(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768487
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】濾過装置
(51)【国際特許分類】
B01D 37/02 20060101AFI20150806BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20150806BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20150806BHJP
B01D 29/66 20060101ALI20150806BHJP
B01D 24/42 20060101ALI20150806BHJP
B01D 29/92 20060101ALI20150806BHJP
B01D 24/44 20060101ALI20150806BHJP
B01D 29/94 20060101ALI20150806BHJP
B01D 29/11 20060101ALI20150806BHJP
B01D 29/90 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
B01D37/02 F
B01J20/26 B
B01J20/24 B
B01J20/26 K
B01D29/38 520C
B01D29/38 520D
B01D29/42 510
B01D29/42 520
B01D37/02 G
B01D29/12 B
B01D29/38 510C
B01D29/42 501C
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-109111(P2011-109111)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-239931(P2012-239931A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】山本 明和
【審査官】
長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−121604(JP,A)
【文献】
特開平06−205906(JP,A)
【文献】
特開平01−249119(JP,A)
【文献】
特開昭54−086877(JP,A)
【文献】
特表2007−537748(JP,A)
【文献】
特開昭61−038611(JP,A)
【文献】
特開2004−057934(JP,A)
【文献】
特開2003−190713(JP,A)
【文献】
米国特許第06319417(US,B1)
【文献】
特開2012−161749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 29/00−29/96
B01D 36/00−37/04
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液体に固体状の剥離材を添加して混合被処理液体とする剥離材添加手段と、
前記混合被処理液体を導入する流入口と、前記混合被処理液体を濾過処理した処理済み液体を排出する流出口と、濾過処理によって前記混合被処理液体より分離された分離対象物と前記剥離材とを含む濃縮液を排出する排出口とを備えたケーシングと、
前記ケーシング内部を前記流入口が位置する第一室と前記流出口が位置する第二室とに区画するように前記ケーシング内部に装着され、上部が開口し、下部が前記排出口に接続されている濾過体とを備えており、
前記流入口は前記混合被処理液体を前記濾過体の前記第一室側濾過面に沿って渦巻状に旋回流動させるように、前記混合被処理液体を導入し、もって、前記混合処理液体に含まれる固体状の剥離材を、分離対象物に対して衝突させることを特徴とする濾過装置。
【請求項2】
前記濾過体は逆円錐台形状の布体であることを特徴とする、請求項1に記載の濾過装置。
【請求項3】
前記濾過体の孔径は0.1〜100μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の濾過装置。
【請求項4】
前記剥離材は天然素材からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項5】
前記剥離材は有機系プラスチックからなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項6】
前記剥離材は前記濾過体よりも硬度が低いことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項7】
前記剥離材の粒径は0.1〜10mmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項8】
前記剥離材の比重は1.01〜1.2であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項9】
前記剥離材は機能性素材を内部に包含することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項10】
前記濃縮液から前記剥離材を回収し、前記回収した剥離材を前記剥離材添加手段において添加する剥離材として再利用する剥離材回収手段を更に備えていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項11】
前記剥離材回収手段は、前記回収した剥離材を酸化処理及び/又は還元処理してから前記剥離材添加手段において添加する剥離材として再利用することを特徴とする、請求項10に記載の濾過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の被処理液体を濾過処理するための濾過装置に関する。例えば、各種産業分野の製造プロセスにおけるスラリー状液体の膜分離処理、特に発酵菌体の分離やブドウ糖液の精製等における膜分離処理の前処理として、又は用水処理や海水処理等の前処理として液中の異物を除去する際に用いられる流体濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業分野の製造プロセスにおいて、スラリー状液体の膜分離処理を行うに際しては、分離膜の保護や分離膜の目詰まり防止を目的として、液中の異物を膜分離処理工程の前に除去しておく前処理工程を行うことが一般的である。例えば、食品や医薬品の分野において、発酵菌体の分離やブドウ糖液の精製等には有機膜や無機膜を用いた膜分離処理が採用されている。膜分離の対象となる被処理液体中には、膜の目詰まりや劣化、損傷の原因となり得る異物が、製造工程で混入してきたり、もともと原材料中に含まれていたりするため、膜分離処理工程の前に液中の異物を除去する必要がある。また、井水等から懸濁物を除去する用水処理や、海水中のプランクトンを除去する海水処理等の処理においても、精密濾過工程の前に、原水に由来する異物を除去する前工程を設ける必要がある。
【0003】
従来、前述のような異物を除去するためには、筒状の容器内に濾過体を配置し、容器の一端側から被処理液体を導入して濾過体を通過させ、容器の他端側から濾過処理済みの液体を取り出す、簡易濾過器が使用されている。一例としては、開放式のロータリースクリーンや、密閉して加圧により液体を濾過するバッグフィルター、長繊維濾過器などが挙げられる。このような濾過器は、構成が簡単で保守管理性に優れ、かつ安価に提供されるため、各種産業分野の製造プロセスに適用し易いという利点を有している。
【0004】
一方、前述の従来型の濾過器においては、固形物の分離には効果を奏するものの、被処理液体中に溶存している異物に対しては効果が期待できない。また、濾過処理を継続的に行うことにより濾過体の濾過面に被処理液体から分離された異物が付着し、濾過体の目詰まりを引き起こすため、濾過処理を継続し得なくなるという問題がある。このような場合には、濾過処理済みの液体を取り出す側から被処理液体の導入側に向かって濾過体を洗浄する逆洗浄を行うことにより、濾過面に付着した異物を剥離して除去することが行われている。例えば、特許文献1には、ケーシング内部にフィルターを設置し、ケーシング内壁とフィルター外壁に囲まれた部分を濾過前室、フィルター内部を濾過後室とした濾過装置において、多数の吹き出し孔が形成されている直管状のノズルを備えた洗浄機構を濾過後室に設け、当該洗浄機構から高圧洗浄水をフィルターに向けて噴出させて、フィルターに付着した異物を洗い流す技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−205906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来型の濾過器では、前述のような逆洗浄を行っても濾過性能の回復効果は低く、濾過体の汚染が激しい場合には人手による洗浄作業を要するため、洗浄に手間がかかるという問題があり、特に、濾過体の表面に異物がこびり付き易い被処理液体の濾過には不適当であった。また、濾過体を使い捨てのものとし、洗浄作業を不要とすることも考えられるが、交換作業の手間の問題や、消耗品としての濾過体の費用、使用済み濾過体を廃棄物として処理する費用等が嵩むというコスト面の問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、濾過体の濾過面に付着した異物が濾過体の目詰まりを引き起こすことを抑制し、継続的に濾過処理を行っても濾過性能を効果的に維持することができる濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、被処理液体に固体状の剥離材を添加して混合被処理液体とする剥離材添加手段と、前記混合被処理液体を導入する流入口と、前記混合被処理液体を濾過処理した処理済み液体を排出する流出口と、濾過処理によって前記混合被処理液体より分離された分離対象物と前記剥離材とを含む濃縮液を排出する排出口とを備えたケーシングと、前記ケーシング内部を前記流入口が位置する第一室と前記流出口が位置する第二室とに区画するように前記ケーシング内部に装着され、上部が開口し、下部が前記排出口に接続されている濾過体とを備えており、前記流入口は前記混合被処理液体を前記濾過体の前記第一室側濾過面に沿って渦巻状に旋回流動させるように、前記被処理液体を導入することを特徴とする濾過装置を提供する(発明1)。なお、本願において、濾過処理した処理済み液体とは、被処理液体又は混合被処理液体が濾過体を通過することによって濾過処理され、異物等の分離対象物が分離された後の液体をいう。
【0009】
上記発明(発明1)によれば、濾過体によって混合被処理液体から分離された異物等の分離対象物が、濾過体の第一室側濾過面に沿って渦巻状に発生している旋回流に乗って徐々に濾過体の下部表面に蓄積されていくため、分離された異物等の分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを抑制することができる。また、濾過体によって混合被処理液体から分離された異物等の分離対象物を多く含む濃縮液を、濾過処理運転中であっても濾過体下部から排出することができるため、当該分離対象物を排出するために濾過処理運転を一時停止する必要がなくなり、連続的に濾過処理運転を行うことができる。さらに、混合被処理液体に固体状の剥離材が含まれているため、旋回流に乗った剥離材が、濾過体の第一室側濾過面に付着しようとする、又は付着した異物等の分離対象物に衝突し、当該分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを抑制することができる。加えて、混合被処理液体として濾過装置のケーシングに導入される前に剥離材を被処理液体に添加することにより、剥離材が前もって被処理液体中の溶存物質や懸濁物質を付着・吸着するため、濾過処理運転時の濾過体への負荷が低減される。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記濾過体は逆円錐台形状の布体であることが好ましい(発明2)。上記発明(発明2)によれば、分離された異物等の分離対象物や剥離材が、濾過体の第一室側濾過面に付着することなく、旋回流に乗って濾過体下部に流下し易くなるため、分離対象物を多く含む濃縮液を効率的に濾過体下部から排出することができる。
【0011】
上記発明(発明1,2)において、前記濾過体の孔径は0.1〜100μmであることが好ましい(発明3)。濾過体の孔径が0.1μm未満では濾過処理に要する時間が増大し、濾過体の孔径が100μmを超えると固形物が濾過処理した処理済み液体に漏れてしまい、処理済み液体の水質が悪化してしまう。上記発明(発明3)によれば、過剰な時間をかけることなく、処理済み液体に要求される水質基準を満足する濾過処理を行うことができる。
【0012】
上記発明(発明1〜3)において、前記剥離材は、天然素材からなるものでもよいし(発明4)、有機系プラスチックからなるものでもよい(発明5)。
【0013】
天然素材からなるものとしては、マンナンゲル、ゼラチン、セルロース系、アガロース系などのある程度の硬度を備え、かつ異物等の分離対象物や濾過体に衝突した際に当該分離対象物を吸着する吸着性能を備えたビーズ状(球状)のものなどが挙げられる。また、有機系プラスチックからなるものとしてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックからなるペレット状(円柱状)のものなどが挙げられる。
【0014】
上記発明(発明1〜5)において、前記剥離材は前記濾過体よりも硬度が低いことが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明6)によれば、剥離材が濾過体に衝突する際に、剥離材が濾過体に損傷を与えることを防止することができる。
【0016】
上記発明(発明1〜6)において、前記剥離材の粒径は0.1〜10mmであることが好ましい(発明7)。
【0017】
剥離材の粒径が0.1mm未満では濾過体の透過水量が著しく減少するおそれがあり、剥離材の粒径が10mmを超えると分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを抑制できなくなる可能性がある。上記発明(発明7)によれば、濾過体の十分な透過水量を確保した上で、分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを効率的に抑制することができる。
【0018】
上記発明(発明1〜7)において、前記剥離材の比重は1.01〜1.2であることが好ましい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明1〜8)において、前記剥離材は機能性素材を内部に包含していてもよい(発明9)。機能性素材としては、活性炭やゼオライト等が挙げられる。
【0020】
上記発明(発明1〜9)において、濾過装置は、前記濃縮液から前記剥離材を回収し、前記回収した剥離材を前記剥離材添加手段において添加する剥離材として再利用する剥離材回収手段を更に備えていてもよい(発明10)。
【0021】
上記発明(発明10)によれば、剥離材をリサイクルして使用することができるため、連続的に濾過処理運転を行う際に、剥離材添加手段において新規に添加する剥離材の量を抑えることができる。
【0022】
上記発明(発明10)において、前記剥離材回収手段は、前記回収した剥離材を酸化処理及び/又は還元処理してから前記剥離材添加手段において添加する剥離材として再利用することが好ましい(発明11)。
【0023】
上記発明(発明11)によれば、回収した剥離材に既に付着・吸着している溶存物質や懸濁物質を酸化処理及び/又は還元処理により分解することができるため、回収した剥離材を剥離材添加手段において添加する剥離材として有効に再利用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の濾過装置によれば、濾過体の濾過面に付着した異物が濾過体の目詰まりを引き起こすことを抑制し、継続的に濾過処理を行っても濾過性能を効果的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る濾過装置を示す概略構成図である。
【
図2】同実施形態に係る濾過装置本体を示す正面一部断面図である。
【
図3】同濾過装置本体が濾過処理運転時にあるときの状態を示す概略図である。
【
図4】同濾過装置本体が逆洗浄運転時にあるときの状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る濾過装置1は、濾過装置本体100と、被処理液体混合槽200と、剥離材分離装置300と、酸化還元槽400と、供給ポンプ500とから構成されている。
【0027】
被処理液体混合槽200には、被処理液体供給管210と剥離材供給管220と回収剥離材供給管230と混合被処理液体供給管240とが接続されている。被処理液体供給管210からは被処理液体が、剥離材供給管220及び回収剥離材供給管230からは固体状の剥離材が被処理液体混合槽200に供給される。供給された被処理液体と剥離材とが被処理液体混合槽200において混合されて混合被処理液体となり、混合被処理液体供給管240へと送られる。
【0028】
固体状の剥離材は、天然素材や有機系プラスチックからなるものを使用するが、これに限られるものではない。天然素材からなるものとしては、マンナンゲル、ゼラチン、セルロース系、アガロース系などのある程度の硬度を備え、かつ異物等の分離対象物や濾過体に衝突した際に当該分離対象物を吸着する吸着性能を備えたビーズ状(球状)のものなどが挙げられる。また、有機系プラスチックからなるものとしてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックからなるペレット状(円柱状)のものなどが挙げられる。また、剥離材の硬度を濾過体よりも低くすることにより、剥離材が濾過体に衝突する際に剥離材が濾過体に損傷を与えることを防止する。
【0029】
剥離材の粒径が0.1mm未満では濾過体の透過水量が著しく減少するおそれがあり、剥離材の粒径が10mmを超えると分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを抑制できなくなる可能性がある。そのため、剥離材の粒径は0.1〜10mmとし、濾過体の十分な透過水量を確保した上で、分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを効率的に抑制することができる。さらに、水に沈むように剥離材の比重は1.01〜1.2であることが好ましい。
【0030】
濾過装置1の用途に応じて、剥離材の内部に機能性素材を包含させることもできる。機能性素材としては、活性炭やゼオライト等が挙げられる。
【0031】
混合被処理液体供給管240の他端には供給ポンプ500が接続されている。供給ポンプ500は混合被処理液体を濾過装置本体100へと送り込むためのポンプである。
【0032】
図2に示すように、本実施形態に係る濾過装置本体100は、濾過体30が内部に装着されたケーシング20に、混合被処理液体流入管40、処理済み液体流出管50、排出管60及び気体導入管70が接続されて構成されている。
【0033】
ケーシング20は、上部が開口している有底円筒状の容器本体21と、容器本体21の上部開口部を閉塞するように容器本体21に装着される容器蓋部22とから構成されている。容器蓋部22の頭頂部にはケーシング20内の気体を排出可能な排気口23が設けられている。容器本体21の底部には開閉バルブ25を備えたドレン管24が設けられており、必要に応じてケーシング20内の液体を排出可能な構造となっている。
【0034】
濾過体30は、柔軟性のある濾材を用いて形成された逆円錐台形状の布体である。濾過体30に用いられる濾材の原材料としては、例えば、ナイロンやポリエステル等の有機合成品からなる化学繊維や綿等の天然繊維等を用いた不織布又は織布等が挙げられる。硬度のある剥離材を用いる場合には、ポリイミドや炭素繊維、金属製繊維等を用いた織布を濾材の原材料としてもよい。濾過体30の上端部及び下端部はいずれも開口している。
【0035】
濾過体30に用いられる濾材の孔径(メッシュ)は濾過対象に応じて適宜選定されるが、0.1〜100μmであることが好ましい。これは、濾過体の孔径が0.1μm未満では濾過処理に要する時間が増大し、濾過体の孔径が100μmを超えると固形物が濾過処理した処理済み液体に漏れてしまい、処理済み液体の水質が悪化してしまうことによる。濾過体の孔径を0.1〜100μmとすることにより、過剰な時間をかけることなく、処理済み液体に要求される水質基準を満足する濾過処理を行うことができる。
【0036】
濾過体30は、ケーシング20の容器本体21の上部内壁に沿って設けられた環状の取付部材31に濾過体30の上端部を取り付けることにより、ケーシング20内部に装着される。環状の取付部材31は容器本体21の上部内壁に対して着脱可能な構造となっている。また、取付部材31には、濾過体30を破損から保護するために、取付部材3から鉛直方向下方に向かって、かつ濾過体30を取り囲むように円筒状の保護スクリーン33が取り付けられている。
【0037】
さらに、濾過体30の下端部には接続部材32が取り付けられており、接続部材32は排出管60の排出口62に着脱自在に接続されている。接続部材32は、接続部材32が排出管60に接続されている状態で濾過体30内に混合被処理液体を供給して旋回流動させる際にも排出管60から外れることがない一方で、容器本体21上部から濾過体30内側に手を入れて、排出管60から着脱することができる構造となっている。
【0038】
このように濾過体30をケーシング20内部に装着することにより、ケーシング20内部は濾過体30によって第一室2Aと第二室2Bとに区画されていることとなる。また、濾過体30は、ケーシング20の容器蓋部22を容器本体21から取り外した上で、取付部材31を容器本体21の上部内壁より取り外すとともに接続部材32を排出管60より取り外すことにより、容器本体21の上部開口部よりケーシング20外部に取り出すことができる。
【0039】
混合被処理液体流入管40は、混合被処理液体をケーシング20に導入するものであり、ケーシング20の容器本体21の上部においてケーシング20に接続されている。混合被処理液体流入管40の途中には混合被処理液体のケーシング20への流入を制御する流入バルブ41が備えられており、流入バルブ41を開栓すると、供給ポンプ500により被処理液体混合槽から送り込まれる混合被処理液体がケーシング20に流入し、流入バルブ41を閉栓することにより流入が遮断される。
【0040】
また、本実施形態においては、混合被処理液体流入管40は容器本体21の上部内壁に設けられた取付部材31よりも上側に接続されており、混合被処理液体流入管40の流入口42は、第一室2Aに位置するとともに、濾過体30の平面視接線方向に向かって開口している。このように混合被処理液体流入管40をケーシング20に接続し、流入口42を開口させたことにより、混合被処理液体流入管40から混合被処理液体をケーシング20内に放出した場合に、混合被処理液体を濾過体30の内側の濾過面に沿って渦巻状に旋回流動させることができる。
【0041】
処理済み液体流出管50は、混合被処理液体を濾過処理した処理済み液体をケーシング20から排出するものであり、ケーシング20の容器本体21の上部においてケーシング20に接続されている。処理済み液体流出管50の途中には処理済み液体のケーシング20からの流出を制御する流出バルブ51が備えられており、流出バルブ51を開栓すると処理済み液体がケーシング20から流出し、流出バルブ51を閉栓することにより流出が遮断される。
【0042】
また、本実施形態においては、処理済み液体流出管50は容器本体21の上部内壁に設けられた取付部材31よりも下側に接続されている。このように処理済み液体流出管50をケーシング20に接続したことにより、処理済み液体流出管50の流出口52は第二室2Bに位置していることになる。
【0043】
以上のような濾過体30、混合被処理液体流入管40、及び処理済み液体流出管50の構造により、混合被処理液体流入管40よりケーシング20内に流入した混合被処理液体を濾過体30によって濾過し、濾過処理済み液体を処理済み液体流出管50からケーシング20外部に流出させるという濾過機能を濾過装置1に持たせることができる。濾過体30によって混合被処理液体から分離された異物等の分離対象物は、濾過体30の第一室2A側の濾過面に沿って渦巻状に発生している旋回流に乗って徐々に濾過体30の下部表面に蓄積されていく。また、混合被処理液体中に含まれている固体状の剥離材も同様に旋回流に乗って徐々に濾過体30の下部表面に蓄積されていく。
【0044】
なお、濾過体30により区画されたケーシング20の第一室2A内の圧力を計測するための第一圧力計9Aがケーシング20の容器蓋部22の上部に設けられており、第二室2Bの圧力を計測するための第二圧力計9Bがケーシング20の容器本体21の腹部に設けられている。第一圧力計9A及び第二圧力計9Bを用いることにより、第一室2Aと第二室2Bとの差圧を計測することができ、このように差圧を計測することにより、濾過体30の濾過面の目詰まりの状態を確認することが可能である。すなわち、差圧がない又は小さいということは液体の濾過体30通過がスムーズにいっているということであるため、濾過面に対する異物等の付着の影響はほぼない状態と判断できる。逆に、差圧が大きいということは液体の濾過体30通過が滞り始めたということであるため、濾過面に異物等が付着している状態と判断できる。
【0045】
排出管60は、濾過体30によって混合被処理液体から分離された異物等の分離対象物や剥離材を含む濃縮液をケーシング20から排出するものであり、ケーシング20の容器本体21の底部ほぼ中央においてケーシング20に接続されている。排出管60の途中には異物等の分離対象物を含む濃縮液のケーシング20からの排出を制御する排出バルブ61が備えられており、排出バルブ61を開栓すると異物等の分離対象物を含む濃縮液がケーシング20から排出され、排出バルブ61を閉栓することにより排出が遮断される。
【0046】
排出管60は、ケーシング20内部にその一部が位置し、ケーシング20内部からケーシング20外部に向かって鉛直方向下向きに延出している。排出管60は、容器本体21の下で水平方向に向きを変えて延設されている。排出管60の排出口62には、前述のように、濾過体30が接続部材32を介して接続されている。このように排出管60をケーシング20及び濾過体30に接続したことにより、濾過体30によって混合被処理液体から分離された異物等の分離対象物を含む濃縮液を排出管60より排出することができる。
【0047】
気体導入管70は、ケーシング20内部に供給する気体をケーシング20外部から導入するものであり、ケーシング20の容器本体21の下部においてケーシング20に接続され、そのまま容器本体21内部にまで延出している。気体導入管70の途中にはケーシング20への気体の供給を制御する気体導入バルブ71が備えられており、気体導入バルブ71を開栓すると気体がケーシング20へ供給され、気体導入バルブ71を閉栓することにより供給が遮断される。
【0048】
気体導入管70の容器本体21内部に位置する端部には、環状の気体噴出管80が接続されており、気体噴出管80は排出管60の排出口62近傍を取り囲むように設置されている。また、気体噴出管80には、濾過体30の第二室2B側濾過面に向かって気体を噴出する複数の気体噴出孔81が形成されている。このように複数の気体噴出孔81が形成された気体噴出管80を設置することにより、濾過装置1の濾過処理運転時においては、濾過体30に対して気体を噴出すると気泡が液体中を濾過体30に沿って上昇し、もって濾過体30を振動させ続けるため、分離された異物等の分離対象物が濾過体30の濾過面に付着することを抑制し、さらには異物等の分離対象物が濾過体30の目詰まりを引き起こすことを抑制することができる。また、濾過装置1の逆洗浄運転時においては、濾過体30に対して気体を噴出すると、気体の圧力によって液体が濾過体30を第二室2B側から第一室2A側に逆流するため、濾過体30の濾過面に付着してしまった異物等の分離対象物を剥離して除去することができる。
【0049】
排出管60の排出口62とは逆側の一端には剥離材分離装置300が接続されている。剥離材分離装置300は、濃縮液に含まれている異物等の分離対象物と剥離材とを分離し、剥離材を回収して被処理液体混合槽200に循環供給するためのものであり、気液混合槽310とスクリーン傾斜板320とプラスチック濾材330と下部水槽340とから構成されている。
【0050】
下部水槽340には、回収剥離材供給管230の、被処理液体混合槽200と接続されているのとは逆側の一端が接続されている。また、回収剥離材供給管230の途中には酸化還元槽400が設けられている。これにより、本実施形態に係る濾過装置1は、被処理液体混合槽200→濾過装置本体100→剥離材分離装置300→酸化還元槽400→被処理液体混合槽200→・・・という循環型の濾過装置を形成することとなる。
【0051】
[濾過処理運転]
このように構成された濾過装置1を用いて濾過処理運転を行う場合、次のようにして実施される。まず、被処理液体混合槽200に対して被処理液体供給管210から被処理液体を供給し、剥離材供給管220から供給された固体状の剥離材が被処理液体混合槽200において被処理液体に添加・混合され、混合被処理液体となって混合被処理液体供給管240経由供給ポンプ500へと送られる。このように、混合被処理液体として濾過装置本体100のケーシング20に導入される前に剥離材を被処理液体に添加することにより、剥離材が前もって被処理液体中の溶存物質や懸濁物質を付着・吸着するため、濾過処理運転時の濾過体30への負荷が低減される。
【0052】
次に、排気口23を開いた状態で、流出バルブ51、排出バルブ61及び気体導入バルブ71を閉栓し、流入バルブ41のみ開栓して混合被処理液体導入管40から混合被処理液体をケーシング20に導入し、濾過処理を開始する。混合被処理液体が容器本体21に充填され、排気口23より被処理液体が噴出する手前で排気口16を閉じると、濾過装置本体100は濾過処理運転を開始する。
【0053】
続いて、
図3に示すように、流出バルブ51、排出バルブ61及び気体導入バルブ71を開栓し、濾過装置本体100は安定運転状態に入る。このとき、ケーシング20内では濾過体30の内側の濾過面に沿って渦巻状の旋回流が発生している。
【0054】
流出バルブ51を開栓すると、濾過体30を通過して濾過処理された処理済み液体が、処理済み液体流出管50を経て濾過装置本体100外部へ排出される。濾過体30を通過できない異物等の分離対象物は、濾過体30の第一室2A側濾過面に滞留する。
【0055】
排出バルブ61を開栓すると、渦巻状に発生している旋回流に乗って徐々に濾過体30の下部表面に蓄積された異物等の分離対象物が、排出管60を経て濾過装置本体100の外部へ排出される。
【0056】
気体導入バルブ71を開栓すると、気体が気体導入管70を経て気体噴出管80に供給され、気体噴出管80に設けられた複数の気体噴出孔81から濾過体30の第二室2B側濾過面に対して気体が噴出する。その結果、噴出した気体が液体中で気泡化するとともに当該気泡が液体中を濾過体30に沿って上昇し、もって濾過体30を振動させ続けるため、分離された異物等の分離対象物が濾過体30の第一室2A側濾過面に付着することを抑制し、さらには異物等の分離対象物が濾過体30の目詰まりを引き起こすことを抑制する。
【0057】
異物等の分離対象物の中には付着性のあるものもあり、そのような異物は、気泡によって濾過体30を振動させても、濾過体30の第一室2A側濾過面への付着を防ぐことができない。一方、混合被処理液体には固体状の剥離材が含まれているため、旋回流に乗った剥離材が、濾過体の第一室側濾過面に付着しようとする、又は付着した異物等の分離対象物に衝突し、当該分離対象物が濾過体の第一室側濾過面に付着することを抑制することができる。
【0058】
排出管60を経て濾過装置本体100外部へと排出された濃縮液は、剥離材分離装置300へと流入する。この濃縮液には異物等の分離対象物に加えて剥離材も含まれており、また、当該剥離材には溶存物質や懸濁物質等の異物等を付着・吸着したものも含まれている。
【0059】
剥離材分離装置300へと流入した濃縮液は、まず、気液混合槽310において攪拌され、剥離材に付着した異物が剥離材から分離される。その後、濃縮液はスクリーン状のスクリーン傾斜板320に送られて剥離材と異物とが濃縮液から分離され、分離された剥離材と異物とは何れも下部水槽340へと落下する。スクリーン傾斜板320と下部水槽340との間にはプラスチック濾材330が設けられているため、異物は濾過されて剥離材と濾液のみが下部水槽340へと落下するようになっている。
【0060】
下部水槽340へと集められた剥離材及び濾液は、回収された剥離材を再利用すべく、回収剥離材供給管230を経て被処理液体混合槽200へと供給される。このように剥離材をリサイクルして使用することにより、連続的に濾過処理運転を行う際に、被処理液体混合槽200において新規に添加する剥離材の量を抑えることができる。さらに、回収剥離材供給管230の途中には酸化還元槽400が設けられているため、回収した剥離材に付着・吸着している溶存物質や懸濁物質が残存している場合にも、当該溶存物質や懸濁物質を酸化処理及び/又は還元処理により分解することができるため、回収した剥離材を被処理液体混合槽200において添加する剥離材として有効に再利用することができる。
【0061】
このように、本実施形態に係る濾過装置1によれば、異物等の分離対象物が濾過体30の濾過面に付着することを抑制することができるため、異物等の分離対象物が濾過体30の目詰まりを引き起こすことを抑制することができる。
【0062】
[逆洗浄運転]
濾過装置1を用いて逆洗浄運転を行う場合、次のようにして実施される。ここで、逆洗浄とは、本来の濾過をするために液体を流す方向とは逆の方向に液体を流して、濾過体を洗浄することをいう。本実施形態に係る濾過装置1においては、前述したように、分離された異物等の分離対象物が濾過体30の濾過面に付着することを防止する機構が採用されているものの、継続的に濾過処理を行っても完全に濾過性能を維持することは困難であり、経時的には濾過性能が低下する。したがって、低下した濾過性能を回復させるためには、逆洗浄運転を行うことが必要となる。
【0063】
なお、逆洗浄運転は、濾過処理運転時間を管理して、所定の時間が経過したところで定期的に行われることもあるし、第一圧力計9Aと第二圧力計9Bとの差圧を管理して、差圧が所定の大きさを超えたところで都度行われることもあるし、その両方を組み合わせて行われることもある。
【0064】
まず、
図4に示すように、流入バルブ41及び流出バルブ51を閉栓し、濾過処理運転を停止するとともに排出管60が洗浄廃水の排出を担うように配管の切り替えを行う。この状態で排出バルブ61及び気体導入バルブ71を開栓したままとすれば、排出管60からケーシング20内の液体が流出していくとともに、気体噴出管80から濾過体30の第二室2B側濾過面に対して気体が噴出し、気体の圧力によってケーシング20内の液体は濾過体30の外側から内側へと逆流し始める。その結果、濾過体30の内側濾過面に付着した異物等の分離対象物が逆流した液体の勢いで剥離されて除去される。ここで、気体は液体中で気泡化しており、濾過体30を通過できないため、液体のみが濾過体30を通過して第二室2B側から第一室2A側へと流れる。
【0065】
なお、通常は逆洗浄運転を行うことによって濾過体30の濾過面に付着した異物等の分離対象物が剥離されて除去され、低下した濾過性能を回復させることができるが、それでも十分に濾過体30の洗浄を行うことができない場合は、排出管60から洗浄水を導入し、流入バルブ41及び洗浄廃液ドレン弁600を開栓するとともに逆流防止弁610を閉栓することにより、濾過体30の第一室2A側濾過面を洗浄する工程を追加することもある。その際には、気体噴出管80から濾過体30の第二室2B側濾過面に対して気体を噴出させて濾過体30に振動を与える工程も併用することもある。また、必要に応じて濾過体30を濾過装置1より取り外して洗浄することも可能である。
【0066】
このように、本実施形態に係る濾過装置1によれば、異物等の分離対象物が濾過体30の濾過面に付着したとしても、逆洗浄運転を適宜行うことができるため、低下した濾過性能を回復させることができる。
【0067】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0068】
本実施形態に係る濾過装置1によれば、簡単な構成で被処理液体中の異物等の分離対象物を効率的に除去することができるとともに、分離された異物等の分離対象物を連続的に排出することができる。また、濾過処理運転の合間に逆洗浄運転を行うことによって低下した濾過性能を回復させ、連続的に運転する場合にも濾過性能を維持することができる。
【0069】
本実施形態に係る濾過装置1は、各種産業分野の製造プロセスにおけるスラリー状液体の膜分離処理、特に発酵菌体の分離やブドウ糖液の精製等における膜分離処理の前処理として液中の異物を除去する際に用いられる濾過装置として、膜分離工程の前段に容易に組み込むことができるため、工業的に極めて有用である。
【0070】
また、濾過体30に用いられる濾材のメッシュを好適に選定することにより、特定の粒子径以上の粒子を除去することも可能となり、比較的異物混入が少ない井水等から懸濁物を除去する用水処理や、海水中のプランクトンを除去する海水処理等の処理において、精密濾過工程の前段に容易かつ安価に組み込むことができるため、作業性の改善に大いに役立つ。
【0071】
さらに、精密濾過装置を用いた工程の前工程に濾過装置1を用いることにより、高価な濾過膜や保安フィルターの寿命を延ばし、廃棄物を削減することができるため、本実施形態に係る濾過装置1は環境保全の観点でも高い効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、各種液体を継続的に濾過処理するために有用である。
【符号の説明】
【0073】
1…濾過装置
100…濾過装置本体
20…ケーシング
21…容器本体
22…容器蓋部
23…排気口
24…ドレン管
25…開閉バルブ
2A…第一室
2B…第二室
30…濾過体
31…取付部材
32…接続部材
33…保護スクリーン
40…混合被処理液体流入管
41…流入バルブ
42…流入口
50…処理済み液体流出管
51…流出バルブ
52…流出口
60…排出管
61…排出バルブ
62…排出口
70…気体導入管
71…気体導入バルブ
80…気体噴出管
81…気体噴出孔
9A…第一圧力計
9B…第二圧力計
200…被処理液体混合槽
210…被処理液体供給管
220…剥離材供給管
230…回収剥離材供給管
240…混合被処理液体供給管
300…剥離材分離装置
310…気液混合槽
320…スクリーン傾斜板
330…プラスチック濾材
340…下部水槽
400…酸化還元槽
500…供給ポンプ
600…洗浄廃液ドレン弁
610…逆流防止弁