特許第5772628号(P5772628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5772628ロジウム精製廃液からのロジウム回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5772628
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ロジウム精製廃液からのロジウム回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20150813BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20150813BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B3/44 101Z
   C02F1/62 Z
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2012-14971(P2012-14971)
(22)【出願日】2012年1月27日
(65)【公開番号】特開2013-155396(P2013-155396A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 善昭
(72)【発明者】
【氏名】一色 靖志
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−149820(JP,A)
【文献】 特開2011−093748(JP,A)
【文献】 特開2005−256164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 3/00
C22B 7/00
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム精製工程で廃液として発生した亜硝酸性中和濾液からロジウムを回収する方法であって、亜硝酸性中和濾液に塩化アンモニウムを添加混合し、ロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウムの結晶として分離回収することを特徴とするロジウム精製廃液からのロジウム回収方法。
【請求項2】
前記亜硝酸性中和濾液に対して塩化アンモニウムを20〜40g/lの割合で添加することを特徴とする、請求項1に記載のロジウム精製廃液からのロジウム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅やニッケルを製錬する過程で得られるロジウムを精製して回収する際に、その精製工程において廃液として発生する亜硝酸中和濾液からロジウムを効率良く分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジウム(Rh)は銅やニッケルの鉱石中などに微量含有される場合が多く、銅やニッケルを製錬する過程で濃縮されて分離され、精製工程を経て製品ロジウムとして回収される。ロジウムの精製には幾つかの方法があるが、工業的にはロジウムを溶解して溶液とし、イオン交換、中和、溶媒抽出などの湿式処理により不純物を分離除去した後、最終的に溶液中に残ったロジウムを結晶化して回収する方法が知られている。
【0003】
上記のロジウムを結晶化して回収する方法としては、例えば特許文献1に示す方法がある。具体的には、ロジウム化合物を含む水溶液に亜硝酸ナトリウムを添加し、100g/l以上のナトリウムイオンの存在下にロジウム化合物と反応させることにより、ロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウム[NaRh(NO)]の結晶性沈殿として選択的に分離回収する。ナトリウムイオン量の調整は、亜硝酸ナトリウムの添加と共に、他の水溶性ナトリウム塩を添加するか又は水溶液の濃縮により行なうことができる。
【0004】
この方法によれば、イリジウムなどの不純物の共存下であっても、ロジウム化合物の水溶液からロジウムを選択的且つ高収率にヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムとして結晶化させ、濾過して分離回収することができる。また、分離回収したヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムの結晶は、水に溶解して水溶性ナトリウム塩を添加することにより、再度ロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムの結晶性沈殿として選択的に分離し、精製して回収することができる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムとして分離・精製する方法では、特にイリジウムなどの不純物が多く共存する場合、亜硝酸ナトリウムでの中和による精製を何度も繰り返す必要があり、その度に廃液として発生する亜硝酸中和濾液へのロジウムのロスが実収率を低下させる原因となっていた。
【0006】
そのため、上記ロジウム精製工程で廃液として発生する亜硝酸中和濾液から、更にロジウムを分離回収することが従来から行われている。亜硝酸中和濾液からロジウムを回収する従来の方法としては、亜硝酸中和濾液に塩酸を添加して、ヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウム[NaRh(NO)]などの形態で存在しているロジウムをヘキサクロロロジウム(III)酸[HRhCl]に変換した後、水酸化ナトリウムと過酸化水素や次亜塩素酸等の酸化剤とを添加することで酸化と中和を同時に行い、生成した水酸化ロジウム[Rh(OH)]の沈殿を固液分離する方法が用いられていた。
【0007】
しかし、このロジウム精製廃液である亜硝酸中和濾液からロジウムを回収する従来の方法では、ヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムなどからヘキサクロロロジウム(III)酸への変換効率が低く、水酸化ロジウムが沈殿した後の母液にロジウムが多く分配して残留するという問題があった。このようにロジウム精製工程の廃液である亜硝酸中和濾液からロジウムを回収する従来の方法では、ロジウムを結晶として効率よく回収することが難しく、コストや手間がかかるため、ロジウムの回収率を更に向上させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−255563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来のロジウム精製廃液の亜硝酸中和濾液からロジウムを回収する方法における問題点に鑑み、湿式処理により亜硝酸中和濾液からロジウムを結晶として効率良く且つ選択的に回収することができるロジウム回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明が提供するロジウム精製廃液からのロジウム回収方法は、ロジウム精製工程で廃液として発生した亜硝酸性中和濾液からロジウムを回収する方法であって、亜硝酸性中和濾液に塩化アンモニウムを添加混合し、ロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウムの結晶として分離回収することを特徴とする。上記本発明のロジウム回収方法においては、亜硝酸性中和濾液に対して塩化アンモニウムを20〜40g/lの割合で添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロジウム精製工程で廃液として発生した亜硝酸性中和濾液からロジウムを分離回収する際に、従来の水酸化ナトリウムと酸化剤による酸化中和法と比較して、ロジウムを結晶として効率良く且つ選択的に回収することができる。また、分離回収したロジウムの結晶を精製工程に繰り返すことができるため、従来に比べてロジウムのロスを大幅に抑えることが可能である。
【0012】
しかも、廃液として発生した亜硝酸中和濾液中には残留しているロジウムが時間の経過と共にヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムの結晶となって混入しているが、本発明によれば、このヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムの結晶を、そのままヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウムの結晶と共に分離回収することができるため、ロジウムのロスを更に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるロジウム精製廃液からのロジウム回収方法では、ロジウム精製工程で廃液として発生した亜硝酸性中和濾液に塩化アンモニウムを添加混合することにより、ヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウム[NaRh(NO)]などの形態で存在しているロジウムを、例えば下記化学式1に示すように、ヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウム[(NH)Rh(NO)]の結晶として分離し回収する。
【0014】
[化1]
NaRh(NO)+3NHCl → (NH)Rh(NO)+3NaCl
【0015】
亜硝酸性中和濾液に対する塩化アンモニウムの添加量は、ロジウム精製工程において廃液として発生した亜硝酸性中和濾液中に含まれるロジウム量が比較的少ないため、通常は亜硝酸性中和濾液1リットル当たり20〜40gの割合で添加することが好ましい。塩化アンモニウムの添加量が20g/l未満では液中に残存するロジウム量が多くなるため、ロジウムを効率よく分離することが難しくなる。また、40g/lを超えて添加しても、液中に残存するロジウム量を更に減らすことは難しく、コストの増加を招くため好ましくない。
【0016】
塩化アンモニウムを添加する亜硝酸性中和濾液の温度は、加熱して昇温するとヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウム結晶の溶解度が上がり、回収率が低下するため好ましくない。従って、反応時における亜硝酸性中和濾液の温度は常温で十分であり、積極的に加熱昇温する必要はない。また、反応時間としては、長時間であるほど再結晶を促進するため望ましいが、塩化アンモニウムを添加した後30〜60分間ほど保持する程度で十分である。
【0017】
上記した本発明においては、ロジウム精製工程の廃液である亜硝酸性中和濾液中に塩化アンモニウムを添加混合するだけで、ロジウムをヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウム[(NH)Rh(NO)]の結晶として分離し、亜硝酸中和濾液中のロジウム濃度を大幅に低減できることが重要である。
【0018】
また、ロジウム精製工程で結晶を固液分離した後の廃液である亜硝酸中和濾液中には、時間の経過と共にヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウム[NaRh(NO)]の結晶が自然に析出する。しかし、上記した本発明の方法によれば、この亜硝酸中和濾液中に析出したヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムの結晶を、酸による分解を引き起こすことなく、そのまま上記ヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウム[(NH)Rh(NO)]の結晶と共に、分離回収できる点も重要である。
【0019】
尚、分離回収したヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウム[(NH)Rh(NO)]の結晶は、塩酸により分解して容易にヘキサクロロロジウム(III)酸[HRhCl]とすることができる。得られたヘキサクロロロジウム(III)酸は、上記特許文献1に記載のロジウム精製工程に繰り返すことができ、あるいは、水酸化ナトリウムと酸化剤とを添加して酸化と中和を同時に行う方法により水酸化ロジウムの沈殿として固液分離することもできる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
ロジウム濃度が0.55g/lである亜硝酸中和濾液400リットルに対し、塩化アンモニウムを20g/lの割合で添加し、加熱することなく常温のまま60分間撹拌混合を続け、生成した沈殿を濾過して固液分離した。回収した沈殿は分析の結果ヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウムの結晶であり、また濾液中のロジウム濃度を分析したところ分析下限の0.001g/l未満であった。
【0021】
[比較例1]
上記実施例1と同じ亜硝酸中和濾液400リットルを撹拌しながら80℃に昇温し、亜硝酸ガスの発生がなくなるまで塩酸を滴下してロジウムをヘキサロジウム酸(III)に変換させた後、水酸化ナトリウムをpHが8〜9になるまで添加して中和し、同時に酸化剤である亜塩素酸ナトリウム溶液を添加することにより、ロジウムを水酸化ロジウムとして沈殿分離させた。得られた水酸化ロジウムの沈殿を濾過して固液分離し、濾液中のロジウム濃度を分析したところ0.150g/lであった。
【0022】
上記した実施例1及び比較例1の結果として、沈殿を分離回収した後の濾液中のロジウム濃度を、原料である亜硝酸中和濾液中のロジウム濃度と共に、下記表1に示した。
【0023】
【表1】
【0024】
この結果から分るように、ロジウム精製廃液の亜硝酸中和濾液からロジウムを分離回収する際に、従来方法による比較例1では濾液中の残留ロジウム濃度を十分に低減できず回収が不十分であったが、本発明による実施例1では濾液中のロジウム濃度が分析下限となるまでロジウムを回収することができた。