(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気体から目的とする気体(以下「目的気体」という)を分離してこれを水和物により捕集することを通じて、より詳しくは、目的気体が含まれない環境又は目的気体の濃度が所定濃度未満の環境の下で水和物を予め生成し、引き続き該水和物により混合気体から該目的気体を捕集して分離する方法及び装置そしてこの目的気体を処理する方法及び装置に関する。
【0002】
本発明において、次に掲げる用語の意味又は解釈は以下のとおりとする。この用語の意味又は解釈は、本発明の技術的範囲が均等の範囲にまで及ぶことを妨げるものではない。
【0003】
(1)「水和物」とは、包接水和物の略称である。ホストまたはホスト物質と呼ばれる分子又は化合物(即ち、ホスト分子)が構成するトンネル形、層状、網状、籠状などの構造(包接格子)内に、ゲスト物質と呼ばれる他の分子または化合物(即ち、ゲスト分子又はゲスト化合物)が入り込む又は取り込まれることで形成され、生成される物質を包接化合物という。ゲスト分子の例としては、テトラnブチルアンモニウム塩、テトラisoペンチルアンモニウム塩、トリnブチル・ペンチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩に代表される第四級アンモニウム塩、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩などがある。ホスト分子の例としては水やシクロデキストリンがある。ホスト分子が水である包接化合物が包接水和物である。本発明における「水和物」には、準包接水和物が含まれる。
【0004】
(2)水和物のゲスト分子の水溶液、より詳しくは一種又は二種以上のゲスト分子を溶質とし、水を溶媒とする水溶液を、冷却すると水和物が生成される。また、本発明において、「水和物を生成する液体」とは、冷却されて水和物を生成するゲスト化合物を含む液体をいう。水和物を生成する液体を冷却し水和物が生成されると、水和物と水和物を生成する液体の混合物となる。
【0005】
(3)「水和物のスラリ」とは、水和物がそのゲスト分子の水溶液又は水溶媒の中に分散又は懸濁してスラリ状を呈するに至ったものをいう。水和物が少量であっても(換言すれば水和物の存在比率が低くても)該水溶液又は水溶媒に分散又は懸濁しているのであれば、それは「水和物のスラリ」に該当する。
【0006】
(4)「水和物生成温度」とは、水和物のゲスト分子の水溶液を冷却したとき、その水溶液の中で水和物が生成する温度をいう。
【0007】
(5)「目的気体が含まれない環境」とは、雰囲気環境に目的気体が存在しない環境をいう。また、「目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満の環境」とは、雰囲気環境に存在する目的気体の濃度が(後工程の気体捕集工程において供給する)目的気体を捕集する対象である混合気体に含まれる目的気体の濃度未満である環境をいう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、水和物の生成には、多くの場合、水和物を生成する液体の温度が水和物生成温度以下にまで低下しても液体状態であるという過冷却現象が伴う。この過冷却現象は、過冷却が解除されると急激に水和物が生成されるため、混合気体から目的気体を分離してこれを捕集する際、水和物を生成する液体と目的気体とを収容する容器や配管の内壁面、その他望ましくない部位に水和物の付着を招来し、冷却効率を低下させ水和物の生成に支障を生じさせたり、水和物を生成する液体の流送に支障を生じさせたり、閉塞を生じさせるなど、水和物の生成、搬送その他の処理に不具合(以下、まとめて「閉塞の問題」という)を生じさせる。それ故、目的気体を水和物により捕集することを通じて気体を分離したり、その他の処理に供したりする際には、過冷却現象を極力防止又は抑制する必要がある。過冷却現象の防止又は抑制は、目的気体の水和物による捕集を長時間又は連続的に行う際に特に必要になる。
【0011】
本発明は、上記の必要性に鑑みて成されたものであり、水和物により混合気体から目的気体を捕集して分離することを通じて気体を処理するに当たり、過冷却現象を防止又は抑制することができる技術、特に気体分離方法、気体処理方法ならびにそれらの装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上述の課題は、気体分離方法、気体処理方法そして気体分離装置、気体処理装置に関し、次のように解決される。
【0013】
<気体分離方法>
本発明の第1の形態に係る気体分離方法は、水和物を用いて混合気体から目的気体を分離する気体分離方法であって、前記目的気体が含まれない環境の下で水和物を生成する水和物生成工程と、該水和物生成工程で生成された水和物が存在する環境に混合気体を供給して前記水和物に前記目的気体を捕集させる気体捕集工程と、を有することを特徴としている。
【0014】
本発明の第2の形態に係る気体分離方法にあっては、水和物を用いて混合気体から目的気体を分離する気体分離方法であって、前記目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満の環境の下で水和物を生成する水和物生成工程と、該水和物生成工程で生成された水和物が存在する環境に前記混合気体を供給して前記水和物に前記目的気体を捕集させる気体捕集工程と、を有することを特徴としている。
【0015】
本発明の気体分離方法では、第3の形態として、第1そして第2の形態において、気体捕集工程における水和物が存在する環境は、水和物生成工程で生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境とすることができる。
【0016】
本発明では、第4の形態として、第1ないし第3の形態において、気体捕集工程で目的気体を捕集した水和物と、水和物を生成する液体を後工程又は一時貯留のために搬送する水和物搬送工程をさらに備えることができる。
【0017】
本発明では、第5の形態として、第1ないし第4の形態において、気体捕集工程で目的気体を捕集した水和物を含む水和物を生成する液体を濃縮する濃縮工程をさらに備えるようにすることができる。
【0018】
本発明では、さらに第6の形態として、第1又は第2の形態において、気体捕集工程における水和物が存在する環境は、水和物生成工程で生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境であり、気体捕集工程で目的気体を捕集した水和物を含む水和物を生成する液体を濃縮する濃縮工程と、濃縮工程で発生する水和物を生成する液体を、前記気体捕集工程における前記水和物が存在する環境に供給する第1の液体供給工程と、を有するようにすることができる。
【0019】
<気体処理方法>
本発明の第7の形態としては、気体処理方法に関し、混合気体から目的気体を分離しこれを水和物に捕集させた後、該目的気体を前記水和物から放出させる気体処理方法であって、第1の形態ないし第6の形態のうちの気体分離方法を実行する気体分離工程と、該気体分離工程で前記目的気体を捕集した前記水和物から、目的気体を放出させる気体放出工程とを有することを特徴としている。
【0020】
さらに第8の形態では、混合気体から目的気体を分離しこれを水和物に捕集させた後、該目的気体を前記水和物から放出させる気体処理方法であって、第3の形態の気体分離方法を実行する気体分離工程と、該気体分離工程において前記目的気体を捕集した前記水和物から、目的気体を放出させる気体放出工程と、該気体放出工程において発生する前記水和物を生成する液体を、前記水和物生成工程における目的気体が含まれない環境又は目的気体の濃度が所定濃度未満の環境に供給する第2の液体供給工程とを有することを特徴としている。
【0021】
<気体分離装置>
本発明の気体分離装置は、第9の形態として、水和物を用いて混合気体から目的気体を分離する気体分離装置であって、前記目的気体が含まれない環境の下で水和物を生成する水和物生成装置と、該水和物生成装置で生成された水和物が存在する環境に混合気体を供給して前記水和物に前記目的気体を捕集させる気体捕集装置と、を有することを特徴としている。
【0022】
本発明の第10の形態に係る気体分離装置にあっては、水和物を用いて混合気体から目的気体を分離する気体分離装置であって、前記目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満の環境の下で水和物を生成する水和物生成装置と、該水和物生成装置で生成された水和物が存在する環境に前記混合気体を供給して前記水和物に前記目的気体を捕集させる気体捕集装置と、を有することを特徴としている。
【0023】
本発明の気体分離装置では、第11の形態として、第9そして第10の形態において、気体捕集装置における水和物が存在する環境は、水和物生成装置で生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境であるとすることができる。
【0024】
本発明の気体分離装置では、第12の形態として、第9ないし第11の形態において、気体捕集装置で目的気体を捕集した水和物と、水和物を生成する液体を後段の装置又は一時貯留装置に搬送する水和物搬送装置をさらに備えることができる。
【0025】
本発明の気体分離装置では、第13の形態として、第9ないし第12の形態において、気体捕集装置で目的気体を捕集した水和物を含む水和物を生成する液体を濃縮する濃縮装置をさらに備えるようにすることができる。
【0026】
本発明の気体分離装置では、さらに第14の形態として、第9又は第10の形態において、気体捕集装置における水和物が存在する環境は、水和物生成装置で生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境であり、気体捕集装置で目的気体を捕集した水和物を含む水和物を生成する液体を濃縮する濃縮装置と、濃縮装置で発生する水和物を生成する液体を、前記気体捕集装置における前記水和物が存在する環境に供給する第1の液体供給装置と、を有するようにすることができる。
【0027】
<気体処理装置>
本発明の気体処理装置は、第15の形態として、混合気体から目的気体を分離しこれを水和物に捕集させた後、該目的気体を前記水和物から放出させる気体処理装置であって、第9ないし第14のうちの一つの形態の気体分離装置と、該気体分離装置で前記目的気体を捕集した前記水和物から、目的気体を放出させる気体放出装置とを有することを特徴としている。
【0028】
本発明の気体処理装置は、さらに第16の形態として、混合気体から目的気体を分離しこれを水和物に捕集させた後、該目的気体を前記水和物から放出させる気体処理装置であって、第11の形態の気体分離装置と、該気体分離装置において前記目的気体を捕集した前記水和物から、目的気体を放出させる気体放出装置と、該気体放出装置において発生する前記水和物を生成する液体を、前記水和物生成装置における目的気体が含まれない環境又は目的気体の濃度が所定濃度未満の環境に供給する第2の液体供給装置とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明者らは、目的気体が含まれない環境又は目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満の環境の下で生成した水和物であっても、当該水和物に目的気体を捕集させることができ、しかも当該水和物により、水和物を生成する液体と目的気体との共存下又は目的気体の濃度が混合気体中の目的気体の濃度の環境の下で水和物を生成する場合に匹敵するほどの量の目的気体を捕集することができるという研究成果を得た。本発明は、この研究成果を基礎にしている。
【0030】
まず、目的気体を捕集する際に水和物が存在しているということは、既に過冷却現象が終了している状態にあること、ひいては過冷却現象に起因して望ましくない場所に水和物が付着する確率が低いことを意味している。したがって、本発明の方法に関する第1及び第2の形態そして装置に関する第9及び第10の形態によれば、水和物を生成する液体と目的気体との共存下又は目的気体の濃度が混合気体中の目的気体の濃度の環境の下で水和物を生成させる場合に匹敵するほどの量の該目的気体を捕集することができ、且つ、水和物の生成の際に問題になる過冷却現象の問題、したがって閉塞の問題の発生を防止又は抑制することができる。
【0031】
なお、水和物生成工程において生成した水和物が存在する環境の下で目的気体を存在させる方法又は混合気体中の目的気体の濃度で存在させる方法には制限はなく、たとえば、該水和物が存在する環境に該目的気体を供給する、該目的気体が存在する環境に、該水和物を供給するなど該水和物と該目的気体とが共存する環境を構築することができる方法であれば足りる。
【0032】
水和物を生成する液体(つまりゲスト化合物を含む水溶液)を冷却することにより水和物を生成させる際、該水和物が予め存在していると、その水和物が種結晶として機能して水和物の生成速度が高まる。このことは、水和物により過冷却現象がより防止又は抑制されることを意味している。したがって、本発明の方法に関する第3の形態そして装置に関する第11の形態によれば、水和物生成工程において生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境下で目的気体を存在させることにより、該目的気体を該水和物に捕集させる気体捕集工程において、水和物を生成する液体を冷却してさらに水和物を生成する場合に、水和物が予め存在しているので、その水和物が種結晶として機能して過冷却現象、したがって閉塞の問題の発生をより防止又は抑制することが、該目的気体の捕集機能を損なうことなくできる。
【0033】
また、水和物を生成する液体を冷却することにより水和物を生成する場合、その冷却に要するエネルギーの全てが水和物の生成に用いられるわけではなく、水和物の生成に至らない液体をも冷却しており、冷却対象の容量が大きくなる分、水和物の生成に役立たないエネルギーを冷却のために投入しなければならなくなるので、経済的とはいえない。これに対して、本発明の方法に関する第3の形態そして装置に関する第11の形態によれば、水和物を予め生成させておき、これと水和物を生成する液体とを共存させて冷却するので、冷却対象の容量が小さくなり、水和物の生成に役立たないエネルギーの投入を抑えることができる。
【0034】
本発明の方法に関する第4の形態そして装置に関する第12の形態によれば、過冷却現象、したがって閉塞の問題の発生を防止又は抑制することができるため、目的気体を捕集した水和物の搬送を円滑に又は効率的に行うことができる。このことは、目的気体の水和物による捕集を長時間にわたり又は連続的に行うために有益である。
【0035】
なお、目的気体を捕集した水和物は、水和物を生成する液体の中に懸濁又は分散したスラリの状態で搬送される。
【0036】
本発明の方法に関する第5の形態そして装置に関する第13の形態によれば、目的気体を捕集した水和物を含む前記水和物を生成する液体を濃縮するので、水和物を生成する液体に含まれる水和物の濃度が高められているため、後に該水和物を加熱して該目的気体を放出させる際、その放出に要するエネルギーの投入量を抑えることができる。
【0037】
本発明の方法に関する第6の形態そして装置に関する第14の形態によれば、予め生成させた水和物と水和物を生成する液体とを共存させて冷却するので、冷却対象の容量が小さくなり、水和物の生成に役立たないエネルギーの投入を抑えることができる。また、目的気体を捕集した水和物を含む前記水和物を生成する液体を濃縮させるので、後に該水和物を加熱して該目的気体を放出させる際、その放出に要するエネルギーの投入を抑えることができる。更に、濃縮工程において発生する水和物を生成する液体を、予め生成させた水和物と水和物を生成する液体とが共存する環境に供給するので、エネルギーや原材料の追加投入を抑えることができ、該液体中に少量ながら含まれる水和物が種結晶として機能させて水和物の生成速度を高める、或いは過冷却現象をより防止又は抑制することができる。このような濃縮工程において発生する水和物を生成する液体の供給は、目的気体の水和物による捕集を長時間にわたり又は連続的に行うために有益である。
【0038】
本発明の方法に関する第7の形態そして装置に関する第15の形態によれば、上記の効果を有する気体の分離と、引き続く放出とを可能にする気体の処理を実現することができる。
【0039】
本発明の方法に関する第8の形態そして装置に関する第16の形態によれば、上記の効果を有する気体の分離と、引き続く放出とを可能にする気体の処理を実現することができるとともに、気体放出工程において発生する水和物を生成する液体を、水和物生成工程における目的気体が含まれない又は所定濃度未満の環境に供給して水和物の生成に供するので、原材料の追加投入を抑えることができる。このような供給は、目的気体の処理、特に該気体の水和物による捕集を長時間にわたり又は連続的に行うために有益である。
【0040】
総じて、本発明によれば、目的気体を水和物により捕集することを通じて気体を処理するに当たり、過冷却現象を防止又は抑制することができる技術、特に気体分離方法、気体処理方法ならびにそれらの装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態の説明に先立ち、水和物スラリの流通性等に関し実験を行ったので、これに関し説明する。
【0043】
[水和物の生成が完了した場合と完了しない場合との水和物スラリの流通性の比較]
水和物を生成するゲスト化合物としての臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)の水溶液を冷却し、水和物の生成が完了してから水和物スラリを流通させる場合と、水和物の生成が開始してすぐに、すなわち水和物の生成が完了する前に水和物スラリを流通させる場合との水和物スラリの流通性を比較した。
【0044】
<実験1>
内容積1.5m
3の耐圧容器内に2wt%TiPAB水溶液を1m
3送入し、窒素雰囲気、ゲージ圧力200kPaの下、攪拌しながら冷却した。容器内温度が温度18℃まで下降した後、容器内温度が上昇し始めた。さらに冷却を続け容器内温度が18℃に復帰し、水和物の生成が完了したと判断された時点で、水和物を含む水溶液(水和物スラリ)をスラリポンプを用いて内径5mm、長さ2000mmのステンレス製チューブに流量15L/minで流通させる流通試験を行った。チューブは水槽に浸漬し、水和物生成温度と同じ18℃に維持した。その結果、流通開始時に60kPaであったチューブの入口と出口の差圧は60分経過後も変化が無かった。
【0045】
<実験2>
内容積1.5m
3の耐圧容器内に2wt%TiPAB水溶液を1m
3送入し、窒素雰囲気、ゲージ圧力200kPaの下、攪拌しながら冷却した。容器内温度が温度18℃まで下降した後、容器内温度が上昇し始めた時点、すなわち、水和物の生成が開始してすぐに、実験1と同様の流通試験を行った。その結果、流通開始時に20kPaであったチューブの入口と出口の差圧は15分経過後上昇を始めた。30分後には300kPaを超え、送液不能となった。
【0046】
実験1および実験2における差圧の経時変化を
図2に示す。
図2において、実線が実験1を、破線が実験2を示す。これらを比較すると、実験1のように過冷却状態を脱し水和物が十分に生成した状態では、水和物を含む水溶液を保冷された配管で移送する際に管壁に水和物結晶が析出し積層することが殆どなく、差圧の上昇はない。しかし、実験2のように水和物の生成が開始してすぐに、水和物が十分に生成していない状態で移送すると、保冷された配管の壁面で水和物結晶の析出、成長が起こり、差圧が上昇し配管の閉塞を引き起こす。このように過冷却状態で水和物を生成する水溶液を送液した場合は保冷された配管内で急激な過冷却の解除が起こり、配管の壁面で水和物結晶の析出、成長が起こり、差圧が急上昇する。あるいは過冷却解除後であっても、水和物が十分に生成していない状態で移送すると、同様の現象が発生する。
【0047】
このように配管の差圧上昇や閉塞などの問題を回避するためには、水和物の生成が完了した状態で移送することが望ましい。
【0048】
[実施形態]
以下、図面を用いて、本発明に係る気体分離と放出を行う気体処理装置、気体処理方法について、その形態の一例を説明する。
【0049】
図1に示される本実施形態の気体処理装置は、気体分離装置Iに気体放出装置IIを接続して構成されている。
【0050】
気体分離装置Iは、水和物を用いて原料気体たる混合気体から目的気体を分離するために、該目的気体が含まれない環境、もしくは目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満の環境の下で水和物を生成する水和物生成装置1と、水和物生成装置1で生成された水和物が存在する環境に目的気体を含む混合気体を供給して水和物に目的気体を捕集させる気体捕集装置2と、目的気体を捕集した水和物を含む、水和液を生成する液体を濃縮する濃縮装置3を、ポンプA,Bを経て順に接続して構成されている。これらの各装置の詳細については、その工程と共に後述する。
【0051】
上記気体捕集装置2は、目的気体を含む混合気体が送入されるようになっていると共に、さらには、目的気体を捕集した後の処理気体を排出するようになっている。排出された処理気体の一部は、本実施形態の場合、加圧気体として水和物生成装置1へ供給されるようになっていてもよい。
【0052】
上記濃縮装置3は、濃縮した濃縮液をポンプCを経て気体放出装置IIへ送るように該気体放出装置IIに接続されていると共に、濃縮液抽出後の水和液を生成する液体を第一液体供給ライン11を経て熱交換器11Aで冷却後に気体捕集装置2へ帰還させるように該気体捕集装置2の入口側に接続されている。
【0053】
上記気体放出装置IIは、目的気体の放出後の濃縮液をポンプDにより第二液体供給ライン12をへて熱交換器12Aで冷却した後水和物生成装置1へ帰還させるように、該水和物生成装置1の入口側に接続されている。
【0054】
各装置の説明に先立ち、水和物を生成する液体そして目的気体について説明する。
【0055】
<水和物を生成する液体>
水和物を生成するゲスト化合物としては第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級スルホニウム塩などを用いることができる。第四級アンモニウム塩としては臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)、臭化トリnブチルペンチルアンモニウム(TBPAB)、フッ化テトラnブチルアンモニウム(TBAF)、塩化テトラnブチルアンモニウム(TBACl)、ヨウ化テトラnブチルアンモニウム(TBAI)などのテトラアルキルアンモニウム塩などが代表的な例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
水和物を生成するゲスト化合物を含む水溶液としては、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)の水溶液または臭化テトラisoペンチルアンモニウムを含むニ種以上の第四級アンモニウム塩の水溶液が好ましい。臭化テトラisoペンチルアンモニウムの調和融点は30℃であり、水溶液の濃度を調整して水和物生成温度を0〜30℃の範囲に調整することが容易であるからである。
【0057】
水和物の水和物生成温度が0〜30℃の範囲に属する場合には、その程度(たかだか0〜30℃前後)の温度調整により、気体の捕集と放出を制御できるので、エネルギー消費が少なく、経済的な気体分離を実現することができる。例えば、外気温が水和物生成温度より高い場合は、水和物を生成する液体を冷却して水和物を生成し、さらに水和物に気体を捕集させ、外気の熱エネルギーを利用して水和物の少なくとも一部を融解させ、これにより気体を放出させることができる。また、外気温が水和物生成温度より低い場合は、外気の熱エネルギーを利用して水和物を生成する液体を冷却させ水和物を生成し、これにより水和物の少なくとも一部に気体を捕集させ、加熱により水和物を融解させ、気体を放出させることができる。いずれの場合も、外気の熱エネルギーを利用するため、エネルギー消費が相対的に少なくなり、経済的な気体分離や気体放出が可能になる。
【0058】
水和物を生成するゲスト化合物を含む水溶液として、臭化テトラisoペンチルアンモニウムを含むニ種以上の第四級アンモニウム塩の水溶液を用いる場合に、臭化テトラisoペンチルアンモニウム以外の第四級アンモニウム塩としては、臭化テトラnブチルアンモニウムであることが好ましい。臭化テトラnブチルアンモニウムは比較的安価で入手し易いので、臭化テトラisoペンチルアンモニウムと臭化テトラnブチルアンモニウムとを適切に配合することにより、水和物生成温度を0〜30℃の範囲に調整することが容易であるとともに経済的に優れた気体を捕集し放出する方法を構成することができる。
【0059】
水和物を生成する液体の濃度、すなわち水溶液のゲスト化合物濃度は高いほど水和物スラリ中の水和物濃度が高く、水和物濃度が高いほど目的気体を捕集する量が多くなるので、水溶液のゲスト化合物濃度が高いことが好ましい。
【0060】
ゲスト化合物が臭化テトラisoペンチルアンモニウムの場合、水溶液の濃度は0.1〜35重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましい。下限値より小さいと気体捕集装置として水溶液量を多く要し過大な容量の容器が必要となり好ましくなく、上限値より大きいと水和物スラリ中の水和物濃度が高すぎ粘度が高くなり、水和物及び水和物を生成する液体と、目的気体との接触効率が低下するため好ましくない。
【0061】
<目的気体>
混合気体から捕集する目的気体としては、例えば、二酸化炭素、酸素、硫化水素、二酸化硫黄などが挙げられる。
【0062】
混合気体から目的気体を捕集して分離することの例として、メタンと二酸化炭素を含む混合ガスから目的気体として二酸化炭素を分離しメタン含有率の高い燃料ガスを得ることや、焼却排ガスなどの混合ガスから二酸化炭素を分離し二酸化炭素濃縮ガスを得ること、空気から酸素を分離し酸素富化空気を得ることなどが挙げられる。また、化学原料ガス中に含まれる硫化水素を触媒の劣化防止を目的に除去すること、燃焼排ガス中の二酸化硫黄を環境保全の観点から分離することも好適な例である。
【0063】
<水和物生成装置:水和物生成工程>
水和物生成装置1は、冷却機能を備え、生成槽内に収容した水和物を生成するゲスト化合物を含む液体を冷却して水和物を生成し、その水和物が水和物を生成する液体に分散又は懸濁してなる水和物スラリを生成するようになっており、冷却機能としては冷媒を供給して冷却する熱交換器を備えることが好ましい。
【0064】
この水和物生成装置1における水和物生成工程において、水和物を生成する液体を冷却する冷却温度は0℃より高い温度とすることが好ましい。つまり生成する水和物スラリの温度が0℃より高い温度になるようにする。冷却温度を0℃より高い温度で冷却するようにすれば、冷媒を供給するために用いる装置として、冷凍機または外気と冷水とで熱交換させるクーリングタワーを用いることができ、容易に冷熱を得て冷媒を供給することができる。特に水和物を生成するゲスト化合物としてTiPABを用いた場合は、0〜30℃の範囲、例えば15℃以上で水和物を生成できるので、外気の熱エネルギーを利用することが可能であり、より経済的な手法を選択することができる。
【0065】
水和物生成装置1は、水和物を生成する液体を収容した生成槽などに攪拌機構を設ける構成が好ましい。水和物生成装置1においては、冷却によって水和物が生成され、生成された水和物が攪拌されることにより、水和物粒子が水和物を生成する液体に分散又は懸濁した水和物スラリが生成される。また、水和物を生成する液体が攪拌されながら冷却されることにより過冷却が速やかに解除されるので、水和物を効率よく生成できる。
【0066】
はじめに水和物を生成する液体は運転開始用ポンプ(図示せず)を介して水和物生成装置に送られ、水和物生成温度以下まで冷却される。
【0067】
水和物生成工程は、目的気体を含まない環境下、又は目的気体の濃度が前記混合気体中の目的気体の濃度未満である環境下にある。
【0068】
水和物生成を促進するには、水和物を生成する液体が加圧された状態が望ましい(ゲージ圧として100kPa以上で1000kPa未満であることが好ましい)。100kPaより低いと加圧することによる水和物生成を促進する効果が小さく、1000kPaより高いと水和物生成装置の耐圧構造が大掛かりになり設備費が嵩み、好ましくない。水和物生成工程において加圧に用いる気体としては、例えば、既述したように、目的気体を捕集した後の処理気体の一部を使うことも可能である。
【0069】
混合気体から目的気体を分離した残部のガス成分を例えば燃料とする精製ガスを得るために、目的気体の捕集を行う場合には、水和物生成工程で水和物に包接された気体は目的気体の捕集工程で目的気体に置換されて精製ガスに合流するため、水和物生成工程における雰囲気ガスとしては精製ガスを用いることが好ましい。
【0070】
水和物生成工程において水和物生成装置の水和物を生成する液体を収容する生成槽内を攪拌したり、あるいは該水和物と同種または異種の化合物の結晶の添加などを行う過冷却解除手段を有していると、過冷却解除が促進され、水和物生成を円滑に進めることができる。水和物生成槽内は過冷却解除により水和物生成が始まると凝固熱発現のため温度が上昇し、水和物生成完了の後は上昇した槽内温度は低下する。この温度変化の経緯を監視し水和物生成の終了を検知する。水和物が完全に生成した後、水和物と水和物を生成する液体の混合物(水和物スラリ)は次工程に移送されるが、移送用配管内では新たに水和物析出が生じないため、閉塞などの問題を起こす可能性が低い。
【0071】
<気体捕集装置:気体捕集工程>
気体捕集装置2は、水和物生成装置1で生成された水和物が存在する環境に目的気体を含む混合気体を供給して水和物に目的気体を捕集させ、目的気体を捕集した水和物が含まれた水和物を生成する液体を排出する。水和物生成装置1で生成した水和物と水和物を生成する液体の混合物(水和物スラリ)は、スラリポンプAで気体捕集装置2に移送されて、該気体捕集装置2で水和物と目的気体を含む原料気体たる混合気体と接触する。水和物に混合気体から目的気体が選択的に取り込まれ、目的気体が捕集される。
【0072】
気体捕集装置2は、水和物生成装置1から水和物スラリの供給を受け、この水和物スラリに混合気体を供給してこれらを混合する。気体捕集装置2は、水和物が目的気体を捕集する際に、水和物の存在を維持するように保冷機構又は冷却機構を備えることが好ましい。
【0073】
また、気体捕集装置2においても水和液を生成する液体を冷却し水和物を生成するようにしてもよい。水和物生成装置1において生成した水和物と、水和物を生成する液体とが共存する環境下である気体捕集装置2で目的気体を存在させることにより、目的気体を水和物に捕集させる気体捕集工程において、水和物を生成する液体を冷却してさらに水和物を生成する場合に、前記環境では水和物が予め存在しているので、その水和物が種結晶として機能して過冷却現象、したがって閉塞の問題の発生をより防止又は抑制することが、目的気体の捕集機能を損なうことなくできる。
【0074】
水和物スラリへの混合気体の供給は相対的なものであり、水和物スラリに向けて混合気体を放出する場合(前者)は勿論、混合気体に向けて水和物スラリを放出する場合(後者)もこれに該当する。
【0075】
前者の典型例は、水和物スラリが存在する領域への該領域外からの混合気体のバブリングであり、その場合、気泡粒径は小さいほど好ましい。これを実現する気体捕集装置の一つの態様としては、気体捕集装置が水和物スラリを充填したタンクからなり混合気体がガス分散板を通して微細な気泡として水和物スラリ中に分散されるようなもの(気泡塔)がある。この場合、気液接触面積が大きく取れるように気泡径は小さいほうが好ましい。また、攪拌を行うなどの方法で気泡を微細化することも好ましい。また、水和物と水和物を生成する液体の混合物と混合気体を反応管路に供給し、反応管路を流通させる間に混合させ接触させてもよい。
【0076】
後者すなわち混合気体に向けて水和物スラリを放出する場合の典型例は、混合気体が存在する領域への該領域外からの水和物スラリの噴霧であり、その場合水和物スラリ液滴径は小さいほど好ましい。これを実現する気体捕集装置の態様として、混合気体を充填した容器内に水和物スラリをスプレーノズルにより噴霧して混合気体と接触させ水和物スラリの液体又は水に混合気体を溶解させるようなものがある。
【0077】
前者、後者のいずれの場合においても、水和物スラリへの混合気体の供給は、混合気体と水和物スラリとの接触面積をより高める手法により行われることが好ましい。
【0078】
気体捕集工程では混合気体を加圧して導入することにより気泡塔では気泡が微細化され、液体への溶解速度が高くなると同時に、目的気体の溶解度も増加するため、捕集効率が向上する。気体捕集工程における水和物スラリと混合気体の圧力は加圧されていることが好ましく、ゲージ圧力が100kPa以上で1000kPa未満の圧力が好ましい。100kPaより低いと加圧することによる水和物が目的気体捕集を促進する効果が小さく、1000kPaより高いと気体捕集装置2の耐圧構造が大掛かりになり設備費が嵩み、好ましくない。
【0079】
後述の濃縮工程で分離した水和物を生成する液体を、水和物生成装置1で生成した水和物と水和物を生成する液体の混合物(水和物スラリ)とともに、気体捕集装置2に供給し混合することにより(第1の液体供給工程)、水和物生成装置1から供給された水和物スラリは希釈され、水和物濃度が低下するため水和物スラリの粘度が低下し、原料気体の水和物を生成する液体への溶解、拡散が促進され、水和物及び水和物を生成する液体と、目的気体との接触効率を高くすることができる。
【0080】
混合気体は気体捕集装置2を単に通過させるだけでも良いが、循環ラインを設けて気体捕集装置2から排出した混合気体を再度供給することにより、目的気体の捕集効率を高めることができる。目的気体を捕集した後の処理気体は気体捕集装置2を出た後、回収される。
【0081】
水和物生成装置1と気体捕集装置2は共通する一つの装置で構成し、水和物を生成するゲスト化合物を含む液体の冷却と、混合気体の導入とを切り換えて行うようにして交互に両装置として機能させることとしてもよい。
【0082】
<濃縮装置:濃縮工程>
気体捕集装置2における気体捕集工程で目的気体を捕集して取り込んだ水和物、および水和物を生成する液体との混合物である水和物スラリはスラリポンプBを介して濃縮装置3に送られる。濃縮装置3では、気体を捕集した水和物と水和物を生成する液体の混合物が濃縮され、水和物の濃度が高められた水和物スラリが濃縮液として分離される。該濃縮装置3における水和物濃縮工程で分離された濃縮液は、ポンプCを介し気体放出装置IIに移送される。濃縮装置3における濃縮工程での温度、および圧力は気体捕集工程と同様であり、水和物は目的気体を捕集した状態を保っている。濃縮の方法としては各種の固液分離法が適用可能である。例えば水和物と液体の比重差を利用した沈降分離法、あるいは所定の目開きを持ったメッシュフィルターなどの濾過装置を使ったろ過分離法などが挙げられる。水和物濃縮工程で濃縮液から分離する液体の量は同工程に導入された液体の20%〜80%が好ましい。20%より少ないと水和物の濃縮が不十分で、濃縮液の液体分の割合が高く、次に述べる気体放出工程において水和物を融解して目的気体を放出させるために必要な熱量が大きくなる(加熱負荷を大幅に削減できない)。一方、80%より多い場合は、水和物と水和物を生成する液体からなる水和物スラリの濃縮液の濃度が高くなり、流動性が低下し移送が難しくなる。ただし、濃縮工程と気体放出工程を同じ容器で行う場合はこの限りではない。
【0083】
本実施形態では、濃縮工程で濃縮液から分離された水和物を生成する液体はポンプ(図示しない)を介し、第1の液体供給ライン11(第1の液体供給工程)を経て熱交換器11Aで所定の温度に冷却調整された後、気体捕集装置2に移送される。
【0084】
<気体放出装置:気体放出工程>
濃縮装置3における濃縮工程で濃縮された水和物スラリ(濃縮液)はポンプCを介し、必要に応じて熱交換器(図示しない)で所定の温度に予熱調整された後、気体放出装置IIに送られる。該気体放出装置IIにおける気体放出工程で水和物を融解して目的気体を放出させる。気体放出の手段としては加熱法、および/または減圧法が使える。気体放出装置IIは、加熱機能を備えており、必要に応じて熱交換装置で予熱調整された水和物スラリを導入し、これをさらに加熱又は減圧して、水和物を融解させ水和物を生成する液体を生成し、水和物に捕集されていた目的気体を放出させる。加熱機能としては熱媒を供給して加熱する熱交換器を備えることが好ましい。
【0085】
気体放出装置IIでは、目的気体と水和物を生成する液体からなる混合流体は分離器(図示しない)に導入され、水和物を生成する液体の濃縮液と目的気体とに分離され、水和物を生成する液体の濃縮液は第2の液体供給ラインに送られる。分離された目的気体は排出され、適宜貯槽等に貯留されるか、又は次の処理プロセスに導入される。分離器としては、サイクロンセパレータなどを用いるが、衝突分離式ミストセパレータを併せて用いることが好ましい。
【0086】
目的気体を放出した後の水和物を生成する液体の濃縮液は、第2の液体供給ライン12(第2の液体供給工程)を経て熱交換器12Aで所定の温度に冷却調整され、ポンプDを介して水和物生成装置1に戻され、再使用される。気体を放出した後の水和物を生成する液体の濃縮液は、濃縮工程において水和物を生成する液体の一部を分離し濃縮液となっているため、水和物生成装置1へ戻されると、水和物生成工程では運転開始時よりもゲスト化合物の濃度が高くなっており、高い温度で水和物が生成する(結晶が析出する)こととなり、すなわち、冷却負荷が低減する効果がある。
【0087】
本実施形態装置において、10wt%TiPAB水溶液を使って二酸化炭素/窒素混合ガスから二酸化炭素を捕集する場合の運転条件を例示すると、次のごとくである。
(1)水和物生成工程 水和物生成装置
ゲージ圧力100kPa、TiPAB濃度10wt%水溶液の水和物生成温度である28℃以下、例えば25℃に冷却
(2)気体捕集工程、気体捕集装置
ゲージ圧力100kPa、水和物生成温度である28℃以下、例えば25℃に冷却
(3)気体放出工程、気体放出装置
ゲージ圧力100kPaの加圧状態から常圧まで減圧し温度40℃まで加熱する
【実施例】
【0088】
<実施例1>
<準備>
攪拌機、温度計、圧力計、ガス導入ライン、およびガス排出ラインを具備した内容積500mLの耐圧容器に濃度5wt%の臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)水溶液を300mL送入し、耐圧容器をウォーターバスに入れ冷却及び加熱できるようにした。
【0089】
<ガス置換>
TiPAB水和物が存在しない状態で試験を行うために、後述の冷却開始までの間、TiPAB水溶液を40℃に保持した。はじめに目的気体の二酸化炭素が含まれない環境とするために、窒素を用いて系内を十分ガス置換した(耐圧容器内のガス置換)後、ゲージ圧力300kPaまで昇圧した。
【0090】
<水和物生成>
次に、前記の置換と同様に目的気体の二酸化炭素が含まれない環境で水和物を生成させるべく、窒素を毎分200mLの流量で耐圧容器内に導入し、液相を攪拌しながら冷却を開始した。温度が10℃程度まで低下したところで水和物の生成が始まり、圧力容器内の液温が上昇した。その後、再び液温が低下し水和物生成が完了したことを確認して窒素の導入を停止した。
【0091】
<気体捕集>
次いで耐圧容器の内圧をゲージ圧力300kPaに維持したまま、二酸化炭素/窒素の体積比が25/75の混合ガスを毎分200mLで耐圧容器に導入し、水和物に二酸化炭素を捕集させ、経時的にガス排出ラインから採取したガスを分析した。
【0092】
排出ラインガスの組成と導入している混合ガスの組成が等しくなったこと、すなわち水和物による二酸化炭素の捕集が完了したことを確認して、混合ガスの導入を停止した。
【0093】
ガスの分析にはパックドカラムを装着した島津製作所製ガスクロマトグラフGC−8Aを使用した。
【0094】
二酸化炭素捕集量を算出するため、ガス導入ライン、排出ラインを閉じた状態で耐圧容器を40℃に加熱し、水和物を融解し二酸化炭素を放出させ、発生ガス量を流量計にて、また発生ガス組成を前述のガスクロマトグラフにより求めた。
【0095】
混合ガス導入停止時の耐圧容器内の気相には混合ガスが存在していたことから、下式により二酸化炭素捕集量(水和物に捕集された二酸化炭素包接量+水溶液に溶解した二酸化炭素溶解量)を算出した。
【0096】
二酸化炭素捕集量=40℃で耐圧容器内の気相に存在する二酸化炭素量
−混合ガス導入停止時に耐圧容器内の気相に存在していた二酸化炭素量
その結果、窒素雰囲気下で生成した水和物に、二酸化炭素を25体積%含む混合気体を接触させた場合の二酸化炭素捕集量は、TiPAB質量基準で1.2mol/kg-TiPABであった。
【0097】
<実施例2〜4>
窒素雰囲気で生成した水和物に接触させる混合ガスの組成を、二酸化炭素/窒素の体積比を45/55、64/36、81/19に変えたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2〜4を行い、二酸化炭素捕集量を求めた。
【0098】
[比較例]
<比較例1>
耐圧容器内のガス置換、昇圧、および水和物生成時から二酸化炭素/窒素の体積比が25/75の混合ガスを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1を行い、二酸化炭素捕集量を求めた。
【0099】
<比較例2〜4>
水和物に接触させる混合ガスの組成を、二酸化炭素/窒素の体積比を45/55、64/36、81/19に変えたこと以外は比較例1と同様の方法で、比較例2〜4を行い、二酸化炭素捕集量を求めた。
実施例1〜4、比較例1〜4における二酸化炭素捕集量を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、窒素雰囲気で水和物を生成させ、その後に水和物と二酸化炭素を接触させた場合(実施例1〜4)と、水和物生成時から二酸化炭素を存在させた場合(比較例1〜4)との間に、二酸化炭素の捕集量の差は殆どない。二酸化炭素が存在する環境では当然、水和物生成時に二酸化炭素は取り込まれるが、二酸化炭素が存在しない環境で生成した水和物でも同様の温度、圧力条件の下では、水和物の生成が終了した後から二酸化炭素を接触させてもほぼ同量取り込ませることが可能であることを確認した。
【0102】
実施例1〜4では、水和物の生成が完了してから二酸化炭素を捕集するため、水和物生成時の過冷却解除に伴う問題、閉塞の問題を防止、抑制して気体を捕集することができる。