特許第5771874号(P5771874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5771874さとうきびバガス繊維を用いた繊維強化複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771874
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】さとうきびバガス繊維を用いた繊維強化複合体
(51)【国際特許分類】
   B32B 17/04 20060101AFI20150813BHJP
   B32B 17/12 20060101ALI20150813BHJP
   B32B 17/08 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B32B17/04 Z
   B32B17/12
   B32B17/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-35156(P2011-35156)
(22)【出願日】2011年2月1日
(65)【公開番号】特開2012-158164(P2012-158164A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2014年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】福本 功
(72)【発明者】
【氏名】神田 康行
(72)【発明者】
【氏名】新垣 敬太
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 克悠
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−287321(JP,A)
【文献】 特開2007−023218(JP,A)
【文献】 特開2010−265571(JP,A)
【文献】 特開2010−073940(JP,A)
【文献】 特開昭51−103169(JP,A)
【文献】 特開2001−260239(JP,A)
【文献】 特開2010−18683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/04
B32B 17/08
B32B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に不飽和ポリエステルを塗布してガラスマットを敷き、
ガラスマットに不飽和ポリエステルを塗布した後、
その上にバガス/不飽和ポリエステル複合体シートを積層し、
さらに不飽和ポリエステルを塗布した後、
その上にガラスマットを敷き、
ガラスマットに不飽和ポリエステルを塗布した後、
10MPaで加圧し、樹脂の硬化温度まで加熱したのち、冷却後除圧してシート状に形成する
ことを特徴とする繊維強化樹脂材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はさとうきびバガス繊維を用いた繊維強化複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(Fiber Reinforced Plastic)は繊維で強化されたプラスチックを指す。従来、繊維としてガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等があり、主に強度とコスト面からガラス繊維が広く使用されている。ガラス繊維の形状は、束状のチョップドストランドタイプやシート状のガラスマットが多く使われ、用途に応じて樹脂と繊維の混錬方法や成形技術が研究開発されている。
【0003】
FRPは性能や付加価値を高めるため補強用のフィラー(強化用繊維)を用いるが、繊維強化効果と改質材の両者の役割と環境保全、そしてコスト、さらにカーボンニュートラルの性格をもつことから天然繊維のバイオマスが広く求められている。竹繊維、ケナフ繊維等が良く使われているが、近年さとうきびバガス繊維も注目を浴びるようになった。
【0004】
バガスはさとうきびの搾りカスとして毎年熱帯、亜熱帯地方を中心に世界的に大量に排出されている。竹繊維やケナフ繊維等とは異なり特に解繊作業する必要がなく、糖汁を搾った後のバガスを単に機械的に粉砕することにより針状のバガス繊維を容易に作成することができ、バイオマス材料として工業的な利用には極めて適している。
【0005】
バガスを強化繊維として用いたFRP(BFRP)の成形技術として、例えば、バガス繊維をガラス繊維、不飽和ポリエステルと混錬したBMCの射出成形の適用例があるが、チョップドストランドタイプの束状のガラス繊維を用いているため、成形体にガラス繊維、バガス繊維を均一分散させることに課題がある(非特許文献1、特許文献1)。
【0006】
更に、バガス繊維と生分解性樹脂とのプレス成形の事例もあるが、樹脂とバガス繊維の界面の接着性に問題がある(非特許文献2)。
【0007】
一方、ガラス繊維を強化繊維とした複合体(GFRP)ではガラス繊維への各種処理剤が開発されており、ガラス繊維と強化樹脂との接着性は良好で各種機械的強度は高いが、バガス繊維と比較して密度が高い。また材料コストが高く作業取扱上の困難さを伴う問題もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】曹勇、福本功「バガス繊維で強化された射出成形体の機械的性質の評価」日本機械学会論文集C:Vol.71(No.703)p1071−1076(2005)
【0009】
【非特許文献2】柴田信一、曹勇、福本功「バガス繊維と生分解性樹脂による複合材料の作成と強度の検討」日本機械学会論文集C.Vol.71(No704)p1400−1405(2005)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−287321号公法 福本功「バガスを用いた繊維強化プラスチック材及びその製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは上記の課題を鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。即ち、ガラス繊維・マットは取扱や環境、作業者の健康上の問題、コスト高、重量化等の課題がある。また、環境保全、カーボンニュートラルの観点からガラス繊維代替材料としての天然繊維が注目されている。天然繊維の中でも、バガス繊維は、バイオマスの一般的な欠点である収集の困難さ、品質のばらつき、不純物の混入等がなく、極めて使いやすいバイオマス繊維である。また、内部の構造がハニカムの多孔性になっていることから断熱性に優れ、騒音に対して遮音性にも優れている。本発明は従来のガラス繊維を用いた複合体に比べてバガスシートを用いることにより、ガラス繊維を強化材とした従来の複合体の欠点を改善するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、ガラス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層の中間にバガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層を積層した繊維強化樹脂材である。
【0013】
また、本発明は、前記の繊維強化樹脂材が3層、5層、7層或いは9層よりなり、ガラス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層の中間にバガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層を交互に積層したことを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0014】
また、本発明は、前記の各複合体における不飽和樹脂が不飽和ポリエステル(UP)であることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0015】
また、本発明は、前記の各複合体における不飽和樹脂の量が75〜95質量%であることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0016】
また、本発明は、前記のバガス繊維/不飽和樹脂複合体におけるバガス繊維の長さが少なくとも10mmであることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0017】
また、本発明は、前記のバガス繊維/不飽和樹脂複合体におけるバガス繊維の含有量は10〜20質量%であることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0018】
また、本発明は、ガラス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層の中間にバガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層が積層された3層からなる繊維強化樹脂材の比曲げ強度が、バガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層を含まないガラス繊維/不飽和樹脂複合体のみからなる層が3層積層された繊維強化樹脂材に比べて少なくとも1.2倍であることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【0019】
また、本発明は、ガラス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層の中間にバガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層が積層された3層からなる繊維強化樹脂材の密度が、バガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層を含まないガラス繊維/不飽和樹脂複合体のみからなる層が3層積層された繊維強化樹脂材に比べて高々0.85であることを特徴とする繊維強化樹脂材である。
【発明の効果】
【0020】
添付第3図よりバガスシートを含む本発明の複合体は、従来のガラス繊維複合体に比べて軽いことがわかる。これはバガス繊維が植物由来の炭化水素よりなり、かつ内部は多くの空洞部から構成されるハニカム構造を有することに起因している。さらに複合体の比曲げ強度を比較すると、10mm以上のバガス繊維補強複合体(BFRP)の場合は従来のガラス繊維補強複合体に比較して約60%の比曲げ強度の向上があり、バガスシートが亀裂の進展抑制に効果的に作用している。即ち、本発明のバガス繊維を含む繊維強化複合体は、従来のガラス繊維強化複合体(GFRP)に比べて軽量で、且つ比曲げ強度も高いことがわかる。また、製造方法も従来のガラス繊維強化複合体と同様のプロセス、条件で容易に製造できる特徴がある。また、使用するバガス繊維の長さや使用量、不飽和樹脂の種類、或いは積層する層の数を調整することで、形状、物性を任意に制御でき、幅広い用途と実用化の可能性は極めて高い。本発明の複合体は自動車、船舶、航空機等の内外装部品、建築材料、電気電子機器の外装材として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【第1図】
本発明の複合体の概念図
【第2図】
バガスシート(BFRP)
【第3図】
本発明及び従来の複合体の密度
【第4図】
本発明及び従来の複合体の比曲げ強度 繊維Aとは繊維長10mm未満のバガス繊維、繊維Bとは繊維長10mm以上のバガス繊維を使用
【第5図】
本発明及び従来の複合体の比曲げ強度
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に使用するバガスは、サトウキビの製糖工場から発生する搾りかす(バガス)なら特に限定せず、使用出来るが、その繊維長は長い方が複合体の物性の改善には効果的である。例えば、10mm未満の長さのバガスを10質量%使用した複合体では第4図に示すように、従来の複合体の比曲げ強度に比べて、1.2倍の改善が見られるが、10mm以上の長さのバガスを使用した複合体では、1.6倍の改善がある。所定の繊維長に合わせる方法は、ふるい(分級)によって可能である。所定の繊維長に揃えたバガス繊維は、次いで不飽和樹脂と混合し、混合した液体を流延化して、それを加熱プレスによってバガス繊維/不飽和樹脂複合シート(BFRP)化できる。複合シートの厚さ(或いは目付)は、通常少なくとも0.5mm(600g/m)、好ましくは、0.6〜30mm(720〜2500g/m)である。0.5mm(600g/m)より少ない場合は、形成されたシートの均一性が低下して、複合体の物性の均一性も低下する。また、30mmより厚くなると、限られた用途にしか使用できなくなる。
【0023】
複合体のマトリックスの不飽和樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂が使用できる。樹脂と繊維との比率は、目的や用途、性能によって適宜最適なものを選定するが、75〜95:25〜5、好ましくは80〜90:20〜10(いずれも質量比)である。
【0024】
バガス繊維と不飽和樹脂との複合体シート(BFRP)は、次のようにして得られる。「バガス繊維/不飽和樹脂」は「バガス繊維と不飽和樹脂」を意味する。
流動性のある不飽和樹脂液の中にバガス繊維を所定量、好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10−20質量%を添加して十分に撹拌する。
この時、バガス繊維に十分に樹脂がしみわたってバガス表面に樹脂の被膜を形成することが重要であり、必要に応じて加熱したり超音波を照射したり、減圧したりすることも可能である。
このようにして得られたバガス分散液を水平な容器中にキャスト(流延)して、次いでホットプレスにて少なくとも1MPa以上好ましくは5−10MPaの圧力をかけて、常温から通常5−30分かけて昇温させて樹脂の硬化温度まで加熱して、その状態を5−30分間或いは必要に応じてさらに長く維持して硬化させ、続いてある程度成形体を触れられる温度、例えば50℃程度以下まで冷却後除圧して(或いは型から外して)容器から取り出す。
これによって、シート状に成形したバガス繊維と不飽和樹脂との複合体を得られる。
不飽和樹脂液は溶剤で希釈して、作業に適するように粘度を調節してもよい。
【0025】
ガラス繊維と不飽和樹脂との複合体シート(GFRP)は、次のようにして得られる。「ガラス繊維/不飽和樹脂」は「ガラス繊維と不飽和樹脂」を意味する。
ガラス繊維を積層してマット状にした繊維構造体(ガラスマット:GM)を平板上に置き、そこに不飽和樹脂を流し込み、ホットプレスにて少なくとも1MPa以上好ましくは5−10MPaの圧力をかけて、常温から通常5−30分かけて昇温させて樹脂の硬化温度まで加熱して、その状態を5−30分間或いは必要に応じてさらに長く維持して硬化させ、続いてある程度成形体を触れられる温度、例えば50℃程度以下まで冷却後除圧する。
これによって、シート状に成形したガラス繊維と不飽和樹脂との複合体を得られる。
GMは市販品でもよいし、その場でガラス繊維を積層して作ってもよい。
【0026】
本発明のガラス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層の中間にバガス繊維/不飽和樹脂複合体からなる層を積層した繊維強化樹脂材は、次の方法で得た。
2枚のGFRP(樹脂を含浸させたGM)の間にBFRPを挟み、これをホットプレスにて少なくとも1MPa以上好ましくは5−10MPaの圧力をかけて、常温から通常5−30分かけて昇温させて樹脂の硬化温度まで加熱して、その状態を5−30分間或いは必要に応じてさらに長く維持して硬化させ、続いてある程度成形体を触れられる温度、例えば50℃程度以下まで冷却後除圧して(或いは型より外して)三層からなる繊維強化樹脂材をとりだす。
の繊維強化樹脂材は完全硬化物(Cステージ)でも半硬化物(Bステージ)でも殆ど硬化していない状態(Aステージ)でもよい。
目的に応じて好ましい硬度を採用できるが接着性や取り扱い性からはBステージのものが好ましい。
或いは、金型の上に不飽和樹脂を塗り、次いでガラスマットを敷き更に不飽和樹脂を塗り、その上にバガス/不飽和樹脂複合体(BFRP)を置き、更にその上に不飽和樹脂を塗り、次いでガラスマットを敷き更に不飽和樹脂を塗り、所定の温度、圧力のもとで一定時間キュアーしてもよい。
得られた繊維強化樹脂材は、第1図に示すようなGFRP層/BFRP層/GFRP層からなる多層複合体となる
この多層複合体は、目的や用途、性能によって、GFRP層/BFRP層/GFRP層/BFRP層/GFRP層の5層複合体や、GFRP層/BFRP層/GFRP層/BFRP層/GFRP層/BFRP層/GFRP層の7層複合体でも良い
この多層複合体でのGFRP層とBFRP層の厚さの比は1〜4:4〜1、好ましくは1〜3:3〜1であるが、この範囲外でも可能である。

【実施例】
以下実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
【0028】
翔南製糖株式会社から入手したバガス繊維はメッシュ#14のふるいにより分級し、繊維長10mm以下の短繊維集合体と10mm以上の長繊維集合体に分けて、それぞれを10%、不飽和ポリエステル(POLY KYUTO PC−934T)を90%及び0.2%の硬化剤を混合し十分に撹拌後、混合した複合材を平板の金型の間に装填し10MPaで加圧し、その後150℃まで昇温させ150℃で5分保持し、バガス/ポリエステル複合体(BFRP)シートを作成し、2種類のバガス繊維/不飽和樹脂複合体シート(BFRP:厚み0.8mm、目付660g/m)を得た。
【0029】
次いで、ガラスマット(チョップドストランドマット)(#350目付350g/m)間にバガスシート(BFRP)を挿入して3層の複合体を作製する場合は、金型にまず不飽和ポリエステル(UP)を塗布した後ガラスマットを敷き、不飽和ポリエステルを含浸させた後、上記で得たバガスシート(BFRP)を積層する。さらにバガスシート(BFRP)の上に不飽和ポリエステルを塗布した後、ガラスマットを置き、更に不飽和ポリエステルを塗布する。こうして三層の複合体を積層させたのち、10MPaで加圧し、30分かけて150℃まで加熱し、その温度で5分保持後冷却する。その後、自然冷却により50℃以下まで十分冷却した後、離型し、成形体(試験片)を取り出す。
【0030】
第3図はバガスシートの有無による比較を示す。GFRPの間にBFRPを挿入した場合、密度は従来の複合体より0.85倍と軽くなる。
実施例2
【0031】
第4図はバガス繊維長10mm未満の短繊維と10mm以上の長繊維のバガス繊維複合シート(BFRP)をそれぞれガラスマット間に挿入した3層の複合体の比曲げ強度の比較を示す。短繊維(繊維A)の場合は1.2倍、長繊維(繊維B)の場合は1.6倍の強度の向上を示す。
実施例3
【0032】
第5図はバガス長繊維を用いてバガス繊維複合シート(BFRP)における含有量を5%と10%を比較した場合の結果を示す。5%において変化は認められないが10%の場合は従来の複合体より1.6倍の高い比曲げ強度を示した。
図1
図2
図3
図4
図5