(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シラン架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブルは、一般的には次のように製造される。すなわち、まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させるべく、ポリエチレン、シラン化合物、及び遊離ラジカル発生剤を混合し、練り合わせて反応させる。次に、ここにシラノール縮合触媒を添加した後、銅からなる導体、又はケーブルコアに押出被覆する。押出被覆する工程は、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンを一旦作製し、別工程においてシラノール縮合触媒と当該ポリエチレンとを混合、練り合わせて押出被覆する方法、一つの押出機で全混練工程を実施し、押出被覆する方法等がある。このようにして得られた電線・ケーブルは大気中若しくは高湿環境下に放置することで、被覆材料の架橋が進行する。
【0007】
そして、近年の市場のグローバル化に伴い、国内規格を国際規格に整合させる動きが活発化している。低圧電力ケーブルの分野においてもIEC規格に整合したJIS規格が制定され、特に、絶縁体として用いる架橋ポリエチレンにおいては空気温度200℃におけるホットセット試験に合格することが要求されている。ホットセット試験は、高温時の絶縁材料の変形のしやすさを測定するものであり、従来の規格では使用が可能であった架橋度が低いポリエチレンは、大きく変形するため不合格となる。このため、より高い架橋度をもつシラン架橋ポリエチレンの開発が求められている。
【0008】
しかしながら、シラン架橋ポリエチレンの架橋度を上げることを目的として、シラン化合物の添加量と遊離ラジカル発生剤の添加量とを増加させると、押出成形時の外観に表面荒れ、及びツブ状の突起物等が生じる場合がある。したがって、電線・ケーブルの被覆材料に用いるシラン架橋ポリエチレンの架橋度を向上させることが困難な場合がある。
【0009】
また、従来技術のように押出被覆して得られた電線・ケーブルを大気中に放置して架橋させる方法では、従来よりも高い架橋度を得るために1週間程度かかってしまい、所望の架橋度を得るまでに長時間を要する。また、大気中に放置して架橋させる方法では、気温、湿度などの季節要因によって必要な日数が変動し、品質の管理が難しくなるという課題がある。
【0010】
この課題を解決するために、ドラムに巻き回した電線・ケーブルを高温、高湿に調整された架橋用設備内に配置して架橋させる方法があり、この方法であれば、高温、高湿の環境下に1日程度放置して所望の架橋度が得られるとともに、品質管理の作業性を良好にすることができる。
【0011】
しかしながら、かかる方法では、電線・ケーブルの量産化を考慮すると、極めて大容量の架橋用設備を特別に用意する必要があり、設備投資の増加につながり、ひいては電線・ケーブルの製造コストを上昇させてしまう。
【0012】
そこで、所望の高い架橋度を備えたシラン架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブルを得るにあたっては、架橋作業の時間短縮および設備投資による製造コストの上昇を極力抑えることが可能な電線・ケーブルの製造方法の開発が求められている。
【0013】
したがって、本発明の目的は、架橋度が高く、かつ、押出成形後の外観が平滑であり、架橋作業の時間短縮および設備投資による製造コストの上昇を極力抑えることが可能な電線・ケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、導体と、前記導体の上に、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンを架橋させたシラン架橋ポリエチレンであって、前記シラン化合物を前記遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンが190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下であり、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、前記シラン化合物の添加量の割合が遊離ラジカル発生剤の添加量に対して35以上であるシラン架橋ポリエチレンを押出被覆して絶縁被覆層を形成し、前記導体の上に押出被覆した絶縁被覆層を、
常圧の過熱水蒸気を供給した加熱管に通して架橋させたことを特徴とするシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる絶縁電線の製造方法が提供される。
【0015】
(2)また、本発明は、上記目的を達成するため、導体の上に絶縁被覆層を形成した電線の外側に、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンを架橋させたシラン架橋ポリエチレンであって、前記シラン化合物を前記遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンが190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下であり、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、前記シラン化合物の添加量の割合が遊離ラジカル発生剤の添加量に対して35以上であるシラン架橋ポリエチレンを押出被覆してシース層を形成し、前記絶縁被覆層の上に押出被覆したシース層を、
常圧の過熱水蒸気を供給した加熱管に通して架橋させたことを特徴とするシラン架橋ポリエチレンを被覆してなるケーブルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線、及びケーブルの製造方法によれば、架橋度が高く、かつ、押出成形後の外観が平滑であり、架橋作業の時間短縮および設備投資による製造コストの上昇を極力抑えることが可能な電線又はケーブルの製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法に使用するシラン架橋ポリエチレンは、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンをシラノール縮合触媒、及び水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンである。具体的に、シラン架橋ポリエチレンは、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下である。
【0019】
ポリエチレンに添加するシラン化合物及び遊離ラジカル発生剤の量は、本発明者が鋭意検討した以下の結果に基づく。
【0020】
すなわち、まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる反応では、熱により遊離ラジカル発生剤が分解し、遊離ラジカルが発生する。そして、発生した遊離ラジカルがポリエチレンから水素を引き抜くことにより、ポリマーラジカルが生成する。生成したポリマーラジカルにシラン化合物が付加すると、シラン化合物がグラフト共重合したポリエチレンが得られる。
【0021】
しかし、実際には上記反応以外にポリマーラジカル同士の結合も同時に発生する。この反応が進行しすぎると、ポリエチレンの分子量が高くなり、更に、三次元的な橋架け構造を形成して架橋する。結果として、押出時の流動性が低下することにより表面の荒れやツブ状の突起等に起因する外観不良の問題が生じる。押出被覆時にシラノール縮合触媒を添加すると、ポリマー内の水分の影響によりシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレン同士の反応も発生するので、これらの問題はより顕著に表れる。
【0022】
これに対し、本発明者は、ポリエチレン100重量部に対し、1.5重量部以上のシラン化合物を添加し、かつ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合(すなわち、重量比)を35以上にし、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスを5g/10分以下にすることで、押出成形時の表面荒れやツブ状の突起の発生を防止できる知見を得た。更に、本発明者は、適切な条件で架橋を促進させた後は、架橋度の高いシラン架橋ポリエチレンが得られるという知見を得、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法に至った。
【0023】
これは、遊離ラジカル発生剤によって生成したポリマーラジカルが、過剰に添加されたシラン化合物と優先的に反応することによって、ポリエチレンの高分子量化、及び架橋を抑制できるので、押出性の低下を抑制できると共に、シラン化合物のグラフト量が増加することにより、高い架橋度を実現することができることに起因すると考えられる。
【0024】
次にシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法の製造プロセスを検討した。樹脂やゴム材料において、有機過酸化物や硫黄などによる架橋反応を速めるため、温度を高めることは一般的な手法である。しかしながら、シラン架橋においては、水分のほとんどない環境下で熱気、熱風等により100℃以上に温度を高めても、十分な架橋速度を得られない。これは反応に必要な水分が不足しているためと考えられる。また、温度が高すぎるとポリエチレンが酸化してしまうという問題もある。
【0025】
そこで、発明者らは高温の水蒸気の存在下で架橋促進を検討することとした。一般的に100℃以上の高温の水蒸気とは、高圧飽和水蒸気のことを指す。高圧飽和水蒸気では、温度と圧力が一義的に決まり、例えば200℃にするためには約1.6MPaの圧力が必要となる。このため、電線・ケーブルの架橋促進に適用する場合、装置は大掛かりなものとなり、また押出被覆されたポリエチレンが圧力により変形してしまうという問題がある。
【0026】
そこで、発明者らは蒸発した水蒸気をさらに加熱し、常圧のまま100℃以上の高温状態にした過熱水蒸気に着目し、検討をおこなった。その結果、高温の過熱水蒸気中で短時間加熱することによりシラン架橋スピードが飛躍的に向上することを見出し、本発明を得るに至った。これは反応に必要な温度(エネルギー)および水分が同時に供給されたことによると考えられる。さらには、過熱水蒸気を発生させるための装置も簡易的であり、常圧のためポリエチレンの変形も抑えられ、ほとんど酸素を含まないためポリエチレンの酸化劣化が起きないことから本発明に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線・ケーブルの製造方法に適したプロセスであるとの確証を得た。
【0027】
本実施の形態において用いるシラン化合物は、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基との双方を有する。具体的に、シラン化合物は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等を用いることができる。
【0028】
また、遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンハイドロパーオキサイド等の熱によって分解し、遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物を主として用いることができる。
【0029】
本実施の形態においては、1.5重量部以上のシラン化合物が、100重量部のポリエチレンに添加される。すなわち、ポリエチレンにグラフト共重合されるシラン化合物の量を多くすることにより得られるシラン架橋ポリエチレンの架橋度を高くすることを目的として、シラン化合物は1.5重量部以上添加する。シラン化合物が1.5重量部未満では架橋度が低く、ホットセット試験に合格することができない。また、シラン化合物同士の反応が多くなることにより異物が生成し、成形物の外観や特性を低下させることを抑制すべく、シラン化合物は5重量部以下添加することが好ましい。
【0030】
また、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する重量比を35以上にする。ここで、重量比は、シラン化合物の添加量を(a)、遊離ラジカル発生剤の添加量を(b)とした場合に、(a)/(b)により算出することができる。ポリエチレンの高分子量化が進むことにより外観の荒れ及びツブ状の突起物の生成を抑制すべく、(a)/(b)は35以上にする。(a)/(b)が35未満では、良好な押出外観が得られない。また、シラン化合物同士の反応が多くなることにより異物が生成し、成形物の外観や特性を低下させることを抑制すべく、(a)/(b)は150以下にすることが好ましい。
【0031】
また、本実施の形態において用いるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、若しくは超低密度ポリエチレン、又はこれらのうち2種以上を混合した混合物を挙げることができる。
【0032】
更に、本実施の形態に係るシラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスは、5g/10分以下である。メルトインデックスが5g/10分を超えると、ポリエチレンの分子量が低くなり、架橋度が上がりにくくなる傾向があり、ホットセット試験に合格することができない。
【0033】
本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンには、シラノール縮合触媒を更に添加することができる。用いるシラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、ジオクチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、ビスネオデカン酸錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト等が挙げられる。また、縮合効率を上げるために、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物などの酸類やアミン系化合物などのアルカリ類を用いても良く、上述の錫、亜鉛化合物等と併用しても良い。これらの添加量は触媒の種類によるがポリエチレン100重量部当たり0.001〜1.0重量部に設定される。添加方法としては、試薬をそのまま添加する方法以外に、ポリエチレン等の結晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混合したマスターバッチを用いる方法を採用することもできる。
【0034】
更に、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンには、プロセス油、加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の配合剤を適宜、添加することもできる。
【0035】
過熱水蒸気を発生させるには、100℃の飽和水蒸気をさらに加熱する必要があり、バーナー、電気ヒーター、電磁誘導などで加熱する方法などが知られており、本発明においては既知の加熱手法を採用してもよい。
【0036】
発生させた過熱水蒸気は押出機に続けて設置された加熱管の中に供給される。加熱管への供給口は加熱管の長さに応じて1箇所または複数箇所設けてよい。加熱管を通過した後のポリエチレンの架橋度は、過熱水蒸気の温度および加熱管内の滞在時間によって決まる。これらの条件はシラン架橋ポリエチレンの配合によっても変わるものであるため、適宜設定することができる。ただし、過熱水蒸気の温度が低すぎる場合や、加熱管内の滞在時間が短すぎる場合は、十分に架橋反応が促進されないことが懸念されるため、過熱水蒸気の温度は150〜600℃の範囲が好ましく、加熱管内の滞在時間は10秒以上であることが望ましい。加熱管内の滞在時間は、加熱管の長さおよび電線・ケーブルの搬送スピードによって決定されるため、加熱管の長さが一定の場合は搬送スピードで調節することができる。
【0037】
過熱水蒸気発生装置から加熱菅への配管や加熱管内の過熱水蒸気の温度低下を防ぐため、配管や加熱管の周囲をヒーターなどにより加熱する方法を取ることができる。また、加熱時にポリエチレンが内部の水分等により発泡を生じる可能性がある。その場合には一般的な手法により、被覆材が変形しない範囲で加熱管内部を加圧することも可能である。
【0038】
シラン架橋ポリエチレンを押出成形する方法としては既知の製造方法が適用できる。一例を
図2により説明する。押出機11の原料ホッパー16からポリエチレンを投入し、次いで下流側の液注入口17からシラン化合物と遊離ラジカル発生剤の混合液を投入し、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる。さらに下流側の供給口18からシラノール縮合触媒を投入、混練し、導体上に押出被覆する。
【0039】
その他には、一括して原料ホッパーから投入する方法、予めシラン化合物がグラフト共重合されたポリエチレンを作製しておき、これを原料ホッパーから投入し、シラノール縮合触媒を原料ホッパーもしくは供給口18から投入する方法等がある。
【0040】
このときの押出温度はポリエチレンの融点以上の温度が選定され、一般的には80〜200℃である。また、シラン化合物をグラフト共重合させる場合は、遊離ラジカル発生剤が押出機の滞留時間内に十分に分解し遊離ラジカルを発生するような温度を選定する必要がある。押出温度が100℃より低い場合は、加熱管内で過熱水蒸気が凝縮して表面に水滴を生じる現象が起きる。これが再蒸発するときに潜熱を奪うため、材料温度が100℃付近で停滞してしまう問題がある。このため、押出温度は100℃以上にするのが望ましい。
【0041】
図3は、本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備える電線の断面の概要を示す。また、
図4は、本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなるシース層を備えるケーブルの断面の概要を示す。本発明の製造方法を実施するための装置の一構成例について、
図1により説明する。
【0042】
電線1は、銅等の金属材料からなる導体10と、導体10の外周を被覆する絶縁被覆層としての絶縁体20とを備える。また、ケーブル2は、電線1の外周を被覆するシース層としてのシース30を備える。絶縁体20及びシース30は、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンから主として構成される。絶縁体20及びシース30はそれぞれ、シラン架橋ポリエチレンの押出成形により導体10又は電線1を被覆する。
【0043】
導体10は送り出し機21から供給される。シラン化合物がグラフト共重合されたポリエチレンは押出機11のクロスヘッド部を通り、導体10に被覆される。続いて設置された加熱管12には過熱水蒸気が過熱水蒸気発生装置13から供給されており、この中をポリエチレンが被覆された電線1が連続的に通過する。このときにシラン架橋が進行する。続いて冷却水槽14の中で冷却され、巻き取り機15によって巻き取られる。ここでは、シラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備える電線の製造方法を説明したが、この製造方法は、シース層としての絶縁被覆層を押出被覆した後に、続けて設置された加熱管12を通過させることでシラン架橋をすることで、シラン架橋ポリエチレンからなるシース層を備えるケーブルの製造方法についても使用することができる。
【0044】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法に使用するシラン架橋ポリエチレンは、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上のシラン化合物が含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが5g/10分以下であるので、架橋度を高くすることができ、かつ、押出外観を平滑にすることができる。また、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法においては、高い架橋度を実現することができ、架橋作業の時間短縮および従来の手法に比して設備投資による製造コストの上昇を極力抑えることが可能である。また、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを被覆してなる電線又はケーブルの製造方法によれば、電線またはケーブルを押出機に続けて設置され、過熱水蒸気を供給した加熱管を通過させることで、連続的に加熱・架橋させることができる。このようなシラン架橋ポリエチレンを被覆した電線・ケーブルは、低圧電力ケーブル等の電線、及びケーブルのとして用いることができる。
【実施例】
【0045】
実施例1〜5に係るシラン架橋ポリエチレンからなる被覆材を備える電線と、比較例1〜8に係る電線を作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
まず、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンを作製した。スクリュー径100mmの単軸押出機を用い、表1の配合に従い、原料ホッパーからポリエチレンを投入し、次いで下流側の液注入口からビニルトリメトキシシランとジクミルパーオキサイドの混合液を投入し、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させた。シリンダ温度は200℃に設定し、押出機内の滞留時間が1〜2分となるように押出した。
【0048】
続いて、スクリュー径130mmの単軸押出機を用い、前記シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンとシラノール縮合触媒を含むマスターバッチを表1の配合に従いホッパーから投入、混練し、銅からなる導体上に被覆した。シリンダ温度は190℃に設定し、押出機内の滞留時間が2〜3分となるように押出した。また、導体サイズは100sq、絶縁体の被覆厚さは2.0mm、引取速度は30m/分とした。
【0049】
押出した電線は、押出機に続いて設置した長さ15mの加熱管の中を通した。加熱管には150℃、200℃、400℃の過熱水蒸気を供給した。過熱水蒸気発生装置には、電磁誘導により過熱水蒸気を発生させる装置を用いた。加熱管内の滞在時間は30秒である。その後、冷却し巻き取った電線を評価用試料とした。
【0050】
比較として、連続式の常圧熱風加硫装置を使用し、同様の温度条件で製造した電線も評価した。常圧熱風加硫装置とは、電熱で加温された熱風を材料にあて、架橋を促進させる装置であり、シリコーンゴムの加硫によく使用される既知の装置である。
【0051】
また、押出後に加熱管を通さずに冷却して巻き取った電線も製造し、その後、80℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽の中で24時間架橋を促進したもの、および23℃、相対湿度50%に調整された室内で7日間架橋させたものもあわせて評価した。各評価は次に示す方法でおこなった。
【0052】
(メルトインデックス)
シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンに関しては、JIS K 7210に基づくメルトインデックス(メルトマスフローレイト)を測定した。温度は190℃とし、荷重は21.18Nとした。5g/10分以下のものを合格とした。
【0053】
(押出外観)
被覆材の表面の平滑さ、ツブ状の突起物の有無を目視、及び手触りにより評価した。十分に平滑であると判断された電線を合格(良)にした。
【0054】
(ゲル分率)
銅導体を取り除き、130℃の熱キシレン中で24時間抽出を行った。(抽出後の残存ゲル重量)/(抽出前のシラン架橋ポリエチレン重量)×100(%)をゲル分率とした。70%以上のものを合格とした。
【0055】
(ホットセット試験)
銅導体を取り除き、被覆材料の内側を平滑に研削してJIS C 3660−2−1の9に準拠したホットセット試験を実施した。空気温度200℃の恒温槽中にダンベル状の試料を吊るし、20N/cm
2の荷重を15分間加え、荷重時の伸びを測定した。その後、荷重を取り外し、5分経過後、試料を取り出して十分に冷却された後、永久伸びを測定した。荷重時の伸びが175%以下、かつ冷却後の永久伸びが15%以下であるものを合格とした。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表2に示すように、本発明における実施例1〜5においては、過熱水蒸気による高温、短時間の加熱により、高い架橋度が得られ、ホットセット試験に合格した。一方、表3に示すように、比較例1ではシラン化合物の添加量が規定より少ないため、架橋度が低くホットセット試験に合格しない。比較例2ではシラン化合物の添加量と遊離ラジカル発生剤の添加量の割合が規定より少ないため良好な押出外観が得られない。比較例3ではシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンのメルトインデックスが規定より大きいため、架橋度が低く、ホットセット試験に合格しない。比較例4〜6に示すように、常圧熱風により連続的に加熱して製造したものは、十分な架橋度が得られないことが分かる。また、80℃、相対湿度85%の恒温恒湿槽で1日かけて架橋促進させた比較例7では、高い架橋度が得られるが、前述のように連続式ではなく大量の電線・ケーブルを処理するにはあまり適さない製造方法である。常温に放置した比較例8では、7日経過後も十分な架橋度が得られない。
【0059】
以上のとおり、本発明の製造方法を用いれば高架橋度で押出外観が平滑なシラン架橋ポリエチレンを被覆した電線・ケーブルを短時間でかつ安価に得ることができ、その工業的な有用性は極めて高いと考えられる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。