(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
なお、以下の説明において参照する各図では、同一の機能を有する回路構成要素及び電気量等に同一の参照符号を付してある。
【0021】
図1は本発明の第1実施形態の構成を示すブロック図である。なお、この第1実施形態以降の各実施形態では、多相交流電源を三相として説明する。
図1において、交流−直流電力変換器は、三相交流電源10と、その各相に接続されたリアクトルL
fと、各線間に接続されたコンデンサC
fと、三相の交流入力端子u,v,wと正負の直流出力端子p,nとの間に接続された半導体スイッチS
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnと、を備え、直流出力端子p,nの相互間には負荷20が接続されている。
【0022】
上記交流−直流電力変換器を制御する制御装置100Aは、三相交流電源10の各相の電圧e
u,e
v,e
wを検出する電源電圧検出手段110と、前記電源電圧e
u,e
v,e
wと直流出力電圧指令値V
c*とから各相の入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを演算する入力電流指令値演算手段120と、前記入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wから前記スイッチS
up,S
vp,S
wp,S
un,S
vn,S
wnのデューティ比を演算し、各スイッチのオン信号を発生するデューティ比演算・オン信号発生手段130とを備え、最終出力として、PWMパタンである各スイッチのオン信号g
up,g
vp,g
wp,g
un,g
vn,g
wnを得る。
【0023】
図2は、
図1における交流−直流電力変換器のスイッチの構成例を示しており、u相のスイッチS
up,S
unの構成を例示してある。
図2(a)は、出力電流I
dcが常時、正(I
dc≧0)の場合に使用するスイッチS
up,S
unの例である。直流出力端子pに接続されるスイッチS
upには、交流電源10(入力端子u)から端子pに電流が流れるスイッチを用い、直流出力端子nに接続されるスイッチS
unには、端子nから交流電源10(入力端子u)に電流が流れるスイッチを用いる。
【0024】
図2(b)は、出力電流I
dcが常時、負(I
dc≦0)の場合に使用するスイッチS
up,S
unの例である。直流出力端子pに接続されるスイッチS
upには、端子pから交流電源10(入力端子u)に電流が流れるスイッチを用い、直流出力端子nに接続されるスイッチS
unには、交流電源10(入力端子u)から端子nに電流が流れるスイッチを用いる。
図2(c)は、出力電流I
dcの符号が正負の両方になるスイッチS
up,S
unの例であり、両スイッチS
up,S
unには双方向に電流が流れるスイッチを用いる。
ここで、
図2(a)〜(c)の構成は他のスイッチS
vp,S
wp,S
vn,S
wnについても同様である。
【0025】
図3は、第1実施形態におけるデューティ比演算・オン信号発生手段130の基本原理図であり、その動作の概要について以下に説明する。
図3(a)は、直流出力電圧指令値V
*cが高い場合であり、
図3(b)は低い場合である。
出力電圧V
cは平均値として出力電圧指令値V
*cに一致しており、入力電流i
uの基本波成分は入力力率1の入力電流指令値i
*uに一致している。各スイッチS
up〜S
wnのオン信号g
up〜g
wnを発生するPWM制御法としては、電源電圧e
u,e
v,e
wと同相の入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wと、I
dc〜零、零〜−I
dcの範囲で変化する2つの三角波キャリア信号T
p,T
nとをそれぞれ比較し、その大小関係から直接、スイッチS
up〜S
wnのスイッチングパタンを得ている。
【0026】
電源電圧位相角θ〔rad〕が、例えば、0<θ<π/3(e
u>e
v>e
w)の範囲では、端子p側のスイッチは、スイッチS
up,S
vpの電源の二相へ接続するオン信号g
up,g
vpのみが与えられ、端子n側のスイッチは、スイッチS
vn,S
wnの電源の二相へ接続するオン信号g
vn,g
wnのみが与えられる。
このとき、p側スイッチS
up,S
vpの動作は、最大電圧e
uから中間電圧e
vへの転流、n側スイッチS
vn,S
wnの動作は、最小電圧e
wから中間電圧e
vへの転流であり、最大電圧と最小電圧との間の転流ではなく、三相全体で転流回数を2回に低減できるので、スイッチング損失及びノイズを低減することができる。
図3(a)の出力電圧指令値V
*cが高い場合には、出力電圧V
cの波形は、正の3レベルの入力線間電圧により実現され、零電圧まで下がらないので、出力電圧リプルを低減することが可能である。また、
図3(b)の出力電圧指令値V
*cが低い場合には、出力電圧V
cの波形は、正の最大の入力線間電圧レベルを用いずに、低い2レベルの入力線間電圧と零電圧とによって実現されており、出力電圧リプルを低減できている。
【0027】
次に、デューティ比演算・オン信号発生手段130におけるデューティ比演算式を導出する。
出力瞬時電力p
outは、出力電圧指令値V
*c及び出力電流I
dcを用いて数式1により得ることができる。
【数1】
交流−直流電力変換器はコンデンサ等のエネルギーバッファを持たないので、出力瞬時電力p
outと等しい入力瞬時電力p
inが実現されるように入力電流指令値を定めることで、指令値通りの出力電圧V
cを得ることができる。
【0028】
ここで、
図1の入力リアクトルL
fにおける電圧降下は電源電圧に比較して十分小さいと仮定し、これを無視して説明する。
三相交流電源電圧e
u,e
v,e
wは、電源電圧実効値E、位相角θ(=ωt)を用いて数式2により与えられる。
【数2】
なお、電源電圧実効値Eは、数式3に示すように、相電圧の2乗和の平方根により得られる。
【数3】
【0029】
電源電圧に対して入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wは、入力電流実効値指令値I
*、入力力率角指令値ψ
*を用いて数式4により表される。
【数4】
よって、入力瞬時電力p
inは、数式2,4から数式5によって得ることができる。
【数5】
【0030】
入力力率角指令値ψ
*は任意の値に設定可能であるが、入力電流実効値指令値I
*については、前述したように入出力の瞬時電力をバランスさせる観点から、数式1〜数式5に基づいて数式6により求められる。
【数6】
【0031】
次に、
図4は、各スイッチのデューティ比を求めるための交流−直流電力変換器のモデルを示している。
制御周期T
s(三角波キャリア信号の半周期)は回路の時定数に比較して十分短いものとして、ここでは入力のLCフィルタを省略し、入力電圧及び出力電流を一定値と近似する。
図4では、各相の電源電圧e
u,e
v,e
wを直流電圧源により、出力電流I
dcを直流電流源によりそれぞれ表している。また、制御周期T
s間の出力電圧指令値V
*c、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wをそれぞれ一定値として扱う。
本実施形態では、スイッチング損失(スイッチング回数)及び出力電圧リプルを共に低減するために、導通させないスイッチを設けてあり、
図4では、電源電圧位相角θが0<θ<π/3の範囲において、導通させないスイッチを破線で示している。
【0032】
なお、
図4におけるスイッチS
up〜S
wnは、例えば前述の
図2(c)のような双方向スイッチであり、これら6個の双方向スイッチS
up〜S
wnの制御周期T
s間のデューティ比をそれぞれd
up〜d
wnとする。
出力電流の連続性を確保し、入力線間電圧の短絡を引き起こさないように、直流出力端子p,nにそれぞれ接続されるスイッチのうち何れかのスイッチを導通させることから、デューティ比について数式7,8が成立する。
【数7】
【数8】
【0033】
入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wは、デューティ比を用いて数式9〜数式11によって表すことができる。
【数9】
【数10】
【数11】
【0034】
数式7〜11から各デューティ比を一意に決定することはできないので、後述するように拘束条件を与えてデューティ比を決定する。
制御周期T
s間の出力電圧平均値V
c(本文中では使用可能な文字に制限があるため、「  ̄ 」を省略する)は数式12の上段により得られ、これを数式1,5,9〜11を用いて変形すると、数式12の下段に示すように出力電圧指令値V
*c通りに制御されていることがわかる。
【数12】
【0035】
第1実施形態における各スイッチのデューティ比を導出する条件として、出力電圧指令値V
*c>0として、電源電圧位相角が0<θ<π/3、すなわち、各相電圧の大小関係がe
u>e
v>e
wの場合につき考える。出力電圧リプルを小さくするため、直流出力端子pを入力最小電圧相wに、直流出力端子nを入力最大電圧相uにそれぞれ接続しない制約条件を設け、数式13のようにデューティ比d
wp,d
unを零とする。
【数13】
【0036】
数式7〜11から、数式13の制約条件のもとで残りの各デューティ比d
up,d
vp,d
vn,d
wnを求めると、数式14が得られる。
【数14】
【0037】
以下の表1は、p側スイッチ及びn側スイッチにつきそれぞれ1つずつオンさせないスイッチの組み合わせと、各デューティ比とをまとめたものであり、全部で6通りのデューティ比のパタンp
dが得られる。
従って、デューティ比演算・オン信号発生手段130では、電源電圧位相角または入力電流指令値に応じて表1のデューティ比のパタンp
dを使用することにより、各スイッチのオン信号g
up〜g
wnを発生させることができる。
【表1】
【0038】
次に、
図5は、
図3(a)において、出力電圧指令値V
*cの符号を負にした場合のデューティ比演算・オン信号発生手段130の動作説明図である。ここでは、出力電圧指令値V
*cが負になるので、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wの波形も
図3(a)に対して正負反転している。
【0039】
デューティ比演算・オン信号発生手段130は、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wと、I
dc〜零、零〜−I
dcの範囲で変化する2つの三角波キャリア信号T
p,T
nとをそれぞれ比較し、その大小関係から直接、スイッチS
up〜S
wnのスイッチングパタンを得る。例えば、電源電圧位相角が0<θ<π/3(e
u>e
v>e
w)の範囲では、出力電圧リプルを小さくするため、出力電圧の負側端子pを入力最大電圧相uに、出力電圧の正側端子nを入力最小電圧相wにそれぞれ接続しないという制約条件を設け、対応するスイッチS
up,S
wnのデューティ比d
up,d
wnを共に零とするように、表1におけるデューティ比のパタンp
d=4を用いる。
このように出力電圧指令値V
*cが負の場合にも、出力電圧V
cの平均値を出力電圧指令値V
*c通りに、入力電流i
uの基本波成分を入力力率1の入力電流指令値i
*u通りに、それぞれ制御することができる。
【0040】
次いで、
図1に示した制御装置100A内の各ブロックについて説明する。
図1の電源電圧検出手段110では、例えば、三相交流電源10の電圧を星形結線した抵抗等により分圧し、電源10の各相電圧e
u,e
v,e
wを検出する。
図1では電源電圧から各相電圧e
u,e
v,e
wを検出しているが、フィルタコンデンサC
fの電圧を検出しても良い。
【0041】
図6は、
図1の入力電流指令値演算手段120の構成を示すブロック図である。
この入力電流指令値演算手段120では、電源電圧実効値Eの二乗E
2を演算し、このE
2と、出力電圧指令値V
*cに比例するV
*cI
dcとを用いて、数式15により、電源電圧e
u,e
v,e
wと同相の入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを演算する。この数式15は、数式4に数式2,6の関係を代入したものである。
なお、電源電圧実効値の二乗E
2は数式3に基づいて演算する。
【数15】
【0042】
数式15において、出力電流I
dc(>0)として検出値を用いることもできるが、表1のデューティ比の演算では入力電流指令値をI
dcで除するので、I
dcを正の任意の値に設定しても、デューティ比の演算結果に影響を与えない。従って、出力電流I
dcを実際に検出する必要はなく、例えば、I
dc=1と規格化して演算することができる。
【0043】
図7は、
図1のデューティ比演算・オン信号発生手段130の動作説明図であり、制御周期T
s間のデューティ比と出力電圧波形とを示している。
図7において、T
sは電源周期に比較して十分短いものとし、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを一定値としている。
図7(a)は、入力力率1で、出力電圧指令値V
*c(>0)が高い場合、
図7(b)は、V
*cを
図7(a)の1/2とした出力電圧指令値V
*cが低い場合、
図7(c)は、
図7(a)のV
*cの符号を負にした場合である。電源電圧位相角θは0<θ<π/3であり、電源電圧値の大小関係はe
u>e
v>e
wである。
ここでは入力電流指令値を電源電圧と同相にしているので、
図7(a),(b)では電流指令値の大小関係がi
*u>i
*v>i
*wであり、
図7(c)ではi
*w>i
*v>i
*uである。
【0044】
図7(a)及び
図7(b)では、出力電圧リプルを小さくするため、直流出力端子pを入力最小電圧相wに接続せず、直流出力端子nを入力最大電圧相uに接続しない制約条件を設け、スイッチS
wp,S
unに対するデューティ比d
wp,d
unを零とする。すなわち、表1におけるデューティ比のパタンp
d=1を用い、前述した数式14のデューティ比を実現する。
【0045】
表1のパタンp
d=1において、スイッチS
upのデューティ比d
up=i
*u/I
dcに相当するオン信号g
upは、入力電流指令値i
*uと、零〜I
dcの間で変化する三角波キャリア信号T
pとを比較し、i
*u>T
pの信号として得られる。また、スイッチS
vpのオン信号g
vpは、i
*u<T
pの信号として得られる。
同じくパタンp
d=1において、スイッチS
wnのデューティ比d
wn=i
*w/−I
dcに相当するオン信号g
wnは、入力電流指令値i
*wと、−I
dc〜零の間で変化する三角波キャリア信号T
nとを比較し、i
*w<T
nの信号として得られる。また、スイッチS
vnのオン信号g
vnは、i
*w>T
nの信号として得られる。
【0046】
図7(a)の出力電圧指令値V
*cが高いときには、出力電圧V
cは−e
wu,e
vw,e
uvの3レベルの正の電圧により指令値通りの電圧を実現している。
図7(b)の出力電圧指令値V
*cが低いときには、e
vw,e
uv,零の3レベルの電圧を出力し、最大電圧である−e
wuを出力していない。従って、
図7(a),(b)共に出力電圧リプルを低減できている。
【0047】
図7(c)では、出力電圧指令値V
*cの符号が負であるため、直流出力端子pを入力最大電圧相uに接続せず、直流出力端子nを入力最小電圧相wに接続しない制約条件を設け、スイッチS
up,S
wnに対するデューティ比d
up,d
wnを零とする。すなわち、表1におけるデューティ比のパタンp
d=4を用いる。
【0048】
表1のパタンp
d=4において、スイッチS
wpのデューティ比d
wp=i
*w/I
dcに相当するオン信号g
wpは、入力電流指令値i
*wと、零〜I
dcの間で変化する三角波キャリア信号T
pとを比較し、i
*w>T
pの信号として得られる。また、スイッチS
vpのオン信号g
vpは、i
*w<T
pの信号として得られる。
同じくパタンp
d=4において、スイッチS
unのデューティ比d
un=i
*u/−I
dcに相当するオン信号g
unは、入力電流指令値i
*uと、−I
dc〜零の間で変化する三角波キャリア信号T
nとを比較し、i
*u<T
nの信号として得られる。また、スイッチS
vnのオン信号g
vnは、i
*u>T
nの信号として得られる。
図7(c)の出力電圧指令値V
*cが負のときの出力電圧V
cの波形は、
図7(a)の出力電圧V
cを正負反転した波形に相当し、e
wu,−e
vw,−e
uvの3レベルの負の電圧によって構成されるので、出力電圧リプルを低くできると共に、指令値通りの電圧を実現している。
【0049】
図8は、
図1のデューティ比演算・オン信号発生手段130の構成を示すブロック図である。
デューティ比演算・オン信号発生手段130では、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wをコンパレータに入力して三角波キャリア発生手段131からの三角波キャリア信号T
p,T
nとそれぞれ比較し、その結果をQ
up〜Q
wnとして出力する。ここで、三角波キャリア信号T
pはI
dc〜零の範囲で変化し、三角波キャリア信号T
nは零〜−I
dcの範囲で変化するものである。三角波のピーク値I
dc,−I
dcは、実際の検出電流を用いる必要はなく、入力電流指令値演算手段120において用いた値に設定すれば良い。
【0050】
上記の比較結果Q
up〜Q
wnは、表2に示すデューティ比信号に相当している。ただし、表2のデューティ比は、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wが比較される三角波キャリア信号の範囲内の値であるときに成立するものである。
【表2】
【0051】
一方、
図8のオンスイッチパタン選択手段132は、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wの最大、中間、最小(すなわち大小関係)を判別する。
この大小関係を判別するために、まず、入力電流指令値の差i
*uv,i
*vw,i
*wuを数式16により計算する。
【数16】
【0052】
表3は、入力電流指令値の大小判別とデューティ比のパタン選択との関係を示している。
オンスイッチパタン選択手段132は、数式16により求めた電流指令値の差i
*uv,i
*vw,i
*wuの符号から、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wの最大、中間、最小を判別することができる。更に、最大電流指令値の入力相と直流出力端子p、最小電流指令値の入力相と直流出力端子nをそれぞれ接続しないように、表1のデューティ比のパタンp
dを選択して出力する。
【表3】
【0053】
図8のpスイッチオン信号選択手段133では、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wとI
dc〜零の範囲で変化する三角波キャリア信号T
pとの比較結果Q
up,Q
vp,Q
wpと、デューティ比のパタンp
dとを用いて,p側スイッチS
up,S
vp,S
wpのオン信号g
up,g
vp,g
wpを発生する。
具体的には、表1のデューティ比のパタンp
dのデューティ比を実現するように、表2の比較結果Q
up,Q
vp,Q
wpが発生するデューティ比をそれぞれ割り振ればよい。例えば、デューティ比のパタンp
d=1では、d
up=i
*u/I
dc,d
vp=1−i
*u/I
dcであるから、比較結果Q
upがi
*u/I
dcのデューティ比に相当する信号であり、オン信号は、g
up=Q
up,g
vp=Q
upの反転信号,g
wp=0によって得られる。
【0054】
なお、
図8のnスイッチオン信号選択手段134では、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wと−I
dc〜零の範囲で変化する三角波キャリア信号T
nとの比較結果Q
un,Q
vn,Q
wnと、デューティ比のパタンp
dとを用いて,n側スイッチS
un,S
vn,S
wnのオン信号g
un,g
vn,g
wnを発生する。
【0055】
表4は、デューティ比のパタンp
dに対するpスイッチオン信号選択手段133及びnスイッチオン信号選択手段134の動作をまとめたものである。
【表4】
【0056】
次に、
図9は、pスイッチオン信号選択手段133において、一例としてスイッチS
upのオン信号g
upを実現するオン信号選択手段の論理回路例である。
表4より、オン信号g
upは、デューティ比のパタンp
d=1,p
d=6のとき比較結果Q
upを、p
d=2のとき比較結果Q
vpの反転信号を、p
d=5のとき比較結果Q
wpの反転信号を、それぞれ出力する。デューティ比のパタンp
dが1,2,5,6のそれぞれの状態を表す信号としてp
d1,p
d2,p
d5,p
d6を定義すれば、
図9の論理回路が得られる。他のオン信号を発生する回路についても、同様に構成することができる。
【0057】
なお、本実施形態の三角波キャリア発生手段131により用いた2つの三角波キャリア信号T
p,T
nは同相であるが、本実施形態は、互いに逆相や位相差を持たせた三角波キャリア信号を用いても実現可能である。更に、キャリア信号として、三角波の代わりに傾きが正または負の鋸歯状波を用いることもできる。この場合、2つのキャリア信号の鋸歯状波の傾きの選び方として、正正、正負、負正、負負などの組み合わせを制御周期ごとに選ぶこともできる。
また、本実施形態における電源電圧検出手段110はあくまで一例であり、出力として線間電圧を検出してもよいし、電源電圧の振幅を一定値とみなして、電源電圧の正負を検出するだけでも実現可能である。
【0058】
次いで、
図10は本発明の第2実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る制御装置100Bは、第1実施形態の制御装置100Aに入力力率の調整機能を追加したものである。
すなわち、
図10において、制御装置100Bは電源電圧位相角検出手段140を備えており、電源電圧e
u,e
v,e
wから位相角θを検出して入力電流指令値演算手段120に出力する。入力電流指令値演算手段120では、入力力率角指令値ψ
*に従って入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを演算し、出力する。
なお、電源電圧検出手段110及びデューティ比演算・オン信号発生手段130の機能は、第1実施形態と同様である。
【0059】
図11は、電源電圧位相角検出手段140の構成を示すブロック図であり、PLL(Phase Locked Loop:位相同期回路)を用いている。
図11において、波形整形回路141は、電源電圧e
u,e
v,e
wの零クロスを検知し、π/3ごとに変化する電源1周期当たり3パルスの信号θ
oを発生する。また、カウンタ142は、信号θ
oに対応した信号θ
pを発生する。位相比較器143は、信号θ
oと信号θ
pとの位相角誤差Δθを検出し、この位相角誤差Δθが減少するように発振器144の出力パルスpの周波数を調整する。この出力パルスpをカウンタ142が計数することにより、カウンタ142の出力値が電源電圧位相角θになる。
【0060】
図12は、
図10における入力電流指令値演算手段120の構成を示すブロック図である。入力電流指令値演算手段120は、数式4に数式2,6の関係を代入し、数式17によって入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを演算する。
【数17】
【0061】
図12に示すように、数式17の右辺の分子は、出力電圧指令値V
*cと直流出力電流I
dcとの積により演算される。ここで、出力電流I
dcの値は、第1実施形態と同様に、入力電流指令値演算手段120及びデューティ比演算・オン信号発生手段130におけるI
dcと同じ値にすることで、正の任意の値に設定することができる。
また、数式17の右辺の分母については、数式3を用いて電源電圧実効値Eを演算すると共に、入力力率角指令値ψ
*から三角関数テーブルを用いて入力力率指令値cosψ
*を求め、これらを乗じてEcosψ
*を演算する。更に、数式17の右辺の電流指令値振幅の係数√(2/3)を乗じることにより、入力電流指令値振幅√2I
*が演算される。
【0062】
数式17における入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wの位相角は、入力力率角指令値ψ
*と電源電圧位相角θとから得られる。更に、三角関数テーブルを用いて、各入力相の余弦cos(θ+ψ),cos(θ+ψ
*−2π/3),cos(θ+ψ
*+2π/3)を得て、これらの余弦値に前記入力電流指令値振幅√2I
*を乗じることにより、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを得る。
これらの入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを、
図8に示したデューティ比演算・オン信号発生手段130に入力することによりデューティ比が演算され、各スイッチS
up〜S
wnのオン信号g
up〜g
wnが演算される。
【0063】
次に、
図13は第2実施形態におけるデューティ比演算・オン信号発生手段130の動作波形図であり、制御周期T
s間のデューティ比、入力電流及び出力電圧波形を示している。T
sは電源周期に比較して十分短いものとして、入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wを一定値としている。
図13(a)は
図7(b)の波形に等しく、出力電圧指令値V
c*>0、入力力率角指令値ψ
*=0の場合である。また、
図13(b)は、
図13(a)に対して入力力率角指令値ψ
*=−π/3とした場合である。
【0064】
図13(a)では、入力電流指令値の大小関係がi
*u>i
*v>i
*wとなっており、表4のデューティ比のパタンp
d=1が選択され、p側スイッチはデューティ比d
up,d
vpに、n側スイッチはデューティ比d
vn,d
wnに値をそれぞれ持つ。入力電流i
u,i
v,i
w及び出力電圧V
cは、制御周期T
sの平均値としてそれぞれの指令値に一致した値が得られている。
図13(b)では、入力力率角指令値ψ
*=−π/3としているため、入力電流指令値の大小関係がi
*u>i
*w>i
*vとなっており、表4のデューティ比のパタンp
d=6が選択され、p側スイッチはデューティ比d
up,d
wpに、n側スイッチはデューティ比d
wn,d
vnにそれぞれ値を持つ。入力電流i
u,i
v,i
w及び出力電圧V
cは、制御周期T
sの平均値としてそれぞれの指令値に一致した値が得られている。
【0065】
図14は、本発明の第3実施形態の構成を示すブロック図である。
この実施形態の制御装置100Cでは、入力力率角指令値ψ
*が大きくなったときに電流指令値の大小関係が変化しても、電源電圧の大小関係を優先してデューティ比のパタンを選択することにより、出力電圧リプルを低減する。
制御装置100C内のデューティ比演算・オン信号発生手段130Cにおいて、第1実施形態のデューティ比演算・オン信号発生手段130に、新たに電源電圧e
u,e
v,e
wと入力力率角指令値ψ
*と出力電圧指令値V
*cとが入力されており、これらに基づいてスイッチのオン信号及びキャリア信号の選択を変更している。
なお、
図14の電源電圧検出手段110は第1実施形態における電源電圧検出手段110と、
図14の電源電圧位相角検出手段140,入力電流指令値演算手段120は、第2実施形態における電源電圧位相角検出手段140、入力電流指令値演算手段120と、それぞれ同じ機能を有している。
【0066】
図15は、第3実施形態におけるデューティ比演算・オン信号発生手段130Cの構成を示すブロック図である。
入力電流指令値i
*u,i
*v,i
*wと三角波キャリア信号T
p,T
nとはそれぞれ6個の比較器により比較され、比較結果Q
up〜Q
wnを得る。三角波キャリア信号T
p,T
nは、それぞれI
dc〜零、零〜−I
dcの範囲で変化する波形である。比較結果Q
up〜Q
wnから各スイッチのオン信号を選択するが、その選択基準は電源電圧値の大小関係に基づいている。ここで、三角波キャリア信号の変化範囲を決定するI
dcの値については、第1実施形態と同様に、入力電流指令値演算手段120におけるI
dcと同じ値にすることで、正の任意の値に設定することができる。
【0067】
図15の符号演算器135によって出力電圧指令値V
c*の符号(±1)を演算し、この符号を電源電圧e
u,e
v,e
wに乗じて基準電圧値e
0u,e
0v,e
0wを得る。オンスイッチパタン選択手段132では、基準電圧値e
0u,e
0v,e
0wの大小関係を判別するために基準電圧値の差e
0v,e
0w,e
0uを数式18により計算する。
【数18】
【0068】
表5は、基準電圧値の大小判別とデューティ比のパタン選択とを示している。基準電圧値の差電圧e
0uv,e
0vw,e
0wuの符号から、基準電圧値の最大、中間、最小を判別することができる。入力力率角指令値ψ
*により、電流指令値の大小関係が変化しても、電源電圧の大小関係を優先してデューティ比のパタンを選択することにより、出力電圧リプルを低減する。
入力力率角指令値については、−π/2<ψ
*<−π/6、−π/6≦ψ
*≦π/6、π/6<ψ
*<π/2に分け、基準電圧値の大小関係を優先して、正の電圧を出力させる直流出力端子はできるだけ入力電圧の高い電圧相に、負の電圧を出力させる直流出力端子はできるだけ入力電圧の低い電圧相にそれぞれ接続する。
【表5】
【0069】
表6は、表5により決まったデューティ比のパタンを実現するオン信号選択動作表であり、各パタンに応じたオン信号は先に示した表4と同様である。
なお、三角波キャリア信号T
p,T
nについては、入力力率角指令値ψ
*が−π/6≦ψ
*≦π/6の場合には同相とし、これ以外の場合には、逆相を選択する。
【表6】
【0070】
次に、
図16は、電源電圧の大小関係がe
u>e
v>e
wであり、電源電圧位相角が12[deg]の場合の、出力電圧指令値V
*c>0と入力力率角指令値ψ
*=−π/6を与えたときの動作波形であり、
図16(a)は第2実施形態を、
図16(b)は第3実施形態をそれぞれ示している。
図16(a)の第2実施形態では、入力電流指令値の大小関係がi
*u>i
*w>i
*vであり、この大小関係に基づいて表4からデューティ比のパタンp
d=6が選択される。この第2実施形態では入力電流指令値の大小関係を優先しているために、出力電圧V
cの波形は負の電圧−e
vwを用いることになり、出力電圧リプルが大きくなる。
一方、
図16(b)の第3実施形態では、入力力率角指令値ψ
*=−π/6であるため、電源電圧の大小関係がe
u>e
v>e
wである基準電圧の大小関係e
0u>e
0v>e
0wに基づいて、表5からデューティ比のパタンp
d=1が選択される。この第3実施形態では電源電圧の大小関係を優先しているために、出力電圧V
cの波形は正の電圧または零を用いることになり、第2実施形態よりも出力電圧リプルを抑制できている。
【0071】
図17は、第3実施形態における動作波形であり、入力力率角指令値ψ
*=−π/3を与えた場合のものである。この動作波形は、第2実施形態の
図13(b)の動作波形と同じ条件である。第2実施形態では三角波キャリア信号T
p,T
nを同相としたのに対し、第3実施形態では、入力力率角指令値ψ
*=−π/3において三角波キャリア信号T
p,T
nとして逆相を選択するので、
図17の動作波形が得られ、出力電圧V
cの波形のリプルを抑制できている。
【0072】
図18は、本発明の第4実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態の制御装置100Dは、
図14の入力力率角指令値ψ
*を与える入力力率角指令値演算手段150を備えており、この演算手段150は電源力率を1に制御するように入力力率角指令値ψ
*を決定する。
図18における入力力率角指令値演算手段150以外のブロックは、
図14の第3実施形態と同様である。ただし、入力力率角指令値演算手段150では、入力電流指令値演算手段120によって得られる電源電圧実効値Eを演算に用いている。
【0073】
ここで、電源高調波を抑制するためのリアクトルL
fとコンデンサC
fとからなるLCフィルタにより、入力電流指令値と電源電流との間に位相差を持つので、入力電流を力率1に制御したとしても、電源力率は必ずしも1にならない。そこで、入力力率角指令値演算手段150として、LCフィルタに流れ込む進相電流が無視できなくなる軽負荷時などにおいて、電源力率を1に制御する方法について説明する。
【0074】
図19(a)はLCフィルタを有する入力u相の等価回路であり、
図19(b)はそのベクトル図である。
図19(a)では、交流−直流電力変換器に対するu相の入力電流指令値i
*uを電流源にて示している。i
*u=0としたとき、LCフィルタのコンデンサ電流I
cuは数式19により表される。
【数19】
【0075】
通常、LCフィルタの共振周波数は電源周波数より十分高く、数式19においてωL
f−1/3ωC
f<0の関係が得られるので、I
q>0となり、コンデンサ電流I
cuは進み電流となる。
図19(b)及び数式20に示すように、電源電流I
suを有効電流成分I
pのみとして電源力率1を実現するためには、数式21に従って入力電流指令値I
*uを与えればよい。
すなわち、
図19(b)に示す入力力率角指令値ψ
*を与えることで、電源力率1を実現することができる。
【数20】
【数21】
【0076】
電源力率1としたときの入力有効電流実効値I
pは、出力電圧指令値V
*c、出力電流検出値I
dc、電源電圧実効値Eを用いて、数式6においてψ
*=0を代入することにより数式22によって得ることができる。
【数22】
【0077】
なお、損失を考慮する場合には、損失分に相当した有効電流を数式22の右辺に加算して対応することができる。一方、電源電圧実効値Eと数式19との関係から、コンデンサC
fに流れる無効電流I
qは数式23により得られる。
【数23】
【0078】
数式22,23を用いて、
図19(b)のベクトル関係から、入力力率角指令値ψ
*は数式24によって与えられる。
【数24】
なお、この実施形態の入力力率角指令値演算手段150は、
図10の第2実施形態における入力力率角の調整にも適用可能である。
【0079】
次いで、
図20は本発明の第5実施形態の構成を示すブロック図である。
この実施形態は、
図20に示すように、直流出力端子p,nに直列にリアクトルLとコンデンサCとが接続され、コンデンサCに並列に負荷20が接続された交流−直流電力変換器において、コンデンサCの直流電圧を制御する制御系を備えたものである。
【0080】
図20に示す制御装置100Eは、コンデンサCの両端の電圧検出値V
dc及びコンデンサ電圧指令値V
dc*が入力されて直流出力電流指令値I
dc*を演算する直流出力電流指令値演算手段160と、直流出力電流指令値I
dc*及び直流出力電流検出値I
dcが入力されて
図14における出力電圧指令値V
c*を演算する直流出力電圧指令値演算手段170と、を備えている。
直流出力電流指令値演算手段160では、数式25に示す電圧偏差ΔV
dcに対して、数式26に示すように、電圧制御系の比例ゲインK
PVと積分ゲインK
IVとを持つPI(比例積分)制御を施して直流出力電流指令値I
dc*を演算する。
【数25】
【数26】
【0081】
直流出力電圧指令値演算手段170では、数式27に示す電流偏差ΔI
dcに対して、数式28に示すように、電流制御系の比例ゲインK
PIと積分ゲインK
IIとを持つPI制御を施して出力電圧指令値V
c*を演算する。
【数27】
【数28】
【0082】
本実施形態では、電圧制御系及び電流制御系にPI制御を用いているが、二自由度制御などの他の制御法を用いても良い。
なお、この実施形態における直流出力電流指令値演算手段160及び直流出力電圧指令値演算手段170を、
図1の第1実施形態に係る制御装置100Aや
図10の第2実施形態に係る制御装置100Bに適用して直流出力電流I
dcやコンデンサ電圧V
dcを制御することも可能である。