(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
<膜形成ポリマー(A)>
膜形成ポリマー(A)は、本発明の第一の態様のポリマー組成物に含まれていてもよく、本発明の第二の態様の多孔質膜の構成成分の一つである。
【0021】
膜形成ポリマー(A)は本発明のポリマー組成物及び多孔質膜の構造を維持させるためのものであり、ポリマー組成物及び多孔質膜に求められる特性に応じて膜形成ポリマー(A)の組成を選択することができる。
【0022】
膜形成ポリマー(A)として耐薬品性、耐酸化劣化性及び耐熱性が要求される場合には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−co−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、エチレン−co−クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有ポリマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスチレン誘導体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びセルロースアセテートが挙げられる。これらの中で、ポリマー組成物及び多孔質膜の耐薬品性及び耐酸化劣化性の点で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−co−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、エチレン−co−クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、ポリフッ化ビニル及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有ポリマーが好ましい。これらの中で、ポリマー組成物及び多孔質膜の耐酸化劣化性及び機械的耐久性の点で、PVDFが好ましい。
膜形成ポリマー(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
膜形成ポリマー(A)は、後述の溶剤(C2)に溶解可能であり、純水に溶解しないポリマーが好ましい。
【0024】
前述のポリマーの中で、後述するポリマー(B)と溶剤(C2)への相溶性、耐薬品性及び耐熱性の観点からPVDFが好ましい。
【0025】
膜形成ポリマー(A)としては、質量平均分子量(以下、「Mw」という)100,000〜2,000,000が好ましい。Mwが100,000以上の場合に、本発明のポリマー組成物及び多孔質膜の機械的強度が良好となる傾向にあり、Mwが2,000,000以下の場合に、溶剤(C2)への溶解性が良好となる傾向にある。Mwは300,000以上がより好ましく、Mwは1,500,000以下がより好ましい。より具体的には、膜形成ポリマー(A)の質量平均分子量は、300,000〜1,500,000がより好ましく、400,000〜1,000,000がさらに好ましく、500,000〜700,000が特に好ましい。
なお、本明細書において、Mwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の質量平均分子量を用いるものとする。
【0026】
尚、膜形成ポリマー(A)として上記のMwを有するものを使用する場合、異なるMwを有するものを混合して所定のMwを有する膜形成ポリマー(A)とすることができる。
【0027】
<マクロモノマー(b1)>
マクロモノマー(b1)は、本発明のポリマー組成物及び多孔質膜に含有されるポリマー(B)の構成成分の一つである。
【0028】
マクロモノマー(b1)は、式(1)に示されるモノマーで、ポリメタクリル酸エステルセグメントの片末端に不飽和二重結合を有するラジカル重合可能な基が付加したものである。式中、「・・・」はモノマー単位が重合している状態を表す。
なお、本明細書において「モノマー」とはラジカル重合可能な基を有する化合物を意味する。
ラジカル重合可能な基としては、具体的には二重結合を有する基が挙げられる。
【0029】
式(1)において、R及びR
1〜R
nは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基である。アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基は、置換基を有することができる。
【0030】
R又はR
1〜R
nのアルキル基としては、例えば、炭素数1〜20の分岐又は直鎖アルキル基が挙げられる。R又はR
1〜R
nのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、イソアミル基、ヘキシル基、オクチル基、ラウリル基、ドデシル基、ステアリル基、2−エチルヘキシル基、が挙げられる。R又はR
1〜R
nのアルキル基が置換基を有する場合の具体例としては、ベンジル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ノルマルブトキシエチル基、イソブトキシエチル基、t−ブトキシエチル基、フェノキシエチル基、ノニルフェノキシエチル基、3−メトキシブチル基、メトキシ−ジエチレングリコール基、メトキシ−テトラエチレングリコール基、メトキシ−ノナエチレングリコール基、オクトキシ−オクタエチレングリコール−ヘキサプロピレングリコール基、及びノニルフェノキシ(エチレングリコール−ポリプロピレングリコール)基等が挙げられる。
【0031】
R又はR
1〜R
nのシクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜20のシクロアルキル基が挙げられる。R又はR
1〜R
nのシクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基及びアダマンチル基が挙げられる。
【0032】
R又はR
1〜R
nのアリール基としては、例えば、炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。R又はR
1〜R
nのアリール基の具体例としては、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。
【0033】
R又はR
1〜R
nの複素環基としては、例えば、炭素数5〜18の複素環基が挙げられる。R又はR
1〜R
nの複素環基の具体例としては、グリシジル基、γ―ラクトン基及びε―カプロラクトン基が挙げられる。複素環に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0034】
R又はR
1〜R
nの置換基としては、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR’)、カルバモイル基(−CONR’R’’)、シアノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基(−C(=O)NR’R’’)、ハロゲン、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基(−OR’)又は親水性若しくはイオン性を示す基からなる群から選択される基が挙げられる。尚、R’又はR’’は、それぞれ独立して、複素環基を除いてRと同様の基が挙げられる。なお、置換基の炭素数は、R又はR
1〜R
nの炭素数に含まれないものとする。
【0035】
R又はR
1〜R
nの置換基のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基が挙げられる。
【0036】
R又はR
1〜R
nの置換基のカルバモイル基としては、例えば、N−メチルカルバモイル基及びN,N−ジメチルカルバモイル基が挙げられる。
【0037】
R又はR
1〜R
nの置換基のアミド基としては、例えば、ジメチルアミド基が挙げられる。
【0038】
R又はR
1〜R
nの置換基のハロゲンとしては、例えば、ふっ素、塩素、臭素及びよう素が挙げられる。
【0039】
R又はR
1〜R
nの置換基のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜12のアルコキシ基が挙げられ、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、フェノキシ基、及びノニルフェノキシ基等が挙げられる。
【0040】
R又はR
1〜R
nの置換基の親水性又はイオン性を示す基としては、例えば、カルボキシル基のアルカリ塩又はスルホ基のアルカリ塩、ポリエチレンオキシド基、ポリプロピレンオキシド基等のポリ(アルキレンオキシド)基及び四級アンモニウム塩基等のカチオン性置換基が挙げられる。ポリ(アルキレンオキシド)基の具体例としては、ジエチレンオキシド基、トリエチレンオキシド基、テトラエチレンオキシド基、ペンタエチレンオキシド基、ヘキサエチレンオキシド基、ヘプタエチレンオキシド基、オクタエチレンオキシド基等のポリエチレンオキシド基;ジプロピレンオキシド基、トリプロピレンオキシド基、テトラプロピレンオキシド基、ペンタプロピレンオキシド基、ヘキサプロピレンオキシド基、ヘプタプロピレンオキシド基、オクタプロピレンオキシド基、ヘキサプロピレンオキシド基等のポリプロピレンオキシド基;及びポリエチレンオキシド基とポリプロピレンオキシド基との組み合わせ;等が挙げられる。これらの基が、R
1〜R
nと、これらと結合する酸素原子(−O−)との間に介在していてもよい。
【0041】
Rとしては、マクロモノマー(b1)の入手のし易さ、得られるポリマー(B)の取り扱い性及び機械物性バランスの観点から、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はi−プロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
R
1〜R
nとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はi−プロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0042】
Zは、マクロモノマー(b1)の末端基である。マクロモノマー(b1)の末端基としては、例えば、公知のラジカル重合で得られるポリマーの末端基と同様に、水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基が挙げられる。
【0043】
nはマクロモノマー(b1)1分子中に含まれるモノマー単位のモル数(ただし二重結合を有するモノマー単位を除いた数)を表す。「R
n」におけるnも同様の数を意味する。つまりR
1〜R
n(R
1、R
2、R
3…R
n)は、マクロモノマー(b1)を構成するモノマー単位の数(ただし二重結合を有するモノマー単位を除いた数)に対応するように、1〜n個存在する。nは2〜10,000の整数である。好ましくは、10〜1000であり、より好ましくは30〜500である。
【0044】
マクロモノマー(b1)は、マクロモノマー(b1)を含有するモノマー混合物をラジカル重合する際に連鎖移動剤として作用する効果を有する。従って、マクロモノマー(b1)及び後述するその他のモノマー(b2)を含むモノマー組成物をラジカル重合させると、金属触媒や硫黄化合物を用いることなくブロック共重合体及びグラフト共重合体から選ばれる少なくとも1種を有するポリマー(B)を得ることができるため、得られるポリマー(B)は、金属等の不純物の含有量が少ないことが求められる成形品に好適である。
【0045】
また、マクロモノマー(b1)を用いることにより、従来の制御されたラジカル重合よりも比較的安価にブロック共重合体を含有する重合物を得ることが可能である。尚、制御されたラジカル重合としては、例えば、可逆付加開裂連鎖移動重合(RAFT)、原子移動ラジカル重合(ATRP)及びニトロキシド媒介重合(NMP)が挙げられる。これら制御されたラジカル重合は、制御された分子量と狭い分子量分布を有することが特徴である。
【0046】
本発明において、マクロモノマーとは、重合可能な官能基を持つ高分子化合物をいい、別名、マクロマーとも呼ばれるものである。
【0047】
マクロモノマー(b1)中のポリメタクリル酸エステルセグメントを構成するための原料となるラジカル重合性モノマーとしては、ポリマー(B)の機械物性バランスの観点から、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール、プラクセルFM(商品名、ダイセル化学(株)製;カプロラクトン付加モノマー)、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル、メタクリル酸ノルマルブトキシエチル、メタクリル酸イソブトキシエチル、メタクリル酸t−ブトキシエチル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸ノニルフェノキシエチル、メタクリル酸3−メトキシブチル、ブレンマーPME−100(商品名、日本油脂(株)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が2であるもの:メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート))、ブレンマーPME−200(商品名、日本油脂(株)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が4であるもの:メトキシ−テトラエチレングリコールメタクリレート))、ブレンマーPME−400(商品名、日本油脂(株)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が9であるもの:メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート))、ブレンマー50POEP−800B(商品名、日本油脂(株)、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−メタクリレート(エチレングリコールの連鎖が8であり、プロピレングリコールの連鎖が6であるもの:オクトキシ−オクタエチレングリコール−ヘキサプロピレングリコール−メタクリレート))及びブレンマー20ANEP−600(商品名、日本油脂(株)、ノニルフェノキシ(エチレングリコール−ポリプロピレングリコール)モノアクリレート)が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
これらの中で、原料となるラジカル重合性モノマーの入手のし易さ、得られるポリマー(B)の機械物性バランスの観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸、ブレンマーPME−100、ブレンマーPME−200及びブレンマーPME−400が好ましい。また、原料となるラジカル重合性モノマーとしては、膜形成ポリマー(A)、特にPVDFとの相溶性が良好な点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ブレンマーPME−100、ブレンマーPME−200及びブレンマーPME−400がより好ましく、メタクリル酸メチルが更に好ましい。
【0049】
マクロモノマー(b1)の数平均分子量(以下、「Mn」という)は、得られるポリマー(B)の機械物性バランスの点から、1,000以上1,000,000以下が好ましい。Mnは、3,000以上がより好ましく、4,000以上が更に好ましい。Mnは、60,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。より具体的には、マクロモノマー(b1)の数平均分子量は、3,000〜60,000が好ましく、4,000〜50,000がより好ましく、5,000〜40,000がさらに好ましく、8,000〜38,000が特に好ましい。
【0050】
マクロモノマー(b1)の分子量分布(以下、「Mw/Mn」という)は、得られるポリマー(B)の機械物性のバランスから、1.5以上5.0以下が好ましく、1.8〜3.0であることがより好ましく、1.9〜2.5であることが特に好ましい。
【0051】
ポリマー(B)を構成する全モノマー単位に対する、マクロモノマー(b1)単位の割合は、10〜90モル%であることが好ましく、20〜80モル%であることが好ましい。
ポリマー(B)を構成する全モノマー単位に対する、その他のモノマー(b2)単位の割合は、90〜10モル%であることが好ましく、80〜20モル%であることが好ましい。
「モノマー単位」とは、ポリマーを構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。「ポリマー(B)を構成する全モノマー単位」とは、「マクロモノマー(b1)単位」のモル数と「他のモノマー(b2)単位」のモル数の合計を意味する。
【0052】
本発明においては、マクロモノマー(b1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
マクロモノマー(b1)の製造方法としては、例えば、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法(例えば、米国特許第4,680,352号明細書)、α−ブロモメチルスチレン等のα−置換不飽和化合物を連鎖移動剤として用いる方法(例えば、国際公開第88/04,304号)、重合性基を化学的に結合させる方法(例えば、特開昭60−133,007号公報、米国特許第5,147,952号明細書)及び熱分解による方法(例えば、特開平11−240,854号公報)が挙げられる。これらの中で、効率的にマクロモノマー(b1)を製造可能な点から、コバルト連鎖移動剤を用いて製造する方法が好ましい。
【0054】
マクロモノマー(b1)の製造方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法及び懸濁重合法、乳化重合法等の水系分散重合法が挙げられる。これらの中で、マクロモノマー(b1)の回収工程の簡略化の点から、水系分散重合法が好ましい。
【0055】
マクロモノマー(b1)を溶液重合法で得る際に使用される溶剤(C1)としては、例えば、トルエン等の炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;アセトン等のケトン;メタノール等のアルコール;アセトニトリル等のニトリル;酢酸エチル等のビニルエステル;エチレンカーボネート等のカーボネート;及び超臨界二酸化炭素が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
<その他のモノマー(b2)>
その他のモノマー(b2)は、本発明のポリマー組成物及び多孔質膜に含有されるポリマー(B)を構成するための原料の一つである。
【0057】
その他のモノマー(b2)としては、例えば、マクロモノマー(b1)中のポリメタクリル酸エステルセグメントを構成するための原料となるラジカル重合性モノマーと同様のモノマー並びにアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アタクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリプロピレングリコール、プラクセルFA(ダイセル化学(株);カプロラクトン付加単量体)、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ノルマルブトキシエチル、アクリル酸イソブトキシエチル、アクリル酸t−ブトキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ノニルフェノキシエチル、アクリル酸‐3−メトキシブチル、ブレンマーAME−100、200(日油(株))、ブレンマー50AOEP−800B(日油(株))、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ペンタジエンスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン、N−メチロールメタクリルアミド、ブトキシメタクリルアミド、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ブトキシアクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド塩、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド塩、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びビニルトリメトキシシランが挙げられる。これらの中で、マクロモノマー(b1)との共重合性が高い点で、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリレートが好ましい。なかでも、メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸が好ましい。
ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸と、α位にメチル基が結合したメタクリル酸の一方あるいは両方を意味する。「(メタ)アクリレート」とは、α位に水素原子が結合したアクリレートと、α位にメチル基が結合したメタクリレートの一方あるいは両方を意味する。
【0058】
<モノマー組成物>
本発明において、モノマー組成物は、マクロモノマー(b1)及びその他のモノマー(b2)を含む。
【0059】
モノマー組成物中のマクロモノマー(b1)とその他のモノマー(b2)の合計量100質量部に対するマクロモノマー(b1)の含有量は、5〜99質量部が好ましい。マクロモノマー(b1)の含有量が5質量部以上の場合は、膜形成ポリマー(A)を溶剤(C2)に溶解した溶液にポリマー(B)を添加して、本発明の多孔質膜を得るための製膜液を調製する際の製膜液の均一性を向上させる傾向にあり、99質量部以下の場合は、本発明の多孔質膜の純水に対する接触角が75°以下となる傾向にある。マクロモノマー(b1)の含有量は20質量部以上がより好ましく、40質量部以上が更に好ましく、50質量部以上が特に好ましい。マクロモノマー(b1)の含有量は、98質量部以下がより好ましく、95質量部以下が更に好ましい。より具体的には、モノマー組成物中のマクロモノマー(b1)とその他のモノマー(b2)の合計量100質量部に対するマクロモノマー(b1)の含有量は、40〜98質量部が好ましく、50〜95質量部がさらに好ましい。
マクロモノマー(b1)とその他のモノマー(b2)との組み合わせとしては、マクロモノマー(b1)としてのポリメタクリル酸メチルマクロモノマーと、その他のモノマー(b2)としての(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリレートとの組み合わせが好ましく、マクロモノマー(b1)としてのポリメタクリル酸メチルマクロモノマーと、その他のモノマー(b2)としてのメタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸との組み合わせがより好ましい。
【0060】
<ポリマー(B)>
ポリマー(B)は、本発明のポリマー組成物及び多孔質膜の構成成分の一つである。
【0061】
ポリマー(B)は、マクロモノマー(b1)及びその他のモノマー(b2)を含むモノマー組成物を重合して得られるもので、マクロモノマー(b1)とその他のモノマー(b2)のブロック共重合体及び側鎖にマクロモノマー(b1)単位を有するその他のモノマー(b2)のグラフト共重合体から選ばれる少なくとも1種で構成される。
【0062】
本発明において、ポリマー(B)中には上記の他、マクロモノマー(b1)単位のみを有するポリマー、その他のモノマー(b2)単位のみを有するポリマー、未反応のマクロモノマー(b1)及び未反応のその他のモノマー(b2)から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。
「モノマー単位」とは、ポリマーを構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。「ポリマー(B)を構成する全モノマー単位」とは、「マクロモノマー(b1)単位」のモル数と「他のモノマー(b2)単位」のモル数の合計を意味する。
【0063】
ポリマー(B)のMnは、ポリマー(B)の引張強度、引張伸度、曲げ強度及び熱安定性の点から、1,000以上5,000,000以下が好ましい。ポリマー(B)のMnは2,000以上がより好ましく、5,000以上が更に好ましい。ポリマー(B)のMnは、300,000以下がより好ましい。より具体的には、ポリマー(B)のMnは、2,000〜300,000がより好ましく、5,000〜200,000がさらに好ましい。
【0064】
ポリマー(B)は、単独で又は異なる組成比、連鎖分布若しくは分子量のポリマー2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
ポリマー(B)の製造方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法が挙げられる。
【0066】
ポリマー(B)を溶液重合法で製造する場合に使用される溶剤(C2)としては、例えば、マクロモノマー(b1)を溶液重合法で得る際に使用される溶剤(C1)と同様の溶剤並びにテトラヒドロフラン(THF)、トルエン(TOL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、テトラメチルウレア(TMU)、トリエチルフォスフェート(TEP)及びリン酸トリメチル(TMP)が挙げられる。これらの中で、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の溶解性及び取り扱いの容易さの点で、THF、TOL、DMF、DMAc、DMSO及びNMPが好ましい。溶剤(C2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
ポリマー(B)を製造する際には、ポリマー(B)の分子量を調節するために、メルカプタン、水素、αメチルスチレンダイマー、テルペノイド等の連鎖移動剤を使用することができる。
【0068】
ポリマー(B)を得る際にはラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0069】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
【0070】
有機過酸化物の具体例としては、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0071】
アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が挙げられる。
【0072】
ラジカル重合開始剤としては、入手のし易さ、重合条件に好適な半減期温度を有する点から、ベンゾイルパーオキサイド、AIBN、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
ラジカル重合開始剤の添加量は、その他のモノマー(b2)100質量部に対して0.0001質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0074】
ポリマー(B)を得るための重合温度としては、例えば、使用する溶媒の沸点やラジカル重合開始剤の使用温度範囲が好適である点で、−100〜250℃が好ましい。重合温度は0℃以上がより好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0075】
本発明の第一の態様におけるポリマー組成物は、前記式(1)において、R及びR
1〜R
nがメチル基であり、Zが水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基であり、数平均分子量が3,000〜60,000であるメタクリル酸エステルマクロモノマー(b1)と;メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種であるその他のモノマー(b2);とを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)を含む、ポリマー組成物であることが好ましい。
【0076】
本発明の第一の態様におけるポリマー組成物は、前記式(1)において、R及びR
1〜R
nがメチル基であり、Zが水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基であり、数平均分子量が3,000〜60,000であるメタクリル酸エステルマクロモノマー(b1)と;メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種であるその他のモノマー(b2);とを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び膜形成ポリマー(A)として質量平均分子量300,000〜1,500,000のポリフッ化ビニリデンを含むポリマー組成物であることが好ましい。
【0077】
<多孔質膜>
本発明の第二の態様における多孔質膜は、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)を含有する樹脂組成物から形成される。
【0078】
前記樹脂組成物は、本発明の第一の態様におけるポリマー組成物に、膜形成ポリマー(A)をさらに加えたものであってもよい。
【0079】
本発明の第二の態様における多孔質膜中の膜形成ポリマー(A)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して20〜95質量部が好ましい。膜形成ポリマー(A)の含有量が20質量部以上で多孔質膜とすることができる傾向にある。
また、膜形成ポリマー(A)の含有量が95質量部以下であると、多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を75°以下とすることができる傾向にある。
【0080】
多孔質膜中の膜形成ポリマー(A)の含有量は、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましく、40質量部以上が特に好ましい。膜形成ポリマー(A)の含有量は、92質量部以下がより好ましく、90質量部以下が更に好ましく、85質量部以下が特に好ましい。より具体的には、多孔質膜における膜形成ポリマー(A)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して、25〜92質量部が好ましく、30〜90質量部がより好ましく、40〜85質量部がさらに好ましい。
【0081】
樹脂組成物における膜形成ポリマー(A)の含有量としては、樹脂組成物中の膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して20〜95質量部が好ましい。膜形成ポリマー(A)の含有量が20質量部以上で多孔質膜とすることができる傾向にある。
また、膜形成ポリマー(A)の含有量が95質量部以下であると、樹脂組成物から得られる多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を75°以下とすることができる傾向にある。
【0082】
樹脂組成物における膜形成ポリマー(A)の含有量は、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましく、40質量部以上が特に好ましい。膜形成ポリマー(A)の含有量は、92質量部以下がより好ましく、90質量部以下が更に好ましく、85質量部以下が特に好ましい。より具体的には、樹脂組成物における膜形成ポリマー(A)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して、25〜92質量部が好ましく、30〜90質量部がより好ましく、40〜85質量部がさらに好ましい。
【0083】
本発明の第二の態様における多孔質膜中のポリマー(B)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して1〜50質量部が好ましい。ポリマー(B)の含有量が1質量部以上で多孔質膜とすることができる。
また、ポリマー(B)の含有量が50質量部以下で耐酸化劣化性及び機械的耐久性を良好とすることができる。
【0084】
多孔質膜中のポリマー(B)の含有量は、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、10質量部以上が特に好ましい。ポリマー(B)の含有量は、45質量部以下がより好ましく、43質量部以下が更に好ましく、40質量部以下が特に好ましい。より具体的には、多孔質膜におけるポリマー(B)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して、2〜45質量部が好ましく、5〜43質量部がより好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。
【0085】
樹脂組成物におけるポリマー(B)の含有量としては、樹脂組成物中の膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して2〜50質量部が好ましい。ポリマー(B)の含有量が2質量部以上で高い透水性を有する膜を得るために好適な樹脂組成物とすることができる。
また、ポリマー(B)の含有量が50量部以下で多孔質膜を得るために公的な樹脂組成物とすることができる。
【0086】
樹脂組成物におけるポリマー(B)の含有量は、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、10質量部以上が特に好ましい。ポリマー(B)の含有量は、45質量部以下がより好ましく、43質量部以下が更に好ましく、40質量部以下が特に好ましい。より具体的には、樹脂組成物におけるポリマー(B)の含有量としては、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の合計量100質量部に対して、2〜45質量部が好ましく、5〜43質量部がより好ましく、10〜40質量部がさらに好ましい。
【0087】
本発明の第二の態様の多孔質膜における細孔の平均孔径は、500nm以下であることが好ましい。本発明の多孔質膜における細孔の平均孔径が500nm以下であれば、ウイルスや上水中の懸濁物質の除去が可能となる、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るうえで好適となる。
【0088】
多孔質膜における細孔の平均孔径は、ウイルスの除去、たんぱく質若しくは酵素の精製又は上水用途で利用可能な点から、1nm以上500nm以下が好ましい。細孔の平均孔径が500nm以下であればウイルスや上水中の懸濁物質の除去が可能である傾向にあり、1nm以上であれば水を処理する際に高い透水圧力を必要としない傾向にある。細孔の平均孔径は300nm以下がより好ましく、120nm以下が更に好ましく、95nm以下が特に好ましい。より具体的には、多孔質膜における細孔の平均孔径は、3〜120nmがより好ましく、5〜95nmがより好ましい。
【0089】
尚、本発明の第二の態様における多孔質膜における細孔の平均孔径は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、製品名:JSM−7400)を用いて本発明の多孔質膜の外表面部分の細孔の最長径を実測して得られる平均孔径をいう。
具体的には、多孔質膜の外表面の任意の500μm×500μmの範囲を5箇所以上選択し、それらの中に存在するランダムに選択された細孔30個についての孔径を測定し、それらの平均値を求めることで平均孔径を得る方法で決定することができる。
【0090】
本発明の第二の態様における多孔質膜は、純水に対する接触角が75°以下である外表面を有することができる。多孔質膜の外表面における接触角は、多孔質膜外表面の親水性を表す指標となる。本発明の多孔質膜の外表面の接触角が小さいほど多孔質膜の外表面は高い親水性を有し、多孔質膜は高い透水性能が期待できる。
【0091】
多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を75°以下とすることにより、本発明の多孔質膜の透水性を良好とすることができる。
【0092】
多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を低くする方法としては、例えば、ポリマー(B)としてマクロモノマー(b1)と、その他のモノマー(b2)として水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基を有するモノマーとのコポリマーを使用して多孔質膜を得る方法が挙げられる。上記のコポリマーを使用して多孔質膜を得ることにより、多孔質膜の外表面に効率的に親水性の官能基を有するポリマーセグメントを偏在化させたものを得ることができる。
また、多孔質膜が平膜の場合は、本発明の第一の態様におけるポリマー組成物を用いて、平滑な基板上にポリマー組成物を吐出口(紡糸口金)より塗布し、凝固液中で凝固させる工程を含む製造方法により平膜を形成することにより、多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を低くすることができる。さらに、前記製造方法が凝固液を溶剤(C2)の水溶液とする工程を含むことにより、平均孔径を好ましい範囲にすることができる。
多孔質膜が中空糸膜の場合は、本発明の第一の態様におけるポリマー組成物を用いて、中空状の支持体上にポリマー組成物を紡糸ノズル内部又は紡糸ノズルの吐出口付近で塗布し、凝固液中で凝固させる工程を含む製造方法により中空糸膜を形成することにより、多孔質膜の外表面の純水に対する接触角を低くすることができる。この時、多孔質膜の前駆体を凝固させる前にエアギャップ領域を設けることが好ましい。エアギャップとは、吐出口と凝固液表面との間に前駆体と空気(外気)に暴露させる空間のことである。エアギャップを設けることにより、空気(外気)中に含まれる水蒸気によって、多孔質膜の前駆体表面のスピノーダル分解を起こすことができるため、より精密な構成制御が可能となる。
さらに、前記製造方法が凝固液を溶剤(C2)の水溶液とする工程を含むことにより、平均孔径を好ましい範囲にすることができる。
【0093】
多孔質膜の外表面の純水に対する接触角は、73°以下がより好ましい。また、多孔質膜の外表面の純水に対する接触角の下限値は低い程好ましく、一般的に1°以上である。多孔質膜の外表面の純水に対する接触角の下限値は、使用するポリマー(A)の種類によって変動するが、ポリマー(A)としてPVDFを使用する場合には、20°以上が一般的である。より具体的には、多孔質膜の外表面の純水に対する接触角は、1〜73°であることが好ましく、20〜73°であることがより好ましく、40〜65°であることがさらに好ましい。
【0094】
本発明の第二の態様における多孔質膜は、純水の透過流束(フラックス)が1.0×10
−10(m
3/m
2/s/Pa)以上であることが好ましい。この透過流束が1.0×10
−10(m
3/m
2/s/Pa)に満たない場合、高い透水量を得るために高い圧力で運転する必要があり、コスト上好ましくない。ここで、透過流束(フラックス)は、多孔質膜をタンク付ステンレスホルダー(Advantec(株)社製、KST−47(商品名))に挟み込み、脱イオン水をタンク内に充填させ、下記式を用いて求めることができる数値である。
Flux = L/(S×t×P)
Flux:純水の透過流束(m
3/m
2/s/Pa)
L:純水の透水量(m
3)
S:有効膜面積(m
2)
t:透過時間(s)
P:測定圧力(Pa)
【0095】
本発明の多孔質膜は、0.130μm以下の微粒子の阻止率が90%以上であることが好ましい。
阻止率が90%に満たないときは、ウイルスの除去、たんぱく質若しくは酵素の精製又は上水用途で目詰まりや、ろ過差圧の上昇が起こり、寿命が短くなる傾向にある。
ここで、微粒子の阻止率は、タンク付ステンレスホルダー(Advantec(株)社製、KST−47(商品名))に、脱イオン水に平均粒径0.132μmのポリスチレンラテックス粒子 マクスフェア(株)製、公称粒径0.132μm)を25ppmの濃度になるように分散させてなる評価原液をタンク内に充填させて、挟み込んだ多孔質膜でろ過し、評価原液とろ過液の波長320nmの吸光度から、下記式を用いて求めることができる数値である。
Rjc = [(A1−A2)/A1]×100
Rjc:微粒子阻止率(%)
A1:評価原液の吸光度(abs)
A2:ろ過液の吸光度(abs)
吸光度は、分光光度計(パーキンエルマー製 LAMBDA850)を用いて測定することができる。
【0096】
本発明の第二の態様における多孔質膜の形態としては、例えば、平膜及び中空糸膜が挙げられる。
【0097】
多孔質膜が平膜の場合、厚みは、10〜1,000μmが好ましい。10μm以上であれば高い伸縮性を有し、耐久性が満足できる傾向にあり、1,000μm以下であれば低コストで生産できる傾向にある。多孔質膜が平膜の場合、厚みは、20μm以上がより好ましく、30μm以上が更に好ましい。厚みは、900μm以下がより好ましく、800μm以下が更に好ましい。より具体的には、多孔質膜が平膜の場合、厚みは20〜900μmがより好ましく、30〜800μmがさらに好ましい。
【0098】
本発明の第二の態様における多孔質膜が平膜の場合、膜の内部の構造としては、例えば、膜の断面(即ち、膜を厚さ方向に切断した場合の断面)における特定方向に孔の大きさが小さくなる傾斜構造又は均質な孔を有する構造が挙げられる。
【0099】
本発明の第二の態様における多孔質膜が平膜の場合、膜中にはマクロボイド又は球晶構造を有することができる。
マクロボイドとは、多孔質膜の平均孔径が概ね10μm以上の構造のことである。
【0100】
本発明の第二の態様における多孔質膜の形状が中空糸膜の場合、中空糸膜の外径は、20〜2,000μmが好ましい。多孔質膜の外径が20μm以上であると製膜時に糸切れが発生しにくい傾向にある。また、中空糸膜の外径が2,000μm以下であれば中空形状を保ちやすく、特に外圧がかかっても扁平化しにくい傾向にある。中空糸膜の外径は、30μm以上がより好ましく、40μm以上が更に好ましい。また、中空糸膜の外径は、1,800μm以下がより好ましく、1,500μm以下が更に好ましい。より具体的には、多孔質膜の形状が中空糸膜の場合、中空糸膜の外径は、30〜1,800μmがより好ましく、40〜1,500μmがさらに好ましい。
【0101】
本発明の第二の態様における多孔質膜の形状が中空糸膜の場合、中空糸膜の肉厚は、5〜500μmが好ましい。中空糸膜の肉厚が5μm以上であれば、製膜時に糸切れが発生しにくい傾向に有り、500μm以下であれば中空形状を保ちやすい傾向にある。中空糸膜の肉厚は、10μm以上が好ましく、15μm以上が更に好ましい。中空糸膜の肉厚は、480μm以下がより好ましく、450μm以下が更に好ましい。さらに具体的には、多孔質膜の形状が中空糸膜の場合、中空糸膜の肉厚は、10〜480μmがより好ましく、15〜450μmがさらに好ましい。
ここで「中空糸膜の肉厚」とは、膜を厚さ方向に切断した場合の断面における外表面から内表面までの長さを意味する。
【0102】
本発明の第二の態様における多孔質膜は、前記式(1)において、R及びR
1〜R
nがメチル基であり、Zが水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基であり、数平均分子量が3,000〜60,000であるメタクリル酸エステルマクロモノマー(b1)と;メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種であるその他のモノマー(b2);とを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び膜形成ポリマー(A)として質量平均分子量300,000〜1,500,000のポリフッ化ビニリデンを含む樹脂組成物から形成される多孔質膜であることが好ましい。
【0103】
本発明の第二の態様における多孔質膜は、前記式(1)において、R及びR
1〜R
nがメチル基であり、Zが水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基であり、数平均分子量が3,000〜60,000であるメタクリル酸エステルマクロモノマー(b1)と;メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種であるその他のモノマー(b2);とを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び膜形成ポリマー(A)として質量平均分子量300,000〜1,500,000のポリフッ化ビニリデンを含む樹脂組成物から形成される多孔質膜であることが好ましい。
【0104】
本発明の第二の態様における多孔質膜は、前記式(1)において、R及びR
1〜R
nがメチル基であり、Zが水素原子及びラジカル重合開始剤に由来する基であり、数平均分子量が3,000〜60,000であるメタクリル酸エステルマクロモノマー(b1)と;メタクリル酸メチル、メトキシ−ジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ−ノナエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸からなる群から選択される少なくとも1種であるその他のモノマー(b2);とを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び膜形成ポリマー(A)として質量平均分子量300,000〜1,500,000のポリフッ化ビニリデンを含む樹脂組成物から形成される多孔質膜であり、
多孔質膜の外表面の純水に対する接触角が20〜73°である、多孔質膜であることが好ましい。
【0105】
本発明の第二の態様における多孔質膜の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0106】
まず、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)を後述する溶剤(C3)に溶解させて製膜液を得る。次いで、得られた製膜液を凝固液中で凝固させて多孔質膜前駆体を得る。この後、多孔質膜前駆体中に残存する溶剤(C3)を洗浄して取り除き、洗浄後の多孔質膜前駆体を乾燥して本発明の第二の態様の多孔質膜を得る。
【0107】
上記の方法において、膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及び溶剤(C3)の混合比は製膜液が均一であれば特に限定されない。
つまり、製膜液は、前記樹脂組成物と溶剤(C3)とを含むものである。
【0108】
製膜液の調製方法としては、例えば、溶剤(C3)中に膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)を一括で混合して溶解する方法並びに溶剤(C3)中に膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)を少量ずつ添加しながら溶解する方法が挙げられる。
【0109】
尚、製膜液を得る際、溶剤(C3)の沸点以下であれば溶剤(C3)を加熱しながら膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)を溶解することができる。また、製膜液を必要に応じて冷却することができる。
【0110】
溶剤(C3)としては、例えば、溶剤(C2)と同様のものが挙げられる。これらの中で、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の溶解性及び取り扱いの容易さの点で、DMF、DMAc、DMSO及びNMPが好ましい。溶剤(C3)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0111】
製膜液中の膜形成ポリマー(A)の含有量は、製膜液の総質量に対し、0.1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。また、製膜液中のポリマー(B)の含有量は、製膜液の総質量に対し、0.1〜30質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。また、製膜液中の溶剤(C3)の含有量は、製膜液の総質量に対し、50〜99.8質量%が好ましく、65〜94質量%がより好ましい。製膜液中の膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及び溶剤(C3)の含有量を上記の範囲とすることにより、均一性の高い製膜液が調製できる傾向にある。均一性の高い製膜液は時間の経過と共に相分離等が生じることが少なく、経時変化も少ない。尚、製膜液は、膜形成ポリマー(A)又はポリマー(B)の一部が溶解せずに分散していても、均一であり、均一性を維持できているのであれば分散した状態のものでもよい。
【0112】
多孔質膜が平膜の場合、製膜液を基板上に塗布し、塗膜積層体を得、得られた塗膜積層体を凝固液に浸漬させて凝固させることにより多孔質膜前駆体を得ることができる。
基板の材質は特に制限されないが、ガラス基板が好ましい。
製膜液を基板上に塗布する方法は特に制限されないが、バーコーターを用いることが好ましい。
塗膜積層体の厚みは、所望の多孔質膜の厚みに応じて適宜変更することができる。
多孔質膜が中空糸膜の場合、製膜液を中空状の支持体上にポリマー組成物を塗布し、凝固液中に浸漬させて凝固させることにより多孔質膜前駆体を得ることができる。
【0113】
多孔質膜前駆体を得る際に使用される凝固液としては、膜の孔径制御の点から、製膜液に使用される溶剤(C3)の0〜50質量%水溶液が好ましい。凝固液の使用量は、製膜液100質量部に対し、500〜100,000,000質量部であることが好ましく、2000〜50,000,000質量部であることがより好ましい。
【0114】
多孔質膜の孔径を制御する方法としては、凝固液を溶剤(C2)の水溶液とすることが挙げられる。
【0115】
凝固液の温度は、10℃以上90℃以下が好ましい。凝固液の温度が10℃以上であれば本発明の多孔質膜の透水性能を向上できる傾向に有り、90℃以下であれば本発明の多孔質膜の機械強度を損なわない傾向がある。凝固液に浸漬させる時間は0.001〜60分間が好ましい。
【0116】
得られた多孔質膜前駆体は、60〜100℃で、0.001〜60分間の熱水中への浸漬、洗浄により、溶剤(C3)を除去することが好ましい。熱水の温度が60℃以上であれば、多孔質膜前駆体に対する高い洗浄効果が得られる傾向に有り、熱水の温度が100℃以下であれば多孔質膜前駆体が融着しにくい傾向にある。
【0117】
洗浄後の多孔質膜前駆体は、60℃以上120℃以下で、1分間以上24時間以下乾燥させることが好ましい。洗浄後の多孔質膜前駆体の乾燥温度が60℃以上であれば、乾燥処理時間が短時間で良く、生産コストも抑えられるため工業生産上好ましい。また、洗浄後の多孔質膜前駆体の乾燥温度が120℃以下であれば、乾燥工程で多孔質膜前駆体が収縮しすぎることがない傾向にあり、膜外表面に微小な亀裂が発生することもない傾向にあり、好ましい。
【実施例】
【0118】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。尚、以下において、マクロモノマー(b1)及びポリマーの組成及び構造、ポリマーのMw並びにマクロモノマー(b1)並びにポリマーのMn及びMw/Mnは、以下の方法により評価した。
【0119】
また、以下において「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
(1)マクロモノマー(b1)及びポリマーの組成及び構造
マクロモノマー(b1)及びポリマーの組成及び構造を、
1H−NMR(日本電子(株)製、製品名:JNM−EX270)により解析した。
(2)膜形成ポリマー(A)のMw
膜形成ポリマー(A)のMwは、GPC(東ソー(株)製、「HLC−8020」(商品名))を使用して以下の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN α(7.8mm ×40mm)と3本のTSK−GEL α―M(7.8×300mm)を直列に接続
・溶離液:DMF 20mM LiBr溶液
・測定温度:40℃
・流速:0.1mL/分
尚、Mwは、東ソー(株)製のポリスチレンスタンダード(Mp(ピークトップ分子量)が76,969,900、2,110,000、1,260,000、775,000、355,000、186,000、19,500、1,050及びNSスチレンモノマー(株)製のスチレンモノマー(M=104)の9種)を用いて作成した検量線を使用して求めた。
(3)マクロモノマー(b1)、制御重合ポリマー(b’1)及びポリマー(B)のMn及びMw/Mn
マクロモノマー(b1)、制御重合ポリマー(b’1)のMn及びMw/Mnは、GPC(東ソー(株)製、「HLC−8220」(商品名))を使用して以下の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(4.6×35mm)と2本のTSK−GEL SUPER HZM−N(6.0×150mm)を直列に接続
・溶離液:クロロホルム、DMF又はTHF
・測定温度:40℃
・流速:0.6mL/分
尚、Mw及びMnは、Polymer Laboratories製のポリメタクリル酸メチル(Mp(ピークトップ分子量)が141,500、55,600、10,290及び1,590の4種)を用いて作成した検量線を使用して求めた。
(4)接触角
多孔質膜の純水に対する接触角を以下の方法で測定した。
【0120】
多孔質膜試験片を接触角測定装置(Kruss社製、製品名:DSA−10)のサンプルテーブルの上に設置した。次いで、接触角測定用サンプルの外表面に純水(和光純薬(株)製、LC/MS用)の水滴(10μl)を滴下してから3秒後の水滴の状態を、装置に付属しているCCDカメラを用いて撮影した。得られた写真の水滴の接触角を接触角測定装置に組み込まれた画像処理プログラムでの自動計測によって求めた。
(5)平均孔径
多孔質膜の外表面の任意の500μm×500μmの範囲を5箇所以上選択し、それらの中に存在するランダムに選択された細孔30個についての孔径を測定し、それらの平均値を平均孔径とした。
(6)透過流速の測定
多孔質膜試験片を直径4.2cmの円形に裁断し、エタノール(和光純薬(株)製、試薬特級)に20分間浸漬しエタノールを含浸させた。次いで、エタノールを含浸させた多孔質膜試験片を脱イオン水に2時間以上浸漬し、タンク付ステンレスホルダー(Advantec(株)社製、KST−47(商品名)、有効膜面積12,5cm
2)に挟み込んだ。タンク付ステンレスホルダー内を150ml程度の脱イオン水で満たしてからトップキャップをクランプで圧漏れがないように密栓し、測定圧力0.1MPaの空気を用いて単位時間あたりの透水量から下記式を用いて透過流束(フラックス)を算出した。透過流束(フラックス)の値が大きいほど透水性能が高いことを意味する。
Flux = L/(S×t×P)
Flux:純水の透過流束(m
3/m
2/s/Pa)
L:純水の透水量(m
3)
S:有効膜面積(m
2)
t:透過時間(s)
P:測定圧力(Pa)
(7)微粒子の阻止率
透過流速の測定に用いた多孔質膜を、タンク付ステンレスホルダー(Advantec(株)社製、KST−47(商品名))に挟み込み、脱イオン水に平均粒径0.132μmのポリスチレンラテックス粒子(株)マグスフェア製、公称粒径0.132μm)を25ppmの濃度になるように分散させてなる評価原液をタンク内に充填させて、挟み込んだ多孔質膜で測定圧力0.1MPaろ過し、評価原液とろ過液の波長320nmの吸光度から
Rjc = [(A1−A2)/A1]×100
Rjc:微粒子阻止率(%)
A1:評価原液の吸光度(abs)
A2:ろ過液の吸光度(abs)
によって求めた。
吸光度測定は、分光光度計(パーキンエルマー製 LAMBDA850)を用いた。
【0121】
(合成例1)コバルト連鎖移動剤CoBF−1の合成
撹拌装置を備えた反応装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物(和光純薬(株)製、和光特級)1.00g、ジフェニルグリオキシム(東京化成(株)製、EPグレード)1.93g及び予め窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)80mlを入れ、室温で30分間攪拌した。次いで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(東京化成(株)製、EPグレード)10mlを加え、更に6時間攪拌した。混合物をろ過し、固体をジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)で洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体であるコバルト連鎖移動剤CoBF−1を2.12g得た。
【0122】
(合成例2)分散剤1の合成
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた反応装置中に、17%水酸化カリウム水溶液61.6部、メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)19.1部及び脱イオン水19.3部を仕込んだ。次いで、反応装置内の液を室温にて撹拌し、発熱ピークを確認した後、更に4時間撹拌した。この後、反応装置中の反応液を室温まで冷却してメタクリル酸カリウム水溶液を得た。
【0123】
次いで、撹拌機、冷却管及び温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、42%メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム水溶液(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルSEM−Na)70部、上記のメタクリル酸カリウム水溶液16部及びメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)7部を入れて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。その中に、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、商品名:V−50)0.053部を添加し、更に60℃に昇温した。重合開始剤の投入後、15分毎にメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)1.4部を計5回、分割添加した。この後、重合装置内の液を撹拌しながら60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分8%の分散剤1を得た。
【0124】
(合成例3)マクロモノマー(b1−1)の合成
冷却管付フラスコに、メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)100部、脱イオン水150部、硫酸ナトリウム1.39部、分散剤1、1.53部、CoBF−1、0.00075部を仕込んだ。フラスコ内の液を70℃に加温した状態で、CoBF−1を溶解させ、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。次いで、AIBN、1質量部を加えた後、内温を70℃に保った状態で、6時間保持し、重合を完結させた。この後、重合反応物を室温まで冷却し、更にろ過して重合体を回収した。得られた重合体を水洗後、50℃で一晩真空乾燥することによりマクロモノマー(b1−1)を得た。マクロモノマー(b1−1)のMnは11,000、Mw/Mnは2.0、平均重合度は(110)であった。マクロモノマー(b1−1)の末端二重結合の導入率はほぼ100%であった。マクロモノマー(b1−1)は、前記の式(1)において、Rはメチル基であった。
【0125】
(合成例4)制御重合ポリマー(b’1−1)の合成
冷却管付フラスコにMMA100部、2−シアノ−2−プロピルベンゾチオネート(シグマアルドリッチ社製、純度 97%>HPLC)0.221部及び溶媒(C1)としてトルエン(和光純薬(株)製、試薬特級)100部を投入し、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。次いで、フラスコ内の液を加温して内温を70℃に保った状態で、ラジカル重合開始剤としてAIBN、0.1部(和光純薬(株)、和光特級)を加えた後、4時間保持し、次いで80℃に昇温して30分間保持し、重合を完結させた。この後、重合反応物を室温まで冷却し、大量のメタノール(和光純薬(株)、試薬特級)で再沈殿させた。再沈殿によって析出したポリマーを回収し、50℃及び50mmHg(6.67kPa)以下の条件で一晩真空乾燥して制御重合ポリマー(b’1−1)を得た。制御重合ポリマー(b’1−1)のMnは11,000、Mw/Mnは1.1であった。
【0126】
(合成例5)ポリマー(B−1)の合成
冷却管付フラスコに、マクロモノマー(b1−1)50部、その他のモノマー(b2)としてPME−400(日本油脂(株)製、商品名:ブレンマーPME−400)50部及び溶媒(C2)としてトルエン(和光純薬(株)製、試薬特級)150部を含有するモノマー組成物を投入し、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。次いで、モノマー組成物を加温して内温を70℃に保った状態で、ラジカル重合開始剤としてAIBN、0.1部(和光純薬(株)、和光特級)をモノマー組成物に加えた後、4時間保持し、次いで80℃に昇温して30分間保持し、重合を完結させた。この後、重合反応物を室温まで冷却し、大量のヘキサン(和光純薬(株)、試薬特級)で再沈殿させた。再沈殿によって析出したポリマーを回収し、50℃及び50mmHg(6.67kPa)以下の条件で一晩真空乾燥してポリマー(B−1)を得た。
【0127】
得られたポリマー(B−1)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてクロロホルムを用いた。ポリマー(B−1)のMnは14,000であり、Mw/Mnは2.1であった。
1H−NMRより求めたポリマー(B−1)中のマクロモノマー(b1−1)単位の含有量は、50%であった。評価結果を表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
表中の略号は以下の化合物を示す。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)
PME−100:(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−100(商品名))
PME−400(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−400(商品名))
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルHOMA)
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光純薬(株)製、和光一級)
MAA:メタクリル酸(三菱レイヨン(株)製、商品名:メタクリル酸)
TOL:トルエン(和光純薬(株)製、試薬特級)
THF:テトラヒドロフラン(和光純薬(株)製、試薬特級)
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製、試薬特級)
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬(株)製、和光一級)
【0130】
(合成例6、7、13及び14)ポリマー(B−2)、(B−3)、(B’−1)及び(B’−2)の合成
表1に示す組成のモノマー組成物を使用する以外は合成例5と同様の方法にてポリマー(B−2)、(B−3)、(B’−1)及び(B’−2)を得た。得られたポリマー(B−2)、(B−3)、(B’−1)及び(B’−2)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてクロロホルムを用いた。ポリマー(B−2)、(B−3)、(B’−1)及び(B’−2)の評価結果を表1に示す。
【0131】
(合成例8)ポリマー(B−4)の合成
表1に示す組成のモノマー組成物及び溶剤(C2)を使用し、ポリマーの再沈殿にヘキサンの代わりに脱イオン水を使用する以外は合成例5と同様の方法にてポリマー(B−4)を得た。得られたポリマー(B−4)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてDMFを用いた。ポリマー(B−4)の評価結果を表1に示す。
【0132】
(合成例9)ポリマー(B−5)の合成
表1に示す組成のモノマー組成物を使用する以外は合成例7と同様の方法にてポリマー(B−5)を得た。得られたポリマー(B−5)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてクロロホルムを用いた。ポリマー(B−5)の評価結果を表1に示す。
【0133】
(合成例10、11及び12)ポリマー(B−6)、(B−7)及び(B−8)の合成
表1に示す組成のモノマー組成物及び溶剤(C2)を使用し、ポリマーの再沈殿にヘキサンの代わりに脱イオン水を使用する以外は合成例5と同様の方法にてポリマー(B−6)、(B−7)及び(B−8)を得た。得られたポリマー(B−6)、(B−7)及び(B−8)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてTHFを用いた。ポリマー(B−6)、(B−7)及び(B−8)の評価結果を表1に示す。
【0134】
(合成例15)(B’−3)の合成
表1に示す組成のモノマー組成物を使用する以外は合成例4と同様の方法にてポリマー(B’−3)を得た。得られたポリマー(B’−3)の収率は、ほぼ100%であった。GPC測定における溶離液としてDMFを用いた。ポリマー(B’−3)の評価結果を表1に示す。
【0135】
[実施例1]
膜形成ポリマー(A)としてKynar761A(アルケマ社製、PVDFホモポリマー、商品名、Mw=550,000)16部、ポリマー(B)としてポリマー(B−1)12部及び溶剤(C3)としてNMP(和光純薬(株)製、和光特級)72部をガラス容器に配合し、50℃で、スターラーで10時間攪拌して製膜液を調製した。
【0136】
得られた製膜液を室温下で一日静置し、次いで、バーコーターを用いてガラス基板上に125μmの厚みになるように塗工し、塗膜積層体を得た。塗膜積層体を、脱イオン水70部及び凝固浴溶剤としてNMP30部を含む室温の凝固浴に浸漬した。
【0137】
塗膜積層体を凝固浴中に5分間放置した後、塗膜の凝固物をガラス基板から剥がし、塗膜の凝固物を80℃の熱水で5分間洗浄してNMPを取り除き、平膜形状の多孔質膜を作製した。得られた平膜形状の多孔質膜を70℃で20時間乾燥し、厚み95μmの多孔質膜試験片を得た。多孔質膜試験片の外表面の水に対する接触角は60°であり、平均孔径は60nmであった。評価結果を表2に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
表中の略号は以下の化合物を示す。
Kynar761A:PVDFホモポリマー(アルケマ社製、商品名、Mw=550,000)
Kynar301F:PVDFホモポリマー(アルケマ社製、商品名、Mw=600,000)
NMP:N−メチルピロリドン(和光純薬(株)製、和光特級)
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製、試薬特級)
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬(株)製、和光一級)
【0140】
[実施例2〜15]
製膜液及び凝固浴として表2に示すものを使用する以外は実施例1と同様にして多孔質膜試験片を得た。評価結果を表2に示す。
【0141】
[実施例16]
実施例15で得られた多孔質膜試験片を用いて透過流束(フラックス)を測定したところ、2.21×10
−9(m
3/m
2/s/Pa)であった。
また、同じ多孔質膜試験片の、0.132μmのポリスチレン微粒子の阻止率は99.9%であった。
【0142】
[比較例1〜6]
製膜液及び凝固浴として表3に示すものを使用する以外は実施例1と同様にして多孔質膜試験片を得た。評価結果を表3に示す。
【0143】
[比較例7]
実施例16と同様に、比較例6で得られた多孔質膜試験片を用いて透過流束(フラックス)を測定したところ、1.43×10
−9(m
3/m
2/s/Pa)であった。
また同じ多孔質試験片の、0.132μmのポリスチレン微粒子の阻止率は99.0%であった。
【0144】
【表3】
【0145】
表中の略号は以下の化合物を示す。
Kynar761A:PVDFホモポリマー(アルケマ社製、商品名、Mw=550,000)
Kynar301F:PVDFホモポリマー(アルケマ社製、商品名、Mw=600,000)
NMP:N−メチルピロリドン(和光純薬(株)製、和光特級)
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製、試薬特級)
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬(株)製、和光特級)
【0146】
比較例1では、マクロモノマー(b1−1)の代わりにMMAを使用したポリマー(B’−1)を使用したため、得られた多孔質膜の平均孔径が750nmと大きくなり、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0147】
比較例2では、マクロモノマー(b1−1)の代わりにMMAを使用したポリマー(B’−1)を使用したため、得られた多孔質膜の平均孔径が750nm及び純水に対する接触角が78°と大きくなり、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0148】
比較例3では、マクロモノマー(b1−1)の代わりにMMAを使用したポリマー(B’−1)を使用し、ポリマー(A)の種類を変更したが、得られた多孔質膜の平均孔径が700nm及び純水に対する接触角が76°と大きく、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0149】
比較例4では、マクロモノマー(b1−1)の代わりにMMAを使用したポリマー(B’−1)を使用し、製膜液の溶剤(C3)の種類及び凝固浴溶剤の種類を変更したが、得られた多孔質膜の平均孔径が690nm及び純水に対する接触角が76°と大きく、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0150】
比較例5では、マクロモノマー(b1−1)の代わりにMMAを使用したポリマー(B’−2)を使用したが、得られた多孔質膜の平均孔径が590nm及び純水に対する接触角が82°と大きく、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0151】
比較例6では、マクロモノマー(b1−1)の代わりに制御重合ポリマー(b’1−1)を使用したポリマー(B’−3)を使用したが、得られた多孔質膜の平均孔径が60nmと良好であったが、純水に対する接触角が83°と大きく、分画性能が良好で、高い透水性を有する膜を得るために好適な多孔質膜を得ることができなかった。
【0152】
また、比較例7では、純水に対する接触角が83°と高い多孔質試験片を使用したため、孔質試験片の0.132μmのポリスチレン微粒子の阻止率は99.0%と高かったが、多孔質試験片の透過流束(フラックス)は、1.43×10
−9(m
3/m
2/s/Pa)と実施例15と比較して低く、高い透水性を有する膜を得るための多孔質膜を得ることができなかった。