlガスおよびNH
3ガスの供給タイミングを示す図である。第3の実施形態では、YAG基板12の表面にNH
3ガスを暴露させることなく、まずTMAlガスをYAG基板12上にパルス供給する。このパルス供給時間をt61とする。TMAlガスのパルス供給が終了してt62が経過したとき、NH
3ガスをt63の間供給する。これによって、核形成層の表面がV族化され、核形成層の表面がIII−V族化合物層156に変化する。t61は15秒とされてもよく、t63は、5分とされてもよい。
【0085】
図27(a)〜
図27(c)は、第3の実施形態に係る半導体素子150の製造工程を示す図である。
図27(a)は、YAG基板12の表面に核形成層158を形成した状態を示す図である。第3の実施形態では、半導体素子150を製造するにあたって、まずIII族元素であるアルミニウムを含むTMAlガスをパルス供給時間t61の間、YAG基板12の表面にパルス供給することにより、YAG基板12上にアルミニウムからなる核形成層158を形成する。なお、核形成層158は、スパッタリングや真空蒸着など他の製膜方法によって形成されてもよい。
【0086】
図27(b)は、核形成層158の表面をV族化してIII−V族化合物層156に変化させたときの状態を示す図である。TMAlガスのパルス供給の終了後t62が経過したとき、NH
3ガスを核形成層158の表面に供給し、核形成層158の表面をV族化してAlNからなるIII−V族化合物層156を形成させる。こうして、III−V族化合物層156と、V族化されずに残った部分であるIII族核形成層154によりバッファ層152を形成する。なお、核形成層が全てV族化され、III族核形成層154が残らなくてもよい。
【0087】
図27(c)は、バッファ層152上にIII族窒化物半導体層16を形成した状態を示す図である。III族窒化物半導体層16は、エピタキシャル成長法によりバッファ層152上にGaNを結晶成長して形成される。第3の実施形態のように、III族元素からなる核形成層158の表面をV族化してIII−V族化合物層156を形成した場合においても、表面の凹凸の少ない適切なIII族窒化物半導体層16を形成することができる。
【0088】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。