(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素数1〜4のアルキルからなるN−アルキルカルバゾールを溶媒に溶かして得られる溶液に、酸化剤を添加することでN−アルキルカルバゾールを重合させる重合工程、を含むポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法であって、
前記酸化剤の添加は、酸化剤溶液として滴下して行うものであり、酸化剤溶液を10秒以上かけて滴下する、前記製造方法。
前記重合工程で用いる溶媒がメチルアルコール、アセトニトリルまたはこれらの混合溶媒であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
前記重合工程で添加する酸化剤が過塩素酸鉄(III)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
前記N−アルキルカルバゾールがN−メチルカルバゾール又はN−エチルカルバゾールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子は、レドックス特性(酸化還元特性)やドーピング・脱ドーピング特性などの特性を有していることから、機能性材料として様々な分野での応用が期待される材料である。これらの材料をナノサイズ化することにより、その導電性を活かして電界放出ディスプレイ(FED)等における電界放出素子などに用いられる電界放出材料、配線材料、センサー、電気化学キャパシタ、プローブ顕微鏡用探針、触媒担体等の各種の用途に利用することが期待される。
【0003】
ナノサイズ化した導電性高分子に関しては、ナノシリンダーを用いた電気化学的手法により、ポリピロール、およびポリチオフェンのナノサイズの導電性高分子を製造する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、電解溶媒として超臨界流体あるいは亜臨界流体を用いることから、装置が複雑となりコストもかかり、大量生産には不向きである。また、この方法を用いた場合、鋳型を除去する必要があるためプロセスも煩雑となり、鋳型も1回のみの使用となるので、更にコストが高くなるという問題もあった。
【0004】
近年、カーボンナノチューブや金属ナノワイヤーの発見がなされ、導電性ナノ材料への関心が高まっている。平均径が数nm〜数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上のナノ材料は、導電性材料、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート等の用途に用いられている。現在のところ、導電性高分子のナノ材料の製造方法は、特許文献1にも記載されているようなナノシリンダーやテンプレートを用いる方法が知られているのみである。
【0005】
一方、カルバゾールは、分子式がC
12H
9Nで表される複素環式化合物であり、導電性を有する化合物である。その誘導体であるN−アルキルカルバゾールは、セルロースと溶媒中で反応させることでLED用の機能性化合物とすることができることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
そして、本発明者らは、N−アルキルカルバゾールの重合に成功し、ポリ(N−アルキルカルバゾール)を透明な膜状の構造体として提供できることを提案している(特許文献3参照)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合成例において製造したN−n−オクチルカルバゾールのNMRチャートを示す図である。
【
図2】実施例1において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図3】実施例2において、N−メチルカルバゾール20mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図4】実施例2において、N−メチルカルバゾール100mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図5】実施例2において、N−メチルカルバゾール200mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図6】実施例2において、N−メチルカルバゾール400mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図7】実施例3において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて滴下条件0秒で製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図8】実施例3において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて滴下条件100秒で製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図9】実施例3において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて滴下条件420秒で製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図10】実施例4において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて0℃で製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図11】実施例4において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて60℃で製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図12】実施例5において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造し、滴下後1時間放置したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図13】実施例5において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造し、滴下後2時間放置したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図14】実施例5において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造し、滴下後4時間放置したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図15】実施例5において、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造し、滴下後6時間放置したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図16】実施例6において、N−メチルカルバゾール50mMアセトニトリル溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mアセトニトリル溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図17】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=4:1(容積比、以下同様に溶媒の混合比率は容積比を表す)の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=4:1の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図18】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=3:1の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=3:1の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図19】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=2:1の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=2:1の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図20】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=1:1の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=1:1の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図21】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=1:2の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=1:2の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図22】実施例7において、N−メチルカルバゾール50mMのメタノール:アセトニトリル=1:3の混合溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール:アセトニトリル=1:3の混合溶液を用いて製造したポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【
図23】実施例8において、N−エチルカルバゾール50mMメタノール溶液、過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を用いて製造したポリ(N−エチルカルバゾール)柱状構造体である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、炭素数1〜4のアルキルからなるポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の製造方法である。具体的には、炭素数1〜4のアルキルからなるN−アルキルカルバゾールを溶媒に溶かして得られる溶液に、酸化剤を添加することでN−アルキルカルバゾールを化学重合させ、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体を製造する方法である。ポリ(N−アルキルカルバゾール)とは、下記式(1)で表される少なくとも1種のN−アルキルカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アルキルカルバゾール重合体をいう。
【0015】
上記式中、nは1〜4の整数であり、アルキル(C
nH
2n+1)の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチルが挙げられる。化学重合によりポリ(N−アルキルカルバゾール)を製造する際、N−アルキルカルバゾールのアルキル鎖の炭素数が大きい場合には、ポリ(N−アルキルカルバゾール)が柱状の構造体とはならず「玉(だま)」状の構造体となってしまう。そのため、本発明で用いるN−アルキルカルバゾールのアルキルは炭素数が1〜4のアルキルである。このうち、アルキルがメチルまたはエチルである場合には、より明瞭な柱状構造体が得られることから構造体の表面積が大きくなり、材料として好ましい。
また、アルキルは、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。また、カルバゾールのN位と結合している炭素は、1級炭素又は2級炭素であることが好ましい。
【0016】
本発明で得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)は、1種類のN−アルキルカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アルキルカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)のみで用いても、炭
素数の異なるアルキルからなる2種類のポリ(N−アルキルカルバゾール)を混合して用いてもよい。また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の重合度は、2〜1,000であることが好ましく、2〜100であることがより好ましく、2〜22であることが特に好ましい。
【0017】
先に説明したように、ポリ(N−アルキルカルバゾール)は、本発明者らにより既に合成されている。特許文献3のポリ(N−アルキルカルバゾール)は膜状の構造体であり、本発明の柱状構造体とは異なる。
また、本発明者らは、電解重合によって得られるポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体及びその製造方法に関しては、特願2010−56198として出願済みであるが、本発明は、先願の発明とは異なり、酸化剤を用いて化学的にN−アルキルカルバゾールを重合する工程を含み、より簡便により大量にポリ(N−アルキルカルバゾール)を生産することができる。
本発明で製造したポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、ナノサイズ及びマイクロサイズの柱状構造体であることを特徴とする。本発明において柱状とは、先願の膜状の構造体と区別する概念であり、円柱及び、三角柱、四角柱などの多角柱を意味する。また、中空状の柱状であっても本発明の柱状に当然に含まれる。一般的に、チューブ、ワイヤーなどと表現される形状は本発明の柱状に含まれる。
【0018】
また、本発明はナノサイズの柱状構造体と表現できるとおり、非常に小さな構造体を製造することができる。構造体の直径が、0.1〜10μmであり、好ましくは0.3〜5μmであり、更に好ましくは0.3〜1.7μmである。構造体の長さは、1μm以上であれば、特に限定されない。本発明において、構造体の直径とは、円柱であれば円柱の直径を意味し、角柱であれば、角柱の断面上の最長対角線の長さを意味する。また、構造体が中空状である場合には外径を意味する。なお、本発明の構造体の大きさは、電子顕微鏡による観察により、測定することができる。
【0019】
本発明の柱状構造体をナノサイズの材料として用いる場合には、平均径が0.3μm〜1μm、平均長さが1μm以上の構造体の集合とすることが好ましい。
【0020】
本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体は、SEMなどの電子顕微鏡により確認することができ、ナノサイズまたはマイクロサイズで、ワイヤー状の形状をしている。また、導電性を有しており、様々な用途への展開が期待されるものである。以下、製造方法について詳細に説明する。
【0021】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアルキルが結合したN−アルキルカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアルキル化剤であるハロゲン化アルキルとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アルキルの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。その他、市販されているものを用いても良い。N−アルキルカルバゾールのアルキルは炭素数が1〜4であり、具体的には、N−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾール、N−プロピルカルバゾール、N−イソプロピルカルバゾール、N−ブチルカルバゾール、N−イソブチルカルバゾールである。このうち、N−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾールが好ましい。また、アルキルの1つ又は複数の水素が、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられてもよい。
【0022】
(ハロゲン化アルキル)
上記アルキル化剤であるハロゲン化アルキルは、試薬メーカーより入手することができ
る。実験室で取り扱うには、反応性、アルキルの種類の豊富さから、アルキルモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアルキルモノ臭化物は、具体的に、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、があり、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)、ランカスター社等から入手できる。
【0023】
(重合工程)
本発明における重合工程は、N−アルキルカルバゾールを溶媒に溶かして得られる溶液に、酸化剤を添加することでN−アルキルカルバゾールを重合させる工程である。
まず、上記の方法で合成した、又は市販品のN−アルキルカルバゾールを溶媒に溶解する。このとき、溶媒中のN−アルキルカルバゾール濃度は溶媒を100重量部とした場合に0.002〜200重量部であることが好ましく、0.02〜20重量部であることが好ましい。N−アルキルカルバゾールの濃度をこのような範囲とすることで、十分な反応速度で重合反応を行うことができる。
【0024】
上記溶媒は、N−アルキルカルバゾールを溶解させることが可能な溶媒であれば特段限定されないが、誘電率が30以上である溶媒が好ましい。誘電率が30以上の溶媒を用いることで、ポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体が得られ易くなり、好ましい。誘電率30以上の溶媒としては、アルコール、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホアミド等が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。これらの溶媒のうち、特にメタノール、又はアセトニトリルが好ましい。また、これらの溶媒を混合して用いてもよく、混合溶媒の場合にはメタノールとアセトニトリルの混合溶媒が好ましい。
【0025】
溶媒をメタノールとアセトニトリルの混合溶媒とする場合には、メタノールとアセトニトリルの混合比が容積比で1:10〜10:1であることが好ましく1:5〜5:1であることがより好ましい。
【0026】
酸化剤としては、Fe(ClO
4)
3、CeSO
4、Ce(OH)
4、CeCl
4、K
2Cr
2O
3、FeCl
3、NaBrO
3、K
3[Fe(CN)
6]、KMnO
4、BF
3、H
2O
2、H
2SO
4、Br
2,I
2、Cl
2、ベンゾキノン等が用いられ、このうち好ましい酸化剤はFe(ClO
4)
3で表される過塩素酸鉄(III)である。
【0027】
本発明の重合工程における酸化剤の添加は、N−アルキルカルバゾールを溶媒に溶かしてN−アルキルカルバゾール溶液を調製し、調製したN−アルキルカルバゾール溶液に、酸化剤をそのまま添加してもよく、また、N−アルキルカルバゾール及び酸化剤を各々溶媒に溶かし、その後両者を混合することでも良い。N−アルキルカルバゾール、酸化剤の各々を溶媒に溶解してから混合する場合には、各々の溶液を攪拌するとともに窒素でバブリングを行った後、攪拌、バブリングを継続したまま、N−アルキルカルバゾール溶液に酸化剤溶液を摘下し重合させることが好ましい。
【0028】
酸化剤の添加条件は、酸化剤溶液として滴下する場合には、ゆっくり滴下する方がポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造物の大きさを均一にするには好ましいが、一瞬(ほぼ0秒)で滴下する事でもポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造物は製造できる。酸化剤溶液は10秒以上かけて滴下することが好ましく、50秒以上であることがより好ましく、100秒以上であることが更に好ましい。一方上限は特段限定されないが、1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましく、15分以内であることが更に好ましい。
【0029】
酸化剤を添加することで、又は酸化剤溶液を滴下することでN−アルキルカルバゾールの重合が開始するが、十分な重合をさせるため、滴下後の放置時間を30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましく、24時間以上とすることがさらに好ましい。しかし、酸化剤の添加、又は酸化剤溶液の滴下を開始して数秒で沈殿物が確認されることから、滴下時間が短時間であってもポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造物は製造できる。
【0030】
また、本発明における重合工程は、溶媒中に空気が溶け込んでいる場合でも行うことはできるが、溶媒中に溶け込んでいる空気中の酸素の影響をできる限り少なくするために、溶液に対し窒素バブリングを行うことが好ましい。
【0031】
また、本発明における化学重合の重合温度は、限定されるわけではないが、高い電気伝導度を有するポリN−アルキルカルバゾール柱状構造体を形成する観点から−40℃以上70℃以下であることが好ましい。柱状構造体の形成量を多くする観点から、0℃以上60℃以下であることがより好ましく、10℃以上40℃以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の重合工程を経て得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)は、溶液の沈殿物として形成される。沈殿物を、濾過、乾燥することで、本発明のポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体を得ることができる。濾過、乾燥は特別な方法を用いる必要はなく、適宜公知の方法を採用すればよい。
得られた柱状構造体の大きさは、直径が0.1〜10μmであり、膜状のポリ(N−アルキルカルバゾール)とは明確に区別されるものである。ナノサイズの材料として用いる場合には、直径が0.1〜5μmであることが好ましく、0.1〜1.7μmであることがより好ましい。
【0033】
一方、その長さは特に限定されないが、1μm以上であることが好ましい。また、長さの上限値は特段問題にならないが、材料としての扱い易さから、1mm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0034】
また、ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体が中空状であると、表面積をさらに稼げるため好ましい。この場合、チューブ壁の厚さは1nm以上であることが好ましい。
【0035】
このようにして得られたポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体は、導電性を有し、かつ表面積を稼げるため、ナノサイズおよびマイクロサイズの導電性材料として様々な用途への応用が期待できる。
【実施例】
【0036】
以下、上記実施形態に基づき実際にポリ(N−アルキルカルバゾール)の柱状構造体の作製を行い本発明の効果の確認を行った。以下、実施例を用いて説明を行うが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(アルキル化剤の合成)
N−アルキルカルバゾールの製造に用いるアルキル化剤は、アルキルモノ臭素化物を東京化成工業(株)、シグマ−アルドリッチ社及びランカスター社より購入した。
【0038】
(N−アルキルカルバゾールの合成)
テトラヒドロフランとN,N−ジメチルホルムアミドの3対1(容量比)の混合溶媒にカルバゾールを溶解し、上記で得たアルキル剤(アルキル臭化物又はアルキルヨウ化物)をカルバゾール1当量に対して1当量加え、撹拌しながら水素化ナトリウム1.5当量に
相当する60重量%の水素化ナトリウム鉱物油分散物(関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」)を徐々に加え、室温で1時間撹拌した。そこに、反応を停止させるためにメタノールを気泡が出なくなるまで加えた後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。残渣にジクロロメタンを加え、3N塩酸と水とで洗浄した。無水硫酸マグネシウムを加え乾燥し、濾過した。得られた濾液に含まれる溶媒を真空除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより残渣を精製した。以下、N−アルキルカルバゾールの市販品が入手困難な場合に、N−アルキルカルバゾールを合成する方法を、N−n−オクチルカルバゾールを例として示す。
【0039】
(N−n−オクチルカルバゾールの合成例)
ポリ(N−n−オクチルカルバゾール)の製造に用いるモノマー(N−n−オクチルカルバゾール)を例に具体的な合成法を説明する。
テトラヒドロフラン(30mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合溶液にカルバゾール(東京化成工業(株)製、6.0g、0.036mol)を溶かし、1−ブロモオクタン(東京化成工業(株)製、3.95g、0.036mol)を加え、さらに室温(約20℃)で60重量%水素化ナトリウム鉱物油分散物((関東化学(株)製、商品名「水素化ナトリウム」、2.16g、0.054mol)を徐々に添加し、1時間攪拌し反応を完了させた。
反応完了後、得られた反応液に、メタノールを気泡が出なくなるまで注ぎ、反応を停止させた。エバポレーターで反応液中の溶媒を除去後、濃縮物を塩化メチレンで抽出し、有機層を3N塩酸、水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液中の塩化メチレンをエバポレーターで除去し、ヘキサンを展開溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。エバポレーターでヘキサンを除去し、透明液体(8g、収率80%)を得た。H−NMRにより、N−n−オクチルカルバゾールであることが確認できた。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度が99.5%であることを確認した。
図1にNMRチャートを示す。
なお、実施例において使用したN−メチルカルバゾール、N−エチルカルバゾールは東京化成工業(株)より購入した。
【0040】
ポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の直径の測定法
SEM写真において、作製したポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体の大きさに応じて柱状構造体が10以上100以下含まれる任意の範囲を設定し、その範囲内に存在するポリ(N−アルキルカルバゾール)柱状構造体10点の直径を測定し、その相加平均値を直径とした。
【0041】
(実施例1)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を
図2に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、700nm、平均長は16μmであった。
【0042】
(実施例2)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を(1)0.02M、(2)0.05M、(3)0.2M、(4)0.4Mとなるように加え溶解した。N−メチルカルバゾー
ル溶液に、各々過塩素酸鉄(III)(1)0.02M、(2)0.05M、(3)0.2M、(4)0.4M溶液を、撹拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体のSEM写真を(1)
図3、(2)
図4、(3)
図5、(4)
図6に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、各々(1)1000nm、(2)700nm、(3)550nm、(4)660nm、平均長は各々(1)25μm、(2)16μm、(3)15μm、(4)16μmであった。
【0043】
(実施例3)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で各々(1)0秒、(2)100秒、(3)420秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を各々(1)
図7、(2)
図8、(3)
図9に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、各々(1)1600nm、(2)700nm、(3)660nm、平均長は各々(1)26μm、(2)25μm、(3)15μmであった。
【0044】
(実施例4)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら、温度条件(1)0℃、(2)60℃で各々630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を各々(1)
図10、(2)
図11に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、各々(1)660nm、(2)800nm、平均長は各々(1)8μm、(2)5μmであった。
【0045】
(実施例5)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMメタノール溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後(1)1時間、(2)2時間、(3)4時間、(4)6時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を各々(1)
図12、(2)
図13、(3)
図14、(4)
図15に各々示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、各々(1)660nm、(2)1000nm、(3)600nm、(4)660nm、平均長は各々(1)10μm、(2)25μm、(3)13μm、(4)8μmであった。
【0046】
(実施例6)
アセトニトリル5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、アセトニトリル5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMアセトニトリル溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mアセトニトリル溶液を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を
図16に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、660nm、平均長は22μmであった。
【0047】
(実施例7)
溶媒として、メタノールとアセトニトリルの容積混合比で(1)4:1、(2)3:1、(3)2:1、(4)1:1、(5)1:2、(6)1:3の混合溶媒を用い、上記混合溶媒5mLに、50mMとなるようにN−メチルカルバゾールを加えて溶解した。また、上記(1)〜(6)の混合溶媒5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−メチルカルバゾール50mMの混合溶媒溶液各々に過塩素酸鉄(III)0.1Mの混合溶媒溶液各々を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を各々(1)
図17、(2)
図18、(3)
図19、(4)
図20、(5)
図21、(6)
図22に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−メチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、各々(1)800nm、(2)500nm、(3)800nm、(4)550nm、(5)660nm、(6)660nm、平均長は、各々(1)30μm、(2)30μm、(3)25μm、(4)30μm、(5)20μm、(6)20μmであった。
【0048】
(実施例8)
メタノール5mLに、50mMとなるようにN−エチルカルバゾールを加えて溶解した。また、メタノール5mlに過塩素酸鉄(III)を0.1Mとなるように加え溶解した。それぞれの溶液を攪拌しながら20分間窒素バブリングを実施した後、N−エチルカルバゾール50mMメタノール溶液に過塩素酸鉄(III)0.1Mメタノール溶液を、攪拌、窒素バブリングを継続しながら常温(22℃)で630秒かけて滴下した。滴下開始後数秒で深緑色の沈殿物が確認された。滴下終了後24時間放置し、ガラス濾過器を用いて沈殿物を吸引濾過した。残渣を乾燥機で40℃1時間乾燥させた。得られた残渣のSEM写真を
図23に示す。このSEM画像より得られたポリ(N−エチルカルバゾール)柱状構造体の平均径は、220nm、平均長は8μmであった。