特許第5770347号(P5770347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5770347
(24)【登録日】2015年7月3日
(45)【発行日】2015年8月26日
(54)【発明の名称】スパイスミックス及び揚げ物用衣材
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/221 20060101AFI20150806BHJP
   A23L 1/176 20060101ALI20150806BHJP
   A23L 1/01 20060101ALI20150806BHJP
【FI】
   A23L1/221 C
   A23L1/221 F
   A23L1/221 Z
   A23L1/176
   A23L1/01 D
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-130081(P2014-130081)
(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-27293(P2015-27293A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2014年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2013-135215(P2013-135215)
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 葉
(72)【発明者】
【氏名】前田 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】西出 辰徳
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−360200(JP,A)
【文献】 特開2009−125014(JP,A)
【文献】 特開2005−218330(JP,A)
【文献】 特開2001−258512(JP,A)
【文献】 特表2004−513641(JP,A)
【文献】 特開2001−275613(JP,A)
【文献】 特表平06−502310(JP,A)
【文献】 特開平11−196761(JP,A)
【文献】 特開平06−284867(JP,A)
【文献】 特開平03−255198(JP,A)
【文献】 改訂 調理用語辞典,1998年,pp.234,カトル・エピス
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/22−1/237
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を〜5質量部と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部とが配合されたスパイスミックス。
【請求項2】
さらにオニオン末を0.005〜1質量部配合された請求項1に記載のスパイスミックス。
【請求項3】
さらにパプリカ末を0.01〜1質量部配合された請求項1又は2に記載のスパイスミックス。
【請求項4】
さらに植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量部配合された請求項1〜3の何れか一項に記載のスパイスミックス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のスパイスミックスを0.1〜10質量%含有してなる揚げ物用衣材。
【請求項6】
ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を〜5質量%と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%とを含む揚げ物用衣材。
【請求項7】
さらにオニオン末を0.005〜1質量%含む請求項6に記載の揚げ物用衣材。
【請求項8】
さらにパプリカ末を0.01〜1質量%含む請求項6又は7に記載の揚げ物用衣材。
【請求項9】
さらに植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量%含む請求項6〜8の何れか一項に記載の揚げ物用衣材。
【請求項10】
請求項1〜4の何れか一項に記載のスパイスミックス又は請求項5〜9の何れか一項に記載の揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理してなる食品。
【請求項11】
請求項1〜4の何れか一項に記載のスパイスミックス又は請求項5〜9の何れか一項に記載の揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理する食品の製造方法であって、
前記スパイスミックス又は前記揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間の50%〜95%は、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間である、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間経過によっても風味の低下が少ないスパイスミックス及び揚げ物用衣材に関する。詳細には、高温条件において香気成分が揮発飛散しにくく、調理後は元より調理後時間が経過しても十分に香気を保持し、喫食する際に好ましい香味を食品に付与するスパイスミックス及び揚げ物用衣材に関する。
【背景技術】
【0002】
肉類や魚介類を喫食する際、これらの食材が有する臭みを抑制し、風味を引き立てる目的で、ペッパー、ナツメグ、ジンジャー等の各種のスパイス類が用いられている。これらスパイスには揮発性の香気成分が含まれており、この香気成分は、常温から加熱条件下に揮発し、食材やソース等の風味と相俟って臭みを消し、食品を好ましい香味とすることができる。
【0003】
スパイスに含まれる香気成分は揮発しやすいため、スパイスは通常、ガスバリア性の容器等に密封されて保管されている。一方、スパイスを用いた調理済食品を密封することは通常殆どされておらず、該食品を調理後に密封せずに保管しておくと徐々に香りが飛散して減少してしまい、喫食する際には香味に乏しいか、バランスに劣るものになってしまう。しかしながら、食品の香味等を評価する主体は、調理直後は調理者、喫食時は喫食者であって、調理者と喫食者とが同一人でない場合が多いため、この調理済食品の香味等の減少は、これまであまり問題にされることはなかった。
【0004】
近年、食品小売において、調理済食品を加温状態で陳列し販売する形態が普及してきている。本発明者らは、これらの調理済食品におけるスパイスの香気が調理時や保管時の高温条件によって低下していることを知覚した。特にから揚げ等の揚げ物類では、食材を高温の油中に投入して調理するため、スパイス由来の揮発成分が多量に揮発してしまい、調理直後は元より、加温保管中に香味が著しく低下していた。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1には、スパイスを微粉砕し、24時間以内に酸素非透過性の包装体に充填・封入して酸素非存在下に貯蔵し、開封後所定時間以内に食肉原料に添加する食肉加工品の製造方法が記載されている。また特許文献2には、0℃未満の低温条件下で粉砕した凍結粉砕スパイスが、香味がより強く、香味の持続時間が長いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−168386号公報
【特許文献2】特開2010−051251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の嗜好の多様化等により、スパイスを用いた食品には、より強い香味を有することが要望される傾向にある。特許文献1及び2に記載の技術は、斯かる要望に十分に応えられておらず、また、スパイスの調製・保管作業が簡便とは言い難い。食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いスパイスは未だ提供されていない。
【0008】
本発明の課題は、食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いスパイスミックス及び揚げ物用衣材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量部と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部とが配合されたスパイスミックスである。
【0010】
また本発明は、前記スパイスミックスを0.1〜10質量%含有してなる揚げ物用衣材である。
また本発明は、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量%と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%とを含む揚げ物用衣材である。
【0011】
また本発明は、前記スパイスミックス又は前記揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理してなる食品である。
また本発明は、前記スパイスミックス又は前記揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理する食品の製造方法であって、前記スパイスミックス又は前記揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間の50%〜95%は、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間である、食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスパイスミックス及び揚げ物用衣材は、食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長い。特に本発明のスパイスミックス及び揚げ物用衣材は、強い香味と清涼感のある濃厚な甘い香りとを食品に付与することができ、香りのバランスがよく、しかも香気成分が揮発飛散しにくく、調理後に時間が経過しても、食品に十分に香味を保持させることができる。
また、本発明の食品は、本発明のスパイスミックス又は揚げ物用衣材を用いて加熱調理されているため、香味及び香りが強く且つ香りのバランスに優れ、しかも経時による香味の低下が起こり難い。また、本発明の食品の製造方法によれば、そのような香味に優れた食品が簡便且つ安定的に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、先ず、本発明のスパイスミックスについて説明する。本発明のスパイスミックスの主たる特徴は、複数種の特定のスパイス末(粉末状の香料物質)が特定量配合されている点にある。斯かる特徴により、本発明のスパイスミックスは、食品に簡便に強い香味を付与することができ、且つその香味の持続時間が長いという効果を奏する。同様の効果を謳う特許文献1及び2に記載の技術は、スパイス末の調製(スパイス原料の粉砕)又は保管方法に主たる特徴を有し、それ故に、その調製・保管作業に所定の条件があって作業の簡便さに欠ける。これに対し、本発明では、用いる複数種のスパイス末それぞれ自体は基本的に通常のものと変わらず、それらの配合を工夫することで所定の効果が発現可能になされているので、煩わしいスパイス末の調製・保管作業無しに、強くて持続性のある香味を簡便に食品に付与することができる。
【0014】
本発明のスパイスミックスは、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量部と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量部とが配合されている。前記群から2種以上のスパイス末が選択される場合、その2種以上のスパイス末の合計配合量が、当該群における前記範囲内にあればよい。例えば、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末の両方を用いる場合は、これらの合計配合量が0.1〜5質量部であればよい。これら特定のスパイス末の配合量が前記範囲外では、スパイスの香気成分が早く揮発して香味が足りなくなるか、又は各スパイスのバランスが崩れた香味となり、前記効果は奏されない。これら複数種の特定のスパイス末としては、それぞれ、同名のスパイス末として通常使用されているものを特に制限無く用いることができる。
【0015】
本発明のスパイスミックスにおいて、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは1〜4質量部、さらに好ましくは2〜3.5質量部である。また、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは0.05〜1.5質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部である。また、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上の配合量は、好ましくは0.05〜1.5質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部である。
【0016】
本発明のスパイスミックスには、前記効果をより確実に奏させるようにする観点から、前記の複数種の特定のスパイス末に加えてさらに、オニオン末を0.005〜1質量部配合することができる。本発明では、オニオン末として、同名のスパイス末として通常使用されているものを特に制限無く用いることができる。オニオン末の配合量は、好ましくは0.01〜0.6質量部、さらに好ましくは0.1〜0.4質量部である。
【0017】
同様の観点から、本発明のスパイスミックスには、さらにパプリカ末を0.01〜1質量部配合することができる。本発明では、パプリカ末として、同名のスパイス末として通常使用されているものを特に制限無く用いることができる。パプリカ末の配合量は、好ましくは0.1〜0.8質量部、さらに好ましくは0.2〜0.6質量部である。
【0018】
同様の観点から、本発明のスパイスミックスには、さらに植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量部配合することができる。本発明において、植物性蛋白粉としては、大豆、小麦、米等の植物に由来する蛋白質を粉末状にしたものを用いることができ、また動物性蛋白粉としては、肉、卵、牛乳等の動物に由来する蛋白質を粉末状にしたものを用いることができる。これら蛋白粉の配合量は、好ましくは0.3〜3質量部、さらに好ましくは0.5〜2質量部である。
【0019】
本発明のスパイスミックスに配合される前記各成分(ブラックペッパー末、ホワイトペッパー末、ガーリック末、ジンジャー末、ナツメグ末、クローブ末、タイム末、オニオン末、パプリカ末、植物性蛋白粉、動物性蛋白粉)は、何れも、各種液体原料を固形化するか、又は各種固形原料を粉砕して得られる粉体原料(粉末状物質)である。前記各成分(粉体原料)を得るための固形原料の粉砕方法は、通常の食品原料粉末の製造方法を用いることができ、例えば、回転羽による粉砕、ミルによる粉砕、臼による粉砕、気流式粉砕機による粉砕等が挙げられる。また、前記各成分(粉体原料)の粒子径は、通常のスパイス末に適用可能な粒子径であればよく、例えば粗挽きで250〜1000μm程度、細挽きで20〜300μm程度とすることができる。
【0020】
本発明のスパイスミックスは、前記各成分(粉体原料)を混合することにより製造することができる。粉体原料の混合方法は、通常の食粉原料粉末の混合方法を用いればよい。粉体原料の混合形態としては、例えば、粉体原料を固形原料の粉砕により得る場合には、1)粉砕前の複数種の固形原料をそれぞれ個別に粉砕して複数種の粉体原料を得、該複数種の粉体原料を前記配合量となるように混合する形態でもよく、2)粉砕前の複数種の固形原料を前記配合量となるように混合後、その混合物を粉砕する形態でもよい。
【0021】
本発明のスパイスミックスは、食品に添加することにより、該食品に強くて持続性のある香味を付与することができる。本発明のスパイスミックスが適用可能な食品としては、香味の付与が好ましい食品であれば特に制限はなく、例えば、肉類、魚介類、野菜類及びこれらを用いた各種料理が挙げられ、該料理としては、揚げ物類、焼き物類、炒め物類、蒸し物類、生もの類、ソース類、スープ類を例示できる。本発明のスパイスミックスは、特に、肉料理の風味向上のための香味付与に用いるのが好ましく、とりわけ、食材を肉類とする揚げ物、例えば、トンカツ、フライドチキンに用いるのが好ましい。
【0022】
本発明のスパイスミックスの各種食品への添加量は、本願発明の効果が期待できる量であればよく、食品の種類や調理から喫食までの時間、香味に対する嗜好の程度等により適宜変更することができる。一般的な添加量としては、添加する食品全量に対して、0.0001〜15質量%、好ましくは0.001〜5質量%程度である。
【0023】
次に、本発明の揚げ物用衣材について説明する。本発明の揚げ物用衣材の実施態様として、前述した本発明のスパイスミックス(以下、特定スパイスミックスともいう)を特定量含有するもの(以下、第1実施態様ともいう)と、複数種の特定のスパイス末(粉末状の香料物質)を特定量含有するもの(以下、第2実施態様ともいう)とが挙げられる。何れの実施態様の揚げ物用衣材によっても、前述した本発明のスパイスミックスと同様の効果が奏される。
【0024】
第1実施態様の揚げ物用衣材における特定スパイスミックスの含有量は、該揚げ物用衣材の全質量中、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.2〜8.5質量%、さらに好ましくは0.2〜6質量%である。特定スパイスミックスの含有量が前記範囲外では、スパイスの香気成分が早く揮発して香味が足りなくなるか、又は各スパイスのバランスが崩れた香味となり、前記効果は奏されない。
【0025】
一方、第2実施態様の揚げ物用衣材は、ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量%と、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%と、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上を0.01〜2質量%とを含む。前記群から2種以上のスパイス末が選択される場合、その2種以上のスパイス末の合計含有量が、当該群における前記範囲内にあればよい。例えば、ナツメグ末及びタイム末の両方を用いる場合は、これらの合計含有量が0.01〜2質量%であればよい。これら特定のスパイス末の含有量が前記範囲外では、スパイスの香気成分が早く揮発して香味が足りなくなるか、又は各スパイスのバランスが崩れた香味となり、前記効果は奏されない。尚、第2実施態様の揚げ物用衣材における各スパイス末としては、それぞれ、前述した本発明のスパイスミックス(特定スパイスミックス)におけるものと同様のものを用いることができる。
【0026】
ブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群から選択される1種以上の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは1〜4質量%、さらに好ましくは2〜3.5質量%である。また、ガーリック末及びジンジャー末からなる群から選択される1種以上の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは0.05〜1.5質量%、さらに好ましくは0.15〜1質量%である。また、ナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群から選択される1種以上の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは0.05〜1.5質量%、さらに好ましくは0.15〜1質量%である。
【0027】
第2実施態様の揚げ物用衣材には、前記効果をより確実に奏させるようにする観点から、前記の複数種の特定のスパイス末に加えてさらに、オニオン末を0.005〜1質量%含有させることができる。オニオン末の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは0.01〜0.6質量%、さらに好ましくは0.1〜0.4質量%である。
【0028】
同様の観点から、第2実施態様の揚げ物用衣材には、さらにパプリカ末を0.01〜1質量%含有させることができる。パプリカ末の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは0.1〜0.8質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%である。
【0029】
同様の観点から、第2実施態様の揚げ物用衣材には、さらに植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉からなる群から選択される1種以上を0.1〜5質量%含有させることができる。植物性蛋白粉及び動物性蛋白粉としては、前述した本発明のスパイスミックス(特定スパイスミックス)におけるものと同様のものを用いることができる。これら蛋白粉の含有量は、第2実施態様の揚げ物用衣材の全質量中、好ましくは0.3〜3質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。
【0030】
本発明の揚げ物用衣材(第1及び第2実施態様)は、特定スパイスミックス等に加えてさらに、穀粉又は澱粉を含有する。穀粉としては、小麦粉、片栗粉、くず粉、米粉、ライ麦粉等が挙げられ、澱粉としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等の澱粉の他、これらの澱粉に、アセチル化、エーテル化、架橋、酸化、α化等の化学処理若しくは物理処理を施した澱粉、あるいはそれらの混合物等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉又は澱粉は、本発明の揚げ物用衣材の主原料であり、その含有量(穀粉及び澱粉の両方を含有する場合はそれらの合計含有量)は、該揚げ物用衣材の全質量中、50質量%以上であり、好ましくは65〜95質量%、さらに好ましくは75〜85質量%である。
【0031】
本発明の揚げ物用衣材は、前記各成分(特定のスパイス末、穀粉、澱粉)以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、この種の揚げ物用衣材の製造に通常用いられる原材料の1種以上が挙げられ、例えば、砂糖等の糖類、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、乳化剤、増粘剤、ミネラル、酵素、呈味剤、香辛料を例示できる。
【0032】
本発明の揚げ物用衣材は、前記各成分を混合することにより製造することができる。また、本発明の揚げ物用衣材の形態としては、粉体(まぶし粉)でもよく、あるいは該粉体を水に溶いて得られる液体又は半液体(バッター液)でもよい。
【0033】
前述した本発明のスパイスミックス(特定スパイスミックス)及び本発明の揚げ物用衣材(以下、特定揚げ物用衣材ともいう)は、何れも、食材に付着させ加熱調理して食品を得るのに使用できる。食材の加熱方法は特に制限されず、例えば、油ちょう、蒸煮の他、電子レンジ、オーブン、スチームコンベクションオーブン、オーブントースター、グリル等の公知の加熱手段による加熱が挙げられる。特定揚げ物用衣材を用いる場合、食材の加熱方法は通常油ちょうである。
【0034】
特定揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理してなる食品(揚げ物)としては、例えば、a)まぶし粉の形態の特定揚げ物用衣材を食材に直接まぶして油ちょうするから揚げ、b)食材を水又は通常のバッター液(特定揚げ物用衣材を用いていないバッター液)に浸した後、まぶし粉の形態の特定揚げ物用衣材を該食材にまぶして油ちょうするフライ、c)バッター液の形態の特定揚げ物用衣材を食材に付着させて油ちょうする天ぷら、d)まぶし粉の形態の特定揚げ物用衣材を食材にまぶした後、小麦粉を水に溶いた液を該食材に付着させて油ちょうする天ぷら、e)まぶし粉の形態の特定揚げ物用衣材を食材にまぶした後、該食材を溶き卵に浸し、さらに該食材にパン粉を付着させて油ちょうするカツレツ、f)特定揚げ物用衣材、水及び油の混合物を食材に付着させて油ちょうするフリッター、等が挙げられる。特定スパイスミックスを前記a)〜f)の食品(揚げ物)に適用することもできる。
【0035】
特定スパイスミックス又は特定揚げ物用衣材を食材に付着させ、加熱調理して揚げ物等の食品を得るに際しては、特定スパイスミックス又は特定揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間の50%〜95%を、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間とすることが好ましい。例えば、特定揚げ物用衣材を用いて揚げ物を製造する場合、特定揚げ物用衣材が付着した食材の加熱方法としては油ちょうが選択されるところ、通常通り油ちょうのみを利用するのではなく、油ちょうに加えて油ちょう以外の他の加熱方法を組み合わせることが、スパイスの香味がより持続する点で好ましい。油ちょう以外の他の加熱方法としては、例えば、蒸煮の他、電子レンジ、オーブン、スチームコンベクションオーブン、オーブントースター、グリル等の公知の加熱手段による加熱が挙げられる。
【0036】
特定スパイスミックス又は特定揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間に占める、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合は、好ましくは65〜91%、さらに好ましくは75〜86%である。尚、ここでいう「食材の総加熱時間」は、特定スパイスミックス又は特定揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間であって、特定スパイスミックス等の付着前の食材の加熱時間(例えば、食材の下茹で時間)は含まれない。
【0037】
油ちょうと油ちょう以外の他の加熱方法とを組み合わせる場合、油ちょうが最後になるように組み合わせると、食品(揚げ物)の表面がカラリとなり良好な外観となるため好ましい。組み合わせの例としては、i)特定揚げ物用衣材が付着した食材を電子レンジで45秒加熱し、次いで30秒間油ちょうして仕上げる方法、ii)特定揚げ物用衣材が付着した食材をスチームコンベクションオーブンで3分加熱し、次いで20秒間油ちょうして仕上げる方法、等が挙げられる。加熱の温度や時間は、食品(揚げ物)の種類や食材の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0038】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。尚、実施例11は参考例である。
【0039】
〔実施例1〜5及び比較例1〜3〕
下記表1の配合で各スパイスミックスを製造した。
【0040】
〔試験例1〕
1枚150gの牛ロースステーキ肉を複数枚用意し、実施例1〜5、比較例1〜3の各スパイスミックス0.5gを、それぞれ2枚ずつ、肉の片面に刷り込んだ。5分後にフライパンに3gの牛脂をのせて加熱し、フライパンが十分に熱せられたところでスパイスミックスを刷り込んだステーキ肉を、そのミックス刷り込み面側を下にして該フライパンにのせ、1分間加熱調理した後、該ステーキ肉を裏返してさらに1分30秒間加熱調理した。こうして焼き上がったステーキ肉の各1枚を切り分け、その調理直後の風味、香りの強さ、香りのバランスを、10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに焼き上がったステーキ肉の残りの各1枚を、覆いをせず皿にのせた状態で、白熱灯で保温しながら5時間保管し、その後前記と同様に切り分けて10名のパネラーに下記評価基準により評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
【0041】
(風味の評価基準)
5点:スパイシーで爽やかな香味と香ばしい風味が非常にあり、極めて好ましい。
4点:スパイシーで爽やかな香味と香ばしい風味があり、好ましい。
3点:スパイシーで爽やかな香味と香ばしい風味がややある。
2点:スパイシーで爽やかな香味と香ばしい風味があまり感じられず、やや不良。
1点:スパイシーで爽やかな香味と香ばしい風味がほとんど感じられず、不良。
(香りの強さの評価基準)
5点:スパイシーで清涼感のある濃厚な甘い香りが非常に強い。
4点:スパイシーで清涼感のある濃厚な甘い香りが強い。
3点:スパイシーで清涼感のある濃厚な甘い香りが感じられる。
2点:スパイシーで清涼感のある濃厚な甘い香りがやや感じられる。
1点:スパイシーで清涼感のある濃厚な甘い香りがあまり感じられない。
(香りのバランスの評価基準)
5点:スパイシーな香り、爽やかな香り、甘い香りが非常にバランスよく、極めて好ましい。
4点:スパイシーな香り、爽やかな香り、甘い香りがバランスよく、好ましい。
3点:スパイシーな香り、爽やかな香り、甘い香りがやや崩れている。
2点:スパイシーな香り、爽やかな香り、甘い香りが崩れ、好ましくない。
1点:スパイシーな香り、爽やかな香り、甘い香りが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなように、比較例1は、主としてブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群が配合されていないため、また比較例2は、主としてガーリック末及びジンジャー末からなる群が配合されていないため、また比較例3は、主としてナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群が配合されていないため、何れも各実施例に比して、調理直後及び調理後一定時間経過後の何れにおいても、食品の風味(香味)、香りの強さ及び香りのバランスに劣る結果となった。以上のことから、スパイスミックスにおいてこれら各評価項目を向上するためには、これら特定のスパイス末を配合することが有効であることがわかる。
【0044】
〔実施例6〜10及び比較例4〜6〕
下記表2の配合で各揚げ物用衣材を製造した。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用いた。
【0045】
〔試験例2〕
100gにカットした鶏もも肉を用意し、澱粉(日食ねりこみ澱粉K−1、日本食品化工製)100質量%に対して水100質量%を混合して調整したバッター液に浸し、次いで実施例6〜10及び比較例4〜6の何れか1つの揚げ物用衣材を絡め、温度175℃の油で4分間油ちょうして、フライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの風味、香りの強さ、香りのバランスを、10名のパネラーに前記評価基準(5点満点)により評価してもらった。さらに調理後の各フライドチキンの一部を遠赤外線による温蔵庫に入れ、8時間後に前記と同様に10名のパネラーに評価してもらった。以上の評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2から明らかなように、比較例4は、主としてブラックペッパー末及びホワイトペッパー末からなる群が配合されていないため、また比較例5は、主としてガーリック末及びジンジャー末からなる群が配合されていないため、また比較例6は、主としてナツメグ末、クローブ末及びタイム末からなる群が配合されていないため、何れも各実施例に比して、調理直後及び調理後一定時間経過後の何れにおいても、食品の風味(香味)、香りの強さ及び香りのバランスに劣る結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材においてこれら各評価項目を向上するためには、これら特定のスパイス末を含有させることが有効であることがわかる。
【0048】
〔実施例11〜18及び比較例7〜8〕
下記表3の配合で各揚げ物用衣材を製造した。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用いた。
【0049】
〔試験例3〕
実施例11〜18及び比較例7〜8の各揚げ物用衣材を用いた以外は、試験例2と同様にしてフライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの風味、香りの強さ、香りのバランスを、10名のパネラーに前記評価基準(5点満点)により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3から明らかなように、比較例7及び8は、主としてホワイトペッパー末の含有量が前記特定範囲(0.1〜5質量%)から外れているため、何れも各実施例に比して、少なくとも香りの強さ及び香りのバランスに劣る結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材においてこれら各評価項目を向上するためには、ホワイトペッパー末を含有させるだけでは足りず、その含有量を前記特定範囲に調整することが有効であることがわかる。また、実施例15〜18の比較から明らかなように、オニオン末を含有させた実施例15は、バジル末、ナツメグ末又はコリアンダー末を含有させた実施例16〜18に比して、風味、香りの強さ、香りのバランスに優れる結果となっており、このことからオニオン末の有効性が明らかである。
【0052】
〔実施例19〜24及び比較例9〜12〕
下記表4の配合で各揚げ物用衣材を製造した。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用いた。
【0053】
〔試験例4〕
実施例19〜24及び比較例9〜12の各揚げ物用衣材を用いた以外は、試験例2と同様にしてフライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの風味、香りの強さ、香りのバランスを、10名のパネラーに前記評価基準(5点満点)により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
表4から明らかなように、比較例9及び10は、主としてガーリック末の含有量が前記特定範囲(0.01〜2質量%)から外れているため、何れも各実施例に比して、風味、香りの強さ及び香りのバランスに劣る結果となった。また、比較例11及び12は、主としてクローブ末の含有量が前記特定範囲(0.01〜2質量%)から外れているため、何れも各実施例に比して、風味、香りの強さ及び香りのバランスに劣る結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材においてこれら各評価項目を向上するためには、ガーリック末及びクローブ末を含有させるだけでは足りず、それらの含有量を前記特定範囲に調整することが有効であることがわかる。
【0056】
〔実施例25〜34〕
下記表5の配合で各揚げ物用衣材を製造した。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用いた。
【0057】
〔試験例5〕
実施例25〜34の各揚げ物用衣材を用いた以外は、試験例2と同様にしてフライドチキンを製造した。調理直後の各フライドチキンの風味、香りの強さ、香りのバランスを、10名のパネラーに前記評価基準(5点満点)により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5中、実施例26〜30はオニオン末の含有量の違いによる影響をみたものであり、実施例31〜32はパプリカ末の含有量の違いによる影響をみたものであり、実施例33〜34は大豆蛋白粉の含有量の違いによる影響をみたものである。オニオン末の含有量が前記特定範囲(0.005〜1質量%)内にある実施例27〜29は、該含有量が前記特定範囲外にある実施例26及び30に比して、風味、香りの強さ及び香りのバランスに優れる結果となった。また、パプリカ末の含有量が前記特定範囲(0.01〜1質量%)内にある実施例31は、該含有量が前記特定範囲外にある実施例32に比して、風味、香りの強さ及び香りのバランスに優れる結果となった。また、大豆蛋白粉の含有量が前記特定範囲(0.1〜5質量%)内にある実施例33は、該含有量が前記特定範囲外にある実施例34に比して、風味、香りの強さ及び香りのバランスに優れる結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材において、オニオン末、パプリカ末及び大豆蛋白粉それぞれの含有量の前記特定範囲の臨界意義が明らかである。
【0060】
〔製造例1〜10〕
下記表6の配合で3種類の各揚げ物用衣材を製造した。薄力粉としては、日清製粉製のフラワーを用い、タピオカ澱粉としては、日本食品化工製の日食ねりこみ澱粉K−1を用いた。各揚げ物用衣材100質量部に対して、水200質量部を混合してバッター液を製造した。打ち粉をした豚ロース肉100gにこのバッター液を絡め、さらにパン粉を付着させ、下記加熱工程A〜Eの何れか1つを行って、とんかつを製造した。
・加熱工程A:6分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合0%)
・加熱工程B:2分間油ちょう→8分間スチームコンベクション→2分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合66.7%)
・加熱工程C:1分間油ちょう→10分間スチームコンベクション→1分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合83.3%)
・加熱工程D:0.5分間油ちょう→13分間スチームコンベクション(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合96.3%)
・加熱工程E:3分間油ちょう→3分間スチームコンベクション→3分間油ちょう(油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合33.3%)
【0061】
〔試験例6〕
調理直後の各とんかつについて10名のパネラーに、風味、香りの強さを前記評価基準(5点満点)により評価してもらうと共に、食感を下記評価基準により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表6に示す。
【0062】
(食感の評価基準)
5点:クリスピーで口溶けよく、香味とのバランスが非常によく、極めて好ましい。
4点:クリスピーで口溶けよく、香味とのバランスがよく、好ましい。
3点:クリスピー感はあるが、香味とのバランスがやや崩れている。
2点:ややねちゃつきがあり、香味とのバランスが崩れ、好ましくない。
1点:ねちゃつきがあり、香味とのバランスが大きく崩れ、非常に好ましくない。
【0063】
【表6】
【0064】
表6から明らかなように、(揚げ物用衣材が付着した食材の総加熱時間に占める、)油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合が前記特定範囲(50〜95%)内にある製造例2、3及び6〜8は、該割合が前記特定範囲外にある他の製造例に比して、風味、香りの強さ及び食感に優れる結果となった。以上のことから、揚げ物用衣材を食材に付着させ加熱調理する食品の製造方法において、油ちょう以外の他の加熱方法による加熱時間の割合の前記特定範囲の臨界意義が明らかである。