特許第5769934号(P5769934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769934
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20150806BHJP
【FI】
   G01T1/20 D
   G01T1/20 C
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-148331(P2010-148331)
(22)【出願日】2010年6月29日
(65)【公開番号】特開2012-13460(P2012-13460A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年1月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】今川 恭四郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 絵里佳
(72)【発明者】
【氏名】高田 秀次
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−203755(JP,A)
【文献】 特開平03−239786(JP,A)
【文献】 実開昭58−180484(JP,U)
【文献】 特開平10−232284(JP,A)
【文献】 特開2009−198365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G01T 3/06
G21K 4/00
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面のうちの1以上の面を蛍光取出面として設定するとともに、その他の面を鏡面とし、前記蛍光取出面を、前記その他の面よりも面粗さが粗い粗面としたシンチレータと、
前記蛍光取出面に臨ませて配置した受光機構と、
前記その他の面に対向させつつ一定距離離間させて配置した反射部材とを具備し
前記反射部材と前記その他の面との間に空隙層が設けられており、
前記シンチレータが板状又は円盤状をなすものであり、該シンチレータの表裏両面を前記その他の面とするとともに、側端面を蛍光取出面とし、
前記受光機構が、受光素子と、前記蛍光取出し面と前記受光素子との間に設けられたライトガイドを具備し、
前記シンチレータの対向する一対の側端面がそれぞれ前記ライトガイドと接着されており、
前記ライトガイドにおいて前記その他の面と同じ方向を向く面に対向して第2の反射部材が設けられていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータが等厚薄板状をなすものであり、該シンチレータの表裏両面を前記その他の面とするとともに、周囲の側端面を蛍光取出面としたことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記受光機構が、等厚薄板状をなし一端を前記蛍光取出面に対向させて配置したライトガイドと、該ライトガイドの他端に臨ませて配置した受光素子とを具備し、前記ライトガイドの厚み寸法をシンチレータの厚み寸法よりも大きく設定したことを特徴とする請求項2記載の放射線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータを用いた放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の放射線検出器では、シンチレータの所定面を蛍光取出面としてこの蛍光取出面に光検出器を接続するとともに、他の面には光反射材を塗布又は貼り付けてシンチレータ内で発生した蛍光を逃がすことなく蛍光取出面から効率よく取り出せるようにしている。
【0003】
また、例えば特許文献1には、光反射材を前記他の面から離間させてそれらの間に空気層を設けるとともに、当該他の面の表面粗さを蛍光波長よりも大きい値に設定した放射線検出器が記載されている。
【0004】
表面粗さとは1つの値で定まるものではなく各種の値を有するものであり、特許文献1で述べられている表面粗さがそのどれに該当するのかは不明ではあるものの、上述した構成によって、この特許文献1以前の放射線検出器とは異なり、前記他の面の表面粗さの値に依存することなく空気層に漏れる蛍光の比率が一定となり、機器間の出力特性のばらつきを抑制できるとしてある。
【0005】
また、この特許文献1では、蛍光取出面の表面粗さを前記他の面の表面粗さと同一又はそれよりも小さくすることによって、蛍光の光検出器への伝達率が向上し、放射線検出感度の向上を図れるとも記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−268056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者が鋭意検討した結果、前記他の面の表面粗さを特許文献1のように粗くすると、シンチレータと空気層との間での蛍光の全反射量が減り、多くの蛍光は空気層に漏れてその後ろにある反射面で反射し、再度シンチレータに導入されることとなる。そして、前記境界での全反射においては反射率が100%であるのに対し、前記反射面での反射では、吸収が生じてそれに遠く及ばないことから、実際には蛍光取出効率が悪くなる。
【0008】
また、本発明者によるこれまでの実験やシミュレーションによれば、蛍光取出面の表面粗さを大きく設定しても、鏡面のように表面粗さを小さく設定したものと光伝達効率は大差なく、逆に蛍光取出面の表面粗さが大きい方が光伝達効率がよい場合もある(詳細は後述する)。さらに、薄板状シンチレータの場合、蛍光取出面はシンチレータの側端面に設定される場合が多く、特許文献1のようにその薄い幅の側端面の表面粗さを蛍光の波長以下にまで仕上げるには多大な手間がかかる。そうすると、光伝達効率向上という微妙で不確定なメリットよりも、むしろ、その加工手間によるコストアップ等のデメリットが大きな問題となる。
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであって、蛍光取出効率を向上できるとともに、簡単に製造できる放射線検出器を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る放射線検出器は、表面のうちの1以上の面を蛍光取出面として設定するとともに、その他の面を鏡面とし、前記蛍光取出面を、前記その他の面よりも面粗さが粗い粗面としたシンチレータと、前記蛍光取出面に臨ませて配置した受光機構と、前記その他の面に対向させつつ一定距離離間させて配置した反射部材とを具備していることを特徴とする。
【0010】
なお、鏡面とは、蛍光を実質的に散乱させることなく略正反射する表面粗さを有した面のことであり、粗面とは、蛍光が実質的に散乱する粗さを有した面のことである。より具体的には、例えば鏡面の表面粗さとして、JIS規格で言う算術平均高さRa及び/又は最大高さRz及び/又は十点平均高さRzJISが、蛍光の波長よりも小さいものを挙げることができ、粗面は前記鏡面よりも粗い表面を挙げることができる。
【0011】
しかしてこのようなものであれば、放射線照射によって生じたシンチレータ内での蛍光のうち、前記その他の面に対して一定以上浅い角度で進むものは、前記その他の面が空隙層に露出した鏡面であることから、空隙層との屈折率の違いによってここで100%の効率で全反射される一方、それよりも深い角度で進入したものは、前記その他の面を抜けてその外側にある反射部材によって反射される。
【0012】
すなわち、反射部材とその他の面との間に空隙層を設け、かつ該その他の面を鏡面としておくことによって、所定割合の蛍光が、確実に当該その他の面で全反射されることととなり、空隙層に漏れた残りの蛍光だけが反射部材で反射されることとなる。その結果、例えばシンチレータの表面に反射部材を塗布したもののように、全ての蛍光を反射部材で反射するものよりも反射効率が100%の全反射を有効使用できる分、全体としての反射効率が格段に向上するし、特許文献1のように、全反射の割合が小さいものに比べても、やはり反射効率が大きく向上する。このようにして、本発明によれば、蛍光を最大効率で蛍光取出面から導出することができるようになる。
【0013】
また、蛍光取出面が粗面であることは、上述した本発明者による検討からも明らかなように、光伝達を阻害する積極的な要因にはなり得ず、逆に、表面仕上げ加工の手間を削減できることによって、製造の簡単化やコストダウンに寄与し得る。
【0014】
より具体的な実施態様としては、前記シンチレータが等厚薄板状をなすものであり、該シンチレータの表裏両面を前記その他の面とするとともに、周囲の側端面を蛍光取出面としたものを挙げることができる。このようなシンチレータであると、蛍光取出面である側端面を粗く仕上げてもよいということとなり、シンチレータの側端面に実質的にほぼ仕上げ加工を施さず、ほぼ切りっぱなしでもよいということにつながるため、加工を大幅に簡素化できてその点での本発明の効果が顕著となる。
【0015】
本発明者が鋭意検討した結果によれば、前記受光機構が、等厚薄板状をなし一端を前記蛍光取出面に対向させて配置したライトガイドを備えたものにおいて、前記ライトガイドの厚み寸法をシンチレータの厚み寸法よりも若干大きく設定したものの蛍光伝達効率がよいことが判明した。具体的には、ライトガイドの厚み寸法がシンチレータの厚み寸法の1.1〜2.0倍、より厳密には約1.5倍が好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べた本発明によれば、その他の面を鏡面とし、当該その他の面と反射部材との間を離間させたことにより、その他の面での全反射を最大限に利用することができるようになり、蛍光を最大効率で蛍光取出面から導出することができるようになる。また、蛍光取出面を粗面としたことにより、表面仕上げ加工の手間を削減できるようになり、製造の簡単化やコストダウンに大幅に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態における放射線検出器を示す平面図。
図2】同実施形態における側断面図。
図3】同実施形態における部分拡大側断面図。
図4】同実施形態のシンチレータを示す模式的斜視図。
図5】蛍光取出面が鏡面の場合と粗面の場合とを比較したシミュレーション結果図。
図6】蛍光取出面が鏡面の場合と粗面の場合でのシンチレータの材料を変えて比較したシミュレーション結果図。
図7】本発明の他の実施形態における放射線検出器を示す平面図。
図8】同実施形態における側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る放射線検出器100は、γ線やβ線などの放射線を検出するものであり、図1図2に示すように1層のシンチレータユニット1と、各シンチレータユニット1に取り付けられた受光機構2とを具備している。
各部について説明する。
【0020】
シンチレータユニット1は、図1図2及び特に図3に示すように、例えば矩形(ここでは正方形)薄板状をなすシンチレータ11と、該シンチレータ11の各面板部、すなわち表裏面11aに対向して配置された薄膜状の一対の反射部材12と、前記シンチレータ11の外周縁部に配置されて当該シンチレータ11を保持する矩形枠体13とを具備したものである。
【0021】
前記シンチレータ11は、図3に詳細を、図4に模式図を示すように、放射線が入射されると、その入射位置で蛍光(シンチレーション光)が生じるもので、ここでは例えばNaIを素材とする1mm程度の厚みの透明板である。このシンチレータ11の面板部11aは、その表面粗さが蛍光を実質的に散乱させることなく略正反射する程度となるように鏡面加工されている。また、シンチレータ11のその他の面、すなわち、四方全ての側端面11bは、蛍光が実質的に散乱する粗さの面としてある。
【0022】
反射部材12は、図3に詳細を、図4に模式図を示すように、シンチレータ11の面板部と略同じ大きさを有する薄膜であり、その反射面の素材には、前記蛍光をその波長の実質的な全帯域に亘って可及的に高い反射率で反射できるものを用いている。ちなみにこの実施形態での反射部材12には、PETフィルムを用いている。
【0023】
枠体13は、図3に示すように、積層させた一対の枠体要素131からなる。枠体要素131は、例えばアクリル等の樹脂で形成された矩形枠状をなすものであり、その内周形状はシンチレータ11の外周形状と略等しい矩形状に設定してある。この枠体要素131間には、枠体要素131と平面視略同一形状をなす薄い等厚板状の第1のライトガイド21(詳細は後述する)が挟まれるようにして保持してあり、この第1のライトガイド21の内周端面21aに、前記シンチレータ11の側端面11bが、シリコーン樹脂などの空気よりも屈折率の大きい粘弾性を有した透明の光学中継材4を介して接続してある。なお、この光学中継材4としては、シンチレータ11とライトガイドとの屈折率の中間の屈折率を有するものが光伝達効率の観点からはより好ましい。
【0024】
また、同図に示すように、各枠体要素131の対向面における内周端部には、所定距離だけ凹ませた段部132が形成してあり、この段部132の表面に設定した反射部材保持面132aに、反射部材12の周縁部が接着剤等で貼り付けてある。この構成によって、当該反射部材12が、その反射面をシンチレータ11の表裏面11aと平行でかつ一定距離だけ離間させて、この枠体13に支持されるようにしてある。
なお、図3中、符号5は、シンチレータ11を気密に覆って潮解等を防止するためのカバーであり、ここではアルミニウムの薄膜を用いているが、シンチレータがプラスティック製のものなど潮解性を有しない場合は、このカバーは不要となる。
【0025】
受光機構2は、前記第1のライトガイド21と、該第1のライトガイド21の外周縁部にシリコーン樹脂などの光学中継材4を介して接続した第2のライトガイド22と、該第2のライトガイド22の外方端に臨ませて配置した受光素子23とを具備したものである。
【0026】
第1のライトガイド21は、その厚み寸法が約1.5mmの等厚透明板であり、前述したように、枠体要素131に挟み込まれて保持されている。なお、この実施形態では、図3に示すように、枠体要素131と第1のライトガイド21との間に、シンチレータ11に対して設けた反射部材12と同じ第2の反射部材12’を設けて、光の伝達効率向上を図っている。この第2の反射部材12’は、第1のライトガイド21と接着剤で接着されているが、その接着剤を部分的に設けるなどして、第2の反射部材12’と第1のライトガイド21との間に隙間ができるようにしている。また、第2の反射部材12‘は、第1の反射部材12と異なる材料を用いても構わない。
【0027】
第2のライトガイド22は、第1のライトガイド21の外周4辺からそれぞれ外方に延びる矩形等厚透明板であり、ここでは、その厚みを第1のライトガイド21と等しく設定してある。
【0028】
受光素子23は例えばフォトディテクタであり、図1に示すように、第2のライトガイド22の外方端部に複数が並べ設けてある。この受光素子23と第2のライトガイド22との間には、前記同様の光学中継材(図示しない)が充填されている。
【0029】
しかしてこのようなものであれば、図3に示すように、放射線照射によって生じたシンチレータ11内の蛍光のうち、前記シンチレータ11の表裏面11aに対して一定以上浅い角度で進むものは、当該表裏面11aが鏡面であり反射部材12との間に空隙層が存在することから、この境界での屈折率の違いによって、100%の効率で全反射される一方、それよりも深い角度で進入したものは、表裏面11aを抜けてその外側にある反射部材12によって反射され、最終的にシンチレータ11の側端面11b、すなわち蛍光取出面に導かれる。その後、蛍光は、ここから第1、第2のライトガイド22を通って受光素子23で検出される。
【0030】
つまり、本実施形態によれば、所定割合の蛍光が、確実にシンチレータ11の表裏面11aで全反射されることととなり、残りの空隙層に漏れた蛍光だけが反射部材12で反射されることとなる。したがって、例えばシンチレータ11の表面に反射部材を塗布したもののように、全ての蛍光を反射部材で反射するよりも反射効率が格段に向上し、その結果、蛍光を最大効率で蛍光取出面11bから導出することができるようになる。
【0031】
また、蛍光取出面であるシンチレータ側端面11bが粗面であるため、表面仕上げ加工の手間を削減できることによって、製造の簡単化やコストダウンに寄与し得る。しかも、このことは、光伝達を阻害する積極的な要因にはならず、むしろ本発明者による検討によれば、場合によっては鏡面よりも伝達効率が向上する可能性すらある。以下に、その検討結果を示す。
シンチレータの光取出面を鏡面にした場合、その外側に塗布されたシリコーン樹脂などの光学中継材に取り出すことができる到達光量率は、本発明者の理論計算によれば46.9%、シミュレーションでは58.5%である。
一方、シンチレータの光取出面を粗面にした場合、その粗面態様によって当該粗面での光吸収などによる損失が異なるので、横軸に、粗面での損失を考慮した光透過率、縦軸に光学中継材に取り出すことができる到達光量率をとってグラフに表すと、図5のようになる。
しかして、この図5から明らかなように、シンチレータの光取出面を粗面にした場合、その粗面での光吸収などによる損失が約20〜30%以下(粗面での光透過率が約70〜80%以上)となるような粗面態様にしておけば、鏡面を上回る効率で蛍光を取り出すことができる。
また、光取出面を粗面にした場合、図6に示すように、シンチレータの光屈折率が大きいほど、到達光量率は向上する。これは、鏡面の場合とは逆の傾向である。この技術によって屈折率の高い他のシンチレータ材料をより積極的に使用できるようになる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限られない。例えば、図7図8に示すように、第2のライトガイド22を、受光素子23との関係から、平面視徐々に幅が小さくなり、側面視徐々に厚みが大きくなるような異形状としてもよい。
また、シンチレータは、矩形平板状のものに限らず、円盤状のものでもよいし、ブロック状のものでもよい。蛍光取出面は、1面だけでも構わない。
受光素子もPMTなど、種々のタイプのものを用いることができる。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0033】
100・・・放射線検出器
11・・・シンチレータ
11a・・・その他の面(表裏面)
11b・・・蛍光取出面(側端面)
12・・・反射部材
2・・・受光機構
21・・・ライトガイド(第1のライトガイド)
22・・・ライトガイド(第2のライトガイド)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8