(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5769987
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/22 20060101AFI20150806BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
G01R27/22 Z
G01N27/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-46965(P2011-46965)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-184966(P2012-184966A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】小松 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉健
(72)【発明者】
【氏名】久森 陽介
【審査官】
川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−325077(JP,A)
【文献】
特開昭63−020085(JP,A)
【文献】
特開2001−056309(JP,A)
【文献】
実開平07−032525(JP,U)
【文献】
特開2002−333415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/22
G01N 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過渡応答状態を経過して所定状態に収束するまでに一定以上の時間を要する物性を検出する検出器から当該物性を示す出力信号を受信して、その物性の測定値を算出する算出部と、
前記算出部により算出された測定値を時系列に格納する格納部と、
前記格納部に格納された測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっているか否かを判定する判定部と、
前記判定部が測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっていると判定した時点から遡って、前記格納部に格納されている所定時間分の測定値を出力する出力部と、
前記判定部が前記算出部により算出された測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっていると判定した時点から遡って所定時間分の測定値を前記格納部から抽出し、この測定値を格納する安定時データ格納部とを備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記判定部が、ある時点の測定値R1と所定時間経過後の測定値R2との差分|R2−R1|を算出し、前記差分が予め定めた値Xに対して|R2−R1|≦Xである場合に、前記出力部が前記測定値を出力することを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記出力部が、前記測定値と、当該測定値を時系列に並べてなる時系列グラフとを出力する請求項1又は2記載の測定装置。
【請求項4】
前記物性が、導電率である請求項1、2又は3記載の測定装置。
【請求項5】
精製水を測定対象物とする請求項1、2、3又は4記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電率をはじめとする各種物性を測定する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用に用いられる製薬用水には、一定の品質を満たすことが求められるが、米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)は、現在の水質管理技術を踏まえて、製薬用水の品質に関する試験項目を導電率(電気伝導率)と有機体炭素(TOC)を基本とした簡素なものとしている。
【0003】
一方、日本薬局方(JP)における製薬用水の品質に関する試験項目は、旧来の化学試験を主体とした非常に項目数の多い煩雑なもののままとなっており、試験内容が現在の科学技術水準に見合ったものとなっていなかった。
【0004】
このため、国際調和の観点からも、日本薬局方の製薬用水各条の改正が、国内外から強く要望されていた。
【0005】
これを踏まえて、第十六改正日本薬局方(以下、JP16という。)では、製薬用水の純度試験を導電率と有機体炭素を基本とするものへの改正が予定されている。
【0006】
JP16では、導電率の試験方法は次のように定められている。まず、試験対象となる製薬用水(以下、本品という。)の適当量をビーカーにとり、かき混ぜる。温度を25±0.1℃に調節し、かき混ぜながら、一定時間ごとにこの液の導電率の測定を行う。5分あたりの導電率変化が0.1μS・cm
−1以下となったときの導電率を本品の導電率(25℃)とする。なお、導電率の測定が25℃ではなく、15〜30℃の範囲にある温度Tで行われた場合は、次の補正式を用いて25℃における導電率に換算する。そして、導電率(25℃)が2.1μS・cm
−1以下である場合に、本品はJP16に定めた基準を満たしている。
導電率(25℃)=導電率(T)×{1+0.021(25−T)}(μS・cm
−1)
導電率(T):温度T(℃)における導電率の実測値(μS・cm
−1)
T:測定温度(℃)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第十六改正日本薬局方
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、専門知識を備えた専従者を配置し、製薬用水の導電率のオフライン測定を行うことは、事業者にとって負担である。
【0009】
そこで本発明は、導電率をはじめとする各種物性の測定値が安定したことを自動的に検知して、その測定値を自動的にディスプレイ等に出力することが可能な測定装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る測定装置は、過渡応答状態を経過して所定状態に収束するまでに一定以上の時間を要する物性を検出する検出器から当該物性を示す出力信号を受信して、その物性の測定値を算出する算出部と、前記算出部により算出された測定値を時系列に格納する格納部と、前記格納部に格納された測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっているか否かを判定する判定部と、前記判定部が測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっていると判定した場合に、前記測定値を出力する出力部と、を備えていることを特徴とする。ここで、検出器とは、過渡応答を検出するとともに、過渡応答が収束したときに測定対象の物性を検出するものである。また、測定値とは、検出器からの物性を示す出力信号に直接対応する実測値だけでなく、更に補正等を施すことにより得られた補正値等の実測値と所定の関連を有する派生値も含むものとする。
【0011】
例えば、製薬用水の導電率をJP16に準拠して測定する場合、まず、試験対象となる製薬用水の適当量をビーカーにとり、かき混ぜるが、水の導電率は二酸化炭素(CO
2)の濃度に影響されるので、水中の二酸化炭素濃度が飽和に達するまでは、製薬用水の導電率の測定値は安定しない。
【0012】
このため、本発明に係る測定装置は、測定値の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっている場合に、測定値を出力するように構成することにより、製薬用水の導電率のように、測定値が安定するまでに一定以上の時間を要する物性を検出する場合であっても、安定時の測定値を自動的に得ることを可能とする。
【0013】
前記判定部は、具体的には、例えば、ある時点の測定値R1と所定時間経過後の測定値R2との差分|R2−R1|を算出し、前記差分が予め定めた値Xに対して|R2−R1|≦Xである場合に測定値を出力するように構成すればよい。ここで、Xは正の実数を表す。
【0014】
前記判定部は、測定値に加えて、当該測定値が時系列に並べられてなる時系列グラフをも出力するものであることが好ましい。例えば、測定値と時系列グラフとの両方をディスプレイに出力して、測定値とグラフとを合わせて表示することにより、測定結果の視認性が増し、測定結果を直感的に容易に把握することが可能となる。
【0015】
本発明に係る測定装置において、前記物性としては、例えば、導電率が挙げられ、また、その測定対象物としては、例えば、製薬用水等の精製水が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、導電率をはじめとする各種物性の測定値が安定したことを自動的に検知して、その測定値を自動的にディスプレイ等に出力することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置を示す外観斜視図。
【
図2】同実施形態に係る測定装置のハードウェア構成図。
【
図3】同実施形態に係る測定装置の機能ブロック構成図。
【
図4】同実施形態におけるディスプレイの画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る測定装置1は、
図1に示すように、測定対象物に接触させる導電率測定用のプローブ2と、そのプローブ2に無線又は有線ケーブルCLで接続された本体3とを備えたものであり、前記測定対象物の導電率を測定して前記本体3に設けたディスプレイ85にその測定値を表示するものである。
【0020】
以下に各部を説明する。
プローブ2は、交流式電極法を採用し、左右で対となった電圧検出極とその両側の電圧印加極とがセル内に配置されている導電率測定用のものであり、本実施形態におけるプローブ2は、更に、温度センサを内蔵している。
【0021】
本体3は、
図2及び
図3に示すように、ハードウェア構成として、CPU81、A/D変換器82、記憶装置83、入力手段84、ディスプレイ85等を一体的に備えた専用のものである。そしてCPU81や必要に応じてその周辺機器が、記憶装置83に格納したプログラムに基づいて動作することにより、測定データ算出部91、測定データ格納部92、判定部93、出力部94、グラフ描画部95、安定時データ格納部96等としての機能を発揮する。
【0022】
測定データ算出部91は、A/D変換器82によって所定の間隔(例えば測定対象物が製薬用水である場合、0.5秒インターバル)でサンプリングされ、デジタル値に次々変換されるプローブ2の出力信号の値、すなわちプローブ2で発生した電位から、既知の緩衝液を用いて予め測定し記憶させておいた基準となる電位と比較する等して、測定対象物の温度Tにおける導電率(実測値)を示す測定データを算出する。
【0023】
測定データ算出部91は、温度補正機能も備えており、例えば測定対象物が製薬用水である場合は、A/D変換器82によって所定の間隔でサンプリングされる温度センサの出力信号の値から、下記の補正式に従い、温度Tにおける導電率(実測値)を示す測定データを25℃における導電率(補正値)を示す測定データに換算する。
【0024】
導電率(25℃)=導電率(T)×{1+0.021(25−T)}(μS・cm
−1)
導電率(T):温度T(℃)における導電率の実測値(μS・cm
−1)
T:測定温度(℃)
【0025】
測定データ格納部92は、記憶装置83の所定領域に設定されたもので、測定データ算出部91で次々算出される測定データを逐次格納するものである。
【0026】
判定部93は、測定データ格納部92に時系列的に格納されている各測定データを参照し、それら測定データの示す導電率の所定時間内での変化が予め定めた一定範囲内に収まっている場合に、測定値が安定したと判断して、出力部94に当該測定データをディスプレイ85に出力するよう指示するものである。
【0027】
具体的には、ある時点の測定値R1と所定時間経過後の測定値R2との差分|R2−R1|を算出し、当該差分が予め定めた値Xに対して|R2−R1|≦Xである場合に、出力部94に測定値R2を示す測定データを測定データ格納部92から取得してディスプレイ85に出力するよう指示する。一方、測定値R2が予め定めた値Xを超えている場合は、判定部93から指示された出力部94により、測定値R2が値Xを超えている旨の表示信号がディスプレイ85に出力される。また、25℃におけるある時点の測定値R1と5分経過後の測定値R2との差分|R2−R1|が、予め設定された所定時間内に|R2−R1|≦Xにならなかった場合は、判定部93から指示された出力部94により、予め設定された所定時間内に物性の測定が終了しなかった旨の表示信号がディスプレイ85に出力される。
【0028】
なお、測定対象物が製薬用水である場合は、25℃におけるある時点の測定値R1と5分経過後の測定値R2との差分|R2−R1|が、|R2−R1|≦0.1(μS・cm
−1)である場合に、測定値R2を示す測定データをディスプレイ85に出力する。そして、測定値R2が2.1μS・cm
−1以下である場合に、当該製薬用水はJP16に定めた基準を満たしている。一方、測定値R2が2.1μS・cm
−1を超えている場合は、例えば「JP規格外」等の表示がディスプレイ85になされ、測定対象物である製薬用水がJP16に定めた基準を満たしていないことが通知される。また、25℃におけるある時点の測定値R1と5分経過後の測定値R2との差分|R2−R1|が、予め設定された所定時間内に|R2−R1|≦0.1(μS・cm
−1)にならなかった場合は、例えば「Errふらつき」等の表示がディスプレイ85になされ、予め設定された所定時間内に導電率の測定が終了しなかったことが通知される。
【0029】
グラフ描画部95は、
図4に示すように、測定データ格納部92に格納された測定データを時系列グラフ851として描画するものである。本実施形態では、横軸に時間、縦軸に導電率をとって、時系列グラフ851を表示している。
【0030】
具体的には、測定対象物が製薬用水である場合は、25℃におけるある時点の測定値R1と5分経過後の測定値R2との差分|R2−R1|が、|R2−R1|≦0.1(μS・cm
−1)以下である場合に、判定部93からの信号を受けて、例えば測定開始直後から所定時間の範囲での一連の測定データを測定データ格納部92から取得し、それら測定データに基づいて25℃における導電率の時間変化をグラフ表示させるためのグラフ描画データを生成する。作成されたグラフ描画データは、判定部93からの指示を受けた出力部94によりディスプレイ85に送信される。
【0031】
また、|R2−R1|≦Xである場合に、判定部93が測定値が安定したと判断した時点から所定時間分の測定データが、記憶装置83の所定領域に設定された安定時データ格納部96又は図示しない外部記録装置に出力されて、一組のデータとして関連付けて格納される。
【0032】
したがって、このように構成した本実施形態に係る測定装置1によれば、測定値が安定したことを自動的に検知し、安定時の測定値がグラフとともにディスプレイ85上に表示されるので、不慣れな作業者であっても安定時の測定値を容易に得ることができる。
【0033】
また、測定値が安定した時点から所定時間分を内外の記録装置に出力して、これらを一組のデータとして関連付けて格納するので、データ管理が容易になる。
【0034】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0035】
測定対象となる物性としては導電率に限定されず、過渡応答状態を経過して所定状態に収束するまでに一定以上の時間を要する物性であればいずれであってもよく、例えば、pH、酸化還元電位、イオン濃度、溶存酸素等であってもよい。その場合、プローブ(検出器)も、測定目的に応じたものが適宜選択されて使用される。また、測定対象物も、製薬用水等の精製水に限定されず任意のサンプルを用いることができる。
【0036】
また、測定装置1が報知ブザーや報知ランプ等を備えていて、|R2−R1|≦Xになると、当該報知ブザーや報知ランプ等が判定部93から信号を受けて、安定期に達したことを音や光等で作業者に知らしめるように構成されていてもよい。
【0037】
その他本発明は、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0038】
1・・・測定装置
3・・・本体
93・・・判定部