(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的に電界発光素子には、発光素子に無機化合物を用いる無機電界発光素子と、有機化合物を用いる有機電界発光素子があり、近年、低電圧で且つ高輝度の発光が得られるという特徴から有機電界発光素子の実用化研究が積極的に行われている。
【0003】
有機電界発光素子の構造は、インジウム-スズ酸化物(ITO)等の陽極材料の薄膜を蒸着したガラス板上に正孔注入層、更に発光層等の有機薄膜層を形成し、さらにその上に陰極材料の薄膜を形成して作られるものが基本であり、この基本構造に正孔輸送層や電子輸送層が適宜設けられた素子がある。有機電界発光素子の層構成は、例えば、陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極や、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極などである。
【0004】
近年、発光層と陽極の間に正孔注入層及び正孔輸送層等の電荷輸送層を組み込むことにより、発光層への正孔注入性が改善されること、電荷のバランスを最適化する緩衝層として作用し、素子の発光効率や寿命が大きく改善されることがわかっている。
【0005】
有機電界発光素子の正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料には、大きく分類すると低分子系正孔輸送材料と高分子系正孔輸送材料がある。
【0006】
低分子系正孔輸送材料を用いた正孔輸送層の製膜方法としては、主に真空蒸着法が用いられており、その特徴として、異なる機能を持った種々の材料を容易に多層化でき、高性能な有機電界発光素子を形成できる反面、パネルの大画面化、高精細化に伴う膜厚の均一制御や塗り分けが難しく、さらには大掛かりな真空装置を必要とするため、製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
また、低分子系正孔輸送材料を用いた正孔輸送層の製膜方法として、低分子系正孔輸送材料の溶液塗布による製膜法についても実用化研究がなされているが、この手法では低分子化合物の結晶化に伴う偏析や相分離が観察され、実用化には改善が必要である。
【0008】
一方、高分子系正孔輸送材料の製膜方法としては、真空蒸着法では蒸着できない材料が殆どであるため、スピンコート法、印刷法やインクジェット法等の溶液塗布法が用いられる。この方法は、大画面化が容易であり、量産化に優れている反面、層間の混合が生じやすく、積層による機能分離が出来ない事や、溶剤への溶解性等乾式とは異なる必要特性が加わるため、湿式法に使用可能な電荷注入材料、電荷輸送材料が限られるといった問題点がある。
【0009】
このような要求特性を発現させるための試みとして、例えば、特許文献1では、アクリル化合物又はその硬化物が、特許文献2では、ビニル基を有するNPDを用いた硬化物が報告されているしかしながら、これらの化合物を用いた有機電界発光素子では、積層による機能分離は出来ているものの、電子耐性や電荷輸送性能が十分ではなく、十分な特性を得るに至っていない。
【0010】
また、有機電界発光素子の発光効率を高める手法として、π共役高分子の主鎖に電子耐性や電荷輸送性能に優れたインドロカルバゾール単位が組み込まれた高分子材料及び発光素子が開示されている。すなわち、特許文献3ではインドロカルバゾールの6,12位で結合した共役系高分子が、また特許文献4ではN位置換のインドロカルバゾールを主骨格とした共役系高分子が開示されている。しかし、これらの高分子は、電子耐性や電荷輸送性はよくなるものの、インドロカルバゾール骨格を主鎖に含有するπ共役高分子は有機溶剤に対する溶解性が低く成膜が困難であり、たとえ成膜出来たとしても、他の塗布可能な高分子と同様に薄膜自体が溶剤耐性を持たないため、成膜後発光層材料等その他の材料を上層に塗布で成膜する事が出来ないという問題点がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明の硬化性組成物及びその硬化物は、優れた電荷輸送能力、特に正孔輸送能力を付与できる2つの重合性基を有するインドロカルバゾール骨格を含有している。
【0028】
本発明の硬化性組成物は、前記一般式(1)で表される2つの重合性基を有するインドロカルバゾール骨格化合物を含有する。
インドロカルバゾール骨格は、インドール環とカルバゾール環が縮合した5環の縮合環化合物から2つのN位のHを2つとって生じるものである。この骨格は、インドール環とカルバゾール環との縮合可能な位置が複数存在するため、2つのN位の置換基が異なる場合は、下記式(A)〜(F)の6種類の構造異性体の基をとり得るが、いずれの構造異性体であってもよい。尚、2つのN位の置換基が同一の場合は、(C)と(F)は同じ構造となり、異性体は5種類となる。インドロカルバゾール骨格は、本発明の効果を阻害しない範囲で、置換基を有することができる。
【0030】
前記一般式(1)において、環Aは隣接環と任意の位置で縮合する前記式(1a)で表される複素環を表す。しかし、式(1a)中の環はNを含む辺では縮合できないので、上記式(A)〜(F)のいずれかの構造となる。
【0031】
前記一般式(1)において、Rは水素原子、C
1〜C
20のアルキル基、C
1〜C
20のアルコキシ基、C
6〜C
30のアリール基、C
6〜C
30のアリールオキシ基、C
7〜C
36のアリールアルキル基、C
7〜C
36のアリールアルキルオキシ基、C
3〜C
30のヘテロアリール基、C
3〜C
30のヘテロアリールオキシ基、C
4〜C
36のヘテロアリールアルキル基、C
4〜C
36のヘテロアリールアルキルオキシ基又はC
3〜C
30のシクロアルキル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、水素原子、C
1〜C
20のアルキル基、C
1〜C
20のアルコキシ基、C
6〜C
30のアリール基、C
3〜C
30のヘテロアリール基又はC
3〜C
30のシクロアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、C
1〜C
8のアルキル基、C
1〜C
8のアルコキシ基、C
6〜C
18のアリール基、C
3〜C
18のヘテロアリール基又はC
3〜C
12のシクロアルキル基である。これらの基は、性能に悪影響を及ぼさない範囲で、更に置換基を有しても良い。但し、Rは5環以上の縮合環構造を有しない。
【0032】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。上記アルキル鎖は直鎖であっても、分岐していても構わない。
【0033】
アルコキシ基の具体例としては、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基が挙げられ、好ましくはメチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、又はオクチルオキシ基等の炭素数1〜8のアルキルオキシ基が挙げられる。上記アルキル鎖は直鎖であっても、分岐していても構わない。
【0034】
アリール基、ヘテロアリール基の具体例としては、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、オクタレン、インダセン、アセナフチレン、フェナレン、フェナンスレン、アントラセン、トリンデン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラフェン、テトラセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、コラントリレン、ヘリセン、ヘキサフェン、ルビセン、コロネン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ピラントレン、オバレン、コラヌレン、フルミネン、アンタントレン、ゼトレン、テリレン、ナフタセノナフタセン、トルキセン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、キサンテン、オキサトレン、ジベンゾフラン、ペリキサンテノキサンテン、チオフェン、チオキサンテン、チアントレン、フェノキサチイン、チオナフテン、イソチアナフテン、チオフテン、チオファントレン、ジベンゾチオフェン、ピロール、ピラゾール、テルラゾール、セレナゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、フラザン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、インドリジン、インドール、イソインドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、カルバゾール、インドロカルバゾール、イミダゾール、ナフチリジン、フタラジン、キナゾリン、ベンゾジアゼピン、キノキサリン、シンノリン、キノリン、プテリジン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、カルボリン、フェノテルラジン、フェノセレナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、アンチリジン、テベニジン、キンドリン、キニンドリン、アクリンドリン、フタロペリン、トリフェノジチアジン、トリフェノジオキサジン、フェナントラジン、アントラジン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾイソチアゾール又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物から水素を除いて生じる基が挙げられる。
【0035】
なお、芳香環が複数連結された芳香族化合物から生じる基である場合、連結される数は2〜10が好ましく、より好ましくは2〜7であり、連結される芳香環は同一であっても異なっていても良い。その場合、結合手の位置は限定されず、連結された芳香環の末端部の環であっても中央部の環であってもよい。ここで、芳香環は芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を総称する意味である。また、連結された芳香環に少なくとも1つの複素環が含まれる場合はヘテロアリール基に含める。
【0036】
ここで、芳香環が複数連結された芳香族化合物から水素を除いて生じる1価の基は、例えば、下記式で表わされる。
【0037】
(式(12)〜(14)中、Ar
3〜Ar
8は、置換又は無置換の芳香環を示す。)
【0038】
アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基の具体例としては、前記アリール基、ヘテロアリール基に前記アルキル基が連結した基が挙げられる。
【0039】
アリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールアルキルオキシ基の具体例としては、前記アリール基、アリールアルキル基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールアルキル基にオキシ基が連結した基が挙げられる。
【0040】
シクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、又はメチルシクロヘキシル基が挙げられ、好ましくはシクロペンチル基、シクロヘキシル基又はメチルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0041】
前記一般式(1)及び(2)において、Y
1、Y
2は単結合、又は2価の基を表し、同一であっても異なっていてもよい。2価の基としては、-(Z
2)
m-(X)
n-(Z
3)
p-(X)
q-で表わされる基があり、ここで、Z
2、Z
3は、アルキレン、アリーレン又はヘテロアリーレンであり、XはO、COO、S、CONH、CO等であり、m、n、p、qは0〜3の数である。好ましくは、Z
2、Z
3は、C
1〜C
20のアルキレン基、C
6〜C
30のアリーレン基、C
3〜C
30のヘテロアリーレン基、Xは、CO、COO、又はOである。Y
1、Y
2は好ましくは、単結合、C
1〜C
6のアルキレン基、C
6〜C
12のアリーレン基、C
3〜C
12のヘテロアリーレン基、CO、COO又はOである。但し、Y
1、Y
2は、5環以上の縮合環構造を有しない。
【0042】
アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基が挙げられ、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等の炭素数1〜8のアルキレン基が挙げられる。上記アルキレン鎖は直鎖であっても、分岐していても構わない。
【0043】
アリーレン基、ヘテロアリーレン基の具体例としては、前記Rのアリール基、ヘテロアリール基で例示した芳香環又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物から2つの水素を除いて生じる基が挙げられる。
【0044】
前記一般式(1)及び(2)において、W
1、W
2は重合性基を表わし、光、熱、触媒等により重合可能な重合性基である。この重合性基の好ましい例としては、ラジカル重合性基とカチオン重合性基があげられる。ラジカル重合性基としては、ビニル基、炭素数1〜6のアルキル基で置換された置換ビニル基が好ましく、より好ましくはビニル基及び置換ビニル基から選ばれるビニル基類である。好ましいビニル基類は、-CR
1=CR
2R
3で表わされる。ここで、R
1、R
2、R
3は、C1〜6の水素、アルキル基又はフェニル基であり、好ましくは水素又はC1〜3のアルキル基である。カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタン基などの環状エーテル基が好ましい。これらの環状エーテル基は、置換基を有してもよく、置換基としては炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0045】
前記一般式(1)で表される化合物において、前記式(3)または(4)で表される化合物が好ましい化合物として例示される。R
1、Y
1、W
1は前記一般式(1)のR、Y
1、W
1と同様である。
【0046】
また、本発明の硬化性組成物は、更に前記一般式(2)で表される化合物を、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の総モル数を100とした場合、0〜95モル%含有することができる。一般式(1)で表される化合物を含有していれば特に限定されるものではないが、好ましくは一般式(2)で表される化合物を0〜70%の範囲で含有させることがよい。
【0047】
前記一般式(2)において、ZはC
6〜C
30のアリール基、C
3〜C
30のヘテロアリール基又はC
12〜C
60のジアリールアミノ基を表わし、好ましくはC
6〜C
24のアリール基、C
3〜C
24のヘテロアリール基又はC
12〜C
48のジアリールアミノ基であり、より好ましくはC
3〜C
18のヘテロアリール基又はC
12〜C
36のジアリールアミノ基である。
【0048】
前記一般式(2)において、Y
2は前記一般式(1)のY
1、W
2は前記一般式(1)のW
1と同様である。一般式(2)で表される化合物は、重合性基を1つ有する。
【0049】
前記一般式(2)で表される化合物は、重合性基を有する電荷輸送性の化合物であることが好ましく、Zが、前記式(9)で表される基を少なくとも1つ内部に有することが好ましい。式(9)中、Ar
1、Ar
2は、独立にC
6〜C
30のアリール基、C
3〜C
30のヘテロアリール基を表し、前記一般式(1)のRで説明したアリール基、ヘテロアリール基と同様であり、Ar
1、Ar
2とNで縮合環を形成しても構わない。但し、Ar
1、Ar
2は、5環以上の縮合環ではない。更に、前記一般式(2)のZが、前記式(10)または(11)で表される基を少なくとも1つ内部に有することがより好ましい。式(10)、(11)中、R
2は前記一般式(1)で説明したRと同様である。
【0050】
以下に、一般式(1)で表される2つの重合性基を有するインドロカルバゾール化合物の具体例を例示するが、なんらこれらに限定されるものではない。
【0052】
次に、一般式(2)の重合性基を有する化合物の具体例を以下に例示するが、なんらこれらに限定されるものではない。また、ここで例示した化合物は必要に応じて1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0054】
本発明の硬化組成物、硬化物は、一般式(1)の化合物のみでも構わないが、第二成分を導入する事で、キャリアの移動度や架橋密度等を調整できるため、一般式(2)で示される化合物との混合物であることが好ましい。さらに必要に応じて、共重合性の化合物、トルエンやTHF 等の一般的な有機溶媒や、AIBNやBPO、リンタングステン酸等の各種重合触媒を混合して硬化性組成物とすることがよい。
【0055】
以下、一般式(1)及び(2)で示される化合物の合成手法及びその硬化手法を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明の一般式(1)で示される2つの重合性基を有するインドロカルバゾール骨格を有する化合物は公知の方法で容易に製造することができる。例えば、2つのビニル基を有する化合物は以下の反応式により製造することができる。
【0058】
本発明の一般式(2)で示される重合性基を有する化合物は、市販のジフェニルアミノスチレンのようなビニル化合物やフェニルアクリレートのようなアクリル化合物の他、公知の方法で容易に製造することができる。例えば、ビニル基を有する化合物は以下の反応式により製造することができる。
【0060】
本発明の硬化組成物は一般式(1)の化合物を単独で若しくは一般式(2)の化合物との混合物を含有するものであれば良いが、溶融又は溶媒に溶解し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、ディスペンサー法等の塗布法で成膜し、そのまま、若しくは溶媒を乾燥除去し、熱,光,触媒等により架橋硬化させた硬化物とする。硬化物は、公知の方法で容易に硬化させることができる。例えばITO付ガラス基板に製膜したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)上へ、一般式(1)で示される化合物を、トルエン、アニソール、THF等の任意の溶媒に溶解させ、スピンコート法により製膜した後に、嫌気条件下ホットプレートで基板を加熱することで、架橋構造を有する溶剤に不溶な硬化膜を得ることができる。
【0061】
また、一般式(1)及び一般式(2)の2種類以上混合物の場合でも単独の場合と同様な条件で、温度、硬化時間を調整する事によって、また必要に応じて重合性基に対応した触媒の添加によって、同様に硬化可能である。更に、2種類以上混合物の場合重合性基を共重合可能なものとすれば、共重合が上手く進行する。この場合は、重合性基を同種とすることが有利である。
【0062】
本発明の硬化性組成物及び硬化物は、有機EL素子の有機層に含有させることにより、優れた有機電界発光素子を与える。好ましくは、発光層、正孔輸送層、電子輸送層及び正孔阻止素子層から選ばれる少なくとも一つの有機層に含有させることがよい。更に好ましくは、正孔輸送層の材料として含有させることがよい。
【0063】
次いで、本発明の硬化性組成物、硬化物を用いた有機電界発光素子について説明する。
本発明の硬化性組成物及び硬化物を用いた有機電界発光素子は、一対の陽極と陰極の間に複数の有機層を持ち、特に正孔輸送層/発光層兼電子輸送層、正孔輸送層兼発光層/電子輸送層、または正孔輸送層/発光層/電子輸送層からなることが好ましい。特に好ましくは、正孔輸送層/発光層/電子輸送層の層構造である。また、本発明の有機電界発光素子は、また各有機層を形成した後、それぞれに保護層を設けることもできる。更に、素子全体を水分や酸素から保護するために保護膜を設けてもよい。
【0064】
発光層は、発光材料を含有する層であり、蛍光であっても燐光であっても構わない。また、発光材料をドーパントとして用い、ホスト材料を併用しても構わない。
発光層における発光材料は、蛍光発光材料としては各種文献で公知の化合物や以下に示すような化合物が使用可能であるが、これに限らない。
【0066】
一方、燐光発光材料としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる少なくとも一つの金属を含む有機金属錯体を含有するものがよい。かかる有機金属錯体は、前記特許文献等で公知であり、これらが選択されて使用可能である。
【0067】
高い発光効率を得るための燐光発光材料としては、Ir等の貴金属元素を中心金属として有するIr(ppy)
3等の錯体類、Ir(bt)
2・acac
3等の錯体類、PtOEt
3等の錯体類が挙げられる。以下に、燐光発光材料を具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0069】
発光材料の種類を変えることによって様々な発光波長を持つ有機電界発光素子とすることができる。
【0070】
前記発光材料をドーパントとして使用する場合、発光層中に含有される量は、0.1〜50重量%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは1〜30重量%である。
【0071】
発光層におけるホスト材料としては、公知のホスト材料が使用可能で有り、本発明の重合体をホスト材料として用いる事もできる。また、本発明の重合体と他のホスト材料を併用してもよい。
【0072】
使用できる公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する化合物であることが好ましい。
【0073】
このような他のホスト材料は、多数の特許文献等により知られているので、それらから選択することができる。ホスト材料の具体例としては、特に限定されるものではないが、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8―キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体、ポリシラン系化合物、ポリ(N-ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。
【0074】
正孔輸送層を形成する正孔輸送性化合物としては、本発明の硬化性組成物及び硬化物が有利に使用される。必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、第3級アミンのトリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体などが例示される低分子正孔輸送性化合物などを添加剤として1種又は2種以上配合し、組成物として用いてもよい。以下に、正孔輸送性化合物を具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0076】
電子輸送層を形成する電子輸送性化合物としては、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体などが例示される。必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、低分子電子輸送性化合物などを添加剤として1種又は2種以上配合し、組成物として用いてもよい。以下に、電子輸送性化合物を具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0078】
また、陽極からの正孔注入効率を向上させるために陽極と正孔輸送層又は発光層の間に正孔注入層を入れてもよい。正孔注入層形成する正孔注入材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体などの導電性高分子が使用できる。中でも、ポリチオフェン誘導体のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)が正孔注入効率の点から好ましい。正孔注入層を使用する場合、その厚さは好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0079】
陽極は、正孔注入層、正孔輸送層または発光層などに正孔を供給するものであり、一般的にガラス基板上に形成される。本発明に用いられる陽極材料は特に限定されないが、具体的にはインジウム-スズ酸化物(ITO)、スズ酸化物などの導電性金属酸化物や金、銀、白金などの金属が挙げられる。また、市販のITO付ガラスを使用することもできる。市販のITO付ガラスは、通常、洗浄剤水溶液、溶剤洗浄後、UVオゾン照射装置又はプラズマ照射装置により清浄して使用される。
【0080】
陰極は、電子輸送層または発光層に電子を供給するものであり、本発明に用いられる陽極材料は特に限定されないが、具体的にはLi、Mg、Ca、Alなどの金属やそれらの合金、例えばMg−Ag合金、Mg−Al合金などが挙げられる。
【0081】
陰極及び陽極は公知の方法、つまり真空蒸着法やスパッタリング法によって形成できる。陰極の厚さは、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下であり、一方、陽極の厚さは、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0082】
高分子発光材料、正孔輸送層用高分子材料又は電子輸送層用高分子材料などの高分子層の製膜法としては、一般的にスピンコート法が用いられており、その他にも大面積の有機高分子層を製膜する手法として、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、ディスペンサー法などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
合成例及び実施例で合成した化合物は、
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)、FD−MS、GPC、TGA、DSC、UV及びIR分析から選ばれる1種類以上の分析法により同定した。
【0085】
合成例1
化合物(A−3)の合成
化合物(A−1)を用意し、スキーム(S−1)に従い化合物(A−2)及び(A−3)を合成する。
【0086】
【0087】
窒素雰囲気下、1000mlナスフラスコに、化合物(A−1)を5.00g(19.4mmol)に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン100gを加えて攪拌した。次に3−ヨードベンズアルデヒド17.97g(77.6mmol)と酸化第一銅1.38g(9.7mmol)、炭酸カリウム8.03g(58.2mmol)を投入して、バス温170℃にて22時間攪拌した。室温まで降温後、固形分をろ別し、ろ液に酢酸エチル及び2mol/l−HCl水溶液を加えて油水分離した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して白色粉末の化合物(A−1)を1.89g(収率21%)得た。
1H−NMR(400MHz、CDCl
3 r.t.):δ(ppm);10.149(1H, s)、10.113(1H, s)、8.14-8.21(5H, m)、8.065(1H, dt, J=7, 2)、7.913(1H, dt, J=8, 2)、7.908(1H, dt, J=8, 2)7.846(2H, br t, J=8)、7.21-7.40(6H, m)6.790(1H, ddd, J=2, 7, 8)5.979(1H, d, J=8)
FD−MSスペクトル:464(M+、base)
【0088】
次いで、窒素雰囲気下、500mlナスフラスコに、化合物(A−2)を1.84g(3.97mmol)、臭化メチルトリフェニルホスホニウム2.97g(8.34mmol)及び脱水テトラヒドロフラン380mlを加えて室温にて攪拌した。これにtert-ブトキシド0.98g(8.73mol)の脱水テトラヒドロフラン溶液9mlを5分間かけて滴下し、さらに室温で2.5時間反応させた。これを2Lナスフラスコに移して水50mlを投入した。テトラヒドロフランを留去した後、酢酸エチル、飽和食塩水を入れて油水分離し有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで2回精製して白色粉末の化合物(A−3)を0.73g(収率40%)得た。
1H−NMR(400MHz、CDCl
3 , r.t.):δ(ppm);8.172(1H, d, J=9),8.150(1H, dd, J=8, 2),7.69-7.72(2H, m),7.58-7.63(3H, m),7.554(1H, dt, J=8, 2),7.524( 1H, ddd, J=9, 2, 1),7.472(1H, dt, J=7, 2),7.30-7.36(3H, m),7.313(1H, d, J=8),7.291(1H, br d, J=8),6.808(1H, dd, J=18, 12),6.804(1H, dd, J=18, 11),6.803(1H, ddd, J=8, 7, 1),6.060(1H, d, J=8),5.832(1H, br d, J=18),5.806(1H, br d, J=18),5.355(1H, d, J=12),5.326(1H, d, J=11)
FD−MSスペクトル:464(M+、base)
【0089】
実施例2
溶媒洗浄、UVオゾン処理した膜厚150nmからなるITO付ガラス基板に、正孔注入層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS):(エイチ・シー・シュタルク株式会社製、商品名:クレビオスPCH8000)を膜厚25nmで製膜した。次に、化合物(A−3)をテトラヒドロフランに溶解して0.4wt%溶液に調製し、スピンコート法により正孔輸送層として20nmを製膜した。次に、嫌気条件下150℃、3時間ホットプレートで溶媒除去し、加熱、硬化を行った。真空蒸着装置を用いて、発光層ドーパントとしてトリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(III)を、発光層ホストとして4,4’−ビス(9H−カルバゾル−9−イル)ビフェニルを用い、ドーパント濃度が0.6wt%となるように共蒸着し、40nm発光層を製膜した。その後、真空蒸着装置を用いて、Alq
3を35nm、陰極としてLiF/Alを膜厚170nmで製膜し、この素子をグローブボックス内で封止することにより有機電界発光素子を作製した。
【0090】
こうして得られた有機電界発光素子に外部電源を接続し、直流電圧を印加したところ、表1のような発光特性を有することが確認された。表1に示す輝度は、20mA/cm
2での値である。なお、素子発光スペクトルの極大波長は550nmであり、イリジウム錯体由来の緑色発光が観測された。
【0091】
実施例3
溶媒洗浄、UVオゾン処理した膜厚150nmからなるITO付ガラス基板に、正孔注入層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS):(エイチ・シー・シュタルク株式会社製、商品名:クレビオスPCH8000)を膜厚25nmで製膜した。次に、化合物(A−3)をテトラヒドロフランに溶解して0.4wt%溶液に調製し、スピンコート法により正孔輸送層として20nmを製膜した。次に、嫌気条件下150℃、1時間ホットプレートで溶媒除去し、加熱、硬化を行った。この熱硬化膜は、架橋構造を有している膜であり、溶剤に不溶である。この熱硬化膜は、正孔輸送層(HTL)である。そして発光層ドーパントとしてトリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(III)を、発光層ホストとして4,4’−ビス(9H−カルバゾル−9−イル)ビフェニルを用い、ドーパント濃度が0.6wt%となるようにトルエンに溶解させ、1wt%溶液調製し、スピンコート法により発光層として40nmを製膜した。その後、真空蒸着装置を用いて、電子輸送層としてAlq
3を35nm、陰極としてLiF/Alを膜厚170nmで製膜し、この素子をグローブボックス内で封止することにより有機電界発光素子を作製した。素子評価は、実施例2と同様に行った。尚、発光層をスピンコート製膜した後に、硬化膜が溶解せず、発光層と積層できている事を高速分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製M2000)を用いて確認している。
【0092】
実施例4
実施例3において、化合物(A−3)単独に代えて、化合物(A−3):ジフェニルアミノスチレン(DPAS)=5:5の比率で混合した混合物を使用した以外は、実施例3と同様にして素子を作製、評価した。
【0093】
実施例5
実施例3において、化合物(A−3)に代えて,下記化合物(A−4)を使用した以外は、実施例3と同様にして素子を作製、評価した。尚、化合物(A−4)はスキーム(S−1)に示した(A−1)から(A−2)を作る手法を用いて合成した。
【0094】
【0095】
実施例6
実施例3において、下記化合物(A−5)を使用した以外は、実施例3と同様にして素子を作製、評価した。尚、化合物(A−5)はスキーム(S−1)に示した手法を用いて合成した。
【0096】
【0097】
比較例1
実施例2において、化合物(A−3)を使用しなかった以外は、実施例2と同様にして素子を作製、評価した。
【0098】
比較例2
実施例2において、(A−3)に代えて下記化合物(B1)を用い正孔輸送層を作成し、硬化に交流電源方式の紫外線照射装置を用いて紫外線を90秒間照射し、光重合して硬化を行った以外は実施例2と同様にして素子を作製、評価した。
【0099】
比較例3
実施例3において、化合物(A−3)を使用しなかった以外は、実施例3と同様にして素子を作製、評価した。
【0100】
正孔輸送層(HTL)に使用した化合物と発光層の製膜方式、及び素子評価結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例2と比較例1から、本発明の化合物を使用して湿式プロセスで正孔輸送層を形成した素子が優れた素子特性を示すことがわかる。また、実施例3〜6と比較例2、3から、本発明の化合物を使用して湿式プロセスで正孔輸送層を形成し、隣接層の発光層をさらに湿式プロセスで形成した場合でも、好適に積層ができ良好な発光特性を示すことがわかる。
【0103】
本発明の硬化性組成物及び硬化物を有機電界発光素子の有機層に用いる事により、正孔注入性や電子耐性、電荷輸送性が改善され発光効率に優れる。また、その他の材料を含有する有機層を上層に塗布により積層可能であることから、大面積素子が容易に作製可能となる。この硬化性組成物又は硬化物を使用した有機電界発光素子は発光効率に優れるため、照明装置、画像表示装置、表示装置用バックライト等に用いられる有機電界発光素子への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。