(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772613
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】電着金属剥離装置用のチス刃
(51)【国際特許分類】
C25C 7/08 20060101AFI20150813BHJP
【FI】
C25C7/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-5247(P2012-5247)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-144826(P2013-144826A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2014年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089222
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 康伸
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100175400
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 伸
(72)【発明者】
【氏名】天野 道
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭48−042642(JP,Y1)
【文献】
実開昭62−170765(JP,U)
【文献】
米国特許第04479854(US,A)
【文献】
米国特許第04806213(US,A)
【文献】
特開2001−081591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縁部に断面視楔形の可動プロテクタが着脱可能に取り付けられた母板から電着金属を剥離する電着金属剥離装置に備えられ、該電着金属と該母板との間に挿入し、該電着金属の縁部を口開き状態とするために用いられるチス刃であって、
幅広であり、
刃角度が前記可動プロテクタの楔の傾斜角度より大きい、
ことを特徴とする電着金属剥離装置用のチス刃。
【請求項2】
刃角度が27°以上33°以下である
ことを特徴とする請求項1記載の電着金属剥離装置用のチス刃。
【請求項3】
刃先が平面視台形である
ことを特徴とする請求項1または2記載の電着金属剥離装置用のチス刃。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のチス刃が備えられた
ことを特徴とする電着金属剥離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着金属剥離装置用のチス刃に関する。さらに詳しくは、電着金属を母板から剥離する電着金属剥離装置において、電着金属と母板との間に挿入し、電着金属の縁部を口開き状態とするために用いられるチス刃に関する。
【背景技術】
【0002】
電解採取においては、ニッケルやコバルトなどの目的金属を含有する電解液が満たされた電解槽に、多数のアノードとカソードを交互に挿入し、カソードである母板に目的金属を電着させる。目的金属が電着された母板は電解槽から引き上げられ、電着金属剥離装置に搬送され、電着金属剥離装置により母板から電着金属が剥離される。
【0003】
特許文献1には、このような電着金属剥離装置の一例が記載されている。
図7に示すように、母板10には、側縁部の上部に電気絶縁性の可動プロテクタ12が回動可能に取り付けられており、その他の側縁部および下縁部には電気絶縁性の固定プロテクタ14が固定されている。電解採取により、母板10の縁部を除いた領域(ハッチングされた領域)に目的金属20が電着する。
電着金属剥離装置では、可動プロテクタ12を回動させて電着金属20の側縁部を露出させ、露出した電着金属20の側縁部と母板10との間にチス刃を挿入し、電着金属20の縁部を口開き状態とする。その後、複数の真空吸着パッドで電着金属20を吸着して、母板10から引き離すことにより、電着金属20を剥離させる。
【0004】
しかし、上記従来の電着金属剥離装置では、電着金属20と母板10との間にチス刃を挿入する工程において、チス刃が電着金属20と母板10との間に挿入されずに電着金属20の表面を上滑りする場合があり、口開き状態にできずに電着金属20を剥離できない場合がある。電着金属20を剥離できない場合には、電着金属剥離装置を停止させたうえで、作業員が手作業で電着金属20を剥離する必要があるため、稼働率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3803700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、電着金属と母板との間への挿入不良の発生を低減する電着金属剥離装置用のチス刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の電着金属剥離装置用のチス刃は、縁部に断面視楔形の可動プロテクタが着脱可能に取り付けられた母板から電着金属を剥離する電着金属剥離装置に備えられ、該電着金属と該母板との間に挿入し、該電着金属の縁部を口開き状態とするために用いられるチス刃であって、幅広の平刃であり、刃角度が前記可動プロテクタの楔の傾斜角度より大きい、ことを特徴とする。
第2発明の電着金属剥離装置用のチス刃は、第1発明において、刃角度が27°以上33°以下であることを特徴とする。
第3発明の電着金属剥離装置用のチス刃は、第1または第2発明において、刃先が平面視台形であることを特徴とする。
第4発明の電着金属剥離装置は、請求項1、2または3記載のチス刃が備えられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、チス刃が幅広であるため、チス刃が電着金属と母板との間に挿入されやすくなり、挿入不良の発生を低減できる。また、刃角度が可動プロテクタの楔の傾斜角度より大きいので、チス刃と電着金属との接触面積が小さくなり摩擦が小さくなることから、チス刃が電着金属と母板との間に挿入されやすくなり、挿入不良の発生を低減できる。
第2発明によれば、刃角度が27°以上と大きいので、チス刃と電着金属との接触面積が小さくなり摩擦が小さくなることから、チス刃が電着金属と母板との間に挿入されやすくなる。また、刃角度が33°以下であるので、電着金属の縁部がチス刃に潰されることを防止できる。
第3発明によれば、刃先が平面視台形であるので、チス刃を電着金属と母板との間に深く挿入していくに従ってチス刃が挿入される範囲が徐々に広がるため、電着金属の縁部がチス刃に潰されることを防止できる。
第4発明によれば、チス刃が幅広であるため、チス刃が電着金属と母板との間に挿入されやすくなり、挿入不良の発生を低減できる。また、刃角度が可動プロテクタの楔の傾斜角度より大きいので、チス刃と電着金属との接触面積が小さくなり摩擦が小さくなることから、チス刃が電着金属と母板との間に挿入されやすくなり、挿入不良の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチス刃の平面図である。
【
図2】(a)
図1におけるIIa-IIa線矢視断面図、(b)
図1におけるIIb-IIb線矢視断面図、(c)
図1におけるIIc-IIc線矢視断面図である。
【
図3】同チス刃の電着金属剥離装置への取り付け状態の説明図である。
【
図4】
図3におけるIV-IV線矢視断面図であって、チス刃の挿入工程の説明図である。
【
図5】(a)
図3におけるVa-Va線矢視図、(b)
図3におけるVb-Vb線矢視断面図である。
【
図6】比較例で用いたチス刃の(a)平面図、(b)側面図である。
【
図8】
図7におけるIX-IX線矢視断面図であって、(a)可動プロテクタを装着した状態、(b)可動プロテクタを離間させた状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、電解採取に用いられる母板について説明する。
図7に示すように、母板10は薄い平板であり、その上部がビーム11に連結されており、このビーム11により電解採取用の電解槽に吊り下げられるようになっている。また、母板10の左右の側縁部のうち一方の側縁部の上部には、電気絶縁性の可動プロテクタ12がピン13により回動可能に取り付けられている。母板10のその他の側縁部および下縁部には、電気絶縁性の固定プロテクタ14が固定されている。
電解採取においては、母板10の両面であって、縁部を除いた領域(ハッチングされた領域)に目的金属20が電着する。
【0011】
ここで、
図8(a)に示すように、可動プロテクタ12は、一対の挟持面12a、12aと、その一対の挟持面12a、12aの一端同士を接続する連接面12bとからなる断面視略コの字形の部材であり、一対の挟持面12a、12aの間に母板10の側縁部が挿入され挟まる形状をしている。そして、挟持面12aの母板10中央寄りの縁部(
図8における左側の縁部)は、断面視楔形に形成されている。なお、本実施形態において、挟持面12aの楔の傾斜角度は25°である。
このように、挟持面12aが断面視楔形であるため、電着金属20は側縁部が挟持面12aの傾斜に沿って電着する。
【0012】
そして、
図8(b)に示すように、可動プロテクタ12を回動して、母板10の側縁部から離間させると、電着金属20の側縁部は母板10から浮いた状態となる。ここで、電着金属20の側縁部と母板10とのなす角は、挟持面12aの楔の傾斜角度(25°)と等しくなる。
【0013】
つぎに、電着金属剥離装置について説明する。
電解採取により、目的金属20が電着された母板10は電解槽から引き上げられ、電着金属剥離装置に搬送される。
電着金属剥離装置では、まず、母板10に取り付けられた可動プロテクタ12を、ピン13を軸に回動させて、母板10の側縁部から離間させる。この工程により、電着金属20の側縁部のうち、可動プロテクタ12が装着されていた部分が露出して、
図8(b)に示すように、母板10から浮いた状態となる。
【0014】
つぎに、露出した電着金属20の側縁部と母板10との間にチス刃を挿入し、電着金属20の縁部を口開き状態とする。
その後、複数の真空吸着パッドで電着金属20を吸着して、母板10から引き離すことにより、電着金属20を剥離する。
【0015】
本発明に係るチス刃は、上記のような電着金属剥離装置において、電着金属20と母板10との間に挿入し、電着金属20の縁部を口開き状態とするために用いられるものである。以下、本発明の一実施形態に係るチス刃について説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るチス刃30は、幅広の平刃であり、幅寸法が75mmに形成されている。また、チス刃30の刃先は平面視不等脚台形であり、角がとれて傾斜した形状をしている。
【0017】
また、
図2(a)に示すように、チス刃30の刃先は断面視楔形であり、その刃角度は30°であり、可動プロテクタ12の挟持面12aの楔の傾斜角度25°より大きく形成されている。
なお、刃先の傾斜部分は両端に行くにしたがい刃角度が大きくなるように形成されており、傾斜部分の中央では刃角度が60°(
図2(b)参照)、端部では刃角度が90°(
図2(c)参照)となっている。
【0018】
図3に示すように、上記チス刃30は、チス刃ホルダ31に取り付けられており、そのチス刃ホルダ31が電着金属剥離装置の備えられたシリンダなどのアクチュエータ(図示せず)に取り付けられている。そして、電着金属20の側縁部のうち、可動プロテクタ12が離間して露出した部分に向かって押し込まれるようになっている。また、
図4(a)に示すように、電着金属剥離装置には、母板10を挟んで対象な位置に一対のチス刃30、30が配置され、それぞれ平坦な方の面が母板10に対向するように設けられている。
【0019】
電着金属剥離装置では、以下の手順で電着金属20の縁部を口開き状態にする。
まず、
図4(a)に示すように、互いの距離が離れた状態の一対のチス刃30、30を母板10の方向に前進させつつ、互いの距離を狭くしていき、一対のチス刃30、30で母板10の側縁部を挟み込む。
【0020】
つぎに、
図4(b)に示すように、チス刃30、30をさらに前進させることにより、電着金属20と母板10との間に押し込む。ここで、チス刃30の刃角度が30°であり、可動プロテクタ12の挟持面12aの楔の傾斜角度25°より大きいので、チス刃30と電着金属20とは、面接触せず接触面積が小さくなり摩擦が小さくなることから、チス刃30が電着金属20と母板10との間に挿入されやすくなる。
【0021】
図4(c)に示すように、チス刃30、30をさらに前進させつつ、互いの距離を徐々に離していくことで、電着金属20の側縁部が母板10から剥離し、さらにその剥離がチス刃30の周囲に進行する。これにより、電着金属20のチス刃30の挿入位置の近傍を口開き状態とすることができる。ここで、口開き状態とは、電着金属20の一部が母板10から剥離した状態をいう。例えば、チス刃30を深さ10cm程度挿入すると、電着金属20のチス刃30の挿入位置近傍を高さ約40cm、幅約35cmの範囲で口開きすることができる。
電着金属20の縁部を口開き状態とした後に、チス刃30、30を後退させる。
【0022】
ところで、電解採取において電解槽内の電解液の液面位置は常に上下動していることから、
図5(a)に示すように、液面付近、すなわち母板10の上部に電着した電着金属20は、薄い場合がある。
このような場合には、
図5(b)に示すように、電着金属20が可動プロテクタ12の挟持面12aの傾斜に沿って電着せず、可動プロテクタ12を離間させても電着金属20の側縁部が母板10から浮いた状態とならない場合がある。そうすると、チス刃30が電着金属20と母板10との間に挿入されずに電着金属20の表面を上滑りし、口開き状態にできない恐れがある。
【0023】
しかし、本実施形態に係るチス刃30は幅広であるため、幅狭のチス刃に比べて、電着金属20の側縁部のうちチス刃30が挿入される範囲の中に、可動プロテクタ12の挟持面12aの傾斜に沿って電着した部分が含まれる確率が高くなる(
図5(a)参照)。すなわち、チス刃30が電着金属20と母板10との間に挿入されやすいので、挿入不良の発生を低減できる。
【0024】
また、刃先の角が取れていない幅広のチス刃を電着金属20と母板10との間に挿入しようとすると、電着金属20の側縁部の長い範囲に渡って一度にチス刃が接触するため、電着金属20の側縁部がチス刃により潰される恐れがある。
しかし、本実施形態に係るチス刃30は刃先が平面視台形であるので、チス刃30を電着金属20と母板10との間に深く挿入していくに従って、電着金属20の側縁部のうちチス刃30が挿入される範囲が徐々に広がる。そのため、幅広であっても、電着金属20の側縁部がチス刃30に潰されることを防止できる。
【0025】
以上のように、本発明に係るチス刃30を用いれば、電着金属20と母板10との間へ挿入しやすく、挿入不良の発生を低減することができるので、電着金属剥離装置の稼働率を向上できる。
【0026】
なお、上記実施形態では、チス刃30の刃角度を30°としたが、可動プロテクタ12の挟持面12aの楔の傾斜角度より大きければよく、27°以上33°以下が好ましい。刃角度が27°以上と大きければ、チス刃30と電着金属20との接触面積が小さくなり摩擦が小さくなることから、チス刃30が電着金属20と母板10との間に挿入されやすくなる。また、刃角度があまりにも大きいと電着金属20の側縁部がチス刃30の傾斜に沿って逃げることができずに潰される恐れがあるが、刃角度が33°以下であれば、電着金属20の側縁部がチス刃30に潰されることを防止できる。
【実施例】
【0027】
つぎに、実施例について説明する。
(比較例)
図6に示すような、幅寸法が37.5mmであり、刃角度が可動プロテクタ12の挟持面12aの楔の傾斜角度と同じ25°であるチス刃を用いて、電着金属剥離装置を30日間可動させた。稼働期間中は、平均860回/日の電着金属20の剥離を行った。
その結果、チス刃の電着金属と母板との間への挿入不良は平均75回/日(約8.7%)発生した。
【0028】
(実施例)
上記
図1に示すチス刃30を用いて、電着金属剥離装置を30日間可動させた。稼働期間中は、平均860回/日の電着金属20の剥離を行った。
その結果、チス刃の電着金属と母板との間への挿入不良は平均26回/日(約3.0%)発生した。
【0029】
以上の結果から、チス刃の幅寸法を2倍とし、刃角度を5°大きくすることで、挿入不良の発生が低減できることが分かった。
【符号の説明】
【0030】
10 母板
11 ビーム
12 可動プロテクタ
13 ピン
14 固定プロテクタ
20 電着金属
30 チス刃
31 チス刃ホルダ