特許第5770331号(P5770331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5770331貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法及び貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770331
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法及び貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20150806BHJP
   B22F 9/30 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   B22F1/00 K
   B22F1/00 J
   B22F9/30 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-72762(P2014-72762)
(22)【出願日】2014年3月31日
(62)【分割の表示】特願2010-526663(P2010-526663)の分割
【原出願日】2009年8月18日
(65)【公開番号】特開2014-159638(P2014-159638A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2008-219133(P2008-219133)
(32)【優先日】2008年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】荒川 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−176810(JP,A)
【文献】 特開2003−313659(JP,A)
【文献】 特開2008−078496(JP,A)
【文献】 特開2008−060347(JP,A)
【文献】 特開2007−081308(JP,A)
【文献】 特開2005−264206(JP,A)
【文献】 特開平07−196365(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 9/00− 9/30
C22C 5/04
C22C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属の塩化アンモニウム塩の粉末と酸化物粉末とを混合し、次にこの混合粉末を、大気中又は水素含有ガス雰囲気中、350°C以上、800°C以下で焙焼し、この焙焼により塩化アンモニウムを脱離させて混合粉末とした貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末であって、該混合粉末の、塩素1000ppm未満、窒素1000ppm未満であり、貴金属粉末の粒径の90%以上が20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上が12μm以下であることを特徴とする貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末。
【請求項2】
貴金属が、白金、金、ルテニウム、パラジウム、イリジウムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末。
【請求項3】
酸化物が、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブテン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属と酸化物を含んだ成分のターゲットを製造する場合の原料として使用する、貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末及びその製造方法、特に貴金属粉末と酸化物粉末の混合粉末を安価に製造する方法と、得られた貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属と酸化物を含んだ成分のターゲットは、(Co−Cr−Pt)+SiOターゲットに代表されるように、磁気記録媒体の記録層用スパッタリングターゲットに使用されている。このターゲット製造には、貴金属粉末(微粉)が必要である。
【0003】
貴金属微粉の従来の製造方法は、白金を例に取ると下記のようである。まず、白金の原料(例えば、白金のスクラップ)を王水に溶かし、王水では溶けなかった残渣を濾別する。濾別後、これを加熱することにより、王水のうちの硝酸分を脱硝させて塩化白金酸水溶液とする。この後、塩化アンモニウムと反応させて固体の塩化白金酸アンモニウムを得る。さらに、この塩化白金酸アンモニウムを焙焼して、塩化アンモニウムを脱離させることによりスポンジ状の白金とする。
【0004】
次に、スポンジ状白金を再び王水に溶かして塩化白金酸水溶液とし、液中のpHを中性〜アルカリ性に調整してから、ヒドラジンを添加する還元反応により白金を析出させる。
この白金は、還元反応条件を調整することにより微粉とすることが可能であり、濾別、洗浄、乾燥の工程を経て、所望の白金微粉を製造することができる。
【0005】
上述の工程において、「スポンジ状白金を再び王水に溶かし」からの工程が、白金微粉を製造するための工程となっており、コスト増となっている。
加えて、王水に含まれる塩素、ヒドラジン還元反応に関与する窒素が、白金微粉中の不純物として残存する問題がある。これを十分に取り除くために加熱乾燥する工程が必要となるが、この条件を高温にすると粒成長や凝集が起きる。
このようにして、乾燥時に粒成長や凝集が起きた粉末は、さらに粉砕や分級工程が必要となる。一方、低温乾燥した場合は、脱ガスが十分でないので温水洗浄、再乾燥の工程を要するだけでなく、塩素に関してはある程度効果があるが窒素に関しては殆ど効果がない。したがって、従来の工程では、貴金属の微粉を得るための製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、同様な白金粉末の製造方法であるが、アンモニア性水溶液中に、塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン水溶液とを同時に添加して、白金粉末を製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
この場合、粉末の製造を溶液中で作製する方法が採られている。この結果、得られた白金粉末を吸引ろ過した後に、乾燥し、さらに350〜600°Cで焼成し、白金粉末に吸着した塩素等をガス成分として除去する必要がある。
また、さらに脱塩素を行うため、温水洗浄、乾燥、粉砕を必要としている。
溶液中の反応においては、このような工程は必要不可欠となるため、それだけ工程が煩雑となり、生産コストが増加する原因となる。
【0007】
また、同様な白金粉末の製造方法であるが、塩化白金酸水溶液中にアンモニア・ヒドラジン水溶液を同時に添加して、白金粉末を製造する方法が開示されている(特許文献2)。
この場合も、粉末の製造を溶液中で作製する方法が採られている。この結果、得られた白金粉末を洗浄、吸引ろ過した後に、乾燥するが、この工程だけでは、白金粉末中の不純物として残存する塩素、窒素を十分除去できていない。
これを十分に取り除くために高温で乾燥する工程が必要となるが、粒成長や凝集が起きる。このようにして、乾燥時に粒成長や凝集が起きた粉末は、さらに粉砕や分級工程が必要不可欠となるため、それだけ工程が煩雑となり、生産コストが増加する原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−95174号公報
【特許文献2】特開平02−294416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、上述の工程において、貴金属粉末製造の重複する工程を避け、王水に含まれる塩素やヒドラジン還元反応に関与する窒素が極力入らないように、工程を省略するものである。その結果、乾燥工程を省略して、粒成長や凝集を防止し、さらに粉砕や分級工程を無くし、製造コストを著しく低減させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、貴金属の塩化アンモニウム塩の粉末と酸化物粉末とを混合し、次にこの混合粉末を焙焼して、当初から貴金属粉末と酸化物粉末の混合粉末を製造することが、コスト低減に極めて有効であるとの知見を得た。
【0011】
この知見に基づき、本発明は、
1)貴金属粉末と酸化物粉末の混合粉末の製造において、貴金属の塩化アンモニウム塩の粉末と酸化物粉末とを混合し、次にこの混合粉末を焙焼し、この焙焼により塩化アンモニウムを脱離させて貴金属粉末と酸化物粉末の混合粉末を得ることを特徴とする貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法を提供する。
この工程は、本願発明の基本をなすものである。本製造方法により得られる貴金属粉末は、酸化物粉末との混合物として得るものであるが、従来このように、貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末として製造方法は存在せず、その発想もなかった。
後述するように、この工程によって、高温での乾燥工程を省略して、粒成長や凝集を防止し、さらに粉砕や分級工程を無くし、製造コストを著しく低減させることが可能となる。また、王水に含まれる塩素やヒドラジン還元反応に関与する窒素が極力入らないように、工程を省略することができる。
【0012】
また、本発明は、
2)貴金属粉末の粒径の90%以上が20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上が12μm以下であることを特徴とする上記1)記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法
3)大気中、焙焼温度350°C以上、800°C以下で焙焼することを特徴とする上記1)又は2)記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法
4)水素含有ガス雰囲気中、焙焼温度100°C以上、500°C以下で焙焼することを特徴とする上記1)又は2)記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法
5)原料として加える酸化物の体積が、貴金属の塩化アンモニウム塩の体積の3%〜35%であることを特徴とする1)〜4)のいずれか一項に記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法。
6)貴金属が、白金、金、イリジウム、パラジウム、ルテニウムの少なくとも1種であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法
7)酸化物が、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブテン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスの少なくとも1種であることを特徴とする上記1)〜6)のいずれか一項に記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法、を提供する。
【0013】
また、本発明は、
8)塩素1000ppm未満、窒素1000ppm未満であり、貴金属粉末の粒径の90%以上が20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上が12μm以下であることを特徴とする貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末、を提供する。
この塩素と窒素の含有量は、本発明により達成できるが、両不純物については500ppm以下に、さらには200ppm以下とすることが可能である。
【0014】
また、本発明は、
9)貴金属が、白金、金、イリジウム、パラジウム、ルテニウムの少なくとも1種であることを特徴とする上記8)記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法
10)酸化物が、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブテン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスの少なくとも1種であることを特徴とする上記8)又は10)記載の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末、を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、貴金属粉末製造の重複する工程を避け、王水に含まれる塩素やヒドラジン還元反応に関与する窒素が極力入らないように、工程を省略することが可能となるものである。その結果、高温での乾燥工程を省略して、粒成長や凝集を防止し、さらに粉砕や分級工程を無くし、貴金属粉末と酸化物粉末からなるターゲット製造のコストを著しく低減させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のスパッタリングターゲット用の原料となる貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末の製造方法は、塩化アンモニウム塩の段階で酸化物を混合させてから、焙焼するものである。混合方式は液中で塩化アンモニウム塩と酸化物とを混合させてもよいし、乾燥した塩化アンモニウム塩と酸化物とを容器に入れて直接混合させてもよい。
これにより塩化アンモニウムを脱離させるとともに、貴金属粉末と酸化物粉末の混合物を得ることができるので、従来の製法と比べて大きく工程を短縮でき、大幅なコストダウンとなる。しかし、これはあくまで貴金属粉末と酸化物粉末が混合された粉末であることが上述の通りである。
【0017】
本来、磁気記録媒体の記録層用スパッタリングターゲットに使用される原料は、貴金属粉末と酸化物を混合した材料を使用するので、貴金属粉末と酸化物粉末が混合された粉末であることは原料として、問題となることはなく、むしろ事前の混合は有用とさえ言える。
焙焼する前に酸化物微粉を混ぜるのは、焙焼時に貴金属が凝集するのを防ぐためである。磁気記録媒体の記録層用スパッタリングターゲットを製造する場合には、組織を微細化し、異常放電やパーティクルの発生を防止し、品質の向上を図るために、貴金属の粒径及び酸化物の粒径が微細であることが要求されている。
【0018】
このことから、貴金属粉末の粒径の90%以上が20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上が12μm以下とする。さらには、貴金属粉末の粒径の90%以上を10μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上を6μm以下とすることが望ましい。上記の通り、焙焼時の貴金属の凝集範囲を制限することによって達成できる。すなわち、大気中で焙焼を行うに際しては、焙焼温度を350°C以上とするのが望ましい。特に、好ましい範囲は350°C〜500°Cである。
【0019】
350°C未満であると、塩化アンモニウムが脱離しににくく、得られた微粉中の塩素、窒素含有量が多くなるためである。また脱離に要する時間が非常に長くなり生産性に問題が生じることも挙げられる。
一方800°以下とする理由は、貴金属微粉の粒成長を抑えるためである。加えて酸化物粉末の凝集や粒成長も起きるのでこれを防ぐためである。
なお、水素含有ガス雰囲気中で焙焼する場合には、温度は低くても良い。すなわち、焙焼温度100°C以上、500°C以下で焙焼することができる。水素ガス雰囲気中では、水素は塩化白金酸アンモニウムから塩化アンモニウムが分解する反応を助け、焙焼が急速に進むので、通常の焙焼温度よりも低温で焙焼が可能となる。
【0020】
上記の貴金属粉末の粒径の90%以上を20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上を12μm以下とすることは、その原料となる貴金属の塩化アンモニウム塩粉末の粒径の90%以上を30μm以下とし、また酸化物粉末の粒径の90%以上を12μm以下のものを使用することによって、容易に達成できる。
例えば、塩化白金酸アンモニウムから塩化アンモニウム脱離する際に、粒径が30μmから10μm程度になる。この時、焙焼時の温度の影響で、やや粒成長起きるが、温度によってその度合いが異なる。
【0021】
上記の通り、焙焼温度が800°を超えると、通常20μmを超える粒径の貴金属粉となる。しかし、塩化白金酸アンモニウムの粒径が充分小さければ、800°C超える温度で焙焼しても、貴金属粉の粒径が20μmに達しない場合がある。
同様に、酸化物の粒径が12μm以下とする場合も、焙焼により粒成長が見込まれる。以上から、貴金属の粒径の90%以上を20μm以下、酸化物粉末の粒径の90%以上を12μm以下とする場合には、焙焼温度350°C〜800°Cの範囲が、推奨される温度である。
【0022】
原料として加える酸化物の体積は、貴金属の塩化アンモニウム塩の体積の3%〜35%とする。
これは、酸化物粉末が貴金属の塩化アンモニウム塩粉末に近接していないと焙焼時に貴金属微粉が凝集し易くなるので、3%以上の体積となるように酸化物粉末を添加する。なお、35%を超えて添加すると、磁気記録媒体の記録層用スパッタリングターゲット用の原料として、実用的な混合割合にならない。したがって、上記の範囲とするのが望ましいと言える。
上記については、特に白金を用いる場合に、特に有効であるが、この他、貴金属が、白金、金、イリジウム、パラジウム、ルテニウムの少なくとも1種である場合にも、本発明を用いることは、当然に理解されるべきことである。
【0023】
また、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブテン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスの、少なくとも1種を使用することができる。
このようにして得られた本発明の貴金属粉末と酸化物粉末からなる混合粉末は、塩素1000ppm未満、窒素1000ppm未満とすることが可能である。
また、この塩素の含有量については、特に500ppm以下、200ppm以下、さらには100ppm以下とすることが可能である。同様に、窒素についても500ppm以下、さらには200ppm以下とすることが可能である。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、以下の実施例は、本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は、本願発明に含まれるものである。
【0025】
(実施例1)
白金スクラップを酸で溶解し、残渣を濾別した後、液と塩化アンモニウムとを反応させる工程を経て、塩化白金酸アンモニウムを製造した。
次に、この白金スクラップの精製工程で得た塩化白金酸アンモニウムとSiOとを混合した。
混合比は体積換算で塩化白金酸アンモニウム10に対し、SiOを1とした。混合方法は、乳鉢の中に混合物を入れて充分に撹拌した。その後、混合物を石英製の容器に入れて、焙焼炉へ投入し、大気中で600°C、20時間、焙焼して塩化アンモニウムを脱離させた。
【0026】
焙焼後の混合物を分析した結果、塩素<100ppm、窒素500ppmであり、塩化アンモニウムが残存していないことを確認できた。粒度分布を測定(HORIBA製、レーザー回折散乱式)した結果、白金粉末の粒径は90%以上が3〜10μmであった。また、SiO粉末の粒径は、90%以上が0.5〜3μmであった。
【0027】
この焙焼後の混合粉を原料として、Co−Cr−Pt−SiOターゲットを作製するに当たり、所定量のCo粉、Cr粉、不足分としてSiO粉を加えて混合し焼結させた。
一般に、記録媒体として使用する際には、Co−Cr−Pt−SiOの場合、それぞれの成分を所定の割合に調整して使用されるが、これらの成分調整、すなわち不足分の材料については、適宜添加することができる。以下の実施例及び比較例において、同様の成分調整が可能である。
焼結体の組織は微細であり、磁気記録媒体の記録層膜形成用の好適なスパッタリングターゲットを得ることができた。
【0028】
(比較例1)
以下の比較例については、従来公知技術ではない。すなわち、従来技術では本願発明に近似する技術が存在しないからである。この比較例では、本発明の請求項で規定した従属項の内、望ましい範囲とした条件、以外の例を示すものである。したがって、ここに示す条件が、本願発明の上位概念で規定した範囲の除外要因とすべきものでないことは理解されるべきことである。
【0029】
焙焼条件を大気中で900°C、20時間とした場合、塩素、窒素量は充分低いが、白金の粒径は20μm以上が約30%の割合を占めており、やや大きくなった。この場合、この原料を用いてターゲットを作製しても、希望する好ましい微細組織が得られなかった。逆に、焙焼条件を大気中で300°C、20時間とした場合、塩化アンモニウムが、完全には脱離しておらず、この場合も希望する、より好ましい白金粉が得られなかった。以上から、焙焼に際しては、温度を350°C以上、800°C以下とすることが望ましい条件であることが分かる。
【0030】
(比較例2)
上記、実施例1において、混合比を体積換算で、塩化白金酸アンモニウム10に対しSiOを0.2、すなわち2%とした場合、焙焼後、混合粉を顕微鏡で観察した結果、白金粉の大きな凝集がところどころに見られた。酸化物粉末の割合が少なく、焙焼時に貴金属粉末同士が凝集しやすくなると考えられる。
【0031】
(実施例2)
ルテニウム含有スクラップを酸で溶解し、残渣を濾別した後、液と塩化アンモニウムとを反応させる工程を経て、塩化ルテニウム酸アンモニウムを製造した。次に、このルテニウムスクラップの精製工程で得た塩化ルテニウム酸アンモニウムとSiOとを混合した。
混合比は体積換算で塩化ルテニウム酸アンモニウム10に対し、SiOを1とした。混合方法は、乳鉢の中に混合物を入れて充分に撹拌した。その後、混合物を石英製の容器に入れて、焙焼炉へ投入し、不活性雰囲気中、600°C、20時間、焙焼して塩化アンモニウムを脱離させた。
【0032】
焙焼後の混合物を分析した結果、塩素<100ppm、窒素500ppmであり、塩化アンモニウムが残存していないことを確認できた。粒度分布を測定(HORIBA製、レーザー回折散乱式)した結果、ルテニウム粉末の粒径は90%以上が3〜10μmであった。また、SiO粉末の粒径は、90%以上が0.5〜3μmであった。
【0033】
この焙焼後の混合粉を原料として、Co−Ru−SiOターゲットを作製するに当たり、所定量のCo粉、不足分としてSiO粉を加えて混合し焼結させた。
焼結体の組織は微細であり、磁気記録媒体用の好適なスパッタリングターゲットを得ることができた。
【0034】
(実施例3)
上記実施例1の白金スクラップの精製工程で得た塩化白金酸アンモニウムとTiOとを混合した。混合比は体積換算で塩化白金酸アンモニウム10に対し、TiOを1とした。
混合方法は、乳鉢の中に混合物を入れて充分に撹拌した。その後、混合物を石英製の容器に入れて、焙焼炉へ投入し、大気中で600°C、20時間、焙焼して塩化アンモニウムを脱離させた。
【0035】
焙焼後の混合物を分析した結果、塩素<100ppm、窒素500ppmであり、塩化アンモニウムが残存していないことを確認できた。粒度分布を測定(HORIBA製、レーザー回折散乱式)した結果、白金粉末の粒径は90%以上が3〜10μmであった。また、TiO粉末の粒径は、90%以上が0.5〜3μmであった。
この結果で得られた焙焼後の混合粉を原料として、Co−Cr−Pt−TiOターゲットを作製するに当たり、所定量のCo粉、Cr粉、不足分として酸化チタン(TiO)粉を加えて混合し焼結させた。
この結果、焼結体の組織は微細であり、磁気記録媒体の記録層膜形成用の好適なスパッタリングターゲットを得ることができた。
【0036】
上記実施例では、酸化物として酸化ケイ素、酸化チタンの2例を用いたが、これらの酸化ケイ素、酸化チタンを含め、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブテン、酸化インジウム、酸化錫、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスの少なくとも1種を添加した場合も同様の結果が得られた。
【0037】
(実施例4)
白金スクラップを酸で溶解し、残渣を濾別した後、液と塩化アンモニウムとを反応させる工程を経て、塩化白金酸アンモニウムを製造した。次に、この白金スクラップの精製工程で得た塩化白金酸アンモニウムとSiOとを混合した。
混合比は体積換算で塩化白金酸アンモニウム100に対し、SiOを32とした。混合方法は、乳鉢の中に混合物を入れて充分に撹拌した。その後、混合物を石英製の容器に入れて、焙焼炉へ投入し、水素雰囲気中、400°C、10時間、焙焼して塩化アンモニウムを脱離させた。
【0038】
焙焼後の混合物を分析した結果、塩素<100ppm、窒素500ppmであり、塩化アンモニウムが残存していないことを確認できた。粒度分布を測定(HORIBA製、レーザー回折散乱式)した結果、白金粉末の粒径は90%以上が7〜16μmであった。また、SiO粉末の粒径は、90%以上が0.5〜3μmであった。
【0039】
この焙焼後の混合粉を原料として、Co−Cr−Pt−SiOターゲットを作製するに当たり、所定量のCo粉、Cr粉、不足分としてSiO粉を加えて混合し焼結させた。
焼結体の組織は微細であり、磁気記録媒体用の好適なスパッタリングターゲットを得ることができた。
【0040】
以上の実施例では、白金とルテニウムを使用したが、これらの貴金属を含め、白金、金、ルテニウム、パラジウム、イリジウムの少なくとも1種を用いても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、貴金属粉末製造の重複する工程を避け、王水に含まれる塩素やヒドラジン還元反応に関与する窒素が極力入らないように、工程を省略することが可能となるものである。その結果、乾燥工程を省略して、粒成長や凝集を防止し、さらに粉砕や分級工程を無くし、貴金属粉末と酸化物粉末からなるターゲット製造のコストを著しく低減させることができるという優れた効果を有するので、特に磁気記録媒体の記録層用スパッタリングターゲットに有用である。