(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(A)及び前記工程(C)の間において、前記工程(A)で延伸された樹脂フィルムの配向軸が前記樹脂フィルムの進行方向となす角θを測定する工程(E)を含み、
前記工程(B)において、前記角θの絶対値を低減するように、前記樹脂フィルムの幅方向の位置の矯正量を調整する、請求項1記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下に説明する実施形態において、ロールはいずれも回転軸を水平方向に対して平行となるように設置した様子を示す。さらに、以下の説明において「進行方向」とは、別に断らない限り樹脂フィルムの進行方向を意味し、「幅方向」とは、別に断らない限り樹脂フィルムの幅方向を意味する。
【0013】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置の概要を模式的に示す図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置10は、二軸延伸フィルムをインラインで連続的に製造する装置であって、縦延伸装置であるロール延伸機100と、縁位置測定装置200と、フィルム位置矯正装置300と、横延伸装置であるテンター延伸機400とを、上流側からこの順に備える。また、製造装置10は、フィルム位置矯正装置300の制御を行うコントローラ500を備える。
【0014】
図2は、本発明の第一実施形態に係るロール延伸機100の概要を模式的に示す図である。
図2に示すように、ロール延伸機100は、第一ロールである調整ロール110と、第二ロールである調整ロール120と、一対のテンションロール130及び140と、ヒーター150とを備える。テンションロール130、調整ロール110、調整ロール120及びテンションロール140は上流側からこの順に設けられていて、ロール延伸機100に供給された樹脂フィルム600はこの順に搬送されるようになっている。
【0015】
調整ロール110及び120は、それぞれ周方向に回転可能に設けられている。また、調整ロール110及び120は図示しない駆動手段によって回転駆動され、進行方向に樹脂フィルム600を搬送しうるようになっている。また、上流の調整ロール110の周速よりも、下流の調整ロール120の周速の方が速く設定されている。このため、調整ロール110と調整ロール120との間には周速差があり、この周速差によって樹脂フィルム600が進行方向に連続的に延伸されうるようになっている。また、前記の周速差を調整することにより、樹脂フィルム600の延伸倍率を調整しうるようになっている。
【0016】
テンションロール130及び140は、樹脂フィルム600を厚み方向の一方(ここでは、図中上方)から押さえつけうるロールであり、周方向に回転可能に設けられている。ロール延伸機100では、これらのテンションロール130及び140が樹脂フィルム600を押さえつけることにより、樹脂フィルム600を調整ロール110及び120へと所定の圧力で圧接させうるようになっている。このため、調整ロール110及び120の回転力が樹脂フィルム600に効率よく伝わり、樹脂フィルム600を安定して延伸しうるようになっている。また、本実施形態では、上流のテンションロール130の周速は上流の調整ロール110と同じに設定され、下流のテンションロール140の周速は下流の調整ロール120の周速と同じに設定されて、テンションロール130及び140から回転力が樹脂フィルムに伝わって樹脂フィルム600が意図せず延伸されることが無いように設定されている。
【0017】
さらに、ヒーター150は、調整ロール110及び調整ロール120の間の位置において延伸される樹脂フィルム600を加熱しうる装置である。ヒーター150によって樹脂フィルム600の延伸温度を調整しうるようになっている。
【0018】
図3は、縁位置測定装置200により測定されるべき対象を説明するため、一例として樹脂フィルムを厚み方向から見た様子を模式的に示す図である。
図3に示すように、縁位置測定装置200は、ロール延伸機100で延伸された樹脂フィルム600の幅方向の縁610の位置を測定しうる装置である。縁位置測定装置200は、樹脂フィルム600の一方の縁610の位置を測定しうるものを用いてもよく、両方の縁610及び620の位置を測定しうるものを用いてもよい。縁位置測定装置200で測定された樹脂フィルム600の縁610の位置情報は、コントローラ500に送られるようになっている。
【0019】
このような縁位置測定装置200は、連続的に搬送される樹脂フィルム600の縁610の位置を測定しうるものであれば任意の装置を使用しうる。中でも、樹脂フィルム600を傷つけないために非接触型の測定装置が好ましく、例えば赤外線、可視光線等を用いた光学式の測定装置が好ましい。具体例を挙げると、ニレコ社製の耳端制御センサが挙げられる。
【0020】
図4は、本発明の第一実施形態に係るフィルム位置矯正装置300を模式的に示す斜視図である。
図4に示すように、フィルム位置矯正装置300は、ガイドロール310及び320と、テンションロール330及び340とを備える。テンションロール330、ガイドロール310、ガイドロール320及びテンションロール340は上流側からこの順に設けられていて、フィルム位置矯正装置300に供給された樹脂フィルム600はこの順に搬送されるようになっている。
【0021】
ガイドロール310及び320は、それぞれ周方向に回転可能に設けられている。また、ガイドロール310及び320は、
図4で矢印A1及びA2に示すように水平方向又は上下方向に旋回可能となっている。この旋回は、各ガイドロール310及び320の軸方向中央部を中心とした円弧状の旋回となっていて、この旋回によってガイドロール310及び320の角度は調整可能となっている。このフィルム位置矯正装置300では、ガイドロール310及び320の角度を調整することにより、樹脂フィルム600の幅方向において樹脂フィルム600とガイドロール310及び320との間の摩擦力に分布を生じさせて、樹脂フィルム600を幅方向に移動させることにより、樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正しうるようになっている。
【0022】
前記のガイドロール310及び320の旋回は、
図1に示すコントローラ500の制御に従って、図示しない駆動手段がガイドロール310及び320を旋回駆動させることにより行われうるようになっている。この際、前記のコントローラ500は、縁位置測定装置200から送られてきた樹脂フィルム600の縁610の位置情報に基づいて、樹脂フィルム600の幅方向の縁の位置の変位を特定し、この特定された変位を低減するように樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量を調整しうるようになっている。ここで幅方向の位置の矯正量とは、幅方向へ移動させるべき距離のことを意味する。
【0023】
具体的には、コントローラ500は、樹脂フィルム600の縁610の位置が本来位置するべき所定の位置630(
図3参照)の情報を記憶していて、この所定の位置630の情報と、縁位置測定装置200から送られてきた樹脂フィルム600の縁610の位置情報とから、樹脂フィルム600の幅方向の縁610の、所定の位置630からの変位Sを計算しうるようになっている。また、コントローラ500は、前記の変位Sを低減するべく、例えば当該変位Sと同じ距離を幅方向の位置の矯正量として設定し、その矯正量に応じてガイドロール310及び320を旋回させうるようになっている。
【0024】
コントローラ500のハードウェア構成に制限はないが、通常は、CPU等のプロセッサ、RAM及びROM等のメモリ、入出力端子等のインターフェースなどで構成されるコンピュータにより構成される。そして、予めメモリ等に記録された制御内容に従って制御を行いうるようになっている。
【0025】
図4に示すテンションロール330及び340は、樹脂フィルム600を厚み方向の一方(ここでは、図中上方)から押さえつけうるロールであり、周方向に回転可能に設けられている。フィルム位置矯正装置300では、これらのテンションロール330及び340が樹脂フィルム600を押さえつけることにより、樹脂フィルム600をガイドロール310及び320へと所定の圧力で圧接させうるようになっている。このため、ガイドロール310及び320の角度に応じて、樹脂フィルム600とガイドロール310及び320との摩擦力に幅方向で分布を生じさせて、樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正しうるようになっている。
【0026】
このようなフィルム位置矯正装置300としては、例えば、ニレコ社製のセンタポジションコントロール装置(CPC装置)が挙げられる。中でも、ガイドロールの軸方向中央部を中心として旋回しうるセンタピボット方式のセンタポジションコントロール装置が好ましい。
【0027】
図5は、本発明の第一実施形態に係るテンター延伸機400の構成を模式的に示す平面図である。テンター延伸機400は、樹脂フィルム600の幅方向の両端部640及び650を把持しうる複数の把持子410及び420を備え、把持子410及び420により樹脂フィルム600を引っ張って、樹脂フィルム600を延伸しうる装置である。
【0028】
テンター延伸機400は、把持子410及び420を案内しうるガイドレール430及び440を、樹脂フィルム600の長手方向の左右両脇に対に備える。把持子410及び420は移動可能になっていて、適切な任意の機構によって駆動されることにより、ガイドレール430及び440に沿って移動し、矢印A3に示される方向に周回しうるようになっている。
【0029】
テンター延伸機400には、樹脂フィルム600が上流(
図5における左側)から連続的に供給され、テンター延伸機400内を通過しうるようになっている。テンター延伸機400内を樹脂フィルム600が通過する際、把持子410及び420は、適切な任意の機構により、テンター延伸機400の入り口近傍の区間450において樹脂フィルム600の幅方向の両端部640及び650を把持し、その把持した状態を維持したままでガイドレール430及び440に沿って移動し、テンター延伸機400の出口近傍の区間460において放せるようになっている。
【0030】
ガイドレール430及び440は、入り口近傍の区間450から出口近傍の区間460へと進むに従って、左右両脇のガイドレール430及び440間の距離が次第に大きくなるようになっている。このため、把持子410と把持子420との幅方向の間隔は、樹脂フィルム600の進行方向への移動に伴い、広くなるようになっている。したがって、テンター延伸機400では、前記のように把持子410及び420が樹脂フィルム600の幅方向の両端部640及び650を掴んだ状態でガイドレール430及び440に沿って移動することにより、把持子410及び420によって樹脂フィルム600を幅方向に引っ張って、樹脂フィルム600を延伸しうるようになっている。
【0031】
また、テンター延伸機400は図示しないヒーターを備える。このヒーターにより、把持子410及び420によって把持された樹脂フィルム600を加熱しうるようになっている。これにより、テンター延伸機400では、樹脂フィルム600の延伸温度を調整しうるようになっている。
【0032】
本発明の第一実施形態としての製造装置10は以上のように構成されているので、二軸延伸フィルムの製造時には、まず、
図1に示すように、樹脂フィルム600をロール延伸機100に連続的に供給する。ロール延伸機100では、
図2に示すように、調整ロール110と調整ロール120との周速差によって、樹脂フィルム600を進行方向に連続的に延伸する工程(A)を行う。これにより、樹脂フィルム600は、進行方向に延伸された縦延伸フィルムとなる。縦延伸フィルムとなった樹脂フィルム600は、縁位置測定装置200へと送られる。
【0033】
縁位置測定装置200では、工程(A)で延伸された樹脂フィルム600の幅方向の縁610(
図3参照)の位置を測定する工程(D)を行う。その後、樹脂フィルム600はフィルム位置矯正装置300へと送られる。また、測定された幅方向の縁610の位置情報は、コントローラ500へと送られる。
【0034】
フィルム位置矯正装置300では、
図4に示すように、樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正する工程(B)を行う。本実施形態に係る工程(B)では、コントローラ500の制御により、工程(D)で測定された樹脂フィルム600の幅方向の縁610の位置の変位Sを低減するように、樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量が調整される。これにより、樹脂フィルム600を進行方向に延伸する工程(A)と樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)との間において、樹脂フィルム600の蛇行等によって樹脂フィルム600の幅方向の位置に所定の位置からの変位が生じていた場合であっても、その変位を低減することができる。
【0035】
工程(B)において位置を矯正された樹脂フィルム600は、その後、テンター延伸機400に供給される。テンター延伸機400では、
図5に示すように、樹脂フィルム600の両端部640及び650を把持子410及び420にて把持し、把持子410及び420の幅方向の間隔を樹脂フィルム600の進行方向への移動に伴い広げることにより、樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)を行う。これにより、樹脂フィルム600は進行方向及び幅方向という互いに垂直な2方向に延伸された二軸延伸フィルムとなる。
【0036】
工程(C)の後、
図1に示すように、樹脂フィルム600は通常はロール状に巻き取られ、ロール660の状態で保管及び運搬されることになる。
【0037】
このように、本発明の第一実施形態に係る製造方法では、工程(A)の後かつ工程(C)の前において、樹脂フィルム600の幅方向の位置に所定の位置からの変位が生じていた場合であっても、当該変位を低減できるので、前記の変位によって二軸延伸フィルムの配向軸がずれることを抑制できる。
【0038】
従来は一般に、二軸延伸フィルムの配向軸の精度は幅方向への延伸による影響が大きいと考えられてきたために、特許文献1〜3のようなテンター延伸機の制御が行われてきた。ところが、特許文献1〜3のように制御を行った場合でも、二軸延伸フィルムの配向軸に周期的ではないランダムなずれが生じることがあった。このような配向軸のずれは程度が小さいものであるが、近年の要求品質の高まりから改善が求められるものとなっていた。
【0039】
そこで本発明者は、従来は注目されていなかったテンター延伸機による延伸の前での樹脂フィルムに着目し、テンター延伸機に供給される樹脂フィルムの光学特性を調整することにより、二軸延伸フィルムの配向軸のずれを低減できることを見出した。具体的な光学特性としては、樹脂フィルムを進行方向へ延伸したことにより発現する配向軸の変動(特に、平均値の変動)が、幅方向への延伸により発現する配向軸の変動(特に、平均値の変動)に影響していることを見出した。本実施形態においては、前記の進行方向への延伸により発現する配向軸の変動が、進行方向への延伸後に樹脂フィルムの進行方向が変動することと相関していることを見出し、この進行方向の変動を、樹脂フィルム600の幅方向の位置の変位を指標として矯正することにより、二軸延伸フィルムの配向軸のずれを低減させたものである。樹脂フィルムを進行方向へ延伸したことにより発現する配向軸の変動は、前記の樹脂フィルムの進行方向の変動による影響が大きいと考えられることから、本実施形態によれば、突発的な要因を除く大部分の要因による配向軸のずれを低減することが可能である。
【0040】
また、従来の二軸延伸フィルムの製造方法は、樹脂フィルムを進行方向に延伸した後でテンター延伸機を用いて幅方向に延伸する点では、本実施形態と同様である。しかし、従来の製造方法では、進行方向に延伸した樹脂フィルムをテンター延伸機に供給する際、テンター延伸機の入口を、樹脂フィルムの幅方向の動きに追従するように装置を設計することが通常であった。このため、テンター延伸機に供給する樹脂フィルムの幅方向の位置を矯正するとの観点は、従来無かったものである。したがって、テンター延伸機による幅方向の延伸の前の樹脂フィルムに着目した点で、本実施形態は、テンター延伸機による幅方向の延伸条件に着目した従来の技術とは相違している。
【0041】
以上、本発明の第一実施形態について詳細に説明したが、本発明は更に変更して実施してもよい。
例えば、縁位置測定装置200とフィルム位置矯正装置300とは、順番を逆にしてもよい。
また、例えば、本実施形態ではフィルム位置矯正装置300は2本のガイドロール310及び320を用いたが、ガイドロールの数は1本でもよく、3本以上でもよい。
また、例えば、コントローラ500によって自動的に制御を行うようにする代わりに、縁位置測定装置200で測定された位置情報に基づいて使用者がフィルム位置矯正装置300の制御を行うようにしてもよい。
また、例えば、上述した以外の工程を行うようにしてもよい。具体例を挙げると、工程(A)の前及び工程(C)の前に樹脂フィルムを加熱する予熱工程を行ったり、工程(A)の後及び工程(C)の後に樹脂フィルムを加熱する熱固定工程を行ったり、製造された二軸延伸フィルムに更に別の層(例えば、易接着層、保護層、ハードコート層等)を設ける工程を行ったりしてもよい。
【0042】
[第二実施形態]
図6は、本発明の第二実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置の概要を模式的に示す図である。
図6に示すように、本発明の第二実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置20は、縁位置測定装置200及びコントローラ500の代わりに配向角測定装置700及びコントローラ800を備えること以外は、第一実施形態に係る製造装置10と同様である。したがって、製造装置20は、縦延伸装置であるロール延伸機100と、配向角測定装置700と、フィルム位置矯正装置300と、横延伸装置であるテンター延伸機400とを、上流側からこの順に備え、また、フィルム位置矯正装置300の制御を行うコントローラ800を備える。
【0043】
図7は、配向角測定装置700により測定されるべき対象を説明するため、一例としての樹脂フィルムを厚み方向から見た様子を模式的に示す図である。
図7に示すように、配向角測定装置700は、ロール延伸機100で延伸された樹脂フィルム600の配向角θを測定しうる装置である。ここで配向角θとは、樹脂フィルム600の配向軸670が樹脂フィルム600の進行方向A4となす角のことを意味する。配向角測定装置700で測定された樹脂フィルム600の配向角θの情報は、コントローラ800に送られるようになっている。
【0044】
このような配向角測定装置700は、連続的に搬送される樹脂フィルム600の配向角θを測定しうるものであれば任意の装置を使用しうる。このような配向角測定装置700の例を挙げると、平行ニコル回転法及び平行ニコル分光法などのオンライン位相差計等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の第二実施形態においては、
図4に示すフィルム位置矯正装置300における前記のガイドロール310及び320の旋回は、コントローラ800の制御に従って、図示しない駆動手段がガイドロール310及び320を旋回駆動させることにより行われうるようになっている。この際、前記のコントローラ800は、配向角測定装置700から送られてきた樹脂フィルム600の配向角θの情報に基づいて、配向角θの絶対値を低減するように樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量を調整しうるようになっている。
【0046】
具体的には、コントローラ800は、ロール延伸機100で延伸された樹脂フィルム600の配向角θの値と、その配向角に対応して矯正するべき樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量との関係を規定するテーブルを記憶していて、このテーブルに基づいて、樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量を求め、その矯正量に応じてガイドロール310及び320を旋回させうるようになっている。
【0047】
本発明の第二実施形態としての製造装置20は以上のように構成されているので、二軸延伸フィルムの製造時には、まず、
図6に示すように、樹脂フィルム600をロール延伸機100に連続的に供給する。ロール延伸機100では、
図2に示すように、第一実施形態と同様に樹脂フィルム600を進行方向に連続的に延伸する工程(A)を行う。これにより、樹脂フィルム600は、進行方向に延伸された縦延伸フィルムとなり、配向角測定装置700へと送られる。
【0048】
配向角測定装置700では、工程(A)で延伸された樹脂フィルム600の配向角θ(
図7参照)を測定する工程(E)を行う。その後、樹脂フィルム600はフィルム位置矯正装置300へと送られる。また、測定された配向角θの情報は、コントローラ800へと送られる。
【0049】
フィルム位置矯正装置300では、
図4に示すように、樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正する工程(B)を行う。本実施形態に係る工程(B)では、コントローラ800の制御により、工程(E)で測定された樹脂フィルム600の配向角θの絶対値が低減するように、樹脂フィルム600の幅方向の位置の矯正量が調整される。これにより、樹脂フィルム600を進行方向に延伸する工程(A)と樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)との間において、樹脂フィルム600に配向軸の変動が生じていた場合であっても、その変動を低減することができる。
【0050】
工程(B)において位置を矯正された樹脂フィルム600は、その後、テンター延伸機400に供給される。テンター延伸機400では、
図5に示すように、第一実施形態と同様に樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)を行う。これにより、樹脂フィルム600は進行方向及び幅方向という互いに垂直な2方向に延伸された二軸延伸フィルムとなる。その後、樹脂フィルム600は、通常は
図1に示すように、ロール状に巻き取られる。
【0051】
このように、本発明の第二実施形態に係る製造方法では、工程(A)の後かつ工程(C)の前において、樹脂フィルム600の配向軸θに変動が生じた場合でも、当該樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正することによって当該変動を低減できるので、前記の配向軸の変動によって二軸延伸フィルムの配向軸がずれることを抑制できる。
【0052】
本実施形態の製造方法では、樹脂フィルムを進行方向へ延伸したことにより発現する配向軸の変動(特に、平均値の変動)に着目した点では第一実施形態と同様である。しかし、テンター延伸機に供給される樹脂フィルムの光学特性を調整する指標として、第一実施形態では進行方向への延伸後に生じる樹脂フィルムの幅方向の位置の変位を用いていたのに対し、第二実施形態ではテンター延伸機に供給される樹脂フィルムの光学特性の一つである配向角θを用いた点で、第一実施形態と第二実施形態とは相違する。第二実施形態では、樹脂フィルムの光学特性の一つである配向角θ自体を指標としているので、樹脂フィルムの幅方向の位置の変位という間接的な指標を用いて制御を行った第一実施形態よりも、精度の高い制御を行うことが可能である。すなわち、第二実施形態では、樹脂フィルムの幅方向の位置の変位には現れない要因により生じる配向軸の変動を矯正することが可能である。このため、第二実施形態に係る製造方法では、通常、第一実施形態よりも配向軸のずれを更に低減させることが可能である。
【0053】
以上、本発明の第二実施形態について詳細に説明したが、本発明は更に変更して実施してもよい。
例えば、第一実施形態と同様に変更して実施してもよい。
【0054】
[第三実施形態]
二軸延伸フィルムの製造装置の構成は、本発明の二軸延伸フィルムの製造方法を実施できる限り任意であり、例えば、縁位置測定装置、配向角測定装置、フィルム位置矯正装置及びコントローラの一部又は全部を縦延伸装置に設けてもよい。以下、その実施形態の一例について図面を用いて説明する。
【0055】
図9は、本発明の第三実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置の概要を模式的に示す図である。
図9に示すように、本発明の第三実施形態に係る二軸延伸フィルムの製造装置30は、ロール延伸機900と、横延伸機であるテンター延伸機400とを、上流側からこの順に備える。テンター延伸機400は、上述した第一実施形態と同様である。
【0056】
図10は、本発明の第三実施形態に係るロール延伸機900の概要を模式的に示す図である。
図10に示すように、ロール延伸機900は、第一ロールである調整ロール910と、第二ロールである調整ロール920と、一対のテンションロール930及び940と、ヒーターである加熱炉950とを備える。
図10において、調整ロール910及び920には斜線を付して示す。調整ロール910、テンションロール930、テンションロール940及び調整ロール920は上流側からこの順に設けられていて、ロール延伸機900に供給された樹脂フィルム600はこの順に搬送されるようになっている。
【0057】
本実施形態に係る調整ロール910、調整ロール920、テンションロール930及びテンションロール940は、これらのロールの順番が異なる点以外は第一実施形態に係る調整ロール110、調整ロール120、テンションロール130及びテンションロール140とそれぞれ同様に設けられている。このように本実施形態ではロールの順番が第一実施形態とは異なるが、第一実施形態と同様に、第三実施形態においても上流の調整ロール910と下流の調整ロール920との周速差によって樹脂フィルム600を進行方向に連続的に延伸しうるようになっている。
【0058】
加熱炉950は、加熱炉950内に所定の温度に調整しうる加熱領域960を有する。また、加熱炉950は、テンションロール930とテンションロール940との間に設けられ、調整ロール910と調整ロール920との周速差により張力が与えられた樹脂ロール600が加熱領域960を通過しうるようになっている。このような構成では、樹脂フィルム600は、加熱領域960において所定の延伸温度に加熱されうるが、通常、加熱領域960を出ると速やかに冷却される。このため、樹脂フィルム600の進行方向への延伸は、加熱領域960において行われ、加熱領域960の外部では行われないようになっている。
【0059】
加熱領域960よりも下流側、かつ、調整ロール920よりも上流側には、縁位置測定装置200及びフィルム位置矯正装置300が設けられている。具体的には、テンションロール940と調整ロール920との間に、フィルム位置矯正装置300及び縁位置測定装置200が上流側からこの順に設けられている。
【0060】
縁位置測定装置200は、第一実施形態と同様、進行方向に延伸された樹脂フィルム600の幅方向の縁の位置を測定しうる装置であり、測定された樹脂フィルム600の縁の位置情報をコントローラ500に送るようになっている。
また、フィルム位置矯正装置300は、第一実施形態と同様、ガイドロール310及びガイドロール320を備え、コントローラ500の制御に従ってガイドロール310及び320を旋回駆動させることによって樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正しうるようになっている。
【0061】
本発明の第三実施形態としての製造装置30は以上のように構成されているので、二軸延伸フィルムの製造時には、まず、
図9に示すように、樹脂フィルム600をロール延伸機900に連続的に供給する。ロール延伸機900では、
図10に示すように、加熱炉950内の加熱領域960において、樹脂フィルム600を進行方向に連続的に延伸する工程(A)を行う。これにより、樹脂フィルム600は、進行方向に延伸された縦延伸フィルムとなり、加熱領域950よりも下流のフィルム位置矯正装置300及び縁位置測定装置200へと送られる。
【0062】
縁位置測定装置200及びフィルム位置矯正装置300では、第一実施形態と同様の要領で、樹脂フィルム600の幅方向の位置を矯正する工程(B)を行う。これにより、樹脂フィルム600を進行方向に延伸する工程(A)と樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)との間において、樹脂フィルム600の幅方向の位置に所定の位置からの変位が生じていた場合であっても、その変位を低減することができる。
【0063】
工程(B)において位置を矯正された樹脂フィルム600は、その後、
図9に示すように、ロール延伸機900を出てテンター延伸機400に供給される。テンター延伸機400では、第一実施形態と同様に樹脂フィルム600を幅方向に延伸する工程(C)を行う。これにより、樹脂フィルム600は進行方向及び幅方向という互いに垂直な2方向に延伸された二軸延伸フィルムとなる。その後、樹脂フィルム600は、通常は
図9に示すように、ロール状に巻き取られる。
【0064】
このように、本発明の第三実施形態に係る製造方法でも、第一実施形態と同様の利点を得ることができる。特に、第三実施形態では工程(A)が終了してから工程(B)を行うまでに要する時間を第一実施形態よりも短くできるので、進行方向へ延伸したことにより発現する配向軸の変動を第一実施形態よりも速やかに低減することが可能である。このため、樹脂フィルムを進行方向へ延伸したことにより発現する配向軸の変動(特に、平均値の変動)を更に低減して、二軸延伸フィルムの配向軸のずれを特に小さくすることができる。
【0065】
以上、本発明の第三実施形態について詳細に説明したが、本発明は更に変更して実施してもよい。
例えば、フィルム位置矯正装置300のガイドロールの数を1本にしてもよく、3本以上にしてもよい。ガイドロールの数を1本にする場合、例えば
図11に示すように、加熱領域960の直ぐ下流の位置にテンションロール940の代わりにガイドロール310を設けてもよいので、ロールの数を低減して製造装置の小型化を進めることができる。
【0066】
また、例えば、縁位置測定装置200及びコントローラ500の代わりに、
図10及び
図11に示すように、第二実施形態と同様に配向角測定装置700及びコントローラ800を設けてもよい。これにより、第二実施形態と同様の利点を得ることができる。またこの場合も、工程(A)が終了してから工程(B)を行うまでに要する時間を第二実施形態よりも短くできるので、二軸延伸フィルムの配向軸のずれを特に小さくすることができる。
【0067】
さらに、例えば、第一実施形態及び第二実施形態と同様に変更して実施してもよい。
【0068】
[樹脂フィルム]
本発明の二軸延伸フィルムの製造方法に供される樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂からなる層を備える長尺のフィルムである。ここで「長尺」とは、その幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0069】
熱可塑性樹脂の種類は、二軸延伸フィルムに求められる光学特性に応じて適切な樹脂を選択することが好ましい。中でも、非晶性樹脂が好ましく、延伸加工性及び寸法安定性に優れることから、脂環式構造含有重合体樹脂が好ましい。
【0070】
脂環式構造含有重合体樹脂は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂である。この際、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0071】
脂環式構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0072】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0073】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び熱可塑性樹脂フィルムの成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0074】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、二軸延伸フィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0075】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0076】
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物;等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。なお、「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0077】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって、複数個が環に結合していてもよい。なお、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0078】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0079】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。なお、ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより得ることができる。
【0081】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素原子数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。なお、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0082】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより得ることができる。
【0083】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0084】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2−または1,4−付加重合体;およびこれらの水素化物;などを挙げることができる。
【0085】
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香環部分を水素化してなる水素化物;ビニル脂環式炭化水素系モノマー、またはビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体若しくはブロック共重合体等の共重合体の、芳香環の水素化物;等を挙げることができる。なお、前記のブロック共重合体としては、例えば、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはそれ以上のマルチブロック共重合体、並びに傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0086】
脂環式構造含有重合体樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、脂環式構造含有重合体以外にもその他の成分を含んでいてもよい。これらの成分の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。中でも、滑剤及び紫外線吸収剤は、可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。なお、これらの成分は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、これらの成分の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めてもよく、例えば、熱可塑性樹脂フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲としてもよい。
【0087】
滑剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等の有機粒子などが挙げられる。中でも、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0088】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0089】
樹脂フィルムとしては、1層のみからなる単層構造のフィルムを用いてもよく、複数の層を有する複層構造のフィルムであってもよい。また、樹脂フィルムが複数の層を備える場合、樹脂フィルムが備える層を形成する樹脂の種類は、同じでもよく、異なっていてもよい。具体例を挙げると、樹脂(a)からなる(a)層と、樹脂(a)とは異なる樹脂(b)からなる(b)層とを、(a)層、(b)層及び(a)層の順に備える3層構造のフィルムにしてもよい。
【0090】
また、通常は、延伸処理を施される前の樹脂フィルムを本発明の製造方法に供するが、必要に応じて、延伸処理を施された樹脂フィルムを本発明の製造方法に供してもよい。
【0091】
樹脂フィルムの製造方法としては、単層構造の樹脂フィルムの製造方法の例を挙げると、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法は、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法などが挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
【0092】
また、複層構造の樹脂フィルムの製造方法の例を挙げると、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出成形法;ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法;共流延法;及び樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法;などの方法が挙げられる。中でも、共押出成形法は、製造効率や、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、好ましい。共押出成形法には、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられるが、なかでも共押出Tダイ法が好ましい。また、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0093】
[延伸処理]
工程(A)及び工程(C)における延伸条件は、通常、二軸延伸フィルムに発現させたい光学特性に応じて設定する。
延伸温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを基準として、好ましくは(Tg−30℃)以上、より好ましくは(Tg−10℃)以上であり、好ましくは(Tg+60℃)以下、より好ましくは(Tg+50℃)以下である。なお、樹脂フィルムが複層構造のフィルムである場合、層によって熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgが異なることがありえる。その場合には、好ましくはガラス転移温度Tgが最も低い層を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgを基準として、延伸時の温度を設定する。
【0094】
延伸倍率は、進行方向及び幅方向それぞれにおいて、通常1.05倍以上、好ましくは1.1倍以上であり、通常10.0倍以下、好ましくは2.0倍以下である。
【0095】
[二軸延伸フィルム]
本発明の製造方法により製造される二軸延伸フィルムは、光学フィルムとして用いられる樹脂フィルムである。この二軸延伸フィルムは、光学要素としての機能を安定に発揮する観点から、1mm厚換算での全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0096】
二軸延伸フィルムは、1mm厚換算でのヘイズが、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、二軸延伸フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0097】
二軸延伸フィルムの面内位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの値は、二軸延伸フィルムの用途によって異なり、通常は、面内位相差Reで10nm〜500nm、厚み方向の位相差Rthで−500nm〜500nmの範囲から適宜選択される。
【0098】
なお、面内位相差Reは、二軸延伸フィルムの遅相軸方向の屈折率nx、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率ny、及び厚み方向の屈折率nz、二軸延伸フィルムの平均厚みDとしたときに、(nx−ny)×Dで定義される値である。また、厚み方向の位相差は、((nx+ny)/2−nz)×Dで定義される値である。
【0099】
二軸延伸フィルムの幅は、通常1000mm以上、好ましくは1300mm以上、より好ましくは1400mm以上である。このように二軸延伸フィルムの幅を広くすることにより、大画面の表示装置等に好適に用いることができる。幅の上限に制限は無いが、通常2500mm以下、好ましくは2000mm以下である。
【0100】
二軸延伸フィルムの厚みは、例えば、180μm以下、120μm以下、60μm以下、50μm以下としてもよい。また、下限は、例えば、10μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上などに、適宜設定してもよい。
【実施例】
【0101】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。さらに、後述する二軸延伸フィルムの製造方法は、インラインで連続的に行った。
【0102】
[評価方法]
以下の実施例で製造されたフィルムの物性は、以下の方法によって測定及び評価した。
【0103】
〔配向角の測定〕
二軸延伸フィルムの配向軸のずれを評価するため、配向角を測定した。二軸延伸フィルムの配向角は、平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製KOBRA−WIST−IE)をインラインでトラバースさせて測定した。トラバースとは、二軸延伸フィルムを幅方向に横切るように測定点を移動させながら所定間隔毎に配向角を測定する動作を意味し、ここでは、測定点が二軸延伸フィルムの両端の間を往復するように移動させながら測定を行った。また、二軸延伸フィルムの一方の端から他方の端まで測定することを「1トラバース」と呼ぶ。以下の実施例及び比較例では、測定は100トラバース以上実施してそれぞれのトラバースにおいて平均値を算出し、その平均値における標準偏差(σ)を求めた。標準偏差が小さいものほど、良好なものである。
【0104】
[実施例1]
ノルボルネン系樹脂であるZEONOR1420(日本ゼオン社製)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、単軸押出機に供給し、250℃で溶融してTダイからキャスティングドラム上にシート状に押出して冷却し、樹脂フィルムとして厚み150μmの未延伸フィルムを得た。
【0105】
未延伸フィルムを、そのまま、調整ロール(第一ロール及び第二ロールに相当)間でのフロート方式を用いたロール延伸機に連続して供給し、135℃の温度で進行方向に1.4倍に延伸して、縦延伸フィルムを得た(工程(A))。
【0106】
得られた縦延伸フィルムの幅方向の縁の位置を、縁位置測定装置であるレーザーセンサー(ニレコ社製SLH20)によって測定した(工程(D))。
その後、ガイドロールを2本組み合わせたセンタピボット方式のセンタポジションコントロール装置(ニレコ社製AE1000)に供給して、縦延伸フィルムの幅方向の位置を矯正した。この際、幅方向の位置の矯正量は、前記の工程(D)で測定された縁の位置のデータを元に、縦延伸フィルムの走行位置が常に一定となるように調整した(工程(B))。
【0107】
その後、幅方向の位置を矯正された前記の縦延伸フィルムをテンター延伸機に供給した。テンター延伸機では、縦延伸フィルムの幅方向の両端部を把持子にて把持し、加熱炉内にて140℃の温度で横方向に1.8倍に延伸するようにした(工程(C))。これにより、二軸延伸フィルムが得られた。
こうして得た二軸延伸フィルムを巻き取り、幅1350mm、長さ1500mの二軸延伸フィルムのロールを得た。得られた二軸延伸フィルムの配向角を上述した要領で測定し、評価した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例2]
実施例1と同様にして、縦延伸フィルムを製造した(工程(A))。
【0109】
得られた縦延伸フィルムの配向角θを、平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製KOBRA−WIST−IE)によって測定した(工程(E))。
その後、ガイドロールを2本組み合わせたセンタピボット方式のセンタポジションコントロール装置(ニレコ社製AE1000)に供給して、縦延伸フィルムの幅方向の位置を矯正した(工程(B))。この際、幅方向の位置の矯正量は、前記の工程(E)で測定された配向角θのデータを元に、配向角θの絶対値を低減するように調整した。具体的には、配向角θの値と、その配向角θに対応して矯正するべき縦延伸フィルムの幅方向の移動距離(矯正量)との関係を規定する検量線を
図8に示すように予め作成しておき、この検量線と工程(E)で測定された配向角θの実測値を元にして、センタポジションコントロール装置のフィードバック制御を行うようにした。なお、
図8に記載の点は、検量線の作成に用いた実測値を表す。
【0110】
その後、幅方向の位置を矯正された前記の縦延伸フィルムをテンター延伸機に供給した。テンター延伸機では、縦延伸フィルムの幅方向の両端部を把持子にて把持し、加熱炉内にて140℃の温度で横方向に1.8倍に延伸するようにした(工程(C))。これにより、二軸延伸フィルムが得られた。
こうして得た二軸延伸フィルムを巻き取り、幅1350mm、長さ1500mの二軸延伸フィルムのロールを得た。得られた二軸延伸フィルムの配向角を上述した要領で測定し、評価した。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例3]
上述した実施例1及び2で用いたロール延伸機にはヒーターとして加熱炉が設けられており、この加熱炉の内部の空間は当該ロール延伸機の加熱領域となっている。縁位置測定装置であるレーザーセンサー及びフィルム位置矯正装置であるセンタポジションコントロール装置をロール延伸機とは別に設けた実施例1と異なり、実施例3では、ロール延伸機の加熱領域よりも下流側、かつ、下流側の調整ロール(第二ロールに相当)よりも上流側にレーザーセンサー及びセンタポジションコントロール装置を設けた。これにより、ロール延伸機の構成を第三実施形態で説明した構成(
図10参照)としたこと以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムのロールを得た。得られた二軸延伸フィルムの配向角を上述した要領で測定し、評価した。結果を表1に示す。
【0112】
[比較例1]
縦延伸フィルムの幅方向の縁の位置の測定(工程(D))、及び、縦延伸フィルムの幅方向の位置の矯正(工程(B))を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、幅1350mm、長さ1500mの二軸延伸フィルムのロールを得た。得られた二軸延伸フィルムの配向角を上述した要領で測定し、評価した。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
[検討]
表1から分かるように、実施例1〜3では、比較例1に比べて二軸延伸フィルムの配向角の標準偏差(σ)が小さい。このことから、本発明によって配向角のずれを小さくできることが確認された。