【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)
固体表面の濡れ性を制御する方法であって、
1)シリコン、ガラス又は石英、並びに、実用金属ないし合金のアルミニウム、チタン、銅、鉄、亜鉛の内から選択した固体表面に、
予め該表面の不純物を除去した後、シリコーンのホモポリマー原液又はコポリマー原液、あるいは、非晶性フッ素樹脂(アモルファスフロロポリマー)をフッ素系溶媒で希釈した溶液を、滴下あるいはスピンキャストし、加熱処理した後、余剰未反応分子を有機溶剤で除去する
こと、2)上記シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマーとして、メチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基の内から選択した1種類以上の不活性な官能基、並びに、水酸基、水素基、ビニル基、クロロ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基の内から選択した1種類以上の反応性官能基が含まれていて、その粘度が500以下のポリマーを使用すること、3)該固体表面を、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜で均一に被覆して、シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜を固体表面の酸素含有極性基である水酸基との間で共有結合を介して固定化
する、あるいは非晶性フッ素樹脂膜を、固体表面に物理吸着あるいは疎水性相互作用を介して固定化すること
、4)上記1〜3)により、表面に付着した液滴の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、5°以下になるようにすること
、を特徴とする固体表面の濡れ性制御方法。
(2)相対湿度5%以下の窒素雰囲気下、50〜180℃で、24〜72時間、加熱処理する、前記(1)に記載の固体表面の濡れ性制御方法。
(
3)固体表面を、膜厚が0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜で均一に被覆する、前記(1)
又は(2)に記載の固体表面の濡れ性制御方法。
(
4)シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜表面に残存する反応基に、触媒、熱、又は光を利用して、枝状構造を持つ分子
(Vinyl T−structure Polymer、Gelest製、VTT−106)を共有結合を介して固定化する、前記(1)から(
3)のいずれかに記載の固体表面の濡れ性制御方法。
(
5)固体表面を、総膜厚が5〜10nmの2層構造で被覆する、前記(
4)に記載の固体表面の濡れ性制御方法。
(
6)上記固体表面を加熱(〜100℃)することにより、該表面に付着した液滴の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、5°以下に変化するように、また、上記固体表面を冷却することにより、該表面に付着した液滴の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、元の状態にもどるように、後退接触角との差(ヒステリシス)を可逆的に制御する、前記(1)から(
5)のいずれかに記載の固体表面の濡れ性制御方法。
(
7)濡れ性の制御された固体表面であって、
1)該固体表面が、
シリコン、ガラス又は石英、並びに、実用金属ないし合金のアルミニウム、チタン、銅、鉄、亜鉛の内から選択した固体表面であり、該固体表面が、シリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹
(アモルファスフロロポリマー)膜で均一に被覆されていて、
2)上記シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー中に、メチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基の内から選択した1種類以上の不活性な官能基、並びに、水酸基、水素基、ビニル基、クロロ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基の内から選択した1種類以上の反応性官能基が含まれていて、該ポリマーの粘度が500以下であり、3)当該シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜が、固体表面の酸素含有極性基である水酸基との間で共有結合を介して固定化され、あるいは非晶性フッ素樹脂膜が、固体表面に物理吸着あるいは疎水性相互作用を介して固定化されてい
る構造を有し、
4)該固体表面に付着した液滴の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、5°以下の小さいヒステリシスを示す
、ことを特徴とする上記固体表面。
(
8)固体表面が、膜厚が0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜で均一に被覆されている、前記(
7)に記載の固体表面。
(
9)シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜表面に残存する反応基に、触媒、熱、又は光を利用して、枝状構造を持つ分子
(Vinyl T−structure Polymer、Gelest製、VTT−106)が共有結合を介して固定化されている、前記(
7)又は(8)に記載の固体表面。
(
10)固体表面が、総膜厚が5〜10nmの2層構造で被覆されている、前記(
9)に記載の固体表面。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、固体表面の濡れ性制御方法であって、
実用金属/合金表面等の固体表面に、シリコーンのホモポリマー原液、コポリマー原液、あるいは非晶性フッ素樹脂(アモルファスフロロポリマー)をフッ素系溶媒(ハイドロフルオロエーテル)で希釈した溶液を、滴下あるいはスピンキャストし、相対湿度5%以下の窒素雰囲気下、50〜180℃で、24〜72時間、加熱処理した後、余剰分子を、ヘキサン等の有機溶剤で除去することにより、各種液滴(水、油、イオン液体等)の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、5°以下になるようにすること、を特徴とするものである。本発明では、上記シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマーとして、例えば、polyMethylHydrosiloxanes、あるいはそれと同等又は類似の効果を奏する以下に示す化合物が例示される。
【0018】
Trimethylsiloxy terminated; Hydride Terminated PolyDimethylsiloxanes; MethylHydrosiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers, Trimethylsiloxy terminated; MethylHydrosiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers, Hydride terminated; polyEthylHydrosiloxane, Triethylsiloxy terminated; polyPhenyl−(DiMethylHydrosiloxy)siloxane, hydride terminated; MethylHydrosiloxane−PhenylMethylsiloxane copolymer, hydride terminated; MethylHydrosiloxane−OctylMethylsiloxane copolymers and terpolymers; Vinyl Terminated PolyDimethylsiloxanes; Vinyl Terminated Diphenylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers; Vinyl Terminated polyPhenylMethylsiloxane; VinylPhenylMethyl Terminated VinylPhenylsiloxane−PhenylMethylsiloxane Copolymer; Vinyl Terminated TrifluoropropylMethylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymer; Vinyl Terminated Diethylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers; Vinylmethylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers, trimethylsiloxy terminated; Vinylmethylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers, silanol terminated 4−6% OH; Vinylmethylsiloxane−Dimethylsiloxane Copolymers, vinyl terminated; Vinylmethylsiloxane Homopolymers; MonoVinyl Terminated PolyDimethylsiloxanes−asymmetric; MonoVinyl Functional PolyDimethylsiloxane−symmetric; (3−5% Vinylmethylsiloxane)−(35−40% OctylmethylSiloxane)−(Dimethylsiloxane)terpolymer; (3−5% Vinylmethylsiloxane)−(35−40% PhenylmethylSiloxane)−(Dimethylsiloxane)terpolymer; Vinylmethoxysiloxane Homopolymer; Vinylethoxysiloxane Homopolymer; Vinylethoxysiloxane−Propylethoxysiloxane Copolymer。
【0019】
また、本発明で使用される非晶質フッ素樹脂、それを溶解する溶媒としては、例えば、非晶性フッ素樹脂(アモルファスフロロポリマー)として、テフロン(登録商標)AF(米国デュポン社製、AF1600、AF2400)、フッ素系溶媒として、3M Novec
TM(住友スリーエム社製、HFE−7100、HFE−7200、HFE−7300)が好適なものとして例示される。
【0020】
本発明の濡れ性制御による表面改質方法においては、シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー中に、メチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基の内から選択した1種類以上の不活性な官能基が含まれていることが好ましい。また、上記の表面改質方法において、シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー中に、水酸基、水素基、ビニル基、クロロ基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基の内から選択した1種類以上の反応性官能基が1個以上含まれていることが好ましい。更に、シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマーの粘度が500以下であることが望ましい。なぜなら、粘度が500を超えると、得られる膜表面の流動性が悪くなり、ヒステリシスが大きくなるためである。
【0021】
また、本発明では、上記の表面改質方法において、固体表面は、膜厚が0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜で均一に被覆されていて、当該シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜は、基板表面の酸素含有極性基である水酸基との間で共有結合を介して、非晶性フッ素樹脂膜は物理吸着あるいは疎水性相互作用を介して固定化されている。
【0022】
本発明では、当該シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜表面に残存する反応基に、触媒、熱、又は光を利用して、枝状構造を持つ分子を、共有結合を介して、固定化すること、総膜厚が5〜10nmの2層構造で、固体表面を被覆すること、各種液滴(水、油、イオン液体等)の前進接触角と、後退接触角との差(ヒステリシス)が、5°以下になるようにすること、を好ましい実施態様としている。
【0023】
本発明では、当該薄膜被覆基板のうち、室温下で比較的大きなヒステリシス(〜15°)を示すものでも、所定温度(〜100℃)に加熱することにより、ヒステリシスを小さくすることができる。また、室温下で小さなヒステリシスを示すものは、更にヒステリシスが小さくなるため、高温環境下で基板を使用することを好ましい実施態様としている。また、冷却することにより、ヒステリシスは元の状態に戻るため、ヒステリシスの可逆的な制御が可能である。
【0024】
本発明では、様々な基板表面(固体表面を基板と記載することがある)を、プラズマ、紫外線、又はオゾン等の手法を用いて、予め表面の不純物を完全に除去した後、シリコーンのポリマー原液、コポリマー原液、あるいは非晶性フッ素樹脂(アモルファスフロロポリマー)をフッ素系溶媒(ハイドロフルオロエーテル)で希釈した溶液を、滴下あるいはスピンキャストし、相対湿度5%以下の窒素雰囲気下で、所定温度/所定時間、加熱処理後、余剰未反応分子を、有機溶剤で除去するだけで、基板と強固に密着した膜厚0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー膜を形成することができる。また、非晶性フッ素樹脂膜は、物理吸着を介して基板に固定化される。中間層として予め疎水性薄膜(例えば、前述のpolyMethylHydrosiloxanes)で基板表面を被覆しておけば、疎水性相互作用により基板との密着性を向上させることもできる。
【0025】
上記処理を施した基板表面は、液滴との相互作用が著しく抑制されるため、ヒステリシス(前進接触角と、後退接触角との差)が極めて小さくなり、液体の駆動性を向上させることが可能となる。更に、本発明では、残存した反応性官能基を利用して、その表面に、枝状構造を持つ分子を共有結合により固定化することにより、低ヒステリシス状態を維持したまま、金属の耐食性を大幅に向上させることができる。
【0026】
本発明で使用し得る基板としては、
シリコン、ガラス又は石英、並びに、実用金属ないし合金のアルミニウム、チタン、銅、鉄、亜鉛等の、適宜の材料を、任意に使用することができる。基板の材料の具体例としては、シリコン、ガラス、石英、自然酸化膜被覆金属であるアルミニウム/アルミニウム合金、チタン、鉄、銅、亜鉛が好適なものとして
使用される。また、基板表面は平滑なもの、平均自乗粗さが1nm以下、であることが好ましい。これらの基板の形状は、板状、粉末状、チューブ状等の、任意な形状にすることができる。
【0027】
本発明においては、予め基板表面を親水化処理する目的で、酸素プラズマ、真空紫外光、又はオゾン等により、基板表面に付着した有機物を除去することにより、基板表面は親水化するが、その場合、好ましくは、波長172nm以下の真空紫外光を使用する。ポリマー基板の場合は、この処理により、酸素含有極性基である水酸基が生成する。
【0028】
続いて、基板表面の酸素含有極性基である水酸基と、シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー中の反応性官能基とを反応させる。非晶性フッ素樹脂の場合、物理吸着あるいは疎水性相互作用により固定化させる。反応方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、基板に、シリコーンのホモポリマー原液、コポリマー原液を、あるいは非晶性フッ素樹脂(アモルファスフロロポリマー)をフッ素系溶媒(ハイドロフルオロエーテル)で希釈した溶液を、直接、滴下するか、あるいはスピンキャストするだけでよい。得られるシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜の膜厚は、用いる原料の分子量、粘度、スピンキャストの速度、濃度に依存するものの、おおよそ5nm以下で、溶媒、例えば、トルエンによる希釈を行うことで、0.5nm程度まで薄くすることも可能である。
【0029】
処理条件は、基板の種類に依存するが、処理温度は、50〜180℃、処理時間は、24〜72時間、窒素雰囲気下で、該雰囲気中の相対湿度は、5%以下であることが望ましい。また、反応せずに、表面に残存した反応基を利用して、更に、異なる分子を共有結合により結合
、固定化させることも可能である。使用する分子は、枝状構造を持つ分子であることが好適である。枝状構造を持つ分子として、Vinyl T−structure Polymer
が使用され、参考例として、それと同等又は類似の効果を奏する以下に示す枝状構造を有する化合物が例示される。
【0030】
Tri−t−Butoxysilanol; Tri−t−Butylaminosilane, 95%; Tri−t−Butylsilane, 95%; Triisopropoxysilane, 95%; Triisopropylchlorosilane; Tri−t−Pentoxysilanol, 99%; [Tris(Trimethylsiloxy)Silylethyl]Dimethylchlorosilane; Tri−t−Butoxychlorosilane, 95%; Di−t−Butylmethylchlorosilane; Di−t−Butylmethylsilane; Bis((Tridecafluoro−1,1,2,2−Tetrahydrooctyl)Dimethylsiloxy)Methylchlorosilane; Bis((Tridecafluoro−1,1,2,2−Tetrahydrooctyl)Dimethylsiloxy)Methylsilane; [Bis(Nonafluorohexyldimethylsiloxy)Methyl]Silylethyldimethylchlorosilane, 95%; Bis(Nonafluorohexyldimethylsiloxy)Methylsilane, 95%。
【0031】
上記反応を促進させるために、加熱処理や、触媒反応を利用することもできる。これらの処理をすることで、雰囲気中の水分と反応する可能性のある未反応の反応性官能基を、キャッピングし、より安定な、低ヒステリシス表面を形成することが可能となる。この場合、膜厚は、全体で、5〜10nm程度になり、金属の防食特性を向上させるには、特に有効である。
【0032】
上述した通り、本発明では、基板表面に、膜厚0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜を形成することにより、あるいは、当該薄膜被覆基板を加熱することにより、液滴との相互作用のない低ヒステリシス表面が得られる、更に、本発明では、残存する反応性官能基と枝状構造を持つ分子を共有結合させることで、低ヒステリシス表面状態を維持したまま、総膜厚5〜10nmの2層構造から構成される、より安定な、低ヒステリシス表面を形成することができる。
【0033】
シリコーンのホモポリマーあるいはコポリマー膜を形成する際に用いる原料は、有機溶剤等で希釈することも可能であり、原液の蒸気を利用することも可能であるが、シリコーン原液そのものであることが望ましい。シリコーン原液を滴下するか、スピンキャストし、反応終了後、余剰未反応原液を、ヘキサン等の有機溶剤でリンスするだけで、簡便に、ホモポリマー膜あるいはコポリマー膜を形成することができる。非晶性フッ素樹脂膜を形成する際に用いる原料(粉末状固体)は、フッ素系溶剤(ハイドロフルオロエーテル)で希釈する必要である。該希釈液を滴下するかスピンキャストし、反応終了後、余剰未反応原液をフッ素系溶剤でリンスするだけで、簡便に透明な非晶性フッ素樹脂膜を形成することができる。
【0034】
本発明の表面処理技術を用いることにより、これまで困難であった、実用金属/合金
表面等の基板表面上での液体の駆動性を、向上させることが可能になる。上記処理を施した基板表面が、液滴との相互作用を抑制できる理由は、シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜が、基板を均一に被覆し、あたかも“液体表面”のような挙動をし、基板表面の未反応の極性官能基との相互作用を抑制するという、化学的効果によるものと想定される。また、非晶性フッ素樹脂膜では、基板を均一に被覆しているだけでなく、シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜と比較して、表面エネルギーが極めて低い(8dyn/cm)ことによるものと想定される。更に、加熱することによりヒステリシスが小さくなるのは、薄膜の分子運動が激しくなり、表面の流動性が大きくなるという物理的効果によるものと想定される。
【0035】
すなわち、本発明では、上述した通り、平滑な基板表面に、0.5〜5nmのシリコーンのホモポリマー膜、コポリマー膜、あるいは非晶性フッ素樹脂膜を形成することにより、あるいは、当該薄膜被覆基板を加熱することにより、固体/液体界面の相互作用が抑制され、当該処理基板表面上での接触角ヒステリシス、すなわち前進接触角(θ
A)と、後退接触角(θ
R)の差が、極めて小さくなり、そのため、わずかな傾斜で、液体が駆動するという作用効果が得られる。この現象は、基板表面に固定化したシリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜が、基板を均一に被覆し、あたかも液体のような挙動をするため、下地の極性官能基との相互作用を抑制するという化学的な効果と、加熱することにより分子運動が激しくなり、表面の流動性が大きくなるという物理的効果により出現するものと推定される。また、非晶性フッ素樹脂膜では、基板を均一に被覆しているだけでなく、シリコーンのホモポリマー膜あるいはコポリマー膜と比較して、表面エネルギーが極めて低い(8dyn/cm)ことによるものと想定される。
【0036】
本発明で用いるシリコーンのホモポリマーあるいはコポリマーは、前記したように、液体で、粘度が低いこと(粘度500以下)が望ましく、また、メチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基といった表面エネルギーの低い官能基が一つ入っていることが望ましい。それは、これらの官能基は、表面エネルギーが低いため、得られる基板表面を効果的に疎水化できるためである。非晶性フッ素樹脂は、これらの官能基で終端されたホモポリマーあるいはコポリマーの持つ表面エネルギーと比較して更に低い(〜8dyn/cm)ため、より効果的である。
【0037】
また、前記したように、基板表面に形成する膜は、基板表面と強固な化学結合を得るために、反応性官能基が入っていることが望ましいが、それは、反応性官能基がないと、基板表面と吸着した有機分子の界面で十分な密着性が得られないためである。ただし、非晶性フッ素樹脂には反応性官能基がないため、基板表面に物理吸着させる手法が唯一であるが、あらかじめ、疎水性薄膜で基板を被覆することにより、疎水性相互作用を利用して、密着性を向上させることも可能である。更に、反応せずに、表面に残存した反応基を利用して、異なる分子を共有結合により結合させることも有効である。
【0038】
その場合、液滴(特に、水滴)との相互作用を抑制する観点から、使用する分子は、枝状構造であることが好適である。この処理をすることで、雰囲気中の水分と反応する可能性のある未反応の反応性官能基を、キャッピングすることができるため、より安定な、低ヒステリシス表面を形成することが可能となり、金属の防食特性を向上させるには、特に有効である。膜厚は、全体で5〜10nm程度で、2層から構成される。
【0039】
本発明の表面処理技術を用いることにより、従来技術では困難であった、
実用金属/合金表面、ガラス又は石英
等から構成される基板表面と、液滴との相互作用を抑制することが可能となり、その結果、前進接触角(θ
A)と、後退接触角(θ
R)の差(ヒステリシス)が小さくなり、液滴の滑落性、基板表面からの液滴の除去性、防食特性等を、大幅に向上させることが可能となる。