【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例においては、室温空間で放冷することを「空冷」と称し、水中に投入・冷却することを「水冷」と称する。
【0028】
(実施例1のマンドレルおよびチューブの作製)
金属芯線として錫めっき銅線(外径0.48 mm)を用い、単軸押出機(スクリュー径35 mm)を用いてポリメチルペンテン(三井化学株式会社製、TPX DX845、TPXは登録商標)を該錫めっき銅線の外周に押出被覆して、樹脂最外層を形成した(押出被覆工程)。押出温度(押出機のダイス温度)は295℃とした。押出成形したマンドレルを引取速度30 m/minで巻き取りながら、樹脂最外層を空冷した(冷却工程)。実施例1として、外径1.14 mm、長さ2000 mのマンドレルを作製した。
【0029】
次に、上記で作製した実施例1のマンドレルの外周に、単軸押出機(スクリュー径35 mm)を用いてエチレンプロピレンゴム(JSR株式会社製、EP51)を押出被覆して、チューブを形成した。押出温度(押出機のダイス温度)は100〜110℃とし、引取速度25 m/minで押出成形した。その後、押出成形したチューブに対して蒸気架橋(温度200℃、圧力20 atm、時間3分間)行った。最後に、架橋したチューブからマンドレルを抜き取って、実施例1のチューブ(外径4.1 mm、内径1.14 mm、長さ1900 m)を作製した。
【0030】
(実施例2のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を285℃とし、金属芯線として錫めっき銅線(外径0.78 mm)を用いてマンドレルの外径を1.4 mmとし、チューブの外径を4.6 mm、内径を1.4 mmとした以外は実施例1と同様にして、実施例2のマンドレルおよびチューブを作製した。
【0031】
(実施例3のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を275℃とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のマンドレルおよびチューブを作製した。
【0032】
(実施例4のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を320℃とした以外は実施例1と同様にして、実施例4のマンドレルおよびチューブを作製した。
【0033】
(実施例5のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を310℃とした以外は実施例2と同様にして、実施例5のマンドレルおよび中空チューブを作製した。
【0034】
(比較例1のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を320℃とし、冷却工程での冷却方法を水冷とした以外は実施例1と同様にして、比較例1のマンドレルおよびチューブを作製した。なお、水冷は、押出成形したマンドレルを引取速度30 m/minで巻き取りながら、水槽(水温約18℃)に一旦通すことによって行った。
【0035】
(比較例2のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を320℃とし、冷却工程を水冷とした以外は実施例2と同様にして、比較例2のマンドレルおよびチューブを作製した。
【0036】
(比較例3のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を310℃とし、冷却工程を温風冷却(100℃の温風槽内での冷却)とした以外は実施例1と同様にして、比較例3のマンドレルおよびチューブを作製した。なお、比較例3での平均冷却速度は、8℃/sよりも低かった。
【0037】
(比較例4のマンドレルおよびチューブの作製)
マンドレル製造における押出被覆工程の押出温度を265℃とした以外は実施例1と同様にして、比較例4のマンドレルを作製しようとした。しかしながら、ポリメチルペンテンの粘度が十分に低くならず、押出被覆することができなかった。そのため、マンドレルの作製に至らなかった。
【0038】
(試験・評価)
上記のようにして用意した実施例1〜5および比較例1〜3のマンドレルおよびチューブに対して、次のような試験・評価を行った。
【0039】
(1)DSC測定(結晶化度評価)
マンドレルの樹脂最外層に対してDSC測定を行い、融解熱の大小によって結晶化度の高低を評価した。DSC測定は、前述したように次のような手順で行った。作製したマンドレルの樹脂最外層の一部を切り出して測定試料(試料質量10 mg)とした。入力補償型のDSC測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、DSC Q200)を用い、大気中で昇温速度10℃/minで測定試料を昇温し、測定温度範囲40〜300℃の熱流を測定した。得られた熱流−温度チャートの160℃と250℃とを結ぶ線をベースラインとしてピーク面積を求め、該面積から融解熱(J/g)を算出した。
【0040】
(2)マンドレルの扁平率測定(形状精度評価)
マンドレルに対して外径寸法の測定を行い、扁平率を算出して形状精度を評価した。具体的には、マンドレルの周方向に沿って外径寸法の測定を4箇所(約45°間隔)で行い、マンドレルの長手方向に沿って同様の外径寸法の測定を3箇所で行った。測定した外径寸法の最大値に対する最小値の割合を扁平率として算出した「扁平率(%)= (マンドレル外径の最小値)/(マンドレル外径の最大値) ×100」。なお、マンドレルに求められる形状精度としては、少なくとも90%以上の扁平率が必要とされている。
【0041】
(3)引抜試験(引抜性評価)
マンドレルの引抜試験は次のような手順で行った。
図3は、マンドレル引抜試験の断面模式図である。引抜試験装置には、非接触型標線間追尾装置付きのテンシロン万能材料試験機(株式会社オリエンテック製、RTC-1310)を用いた。
図3に示したように、作製したマンドレル抜き取り前のチューブ4を所定の長さで切り出し、穴開き治具5にマンドレル1を通してチューブ4を押さえ、マンドレル1のみを引抜速度50 mm/minで引き抜いて、その引抜力(N)を測定した。測定回数を10回とし、平均値を算出した。
【0042】
(4)走査型プローブ顕微鏡(SPM)観察(樹脂最外層の表面微構造観察)
走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPA-300HV)を用いて、作製したマンドレルの樹脂最外層の表面微構造を観察し、マンドレル製造条件と表面微構造との関係を調査した。SPM観察像において、形状像から樹脂最外層(ポリメチルペンテン)の結晶粒の大きさと表面の凹凸を調査し、位相像から当該観察エリアの硬さ分布を調査した。観察条件は、振幅減衰率-0.15、観察エリア2μm×2μm、走査周波数1 Hzとした。
【0043】
実施例1〜5の仕様および試験評価結果(マンドレルの外径、樹脂最外層の押出温度、樹脂最外層の冷却方法、樹脂最外層の融解熱、扁平率、マンドレルの引抜力、およびチューブの外径・内径)を表1に示す。また、比較例1〜4の仕様および試験評価結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1および表2に示したように、実施例1〜5で作製したマンドレルは、融解熱が本発明で規定される範囲内(35 J/g以上38.5 J/g未満)にあり、比較例に比べてマンドレルの引抜性に優れている(引抜力=20 N未満)ことが確認された。特に、押出温度が270℃以上300℃未満である実施例1〜3は、マンドレルの引抜性が更に優れていることが確認された(引抜力=7 N未満)。また、従来と同等の形状精度を維持していた。
【0047】
一方、冷却工程における冷却方法を「水冷」とした比較例1〜2で作製したマンドレルは、いずれも融解熱が本発明の規定よりも小さく(すなわち、樹脂最外層の結晶化度が小さく)、マンドレルの引抜性に劣っていた(引抜力=20 N以上)。冷却工程における平均冷却速度が低い比較例3で作製したマンドレルは、融解熱が本発明の規定よりも大きく(樹脂最外層の結晶化度が大きく)、マンドレルの引抜性に劣ると共に、形状精度が大きく劣化していた。なお、比較例4に関しては、前述したように押出温度が低いためにポリメチルペンテンの粘度が十分に低くならず、押出被覆することができなかった。
【0048】
(樹脂最外層の結晶性とマンドレルの引抜性に関する考察)
図4は、実施例2の樹脂最外層表面の走査型プローブ顕微鏡(SPM)観察像であり、(a)形状像、(b)位相像である。
図5は、比較例2の樹脂最外層表面のSPM観察像であり、(a)形状像(b)位相像である。形状像では、明暗で表面の高低を表す。明るい部分は表面の凸部を示し、暗い部分は表面の凹部を示す。また、位相像では、明暗で表面の硬軟を表す。暗い部分は表面が硬い部分を示し、明るい部分は表面が軟らかい部分を示す。
【0049】
図4(a)および
図5(a)の形状像から、実施例2のポリメチルペンテンの方が、比較例2のポリメチルペンテンよりも結晶粒が大きく、全体としてデコボコしていることが判る。比較例2では、一部でパーティクル状の凸部が観察されるが、全体としての平坦性が高い。また、
図4(b)および
図5(b)の位相像からは、実施例2のポリメチルペンテンの方が、比較例2のポリメチルペンテンよりも硬い部分が明らかに多いことが判る。
【0050】
これらのSPM観察結果とDSC測定による融解熱とを考え合わせると、本発明に係る製造方法で製造した実施例2の方が、比較例2よりもポリメチルペンテンの結晶化度が高く、結晶粒がより大きく成長している(すなわち、結晶性が向上している)と言える。また、結晶性の向上は、硬さの向上につながる。一方、本発明の規定から外れる製造方法で製造した比較例2は、ポリメチルペンテンの結晶化度が低く、結晶粒も小さいため(すなわち、結晶性が低いため、非晶質領域が多いため)、表面平滑性が高く表面が柔らかいと見なすことができる。
【0051】
さらに、これらの樹脂最外層の性状と引抜試験による引抜力とを考え合わせると、表面が硬く凹凸が大きい実施例2は、その上に形成されたチューブとの実効接触面積が小さくなることから、引抜力が低下(引抜性が向上)したものと考えられる。それとは反対に、表面が柔らかく凹凸が小さい比較例2は、その上に形成されたチューブとの実効接触面積が大きくなると共に引抜時に変形しやすいことから、引抜力が増大(引抜性が低下)したものと考えられる。
【0052】
なお、比較例3では、ポリメチルペンテンの結晶化度が更に高く、結晶粒が過大に成長したため(表面凹凸が大きくなり過ぎたため)、その上に形成されたチューブとの間でアンカー効果が作用して引抜力が増大(引抜性が低下)したものと考えられる。
【0053】
以上に示したように、本発明は引抜性に優れたマンドレルを従来よりも低コストで提供できることが実証された。