【文献】
H. TAKENO, Y. HAYAMIZU, and K. MIKI,Diffusivity of oxygen in Czochralski silicon at 400-750°C,J. Appl. Phys.,1998年,Vol.84, No.6,pp.3113-3117
【文献】
W. KAISER, H. L. FRISCH, AND H. REISS,Mechanism of the Formation of Donor States in Heat-Treated Silicon,PHYSICAL REVIEW,1958年12月 1日,VOLUME 112, NUMBER 5,pp.1546-1554
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記関係式を用いて酸素ドナー起因のキャリアの発生量を算出し、該算出したキャリアの発生量を用いて、前記熱処理後のシリコン単結晶の抵抗率を算出して評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の評価方法。
請求項3に記載のシリコン単結晶の評価方法を用いて前記熱処理後のシリコン単結晶の抵抗率を算出し、該算出した抵抗率に基づいて、シリコン単結晶を育成するときの酸素濃度および抵抗率の狙い値を決定し、該決定した狙い値に基づいてシリコン単結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される移動体通信では低コスト、高集積、低電力、多機能、高速化など日々進化している。これらに用いられるのがRF(高周波)デバイスと呼ばれるものである。このRFデバイスには専ら化合物半導体が用いられてきた。
しかし近年CMOSプロセスの微細化が進んだこと、低コスト化したいことなどから、シリコンをベースとしたRFデバイスが実現可能となってきた。
【0003】
シリコン単結晶ウェーハを用いたRFデバイスにおいては、基板抵抗率が低いと高導電性のために損失が大きく、高抵抗率が用いられる。SOI(Silicon on Insulator)と呼ばれるシリコン基板表層部に薄い酸化膜と薄いシリコン層を形成させたウェーハを用いることもあるが、この場合も高抵抗率が望まれる。
【0004】
しかしながら、CZ法により育成された結晶の高抵抗率基板を用いると、CZ結晶中に存在する酸素原子がデバイスの後工程である配線やパッケージなど比較的低温の熱処理により酸素ドナーを形成し、基板の抵抗率がずれてしまうという問題があった。
【0005】
特許文献1や特許文献2では、高温の熱処理をすることで酸素原子を外方拡散させ、デバイスを形成する基板の表面近傍の濃度を下げる方法が提案されている。
しかしこの方法では、高温の熱処理工程が必要なために高コスト化してしまうという問題点がある。
【0006】
そこで、CZ法により育成される結晶の酸素濃度を下げることがより好ましいと考えられる。特許文献3には低酸素化技術が開示されており、かなりの低酸素濃度を達成できている。しかし、特許文献3などにもあるように一般に結晶のトップ側(頭側)は酸素濃度が高く、下げることが難しいので、達成すべき狙い酸素濃度が低ければ低いほど良品率が低下する。
【0007】
また、狙い酸素濃度が極端に低いと、ルツボ内の原料融液に固化が発生して結晶が有転位化してしまう場合もある。従ってあまりに低酸素濃度を目指すと、結局コストが高くなってしまという問題があった。
【0008】
特許文献4には、高抵抗率結晶において予め酸素ドナーの発生量を求める方法が示されている。ここでは酸素ドナー発生量が酸素濃度のB乗に比例すると仮定しながらも(特許文献4の40段落参照)、最終的にはその具体的な数値は明らかにされていない。
また、特許文献4の
図2では酸素濃度と酸素ドナー発生量とが片対数グラフ上で直線の関係になることが示されている。酸素濃度のB乗に比例するのであれば片対数グラフ上で直線関係になるはずはないので、結局この方法からは数式として発生量を表記できておらず、汎用性がないと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のシリコン単結晶の評価方法および製造方法について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明のシリコン単結晶の評価方法について説明する。
図1は本方法の手順の一例を示すフロー図である。
(工程1) 評価対象のシリコン単結晶の用意
評価対象となるシリコン単結晶を用意する。
本方法では、酸素ドナーを起因とするキャリアの発生量について求めるので、特には酸素を含むものとすることができる。例えば、CZ法やMCZ法によるシリコン単結晶を用意することができる。
【0025】
まず、シリコン単結晶を育成する。
ここで、CZ法等によりシリコン単結晶を育成可能な装置について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、単結晶引上げ装置1は、引上げ室2と、引上げ室2中に設けられたルツボ3(内側に石英ルツボ、外側に黒鉛ルツボ)と、ルツボ3の周囲に配置されたヒータ4と、ルツボ3を回転させるルツボ保持軸5及びその回転機構(図示せず)と、シリコンの種結晶6を保持するシードチャック7と、シードチャック7を引上げるワイヤ8と、ワイヤ8を回転又は巻き取る巻取機構(図示せず)を備えて構成されている。また、ヒータ4の外側周囲には断熱材9が配置されている。
シリコン単結晶10は、原料のシリコン融液11からワイヤ8によって引上げられる。
【0026】
このような
図2の単結晶引上げ装置1を用いて、シリコン単結晶10を育成するときは、ルツボ3を回転させながら、ルツボ3中のシリコン融液11に、シードチャック7に保持された種結晶6を浸漬する。そして、ワイヤ8を回転・巻き取りしながら、シリコン融液11から棒状のシリコン単結晶10を引き上げる。
ルツボ3はルツボ保持軸5により結晶成長軸方向に昇降可能であり、結晶成長中に結晶化して減少した融液の液面下降分を補うように該ルツボ3を上昇させる。結晶の側方にはシリコン融液11から発する酸化性蒸気を整流するために不活性ガスが流されている。
【0027】
シリコン融液11が入った石英ルツボはシリコンと酸素から成っているので、酸素原子がシリコン融液内へと溶出する。この酸素原子はシリコン融液11内を対流等に乗って移動し、最終的には融液の表面から蒸発していく。この時ほとんどの酸素は蒸発するが、一部の酸素は結晶に取り込まれ、格子間酸素Oiとなる。
このときにルツボ3や育成するシリコン結晶10の回転数を変更したり、磁場印加CZ法(すなわちMCZ法)では磁場印加条件を変更したりすることでシリコン融液11内の対流の流れを制御して結晶中の酸素濃度を制御することが可能であるし、また不活性ガスの流量調整や炉内の圧力制御により表面からの酸素蒸発量を制御可能である。
【0028】
なお、酸素濃度が10×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)以下のものを育成するのはCZ法では難しくなってくるのでMCZ法を用いると良い。酸素濃度の狙い値等に合わせてCZ法、MCZ法を使いわけることもできる。
【0029】
このようにして、酸素濃度を調整しつつシリコン単結晶を育成することができる。そして、得られたシリコン単結晶をバンドソー等によりウェーハ状のサンプルを切り出す。
なお、酸素濃度はこのウェーハ状のサンプルを用いて、例えば、室温でのFT−IR法によって求めることができる。ここで酸素濃度[Oi]でOiと記載しているのは、酸素原子がシリコン結晶中ではインタースティシャル(格子間)の位置に存在しているためであり、その位置での赤外吸収を測定して酸素濃度と表記しているためである。
【0030】
評価対象のシリコン単結晶の酸素濃度は特に限定されず、評価の目的等に合わせて適宜決定することができる。
なお、本手法は酸素濃度9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)以下の低酸素の結晶に対して特に有用である。
【0031】
次にサンプルに酸素ドナー消去熱処理を施す。
シリコン単結晶育成後の結晶中には酸素ドナーが存在している。酸素ドナーは450℃前後の比較的低温領域で生成される。結晶のボトム側(尾側:後に育成される部分)では結晶成長時にこのような低温熱履歴を受けず、ほとんど酸素ドナーが発生しない。逆に結晶のトップ側(頭側:先に育成される部分)では充分にこの低温熱履歴を受けるため、多くの酸素ドナーが生成される。
近年の結晶長尺化に伴い、この傾向は一層顕著となり、トップ側では大量の酸素ドナーが存在し、ボトム側には酸素ドナーがほとんど存在しない、という状況となっている。
【0032】
この酸素ドナーは、例えば650℃で20分程度の軽微な熱処理をすれば消去されることが知られている。ドナー消去熱処理はこの他にも各種提案されており、例えばRTA(Rapid Thermal Anneal)を用いた高温短時間処理のものもあり、ここでは特にその温度と時間を規定するものではなく、酸素起因で生成するサーマルドナーを消去できる方法であれば良いので、650℃で20分の熱処理とする。
【0033】
酸素ドナー消去熱処理を施した後、PN判定を行った上で、例えば四探針法を用いて抵抗率を測定する。抵抗率の測定方法は特に限定されず、適切な方法を選択することができる。
そして、該測定した抵抗率からアービンカーブを用いてキャリア濃度を求める。
以上のようにして、評価対象のシリコン単結晶のサンプルを用意し、酸素濃度やキャリア濃度、抵抗率等を予め調べておく。
【0034】
(工程2) 関係式を用いた酸素ドナー起因キャリアの発生量の算出およびシリコン単結晶の評価
次に、関係式:Δ[C]=α[Oi]
5×exp(−β・D(T)・[Oi]・t) (ここでα、βは定数)を用いて、酸素ドナーを起因とするキャリアの発生量を算出する。
上記関係式において、[Oi]はシリコン単結晶中の酸素濃度であり、Tが熱処理の温度、tが前記熱処理の時間、D(T)が温度Tでの酸素拡散係数である。
【0035】
なお、上記関係式におけるシリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]は、工程1でFT−IR法等により求めた酸素濃度である。
また、熱処理の温度Tは、目的等に応じて適宜決定することができる。例えば、デバイス工程後の配線やパッケージなどの工程で行われる熱処理による酸素ドナーを起因とするキャリアの発生量を求めるのであれば、実際にその工程で行われるのと同様の値とすることができる。酸素ドナーが生成される熱処理条件であれば良い。例えば、400−500℃程度の熱処理温度のものとすることができる。
熱処理時間tも同様にして適宜決定することができる。
【0036】
また、定数αとβに関しては各測定条件によって決められる定数である。
例えば酸素濃度はFT−IRによって測定されるが、その吸収ピークからリファレンスを差し引きした吸光度から酸素濃度に換算する。この時、換算係数はリファレンスによっても異なるし、測定器によっても異なるし、メーカーによっても異なる。従って同じサンプルを測定しても、どの換算係数を用いたかによって変わってくる。また酸素濃度をppmaで表示するメーカーもあれば、atoms/cm
3で表示するメーカーもある。
【0037】
以上のような事情から、α、βはメーカーによって異なってくる。ただし、酸素濃度の測定条件を合わせれば同じ数字を使えるので、一度決めれば汎用性がある。また抵抗率測定においてはメーカー間による差はあまり無いので、基本的には酸素濃度の換算係数の違いのみがα、βに影響する。従って例えばA条件とB条件の酸素濃度の換算係数が1.6であり[Oi](A条件)=1.6×[Oi](B条件)と表される場合であれば、α(B条件)=α(A条件)/(1.6
5)、β(B条件)=β(A条件)/1.6として定数を換算することができる。
【0038】
酸素ドナー起因のキャリアの発生量を算出する方法は過去に無かったわけではなく、上述したように適切な係数を求めれば、例えば、従来よく用いられてきた酸素濃度が9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)より高い範囲では妥当である様に見える。
しかしながら、前述したように、近年多く用いられる様になってきた9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)以下の酸素濃度に対しては、キャリアの生成量をうまく表すことが出来ない。
しかし本手法によれば近年増加しつつある低酸素濃度結晶から従来の酸素濃度結晶に至るまで広く適用することが可能である。従って本手法によって全酸素濃度におけるドナー生成量を求めることが簡便であり、汎用性が高い。
【0039】
ここで、本発明における上記関係式を導いた本発明者らによる実験1−3について説明する。
(実験1)
まず、上述した国際公開第2005/071144号等から導かれた関係式:Δ[C]=α’[Oi]
3×exp(−β’・D(T)・[Oi]・t) (ここでα’、β’は定数)について検証した。
工程1と同様にして、CZ法及びMCZ法を用いて酸素濃度を振ったP型結晶を育成し、そこからウェーハ状のサンプルを切り出した。
酸素濃度[Oi]=9.2×10
17、10.8×10
17、12.8×10
17、13.8×10
17、15.9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)のサンプルを用意した。
【0040】
次に、それぞれのサンプルをドナーキラー熱処理後、PN判定と抵抗率の測定を行い、その後、分割して酸素ドナーが生成しやすい450℃の熱処理を1時間(3600秒)及び15時間(54000秒)の2水準で施した。このサンプルにて再度PN判定と抵抗率測定を行った。抵抗率をもとにキャリア濃度をアービンカーブから求めた。
今回はP型のサンプルを用いたので、熱処理前のキャリア濃度から熱処理後のキャリア濃度を差し引いたものを、酸素ドナーに起因するキャリア発生量として求めた。ただし、熱処理後にN型に反転したサンプルにおいては、熱処理前のキャリア濃度と熱処理後のキャリア濃度との和を酸素ドナー起因キャリア発生量とした。これらのキャリア発生量を酸素濃度に対してプロットしたのが
図9である。
【0041】
文献から導かれる上記関係式において、今回のデータを基にα’とβ’を決定したところ、α’=4.53×10
−39、β’=1.63×10
5となった。このとき酸素の拡散係数D(T)はD(T)=Do×exp(−E/kT)でDo=0.13cm
2/sec、E=2.53eVで計算した。すなわち、上記関係式は下記式(1)となる。またそれぞれの単位は以下の通りである。
Δ[C]=4.53×10
−39×[Oi]
3×exp(−1.63×10
−5×D(T)・[Oi]・t) …式(1)
[Oi]:酸素濃度(atoms/cm
3(ASTM’79))、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(sec)、D(T):温度Tでの酸素拡散係数(cm
2/sec)、k:ボルツマン定数=8.62×10
−5(eV/K)
【0042】
この様にして求められた式(1)を、
図9上に、450℃で1時間の場合を破線で、450℃で15時間の場合を実線で記載した。その結果、実験値と良く一致しており、式(1)が正しいと思われる。
【0043】
(実験2)
次に、より低酸素濃度領域にまで範囲を広げて式(1)が使用できるのかを確かめた。
実験1と同様に酸素濃度を振ったサンプルを用意した。ただし酸素のレベルは、実験1よりも低く、4.8×10
17、5.2×10
17、5.8×10
17、6.8×10
17、8.0×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)である。酸素濃度を下げる必要があるので今回のサンプルは全て磁場を印加したMCZ法を用いて作製した。
【0044】
これらのサンプルに対して実験1と全く同様に、ドナーキラー熱処理後にPN判定・抵抗率の測定をした後、450℃で1時間及び15時間の熱処理を実施し、再度PN判定および抵抗率の測定を実施した。これらの結果から酸素ドナー起因キャリア発生量を求め、実験1での結果とともに
図10にプロットした。
図10に示された破線及び実線は式(1)を表す線である。
【0045】
酸素濃度が9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)を境にして、それより高酸素濃度領域では実験値と式(1)が良く一致しているが、酸素濃度が低い方では一致していないことがわかる。この不一致は、参考にした文献はどれも比較的古く、MCZ法がそれほど広まっていなかったり、そもそもCZ結晶の特徴でありゲッタリングの効果をもたらす酸素濃度を下げる必要もなかったりしたことなどから、これほどの低酸素濃度のサンプルは少なかったためと考えられる。
またサーマルドナーは酸素析出の核として働くことが同文献内でも報告されており、この高酸素領域ではサーマルドナーから酸素析出物へと成長するため正確な記述ができていなかったとも考えられる。いずれにしても従来の酸素濃度を扱う限りにおいては、式(1)で不都合が無かったと考えられる。
【0046】
(実験3)
しかしながら、これからは従来になかったような低酸素濃度領域のMCZ結晶が使われていくことが予想されるので、低酸素濃度側もあわせて表記できる式が好ましい。そこで、これらのデータを基に、式(1)に変わる酸素ドナー起因キャリア発生量を求められる式を鋭意検討した。
その結果、実験1、2におけるシリコン単結晶においては、
Δ[C]=5.78×10
−74×[Oi]
5×exp(−6.25×10
−7×D(T)・[Oi]・t) …式(2)
と表せることが判った。
【0047】
ここで拡散係数や単位系は実験1と同じでD(T)=0.13×exp(−2.53/kT)(cm
2/sec)、[Oi]:酸素濃度(atoms/cm
3(ASTM’79))、T:熱処理温度(K)、t:熱処理時間(sec)、k:ボルツマン定数=8.62×10
−5(eV/K)である。
【0048】
この式(2)の特徴の大きな点は、従来酸素濃度[Oi]の3乗に比例するとされていた部分が、5乗に比例するとした点にある。これは従来、酸素原子3〜4個でドナーが形成されるとしてきたのが、実際にはもう少し多くの酸素が関わって酸素ドナーが形成されていることを示している。従来よりも低酸素濃度領域の評価によって明らかになった点である。
この式(2)と実験1、実験2の結果をともに記載したグラフが
図3である。酸素濃度全域にわたって実験結果を良く表すことができている。以上から、酸素ドナー起因キャリアの発生量は式(2)によって求めることが妥当であると考えられる。
以上のようにして、本発明における関係式を導いた。
【0049】
さて、上記のようにして導いた関係式を用いて、シリコン単結晶における酸素ドナー起因のキャリア発生量を算出して求めることができ、該シリコン単結晶の評価を行うことができる。
さらには、キャリア発生量を求めることができるため、これと該当のシリコン単結晶の抵抗率から計算されるキャリア濃度との加算もしくは減算から、熱処理後の抵抗率を推定することができる。
ここで加算もしくは減算と記載したのは、元のシリコン単結晶の導電型に依存するためである。もともとの結晶がN型であれば加算となるし、P型であれば減算を取ることになるからである。更にP型のキャリア濃度よりも酸素ドナー起因キャリアの発生量が多い場合には、N転といわれN型に変化してしまうが、その場合には酸素ドナー起因キャリア濃度からP型キャリア濃度を差し引いた分をN型キャリア濃度として計算することができる。キャリア濃度と抵抗率の関係はアービンカーブを用いて計算することができる。
このようにして、熱処理後のシリコン単結晶について、抵抗率を算出し、評価を行うことができる。
【0050】
以上のように、本発明の評価方法であれば、従来と異なり、シリコン単結晶中の酸素濃度が高濃度のときのみならず、低濃度(例えば、9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)以下)の場合においても、酸素ドナー起因のキャリア発生量、さらには熱処理後の抵抗率等について適切に評価を行うことができる。従来に比べて汎用性のある評価方法となる。
【0051】
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法について説明する。
図1に示すような本発明の評価方法をまず行う。
そして、上述したように、予想される低温熱処理後の抵抗率が計算できるので、これを基にして、その低温熱処理を含む該当のプロセスへ投入すべきシリコンウェーハの酸素濃度や抵抗率を定めることが可能である。
CZ法においては、一般に抵抗を制御するためのドーパントをルツボ内に投入した後に結晶を育成するが、この際にドーパントは偏析現象によって結晶のトップ側とボトム側で抵抗率が変化する。顧客に出荷する際には要求を満たす部分を出荷することになる。従って要求の抵抗率範囲が狭ければ、製品長さが短くなる。
【0052】
例えば50Ωcm程度以上の高抵抗率結晶においては、先に述べた様に配線やパッケージ最終工程で施される低温の熱処理により酸素ドナー起因のキャリアが発生し、結晶を育成した時点での抵抗率と異なってしまう可能性がある。そこで本手法を用いれば配線やパッケージ最終工程で施される低温の熱処理温度と時間から、生成される酸素ドナー起因キャリアの酸素濃度依存性が容易に求められる。そこで最適な抵抗率と酸素濃度の設計を自在に行うことができる。
【0053】
具体的には、酸素濃度を××と狙うので発生するキャリア量が○○であり、その分狙いの抵抗率を△△にするとか、その分製品部分を短くする、といった具合である。もしくは更に発展させて、結晶のトップ側では酸素濃度××を狙って育成するので抵抗率の狙いを○○にし、結晶ボトム側では酸素濃度を△△まで下げられるので、製品長さを□□まで伸ばす、といった設計が自在になる。
【0054】
高抵抗率結晶で低酸素が必要な理由は酸素ドナーによる抵抗率への影響が大きいからであるが、本手法では、デバイス工程等で想定される低温熱処理を想定して酸素ドナー起因のキャリア発生量を算出し、そのキャリア発生量による抵抗率シフト量を考慮しても問題ない酸素濃度や抵抗率に制御することができる。
【0055】
低温熱処理を施して最終的に所望の品質が得られるように、先に行った評価の結果に基づいて、シリコン単結晶を育成するときの酸素濃度や抵抗率等の狙い値や、その狙い値を達成するための各種条件(ルツボの回転数や、ドーパント量等)を決定し、該決定した条件に基づいて、
図2に示すような単結晶引上げ装置1を用いてシリコン単結晶を育成すればよい。
そして、当初の予定通りのプロセスを経て、所望のシリコンウェーハを得ることが可能である。
【0056】
なお50Ωcm以上の高抵抗率結晶では、少量の酸素ドナー起因キャリアで抵抗が変化するので例えとして挙げたが、これに限られるものではない。関係式から分かる様に酸素濃度が高かったり、処理時間が長かったりすると、キャリア発生量は格段に増えるので50Ωcmよりも充分低い抵抗率範囲においても影響が現れる。従って本手法はどの抵抗率範囲においても適用することが可能であり、望ましいものである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
実験2で用いたサンプルに加え、酸素濃度が2.9〜8.9×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)である低酸素濃度サンプルを用意した。P型に限らずN型のサンプルも含まれている。
これらのサンプルについて、本発明における関係式(この場合、式(2))を用い、酸素ドナー起因のキャリアの発生量を算出して評価した。
450℃の熱処理時間が1時間と15時間の場合だけでなく、5時間と10時間の場合についても評価した。
関係式で得られるグラフを、各熱処理時間ごとに
図4に示す。
【0058】
また、上記のようにして得られたキャリア発生量のグラフが妥当であるかどうか、実際に上記熱処理を施して確かめた。
なお、N型のサンプルの場合には熱処理後の抵抗率から求められるキャリア濃度から、熱処理前の抵抗率から求められるキャリア濃度を引いたものを発生量とした。
【0059】
これらの結果を
図4に併せてプロットした。この
図4から熱処理時間が変わった場合にも、式(2)が実験結果を良く表現できていることがわかる。またP型とN型のどちらのタイプであっても問題なくこの式を使えることが判る。
【0060】
(実施例2)
P型で1000Ωcmから2000Ωcmの抵抗率のウェーハが要求された。また、このデバイス最終段階で行われる低温の熱処理は450℃で2時間に相当するプロセスである。そこで、この目標を達成するために検討を行った。
結晶の製造はMCZ法にて行い、ルツボのサイズが26インチ(66cm)である装置を用いて結晶育成を行うこととした。
先に述べた様に、結晶トップ側の酸素濃度は下がりにくい。例えば
図2の装置を用い、酸素濃度[Oi]を4×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)狙いとした場合と、8×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)狙いとした場合とを比較すると、酸素濃度に関する不良率が、4×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)狙いでは、8×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)狙いの2倍から3倍となりコストアップになる。従って狙うべき酸素濃度が高い方ほど不良率が下がってコストも低下する。しかしながら、酸素濃度を高くすると酸素ドナー起因キャリアが発生してしまい、所望の抵抗率に入らない。
そこで本発明における関係式(この場合、式(2))を用いて試算を行った。
【0061】
まず、式(2)を用い、450℃で2時間の熱処理によって生成される酸素ドナー起因のキャリア発生量を算出し、
図5に示す。
図5に示すように、酸素濃度[Oi]が4×10
17、5×10
17、6×10
17、7×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)の場合を試算した。
そして、試算した酸素濃度[Oi]が4×10
17、5×10
17、6×10
17、7×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)及び酸素濃度[Oi]が0atoms/cm
3(ASTM’79)の場合のキャリア発生量に基づいて、上記低温熱処理後で、酸素ドナー起因のキャリアが発生した際の結晶長さ方向の抵抗率分布を、各酸素濃度ごとに、
図6にプロットした。
この
図6では、横軸は結晶の固化率(=結晶重量/初期原料重量)で表している。
【0062】
なお、目標達成のため、結晶トップ側での狙いの抵抗率を1900Ωcmとした。結晶の抵抗率はドーパントの偏析現象によりトップ側で高く、ボトム側で低い。従ってトップ側の抵抗率は規格の1000〜2000Ωcmの高い方に近い値を狙う。ただし狙い精度を考慮し、規格上限値より少し低目を狙うのが一般的である。そこで、ここではトップ側の抵抗率が1900Ωcmとなる様に狙いを定めた。
【0063】
この
図6のグラフから、酸素濃度[Oi]が4×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)を狙って育成すればデバイス処理後も問題ないことが容易に予想される。
酸素濃度[Oi]が5×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)を狙った場合にはデバイス工程後に約半分が規格外になり、また、6×10
17、7×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)を狙った場合にはほぼ全量が規格外になってしまうことが容易に判断できる。
【0064】
(実施例3)
実施例2と同様に、デバイス最終段で行われる低温の熱処理が450℃で2時間相当であり、P型で1000Ωcmから2000Ωcmの抵抗率のウェーハが要求された。
まず、実施例2の
図6のグラフから、上記規格内の抵抗率のウエーハを得るには、シリコン単結晶の育成のときに酸素濃度[Oi]が4×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)を狙えばよいことが示唆された。この酸素濃度でシリコン単結晶を育成し、上記低温熱処理のプロセスを行えば、
図6における酸素の度[Oi]が4×10
17atoms/cm
3(ASTM’79)のときの抵抗率を有するものが得られると考えられる。
【0065】
ただし、結晶のトップ側でこの低酸素濃度を達成しようとすると、例えば溶融液面の一部が固化して結晶育成を妨げ、単結晶が得られにくいといった問題が発生し得る。
そこで、ここでは、
図6を踏まえ、さらには無理なく酸素濃度を下げられる条件で結晶を育成した場合の酸素濃度から狙うべき抵抗率を定めて、製品が少しでも多く取れる設計を行うこととする。実施例2と同様の製造装置を用い、無理のない条件で低酸素濃度化を狙った場合には、
図7のような酸素濃度プロファイルが得られる。
【0066】
そして、上記シリコン単結晶中の酸素濃度プロファイルを基にして、450℃で2時間後の酸素ドナー起因のキャリア発生量を試算し、この発生量を差し引いた上で、ボトム側の抵抗率が規格下限値の1000Ω以上であり、且つ狙い誤差を考慮した1050Ωcmとなるように、トップ側の狙い抵抗率を設計した。その結果を
図8に実線で示す。
上述の考慮を行った結果、狙うべき抵抗率はトップ側で約1350Ωcmであった。更に上述の酸素濃度から計算されるキャリア発生量を考慮し、デバイス工程後に予想される抵抗率も
図8に破線で示した。
【0067】
この
図8から、固化率が約0.11からデバイス後の抵抗率が規格内となり、製品として固化率0.11〜0.7まで有効である設計が出来た。
そして、この設計を基にしてシリコン単結晶を育成した。また、育成した結晶からウェーハ状のサンプルを切り出し、ドナーキラー熱処理を施し抵抗率を測定した。その結果、
図8の実線と一致する抵抗率が得られた。
【0068】
更にこれらのサンプルに一番最後が450℃で2時間であるデバイスを模したシミュレーション熱処理を施したのち、再度抵抗率を測定した。
その結果、抵抗率のプロファイルは、式(2)から求めたデバイス熱処理後に予想される抵抗率プロファイルの
図8の破線に一致する結果が得られた。またこれらの結晶(の全ての領域)から切り出された製品ウェーハを実デバイス工程に投入して評価してもらった結果、デバイス動作に問題ないことが確認された。
【0069】
(比較例)
実施例3と同様の要求に対して、本手法を用いずに結晶を育成することとした。
酸素ドナー起因のキャリアの発生量を考慮することなく、抵抗率規格が1000Ωcmから2000Ωcmなので、結晶のトップ側で1900Ωcmとなる様に狙い抵抗率を定めた。この狙いから計算される抵抗率を
図8に一点鎖線で示した。
また酸素濃度は実施例3と同様のプロファイルとした。
【0070】
この条件で育成した結晶から、実施例3と同様にして、ウェーハ状のサンプルを切り出してドナーキラー熱処理を施し抵抗率を測定した。
その結果、
図8の一点鎖線にほぼ乗るように抵抗プロファイルが得られた。この時点では抵抗率規格1000〜2000Ωcmを満たしており合格品である。
【0071】
しかし、この結晶から切り出したウェーハに、一番最後が450℃で2時間であるデバイスを模したシミュレーション熱処理を施した後、抵抗率を測定した。
その結果、抵抗率のプロファイルは、式(2)から求めたデバイス熱処理後に予想される抵抗率プロファイルの
図8の点線と同等の分布を示した。
つまり、酸素ドナー起因のキャリア発生量を考慮せずに結晶を育成した結果、デバイス工程後も規格を満たす製品の長さは固化率が0.25〜0.7までとなり、実施例3で得られた0.11〜0.7に比較して製品長さが減少してしまった。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。