特許第5768805号(P5768805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5768805パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びその製造方法、表面処理剤並びに該表面処理剤で処理された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5768805
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びその製造方法、表面処理剤並びに該表面処理剤で処理された物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/336 20060101AFI20150806BHJP
   C09D 183/16 20060101ALI20150806BHJP
   C08G 77/62 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C08G65/336
   C09D183/16
   C08G77/62
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-257650(P2012-257650)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-105235(P2014-105235A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】山根 祐治
(72)【発明者】
【氏名】小池 則之
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−043251(JP,A)
【文献】 特開2004−082433(JP,A)
【文献】 特開2004−063183(JP,A)
【文献】 特開平10−068086(JP,A)
【文献】 特開2013−241569(JP,A)
【文献】 特開2014−065814(JP,A)
【文献】 特開2013−185038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00−77/62
C09D 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【化1】
(式中、Qは2価の有機基、p、qは1以上の整数、r、sは0以上の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1〜3の整数である。)
【請求項2】
前記の式(1)において、下記式
【化2】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式
【化3】
(式中、p、qは上記と同じで、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
で示されるものである請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項3】
前記式(1)において、Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい、炭素数2〜12の2価炭化水素基である請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法であって、
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程と、
(2)末端のカルボン酸基を変性し、反応性シリル基にシリル化する工程と、
(3)反応性シリル基をシラザン化する工程
を含むパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含んでなる表面処理剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜。
【請求項7】
基体と、該基体の表面に形成された、請求項6に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品。
【請求項8】
前記基体が、タッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器又は建材である請求項7に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びその製造方法、該ポリシラザンを含有する表面処理剤並びに該表面処理剤で処理された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシラザンは、Si−N−Si結合を有する化合物で非常に反応性が高い。その反応性を利用して、表面処理剤などに用いられている。また、非常に反応性が高いゆえに取り扱いが困難であり、合成中にゲル化したり、高分子化したりすることもある。
【0003】
パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、一般に、片末端官能性のパールフオロポリエーテルを原料としてシラザン化する。両末端官能性のパーフルオロポリエーテルを用いると、反応途中でゲル化してしまうことが多いためである。[(CF2O)p(CF2CF2O)q]を主鎖構造に持つパーフルオロポリエーテルは、汚れ拭取り性に優れると推定されているが、両末端官能性のものしか市販されていない。
【0004】
特開2010−43251号公報(特許文献1)には、下記式(A)
F(CxF2xO)my2y−Q−Si(NH)1.5 (A)
(式中、Qは2価の有機基、mは1以上の整数、x及びyはそれぞれ1〜3の整数である。)
に示されるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが開示されており、撥水撥油性、アルカリ耐久性などに優れていることが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記公報の実施例にて開示されたようなパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンであっても、表面滑り性や汚れ拭取り性などはなお満足できる性能ではない。
【0006】
産業界では、反応性が高く、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れた表面処理剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−43251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、反応性が高く、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れた表面処理剤として有用な新規なパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びその製造方法、該ポリシラザンを含有する表面処理剤並びに該表面処理剤で処理された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンが、反応性が高く、撥水撥油性、表面滑り性、汚れ拭取り性などに優れた表面処理剤として有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【化1】
(式中、Qは2価の有機基、p、qは1以上の整数、r、sは0以上の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1〜3の整数である。)
本発明者らは、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを製造するに当たり、両末端カルボン酸のパーフルオロポリエーテルの末端を部分フッ素化し、片末端ポリマーと無官能ポリマーとの混合物を得た後、吸着処理により片末端ポリマーのみ抽出することができた。この片末端原料を用いて、片末端官能性パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの合成に成功した。
【0010】
なお、上記特許文献1には、[(CF2O)p(CF2CF2O)q]を主鎖構造に持つパーフルオロポリエーテル変性シラザンについて具体的な開示はなく、また上記特許文献1は、主として
【化2】
で示される分岐状の繰り返し単位を有するシラザンを示し、その作用効果を示すものであるが、本発明の単位は、CF2Oの単位とCF2CF2Oの単位を必須とするものであり、また本発明において、CF2CF2O、CF2CF2CF2O及びCF2CF2CF2CF2Oの単位はいずれも直鎖状であり、本発明のシラザンは分岐状のパーフルオロエーテル単位、パーフルオロポリエーテル単位は含まない。
【0011】
従って、本発明は、下記に示すパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン及びその製造方法、表面処理剤並びに該表面処理剤で処理された物品を提供する。
〔1〕
下記式(1)で表されるシラザン単位のみからなるパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
【化3】
(式中、Qは2価の有機基、p、qは1以上の整数、r、sは0以上の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1〜3の整数である。)
〔2〕
前記の式(1)において、下記式
【化4】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式
【化5】
(式中、p、qは上記と同じで、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
で示されるものである〔1〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
〔3〕
前記式(1)において、Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい、炭素数2〜12の2価炭化水素基である〔1〕又は〔2〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン。
〔4〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法であって、
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程と、
(2)末端のカルボン酸基を変性し、反応性シリル基にシリル化する工程と、
(3)反応性シリル基をシラザン化する工程
を含むパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法。
〔5〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含んでなる表面処理剤。
〔6〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜。
〔7〕
基体と、該基体の表面に形成された、〔6〕に記載のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品。
〔8〕
前記基体が、タッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器又は建材である〔7〕に記載の物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを含有してなる表面処理剤は、従来のシラザン系撥水撥油系処理剤と比較して、表面滑り性、汚れ拭取り性が優れる。また、従来の加水分解性撥水撥油処理剤と比較して、反応速度が速い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、下記式(1)で表される単位のみから構成されるものである。
【化6】
(ここで、Qは2価の有機基、p、qは1以上の整数、r、sは0以上の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。xは1〜3の整数である。)
【0014】
式(1)中、Qは2価の有機基を表し、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい、炭素数2〜12の2価炭化水素基である。より具体的には、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−等の炭素数2〜12、好ましくは2〜4のアルキレン基;−CH2OCH2CH2CH2−等の炭素数2〜12、好ましくは2〜4のオキシアルキレン基;−CO2−(CH23−等の式−COOR’−(ここで、R’は炭素数1〜11、好ましくは1〜3のアルキル基)で表されるエステル基;式−CONR−(ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜5、好ましくは1〜3のメチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基)で表されるアミド基;−SiR”2−(ここで、R”は炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキル基)で表されるジオルガノシリレン基;及びこれらの基の1種又は2種以上を組み合わせた基などが例示できる。
【0015】
pは1以上、好ましくは1〜80、より好ましくは3〜30の整数、qは1以上、好ましくは1〜80、より好ましくは3〜30の整数、rは0以上、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜5の整数、sは0以上、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜5の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
また、xは1〜3の整数、特に1である。
【0016】
上記ポリシラザンとしては、特に下記式
【化7】
で表されるパーフルオロポリエーテル部分が、下記式であることが好ましい。
【化8】
(式中、p、qは上記と同じ。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0017】
前記式(1)で表される単位の具体的な例としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、下記式中、Phはフェニル基であり、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF224-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CON(CH3)-Ph-Si(CH3)2-C24-SiNH1.5
(式中、p’は3、q’は3である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は9、q’は8である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF224-SiNH1.5
(式中、p’は9、q’は8である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CON(CH3)-Ph-Si(CH3)2-C24-SiNH1.5
(式中、p’は9、q’は8である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は5、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF224-SiNH1.5
(式中、p’は5、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CON(CH3)-Ph-Si(CH3)2-C24-SiNH1.5
(式中、p’は5、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は13、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF224-SiNH1.5
(式中、p’は13、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CON(CH3)-Ph-Si(CH3)2-C24-SiNH1.5
(式中、p’は13、q’は12である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は15、q’は19である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF224-SiNH1.5
(式中、p’は15、q’は19である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'-CF2CON(CH3)-Ph-Si(CH3)2-C24-SiNH1.5
(式中、p’は15、q’は19である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C36O)r'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は12、q’は11、r’は1である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C36O)r'(C48O)s'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は12、q’は11、r’は1、s’は1である。)
F(CF2O)p'(C24O)q' (C48O)s'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は12、q’は11、s’は1である。)
F(CF2O)p'(C24O)q'(C36O)r'(C48O)s'-CF2CH2OC36-SiNH1.5
(式中、p’は10、q’は8、r’は5、s’は4である。)
なお、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの分子構造は、これら例示したものに限定されるものではない。
【0018】
〔製造方法〕
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの製造方法としては、例えば下記工程を含む製造方法が挙げられる。
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程と、
(2)末端のカルボン酸基を変性し、反応性シリル基にシリル化する工程と、
(3)反応性シリル基をシラザン化する工程と
【0019】
(1)両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する工程において、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、下記式中、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は3、q’は3である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は9、q’は8である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は5、q’は12である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は13、q’は12である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'-CF2COOH
(式中、p’は15、q’は19である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'(C36O)r'-CF2COOH
(式中、p’は12、q’は11、r’は1である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'(C36O)r'(C48O)s'-CF2COOH
(式中、p’は12、q’は11、r’は1、s’は1である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'(C48O)s'-CF2COOH
(式中、p’は12、q’は11、s’は1である。)
HOOC-CF2O-(CF2O)p'-1(C24O)q'(C36O)r'(C48O)s'-CF2COOH
(式中、p’は10、q’は8、r’は5、s’は4である。)
【0020】
両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を部分フッ素化する方法は、フッ素ガスを導入することでフッ素化できる。当該反応において、供給するフッ素ガスの量を調整しフッ素化を制御することによって末端−CF3基の導入率を適宜調整することができる。末端−CF3基の導入率は、全COOH基に対して50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に70〜80モル%が好ましく、この導入率以上であると片末端にカルボン酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物と末端にカルボン酸基を有さないパーフルオロポリエーテル(無官能性ポリマー)との混合物となる。
【0021】
これら、混合物は、吸着処理や精留、分子蒸留で分取することができる。例えば、吸着処理としては、陰イオン交換樹脂等の酸吸着剤を使用する方法が挙げられる。該方法では、先ず、フッ素系溶剤で分散させた酸吸着剤にカルボン酸を末端に有するポリマーを吸着させる。該工程により無官能型ポリマーを取り除くことができる。その後、フッ素系溶剤と強酸で樹脂を洗い流す。該工程により強酸が陰イオン交換樹脂に吸着され、カルボン酸を末端に有するポリマーがフッ素系溶剤に溶出する。該工程において、片末端カルボン酸基含有ポリマーが溶出してくるため、片末端カルボン酸基含有ポリマーを高純度で含有する混合物を得ることができる。
【0022】
また、精留や分子蒸留では、分子末端に官能基が少ない方が温和な条件で蒸発するため、先ず無官能型ポリマーを分取し、次に片末端カルボン酸基含有ポリマーを分取することにより、片末端カルボン酸基含有ポリマーを高純度で含有する混合物を得ることができる。分子蒸留に使用する分子蒸留装置は、例えば、ポット分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置、実験遠心式分子蒸留装置等が挙げられる。処理条件は適宜選択すればよいが、好ましくは圧力10-5Pa〜10-1Pa、温度は100〜400℃である。吸着除去及び分子蒸留は組み合わせて行ってもよい。片末端カルボン酸基含有ポリマー及び無官能型ポリマーの混合比率は19F-NMRにより測定される−CF3基と−CF2COOH基とのモル比率により決定できる。
【0023】
(2)の工程において、上記で得られた部分フッ素化されたパーフルオロポリエーテル化合物の末端カルボン酸基を変性する。この場合、例えば、まず、該化合物のカルボン酸末端をヒドロキシル基とし、次いで、アミド結合、エーテル結合、エステル結合及びジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい、炭素数2〜12の2価炭化水素基からなる連結基と末端脂肪族不飽和基とを導入することができる。ここで、脂肪族不飽和基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基等の炭素数2〜12のアルケニル基が挙げられる。このような基を導入できる化合物としては、臭化アリル等のハロゲン化アリルが挙げられる。
【0024】
該導入方法は公知の方法に従えばよい。例えば、上記2価炭化水素基からなる連結基として、エーテル結合を有する連結基である−CH2OCH2CH2−を含有するフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーは、まず、片末端カルボン酸基含有ポリマーの混合物を、金属水素化物を用いた還元、あるいは貴金属触媒を用いた接触水素化に供することで、片末端ヒドロキシル基含有ポリマーの混合物が製造できる。次に、片末端ヒドロキシル基含有ポリマーの末端に脂肪族不飽和基を導入する。ヒドロキシル基への脂肪族不飽和基の導入は公知の方法を使用して行うことができ、例えば、片末端ヒドロキシル基含有ポリマーと臭化アリル等のハロゲン化アリルを硫酸水素テトラブチルアンモニウムの存在下で反応させた後、水酸化ナトリウムを滴下してアルカリ性にすることで末端にアリル基等の脂肪族不飽和基が導入される。
【0025】
次いで、反応性シリル基にシリル化する。上記脂肪族不飽和基末端に、公知の方法でクロロシランを作用させることで、末端にシリル基が導入される。
【0026】
最後に、(3)の工程として、片末端シリル基含有ポリマーのシリル基をシラザン化することで目的の化合物を得ることができる。公知の方法で、アンモニアガスを吹き込むこととでシラザン化することができる。
【0027】
〔表面処理剤〕
本発明においては、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンを有効成分として表面処理剤を得ることができる。この場合、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの部分加水分解縮合物を用いることもできる。
【0028】
本発明の表面処理剤は、適当な溶剤で希釈して用いてもよい。このような溶剤としては、例えば、m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなどのフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)などのフッ素変性エーテル系溶剤、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのフッ素変性アルキルアミン系溶剤が挙げられる。特に、溶解性、濡れ性などの点で、m−キシレンヘキサフロライド、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
なお、上記溶剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよく、いずれにしても上記成分を均一に溶解させるものを用いることが好ましい。
【0029】
溶剤の使用量は特に制限されるものではなく、処理方法により最適濃度は異なるが、表面処理剤中の上記固形分(即ち、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン)量が0.001〜10質量%、特に0.01〜5質量%となる量が好ましい。
【0030】
〔硬化被膜〕
このようにして得られた表面処理剤で基材や基体を表面処理する方法としては、該表面処理剤を基材や基体に刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で塗布する方法を利用することができる。こうして得られた塗膜は常温で硬化して各種基材や基体の表面によく接着した硬化被膜を形成させることができる。この硬化被膜が各種基材や基体の表面によく接着するのは、シラザン結合が加水分解するときに生成するシラノール基が活性に富むものであり、これによって接着性が著しく高められるためと考えられる。
【0031】
なお、各種基材や基体に塗布された塗膜は、上記したように常温で硬化するが、塗布後に熱風処理、赤外線照射などによって加熱すれば硬化をより促進することができる。
【0032】
この場合、シラノール縮合触媒として知られている有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を加えることができる。特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などを該表面処理剤に添加しておけば、この硬化を更に促進させることができる。
なお、縮合触媒の添加量は触媒量であり、パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザン100質量部に対して0.001〜5質量部、特に0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0033】
また、前記したシラザン単位に結合した有機基にアクリル基、メタクリロキシ基などを導入しておけば、常温硬化後の紫外線、電子線の照射によってその架橋密度を更に高めることができる。
【0034】
上記表面処理剤で処理される基材は特に制限されないが、基材としては、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、陶磁器、セラミックなど各種材質のものを用いることができる。具体的には、次のようなものが挙げられる。
・撥水撥油剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・離型剤として・・・粘着テープ用、樹脂成形用金型、ロール用など。
・防汚加工剤として・・・紙、布、金属、ガラス、プラスチック、セラミックなど。
・その他:塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質のため、テープ、フイルムなどの潤滑性の向上など。
【0035】
上記各種基材あるいは物品表面に形成される硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定される。
【0036】
〔物品〕
本発明の表面処理剤は、例えば各種物品の表面処理剤として利用することができる。即ち、本発明は、基体(即ち、物品を構成する基体)と、該基体の表面に形成された、上記パーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンの硬化被膜とを有してなる物品を提供する。
【0037】
具体的には、下記のような物品にそれぞれの目的で表面に硬化被膜を形成することができる。例えば、スマートフォン、タブレットPC、スマートテレビ、ポータブルメディアプレイヤー、ディスプレイ広告などのタッチパネルやタッチパネル表面を覆っている反射防止膜、強化ガラス、ハードコートフイルム、樹脂基板等の耐指紋コーティング、車、航空機、電車などの輸送機用窓ガラス、塗装、内装の耐指紋、撥水撥油性コーティング、石英などの光学部材の汚染防止、軽剥離コーティング、浴槽、洗面台などのサニタリー製品の撥水ないし防汚コーティング、一般産業用ガラス及びガラス製食器の汚染防止コーティング、外壁用建材などの建材の撥水、防汚コーティング、台所用建材などの建材の油汚れ防止用コーティング、自動車、電車、航空機など輸送機用のガラス(例、窓ガラス、ヘッドランプカバー等)の防汚コーティング、電話ボックスの撥水・撥油、耐候、防汚及び貼り紙防止コーティング、美術品などの撥水・撥油性、及び指紋付着防止付与のコーティング等が例示できる。これらの中でもタッチパネル、反射防止膜、ディスプレイ用カバーガラス、強化ガラス、輸送機用ガラス、ハードコートフイルム、ディスプレイ用カバーフイルム、石英、光学部材、サニタリー製品、ガラス製食器、建材に用いることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0039】
下記式(1a)及び(1b)で示される化合物(1a)45モル%及び(1b)55モル%からなる混合物を以下の実施例にて使用した。当該混合物は、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物を、フッ素ガスを用いて部分フッ素化することにより製造されたものであり、フッ素化を進行させることで、両末端にカルボン酸基を有するパーフルオロオキシ化合物の末端がフッ素基に変換される。各ポリマーの含有比率(モル%)は、カルボン酸を有するポリマーを酸吸着剤に吸着させることで分取し、19F−NMRにより決定されたものである。
【0040】
【化9】
(q’/p’=0.9、p’+q’≒17)
【0041】
[実施例1]
(i)反応容器に、上記式(1a)45モル%及び式(1b)55モル%よりなる混合物400gをフッ素系溶剤(PF5060 3M社製)4.0kgに溶解させた。次いで、陰イオン交換樹脂B20−HG(オルガノ社製)3.2kgを加え、20℃で3時間攪拌し、式(1a)の化合物を陰イオン交換樹脂に吸着させた。その後、PF5060で、陰イオン交換樹脂を洗浄後、PF5060 6kgと樹脂とを混合し、塩酸を適量加え、20℃で3時間攪拌した。攪拌後、30分静置したところ、2層に分かれ、下層はフッ素層、上層は塩酸と樹脂との混合層となった。フッ素層を取り出し、PF5060を留去し、生成物130gを得た。得られた生成物を19F−NMRにより測定したところ、上記式(1a)95モル%及び式(1b)5モル%よりなる混合物であった。
【0042】
(ii)前記反応で得られた混合物50gを、m−キシレンヘキサフロライド100gとテトラヒドロフラン20gの混合溶媒に溶解し、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの40質量%トルエン溶液100gを滴下した。室温で3時間攪拌後、適量の塩酸を加え、十分に攪拌し水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物45gを得た。19F−NMR及び1H−NMRにより、得られた生成物は下記式(2a)95モル%及び式(2b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【0043】
【化10】
(q’/p’=0.9、p’+q’≒17)
【0044】
(iii)反応容器に、上記工程(ii)で得られた混合物40g、臭化アリル15g、硫酸水素テトラブチルアンモニウム0.5gを入れて50℃で3時間攪拌した後、得られた混合物に、30%水酸化ナトリウム水溶液10.5gを滴下して55℃で12時間熟成した。その後、PF5060と塩酸を適量加え攪拌した後、十分に水洗した。更に、下層を取り出し、溶剤を留去したところ、液状の生成物35gを得た。19F−NMR及び1H−NMRにより、得られた生成物は下記式(3a)95モル%及び式(3b)5モル%よりなる混合物であることを確認した。
【化11】
(q’/p’=0.9、p’+q’≒17)
【0045】
(iv)反応容器に、上記工程(iii)で得られた混合物35g、トリクロロシラン4g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.1g(Pt単体として2.5×10-8モルを含有)を混合し、110℃で12時間熟成し、未反応物を減圧留去し、液状のシリル生成物31gを得た。
【0046】
(v)反応容器に、上記工程(iv)で得られたシリル生成物30gを入れ、m−キシレンヘキサフロライド30gに溶解させ、乾燥したアンモニアガスを導入したところ、アンモニアガスの吹込みと共に液温は上昇し、塩化アンモニウムが生成し白濁状態となった。このようにしてアンモニアガスが還流状態となるまで吹込んだのちにアンモニアガスの導入を停止し、還流下2時間攪拌を継続した。ついで窒素ガスを導入させながら3時間加熱攪拌を行い、過剰のアンモニアガスを溜去、析出した塩化アンモニウムをろ別し、ろ液からm−キシレンヘキサフロライドを減圧溜去して無色透明の液体30gを得た。19F−NMR及び1H−NMRにより、得られた液体は下記式(4a)95モル%及び式(4b)5モル%よりなる混合物[組成物1]であることを確認した。
【化12】
(q’/p’=0.9、p’+q’≒17)
【0047】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
上記組成物1を、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル)に溶解させて処理浴を調製した。化学強化ガラス(50mm×100mm、コーニング社製、Gorilla)を、処理浴に30秒浸漬後、150mm/分の速度で引上げ、室温で1時間硬化させて硬化被膜を形成した。
【0048】
[比較例1〜4]
組成物1に代えて、下記に示す化合物1〜4を用いて実施例1と同様にして硬化被膜を形成した。
化合物1
【化13】
化合物2
【化14】
化合物3
【化15】
化合物4
【化16】
【0049】
得られた硬化被膜を下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[撥水撥油性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスを用い、接触角計DropMaster(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)及びオレイン酸に対する接触角(撥油性)を測定した。
【0051】
[指紋拭取り性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面に指紋を付着させ、ベンコット(旭化成社製)で表面を拭いた際の指紋拭取り性を、7人のパネラーにより、下記評価基準で分類した。
A :3回以内に完全に拭取れる。
B :10回以内に完全に拭取れる。
C :拭取れない。
【0052】
[滑り性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面をベンコット(旭化成社製)で擦った際の滑り性を、7人のパネラーにより、下記評価基準により分類した。
A :感触が特に優れている。
B :感触がよい。
C :感触が悪い。
【0053】
[耐摩耗性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラス表面を、ラビングテスターを用いて以下の条件で擦った後、上記と同様に水接触角を測定した。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(10mm×10mm)にベンコット(旭化成社製)を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定した。
荷重:500g
擦り距(片道):40mm
擦り速度:1,800mm/分
回数:5,000往復
【0054】
【表1】
【0055】
比較例は、いずれも指紋拭取り性と滑り性が悪い。また、滑り性が悪いため、布に対する耐摩耗性も悪い。パーフルオロポリエーテルの中でも、−(CF2O)p(CF2CF2O)q−構造を有するポリマーは、滑り性に優れるため、指紋拭取り性、滑り性の感触、耐摩耗性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性ポリシラザンは、反応性基がシラザンであるため、SiO2等のプライマーを用いないでも、基材との反応性が高く、室温硬化が可能である。また、従来のシラザン化合物と比較して、滑り性に優れるため、指紋拭取り性、滑り性の感触、耐摩耗性に優れる。このため、タッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなど光学物品やサニタリー製品、衛生陶器等の撥水撥油層として有用である。