特許第5770323号(P5770323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770323
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】焼結体及びアモルファス膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20150806BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20150806BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20150806BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20150806BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20150806BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   C04B35/00 P
   C23C14/34 A
   C23C14/24 E
   C23C14/08 C
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-40380(P2014-40380)
(22)【出願日】2014年3月3日
(62)【分割の表示】特願2013-119611(P2013-119611)の分割
【原出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-166950(P2014-166950A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-149357(P2012-149357)
(32)【優先日】2012年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-287729(P2012-287729)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】奈良 淳史
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−219359(JP,A)
【文献】 特開昭62−041756(JP,A)
【文献】 特開2013−144821(JP,A)
【文献】 特開2013−189657(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/145152(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/148154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00,35/453
C23C 14/00−14/58
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛(Zn)、3価の金属元素、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、3価の金属元素の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でmol%としたとき、15<A+≦70であり、前記3価の金属元素が、ガリウム(Ga)及びイットリウム(Y)からなる群から選択される一種以上の元素で、該3価の金属元素の総含有量が、3価の金属元素/(Zn+3価の金属元素)の原子数比で0.1以上であることを特徴とする焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項2】
亜鉛(Zn)、ボロン(B)、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、ボロン(B)の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量をSiO換算でmol%としたとき、15<A+≦70であり、ボロン(B)の総含有量が、/(Zn+)の原子数比で0.1以上であることを特徴とする焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項3】
前記Siの総含有量が、SiO換算で5≦≦30mol%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項4】
さらに、融点が1000℃以下の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有し、該融点が1000℃以下の酸化物が、B、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物であることを特徴とする請求項1又は3のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項5】
さらに、融点が1000℃以下の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有し、該融点が1000℃以下の酸化物が、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物であることを特徴とする請求項2に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項6】
相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項7】
バルク抵抗値が10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材。
【請求項8】
亜鉛(Zn)、3価の金属元素、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、3価の金属元素の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でmol%としたとき、15≦A+≦70であり、該3価の金属元素が、ガリウム(Ga)及びイットリウム(Y)からなる群から選択される一種以上の元素で、該3価の金属元素の総含有量が、3価の金属元素/(Zn+3価の金属元素)の原子数比で0.1以上である焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材により成膜されたアモルファス膜であることを特徴とする薄膜。
【請求項9】
亜鉛(Zn)、ボロン(B)、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、ボロン(B)の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でmol%としたとき、15≦A+≦70であり、ボロン(B)の総含有量が、/(Zn+)の原子数比で0.1以上である焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材により成膜されたアモルファス膜であることを特徴とする薄膜。
【請求項10】
さらに、B、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有することを特徴とする請求項8に記載の薄膜。
【請求項11】
さらに、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有することを特徴とする請求項9に記載の薄膜。
【請求項12】
波長450nmにおける消衰係数が0.01以下であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の薄膜。
【請求項13】
波長550nmにおける屈折率が2.00以下であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の薄膜。
【請求項14】
体積抵抗率が1×10−3〜1×10Ω・cmであることを特徴とする請求項8〜13のいずれか一項に記載の薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な可視光の透過率と導電性を備えた透明導電膜を得ることが可能な焼結体及び該焼結体を用いて作製した低屈折率を有するアモルファス膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜として、酸化インジウムにスズを添加した膜、すなわち、ITO(Indium-Tin-oxide)膜が透明かつ導電性に優れており、各種ディスプレイ等広範囲な用途に使用されている。しかし、このITOは主成分であるインジウムが高価であるために、製造コストの面で劣るという問題がある。
【0003】
このようなことから、ITOの代替品として、例えば、酸化亜鉛(ZnO)を用いた膜を用いる提案がなされている。酸化亜鉛を主成分とする膜であるため、価格が安いという利点がある。このような膜は、主成分であるZnOの酸素欠損により導電性が増す現象が知られており、導電性と光透過性という膜特性がITOに近似すれば、このような材料の利用が増大する可能性がある。
【0004】
ところで、ディスプレイ等において可視光を利用する場合、その材料が透明である必要があり、特に、可視光領域の全域において高透過率であることが好ましい。また、屈折率が高いと光損失が大きくなったり、ディスプレイの視野角依存性を悪化したりすることから低屈折率であることや、膜のクラックやエッチング性能を向上させるためにアモルファス膜であることも望まれる。
【0005】
アモルファス膜は応力が小さいため、結晶膜に比べてクラックが起こりにくく、今後、フレキシブル化に向かうディスプレイ用途ではアモルファス膜であることが求められると考えられる。なお、先のITOでは、抵抗値や透過率を向上するために、結晶化する必要があり、また、アモルファスとすると、短波長域に吸収を持ち、透明膜にはならないため、このような用途には適していない。
【0006】
酸化亜鉛を用いた材料として、IZO(酸化インジウム−酸化亜鉛)、GZO(酸化ガリウム−酸化亜鉛)、AZO(酸化アルミニウム−酸化亜鉛)などが知られている(特許文献1〜3)。しかし、IZOは低抵抗のアモルファス膜とすることができるが、短波長域に吸収も持ち、屈折率が高いという問題がある。また、GZO、AZOは、ZnOのc軸配向のし易さにより、結晶化膜になりやすく、このような結晶化膜は応力が大きくなるため、膜剥がれや膜割れ等の問題がある。
【0007】
また、特許文献4には、ZnOとフッ化アルカリ土類金属化合物を主成分とする幅広い屈折率を実現した透光性導電性材料が開示されている。しかし、これは結晶化膜であって、後述する本発明のようなアモルファス膜の効果は得られない。また、特許文献5には、屈折率が小さく、かつ、比抵抗が小さく、さらには非晶質の透明導電膜が開示されているが、本発明とは組成系が異なり、屈折率と抵抗値とを共に調整できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−008780号公報
【特許文献2】特開2009−184876号公報
【特許文献3】特開2007−238375号公報
【特許文献4】特開2005−219982号公報
【特許文献5】特開2007−035342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、良好な可視光の透過率と導電性を維持できる透明導電膜、特には、低屈折率のアモルファス膜を得ることが可能な焼結体を提供することを課題とする。この薄膜は、透過率が高く、且つ、機械特性に優れているため、ディスプレイの透明導電膜や光ディスの保護膜に有用である。これによって、光デバイスの特性の向上、設備コストの低減化、成膜の特性を大幅に改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、従来のITOなどの透明導電膜を下記に提示する材料系へと置き換えることで、抵抗率と屈折率とを任意に調整することが可能となり、従来と同等又はそれ以上の光学特性を確保すると共に、スパッタリング又はイオンプレーティングによる安定的な成膜が可能であり、さらにアモルファス膜とすることで、該薄膜を備える光デバイスの特性改善、生産性向上が可能であるとの知見を得た。
【0011】
本発明はこの知見に基づき、下記の発明を提供する。
1)亜鉛(Zn)、3価の金属元素、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、3価の金属元素の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でDmol%としたとき、15<A+D≦70であり、前記3価の金属元素が、ガリウム(Ga)及びイットリウム(Y)からなる群から選択される一種以上の元素で、該3価の金属元素の総含有量が、3価の金属元素/(Zn+3価の金属元素)の原子数比で0.1以上であることを特徴とする焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
【0012】
2)亜鉛(Zn)、ボロン(B)、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、ボロン(B)の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量をSiO換算でDmol%としたとき、15<A+D≦70であり、ボロン(B)の総含有量が、B/(Zn+B)の原子数比で0.1以上であることを特徴とする焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
【0013】
3)前記Siの総含有量が、SiO換算で5≦D≦30mol%であることを特徴とする上記1)又は2)に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
4)さらに、融点が1000℃以下の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有し、該融点が1000℃以下の酸化物が、B、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
【0014】
5)さらに、融点が1000℃以下の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有し、該融点が1000℃以下の酸化物が、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物であることを特徴とする上記2)に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
6)相対密度が90%以上であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
7)バルク抵抗値が10Ω・cm以下であることを特徴とする上記1)〜6)のいずれか一項に記載の焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材
【0015】
8)亜鉛(Zn)、3価の金属元素、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、3価の金属元素の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でDmol%としたとき、15≦A+D≦70であり、該3価の金属元素が、ガリウム(Ga)及びイットリウム(Y)からなる群から選択される一種以上の元素で、該3価の金属元素の総含有量が、3価の金属元素/(Zn+3価の金属元素)の原子数比で0.1以上である焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材により成膜されたアモルファス膜であることを特徴とする薄膜
【0016】
9)亜鉛(Zn)、ボロン(B)、シリコン(Si)、酸素(O)からなり、ボロン(B)の総含有量が酸化物換算でAmol%、Siの総含有量がSiO換算でDmol%としたとき、15≦A+D≦70であり、ボロン(B)の総含有量が、B/(Zn+B)の原子数比で0.1以上である焼結体からなるスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材により成膜されたアモルファス膜であることを特徴とする薄膜
【0017】
10)さらに、B、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有することを特徴とする上記8)に記載の薄膜。
11)さらに、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOからなる群から選択される一種以上の酸化物を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有することを特徴とする上記10)に記載の薄膜。
12)波長450nmにおける消衰係数が0.01以下であることを特徴とする上記8)〜11)のいずれか一項に記載の薄膜
13)波長550nmにおける屈折率が2.00以下であることを特徴とする上記8)〜12)のいずれか一項に記載の薄膜
14)体積抵抗率が1×10−3〜1×10Ω・cmであることを特徴とする上記8)〜13)のいずれか一項に記載の薄膜
【発明の効果】
【0018】
従来のITOなどの透明導電膜を、上記に示す材料へと置き換えることにより抵抗率と屈折率とを任意に調整することが可能となり、従来と同等又はそれ以上の光学特性を確保すると共に、スパッタリング又はイオンプレーティングによるによる安定的な成膜が可能であり、さらにアモルファス膜とすることで該膜を備えた光デバイスの特性改善、生産性を向上することが可能となるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、亜鉛(Zn)、3価の金属元素、ゲルマニウム(Ge)及び/又はシリコン(Si)、酸素(O)を構成元素とする焼結体であって、3価の金属元素の総含有量が換算でAmol%、Ge及び/又はSiの総含有量がGeO及び/又はSiO換算でBmol%としたとき、15≦A+B≦70を満たすことを特徴とする。
【0020】
原料の調整の際に、残部をZnOとして各酸化物の比率をその合計が100mol%の組成となるように調整するため、Znの含有量は、このような残部のZnO換算から求めることができる。このような組成とすることで、低屈折率のアモルファス膜を形成することができ、本発明の上記効果が得られる。
なお、本発明では、焼結体中の各金属の含有量を酸化物換算で規定しているが、焼結体中の各金属はその一部又は全てが複合酸化物として存在している。また、通常用いられる焼結体の成分分析では、酸化物ではなく、金属として、それぞれの含有量が測定される。
【0021】
本発明の焼結体に含有する酸化ゲルマニウム(GeO)及び二酸化珪素(SiO)はガラス化成分(ガラス形成酸化物)であって、膜をアモルファス化(ガラス化)させるのに有効な成分である。一方で、このガラス化成分は、酸化亜鉛(ZnO)と反応して、ZnGeのような物質を形成して結晶化膜となることがあり、このような結晶化膜は膜応力が大きくなって、膜剥がれや膜割れを引き起こす。そこで、3価の金属元素(Mとする)を導入することで、ムライト組成(3M−2GeO、3M−2SiO)を形成させて、このような物質の生成を阻害することが期待できる。
【0022】
また、酸化ゲルマニウム(GeO)や酸化ケイ素(SiO)のようなガラス形成酸化物や、3価の金属元素の酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)よりも低屈折材料であるため、これら酸化物の添加により膜の屈折率を下げることができる。一方で、屈折率を下げるように組成を調整していくと(ZnOを減らしていくと)、抵抗値が高くなる傾向にある。
したがって、3価の金属元素の酸化物の総添加量(A)、酸化ゲルマニウム及び/又は二酸化珪素の総添加量(B)としたとき、15≦A+B≦70とする。A+B<15では、アモルファスになり難いため好ましくなく、A+B>70とすると、ZnOの含有量が少なくなり、絶縁性の膜となるため、好ましくない。
【0023】
本発明において、3価の金属元素の含有量を酸化物換算で規定しているが、ここでの酸化物は、3価の金属元素をMとしたときに、Mから構成される酸化物を意味する。
例えば、3価の金属元素であるアルミニウム(Al)の場合、Alからなる酸化物を意味する。3価の金属元素としては、特に、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ボロン(B)、イットリウム(Y)及びインジウム(In)からなる群から選択される一種以上の元素であることが好ましい。
【0024】
3価の金属元素は酸化亜鉛(ZnO)のドーパントとして導電性に寄与するが、中でもAl、Ga、B、Y、Inは屈折率が低く、前記ガラス形成酸化物との組み合わせによって、屈折率と抵抗値との調整を容易にすることができるため、特に有効な材料である。これらの金属元素からなる酸化物は、それぞれ単独添加及び複合添加が可能であり、本願発明の目的を達成することができる。
【0025】
本発明において、ガラス形成酸化物を構成するGe及び/又はSiの総含有量はGeO及び/又はSiO換算で5mol%以上、30mol%以下とするのが好ましく、より好ましくは5mol%以上、20mol%以下とする。5mol%未満であると、屈折率低下の効果が小さくなるとともに十分なアモルファス化の効果が得られない。一方、30mol%(20mol%)超であると、焼結体のバルク抵抗値が上がりやすく、安定したDCスパッタがし難くなるからである。
また、本発明において、前記3価の金属元素の総含有量は、3価の金属元素/(Zn+3価の金属元素)の原子数比で0.1以上とすることが好ましく、より好ましくは、0.15以上とする。この場合、低屈折率化とアモルファス化に有効である。この効果を発揮ささるために、原子数比で0.1以上、より好ましくは0.15以上とする。
【0026】
また、本発明は、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)の酸化物からなり、Gaの含有量がGa換算でAmol%、Geの含有量がGeO換算でBmol%、残部ZnOとしたとき、15≦A+B≦50、かつ、A≧3B/2、の条件を満たす焼結体を提供する。この成分組成からなる焼結体は、特にイオンプレーティング用の材料として有用である。
イオンプレーティング法は、真空中で金属を電子線などで蒸発させ、高周波プラズマ等によりイオン化し(カチオン)、基板に負電位を与えることにより、そのカチオンを加速して付着させ膜を形成する技術である。イオンプレーティングは、スパッタリングに比べ材料の使用効率が高く、生産性の向上が見込まれるといったメリットがある。
【0027】
本発明の焼結体は、上記のような一部の組成において、イオンプレーティング材として利用可能となる。これは、GaやGeの元素と組成比を選択することにより、蒸気圧等が低下して、イオンプレーティングが可能になるからである。
イオンプレーティング材として使用する場合は、焼結体を仕上げ加工した板状のものを使用できるほか、この焼結体をさらに粉砕して粉末又は粒状としたものを使用することもできる。粉砕して粉末又は粒状にしたものは、板状のものに比べて、蒸発しやすいので、生産効率の観点から、より好ましい。
【0028】
さらに本発明の焼結体は、融点が1000℃以下の酸化物(低融点酸化物)を形成する金属を酸化物重量換算で0.1〜5wt%含有させることができる。酸化亜鉛(ZnO)は還元・蒸発し易いため、焼結温度をそれほど上げることができず、焼結体の密度を向上させることが困難ということがある。しかし、このような低融点酸化物を添加することで、焼結温度をそれほど上げることなく、高密度化が達成できるという効果を有する。
0.1wt%未満では、その効果が発揮できず、また5wt%を超えると、特性に変動が生じるおそれがあるため、好ましくないので、上記の数値範囲とする。
【0029】
前記低融点酸化物としては、例えば、B、P、KO、V、Sb、TeO、Ti、PbO、Bi、MoOを挙げることができる。これらの酸化物は、それぞれ単独添加及び複合添加が可能であり、本願発明の目的を達成することができる。本発明の焼結体は、スパッタリングターゲットとして使用することができ、その場合、相対密度が90%以上とすることが好ましい。密度の向上はスパッタ膜の均一性を高め、また、スパッタリング時のパーティクルの発生を抑制できる効果を有する。
【0030】
本発明の焼結体は、そのバルク抵抗が10Ω・cm以下を達成できる。バルク抵抗値の低減化により、直流(DC)スパッタリングによる高速成膜が可能となる。材料の選択によっては高周波(RF)スパッタリング又はマグネトロンスパッタリングを必要とするが、その場合でも成膜速度の向上がある。成膜速度の向上により、生産のスループットを改善することができ、コスト削減に大きく寄与することができる。
【0031】
本発明において、焼結体を加工して得られるターゲットをスパッタ成膜して得られる膜、又は上記イオンプレーティングにより形成られた膜は、アモルファス(非晶質膜)であることが重要である。得られた膜がアモルファス膜であるかは、例えばX線回折法を用いてZnOの(002)面のピークが現れる2θ=34.4°付近の回折強度を観察することにより判断することができる。ZnOを主成分とする薄膜は膜応力が大きいため、結晶化膜であるとクラックや割れが発生し、さらには、膜の剥離等の問題が生じていたが、この薄膜をアモルファス膜とすることによって、膜応力による割れやクラック等の問題を回避することができるという優れた効果を有する。
【0032】
本発明の焼結体を機械加工して得られるターゲットをスパッタして形成した膜、又は上記イオンプレーティングにより形成られた膜は、波長450nmにおける消衰係数が0.01以下を達成することができる。ディスプレイ用の薄膜は可視光の全域において透明であることが必要であるが、IZO膜等の酸化物系膜は一般に短波長域に吸収を持つため、鮮明な青色を発色させることが困難であった。本発明によれば、波長450nmにおける消衰係数が0.01以下と、短波長域において吸収がほとんどないため、透明材料として極めて適した材料といえる。
【0033】
また、本発明の焼結体を機械加工して得られるターゲットをスパッタして形成した膜、又は上記イオンプレーティングにより形成された膜は、波長550nmにおける屈折率が2.00以下(好ましくは、1.90以下)を達成することができる。さらに、前記膜の体積抵抗率を1×10−3〜1×10Ω・cmを実現することができる。
酸化ゲルマニウム(GeO)や二酸化珪素(SiO)、3価の金属元素からなる酸化物(中でもAl、Ga、B、Y、In)は、酸化亜鉛(ZnO)よりも低屈折率の材料であるため、これらの酸化物の添加によって、従来のよりも低屈折率の膜を得ることができる。
【0034】
また、本発明の焼結体を機械加工して得られるターゲットをスパッタして形成される膜は、又は上記イオンプレーティングにより形成られた膜は、有機ELテレビなどの各種ディスプレイ中の透明導電膜や光情報記録媒体の保護層を形成する光学薄膜に用いることができる。光情報記録媒体の保護層の場合には、特にZnSを使用していないので、Sによる汚染がなく、これによる記録層の劣化がなくなるという著しい効果がある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例、参考例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0036】
参考例1
ZnO粉、Al粉、SiO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料を真空中、温度1100℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。
その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は99.3%に達し、バルク抵抗は2.1mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0037】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、スパッタリングを行った。スパッタ条件は、DCスパッタ、スパッタパワー500W、O2を2vol%含有するArガス圧0.5Paとし、膜厚1500〜7000Åに成膜した。成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.80(波長550nm)、体積抵抗率は2×10Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0038】
表1
【0039】
(実施例2)
ZnO粉、Ga粉、SiO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1100℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.5%に達し、バルク抵抗は1.6mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0040】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.89(波長550nm)、体積抵抗率は2×10−1Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0041】
参考例3
ZnO粉、Al粉、GeO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1100℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.6%に達し、バルク抵抗は3.6mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0042】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.79(波長550nm)、体積抵抗率は5×10Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0043】
参考例4
ZnO粉、Y粉、GeO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1000℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.3%に達し、バルク抵抗は7.6mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0044】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.88(波長550nm)、体積抵抗率は7×10Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0045】
参考例5
ZnO粉、In粉、GeO粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1050℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。
得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は98.7%に達し、バルク抵抗は1.3mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0046】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。
表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.88(波長550nm)、体積抵抗率は2×10−3Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0047】
参考例6
ZnO粉、B粉、SiO粉と、低融点酸化物として、Bi粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料を圧力500kgf/cmでプレス成形し、この成形体を真空中、温度1300℃で常圧焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.5%に達し、バルク抵抗は2.3Ω・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0048】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.73(波長550nm)、体積抵抗率は3×10Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0049】
参考例7
ZnO粉、Ga粉、GeO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載される配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料を圧力500kgf/cmでプレス成形し、この成形体をアルゴン雰囲気中、温度1100℃で常圧焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は99.8%に達し、バルク抵抗は0.9mΩ・cmとなり、安定したDCスパッタが可能であった。
【0050】
また、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した。表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜であって、その屈折率は1.89(波長550nm)、体積抵抗率は2×10−3Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)と、低屈折率のアモルファス膜が得られた。
【0051】
(比較例1)
ZnO粉、Ga粉、GeO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載されるようにA+B<15の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1050℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。
【0052】
得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は95.8%、バルク抵抗は1.2mΩ・cmとなり、DCスパッタが可能であった。 しかし、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜はアモルファス膜とはならかった。なお、屈折率は1.98(波長550nm)、体積抵抗率は3×10−3Ω・cm、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であった。
【0053】
(比較例2)
ZnO粉、Al粉、SiO粉と、低融点酸化物として、B粉を準備した。次に、これらの粉末を表1に記載されるようにA+B>70の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、温度1100℃、圧力250kgf/cmの条件でホットプレス焼結した。その後、この焼結体を機械加工でスパッタリングターゲット形状に仕上げた。
【0054】
得られたターゲットのバルク抵抗と相対密度を測定した結果、表1に示す通り、相対密度は96.4%、バルク抵抗は40mΩ・cmとなり、DCスパッタが可能であった。しかし、上記仕上げ加工したターゲットを使用して、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行い、成膜サンプルの非晶質性(アモルファス性)、屈折率(波長550nm)、体積抵抗率、消衰係数(波長450nm)を測定した結果、表1に示す通り、スパッタにより形成した薄膜の体積抵抗率は1×10Ω・cm超と絶縁性を示した。なお、屈折率は1.66(波長550nm)、消衰係数は0.01未満(波長450nm)のアモルファス膜であった。
【0055】
(実施例8)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=80.0:13.0:7.0mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0056】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、表2に示すように、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜の屈折率は1.87(波長550nm)に達した。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は1×10−2Ω・cmと導電性を示した。また、アモルファス膜であることが確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例9)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=52.7:29.4:17.9mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0059】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜の屈折率は1.71(波長550nm)に達した。
また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は3×10Ω・cmと導電性を示した。また、アモルファス膜であることが確認された。
【0060】
(実施例10)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=66.3:20.6:13.1mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0061】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜はアモルファスであることが確認された。また、その膜の屈折率は1.75(波長550nm)に達した。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は6×10Ω・cmと導電性を示した。
【0062】
(実施例11)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=74.5:16.9:8.6mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0063】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜は、アモルファスであることが確認された。また、屈折率は1.82(波長550nm)に達した。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は8×10−2Ω・cmと導電性を示した。
【0064】
(実施例12)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=67.7:23.4:8.9mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0065】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜はアモルファスであることが確認された。また、その膜の屈折率は1.77(波長550nm)に達した。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は3×10−1Ω・cmと導電性を示した。
【0066】
(実施例13)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=50.2:41.9:7.9mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0067】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜はアモルファスであることが確認された。また、その膜の屈折率は1.66(波長550nm)に達した。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は3×10Ω・cmと導電性を示した。
【0068】
(比較例3)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=85.0:2.2:12.8mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0069】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、安定したイオンプレーティングができ、作製した膜の屈折率は1.94(波長550nm)であった。また、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は4×10−3Ω・cmと導電性を示した。しかし、膜が結晶化していることが確認された。
【0070】
(比較例4)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=44.0:34.0:22.0mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0071】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、作製した膜はアモルファスとなっていたが、また、膜の屈折率は1.68(波長550nm)、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は>1×10Ω・cmと導電性が著しく低下していた。
【0072】
(比較例5)
3N相当で5μm以下のZnO粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGa粉、3N相当で平均粒径5μm以下のGeO粉、を準備した。次に、ZnO粉とGa粉とGeO粉とをZnO:Ga:GeO=90.0:7.0:3.0mol%の配合比に調合し、これを混合した後、粉末材料をアルゴン雰囲気中、850°C、250kgf/cmの圧力でホットプレス焼結してイオンプレーティング用焼結体とした。
【0073】
この焼結体を用いて、イオンプレーティングを実施した結果、膜の屈折率は1.93(波長550nm)、消衰係数は0.01未満(波長450nm)であり、薄膜の体積抵抗率は1×10−3Ω・cmと導電性を示したが、作成した膜は結晶化していた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の焼結体は、スパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材とすることができ、これらのスパッタリングターゲット又はイオンプレーティング材を使用して形成された薄膜は、各種ディスプレイにおける透明導電膜や光ディスクの保護膜を形成して、透過率、屈折率、導電性において、極めて優れた特性を有するという効果がある。また本発明の大きな特徴は、アモルファス膜であることにより、膜のクラックやエッチング性能を格段に向上させることができるという優れた効果を有する。
【0075】
また、本発明の焼結体を用いたスパッタリングターゲットは、バルク抵抗値が低く、相対密度が90%以上と高密度であることから、安定したDCスパッタを可能とする。そして、このDCスパッタリングの特徴であるスパッタの制御性を容易にし、成膜速度を上げ、スパッタリング効率を向上させることができるという著しい効果がある。必要に応じてRFスパッタを実施するが、その場合でも成膜速度の向上が見られる。また、成膜の際にスパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができる。
【0076】
さらに、本発明の焼結体を用いたイオンプレーティング材は、低屈折率のアモルファス膜を成膜することができるので、膜応力によるクラックや割れ、膜の剥離の発生を抑制することができるという効果を有する。このようなアモルファス膜は、特に光情報記録媒体の保護層を形成する光学薄膜、有機ELテレビ用薄膜、透明電極用薄膜に有用である。