(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
導電ペーストは、積層セラミックコンデンサ(Multi−Layer Ceramic Capacitors:以下MLCCとも称す)、多層セラミック基板などの積層セラミックデバイスの内部電極、その他の電子回路の厚膜導電体形成用導電ペーストに広く用いられている。
その導電ペーストの主な用途である積層セラミックコンデンサは、電子回路に多用され、その構造は、内部電極層と誘電体層とが交互に積み重なり、両端に外部電極が設けられた構造を採り、その内部電極層を形成する材料には、従来、銀やパラジウムなどの貴金属が用いられてきたが、現在では、低価格のニッケルへの転換が進んでいる。
【0003】
一般に、積層セラミックコンデンサは、微細な導電粉末と、導電粉末よりさらに微細な共材と呼ばれるTiBaO
3からなるセラミックス粉末とを含む導電ペーストを、グリーンシートと呼ばれる誘電体層の上にスクリーン印刷し、乾燥させ、そのシートを複数層積層して、圧着させた後、還元性雰囲気下で焼成し、所定サイズに切断し、外部電極を設けることによって製造されている。
ここに用いられる導電ペーストは、微細な導電粉末と、導電粉末よりさらに微細な誘電体粉末を、エチルセルロース等の樹脂とターピネオール等の有機溶剤等と、混練して形成されるものである。
【0004】
ところで、近年電子機器は、高性能化、小型化、高容量化、高周波化が進み、このため、使用される電子回路においても、多層化、薄層化が進むとともに、異種材料による高積層化も進んでおり、積層セラミックコンデンサも、これに対応した薄層化が進められている。
そのためには、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層および内部電極層についても薄層化を図ることが必要となってきている。具体的に示すと、積層セラミックコンデンサの誘電体層の薄層化に伴い、焼成後の積層セラミックコンデンサの内部電極の厚みは、現在1μm程度にまで薄くなってきており、さらに厚み1μm以下のものまでも提供され始めている。
【0005】
一方、誘電体上にスクリーン印刷される内部電極の薄層化を図るためには、内部電極となるニッケル塗膜の印刷用導電ペーストに含まれるニッケル粉末の粒径を小さくする必要がある。
そのため、積層セラミックコンデンサの内部電極用導電ペーストに用いられる導電粉末として、従来は平均粒径が0.4μmの球状の導電粉末が用いられていたが、0.2μm以下の導電粉末が要求されるようになってきている。
【0006】
一方、共材と呼ばれるセラミックス粉末は、ニッケル粉末よりも小径のものが使用されている。したがって、共材であるセラミックス粉末も導電粉末の小径化に伴い、従来は300nm程度の大きさだったが、近年はそれ以下、具体的には100nm程度まで小径化してきている。
【0007】
このような金属粉末の導電粉末、および共材のセラミックス粉末の小径化は、これら粉末による凝集を強くする傾向を示し、導電ペーストの長期保管においては、これらの粉末が再凝集しやすくなってくる。
この再凝集した導電ペーストは、内部電極膜中で突起物を生成し、さらに積層時には誘電体層をつき抜け、電気特性の悪化を招いてしまう問題を引き起こす。
【0008】
さらに共材のセラミック粉末は、アルカリ性の存在下では、一部ペースト溶剤成分中に溶解したBa等が空気中の炭酸ガスと結合し、炭酸Baという固形物を生成する。この固形物は、ペースト塗膜中での異物、突起となり、電気特性の低下を引き起こす。
また、これら固形成分の再凝集により、ペースト粘度も経時的に増粘してしまうという状況も起こりうる。
【0009】
このような導電粉末、共材の再凝集は、内部電極表面の平坦性にも大きな影響を与える。
すなわち、薄層化が進んだ積層セラミックコンデンサは、誘電体層も非常に薄くなっているため、導電ペーストを印刷し乾燥させた乾燥膜、すなわち内部電極表面に再凝集による凹凸があると、積層セラミックコンデンサ製造時の積層工程から圧着工程において、内部電極表面の凸部がその上に積層された誘電体層を突き抜けてしまい、内部電極のショート不良が発生しやすくなる。
【0010】
したがって、この内部電極表面の平坦性は、電極作製に用いる金属粉末やセラミックス粉末が示す分散性や粒径の均一性に非常に大きく影響を受けるといえる。
分散性の悪い粉末は、凝集体を形成するために内部電極表面に凹凸が形成されやすく、平坦性を悪化させる。よって、平均粒径の小さい金属粉末(導電粉末)やセラミックス粉末を用いたとしても、それらの分散性が悪い場合、あるいは粗大粒子を含んでいる場合には、薄層化された積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極のショート不良が発生しやすくなるという問題を生じ易いと言える。
【0011】
これらの現象が、再凝集により生じる場合であるならば、表面粗さ測定における最大突起Ryで示される項目で、その評価を行う事が出来、再凝集が生じている導電ペーストは、最大突起Ryが悪化する。また粘度上昇は、ペースト粘度の測定により、その粘度上昇量の把握が可能である。
したがって、導電ペーストの長期保管性に対しては、アミン系物質などのアルカリ性成分の存在は、これらの諸問題を引き起こす恐れが大きいことを知見した。
【0012】
また、誘電体シートの薄層化に伴い、使用する導電ペーストの溶剤成分による誘電体シートの溶解性が問題となってきている。
このことは、誘電体グリーンシート上に、内部電極用導電ペーストを印刷して乾燥されるまでの間に、導電ペースト中の溶剤成分が誘電体グリーンシート中に含まれる樹脂成分もしくは溶剤成分を溶解し、シート構造を破壊してしまう現象、所謂シートアタックである。
【0013】
すなわち、内部電極用の導電ペーストでは、従来、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ブチルカルビトールなどの溶剤が用いられてきたが、薄層化に伴いシートアタックのない溶剤が求められている。
【0014】
ペースト粘度も重要な要素である。
誘電体グリーンシートへの形成には、主にスクリーン印刷法が用いられる。このスクリーン印刷法では、内部電極用ペーストの粘度が印刷形状、厚みのコントロールに重要となる。
すなわち、スクリーン印刷法では、粘度が適していないと、膜厚のバラつき、表面粗さの悪化を招き、最悪、印刷できないという状況となる。この印刷膜厚のバラつきは、その後の積層、圧着工程で、均一な積層体を作製できなくなり、焼成工程では、焼結に伴う収縮挙動が均一におこらず、デラミネーションと呼ばれる構造破壊や、クラックが生じやすくなるという問題を有している。
【0015】
長期保管性は、利用に際しての重要な信頼性を決する評価項目である。
この長期保管性とは、上記の表面粗さ、粘度の長期安定性の両方の安定性を示すもので、表面粗さの悪化は、導電粉末やセラミックス粉末の再凝集に伴い発生する場合が多く、表面粗さの悪化は、薄層化された積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極のショート不良発生の要因となる。
【0016】
以上のような積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられる導電ペーストの課題に対して、例えば、特許文献1では、ニッケル粉末に含まれる硫黄分を100ppm未満とし、溶剤にジヒドロターピネオール誘導体、または石油系溶剤を使用する事により、シートアタックを防止すると共に粘度変化が小さくなることが示されている。
一般には、ニッケルペースト中に含まれる樹脂の燃焼性を制御するために金属粉末には、硫黄を含有させたものを用いる場合が多く、樹脂成分の燃焼制御が不十分の場合、セラミックコンデンサの焼成工程において、内部電極層からの樹脂成分のガス化により、内部圧力が生じ、最悪の場合、破裂等の構造欠陥を引き起こすという問題を有している。
【0017】
特許文献1では、その硫黄分を極少量とすることに特徴があり、樹脂成分の燃焼制御効果については全く述べられていない。したがって実際の適用にあたっては、これらの制御について対応が必要である。また一般には硫黄を含有したニッケル粉末が用いられており、低硫黄分のニッケル粉末を用いることは材料の安定供給や価格面から、その利用は容易ではない。
【0018】
特許文献2では、有機ビヒクル、アニオン性高分子分散剤と、沸点が120℃以上から220℃以下で、その構造内に少なくとも一つの3級アミンとを含有する導電ペーストについて提案されている。
この提案によれば、導電ペーストの経時増粘が抑制され、かつ脱脂工程におけるガス発生を抑制することができる導電ペーストが得られる事が開示されている。
しかしながら、特許文献2に開示される導電ペースト組成では、Cu粉の導電性粉末への対応しか述べられておらず、ペースト中に含まれる共材と呼ばれるセラミックス粒子への影響については何も述べられていない。
【0019】
共材であるセラミックス粒子は、ニッケル粉末同士の焼結を抑制するために、混合使用されるもので、共材はニッケル粉末よりも粒径が小さいものを用いるのが一般的である。そのため、凝集塊を解砕するためには、多くのエネルギーを必要とするために、分散させる事が非常に難しく、また分散後の安定性を保つ事も難しい。
【0020】
一方、セラミックス粉末は、アミン等の存在によるアルカリ性の存在下では、溶解したBa等が空気中の炭酸ガスと結合し、炭酸Baという固形物を生成する。これはペースト塗膜中での異物、突起となり、電気特性の悪化を招くのである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、上記課題に鑑み、導電ペースト中でのニッケル粉末および共材の分散性について鋭意検討したところ、優れた導電ペースト中での分散性、長期保管安定性、表面粗さを得るためには、以下の有機溶剤と、この有機溶剤に適した添加剤(分散剤)を用いることにより成し遂げられることを知見し、完成に至ったものである。
【0031】
本発明で用いる有機溶剤の必須成分としては、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルプロピオナート、イソボルニルイソブチレートのうちの少なくとも一種以上を、導電ペースト中の全溶剤成分における重量比において、50重量%以上を含むことを特徴とする。
この本発明の導電ペースト中の溶剤成分において、50重量%以上の割合で含まれる溶剤成分は、第一に内部電極用導電ペーストに使用されている樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラールへの溶解性を有する。第二に誘電体グリーンシートへのシートアタック性が非常に低い。そのため薄層化された誘電体グリーンシートに用いる有機溶剤として好適である。
【0032】
しかし、これらの有機溶剤を用いる場合、従来使用されてきた添加剤(所謂分散剤)では、特に経時変化により、共材成分のセラミック粉末が再凝集し、表面粗さの悪化、粘度の上昇という大きな問題を引き起こしてしまう。
そこで、本発明に使用する添加剤(以下、所謂、分散剤にあたる)は、共材のセラミック粉末に対して、カチオン界面活性剤としての機能を有し、共材表面の酸性サイトへのアミンの吸着がなされると共に、ポリオキシエチレン基の親水性が、溶剤への分散性維持の機能を促し、その結果、導電ペースト中での分散性維持効果を発揮する添加剤を選択する。
一方、アルカリ性における共材の融解による炭酸Baの生成に対しては、その生成を防ぐために、上記選択した添加剤においては、非常に弱いアルカリ性であることが必要となる。
【0033】
ところで、本発明で選ばれた添加剤の効果発現のメカニズムは、いまだにはっきりとしていないが以下のように考えられる。
導電ペーストには、導電物である金属粉末と共材と呼ばれるセラミックス微粉末を含んでいる。
金属粉末は、焼成後の内部電極として機能する物質であり、セラミックス粉末は、焼成時の金属粉末の焼結(収縮)挙動を、セラミックス誘電体と、マッチングさせるために必要とされる物質である。したがって両者は、導電性ペースト中に混在している。
【0034】
本発明者らの検討によれば、金属粉末にニッケル粉末を用いた場合では、そのニッケル粉末表面は、非極性の強い表面状態となっている。一方、導電ペーストに使用する有機溶剤成分は、極性を有する物質を使用する場合が多く、したがって一般に「R−COOH」で示されるような、非極性基である高級脂肪酸からなるアルキル基と、極性を有するカルボキシル基とを有する界面活性剤が、粉末の分散に対し効果があると考えられる。
【0035】
しかし、共材のセラミック粉末に対しては、この「R−COOH」で示されるような官能基を有する添加剤(分散剤)は、分散の効果をほとんど発揮しない。
これは、共材表面が比較的極性の状態である事を示し、結果としてニッケル粉末に有効な分散剤はセラミックス粉末に対しては、ほとんど効果がないか、最悪の場合には逆効果となり、凝集体を形成してしまう。そこで、セラミックス粉末の分散性に効果のある添加剤を調査したところ、アミンを有する物質が比較的有効であることを知見した。
この知見は、共材表面は酸性の性質が強いこと、さらには比較的極性が強い表面を有していることを示している。
【0036】
以上のように、ニッケル粉末と共材とでは、その表面状態は、ほぼ逆の性質を有しており、ニッケル粉末の分散性に効果のある添加剤は、共材に対してほとんど有効な効果を示さないか、若しくは、その分散性を悪化させてしまう。
一方、この知見で得られたアミンを有する物質は、アルカリ性が比較的強いという性質を有しているため、アルカリ性の存在下ではBaTiO
3を主とするセラミック粉末は、溶解したBa等が空気中の炭酸ガスと結合し、炭酸Baという固形物を生成し、ペースト塗膜中での異物、突起となり、電気特性の悪化を招いてしまうために、アミン系物質の存在は、長期保管性に問題を生じさせてしまう。
【0037】
一方、粘度は導電ペースト中に存在する粉末の分散性の影響を受ける。すなわち、導電ペーストの保管中に、導電粉末やセラミックス粉末が再凝集してしまう場合、粘度上昇が起こってしまう。
【0038】
以上のように、ニッケル粉末の分散性を維持しつつ、共材の分散性も維持し、かつ炭酸Baが生成しにくい凝集抑制剤を選択する必要がある。
本発明で用いる凝集抑制剤は、非イオン系界面活性剤に属するが、その構造上、カチオン界面活性剤としての特性も具備している。
また、アルキル基を有しており、これはニッケル表面の非極性表面に対して、親和性が良い。一方、導電ペーストに使用されている溶剤は、極性的性質を有する。したがって本発明で用いる凝集抑制剤は、ニッケル粉末表面にアルキル基を配し、溶剤成分にアミンおよびポリオキシエチレン基を配した状態で、存在すると予測される。そのような状態となることによりニッケル粉末に対しての分散効果を発現すると考えられる。
【0039】
一方、共材に対しては、カチオン界面活性剤としての機能を発現し、共材表面の酸性サイトへのアミンの吸着がなされ、かつポリオキシエチレン基の親水性が溶剤への分散性維持の機能を発揮し、その結果、ペースト中での分散性維持効果が発揮されると考えられる。
一方、共材であるBaTiO
3の融解、炭酸Baの生成に対しては、本発明で用いる凝集抑制剤は、非常に弱いアルカリ性を示しており、炭酸Baの生成にはほとんど影響を与えない。
これらの効果により、金属粉末の分散性を維持しつつ、かつ共材の分散性も発揮し、さらに共材からの溶出物に起因する炭酸Baの生成も抑制されるのである。
その結果、導電ペーストの長期保管に伴う粘度上昇が抑制され、凝集体も生成せず、表面粗さも好適に保たれるペーストを得る事ができるのである。
【0040】
本発明の凝集抑制剤中に存在するRは、C
nH
2n+1で示されるアルキル基C
nH
2n−1で示される
アルケニル基、C
nH
2n−3で示される
アルキニル基のいずれか一種で、炭素(C)数nを8〜16とする。この炭素(C)数nが8以下では十分な分散効果が得られず、逆に16以上では、導電ペーストに使用される溶剤への溶解性が小さくなり、分散剤としての効果が十分に得られないためである。
また、Rと結合するアミン基は、2級、若しくは3級アミン
基が望ましく、一方、そのアミン基が1級では、アルキル基とポリオキシエチレン基を有する事が出来ず、本発明の効果が得られない。
【0041】
さらに本発明の凝集抑制剤は、上記
構造式(1)や(2)に示されるように、少なくとも1基のポリオキシエチレン基が、Rと結合したアミン
で形成されている。このポリオキシエチレン基か
らなるアミン基は、
構造式(1)において、Y=0、Z=1〜2の場合
は構造式(2)となり、水素原子が1基のポリオキシエチレン基
からなる2級アミンであり、Y=
1〜2、Z=1〜2の場合
は、2基のポリオキシエチレン基からなる3級アミンである。
本発明において、ポリオキシエチレン基のY、Zが2を超える場合では、凝集抑制剤としての溶解性が著しく低下するために分散効果が得られない。また、分散効果を得るには、少なくとも
1基のポリオキシエチレン基を含むことが必要である。
【0042】
凝集抑制剤の添加量は、0.1
重量%〜5
重量%が望ましい。0.1
重量%未満では、添加量が少なすぎ、十分な効果が得られない。逆に5
重量%を超えて添加しても、その効果は得られるが、しかしさらなる効果は見られず、従ってコスト上昇の一因となるため、推奨されるものではない。そこで5
重量%以下とした。
【0043】
本発明に使用する溶剤としては上記必須成分の有機溶剤を含めて常温にて液状のもので、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、イソボルニルプロピオナート、イソボルニルイソブチレート、ミネラルスピリット、0号ソルベント、ブチルカルビトール、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサン、エタノール、ノナン、ノナノール、デカノール、さらにはC
nH
2n+2、C
nH
2n、C
nH
2n−2で示される脂肪族炭化水素、C
nH
2n−6で示される芳香族炭化水素、具体的にはジメチルオクタン、エチルメチルシクロヘキサン、メチルプロピルシクロヘプタン、トリメチルヘキサン、ブチルシクロヘキサン、トリデカン、テトラデカン、メチルノナン、エチルメチルヘプタン、トリメチルデカン、ペンチルシクロヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン等のうち少なくとも一種以上を用いることができる。また、これらの混合物であるミネラルスピリット、スーパーゾールなどの混合溶剤を使用しても良い。
これら溶剤の導電ペースト中の含有量は、35重量%以上45重量%以下の範囲が望ましい。
【0044】
以上の効果により、金属粉末の分散性を維持しつつ、かつ共材の分散性も発揮し、さらに共材からの溶出物に起因する炭酸Baの生成も抑制されるものである。
その結果、ペーストの長期保管に伴う粘度上昇が抑制され、凝集体も生成せず、表面粗さも好適に保たれる導電ペーストを得る事ができる。
【実施例】
【0045】
本発明における導電ペーストの導電ペースト粘度および乾燥膜表面粗さについての評価は以下のようにして行った。
【0046】
(導電ペーストの作製)
先ず、供試材とした導電ペーストは、エチルセルロース樹脂3.5重量%を表1に示した溶剤:39.2重量%に投入し撹拌しながら80℃に加熱してエチルセルロースの溶け込んだ溶液を作製した。続いて、この溶液と、ニッケル粉末46.8重量%と、共材10.5重量%と、さらに表1で示した添加剤種、添加量とを混合し、3本ロールミルにて混練して所望の導電ペーストを作製した。この作製した導電ペーストを用いて以下の評価を行った。
【0047】
(特性評価)
[表面粗さRy]
2.54cm(1インチ)角の耐熱強化ガラス上に、作製した導電ペーストをスクリーン印刷し、大気中120℃で1時間乾燥させることにより、20mm角、膜厚1〜3μmの乾燥膜を作製した。
作製した乾燥膜の表面粗さRa(算術平均表面粗さ)を、JIS B0601−1994の規格に基づいて測定した。
本発明における表面粗さRyは、JIS B0601−1994に規定される最大粗さ(Ry)である。
Ryの値が2.5μm以下であるものを合格とした。この値を表面粗さ初期値とした。
その後、作製した同ペーストを25℃恒温度中にて90日間保管し、同様に表面粗さRyを測定した。この値を表面粗さ経時値とした。
上記2点の値より、表面粗さ変化率[%]を下記数式(1)を用いて算出した。表面粗さ変化率が+30%以下であるものを「合格」とした。
【0048】
【数1】
【0049】
[ペースト粘度]
作製した導電ペーストを、ブルックフィールド社製粘度計を用いて25℃恒温度中にて、10rpm粘度を測定した。この値を粘度初期値とした。
その後、その導電ペーストを25℃恒温度中にて90日間保管し、その後、同様に10rpm粘度を測定した。この粘度を粘度経時値とした。
以上の粘度初期値と粘度経時値の2点の値より、下記数式(2)を用いて粘度変化率[%]を算出した。その
粘度変化率が−30%〜+30%の間にあるものを「合格」とした。
【0050】
【数2】
【0051】
[シートアタック性]
作製した導電ペーストを、グリーンシート上に
スクリーン印刷し、大気中80℃で10分間乾燥させ、膜厚1〜3μmの乾燥膜を作製し、室温まで放置冷却した後に、グリーンシートをベースフィルムから剥がし、印刷膜がベースフィルム上への残留の有無を確認した。
シートアタックした場合には、ベースフィルム上に印刷膜が残留し、不合格とした。
【実施例1】
【0052】
エチルセルロース 3.5gを、溶剤 39.2gに投入し撹拌しながら80℃に加熱してエチルセルロースの溶け込んだ溶液(有機ビヒクル)を作製した。続いて、この溶液と、ニッケル粉末46.8gと、共材10.5gと、さらに表1の実施例1で示す添加剤種、添加量の凝集抑制剤を混合し、その混合物を3本ロールミルにて混練し、所望の導電ペーストを、100g作製した。
ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例2】
【0053】
実施例1と同様の溶液(有機ビヒクル)を作製し、凝集抑制剤の添加剤量を1重量%とした以外は、実施例1と同様にして、表1に示した組成の導電ペーストを作製した。ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例3】
【0054】
実施例1と同様に有機ビヒクルを作製し、凝集抑制剤の添加剤量を5重量%とした以外は、実施例1と同様にして表1に示した組成の導電ペーストを作製した。ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例4】
【0055】
凝集抑制剤を表1の実施例4の添加剤種、含有量に変更し、実施例1と同様方法で有機ビヒクルを作製し、実施例1と同様にして表1に示した組成の導電ペーストを作製した。ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例5】
【0056】
凝集抑制剤を表1の実施例5の添加剤種、含有量に、溶剤をイソボルニルイソブチレートに変更した以外は、実施例1と同様にして表1に示す組成の導電ペーストを作製した。
作製した導電ペーストの、諸特性を測定し、その結果を表1に合わせて記した。なお、ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例6】
【0057】
溶剤をシートアタック性のある溶剤であるターピネオールと、シートアタック性を示さないイソボルニルイソブチレートとの2種混合とし、その混合割合を50重量%:50重量%とした。なお、この2種混合溶剤は、その混合範囲が本特許請求内組成であるため、シートアタックは確認されていない。
作製した導電ペーストの、諸特性を測定し、その結果を表1に合わせて記した。なお、ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【実施例7】
【0058】
凝集抑制剤を表1の実施例7の添加剤種、含有量に、溶剤をジヒドロターピニルアセテートに変更した以外は、実施例1と同様にして表1に示す組成の導電ペーストを作製した。
作製した導電ペーストの、諸特性を測定し、その結果を表1に合わせて記した。なお、ニッケル粉末には住友金属鉱山株式会社製 NR−730を使用した。
【0059】
実施例1〜3は同じ添加剤(凝集抑制剤)を使用し、その含有比率を変化させて0.1〜5重量%の範囲で良好な効果が得られることを確認した。
実施例4〜6は、実施例1〜3とは添加剤の種類を変え、実施例4は実施例1〜3と同じ溶剤、実施例5〜7は、実施例1〜4とは異なる溶剤を使用した。実施例6ではシートアタック性のあるターピネオールも用いているが、含有比率が一定の値以下であれば問題が無いことがわかる。
【0060】
(比較例1)
溶剤をシートアタックする溶剤であるターピネオールと、シートアタック性を示さないイソボルニルイソブチレートとの2種混合とし、混合割合を60重量%:40重量%とした。
溶剤の混合範囲が本特許請求外組成であるため、シートアタックが確認され、満足な特性が得られなかった。
【0061】
(比較例2)
凝集抑制剤が無添加である以外は実施例1と同様にして導電ペースト作製した。
時間が経つにつれ凝集が発生し、表面粗さRyが大幅に悪化してしまった。また大幅な経時増粘が確認され、満足する特性が得られなかった。
【0062】
(比較例3)
添加する凝集抑制剤の量を7重量%とした以外は実施例4と同様にして導電ペーストを作製した。
得られた特性は、凝集抑制剤の添加剤種が異なるが、その添加量が5重量%の実施例3とほとんど変わらず、明らかな特性の向上が見られなかった。
【0063】
(比較例4)
溶剤をシートアタック性のあるターピネオールに変えた以外は、実施例4と同様にして導電ペーストを作製した。
シートアタックが発生しており、満足すべき特性を得られなかった。
【0064】
(比較例5)
実施例5と同様に39.2重量%のイソボルニルイソブチレートを溶剤として含み、一般的な分散剤として知られるオレイン酸を用いて導電ペーストを作製した。
初期分散性は良好であったが、経時変化により凝集体が発生し、表面粗さRyが大幅に悪化した。また経時変化による増粘も見られ、満足すべき特性を得られなかった。
【0065】
(比較例6)
実施例4と同じ凝集抑制剤を用い、33.0重量%のイソボルニルイソブチレートを溶剤として含む導電ペーストを作製した。
初期分散性、経時変化、表面粗さRyともに問題のないレベルであったが、そもそもの粘度が大きく上昇し、塗布膜にカスレ等が発生し、実用には適さなかった。
【0066】
(比較例7)
実施例4と同じ凝集抑制剤を用い、47.0重量%のイソボルニルイソブチレートを溶剤として含む導電ペーストを作製した。
初期分散性、表面粗さRyともに問題のないレベルであったが、そもそもの粘度が大きく低下し、塗布膜ににじみ等が発生し、実用には適さないレベルであった。
【0067】
【表1】