特許第5772598号(P5772598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772598ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
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  • 特許5772598-ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772598
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150813BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150813BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/00 101
   B32B27/36 102
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2011-547577(P2011-547577)
(86)(22)【出願日】2010年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2010073025
(87)【国際公開番号】WO2011078178
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2009-295347(P2009-295347)
(32)【優先日】2009年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】閔 庚薫
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−036870(JP,A)
【文献】 特開2004−299195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜43/00
B05D1/00〜 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板と、
アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層と、
オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有するハードコート層と、
前記プライマー層および前記ハードコート層の間に形成され、前記アクリル系ポリマーおよび前記オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有する中間層と、を備え、
前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に、前記樹脂基板側から順に前記プライマー層、前記中間層および前記ハードコート層を有し、
前記中間層の膜厚をMtとし前記ハードコート層の膜厚をHtとしたときに、Mt/Htで示される前記中間層と前記ハードコート層の膜厚の比が、0.05〜1.0であるハードコート被膜付き樹脂基板であって、
前記オルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサン(a)と、オルガノポリシロキサン(b)とを含み、
前記オルガノポリシロキサン(a)および前記オルガノポリシロキサン(b)は、それぞれ、下記T1、T2、およびT3で表されるT単位の少なくともいずれかを有し、
前記オルガノポリシロキサン(a)は、下記T1、T2、およびT3で表される単位を、
T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、かつ
T3/T2=1.5〜4.0
の割合で含み、
前記オルガノポリシロキサン(b)は、前記オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10〜1/1.5倍の質量平均分子量を有することを特徴とするハードコート被膜付き樹脂基板。
T1:R−Si(−OX)(−O−)
T2:R−Si(−OX)(−O−)
T3:R−Si(−O−)
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサンが、T単位とQ単位のみで構成されその個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0である、請求項1に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項3】
前記ハードコート層がシリカ微粒子をさらに含む、請求項1または2に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーが、メタクリロイル基を有するモノマーを主なモノマー単位とするホモポリマーまたはコポリマーを主成分として含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項5】
前記メタクリロイル基を有するモノマーが、炭素数6以下のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルである、請求項4に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項6】
前記アクリル系ポリマーの質量平均分子量が、20,000〜1,000,000である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項7】
前記ハードコート層の膜厚が1μm〜20μmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項8】
前記プライマー層の膜厚が0.1μm〜10μmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項9】
前記樹脂基板の材料がポリカーボネート樹脂である請求項1〜8のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項10】
前記オルガノポリシロキサン(a)中のOX基がアルコキシ基である個数(A)と、前記オルガノポリシロキサン(a)中のOX基が水酸基である個数(B)との割合(B)/(A)は、分子平均で12.0以上であり、
前記オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量が800〜8000であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項11】
前記オルガノポリシロキサン(b)は、前記T単位において2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有さず−OXのみを3個有する単位T0、並びに前記T1、T2、およびT3で表される単位を、
T0:T1:T2:T3=0〜5:0〜50:5〜70:10〜90
の割合で含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項12】
前記オルガノポリシロキサン(a)に対する前記オルガノポリシロキサン(b)の含有量の割合は、1.5〜30倍であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のハードコート被膜付き樹脂基板を製造する方法であって、
前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に前記アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー組成物を塗布し乾燥させて、前記プライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層の上に、前記Mt/Htで示される前記中間層と前記ハードコート層の膜厚の比が0.05〜1.0となるように、pHを調整した前記オルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物を塗布し硬化させて、前記中間層と前記ハードコート層を形成する工程と、
を含むことを特徴とするハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法。
【請求項14】
前記ハードコート剤組成物のpHが3.5〜4.5である、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車輌用の窓ガラスや家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラスとして、これまでの無機ガラス板に代わって透明樹脂板の需要が高まっている。特に、自動車等の車両では軽量化のために、窓材に透明樹脂板を用いることが提案されており、とりわけ芳香族ポリカーボネート系の透明樹脂板は、耐破壊性、透明性、軽量性、易加工性などに優れるため、有望な車両用窓材としてその使用が検討されている。しかしながら、このような透明樹脂板は、ガラス板の代わりに使用するには耐擦傷性や耐候性の点で問題があった。そこで、透明樹脂板の耐擦傷性および耐候性を向上させる目的で、種々のハードコート剤、特にシリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板の表面に被膜を形成することが提案されている。また、シリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板上に被膜(ハードコート層)を形成させる際には、ハードコート層と透明樹脂板との密着性を向上させるために、プライマー層を用いることが提案されている。
【0003】
しかし、プライマー層を用いる場合には、プライマー層の耐衝撃性の問題や、プライマー層とハードコート層の間の密着性の問題、さらに被膜全体として長期使用後のクラックの発生や密着性の低下など耐候性の問題があった。そこで、特許文献1には、プライマー層の耐衝撃性やシリコーン系ハードコート層との密着性の向上を目的として、プライマー層としてポリシロキサン系架橋ゴムを用いる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−3504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解消すべくなされたものであり、シリコーン系ハードコート層がプライマー層を介して樹脂基板に設けられたハードコート被膜付き樹脂基板において、耐擦傷性に優れるとともに、ハードコート層に係る耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性にも優れるハードコート被膜付き樹脂基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、樹脂基板と、アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層と、オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有するハードコート層と、前記プライマー層および前記ハードコート層の間に形成され、前記アクリル系ポリマーおよび前記オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有する中間層と、を備え、前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に、前記樹脂基板側から順に前記プライマー層、前記中間層および前記ハードコート層を有し、前記中間層の膜厚をMtとし前記ハードコート層の膜厚をHtとしたときに、Mt/Htで示される前記中間層と前記ハードコート層の膜厚の比が、0.05〜1.0であり、さらに前記オルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサン(a)と、オルガノポリシロキサン(b)とを含み、前記オルガノポリシロキサン(a)および前記オルガノポリシロキサン(b)は、それぞれ、下記T1、T2、およびT3で表されるT単位の少なくともいずれかを有し、前記オルガノポリシロキサン(a)は、下記T1、T2、およびT3で表される単位を、T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、かつT3/T2=1.5〜4.0の割合で含み、前記オルガノポリシロキサン(b)は、前記オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10〜1/1.5倍の質量平均分子量を有することを特徴とする。
T1:R−Si(−OX)(−O−)
T2:R−Si(−OX)(−O−)
T3:R−Si(−O−)
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
【0007】
また、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法は、上記本発明のハードコート被膜付き樹脂基板を製造するにあたって、前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に前記アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー組成物を塗布し乾燥させて、前記プライマー層を形成する工程と、前記プライマー層の上に、前記Mt/Htで示される前記中間層と前記ハードコート層の膜厚の比が0.05〜1.0となるように、pHを調整した前記オルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物を塗布し硬化させて、前記中間層と前記ハードコート層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、耐擦傷性に優れるとともに、ハードコート層に係る耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性にも優れる。また、本発明の製造方法によれば、耐擦傷性に優れるとともに、ハードコート層に係る耐候性にも優れるハードコート被膜付き樹脂基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のシリコーン系ハードコート被膜付き樹脂基板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
[本発明のハードコート被膜付き樹脂基板]
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、樹脂基板の少なくとも一方の面上に、樹脂基板側から順にアクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層(以下、「アクリル系プライマー層」ということもある)、中間層、およびオルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有するハードコート層(以下、「シリコーン系ハードコート層」ということもある)を有するハードコート被膜付き樹脂基板であって、前記中間層は、前記プライマー層が含有するアクリル系ポリマーと前記ハードコート層が含有するオルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有するものであって、以下の特性を有する。
図1に示す本発明のハードコート被膜付き樹脂基板の断面模式図を用いて説明すると、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板1は、樹脂基板2上に、アクリル系プライマー層3、中間層4、シリコーン系ハードコート層5が順に積層された構成を有し、中間層4の膜厚Mtと、シリコーン系ハードコート層5の膜厚Htとの関係Mt/Htは、0.05〜1.0である。
【0011】
(1)中間層
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板が有する中間層は、アクリル系プライマー層とシリコーン系ハードコート層の間に形成された両層の成分からなる中間層である。より具体的には、上記中間層は、アクリル系ポリマーを主成分とするプライマー層を構成する成分と、オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分とするハードコート層を構成する成分が混合した層である。この中間層は、層内では必ずしも厚さ方向に均一な組成を有するものではないが、隣接するアクリル系プライマー層およびシリコーン系ハードコート層とは界面付近においても組成が明らかに異なり、したがって隣接する両層との界面は実質的に区別できるものである。中間層は、具体的には、走査型電子顕微鏡によるハードコート被膜断面の反射電子組成像(COMP像)、電界放射型電子プローブマイクロアナライザー(FE−EPMA)によるハードコート被膜断面のSiKα線強度測定分析、走査型X線光電子分光装置(μ−ESCA)によるハードコート被膜の深さ方向組成分析等で、アクリル系プライマー層およびシリコーン系ハードコート層とは明らかに組成が異なる層として区別される。
ここで、本明細書において、「ハードコート被膜」とは、樹脂基板上に形成されたハードコート層を含む単層または多層からなる被膜をいう。すなわち、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板においては、上記アクリル系プライマー層、中間層、およびシリコーン系ハードコート層を有する被膜全体を「ハードコート被膜」という。
【0012】
本発明においては、上記中間層が存在することにより、シリコーン系ハードコート層とアクリル系プライマー層間に耐候密着性が付与されるものである。上記中間層内の各構成成分の混合状態は明らかにされていないが、例えば、アクリル系ポリマーとしてポリメタクリル酸メチルを用いると、これが部分的に加水分解し、側鎖のカルボン酸メチル基がカルボン酸に変換することで、シリコーン系ハードコート層とアクリル系プライマー層との間の相溶性が向上して両層の成分からなる中間層を形成し、その結果、耐候密着性が向上するものと考えられる。
【0013】
ここで、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板においては、中間層の膜厚をMtとし、シリコーン系ハードコート層の膜厚をHtとしたときに、Mt/Htで示される中間層とハードコート層の膜厚の比が0.05〜1.0であり、好ましくは、0.1〜0.95である。
【0014】
本発明においては、上記の通りシリコーン系ハードコート層とアクリル系プライマー層との間に中間層が存在することで、両層間に耐候密着性が付与されるが、中間層の膜厚がシリコーン系ハードコート層の膜厚に対して必要以上に大きくなると、耐候クラック性に影響を与える。そこで選択された膜厚の比、Mt/Htが上記1.0以下である。なお、Mt/Htは、上記の通り好ましくは、0.95以下である。
また、耐候密着性を向上させるためには、上記中間層はMt/Htの値が0.05以上となるような膜厚で存在していればよいが、本発明において好ましくは、Mt/Htの値を上記0.1以上とするようにシリコーン系ハードコート層および中間層の膜厚を制御する。これにより、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板において、シリコーン系ハードコート層とアクリル系プライマー層との間に十分な耐候密着性が付与できる。
【0015】
ここで、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板において、上記中間層は、通常、単独で形成されるものではなく、例えば、予め樹脂基板上に形成されたアクリル系プライマー層の上に、シリコーン系ハードコート層および中間層の膜厚が上記範囲を満たすように条件を調整しながら、シリコーン系ハードコート層を形成する際に共に形成される。したがって、中間層の形成方法については、後述のハードコート層の説明において合わせて行うものとする。
【0016】
以下、このような中間層を有する本発明のハードコート被膜付き樹脂基板を構成する中間層以外の各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
(2)樹脂基板
本発明に用いる樹脂基板の材料である樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。
これらのなかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、樹脂基板は、上記のような熱可塑性樹脂を2種以上含んでもよいし、これらの樹脂を用いて、2層以上積層された積層基板であってもよい。また、樹脂基板の形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。さらに、樹脂基板の色調は無色透明または着色透明であることが好ましい。
【0018】
(3)プライマー層
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、上記樹脂基板の少なくとも一方の面上にアクリル系ポリマーを主成分とするプライマー層を有する。プライマー層は、樹脂基板と後述のシリコーン系ハードコート層との密着性を向上させるために設けられる層であるが、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板におけるプライマー層は、上記樹脂基板との間の密着性は直接接することで確保され、シリコーン系ハードコート層との間の密着性は、上記中間層を介して確保される。
【0019】
上記プライマー層を主として構成するアクリル系ポリマーとしては、通常、樹脂基板とシリコーン系ハードコート層を密着するためのプライマー層形成に用いるアクリル系ポリマーであって、上記中間層の形成を可能とするアクリル系ポリマーが、特に制限なく用いられる。このような観点から本発明に用いるアクリル系ポリマーとしては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーから選ばれるモノマーを主なモノマー単位とするホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。また、上記モノマーとして、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられるが、本発明においては、メタクリロイル基を有するモノマーが好ましい。
【0020】
ここで、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステル等の「(メタ)アクリル……」なる表記は、「アクリル……」と「メタクリル……」の両方を意味する。
【0021】
さらに、上記メタクリロイル基を有するモノマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。つまり、アクリル系ポリマーとしては、メタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数が6以下)から選ばれる少なくとも1種を「主なモノマー」(具体的には、原料モノマー全体に対して90〜100モル%、以下同じ)とするホモポリマーやそれらモノマー同士のコポリマーが好ましい。また、上記主なモノマーと、それ以外のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの少なくとも1種とのコポリマーも好ましい。前記それ以外のモノマーとしては炭素数7以上のアルキル基や炭素数12以下のシクロアルキル基を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルが挙げられる。また、これらモノマーとともに、官能基含有アルキル基(例えば、ヒドロキシアルキル基)を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、または(メタ)アクリル酸を共重合させて得られるコポリマーも使用できる。上記シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いるアクリル系ポリマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下のメタクリル酸アルキルエステルのなかでも特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等から選ばれる1種または2種以上を主なモノマーとして重合して得られるホモポリマーやそれらモノマー同士のコポリマーが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル等のホモポリマー、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルから選ばれる1種または2種以上とのコポリマーがより好ましい。
【0023】
その他に、加水分解性シリル基および/またはSiOH基がC−Si結合を介して結合したアクリル系単量体から選ばれる1種以上を重合/共重合して得られるアクリル系ポリマーも採用できる。
【0024】
前記アクリル系単量体としては、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
また、プライマー層形成に用いられるこれらのアクリル系ポリマーは、質量平均分子量が20,000以上であることが好ましく、50,000以上がより好ましく、1百万以下のものが好ましく使用される。質量平均分子量がこの範囲にあるアクリル系ポリマーは、プライマー層としての密着性や強度の性能が十分に発揮され、さらに中間層の形成における加水分解特性と溶解性の点に優れ好ましい。なお、本明細書において質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。
【0026】
なお、このようなアクリル系ポリマーは市販もされており、本発明においては、これらの市販品、例えば、アクリル系プライマーSHP470(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:27万)、ダイヤナールLR269(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:10万)等のようなあらかじめ適当な溶媒に溶かした溶液として市販しているものが使用できる。また、ダイヤナールBR80(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:9万)、ダイヤナールBR88(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:43万)、M−4003(商品名、根上工業社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:70−130万)等のようなアクリル系ポリマーを適当な溶媒で溶かして使用することが可能である。さらに、これらのアクリル系ポリマーを2種以上を混合して使用することも可能である。
【0027】
プライマー層には、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。紫外線吸収剤としては、上記本発明のハードコート剤組成物に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。プライマー層中の紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部が特に好ましい。
【0028】
プライマー層は、さらに光安定剤等を含んでもよい。光安定剤としては、ヒンダードアミン類;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。プライマー層中の光安定剤の含有量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。
【0029】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板において、上記樹脂基板の少なくとも一方の面上にプライマー層を形成させる方法は、特に限定されないが、好ましくは、アクリル系ポリマー、紫外線吸収剤、および溶媒を含むプライマー組成物を樹脂基板上に塗布し乾燥させることによって形成する方法が用いられる。
【0030】
プライマー層形成に用いるプライマー組成物には、通常、溶媒が含まれる。溶媒としては、前記アクリル系ポリマーを安定に溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0031】
溶媒の量は、アクリル系ポリマー等の樹脂成分100質量部に対して、50〜10000質量部であることが好ましく、100〜10000質量部が特に好ましい。なお、プライマー組成物中の不揮発成分(固形分)の含有量は、組成物全量に対して0.5〜75質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることが特に好ましい。
【0032】
上記プライマー組成物は、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0033】
プライマー組成物を樹脂基板上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。また、乾燥のための加熱条件は、特に限定されないが、50〜140℃で5分〜3時間であることが好ましい。
【0034】
上記プライマー組成物を用いて樹脂基板上に形成されるプライマー層の膜厚(プライマー層上に中間層とシリコーン系ハードコート層を形成させる前の状態の膜厚)は、最終的に得られるハードコート被膜付き樹脂基板においてプライマー層として必要とされる要件を満たすような膜厚であれば、特に制限されないが、プライマー層上に形成される、以下に説明するシリコーン系ハードコート層および中間層の膜厚を考慮して適宜調整される。
最終的に得られるハードコート被膜付き樹脂基板において、アクリル系プライマー層の膜厚が薄すぎると、樹脂基板自身の耐候劣化による黄変を防ぎきれず、ハードコート被膜付き樹脂基板の黄変、耐候クラック、耐候密着性が低下し、その結果、ハードコート被膜付き樹脂基板の耐候性が低下する。プライマー層上への中間層とシリコーン系ハードコート層の形成により、最終的に得られるハードコート被膜付き樹脂基板におけるアクリル系プライマー層の膜厚は、プライマー層上に中間層とシリコーン系ハードコート層を形成させる前の状態の膜厚に比べて薄くなる可能性もあるため、プライマー層上に中間層とシリコーン系ハードコート層を形成させる前の状態のプライマー層の膜厚は、樹脂基板とハードコート層とを十分に接着し、前記添加剤の必要量を保持するのに必要な膜厚であって、中間層を形成させるために十分な膜厚であればよい。
【0035】
ここで、樹脂基板上に形成されるアクリル系プライマー層の膜厚については、上記プライマー層を形成した後であって、その上に中間層とシリコーン系ハードコート層が形成される前の膜厚としては、ハードコート層形成時に、プライマー層の一部が使用されて、これと同時に形成される中間層の膜厚について考慮する必要がある。このような中間層とシリコーン系ハードコート層が形成される前のアクリル系プライマー層の膜厚として、具体的には、1μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることが特に好ましい。
また、最終的にシリコーン系ハードコート層と中間層の形成が完了した後の、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板におけるアクリル系プライマー層の膜厚としては、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることが特に好ましい。
【0036】
(4)ハードコート層
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、上記樹脂基板の少なくとも一方の面上に形成されたアクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層の上に上記中間層を有しその上にオルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有するハードコート層を有する。
【0037】
なお上記の通り中間層は、それ単独で形成されるものではなく、以下に説明するハードコート層の形成に伴い、これと同時に形成される。
【0038】
(4−1)オルガノポリシロキサン
本発明に係るハードコート層は主成分としてオルガノポリシロキサンの硬化物を含有するが、この硬化物を形成するオルガノポリシロキサンとしては、硬化性のオルガノポリシロキサンであれば、特に制限なく用いることができる。
【0039】
オルガノポリシロキサンはM単位、D単位、T単位、Q単位と呼ばれる含ケイ素結合単位から構成される。この内、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーであり、T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位から構成されるポリマーがある。
またそれらポリマーはさらに少量のM単位やD単位を含むこともある。
【0040】
硬化性のオルガノポリシロキサンにおいて、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子または他のケイ素原子に結合できる官能基3個とを有する単位である。ケイ素原子に結合した1価の有機基はケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。他のケイ素原子に結合できる官能基は水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下加水分解性基という)である。他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の合計は3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1、T2、T3と呼ばれる3種の単位に分類される。T1は他のケイ素原子に結合した酸素原子の数が1個、T2はその酸素原子の数が2個、T3はその酸素原子の数が3個である。本明細書等においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子をOで表し、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
【0041】
なお、他のケイ素原子に結合した酸素原子を表すOは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子である。したがって、Oは、2つの含ケイ素結合単位のケイ素原子間に1個存在する。言い換えれば、Oは、2つの含ケイ素結合単位の2つのケイ素原子に共有される酸素原子を表す。後述含ケイ素結合単位の化学式において、1つのケイ素原子にOが結合している様に表現するが、このOは他の含ケイ素結合単位のケイ素原子と共有している酸素原子であり、2つの含ケイ素結合単位がSi−O−O−Siで表される結合で結合することを意味するものではない。
【0042】
前記M単位は上記有機基3個とO1個を有する単位、D単位は上記有機基2個とO2個(またはO1個とZ基1個)を有する単位、Q単位は上記有機基0個とO4個(またはO1〜3個とZ基3〜1個の計4個)を有する単位である。それぞれの含ケイ素結合単位は、他のケイ素原子に結合した酸素原子(O)を有しない(Z基のみを有する)化合物(以下モノマーともいう)から形成される。T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。M単位、D単位、Q単位を形成するモノマーも同様にMモノマー、Dモノマー、Qモノマーという。
【0043】
モノマーは、(R’−)Si(−Z)4−aで表される。ただし、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または他のケイ素原子に結合できる1価の官能基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。R’としては、後述の好ましいRと同じ範疇のものが好ましい。
【0044】
硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーのZ基の一部をOに変換する反応により得られる。オルガノポリシロキサンが2種以上の含ケイ素結合単位を含むコポリマーの場合、通常、これらコポリマーはそれぞれ対応するモノマーの混合物から得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応により水酸基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個の水酸基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子(O)を介して結合する。硬化性オルガノポリシロキサン中には水酸基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化の際にこれら水酸基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は3次元的に架橋したポリマーであり、T単位やQ単位の多い硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は架橋密度の高い硬化物となる。硬化の際、硬化性オルガノポリシロキサンのZ基がOに変換されるが、Z基(特に水酸基)の一部は残存し、水酸基を有する硬化物となると考えられる。硬化性オルガノポリシロキサンを高温で硬化させた場合は水酸基がほとんど残存しない硬化物となることもある。
【0045】
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、塩素原子、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用される。アルコキシ基は塩素原子などと比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中にはZ基として水酸基とともに未反応のアルコキシ基が存在することが多い。モノマーのZ基が反応性の比較的高い加水分解性基(例えば塩素原子)の場合、そのモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中のZ基はそのほとんどが水酸基となる。したがって、通常の硬化性オルガノポリシロキサンにおいては、それを構成する各単位におけるZ基は、水酸基からなるかまたは水酸基とアルコキシ基からなることが多い。
【0046】
本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位を主な含ケイ素結合単位として構成される硬化性のオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。以下、特に言及しない限り、硬化性のオルガノポリシロキサンを単にオルガノポリシロキサンという。ここで、本明細書において、T単位を主な構成単位とするオルガノポリシロキサン(以下、必要に応じて「オルガノポリシロキサン(T)」という。)とは、M単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数の割合が50〜100%のオルガノポリシロキサンをいうが、本発明においてより好ましくは、該T単位数の割合が70〜100%のオルガノポリシロキサンを、特に好ましくは該T単位数の割合が90〜100%のオルガノポリシロキサンを用いるものである。また、T単位以外に少量含まれる他の単位としてはD単位とQ単位が好ましく、特にQ単位が好ましい。
【0047】
すなわち、本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位とQ単位のみで構成され、その個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0であるオルガノポリシロキサンが特に好ましく用いられる。
なお、オルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位、Q単位の数の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
【0048】
本発明に好ましく用いられるオルガノポリシロキサン(T)は、下記T1〜T3で表されるT単位を有するオルガノポリシロキサンである。
【0049】
T1:R−Si(−OX)(−O−)
T2:R−Si(−OX)(−O−)
T3:R−Si(−O−)
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す)
【0050】
上記化学式におけるRは、1種に限定されず、T1、T2、T3はそれぞれ複数種のRを含んでいてもよい。また、上記化学式における−OXは水酸基またはアルコキシ基を表す。−OXはT1およびT2の間で同一であっても異なっていてもよい。T2における2つの−OXは異なっていてもよく、例えば、一方が水酸基で他方がアルコキシ基であってもよい。また、2つの−OXがいずれもアルコキシ基である場合、それらのアルコキシ基は異なるアルコキシ基であってもよい。ただし、後述のように、通常は2つのアルコキシ基は同一のアルコキシ基である。
【0051】
なお、2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有しない、−OXのみを3個有するT単位を以下T0という。T0は、実際には、オルガノポリシロキサン中に含まれる未反応のTモノマーに相当し、含ケイ素結合単位ではない。このT0は、T1〜T3の単位の解析においてT1〜T3と同様に測定される。
【0052】
オルガノポリシロキサン中のT0〜T3は、核磁気共鳴分析(29Si−NMR)によりオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態を測定して解析できる。T0〜T3の数の比は、29Si−NMRのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサン分子中の−OXは、赤外吸光分析により解析できる。ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基の数の比は両者の赤外吸収ピークのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサンの質量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および分散度Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。このようなオルガノポリシロキサンの特性は、分子1個の特性をいうものではなく、各分子の平均の特性として求められるものである。
【0053】
オルガノポリシロキサン(T)中には、1分子中に複数存在するT1、T2、T3はそれぞれ異なる2種以上が存在していてもよい。例えば、Rが異なる2種以上のT2が存在していてもよい。このようなオルガノポリシロキサンは2種以上のTモノマーの混合物から得られる。例えば、Rが異なる2種以上のTモノマーの混合物から得られるオルガノポリシロキサン中には、Rが異なるそれぞれ2種以上のT1、T2、T3が存在すると考えられる。Rが異なる複数のTモノマーの混合物から得られたオルガノポリシロキサン中の異なるRの数の比は、T単位全体として、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映している。しかし、T1、T2、T3それぞれにおけるRが異なる単位の数の比は、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映しているとは限らない。なぜならば、たとえTモノマーにおける3個の−OXが同一であっても、Tモノマー、T1、T2の反応性がRの相違によって異なる場合があるからである。
【0054】
オルガノポリシロキサン(T)は、R−Si(−OY)で表されるTモノマーの少なくとも1種から製造されることが好ましい。この式において、Rは前記のRと同一であり、Yは炭素数1〜6のアルキル基を表す。Yは非置換のアルキル基以外に、アルコキシ置換アルキル基などの置換アルキル基であってもよい。1分子中の3個のYは異なっていてもよい。しかし、通常は3個のYは同一のアルキル基である。Yは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1または2であることがより好ましい。具体的なYとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエチル基などが挙げられる。
【0055】
Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基である。有機基とは、前記のようにケイ素原子に結合する原子が炭素原子である有機基をいう。
【0056】
非置換の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基などの炭化水素基が挙げられる。これら炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基やアルキニル基、炭素数5または6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアルアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0057】
置換の1価の有機基としては、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基などの環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、前記炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、官能基、官能基含有有機基などで置換された置換有機基などがある。官能基としては水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基などが好ましい。ハロゲン原子置換有機基としては、クロロアルキル基、ポリフルオロアルキル基などの塩素原子またはフッ素原子を有するアルキル基が好ましい。官能基含有有機基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基などが好ましい。特に、塩素原子、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジル基、アルキルアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基などが好ましい。官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基を有するTモノマーはシランカップリング剤と呼ばれる範疇の化合物を含む。
【0058】
置換有機基の具体例としては、以下の有機基が挙げられる。3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基、3−アクリロイルオキシプロピル基、3−メタクリロイルオキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、2−シアノエチル基。
【0059】
上記Rとして特に好ましい1価有機基は、炭素数1〜4のアルキル基である。オルガノポリシロキサン(T)としては、炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの単独またはその2種以上を使用して得られるオルガノポリシロキサンが好ましい。また、オルガノポリシロキサン(T)として炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの1種以上と少量の他のTモノマーを使用して得られるオルガノポリシロキサンもまた好ましい。他のTモノマーの割合はTモノマー全量に対し30モル%以下、特に15モル%以下が好ましい。他のTモノマーとしては、シランカップリング剤と呼ばれる範疇の、官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基を有するTモノマーが好ましい。
【0060】
炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランが挙げられる。特に、メチルトリメトキシシランとエチルトリメトキシシランが好ましい。置換有機基等を有するTモノマーの具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0061】
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン。
【0062】
R−Si(−OY)で表されるTモノマー以外の(R’−)Si(−Z)4−aで表されるTモノマー(a=3)としては、例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
【0063】
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるDモノマー(a=2)において、2個のR’は同一であっても、異なっていてもよい。同一の場合は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。異なる場合は、一方のR’が炭素数1〜4のアルキル基であり、他方のR’が前記官能基や官能基含有有機基などで置換された置換有機基であることが好ましい。また、Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基等が好ましい。Dモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0064】
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン。
【0065】
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるQモノマー(a=0)において、4個のZ基は異なっていてもよいが、通常は同一である。Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。Qモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
【0066】
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン。
【0067】
本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)は、上記Tモノマー等を部分加水分解縮合させることによって得られる。通常、Tモノマー等と水とを溶媒中で加熱することによりこの反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。モノマーの種類、水の量、加熱温度、触媒の種類や量、反応時間等の反応条件を調節して目的のオルガノポリシロキサンを製造することができる。また、場合によっては市販のオルガノポリシロキサンをそのまま目的のオルガノポリシロキサンとして使用することや、市販のオルガノポリシロキサンを使用して目的とするオルガノポリシロキサンを製造することも可能である。
【0068】
上記触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。特に、酢酸が好ましい。上記溶媒としては親水性の有機溶媒が好ましく、特にアルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。反応温度は、触媒が存在する場合室温で反応させることができる。通常は、20〜80℃の反応温度から目的に応じて適切な温度を採用する。
【0069】
加水分解縮合反応はT0(Tモノマー)からT1が生成し、T1からT2が生成し、T2からT3が生成する反応である。加水分解性基の1個以上が水酸基変換されたT0からT1が生成する縮合反応、2個の−OXの少なくとも一方が水酸基であるT1からT2が生成する縮合反応、−OXが水酸基であるT2からT3が生成する縮合反応、の反応速度はこの順に遅くなると考えられる。加水分解性基の加水分解反応を考慮しても、反応が進むにしたがって各単位の存在量のピークはT0からT3へ移動していくと考えられる。反応条件が比較的温和である場合には存在量のピークの移動は比較的整然と進行すると考えられる。一方、反応条件が比較的激しい場合には反応がランダムに進行し各単位の存在量の分布は平板なものになり、T2やT3の存在量に対しT0やT1の存在量が多くなりやすい。後述のように、本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)のうちでもオルガノポリシロキサン(a)は、T0やT1の存在量が少なく、かつT2とT3の存在量の比が特定の範囲にある比較的高分子量のオルガノポリシロキサンであり、このようなオルガノポリシロキサンは比較的温和な反応条件を選択することにより製造することができる。
【0070】
上記縮合反応の反応性はRによって変化し、Rが異なると水酸基の反応性も変化する。通常Rが小さいほど(例えば、Rがアルキル基の場合、アルキル基の炭素数が少ないほど)、水酸基の反応性は高い。したがって、加水分解性基の反応性と水酸基の反応性の関係を考慮して、Tモノマーを選択することが好ましい。
【0071】
さらに、加水分解性基の水酸基への加水分解反応の速度は、加水分解性基の種類により変化し、縮合反応の速度との関係を考慮することが好ましい。例えば、T2のOX基がアルコキシ基である場合、その加水分解反応の速度が遅すぎると、OX基が水酸基であるT2が少なくなる。同様に、加水分解反応の速度が遅すぎるとOX基が水酸基であるT1が少なくなる。このため、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基に対する水酸基の存在量の比が高いものを得ることが困難となる。このため、OX基であるアルコキシ基は反応性の高いアルコキシ基、すなわち炭素数の低いアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がもっとも好ましい。加水分解性基の反応性が充分高い場合、加水分解性基の割合の高いオルガノポリシロキサンから、縮合反応をあまり進めることなく、水酸基の割合の高いオルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0072】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板におけるハードコート層は、このようにして得られる硬化性のオルガノポリシロキサン(T)の1種を単独で用いた硬化物を主成分として含有することも、2種以上を併用した硬化物を主成分として含有することも可能である。なお、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板においては、ハードコート層を形成するために、通常用いられる、ハードコート層を構成する成分の硬化前の材料を含有する組成物(以下、「ハードコート剤組成物」という。)を調製しこれを用いる。本発明に好ましく用いられる硬化性のオルガノポリシロキサン(T)についても、製造過程において、このようなハードコート剤組成物に配合することで、得られるハードコート層にその硬化物として含有させることが可能となる。
【0073】
耐擦傷性、耐候性の観点から特に好ましいオルガノポリシロキサン(T)の組合せとして、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)の組合せについて以下に説明するが、本発明に用いる硬化性オルガノポリシロキサンがこれらに限定されるものではない。また、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)が、それぞれ単独でオルガノポリシロキサン(T)として本発明に使用されることを妨げるものでもない。
【0074】
(オルガノポリシロキサン(a))
オルガノポリシロキサン(a)は、T1〜T3の各単位を、T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、かつT3/T2=1.5〜4.0の割合で含む。また、オルガノポリシロキサン(a)中のOX基について、それがアルコキシ基である個数(A)とそれが水酸基である個数(B)との割合、(B)/(A)が分子平均で12.0以上である。かつ、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000である。
なお、オルガノポリシロキサン(a)は、TモノマーであるT0を実質的に含まない。
【0075】
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合については、上記条件に加えて、(T2+T3)/(T1+T2+T3)が0.85〜1.00の範囲にあることが好ましく、0.90以上1.00未満であることがより好ましい。また、T3/T2については、好ましい範囲は2.0〜4.0である。
【0076】
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合を、各分子の平均組成でこのような範囲にすることで、オルガノポリシロキサン(a)と後述するオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて、これを本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物に配合した際に、これらが硬化して得られるハードコート層の耐擦傷性および耐候性を向上させることが可能となる。
【0077】
オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、縮合反応性を示すパラメータであり、この値が大きいほど、つまりアルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほど、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせてハードコート剤組成物に用いた際に、ハードコート層形成時の硬化反応が促進される。また、ハードコート層形成時に未反応で残ったアルコキシ基は、ハードコート層の耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行すればマイクロクラックの原因ともなるため、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほどよい。オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、12.0以上であるが、好ましくは16.0以上である。なお、(A)は0であってもよい。
【0078】
(B)/(A)の値が12.0未満であると、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が少なすぎて、硬化反応促進の効果が得られず、またアルコキシ基の影響により耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行してマイクロクラックの原因となる。つまり、(B)/(A)の値が12.0未満であると、ハードコート層形成に際して、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)の硬化反応により形成される三次元架橋構造(ネットワーク)に、オルガノポリシロキサン(a)の一部が組み込まれずブリードアウトしやすくなること等に起因して、架橋密度が低下し、耐摩耗性が得られない、硬化が十分に進行しにくくなる等の問題が発生する。
【0079】
オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000であり、好ましくは、1000〜6000である。オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がこの範囲にあることで、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物に用いた際に、得られるハードコート層の耐擦傷性および耐候性を十分に向上させることができる。
【0080】
本発明において、特に耐擦傷性に優れたハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物に用いるオルガノポリシロキサン(a)を得るには、原料の加水分解性シラン化合物として、全Tモノマー中70質量%以上がメチルトリアルコキシシラン、好ましくはアルコキシ基の炭素数は1〜4を用いることが好ましい。ただし、密着性の改善、親水性、撥水性等の機能発現を目的として少量のメチルトリアルコキシシラン以外のTモノマーを併用することもできる。
【0081】
オルガノポリシロキサン(a)を製造する方法としては、上記のように、溶媒中で酸触媒存在下にTモノマー等を加水分解縮合反応させる。ここで加水分解に必要な水は、モノマー1当量に対して通常、水1〜10当量、好ましくは1.5当量〜7当量、さらに好ましくは3〜5当量である。モノマーを加水分解および縮合する際に、コロイダルシリカ(後述する)が存在する反応系で行うこともでき、このコロイダルシリカとして水分散型のコロイダルシリカを使用した場合は、水はこの分散液から供給される。酸触媒の使用量は、モノマー100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。溶媒としては、前記アルコール系溶媒が好ましく、得られるオルガノポリシロキサン(a)の溶解性が良好な点から、具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが特に好ましい。
【0082】
通常、反応温度は20〜40℃、反応時間は1時間〜数日間が採用される。モノマーの加水分解縮合反応は発熱反応であるが、系の温度は60℃を超えないことが好ましい。このような条件で十分に加水分解反応を進行させ、ついで、得られるオルガノポリシロキサンの安定化のため40〜80℃で1時間〜数日間縮合反応を進行させることも好ましく行われる。
【0083】
オルガノポリシロキサン(a)は、また、市販のオルガノポリシロキサンから製造することができる。市販のオルガノポリシロキサンは通常水酸基に比較してアルコキシ基の割合が高いオルガノポリシロキサンであるので、特に、前記(B)/(A)以外は目的とするオルガノポリシロキサン(a)に類似した市販のオルガノポリシロキサンを使用して加水分解反応で水酸基の割合を高めて、オルガノポリシロキサン(a)を製造することが好ましい。
【0084】
オルガノポリシロキサン(a)の原料として使用できる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物である以下のオルガノポリシロキサンがある。なお、「ND」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、検出量以下であることを示す(以下同様)。
【0085】
メチル系シリコーンレジンKR−220L(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:ND:28:72、Si−OH/SiO−CH=11.7、質量平均分子量Mw=4720、数平均分子量Mn=1200、Mw/Mn=3.93。
【0086】
メチル系シリコーンレジンKR−500(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみ存在。Mw=1240、Mn=700、Mw/Mn=1.77。
【0087】
上記のような市販のオルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサン(a)を製造する場合、市販のオルガノポリシロキサンを、酸触媒存在下で主にアルコキシ基の加水分解を行うことが好ましい。例えば、市販のオルガノポリシロキサンに0〜10倍量(質量)の溶媒を加え、よく撹拌し、次いで0.1〜70質量%程度の濃度の酸水溶液を添加して、15〜80℃、好ましくは20〜70℃の温度で1〜24時間撹拌する等の方法が挙げられる。用いる溶媒としては水溶媒が使用でき、そのほか水を添加した前記アルコール系溶媒も使用できる。
【0088】
(オルガノポリシロキサン(b))
本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物に、上記オルガノポリシロキサン(a)と組合わせて用いるオルガノポリシロキサン(b)は、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10〜1/1.5倍の質量平均分子量を有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)は、組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)よりも質量平均分子量の小さいオルガノポリシロキサンであり、前記T1〜T3単位を有する。T1、T2、T3の数の比、T3/T2の割合、(B)/(A)の比は特に限定されない。
【0089】
オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量は、好ましくは組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)の1/8〜1/1.5倍である。オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/1.5倍を超えると、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の1.5倍未満では、得られるハードコート層の靱性が低下し、クラックの発生の要因となる。また、オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10倍未満では、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の10倍を超えると、得られるハードコート層の耐擦傷性が低くなり、十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができない。
【0090】
より好ましいオルガノポリシロキサン(b)は、T0、T1、T2およびT3で示される各含ケイ素結合単位が、これらの単位の個数の割合で、T0:T1:T2:T3=0〜5:0〜50:5〜70:10〜90の範囲にあるオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)中のT0およびT1の割合が大きいということは、一般にそのオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの加水分解反応や縮合反応が不充分であったことを示す。オルガノポリシロキサン(b)において、T0およびT1の割合が大きいと、これとオルガノポリシロキサン(a)とを含有するハードコート剤組成物を用いて、ハードコート層を形成させる際の熱硬化時に、クラックの発生が多くなる傾向となる。また、一般にオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの縮合反応を進行させすぎると得られるオルガノポリシロキサンのT3の割合が高くなる。オルガノポリシロキサン(b)において、T3の割合が必要以上に高くなると、これとオルガノポリシロキサン(a)を含むハードコート剤組成物を用いて、ハードコート層を形成させる際の熱硬化時に、適切な架橋反応が困難になるため、ハードコート層を形成できなくなるおそれがあり、また十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができないことがある。
【0091】
オルガノポリシロキサン(b)としては、オルガノポリシロキサン(a)と同様にTモノマー等から製造することができる。また、市販のオルガノポリシロキサンをそのままオルガノポリシロキサン(b)として使用することができる。オルガノポリシロキサン(b)として使用することができる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記のオルガノポリシロキサンがある。なお、「trace」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、0.01以上0.25以下であることを示す(以下同様)。
トスガード510(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製);分子量:Mn=1370、Mw=1380、Mw/Mn=1.01。T単位の個数:(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=ND:2:36:62。
KP851(商品名、信越化学工業社製);分子量:Mn=1390、Mw=1400、Mw/Mn=1.01、T単位の個数:(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=trace:21:58:21。
【0092】
ここで、以下に説明する本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物においては、上記オルガノポリシロキサン(a)に対するオルガノポリシロキサン(b)の含有量の割合は、質量比で、1.5〜30倍であることが好ましく、2〜15倍であることがより好ましい。本発明に係るハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物において、このような割合で両者を含有すれば、硬化反応により形成されるオルガノポリシロキサン三次元架橋構造が、オルガノポリシロキサン(b)主体の三次元架橋構造中に(a)成分オルガノポリシロキサンが部分的に組み込まれた構成となり、得られるハードコート層の耐候性および耐擦傷性を良好なものとすることができる。
【0093】
(4−2)ハードコート剤組成物
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板が有するハードコート層を形成する、およびこれに併せて中間層を形成するために、本発明においては、上記硬化性のオルガノポリシロキサン、好ましくはオルガノポリシロキサン(T)を含有するハードコート剤組成物を用いる。ハードコート剤組成物におけるオルガノポリシロキサンの含有量は、溶媒を除く組成物(以下、必要に応じて「不揮発成分」という)全量に対して、50〜100質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。本明細書において、「不揮発成分」とは、150℃で45分間保持した後の質量変化に基づいて算出された質量%をいう。
【0094】
ここで、上記中間層を形成させるために、本発明においてはハードコート剤組成物のpHを調整するが、具体的方法については後述の通りである。
【0095】
本発明に用いるハードコート剤組成物には、上記オルガノポリシロキサンの他に、種々の添加剤が含まれていてもよい。たとえば、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板のハードコート層の耐擦傷性をさらに向上させるためには、ハードコート層がシリカ微粒子を含有することが好ましく、そのために、シリカ微粒子が含まれるハードコート剤組成物が好ましく用いられる。ハードコート剤組成物にシリカ微粒子を配合するために具体的には、コロイダルシリカを配合することが好ましい。なお、コロイダルシリカとは、シリカ微粒子が、水またはメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒中に分散されたものをいう。
【0096】
また、シリカ微粒子は、上記オルガノポリシロキサンの製造過程で、原料のモノマーに配合することもできる。コロイダルシリカを含む反応系中でオルガノポリシロキサンを製造することにより、シリカ微粒子を含むオルガノポリシロキサンが得られる。例えば、コロイダルシリカにTモノマーと必要により水や酸触媒を添加し、コロイダルシリカの分散媒中で前記のようにオルガノポリシロキサンを製造することができる。このようにして得られたオルガノポリシロキサンを使用して、シリカ微粒子を含む本発明に用いるハードコート剤組成物を製造することができる。
【0097】
本発明に係るハードコート剤組成物に用いる上記シリカ微粒子は、平均粒径(BET法)が1〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるハードコート層の曇価の値が大きくなり、光学品質上好ましくない場合がある。さらに、平均粒径は5〜40nmであることが特に好ましい。これは、ハードコート層に耐擦傷性を付与しつつ、かつハードコート層の透明性を保持するためである。また、コロイダルシリカは水分散型および有機溶剤分散型のどちらも使用でき、水分散型を使用することが好ましい。さらには、酸性水溶液中で分散させたコロイダルシリカを用いることが特に好ましい。さらに、コロイダルシリカには、アルミナゾル、チタンゾル、セリアゾル等のシリカ微粒子以外の無機質微粒子を含有させることもできる。
【0098】
本発明に用いるハードコート剤組成物におけるシリカ微粒子の含有量としては、溶媒を除く組成物(不揮発成分)全量に対して1〜50質量%となる量が好ましく、5〜40質量%となる量がより好ましい。本発明に用いるハードコート剤組成物における不揮発成分中のシリカ微粒子の含有量が1質量%未満では、得られるハードコート層において十分な耐擦傷性を確保できないことがあり、前記含有量が50質量%を越えると、不揮発成分中の、オルガノポリシロキサンの割合が低くなりすぎて、オルガノポリシロキサンの熱硬化によるハードコート層形成が困難になる、得られるハードコート層にクラックが発生する、シリカ微粒子同士の凝集が起こってハードコート層の透明性が低下するなどのおそれがある。
【0099】
本発明に用いるハードコート剤組成物はさらに、塗工性向上の目的で、消泡剤や粘性調整剤等の添加剤を含んでいてもよく、プライマー層への密着性向上の目的で密着性付与剤等の添加剤を含んでいてもよく、また、塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させる目的でレベリング剤を添加剤として含んでいてもよい。これらの添加剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、各添加剤成分毎に0.01〜2質量部となる量が好ましい。また、本発明に用いるハードコート剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料、フィラーなどを含んでいてもよい。
【0100】
本発明に用いるハードコート剤組成物は、さらに硬化触媒を含有してもよい。硬化触媒としては、脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;アルミニウム、チタン、セリウム等の金属アルコキシドやキレート;過塩素酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、イミダゾール類及びその塩、トリフルオロメチルスルホン酸アンモニウム、ビス(トルフルオルメチルスルホニル)ブロモメチルアンモニウム等が挙げられる。また、硬化触媒の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。硬化触媒の含有量が0.01質量部より少ないと十分な硬化速度が得られにくく、10質量部より多いとハードコート剤組成物の保存安定性が低下したり、沈殿物を生じたりすることがある。
【0101】
また、本発明に用いるハードコート剤組成物は、樹脂基板の黄変を抑制するために、さらに紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種を使用してもよく2種以上を併用してもよい。また、ハードコート層からの上記紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制するために、トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤を用いてもよい。トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤は、オルガノポリシロキサンの熱硬化によるハードコート層形成の際に、加水分解反応により水酸基に変換され、次いで脱水縮合反応によりハードコート層中に組み込まれ、紫外線吸収剤のハードコート層からのブリードアウトを抑制することができるものである。このようなトリアルコキシシリル基として、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。ハードコート剤組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることが特に好ましい。
【0102】
通常の使用においてハードコート剤組成物は、常温でのハードコート剤組成物のゲル化を防止し、保存安定性を増すために、pHを3.5〜6.0に調整することが好ましく、3.5〜5.0に調整することがより好ましい。pHが2.0以下あるいは7.0以上の条件下では、ケイ素原子に結合した水酸基が極めて不安定であるため保存に適さない。ここで、本発明においては、保存安定性の付与だけでなく、中間層を形成させることを考慮してpHを調整する。ハードコート剤組成物のpHを調整することにより、中間層の形成の有無および膜厚を調整することが可能である。本発明に用いるハードコート剤組成物におけるpHの範囲は、具体的には、上記アクリル系プライマー層の一部を中間層として取り込んで最終的に得られる中間層の膜厚(Mt)が、この中間層と同時に形成されるハードコート層の膜厚(Ht)との関係において、Mt/Htの値として、0.05〜1.0の範囲となるような範囲である。このようなpHの範囲は、プライマー層に用いるアクリル系ポリマーの種類、質量平均分子量、アクリル系ポリマーのハードコート剤組成物に対する溶解性、ハードコート剤組成物が含有するオルガノポリシロキサンの種類、プライマー層の膜厚、最終的に得られるハードコート層の膜厚、ハードコート剤組成物の塗工方法、ハードコート剤組成物の乾燥および硬化方法等によるが、概ね3.5〜4.5を好ましいpHの範囲とすることができる。
【0103】
pH調整の手法としては、酸の添加、硬化触媒の含有量の調整等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、この中でも酢酸、塩酸が好ましい。
なお、ハードコート剤組成物にオルガノポリシロキサンとして、上記オルガノポリシロキサン(a)を用いる場合には、これ自体が酸と同様の作用を示すので、pH調整はこの点を考慮して行う。
【0104】
本発明に用いるハードコート剤組成物は、通常、必須成分であるオルガノポリシロキサン、および任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。
前記ハードコート剤組成物中の全不揮発成分が溶媒に安定に溶解、分散することが必要であり、そのために溶媒は、少なくとも20質量%以上、好ましくは50質量%以上のアルコールを含有する。
【0105】
このような溶媒に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が好ましく、これらのうちでも、オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点、塗工性が良好な点から、沸点が80〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
【0106】
また、本発明に係るハードコート剤組成物に用いる溶媒としては、オルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマー、例えばアルキルトリアルコキシシランを加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や、水分散型コロイダルシリカ中の水で加水分解反応に関与しない水分、有機溶媒分散系のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散有機溶媒も含まれる。
【0107】
さらに、本発明に用いるハードコート剤組成物においては、上記以外の溶媒として、水/アルコールと混和することができるアルコール以外の他の溶媒を併用してもよく、このような溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
【0108】
本発明に係るハードコート剤組成物において用いる溶媒の量は、ハードコート剤組成物中の全不揮発成分100質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、150〜2000質量部であることがより好ましい。
【0109】
(4−3)ハードコート層および中間層の形成
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、上記本発明のハードコート剤組成物を、上記で得られたアクリル系プライマー層上に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜中のオルガノポリシロキサンを主成分とする硬化性化合物を硬化させてハードコート層とすることにより製造することができる。その際、上記適宜pHが調整されたハードコート剤組成物を用いることにより、所望の膜厚の中間層が形成される。
【0110】
ハードコート剤組成物を塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等の通常の塗工方法が挙げられる。塗工方法によってハードコート剤組成物の粘度、固形分濃度等を適宜調整することが好ましい。
【0111】
アクリル系プライマー層上に塗布されたハードコート剤組成物は、通常、常温から樹脂基板とアクリル系プライマー層の熱変形温度未満の温度条件下で溶媒が乾燥、除去された後、加熱硬化される。溶媒の乾燥条件としては、例えば0〜60℃、10分〜10時間の条件が挙げられる。また、減圧度を調整しながら真空乾燥などを用いてもよい。熱硬化反応は、樹脂基板およびアクリル系プライマー層の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行う方がより早く硬化を完了させることができ好ましい。しかし、例えば、1価の有機基としてメチル基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合、加熱硬化時の温度が250℃以上では、熱分解によりメチル基が脱離するため、好ましくない。よって、硬化温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜160℃が特に好ましく、100℃〜140℃がとりわけ好ましい。硬化時間は10分間〜4時間が好ましく、20分間〜3時間が特に好ましく、30分間〜2時間がとりわけ好ましい。
【0112】
ハードコート剤組成物をアクリル系プライマー層の表面に塗布して形成される塗膜の膜厚は(硬化前の膜厚)は、組成物における固形分濃度による。ハードコート剤組成物が硬化した後に形成される、シリコーン系ハードコート層および中間層の膜厚の関係が本発明の関係となり、実際の膜厚が所定の範囲内、好ましくは以下の範囲内になるように、固形分濃度を勘案する等して、適宜調整することが好ましい。
【0113】
ここで、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板においては、シリコーン系ハードコート層と同時に形成される中間層の膜厚(Mt)は、上述した通りハードコート剤組成物のpHを調整することにより、以下に示されるハードコート層の膜厚(Ht)との関係が、Mt/Htの値として、0.05〜1.0の範囲であり、Mt/Htの値は、好ましくは、0.1〜0.95である。
【0114】
アクリル系プライマー層上に中間層を介するかたちで施されるシリコーン系ハードコート層の膜厚は、硬化後の状態、すなわち、最終的にシリコーン系ハードコート層と中間層の形成が完了した後の、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板の状態でハードコート層単体の値として、1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがさらに好ましく、2μm以上10μm以下であることが特に好ましい。
【0115】
上記本発明のハードコート被膜付き樹脂基板の状態でのハードコート層の膜厚が小さすぎると、本発明に係るアクリル系プライマー層−中間層−シリコーン系ハードコート層の構成であっても、十分な耐擦傷性を確保することは困難である。一方、上記ハードコート層の膜厚が大きすぎると、クラックや剥離が発生しやすくなるおそれがある。よって、十分な耐擦傷性を確保しつつ、クラックや剥離の発生を抑制するためには、ハードコート層の膜厚は、1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0116】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板においては、さらなる耐擦傷性や膜強度向上のために、上記ハードコート被膜付き樹脂基板のハードコート層の上に、主成分がSiOとなるトップコート層を施してもよい。主成分がSiOとなるトップコート層の形成方法としては、上記ハードコート層上にポリ(パーヒドロ)シラザンを塗工し硬化する手法や、蒸着、スパッタなどの手法を適用することが好ましい。
【0117】
[本発明のハードコート被膜付き樹脂基板の製造方法]
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、上記の通り、樹脂基板側から順にアクリル系プライマー層、中間層、およびシリコーン系ハードコート層を有するものであって、前記中間層は、前記アクリル系プライマー層と前記シリコーン系ハードコート層が含有する構成成分を含有し、その膜厚(Mt)と前記シリコーン系ハードコート層の膜厚(Ht)との関係が、Mt/Htの値として、0.05〜1.0の範囲にあることを特徴とする。このような本発明のハードコート被膜付き樹脂基板を製造する方法としては、少なくとも以下の(1)の工程、(2)の工程を順に含むものである。
(1)樹脂基板の少なくとも一方の面上に上記アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー組成物を塗布し乾燥させて、アクリル系プライマー層を形成する工程
(2)上記で得られたアクリル系プライマー層の上に、中間層の膜厚(Mt)/ハードコート層の膜厚(Ht)で示される中間層とハードコート層の膜厚の比が0.05〜1.0となるように、pHを調整した上記オルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物を塗布し硬化させて、上記アクリル系ポリマーと上記オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含有する中間層とシリコーン系ハードコート層を形成する工程
【0118】
なお、上記(1)の工程については、上記(3)プライマー層において記載した通りであり、上記(2)の工程については、上記(4)ハードコート層において記載した通りである。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。また、オルガノポリシロキサンの分析を以下に示す方法によって行った。
【0120】
(1)ケイ素原子結合水酸基の個数(B)/ケイ素原子結合アルコキシ基の個数(A)
以下、実施例において用いたオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子結合アルコキシ基として、ケイ素原子結合メトキシ基(SiO−CH)を有するもののみであったため、上記(B)/(A)として、以下の方法により求めたSi−OH/SiO−CHの比を用いた。赤外吸光分析装置(FT−IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型式:Avatar/Nicolet FT−IR360)を用い、2860cm−1付近のSiO−CHに由来する吸収と900cm−1付近のSi−OHに由来する吸収の面積比からSi−OH/SiO−CHの比を求めた。
【0121】
(2)オルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態の解析
オルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態、具体的には、M単位、D単位、T単位、Q単位の存在の割合、およびT0〜T3の存在比を、核磁気共鳴分析装置(29Si−NMR:日本電子株式会社製、ECP400)を用いて、29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製10mmφ試料管使用、プローブ:T10、共鳴周波数79.42MHz、パルス幅10μsec、待ち時間20sec、積算回数1500回、緩和試薬:Cr(acac)を0.1質量%、外部標準試料:テトラメチルシランである。また、各構造に由来する29Si−NMRの化学シフトは、メチル系オルガノポリシロキサンの場合、以下のとおりである。
【0122】
(M単位〜Q単位)
M単位:15〜5ppm、
D単位:−15〜−25ppm、
T単位:−35〜−75ppm、
Q単位:−90〜−130ppm。
【0123】
(T0〜T3)
T0:−40〜−41ppm、
T1:−49〜−50ppm、
T2:−57〜−59ppm、
T3:−66〜−70ppm。
【0124】
(3)数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、および分散度Mw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Waters社製のWaters2695、RI検出、カラム:Styragel ガードカラム+HR1+HR4+HR5E、溶離液:クロロホルム)によって求めた。
【0125】
[1]オルガノポリシロキサン(a)(MSi−1)の合成
0.2Lのフラスコに、メチル系シリコーンレジンKR−500(信越化学工業社製、Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみである。各T単位の存在比はT0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Mn=700、Mw=1240、Mw/Mn=1.77)(10g)と1−ブタノール(10g)を加えよく撹拌し、酢酸(10g)、イオン交換水(10g)を加え、さらによく撹拌した。この溶液を40℃で1時間撹拌し、オルガノポリシロキサン(a)「MSi−1」を得た。このMSi−1を含有する溶液(MSi−1濃度:25質量%)をそのまま後述の[3]ハードコート剤組成物の調製に用いた。
【0126】
得られたMSi−1について、FT−IRにより、原料であるKR−500との比較を行ったところ、SiO−CH基由来のピークの減少およびSi−OH基由来のピークの出現を確認した。FT−IRのピーク面積比から求めたMSi−1のSi−OH/SiO−CHの比は41.0であった。MSi−1はT単位からなり、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:1.1:30.1:68.8であった。MSi−1のMnは520、Mwは1150、Mw/Mnは2.22であった。
【0127】
[2]オルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)の合成およびオルガノポリシロキサン(b)組成物溶液の調製
1Lのフラスコに、約15nmの平均粒子径をもつ水分散シリカゾル(pH3.1、シリカ微粒子固形分35質量%)200gと酢酸0.2gを仕込み、メチルトリメトキシシラン138gを添加した。1時間撹拌した後、この組成物を25℃で4日間熟成してシリカ・メタノール−水分散液中で部分加水分解縮合を確実に形成させた。
【0128】
この組成物は不揮発成分が40質量%で、得られたオルガノポリシロキサン(以下、オルガノポリシロキサン(b)「PSi−1」という)はT単位を主とした結合構造(T単位の個数:M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量=100:0)をもち、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:2:54:44であった。得られたオルガノポリシロキサンには、モノマー状のT0体[R−Si(OH)](Rは1価有機基)がほぼ存在せず、原料のメチルトリメトキシシランはオリゴマー状のオルガノポリシロキサンにほぼ完全に転換されていることが確認された。得られたオルガノポリシロキサン(b)PSi−1のMnは400、Mwは670、Mw/Mnは1.68であった。
【0129】
上記で得られたオルガノポリシロキサン(b)PSi−1溶液(シリカ微粒子(c)含有)100質量部に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤4質量部を加え、25℃で24時間以上熟成した。希釈溶媒として1−ブタノール、イソプロパノールを用いて、不揮発成分が25質量%(150℃、45分)、粘度が4.4mPa・sのオルガノポリシロキサン(b)PSi−1組成物溶液を調製した。組成物のpHは5.0で安定化した。
【0130】
[3]ハードコート剤組成物の調製
上記[2]で得られたオルガノポリシロキサン(b)PSi−1を含むオルガノポリシロキサン(b)組成物溶液、上記[1]で得られたオルガノポリシロキサン(a)MSi−1を含む溶液、および表1に示すpH調整用の添加剤を用いて、表1に示す組成およびpHのハードコート剤組成物HC−1〜HC−6を得た。
【0131】
【表1】
【0132】
[4]ハードコート被膜付き樹脂基板サンプルの作製
上記[3]で得られたハードコート剤組成物を用いて、以下のようにして各例のハードコート被膜付き樹脂基板サンプルを作製した。なお、例1〜例5が実施例であり、例6〜8が比較例である。
[例1]
厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー(商品名、旭硝子社製))に、アクリル系プライマーSHP470(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)をディップ方式で、乾燥後の膜厚が4〜5μmになるように塗工し、熱風循環式乾燥器(三洋電機社製、CONVECTION OVEN MOV−202F)を使用して、120℃で30分間の加熱乾燥を行いプライマー層を形成させた。つぎに、得られたプライマー層上に、ハードコート剤組成物HC−2をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間放置後、120℃で1時間硬化させてハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルを作製した。これによりプライマー層上に形成された層(後述のSEM観察で中間層とハードコート層で構成されることが確認された)の膜厚は、3.6μmであった。このサンプルは、後述のSEM観察によれば、ポリカーボネート板の両面にアクリル系プライマー層と中間層とハードコート層が形成されたサンプルである。目視による異常の有無を判定した結果、サンプルの初期外観に問題はなかった。
【0133】
[例2〜3]
上記[3]で調製したハードコート剤組成物HC−3およびHC−6を表2に示した膜厚になるようにディップ方式でコーティングした以外は、上記例1と同様の方法でハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルを作製した。目視による異常の有無を判定した結果、すべてのサンプルで初期外観に問題はなかった。
【0134】
[例4]
厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー(商品名、旭硝子社製))に、アクリル系プライマーSHP470(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)をフロー方式で膜厚が4〜5μmになるようにコーティングした。つぎに、ハードコート剤組成物HC−3をフロー方式でコーティングし、25℃で20分間放置後、120℃で1時間硬化させてハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルを作製した。これによりプライマー層上に形成された層(後述のSEM観察で中間層とハードコート層で構成されることが確認された)の膜厚は、8.4μmであった。このサンプルは、後述のSEM観察によれば、ポリカーボネート板の片面にアクリル系プライマー層と中間層とハードコート層が形成されたサンプルである。目視による異常の有無を判定した結果、サンプルの初期外観に問題はなかった。
【0135】
[例5]
厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー(商品名、旭硝子社製))に、アクリル系プライマーSHP470(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)をディップ方式で膜厚が4〜5μmになるようにコーティングした。つぎに、ハードコート剤組成物HC−3をスプレー方式でコーティングし、25℃で20分間放置後、120℃で1時間硬化させてハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルを作製した。これによりプライマー層上に形成された層(後述のSEM観察で中間層とハードコート層で構成されることが確認された)の膜厚は、6.7μmであった。このサンプルは、後述のSEM観察によれば、ポリカーボネート板の片面にアクリル系プライマー層と中間層とハードコート層が形成されたサンプルである。目視による異常の有無を判定した結果、サンプルの初期外観に問題はなかった。
【0136】
[例6〜8]
上記[3]で調製したハードコート剤組成物HC−1、HC−4およびHC−5を表2に示した膜厚になるようにコーティングした以外は、上記例1と同様の方法でハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルを作製した。すべてのサンプルで初期外観に問題はなかった。
【0137】
[5]ハードコート被膜付き樹脂基板のハードコート被膜における層構成観察
上記各例で得られたサンプルを精密切断機により1mm厚程度に切断し、液体窒素中で冷却後割切した。次に、クロスセクションポリッシャー(日立製作所社製、E−3500)により断面作製後、カーボンコート(サンユー電子社製 カーボンコーター:30nm相当)を行い、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JXA8500F)を用いて、サンプル断面のSEM観察を行なった。加速電圧・電流は8kV−0.1nAとし、二次電子像(SE像)および反射電子組成像(COMP像)の両者を比較した。
【0138】
上記例2で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルの断面SEM像からプライマー層とハードコート層間において、コントラストの異なる中間層が見られた。COMP像より各層の組成コントラストを比較すると、この層はプライマー層とハードコート層の中間であり、両層の成分が相溶した中間層と推察され、その膜厚はそれぞれハードコート層が2.2μm、中間層が1.9μmであった。
【0139】
このようにして上記例1〜5で得られたサンプルについては、上記サンプル断面のSEM観察の結果、全てのサンプルで、プライマー層とハードコート層間において、コントラストの異なる中間層を確認した。確認された中間層の膜厚は0.7μmから1.9μmであった。表2にハードコート層の膜厚と中間層の膜厚をまとめた。上記例1〜5で得られたサンプルについては、全てのサンプルで中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が0.05〜1.0の本発明の範囲内であることが確認された。
【0140】
また、上記例2で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルについて、この中間層の組成の確認のため、電界放射型電子プローブマイクロアナライザー(日本電子社製、FE−EPMA)を用いて、SiKα線の強度測定を行った。加速電圧・電流は15kV−30nAとした。
【0141】
まず、ハードコート層および中間層について、それぞれ2点のSiKα線の強度カウントをFE−EPMAを用いて測定した。ハードコート層における2点のSiKα線の強度カウントは495536と484174であり、その平均値は489855であった。中間層における2点のSiKα線の強度カウントは438764と443286であり、その平均値は441025であった。SiKα線の強度はハードコート層、中間層で異なり、ハードコート層に比べ、中間層が低い結果となった。これはCOMP像で観察されたコントラストの異なる中間層の観察結果を支持しているものであり、中間層は、ハードコート層とプライマー層が相溶している層であることが明らかとなった。さらにSiKα線の強度カウント(平均値)から、ハードコート層と中間層のSi原子の組成比は10:9と計算された。
【0142】
さらに、中間層を詳細に確認するため、上記例2で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルについて、走査型X線光電子分光装置(μ−ESCA、アルバック・ファイ社製、Quantera SXM)による深さ方向分析を行った。X線源はモノクロメータにより単色化したAlKα線を用い、真空度はAr+スパッタエッチング時:>7.0×10−8Torr、測定時:>5.0×10−8Torrであり、加速電圧:4kV、ラスター:2mm×2mm、インターバル:1min、スパッタエッチングレート:105nm/minとした。
【0143】
深さ方向プロファイルの結果から、ハードコート層と比較して、中間層は明らかに組成挙動が異なり、Si原子、C原子およびO原子からなる中間層であることが示唆された。これはCOMP像で観察されたコントラストの異なる中間層の観察結果を支持している。
【0144】
一方、上記例6および例8で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルについては、上記サンプル断面のSEM観察の結果、プライマー層とハードコート層の間に中間層が見られなかった。
【0145】
また、上記例7で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルについては、上記サンプル断面のSEM観察の結果、プライマー層とハードコート層の間に中間層が観察された。その膜厚はそれぞれハードコート層が1.6μm、中間層が2.1μmであった。膜厚の測定結果を表2に示す。例7で得られたハードコート被膜付き樹脂基板のサンプルについては、中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が1.0を超える、本発明の範囲外のものである。
【0146】
[6]ハードコート被膜付き樹脂基板サンプルの評価
上記[4]の各例で得られたハードコート被膜付き樹脂基板サンプルについて、下記項目の評価を行った。表2に、ハードコート被膜を構成する各層の膜厚とともに、初期における密着性、耐擦傷性および耐候性試験後の耐候クラック性、耐候密着性の結果を示す。
【0147】
<1>膜厚
<1−1>ハードコート層およびプライマー層の膜厚
各サンプルにおけるハードコート層と中間層の合計膜厚、およびプライマー層膜厚を干渉膜厚測定装置(スペクトラ・コープ社製、Solid Lambda Thickness)を用いて測定した。このとき、屈折率はn=1.46(ハードコート層と中間層)およびn=1.56(プライマー層)の値を用いた。さらに、サンプルの断面SEM観察からハードコート層膜厚を見積もった。
【0148】
<1−2>中間層の膜厚
各サンプルにおける中間層の膜厚を断面SEM観察から見積もった。
【0149】
<2>初期サンプル評価
<2−1>初期耐擦傷性
JIS K5600(5.9)に準拠し、テーバー磨耗試験機(東洋精機製作所社製、型式:ROTARY ABRASION TESTER)に磨耗輪 CALIBRASE(登録商標)CS−10F(TABER社製)を装着し、荷重500g下での500回転後のヘーズ(曇価)を測定し、試験後と試験前の曇価差ΔH500を耐擦傷性とした。ヘーズはJIS K7105(6.4)に準拠し、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HGM−2)にて測定した。判定基準として、ΔH500≦+10であれば合格とした。
【0150】
<2−2>初期密着性
JIS K5600(5.6)に準拠し、カミソリ刃を用いて、ハードコート被膜に1mm間隔で縦、横11本ずつ切れ目を入れて100個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、CT24)をよく付着させた後、剥離テストを行った。ハードコート被膜が剥離せずに残存したマス目数をXとし、X=100であれば合格とし、「○」と表記した。
【0151】
<3>耐候性試験
光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機(ダイプラ・ウインテス製;ダイプラ・メタルウェザー KU−R4)を用い、光の照射、結露、暗黒の3条件を連続で負荷し、600時間経過後のクラックの有無および剥離について目視で以下の通り評価した(耐候クラック性)。また、600時間経過後の密着性を下記の通り評価した(耐候密着性)。ここで、前記照射の条件は、照度90mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%の条件下で4時間光を照射するものであり、前記結露の条件は、光を照射せずに相対湿度98%の条件下でブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持するものであり、前記暗黒の条件は光を照射せずにブラックパネル温度70℃、相対湿度90%の条件下で4時間保持するものである。
【0152】
<3−1>耐候クラック性
耐候性試験前(初期)/耐候性試験後のハードコート被膜の外観を下記基準で目視によって観察し、異常の有無を判定した。
【0153】
○:異常なし、
×:ハードコート被膜にクラックあり。
【0154】
<3−2>耐候試験後の密着性(耐候密着性)
JIS K5600(5.6)に準拠し、600時間経過後のサンプルにカミソリ刃を用いて、ハードコート被膜に1mm間隔で縦、横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標)(ニチバン社製、CT24)をよく付着させた後、剥離テストを行った。ハードコート被膜が剥離せずに残存したマス目数をXとし、X=25であれば合格とし、「○」と表記した。
【0155】
【表2】
【0156】
表2が示す通り、ディップコート法によって得られた例6〜8のサンプルでは、耐候性試験600時間でハードコート被膜にクラックが発生、または耐候性試験後の密着性判定が「×」となり、不合格である。例6および例8で得られたサンプルでは中間層が見られなかった。また、例7で得られたサンプルでは中間層が断面SEM観察によって観察されたが、耐候性試験後の耐候クラック性判定において、「×」であった。例7で得られたサンプルは、中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が1.0を超える、本発明の範囲外のものである。
【0157】
一方、ディップコート法によって得られた上記例1〜3のサンプルでは、耐候性試験600時間後のハードコート被膜の外観判定ならびに耐候性試験後の密着性試験について、上記例6〜8のサンプルが「×」であったのに対して、評価結果が「○」であり、耐候クラック性ならびに密着性に優れることがわかる。上記例1〜3で得られたサンプルは、中間層を構成する組成がSiKα線の強度カウントから求められ、ハードコート層と中間層のSi原子の組成比は10:9であり、中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が、0.05〜1.0の本発明の範囲内のものである。
【0158】
また、フローコート法あるいはスプレー法に得られた例4および例5のサンプルでも、耐候性試験600時間でハードコート被膜にクラックが発生せず、耐候性試験後の密着性判定も「○」となり、合格である。上記例4および例5で得られたサンプルについても、例1〜3のサンプル同様、中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が、0.05〜1.0の本発明の範囲内のものである。これは、塗工方法にかかわらず、中間層の膜厚とハードコート層の膜厚の比を最適なものにすれば、耐候性を向上することができることを示唆している。
【0159】
ここで、上記各例のサンプルのなかで、中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比が、0.05〜1.0の本発明の範囲内のものである、例1〜例5においては、中間層とハードコート層の作製に用いたハードコート剤組成物におけるpHが3.9〜4.2と、Mt/Htが本発明の範囲内となるように、よく調整されていた。これに対し、例6および例8で用いたハードコート剤組成物におけるpHは、5.0、4.9と高く、例7で用いたハードコート剤組成物におけるpHは、3.0と低く、これが要因となって得られたサンプルにおけるMt/Htが本発明の範囲外となる結果を招いたと言える。
【0160】
以上の結果から、本発明のハードコート被膜付き樹脂基板によれば、耐擦傷性を保持し、従来よりも耐候性試験後の耐候クラック性や密着性に優れ、耐候性が向上したハードコート被膜付き樹脂基板となる。これは、ハードコート層とプライマー層の間の中間層の存在が、その層を構成する組成と中間層膜厚(Mt)/ハードコート層膜厚(Ht)比によって、耐候性試験時の基材の熱膨張や水分による膨張に伴う、ハードコート膜への熱応力の発生を緩和でき、その結果、耐候性試験後のクラックを抑制し、さらに密着性を向上させるからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明のハードコート被膜付き樹脂基板は、自動車や各種交通機関に取り付けられる車輌用の窓ガラス、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラス、として使用できる。
なお、2009年12月25日に出願された日本特許出願2009−295347号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0162】
1…ハードコート被膜付き樹脂基板、2…樹脂基板、3…アクリル系プライマー層、4…中間層、5…シリコーン系ハードコート層
Mt…中間層4の膜厚、Ht…シリコーン系ハードコート層5の膜厚
図1