(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のアンテナ部品とその製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は実施形態のアンテナ部品を示す斜視図である。
図2ないし
図6は実施形態のアンテナ部品における磁心材料が挿入された中空部品を示す断面図である。これらの図において、1はアンテナ部品、2は磁心材料、3は中空部品、4はコイルである。アンテナ部品1は、中空部品3内に挿入された磁心材料2を有している。磁心材料2は軟磁性体粉末と樹脂との混合物を硬化させたものである。磁心材料2が挿入された中空部品3の外周には、コイル4が巻回されている。これらによって、アンテナ部品1が構成されている。
【0010】
磁心材料2を構成する軟磁性体粉末は、高周波域における透磁率が大きな磁性材料からなることが好ましい。軟磁性体粉末は、鉄アルミシリコン合金(センダスト)、鉄ニッケル合金(パーマロイ)、鉄ニッケルモリブデン合金(モリブデンパーマロイ)、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジウム合金、鉄コバルトボロン合金、コバルト基アモルファス合金、鉄基アモルファス合金、カルボニル鉄、カルボニルニッケル、カルボニルコバルト、鉄、ニッケル、およびコバルトから選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0011】
軟磁性体粉末は、その表面を被膜で覆ったコアシェル構造を有するものであってもよい。被膜は窒化物、炭化物、および酸化物から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。被膜の構成材料としては、Al、Si、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Zn、Mn、および希土類元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む酸化物、AlN、Si
3N
4、SiC等が挙げられる。被膜は軟磁性体粉末の表面を直接窒化処理、炭化処理、または酸化処理して形成したものであってもよい。
【0012】
軟磁性体粉末の表面を被膜で覆うことによって、酸化等による特性劣化を抑制することができる。後述するナノ金属粒子を使用する場合、ナノ金属粒子の特性を安定して発揮させる上で、粒子個々を被膜で覆って酸化等を抑制することが好ましい。窒化物、炭化物、酸化物等からなる被膜に代えて、樹脂被膜やNiメッキ膜等の耐食性に優れる金属被膜を適用してもよい。樹脂被膜は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、セルロース系樹脂、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ABS樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、あるいはそれらの共重合体からなるものが好ましい。
【0013】
いずれの被膜を用いる場合であっても、被膜の厚さは1nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。軟磁性体粉末の平均粒径が10nm以上100nm未満の微粉末のときには、被膜の厚さは薄いことが好ましく、具体的には1nm以上7nm以下の範囲であることが好ましい。被膜付きの軟磁性体粉末をコアシェル型軟磁性体粉末と呼ぶ。
【0014】
軟磁性体粉末の平均粒径は特に限定されるものではないが、10nm以上1μm以下の範囲であることが好ましい。平均粒径が10nm未満の軟磁性体粉末は調製が難しい。軟磁性体粉末の平均粒径が1μmを超えると、アンテナの高周波特性が低下する。アンテナ部品1を100MHz以上の無線信号アンテナとして用いる場合、軟磁性体粉末の平均粒径は100nm以下が好ましい。アンテナ部品1を1GHz以上の無線信号アンテナとして用いる場合、軟磁性体粉末の平均粒径は50nm未満が好ましい。ここでは、平均粒径が100nm以下の軟磁性体粉末をナノ金属粒子と呼ぶ。
【0015】
高周波で低損失のアンテナ特性を得るためには、渦電流損失を抑制することが不可欠である。このような点に対しては、平均粒径が1μm以下の軟磁性体粉末、さらには平均粒径が100nm以下のナノ金属粒子が有効である。すなわち、微細な軟磁性体粉末を磁心の構成材料として使用することによって、渦電流損失を抑制することができる。このため、軟磁性体粉末は平均粒径が100nm以下のナノ金属粒子であることが好ましい。このような軟磁性体粉末を含む磁心材料2を適用することによって、アンテナ部品1の高周波域における損失を低減することが可能となる。
【0016】
ナノ金属粒子としては、例えばニッケル、コバルト、鉄のシュウ酸塩等の有機酸塩を熱分解して得た微細な酸化物を水素で低温還元して得られるニッケル粉、コバルト粉、鉄粉等や、硫酸第一鉄溶液を中和して得た微細な鉄粉等が挙げられる。他の方法としては、ニッケル、コバルト、鉄等の金属を減圧化で加熱蒸発させ、気相で凝固させてニッケル粉、コバルト粉、鉄粉等を得る方法が挙げられる。これらの方法はニッケル、コバルト、鉄等の微粉末に限らず、それらの合金やさらにAlやSi等の酸化物の標準生成ギブスエネルギーが小さい金属を添加した合金にも適用可能である。
【0017】
ナノ金属粒子は溶液中で還元した微粉末であってもよく、例えばニッケルやコバルトのアンモニア錯イオンを含む溶液を、高温、高圧中で水素還元して得られるニッケル粉やコバルト粉等が挙げられる。さらに、ニッケルカルボニル(Ni(CO)
4)や鉄カルボニル(Fe(CO)
5)を熱分解して得られたカルボニルニッケル粉やカルボニル鉄粉等であってもよい。平均粒径が100nm未満の粉末は極めて微細であるため、前述した被膜を保護層として設け、軟磁性体粉末の酸化等による劣化を防止することが好ましい。
【0018】
軟磁性体粉末の結合剤として用いられる樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、セルロース系樹脂、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやそれらの共重合体等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマー等が例示される。これらは1種で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。軟磁性体粉末を結合する樹脂としては、酸素バリア性が高いエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等がより好ましい。
【0019】
中空部品3は、
図2ないし
図6に示すように、内側の寸法がR2の筒状部5と、筒状部5の一方の端部に設けられた隔壁部6と、筒状部5の他方の端部に設けられた開放部7とを有している。
図2ないし
図6において、コイル4の図示は省略している。中空部品3の筒状部5の形状は特に限定されるものではなく、円筒状(楕円を含む)および角筒状のいずれであってもよい。中空部品3の筒状部5は、円筒形状を有することが好ましい。円筒状の中空部品3であれば、その外周にコイル4を巻回したときに、中空部品3とコイル4との距離を一定にできるため、アンテナ特性を向上させることができる。
【0020】
中空部品3が円筒形状を有する場合、筒状部5の内側の寸法R2は円筒形状の内径(直径)を示す。また、中空部品3が角筒形状を有する場合、筒状部5の内側の寸法R2は角筒形状の最小内側寸法を示す。例えば、角筒状の筒状部5の断面が四角形である場合には、四角断面の最小辺の長さを示す。筒状部5が多角形状の断面を有する場合にも、同様に内側の最小距離を示すものとする。筒状部5の寸法R2は、磁心材料2の挿入口となる開放部7の内寸法(円筒状の筒状部5の内径等)に相当する。
【0021】
中空部品3の形成材料としては、液晶ポリマー(LCP)やABS樹脂等の絶縁樹脂(工業用プラスチック)を用いることが好ましい。中空部品3の肉厚は0.05〜0.85mmの範囲であることが好ましい。中空部品3の肉厚が0.05mm未満であると、中空部品3の強度が不十分になりやすい。中空部品3の肉厚が0.85mmを超えると、磁心材料2とコイル4との距離が離れすぎてしまうために、アンテナ特性が低下するおそれがある。中空部品3の肉厚は0.1〜0.5mmの範囲であることがより好ましい。中空部品3は、その内部に挿入された磁心材料2の形状を維持したり、また磁心材料2を保護するものであり、磁心材料2のケース(ボビン)の役割を果たすものである。
【0022】
中空部品3の筒状部5の一方の端部に設けられた隔壁部6には、中空部品の寸法R2より小さい寸法R1(R1<R2)を有する穴8が形成されている。穴8の形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、多角形等が挙げられる。穴8の寸法R1は、具体的には0.05mm≦R1≦0.5mmの範囲とする。穴8の寸法R1は0.1mm≦R2≦0.35mmの範囲であることがより好ましい。穴8の寸法R1は、その形状が円形の場合には直径、楕円形の場合には短径、多角形の場合には最小内側寸法を示す。
【0023】
穴が設けられていない隔壁部を有する中空部品内に、軟磁性体粉末と樹脂との混合物(硬化前の混合物)を充填しようとすると、混合物の粘性が高いこと等に起因して、中空部品内に混合物を隙間なく充填することは難しい。さらに、中空部品内に混合物を充填する際に、中空部品内の空気を巻き込んでしまい、中空部品内に大きな空隙が生じてしまうおそれが大きい。中空部品内に大きな空隙が生じると、磁心材料とコイルとの距離が拡大したり、また距離が不均一になるため、アンテナ特性を低下させる要因となる。
【0024】
このような点に対して、中空部品3の隔壁部6に予め穴8を形成しておくことによって、中空部品3の開放部7から軟磁性体粉末と樹脂との混合物を充填する際に、中空部品3の内部に存在する空気が隔壁部6の穴8から抜ける。このため、中空部品3の内部に空隙が形成されにくくなる。従って、中空部品3の内部に軟磁性体粉末と樹脂との混合物を隙間なく充填することが可能となる。穴8の寸法R1が0.05mm未満であると、中空部品3内の空気を効率よく排出することができない。一方、穴8の寸法R1が0.5mmを超えると、穴8から混合物が流出して外観不良が生じやすくなる。
【0025】
磁心材料2の寸法は特に限定されるものではないが、例えば円柱形状を有する場合には直径が1〜5mmの範囲、長さが10〜100mmの範囲であることが好ましい。磁心材料2は、中空部品3の筒状部5の形状に対応させて角柱形状を有していてもよい。その場合の寸法は、円柱形状の磁心材料2の寸法に準じるものとする。すなわち、四角柱形状を有する磁心材料2の形状は、一辺の長さ(長方形の場合には短辺)が1〜5mmの範囲、長さが10〜100mmの範囲であることが好ましい。中空部品3の形状は、このような磁心材料2の形状に合わせて調整されるものである。
【0026】
中空部品3の形状が長いときや細いときには、混合物の注入時に隔壁部6の穴8から空気が十分に抜けないおそれがある。このようなときは、
図3に示すように、隔壁部6に設けられた第1の穴8に加えて、中空部品3の側壁部(筒状部5)に第2の穴9を設けることが好ましい。第2の穴9の形状は、第1の穴8と同様である。第2の穴9の寸法R3は、第1の穴8の寸法R1と同様に、0.05mm≦R3≦0.5mmの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1mm≦R3≦0.35mmの範囲である。第2の穴9の寸法R3は、第1の穴8の寸法R1と同様な意味を有する。
図3は筒状部5に1個の穴9を設けた例を示したが、筒状部5には必要に応じて複数個の穴9を設けてもよい。
【0027】
このように、中空部品3の隔壁部6に穴8を設けておくことによって、中空部品3の内部に存在する空気を穴8から逃がしながら、軟磁性体粉末と樹脂との混合物を注入することができる。従って、中空部品3の内部に生じる空隙を抑制することが可能となる。さらに、筒状部5にも穴9を設けておくことによって、中空部品3の内部に生じる空隙をより確実に抑制することができる。これらによって、アンテナ部品1の任意の断面において、磁心材料2と中空部品3の内面とが接触している領域を、中空部品3の内周(円筒状の筒状部5の内面の円周等)に対して50%以上とすることができる。
【0028】
磁心材料2と中空部品3の内面とが接触している領域の測定方法は、磁心材料2が挿入された中空部品3を任意に切断し、その断面において中空部品3の内面と磁心材料2とが接しているか否かを観察する。中空部品3の内面の円周(筒状部5が円筒状の場合)を100%としたときの磁心材料2の接している領域の割合を測定する。なお、中空部品3が多角形の場合には、内面の内周に対して接触している領域を示すものとする。
【0029】
磁心材料2と中空部品3の内面とが接触している領域を中空部品3の内周に対して50%以上とすることで、中空部品3の内部における軟磁性体粉末の存在量が均一化されるため、アンテナ特性を高めることができる。磁心材料2と中空部品3の内面とが接触している領域は、中空部品3の内周に対して70%以上100%以下とすることがより好ましい。この実施形態のアンテナ部品1によれは、このような磁心材料2の中空部品3への充填状態を再現性よく得ることができる。
【0030】
中空部品3の隔壁部6は、
図4に示したように、筒状部5の最端部より内側(中空部品3の開放部7側)にずらして配置してもよい。この場合、中空部品3の隔壁部6が配置された端部側には、筒状部5が外側に延長された延長部10が形成される。
図4において、L1は中空部品3の長手方向の長さ、L2は延長部10の同方向の長さである。
図4に示す中空部品3は、延長部10の長さL2の分だけ隔壁部6を内側に設けた構造を有する。
【0031】
中空部品3内に軟磁性体粉末と樹脂との混合物を注入するときに、中空部品3の内部に存在する空気は穴8から抜ける。この際、混合物の粘度や注入圧力によっては、穴8から混合物がはみ出してしまうことがある。混合物があまり大きくはみ出すと外観不良となり、はみ出た混合物を除去するといった余分な工程が必要になる。隔壁部6を内側に設けて延長部10を形成することで、穴8から混合物がはみ出したとしても、少量であれば中空部品3の外表面にはみ出さなくなる。混合物が中空部品3の外表面にはみ出さなければ外観不良とはならないので、製造工程の管理が行いやすくなる。
【0032】
延長部10の長さL2は特に限定されるものではないが、0.1〜3mmの範囲とすることが好ましい。延長部10の長さL2が3mmを超えると、磁心材料2が充填されていない領域が増えることになるため、アンテナ部品1の特性が低下したり、あるいはアンテナ部品1が必要以上に大きくなってしまう。延長部10の長さL2が0.1mm未満の場合には、延長部10を設ける効果を十分に得ることができない。
【0033】
軟磁性体粉末と樹脂との混合物を中空部品3内に充填する際に、隔壁部6の穴8から混合物が必要以上にもれて外観不良となることを防ぐ方法として、延長部10の形状を肉厚にすることが挙げられる。
図5は肉厚の延長部10を有する中空部品3を示している。延長部10を肉厚とすることによって、隔壁部6の穴8から混合物がもれた場合においても、混合物が延長部10の内側に直ちに接するため、混合物が中空部品3の外側までもれ出すおそれが低くなる。すなわち、中空部品3の外表面への混合物のはみ出しによる外観不良、それによる工数の増加や歩留りの低下を抑制することが可能となる。
【0034】
軟磁性体粉末と樹脂との混合物の穴8からのもれを防ぐために、予め混合物を中空部品3の形状に合わせて成形し、さらに硬化させたものを、中空部品3内に挿入してもよい。中空部品3の形状が円筒状の場合には、混合物を円柱状に成形して硬化させる。中空部品3の形状が角筒状の場合には、混合物を角柱状(四角柱等)に成形して硬化させる。ただし、混合物の硬化体の形状が中空部品3の形状より大きいと、中空部品3の形状に合わせて加工する必要が生じる。硬化体を加工すると、割れや欠け等により歩留りが低下しやすい。また、硬化体の形状を中空部品3の形状(開放部7の形状)と同一とすると、硬化体を中空部品3内に挿入しにくくなるおそれがある。
【0035】
このようなことから、軟磁性体粉末と樹脂との混合物の硬化体を使用する場合、その形状は中空部品3の形状より若干小さくすることが好ましい。ただし、硬化体をあまり小さくしすぎると、磁心材料2の量が不足してアンテナ特性が低下する。このため、硬化体の寸法は中空部品3の寸法R2より0.1〜0.3mmの範囲で小さくすることが好ましい。さらに、中空部品3の内面と磁心材料2との間に隙間が生じる場合には、隙間に樹脂を充填することが好ましい。隙間への樹脂の充填は硬化体を使用する場合に限らない。
【0036】
図6は、予め軟磁性体粉末と樹脂との混合物を成形、硬化した磁心材料(成形体)2が挿入され、磁心材料2との隙間に樹脂11が充填された中空部品3を示している。
図6に示す中空部品3は延長部10を有しているが、当然ながら延長部10を有さない中空部品3であってもよい。
図6は中空部品3の開放部7側の隙間にも樹脂11を充填した状態を示しているが、樹脂11は筒状部5の内面と磁心材料2との隙間のみに充填してもよい。
【0037】
磁心材料2と中空部品3との隙間に充填する樹脂11は、磁心材料2を構成する樹脂と同様に、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、セルロース系樹脂、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムやそれらの共重合体等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマー等が例示される。これらは1種または2種以上の混合物として用いられる。樹脂11としては、酸素バリア性が高いエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等が好ましい。
【0038】
磁心材料2が挿入された中空部品3の外周には、コイル4が巻回される。コイル4には、金属線、金属箔、金属膜等が用いられる。コイル4はその表面に絶縁被膜を有するものであってもよい。コイル4となる巻線のサイズは任意であるが、直径1mm以下の金属線、あるいは幅が2mm以下で厚さが0.5mm以下の金属箔が好ましい。金属膜としては、メッキ、スパッタ、CVD等の成膜方法により形成したものが用いられる。金属膜の幅は2mm以下であることが好ましく、また厚さは1mm以下であることが好ましい。
【0039】
コイル4となる巻線のサイズが上記範囲を超えると、中空部品3に巻回するときに巻線のスプリングバックが大きくなり、中空部品3とコイル4との距離を一定に保ちにくくなる。このような場合には、巻回したコイル4の表面に樹脂コーティングを施すことが有効である。金属線の直径は0.1mm以上が好ましい。金属箔の幅は0.2mm以上、厚さは0.02mm以上が好ましい。金属膜の幅は0.1mm以上、厚さは0.01mm以上が好ましい。このようなサイズより小さい巻線は製造するのが困難であり、かえって製造コストを増加させる要因となるおそれがある。
【0040】
この実施形態のアンテナ部品1は、アンテナ特性に優れ、特に電気特性長の短縮効果が望めるため、100MHz以上の無線信号アンテナに好適である。周波数の上限は磁心材料2の特性にもよるが、軟磁性体粉末の透磁率が有効であれば3GHz程度となる。透磁率が3GHz程度まで有効な磁性体としては、前述した鉄アルミシリコン合金、鉄ニッケル合金、鉄ニッケルモリブデン合金、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジウム合金、鉄コバルトボロン合金、コバルト基アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄粉等が挙げられる。
【0041】
このようなアンテナ部品1は、様々な通信機能を有する電子機器に適用できる。そして、アンテナの小型・薄型化を実現することができ、さらにアンテナ特性を向上させることができる。アンテナ部品1は100MHz以上の高周波領域で有効であるため、無線LAN用電子機器、地上デジタル放送用電子機器、携帯電話等の携帯通信用電子機器に使用することで、受信特性を向上させることができ、さらに電子機器の特性を向上させることができる。アンテナ部品1は100MHz〜3GHz、さらには100MHz〜1GHzの範囲の周波数域の電波を使用する通信機器に対して有効である。
【0042】
次に、実施形態のアンテナ部品1の製造方法について、
図7および
図8を参照して説明する。
図7は第1の実施形態によるアンテナ部品の製造工程を示す断面図、
図8は第2の実施形態によるアンテナ部品の製造工程を示す断面図である。なお、アンテナ部品1を製造する方法は、ここで示す製造方法に限定されるものではない。ここではアンテナ部品1を効率よく製造するための方法を説明する。
【0043】
第1の実施形態によるアンテナ部品の製造方法は、内側の寸法がR2の筒状部と、筒状部の一方の端部に設けられた隔壁部と、筒状部の他方の端部に設けられた開放部とを有する中空部品を用意する工程と、軟磁性体粉末と樹脂との混合物を、中空部品内に開放部から充填する工程と、中空部品内に充填された混合物中の樹脂を硬化させる工程と、中空部品の外周にコイルを巻回する工程とを具備する。隔壁部には、前述したように0.05mm≦R1≦0.5mm、R1<R2を満足する寸法R1を有する穴が設けられている。
【0044】
まず、軟磁性体粉末と樹脂とを混合する。軟磁性体粉末の構成については、前述した通りである。また、樹脂の種類等も前述した通りである。ここで、樹脂の粘度は室温で0.5〜3Pa・sの範囲であることが好ましい。樹脂の粘度が0.5Pa・s未満であると粘度が小さすぎて、中空部品3の隔壁部6に設けた穴8から混合物が流れ出やすくなる。一方、樹脂の粘度が3Pa・sを超えると粘性が高すぎて、中空部品3の内部に充填しにくくなる。また、軟磁性体粉末との均一混合に時間がかかる等の不具合も生じる。軟磁性体粉末と樹脂とは、真空脱泡処理を行いながら混合することが好ましい。真空中で混合することで、軟磁性体粉末と樹脂との混合物中に空気が混入することが抑制される。
【0045】
次に、穴8が形成された隔壁部6を有する中空部品3を用意する。中空部品3の形状の詳細は前述した通りである。
図7に示すように、中空部品3の開放部7から軟磁性体粉末と樹脂との混合物12を充填する。このとき、樹脂の粘度が0.5〜3Pa・sの範囲であると、中空部品3への混合物の充填性を高めつつ、隔壁部6に形成した穴8から混合物が必要以上に流れ出ることを防ぐことができる。樹脂の粘度は室温で0.5〜2Pa・sの範囲であることがより好ましい。さらに、中空部品3の開放部7を上にして混合物12を中空部品3内に充填していくと、隔壁部6の穴8から空気が抜けやすい。
【0046】
また、中空部品3が延長部10を有する場合には、隔壁部6の穴8から混合物が少量もれても外観不良とはならない。また、余分な空気が入らないようにするために、混合物は真空含浸することが好ましい。さらに、中空部品3の側壁部(筒状部)にも穴を設けておくことで、中空部品3の内部に存在する空気を効率よく排出することができる。その結果、中空部品3の内部に空隙を形成することなく混合物12を充填することができる。
【0047】
次に、混合物12中の樹脂を硬化させる。硬化工程は樹脂に応じて実施する。例えば、熱硬化型樹脂を用いた場合には、熱を加えて樹脂を硬化させる。紫外線硬化型樹脂を用いた場合には、紫外線を照射して樹脂を硬化させる。この後、中空部品3の外周にコイル4を巻回する。コイル4を構成する巻線については、前述した通りである。コイル4を巻回した後、その表面に樹脂コーティングを施して絶縁性を確保してもよい。
【0048】
第2の実施形態によるアンテナ部品の製造方法は、内側の寸法がR2の筒状部と、筒状部の一方の端部に設けられた隔壁部と、筒状部の他方の端部に設けられた開放部とを有する中空部品を用意する工程と、軟磁性体粉末と第1の樹脂との混合物を成形および硬化させて成形体を得る工程と、成形体を中空部品内に開放部から挿入する工程と、中空部品と成形体との間の隙間に第2の樹脂を充填する工程と、第2の樹脂を硬化させる工程と、中空部品の外周にコイルを巻回する工程とを具備する。隔壁部には、0.05mm≦R1≦0.5mm、R1<R2を満足する寸法R1を有する穴が設けられている。
【0049】
まず、軟磁性体粉末と樹脂とを混合する。軟磁性体粉末の構成については、前述した通りである。また、樹脂の種類等も前述した通りである。軟磁性体粉末と樹脂との混合物を所望の形状に成形した後に硬化させて成形体とする。
図8(a)に示すように、成形体13を中空部品3の開放部7から挿入する。成形体13の寸法は中空部品3への挿入を考慮して、中空部品3の寸法R2より0.1〜0.3mmの範囲で小さいことが好ましい。
図8(b)に示すように、成形体13と中空部品3との間の隙間に樹脂14を充填する。
【0050】
成形体13と中空部品3との隙間に樹脂14で充填することによって、中空部品3の内部の空気を逃がすことができ、さらに樹脂14が穴8から漏れて外観不良になることを防ぐことができる。隙間に充填する樹脂14は、成形体13とのなじみをよくするために、混合物を構成する樹脂と同じものであることが好ましい。また、樹脂の粘度は中空部品3内に空隙が生じにくくするために、室温で0.05〜3Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜2Pa・sの範囲である。
【0051】
次に、成形体13と中空部品3との隙間に充填した樹脂14を硬化させる。硬化工程は樹脂に応じて実施する。具体的な硬化工程は、第1の実施形態と同様である。この後、中空部品3の外周にコイル4を巻回する。コイル4を構成する巻線については、前述した通りである。コイル4を巻回した後、樹脂コーティングを施して絶縁性を確保してもよい。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の具体的な実施例について述べる。
【0053】
(実施例1)
高周波誘導熱プラズマ装置のチャンバ内に、プラズマ発生用ガスとしてアルゴンを40L/分で導入してプラズマを発生させた。このチャンバ内のプラズマに、平均粒径が10μmのFe粉末と平均粒径が3μmのAl粉末とを、FeとAlとの比率が質量比で20:1になるようにアルゴン(キャリアガス)と共に3L/分で噴射した。同時に、チャンバ内に炭素被覆の原料としてアセチレンガスをキャリアガスと共に導入した。このようにして、FeAl合金粒子を炭素で被覆したナノ粒子を得た。
【0054】
炭素で被覆したFeAl合金のナノ粒子を500mL/分の水素フロー下で、600℃にて還元処理し、室温まで冷却した後、酸素を0.1体積%含むアルゴン雰囲気中に取り出して酸化することによって、コアシェル型軟磁性体粉末を製造した。得られたコアシェル型軟磁性体粉末は、コアである軟磁性体粉末の平均粒径が15nmで、酸化物被膜の厚さが3nmの構造を有していた。
【0055】
次に、得られたコアシェル型軟磁性体粉末と室温での粘度が2.5Pa・sのエポキシ樹脂とを真空中で混合した。軟磁性体粉末の比率は40体積%とした。この混合物を液晶ポリマー製の中空部品内に充填した。中空部品は円筒形状を有し、各部の形状は筒状部(開放部)の内径R2が2mm、長さL1が30.5mm、隔壁部の穴の直径R1が0.3mm、肉厚が0.1mmとした。この中空部品は延長部を有していない。混合物の充填は、中空部品の開放部を上にした状態で自然落下により実施した。この後、加熱してエポキシ樹脂を硬化させた。このような中空部品に直径が0.3mmのポリウレタン被覆線を巻回(直巻き/15ターン)してコイルを形成した。このようにして、実施例1のアンテナ部品を作製した。
【0056】
(実施例2、3)
表1および表2に示すように、隔壁部の穴の直径R1、延長部の有無と長さL2、樹脂の粘度を変更する以外は、実施例1と同様にしてアンテナ部品を作製した。
【0057】
(実施例4)
実施例1と同様な製造方法によって、コアである軟磁性体粉末の平均粒径が10nmのコアシェル型軟磁性体粉末を製造した。コアシェル型軟磁性体粉末の比率が35体積%となるように、コアシェル型軟磁性体粉末とエポキシ樹脂とを真空脱泡処理しながら混合した。次に、得られた混合物を縦2.25mm×横2.25mm×長さ25mmの四角柱形状に成形し、さらに樹脂を硬化させて成形体とした。
【0058】
次に、角筒形状の中空部品を用意した。中空部品は、開放部の形状が2.3mm×2.3mm(R2=2.3mm)の四角形で、長さL1が26mmの四角筒形状を有している。中空部品は肉厚が0.1mmの液晶ポリマーで形成した。隔壁部の穴の直径R1は0.4mm、延長部はなしとした。四角筒形状の中空部品に四角柱形状の成形体(混合物の成形および硬化体)を挿入した後、隙間に粘度(常温)が0.1Pa・sのエポキシ樹脂を真空含浸した。加熱して隙間に充填した樹脂を硬化させた後、中空部品の外周に直径が0.3mmのポリウレタン被覆線を巻回(直巻き/15ターン)してコイルを形成した。このようにして、実施例4のアンテナ部品を作製した。
【0059】
(実施例5)
表1および表2に示すように、中空部品の隔壁部の穴の直径R1を0.05mm、延長部の長さL2を0.2mmとする以外は、実施例4と同様にしてアンテナ部品を作製した。中空部品と成形体との隙間に真空含浸する樹脂は、粘度(常温)が1Pa・sのエポキシ樹脂とした。
【0060】
(実施例6)
表1および表2に示すように、隔壁部の穴の直径R1を0.5mm、延長部の長さL2を0.3mmとし、また側壁部(筒状部)に直径R3が0.1mmの穴を1個設けた中空部品を用いる以外は、実施例4と同様にしてアンテナ部品を作製した。筒状部の穴は長さL1の1/2のところに設けた。中空部品と成形体との隙間に真空含浸する樹脂は、粘度(常温)が0.8Pa・sのエポキシ樹脂とした。
【0061】
(実施例7)
実施例1と同様な製造方法によって、コアである軟磁性体粉末の平均粒径が10nmのコアシェル型軟磁性体粉末を製造した。コアシェル型軟磁性体粉末の比率が45体積%となるように、コアシェル型軟磁性体粉末とエポキシ樹脂とを真空脱泡処理しながら混合した。次に、得られた混合物を直径2mm×長さ35mmの円柱形状に成形し、さらに樹脂を硬化させて成形体とした。
【0062】
次に、円筒形状の中空部品を用意した。中空部品は、開放部の直径R2が2.2mm、長さL1が36.5mmの円筒形状を有している。中空部品は肉厚が0.1mmの液晶ポリマーで形成した。隔壁部の穴の直径R1は0.1mm、延長部はなしとした。中空部品は、筒状部に設けられた3個の穴を有する。穴の直径R3は0.05mmとした。筒状部の穴は、L1の30%および70%のところに1個ずつ形成し、さらに反対側のL1の50%(L1の1/2)ところに1個形成した。
【0063】
上記した円筒形状の中空部品に円柱形状の成形体(混合物の成形および硬化体)を挿入した後、隙間に粘度(常温)が0.08Pa・sのエポキシ樹脂を真空含浸した。加熱して隙間に充填した樹脂を硬化させた後、中空部品の外周に直径が0.3mmのポリウレタン被覆線を巻回(直巻き/17ターン)してコイルを形成した。このようにして、実施例7のアンテナ部品を作製した。
【0064】
(実施例8)
表1および表2に示すように、中空部品の筒状部の穴の直径R3を0.3mm、延長部の長さL2を0.7mmに変更すると共に、延長部の肉厚を0.2mmと厚くする以外は、実施例7と同様にしてアンテナ部品を作製した。中空部品と成形体との隙間に真空含浸する樹脂は、粘度(常温)が0.4Pa・sのエポキシ樹脂とした。
【0065】
(実施例9)
表1および表2に示すように、中空部品の筒状部の穴の直径R3を0.5mm、延長部の長さL2を1.2mmに変更すると共に、延長部の肉厚を0.2mmと厚くする以外は、実施例7と同様にしてアンテナ部品を作製した。中空部品と成形体との隙間に真空含浸する樹脂は、粘度(常温)が1Pa・sのエポキシ樹脂とした。
【0066】
(比較例1)
隔壁部に穴を形成していない中空部品を使用する以外は、実施例1と同様にしてアンテナ部品を作製した。
【0067】
(比較例2)
隔壁部の穴の直径R1を0.7mmと大きくした中空部品を使用する以外は、実施例1と同様にしてアンテナ部品を作製した。
【0068】
実施例1〜9および比較例1〜2のアンテナ部品をそれぞれ100個ずつ作製した。各アンテナ部品について、外観不良の割合、樹脂の充填割合、アンテナ特性を調べた。その結果を表2に示す。外観不良の割合は、隔壁部の穴および側壁部に穴を設けた場合は側壁部の穴から、軟磁性体粉末と樹脂との混合物、または隙間に充填した樹脂が、0.1mm以上漏れたものの割合を調査した。0.1mm以上漏れたものがない場合は良品(○)、0.1mm以上の漏れがあった場合は不良(×)と表示した。樹脂の充填割合は、アンテナ部品の任意の断面を切断し、中空部品の内面と樹脂(軟磁性体粉末と樹脂との混合物)の接触している領域を中空部品の内周を100%としたときの割合で調べた。
【0069】
アンテナ特性は、振動試験後の放射効率の低下率を測定した。まず、各アンテナ部品に加速度43.2m/s
2、周波数33.3Hz、XYZ方向(3方向)、各方向3時間ずつの振動を与え、振動負荷の前後でアンテナの放射効率が−2dB以上低下するか、または磁心材料(軟磁性体粉末と樹脂との混合物を硬化させたもの)の固定不良が生じたものの有無を調べた。放射効率が−2dB以上低下したもの、または固定不良が生じたものを不良(×)とし、放射効率が−2dB以上低下しないもの、または固定不良が発生しないものを良品(○)として示した。
【0070】
放射効率の低下は、ダイポールアンテナと比較した値として測定した。ダイポールアンテナとしては、同軸ケーブルの中心線(中心導体)と網線(外部導体)を、それぞれ長さ15cmの銅線(直径2mm)で引き出して、全長30cmの長さにしたものを用いる。引き出した銅線をアンテナ素子(エレメント)と呼ぶ。空間中に電界があると、アンテナ素子の両端に電位差が生じ、電波が同軸ケーブルの中に流れていくことになる。アンテナ素子を15cm×2本で全長30cmとしたのは、受信したい電波を500MHzに設定し、波長500MHzの半分(λ/2)の値に基づいて設定した。アンテナ素子の全長は、アンテナ全長=λ/2=300/FREQ/2[m]、FREQ:周波数[MHz]により求めることができる。
【0071】
まず、ダイポールアンテナ(標準アンテナ)を地上デジタルチューナ等の電子機器に接続して全方位角の受信強度を測定する。このとき、標準アンテナと対向するアンテナは水平、垂直偏波を測定するものとする。次に、標準アンテナを測定するアンテナ(実施例および比較例)に置き換えて、全方位角の受信強度を測定する。そして、各例のアンテナの放射電力と標準アンテナの放射電力の比を放射効率とする。このような方法によって、500MHzの周波数について放射効率の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表2から明らかなように、実施例1〜9によるアンテナ部品は、いずれも外観不良がなく、また磁心材料と中空部品との接触面積が大きいことから耐振動性に優れている。従って、小型・高性能で耐久性に優れるアンテナ部品を提供することができる。
【0075】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。