【文献】
河西政春,最近の銅電解操業の改善について,資源と素材 ,日本,2001年 5月25日,Vol.117 No.5,Page.417-419
【文献】
西川裕次 他3名,最近の日立精銅工場における電解操業について ,Journal of MMIJ,日本,2008年 5月25日,Vol.124 No.4/5,Page.291-294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電解製錬の方法として、電解精製と電解採取が知られている。
電解精製は、乾式製錬の後工程であり、粗金属から純度の高い金属を製造する。電解精製に使用されるアノードは乾式製錬によって製造された粗金属であり、有利に電解精製が行える程度に純度が高められている。一方、カソードは製品金属であり、一定基準以上の純度を保った金属である。電解精製では、目的金属がアノードからイオンの形で電解液に溶出し、カソード上に析出する。また、アノードに含まれる目的金属より貴な電位を持つ不純物はアノードスライムとして電解槽の底に堆積する。
電解採取は、湿式製錬工程の最後の工程であり、鉱石から目的金属を適当な溶媒を用いて浸出し、浄液工程で浸出液から不純物を除去し目的金属イオンの濃縮を行なって電解液を得て、電解により電解液から目的金属をカソード上に析出させる。
【0003】
上記の電解製錬では、電解液で満たされた電解槽に複数枚のアノードとカソードを交互に挿入し、アノード−カソード間に通電して電解が行われる。そして、所定時間の通電の後に、一度停電させてアノードやカソードを交換し、再度通電することを繰り返す。以下、通電開始から通電終了までの期間を通電期間と称し、通電期間と通電期間の間に行われる作業を交換作業と称する。
【0004】
例えば、銅の電解精製では、一般にアノード一枚当たりの通電時間は15〜20日程度であり、アノード一枚につき7〜10日間の通電を行った製品カソード(電気銅)を2回得ることができる。1回目の製品カソードを得る通電期間を前半ライフ、2回目の製品カソードを得る通電期間を後半ライフと称すると、前半ライフから後半ライフへの交換作業は、前半ライフの終了後に一度停電させて、カソードを新たなものに交換し、再度通電することにより行われる。
【0005】
一方、後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。まず、後半ライフの終了後に一度停電させる。つぎに、電解槽からアノードとカソードの双方を抜き出し、電解液を排出して電解槽の底に堆積したアノードスライムなどを除去する。つぎに、電解槽に新たなアノードとカソードを挿入し、電解液を給液する。そして、電解槽が電解液で満たされ、電解液の温度が所定の温度に達した後に通電を開始する。
【0006】
ところで、銅の電解精製では、カソードの温度が通電初期に60℃以下に低下している場合、アノード−カソード間のショート率が高くなることが知られている(特許文献1参照)。これは、カソードの温度が低いと、電解液の液面付近で針状電析が生じるからである。
ショートが発生すると電力が無駄となり操業コストが増加する。また、ショートが発生したカソードは、過剰な電着による粒・瘤の発生や部分的な溶解などが生じ、外観品質が基準を満たさなくなり製品とならない。
【0007】
また、銅の電解精製設備では、電解液は電解液循環系内を循環しており、電解槽から排出された電解液は不純物が除去され、銅の電解精製に適した60℃前後に温度調整された後、再び電解槽に給液される。一方、交換した直後のアノードおよびカソードは外気温程度(0〜30℃程度)であり温度が低い。そのため、交換されたアノードおよびカソードは、電解液により暖められ徐々に温度が上昇する。そして、電解液は、給液開始直後はアノードおよびカソードに熱を奪われ温度が低下し、アノードおよびカソードの温度が上昇するに従い、電解液の温度も上昇する。
【0008】
上記の後半ライフから前半ライフへの交換作業の例では、電解槽が電解液で満たされた直後に通電を開始すると、カソードの温度が低いままでありショート率が高くなる。そこで、電解槽が電解液で満たされた後、電解液の温度が所定の温度(例えば、57℃)に達した後に通電を開始することにより、ショート率を低減している。
【0009】
数百〜千槽の電解槽を有する工業的な電解製錬設備では、一般に複数の電解槽を直列に接続して通電する。これは、例えば銅の電解製錬の場合、1つの電解槽に数千〜数万Aもの電流を流す必要があるが、一方で必要な電圧は0.5V程度と低く、このような大電流・低電圧な電源装置を製作することは技術的に容易でなく経済的でもないからである。そこで、電圧を制御しやすい数V〜数十Vの大きさになるように、複数の電解槽を電気的に直列に接続して通電する方法がとられる。このような通電方法では、回路の一部を短絡することによりその間の電解槽だけを停電させることができる。すべての電解槽を個々に停電できるように多数の短絡機を設置することは設備費用がかさんで不経済であるため、十〜十数槽の電解槽を一組とし、組単位に設置した短絡機を用いて通電、停電を制御する方法が用いられる。そして、上記のような交換作業も組単位で行われる。
【0010】
例えば、銅の電解精製における、後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。まず、後半ライフの終了後にその組を一度停電させる。つぎに、アノードとカソードの抜き出し、電解液の排出、アノードスライムなどの除去、新たなアノードとカソードの挿入、電解液の給液を、その組に属する複数の電解槽について順次行う。全ての電解槽が電解液で満たされ、電解液の温度が所定の温度に達した後にその組に通電を開始する。
【0011】
以上のような手順で交換作業を行うため、一の組に属する複数の電解槽のうち、作業を最初に始めた電解槽は、作業を最後に始めた電解槽に比べて、作業が早く完了する。すなわち、電解液の温度が所定の温度に達し通電してもよい状態となる。しかし、全ての電解槽において電解液の温度が所定の温度に達するまで通電できない。結局、作業を最後に始めた電解槽において、電解液の温度が所定の温度に達するまで通電を開始することができず、その他の電解槽は作業が完了しても通電開始まで待機した状態となる。その結果、全体として交換作業に長時間を要する。交換作業の間は電解を行うことができないため、交換作業に長時間を要すればその分操業効率が悪くなるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑み、交換作業を短時間とし操業効率が良い電解製錬設備の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明の電解製錬設備の操業方法は、通電および停電を共通の制御とする複数の電解槽からなる組おける、通電期間と通電期間の間に行われる交換作業であって、前記組に属する電解槽内の電解液を排出する排出工程と、該排出工程の後に、前記組に属する電解槽へ電解液を給液する給液工程と、を備え、前記給液工程において、前記電解槽への電解液の給液を、該電解槽に設けられた給液手段からの電解液の給液に加え、他の電解槽から供給された電解液を給液することにより行うことを特徴とする。
第2発明の電解製錬設備の操業方法は、第1発明において、電解液を供給する供給元電解槽は、該電解液が給液される供給先電解槽と同じ組に属する電解槽のうち、該供給先電解槽よりも早く電解液の給液が開始された電解槽であることを特徴とする。
第3発明の電解製錬設備の操業方法は、第2発明において、前記供給先電解槽は、前記組に属する電解槽のうち、最も遅く電解液の給液が開始された電解槽であることを特徴とする。
第4発明の電解製錬設備の操業方法は、第2または第3発明において、前記供給先電解槽は、複数の前記供給元電解槽から供給された電解液が給液されることを特徴とする。
第5発明の電解製錬設備の操業方法は、第2、第3または第4発明において、前記供給元電解槽から前記供給先電解槽への電解液の送液は、サイフォンの原理を用いて行うことを特徴とする。
第6発明の電解製錬設備の操業方法は、第2、第3または第4発明において、前記供給元電解槽から前記供給先電解槽への電解液の送液を、通電開始後4時間経過時まで継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、他の電解槽から供給された電解液を給液するので、電解槽への電解液の給液量が増加し、電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。そのため、ショート率を低減しつつ通電を早く開始でき、交換作業を短時間とできるので操業効率が良い。
第2発明によれば、電解液の給液が早く開始された電解槽から供給された電解液を給液するので、温度が高い電解液を給液できる。そのため、電解液の温度上昇がより早くなる。
第3発明によれば、最も遅く電解液の給液が開始された電解槽への電解液の給液量が増加する。そのため、その電解槽の電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。その結果、組全体としても電解液の給液時間が短くなる。
第4発明によれば、複数の供給元電解槽から供給された電解液を給液するので、電解槽への電解液の給液量がさらに増加する。そのため、電解液の給液時間がさらに短くなり、電解液の温度上昇がさらに早くなる。
第5発明によれば、サイフォンの原理を用いて送液するので、供給先電解槽が電解液で満たされるまでは送液が継続し、電解液で満たされると送液が自然に停止する。そして、供給元電解槽の電解液が不足することがない。このように、流量の制御が不要であり、作業が容易である。
第6発明によれば、通電開始後4時間経過時まで電解液の給液量を増加させるので、通電初期にカソードを十分に温めることができ、ショート率を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
電解製錬では、電解液で満たされた電解槽に複数枚のアノードとカソードを交互に挿入し、アノード−カソード間に通電して電解が行われる。そして、所定時間の通電の後に、一度停電させてアノードやカソードを交換し、再度通電することを繰り返す。以下、通電開始から通電終了までを通電期間と称し、通電期間と通電期間の間に行われる作業を交換作業と称する。
【0018】
また、数百〜千槽の電解槽を有する電解製錬設備では、十〜十数槽の電解槽を一組とし、その組に属する電解槽を電気的に直列に接続している。そのため、個々の電解槽について通電、停電を制御しておらず、組単位で通電、停電を制御している。そして、上記のような交換作業も組単位で行われる。
【0019】
本発明は、上記のような通電および停電を共通の制御とする複数の電解槽からなる組を有する電解製錬設備において、電解液の張り替えを伴う交換作業に関する方法である。
【0020】
なお、本発明の電解製錬設備の操業方法は、電解精製を行う電解精製設備や、電解採取を行う電解採取設備の操業方法に適用できる。また、製品となる目的金属もとくに限定されない。例えば、電解精製の目的金属として銅、鉛、ニッケル、金、銀などが、電解採取の目的金属としてニッケル、コバルト、銅、銀、金、亜鉛などが知られている。いずれの場合においても同様の操業方法であるので、以下、銅の電解精製を例に説明する。
【0021】
まず、一般的な銅の電解精製設備の構成について説明する。
図2において、1は電解槽、2は排液槽、3はポンプ、4は熱交換器、5は給液槽であり、これらにより電解液循環系が形成されている。
【0022】
電解槽1には、粗銅のアノードと純銅のカソードが複数枚交互に挿入されており、電解液が満たされている。電解槽1の電解液排出部からは電解液が排出され、落差により排液槽2に給液されている。排液槽2と熱交換器4および給液槽5とは配管で接続されており、その配管にはポンプ3が介装されている。このポンプ3の駆動により、所定流量の電解液が排液槽2から熱交換器4または給液槽5に給液されている。熱交換器4に供給された電解液は加熱または冷却され、給液槽5に供給されている。そして、給液槽5から排出された電解液は、落差により電解槽1に給液されている。
【0023】
給液槽5と電解槽1とを接続する給液配管6には流量制御弁が介装されており、この流量制御弁で電解槽1への電解液の給液、停止および給液量を調整できるようになっている。また、電解槽1の電解液排出部には堰式の流量制御手段が設けられており、電解液の液面高さを調整できるようになっている。
なお、給液配管6が、特許請求の範囲に記載の給液手段に相当する。給液手段は、このように電解槽に予め設けられた電解液を給液する手段を意味する。
【0024】
このように、電解液は電解液循環系内を循環しており、電解槽1から排出された電解液は、銅の電解精製に適した温度(55〜65℃)に温度調整された後、再び電解槽1に給液される。また、電解液は電解液循環系内を循環する間に不純物が除去される。電解液の不純物の除去は、例えば、電解液循環系から電解液の一部を浄液工程に送り、濃縮冷却や電解採取などの方法を用いて、電解液中に含まれた不純物や過剰な銅を除去することにより行われる。
【0025】
図1に示すように、電解精製設備では、数百〜千槽の電解槽1が建屋内に並べられて設けられている。これらの電解槽1は、隣接する十〜十数槽を一組として複数の組に分けられている。そして一の組に属する十〜十数槽の電解槽1を電気的に直列に接続して、組単位で通電、停電を制御している。
図1に示す例では、隣接する18槽の電解槽1a〜1rを組Aとし、電解槽1a〜1rを電気的に直列に接続している。
【0026】
銅の電解精製では、一般にアノード一枚当たりの通電時間は15〜20日程度であり、アノード一枚につき7〜10日間の通電を行った製品カソード(電気銅)を2回得ることができる。以下、1回目の製品カソードを得る通電期間を前半ライフ、2回目の製品カソードを得る通電期間を後半ライフと称する。
【0027】
組Aの前半ライフから後半ライフへの交換作業は、前半ライフの終了後に組Aを一度停電させて、電解槽1a〜1rに挿入されていたカソードを新たなものに交換し、再度組Aへの通電を開始することにより行われる。
【0028】
一方、組Aの後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。
(1)まず、後半ライフの終了後に組Aを停電させる。
(2)つぎに、アノードおよびカソードを電解槽から抜き出す。ここで、アノードおよびカソードは、建屋に設けられた天井クレーンを用いて抜き出される。そのため、組Aに属する電解槽1a〜1rについて1槽ずつ順次作業が行われる。例えば、最初に電解槽1aのアノードおよびカソードを抜き出し、つぎに電解槽1bのアノードおよびカソードを抜き出し、同様の作業を電解槽1c、・・・・、1gの順で行い、最後に電解槽1rのアノードおよびカソードを抜き出す。
【0029】
(3)アノードおよびカソードが抜き出された電解槽から順次、電解槽内の電解液を排出する(排出工程)。そのため、電解槽1a、・・・、1rの順で電解液の排出が行われる。
(4)電解液の排出を終えた電解槽から順次、電解槽の底に堆積したアノードスライムなどを除去し、新たなアノードおよびカソードを挿入する。この場合にも、アノードおよびカソードは天井クレーンを用いて挿入される。そのため、電解槽1a、・・・、1rの順でアノードスライムなどの除去、アノードおよびカソードの挿入が行われる。
【0030】
(5)アノードおよびカソードの挿入を終えた電解槽から順次電解液を給液する(給液工程)。そのため、電解槽1a、・・・、1rの順で電解液の給液が開始される。
(6)全ての電解槽1a〜1rが電解液で満たされ、全ての電解槽1a〜1rの電解液の温度が所定の温度(例えば、57℃)に達した後に、組Aの通電を開始する。
【0031】
銅の電解精製では、カソードの温度が通電初期に60℃以下に低下している場合、アノード−カソード間のショート率が高くなることが知られている。これは、カソードの温度が低いと、電解液の液面付近で針状電析が生じるからである。ここで、ショート率とは、n/(D×N)(n:所定期間中にショートが発生したカソード延枚数、D:所定期間中の通電日数、N:所定期間中に製造されたカソード枚数)で求められた値である。
【0032】
また、交換した直後のアノードおよびカソードは外気温程度(0〜30℃程度)であり温度が低い。そのため、交換されたアノードおよびカソードは、55〜65℃に温度調整された電解液により暖められ徐々に温度が上昇する。そして、電解液は、給液開始直後はアノードおよびカソードに熱を奪われ温度が低下し、アノードおよびカソードの温度が上昇するに従い、電解液の温度も上昇する。そこで、電解槽1a〜1rが電解液で満たされた後、電解液の温度が所定の温度に達した後に通電を開始することにより、ショート率を低減している。
【0033】
組Aに属する電解槽1a〜1rのうち、アノードおよびカソードの抜き出し作業を最初に始めた電解槽1aは、作業を最後に始めた電解槽1rに比べて、早く電解液が満たされ、電解液の温度が所定の温度に早く達する。すなわち、通電してもよい状態となる。しかし、全ての電解槽1a〜1rにおいて電解液の温度が所定の温度に達するまで通電できない。
【0034】
本発明は、上記(5)給液工程において、電解槽1への電解液の給液を、電解槽1に設けられた給液配管6からの電解液の給液に加え、他の電解槽1から供給された電解液を給液する(以下、補助給液ともいう。)ことにより、交換作業を短時間としたところに特徴がある。
【0035】
例えば、
図1の実線矢印で示すように、組Aに属する電解槽1a〜1rのうち、最も早く電解液の給液が開始された電解槽1aを供給元電解槽1aとし、最も遅く電解液の給液が開始された電解槽1rを供給先電解槽1rとし、供給元電解槽1aから供給された電解液を供給先電解槽1rに給液する。以下、説明の便宜のために、電解液を供給する電解槽を供給元電解槽と称し、供給元電解槽が供給した電解液が給液される電解槽を供給先電解槽と称する。
【0036】
供給先電解槽1rには、供給元電解槽1aから供給された電解液を給液するので、その給液量は給液配管6から給液される通常の給液量に比べて増加する。そのため、供給先電解槽1rの電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。ここで、供給先電解槽1rは最も遅く電解液の給液が開始された電解槽であるので、組A全体としても電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。そうすると、ショート率を低減しつつ通電を早く開始でき、交換作業を短時間とできる。そして、電解を行うことができない交換作業を短時間とできるため、その分操業効率が良くなる。また、ショート率を低減できる結果、電力ロスや修正の手間が減少し、製品の歩留まりが向上する。
【0037】
なお、供給元電解槽1aには、給液配管6から電解液が給液されているので、供給先電解槽1rへ電解液を供給しても、電解液が不足することはない。
【0038】
供給元電解槽1aから供給先電解槽1rへの電解液の送液は、ポンプなど種々の手段を用いることができ特に限定されないが、サイフォンの原理を用いて行うのが好ましい。
具体的には、
図3に示すように、ホースなどの管7の一端を供給元電解槽1a内の電解液の中に浸け、他端を供給先電解槽1r側であって、供給元電解槽1a内の電解液の液面高さより低い位置とする。このとき、管7の中に電解液を満たしておけば、他に何ら操作をすることなく供給元電解槽1a内の電解液が供給先電解槽1rへ送液される。例えば、管7の全体を供給元電解槽1a内の電解液に浸け、一端に蓋をした状態でその端部を供給先電解槽1r側に移動させれば、管7の中に電解液を満たすことができるので、蓋を外すと電解液の送液ができる。
【0039】
このように、サイフォンの原理を用いて送液すれば、供給元電解槽1a内の電解液の液面高さと供給先電解槽1r内の電解液の液面高さとの間に差異がある間は送液が継続し、同じ高さとなれば送液が停止する。すなわち、供給先電解槽1rが電解液で満たされるまでは送液が継続し、電解液で満たされると送液が自然に停止する。そして、供給元電解槽1aの電解液が不足することがない。このように、流量の制御が不要であり、作業が容易である。
【0040】
供給元電解槽は、最も早く電解液の給液が開始された電解槽1aに限られず、組Aに属する他の電解槽でもよい。また、供給先電解槽は、最も遅く電解液の給液が開始された電解槽1rに限られず、組Aに属する他の電解槽でもよい。そして、供給元電解槽および供給先電解槽は、それぞれ一つの電解槽でもよいし、複数の電解槽でもよい。さらに、供給元電解槽は、供給先電解槽よりも早く電解液の給液が開始された電解槽であればよく、その組み合わせも特に限定されない。
供給元電解槽と供給先電解槽の組み合わせは、組A全体として交換作業の時間が短くなるように選択すればよい。
【0041】
例えば、複数の供給元電解槽1a、1bから供給された電解液を1槽の供給先電解槽1rに給液するようにしてもよいし、1槽の供給元電解槽1aから供給された電解液を複数の供給先電解槽1g、1rに給液するようにしてもよい。また、電解槽1aから供給された電解液を電解槽1rへ給液すると同時に、電解槽1bから供給された電解液を電解槽1gへ給液するようにしてもよい。
【0042】
供給先電解槽よりも早く電解液の給液が開始された電解槽を供給元電解槽とすれば、その時間差の分だけ供給元電解槽内の電解液の温度が高くなっている。そのため、供給先電解槽に温度が高い電解液を給液できるので、供給先電解槽の電解液の温度上昇がより早くなる。
また、複数の供給元電解槽から供給された電解液を供給先電解槽に給液すれば、電解液の給液量がさらに増加する。そのため、供給先電解槽の電解液の給液時間がさらに短くなり、電解液の温度上昇がさらに早くなる。
【0043】
前述のごとく、銅の電解精製では、カソードの温度が通電初期に60℃以下に低下している場合、アノード−カソード間のショート率が高くなることが知られている。一方、全ての電解槽1a〜1rの電解液の温度が所定の温度(例えば、57℃)に達した後に、組Aの通電を開始したとしても、最も遅く電解液の給液が開始された電解槽1r内の電解液は、通電開始直後は60℃に達していない。
【0044】
そこで、通電開始後もカソードの温度が60℃に達するまでは供給元電解槽から供給先電解槽への電解液の送液を継続することが好ましい。このようにすれば、通電初期にカソードを十分に温めることができ、ショート率を低減できる。
本願発明者は、通電開始後4時間経過するとカソードの温度は60℃に達する知見を得ている。そのため、供給元電解槽から供給先電解槽への電解液の送液を通電開始後4時間経過時まで継続することが好ましい。
【0045】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、供給元電解槽と供給先電解槽とは同じ組Aに属しているが、供給元電解槽を供給先電解槽が属する組とは異なる組に属する電解槽としてもよい。例えば、
図1の破線矢印で示すように、組Aに属する電解槽1rを供給先電解槽1rとし、組Aに隣接する組Bに属する電解槽1xを供給元電解槽1xとし、供給元電解槽1xから供給された電解液を供給先電解槽1rに給液してもよい。
【0046】
供給元電解槽1xが通電中であれば、ジュール熱によっても電解液の温度が高くなっている。そのため、供給先電解槽1rに温度が高い電解液を給液できるので、供給先電解槽1rの電解液の温度上昇がより早くなる。
【0047】
なお、供給元電解槽を供給先電解槽が属する組とは異なる組に属する電解槽とする場合、供給元電解槽は、通電開始から4時間経過後の電解槽であることが好ましく、通電開始から1日経過後の電解槽であることがより好ましい。通電開始から4時間経過後であれば、電解液の温度は十分高くなっているからである。また、通電開始から1日経過後であれば、電解液の温度が安定しているからである。
【0048】
また、供給元電解槽からは、給液側よりも排出側の電解液を採取する方が好ましい。排出側の電解液は給液側の電解液よりも温度が高く、銅濃度が高いからである。
さらに、供給元電解槽からは、カソード付近よりもアノード付近の電解液を採取する方が好ましい。アノード付近の電解液は電解槽内全体の電解液の平均よりも局所的に温度が高く、銅濃度が高いからである。
【実施例】
【0049】
実施例、比較例共に、銅の電解精製を以下の条件で行った。
使用した電解槽は、コンクリートの表面に塩化ビニルをライニングした構造であり、長さ3000mm、幅1260mm、深さ1500〜1700mm(いずれも内寸)であり、電解液の容量は3.4m
2である。この電解槽1槽当たりに、銅品位99.2%の粗銅アノード27枚と銅品位99.99%の純銅カソード26枚を交互に並べ、アノードとカソード間の距離が105mmになるように揃えて挿入した。アノードの電極面積は幅1015mm、縦1015mm、初期厚さ約36mmである。カソードの電極面積は幅1070mm、縦1050mm、初期厚さ約0.7mmである。
【0050】
8日(約200時間)通電後に停電してカソードのみを引き揚げて洗浄して電気銅として払い出し(前半ライフ)、次いで新たなカソードを挿入して再度8日間通電後にアノードとカソードを引き揚げて払い出す(後半ライフ)、1ライフ16日間の操業を13回(約30週間)繰り返した。
給液配管から給液する電解液の流量は15L/分であり、液温は60℃である。この電解液の組成は、銅濃度46〜50g/L、遊離硫酸濃度170〜200g/Lである。また、通電時のカソード電流密度は300A/m
2である。
通電中、ショートの発生は公知技術である電解槽電圧の変化や赤外線カメラによる発熱の監視、磁気メータによる測定などにより検知し、発見する都度修正し、同時にショート発生1枚と計数した。
【0051】
ある前半ライフの操業において、電極の温度を測定するため、電解槽の中央に位置するカソードに対して、その電極の中心位置にサーミスタ温度計を接着剤で貼り付けシリコン樹脂で電解液と直接接触しないように覆った。また、電解液の温度を測定するため、電解槽の電解液排出部にも同種類のサーミスタ温度計を設置した。これら2本のサーミスタ温度計をデータロガーに接続し、連続して電極および電解液の温度を測定できるように構成した。
【0052】
(実施例)
後半ライフから前半ライフへの交換作業において、電解槽への電解液の給液を、給液配管からの電解液の給液に加えて、隣接する電解槽から供給された電解液を給液する(補助給液)ことにより行った。ここで、補助給液は、ホースを用いたサイフォンの原理により行った。
【0053】
その結果、ある前半ライフにおける通電開始初期の電極および電解液の温度は、
図4(a)に示すように変化した。すなわち、電極および電解液の温度は補助給液開始直後から速やかに上昇し、通電を早期に開始できた。また、電極および電解液の温度は通電開始から約2時間半で準定常状態となった。そのため、補助給液を開始から約3時間で終了した。
また、13ライフの期間中、前半ライフのショートの発生は11枚であり、ショート率は0.4%(=11枚/(8日×26枚×13ライフ))であった。
【0054】
(比較例)
後半ライフから前半ライフへの交換作業において、電解槽への電解液の給液を給液配管のみにより行った。
【0055】
その結果、ある前半ライフにおける通電開始初期の電極および電解液の温度は、
図4(b)に示すように変化した。すなわち、電極および電解液の温度は通電開始後上昇するが、その上昇は実施例に比べて緩やかであった。また、実施例に比べて電解液の温度が60℃に達するまでに時間を要した。準定常状態になるまでに通電開始から約4時間を要した。
また、13ライフの期間中、前半ライフのショートの発生は24枚であり、ショート率は0.9%(=11枚/(8日×26枚×13ライフ))であった。
【0056】
以上の結果、本発明を適用することにより、ショート率を低減できることが確認された。これは、比較例に比べて実施例の方が、電解液の温度が早く60℃に達するためであると考えられる。